虹ヶ咲学園サッカー同好会"NEO SKY, NEO MAP!" 作:ルビィちゃんキャンディー
期末期間&レポートで更新が遅れました。
舞台を照らす一筋の光。観客の視線はその光の中で立つ、1人の少女に向けられていた。
虹ヶ咲学園演劇部。
東京都の高校演劇の中でも指折りの実力を持つ部で名を広めているが、本日の主演は虹ヶ咲演劇部にいるはずのない役者。
虹ヶ咲演劇部のライバル校である帝国演劇部の期待のエース、"桜坂しずく"がそこにはいた。
「凄い演技力…魅入っちゃうよ」
歩夢らは観客席で桜坂しずくの圧倒的な演技に言葉を失っていた。1人の少女が出す声とは思えないほどの力あるセリフ。
それが続いたと思いきや、今にも消えそうなか弱い声へと一瞬で変わる。
強と弱、静と動を巧みに使い分ける彼女はプロの役者そのものだった─────だが、
「彼女は…演劇部じゃなくてサッカー部員なの?」
「はい。しず子のサッカーには演劇が大きく関係しているらしいので、あのように定期的に演技力も鍛える必要があるのだとか…」
サッカー部が廃部になった今、サッカーの練習が出来なくなった桜坂しずくは演技力の特訓のため、こうして舞台に立っている。
そのため、彼女がサッカー部のメンバーとして合流してくれる可能性が一番高いのだ。
こうして最後まで演劇を見終わったサッカー部一行は、桜坂しずくの元へと向かった。
「あ、あの、初めまして。桜坂しずくです」
「ごめんね、疲れてるのに無理言って」
公演後、疲労が溜まっているのを知った上で、彼女は会うことを承諾してくれた。
まるで…最初から歩夢たちが来ることを分かっていたかのように。
「いえ、近いうちにかすみさんに今後の相談をしに行くつもりでした。サッカー部が廃部になった今…私たちはどうするのか」
しずくもサッカー部が無くなった中、自分はどうすればいいのか分からなくなっていたという。
そんな時に訪ねてきたのが歩夢を含めた3人。もう一度サッカー部を復活させる話しをすると…しずくの答えは早かった。
「私も皆さんの力になりたいです。演劇のおかげでプレーへのイメージも形になってきました」
「じ、じゃあ…しず子、」
「今後ともよろしくお願いしますね!」
確実に仲間にできると言っていたかすみだったが、心のどこかに不安があったようで、しずくの答えを聞いた途端に再び鼻をすすりだした。
そんなかすみを励ます愛と心配するしずく。
まだ希望は消えていない。これからだ。歩夢は心の中で確かな可能性を掴んでいた。
これでメンバーは4人。
試合をするためには最低でも9人は必要。現状、仲間になってくれる可能性のある生徒は残り3人。
「優木せつ菜さん…あと転入した2人だよね」
話し合った結果、確実に会うことができる転入生2人の元へと向かうこととなった。
その転入生とはどんな人物なのか…かすみがその内の1人の生徒の名を言うと、歩夢と愛は同時に反応した。
「…え!?」
「うっそ…あの"朝香果林"さん!?」
有名な選手なため、驚きを隠せない2人。
東京都の名門私立高校"UTX"のレギュラーメンバーである彼女。そんな選手がこの学校に…?正直なところ実感が湧かなかった。
「って言うか…桜坂さんも名前聞いたことあるし…本当に各校から集められてるんだね」
愛の言う通り、転入してきている選手は皆強豪校出身。革命を託されたことへの実感が…ここに来て鮮明になりつつあった。
「どうやって探すの?教室分かるん?」
「はい。ですが、もう放課後なのでメールで呼び出すのが一番ですね」
スマホを操作しながら朝香果林を呼び出すかすみ。ここまでは順調だが、果林を含めた残り2人も戻ってきてくれるのか…
消えない不安と共に、一行は待ち合わせに指定した場所へと向かった。
校舎を出ると空はオレンジ色に染っていた。
流れてくる風が暖かく、校庭がある方向からは部活動の掛け声も聞こえてくる。
まだ慣れない虹ヶ咲の敷地内を歩き、正門前の大きな階段がある場所まで来た。
ここが朝香果林との待ち合わせに指定した場所であった。
「ここなら果林先輩も迷子にはならないはず…」
小さな声でかすみが何か言ったように聞こえた。それを聞き直そうとした歩夢だったが、それよりも先にかすみの口が動いた。
内容は今日転入してきた歩夢と愛の元いた学校について。まだ名前しか伝えていなかったため、当然といえば当然の質問だった。
だが───その質問に答えたのは歩夢ではなく、かすみの傍に座っていたしずくだった。
「音ノ木坂学院の上原歩夢さん…知らないんですか?」
「東京都屈指のサッカー強豪校、"音ノ木坂学院"。そこで2年生ながらにMFとして、レギュラーメンバーでプレーをしていた実力者です」
「へぇー!歩夢、あの音ノ木坂学院の選手だったんだ!」
しずくや愛からのような反応が来ることは少なからず予想していた歩夢。
だが、それらの言葉で彼女が自惚れることは無かった。むしろ、"あのチームの中"で自分がプレーできていたことに…実感がわかないでいる。
自分よりも強い先輩は当然たくさんいた。
矢澤姉妹は特に、メンタル面でも自分の実力の数段上を行く。そんな人たちのプレー、そして周りの人たちからの"
「私は…音ノ木坂学院のみんなの期待を裏切らないようなサッカーがしたいんだ」
階段に座り、遠くを見つめながら歩夢は呟いた。この一言が彼女の目標であり、覚悟でもある。
「音ノ木坂のレギュラーメンバー…一気に戦力増加ですね。では次に愛先輩!」
「あ、愛さんか…えっと…」
「…?」
違和感を覚えた。愛が言葉を詰まらせた姿を見せるのは、これが初めてだった。
何か、言いづらい理由が────「ちょっと、1人で大丈夫ー??」
思考を遮るように階段の上から声がした。
歩夢も含め、4人が声のする方を向くと、生徒が大量の荷物を持ちながらフラフラと階段を降りてきていた。
「大丈夫ー!これ運んじゃうからねー!」
積み上がった箱は生徒の視界を遮っていた。危なっかしいとは思いながらも、まさか考えられる最悪の事態が起きようとは────
「あっ────」ズルッ
────誰も、思ってもみなかった。
「「「!!!!」」」
階段で足を踏み外した生徒。積み上がっていた箱が崩れ、数段下で座る自分たちのところへと落ちてくる。
まずい…体が動かない。ぶつか─────
────バン!!バン!!バン!!
「痛ーーーーっっ……あれ?痛くない?」
数秒経っても落ちてこないことに違和感を覚えたかすみは叫ぶのをやめ、恐る恐る頭上に視線を移す。するとそこには、まるで風船のようにふわふわと空中を漂う箱があった。
何が起こったのか理解出来ていない中、また新たな声が階段の上から聞こえてきた。
「危なかったわね。怪我は無いかしら」
大人びた声、そして高身長が目を引く少女がそこにはいた。何事も無かったかのように歩夢たちの元へと近づき、空中で浮遊する箱を誰もいない場所へ移動させる。
「この技はね、時間制限があるのよ」
ドサドサ!!!
少女の言葉と同時に魔法が解けたかのように、鈍い音を上げながら地面に落下する箱。音からしてかなりの重さがあったはずだ。これがぶつかっていたと考えると…背筋が凍る。
「ごめんなさい…!!ごめんなさい!!本当にごめんなさい!!!」
生徒は謝りながら大人びた少女にお礼を言っていた。それを表情ひとつ変えずに対応する少女。突然現れた謎の少女を前に歩夢たちは呆然としていたが…かすみが我に返ったように口を開いた。
「か、果林先輩!!!」
(この人が…朝香果林さん…)
青みがかった黒髪に"ウルフカットヘアー"。瞳は明るい青目で宝石のように輝いている。
手足も長く、高校生離れをしたルックスとプロポーションが彼女の存在感を引き立てていた。
「かすみちゃんに呼ばれて来てみたら…なるほどね。理由は何となく察したわ」
新しい顔ぶれである自分たちを見て、まず思いつくのは"サッカー部の復活"。
それをすでに把握している朝香果林は、余裕のある表情のまま一言。
「私は参加しないわ」
「「「!!!!」」」
「ちょっ!?果林先輩なんでですか!?」
「新たに来てくださった方々もいるのに…!」
かすみとしずくは果林の言葉に動揺を隠せないでいた。そんな2人に対し、果林は真剣な顔で話し始める。
「あなたたち、忘れたわけじゃないでしょ?私たち転入組がチームに加わった結果はどう?」
「惨敗よ。日本の最高峰のチームに私たちは手も足も出なかった。そんなチームが…サッカーを取り戻すなんて夢物語よ」
「そ、そんなこと…」
強く言い返せないしずく。本心ではなくとも、心のどこかで果林が言ったことと同じ考えを持ってしまっているのだろう。
そうだ。音ノ木坂学院でも全国制覇はかなり厳しい。まず強豪校が集う東京都予選の激戦を勝ち抜かなければならないのだ。
結成したばかりのチームでそれらの所業をこなせるとは―――
「それでも、私たちはやらなきゃなんです!!」
「…かすみさん、」
「歩夢先輩、愛先輩だって来てくれた…私たちはもっともっと強くなれるんです!!私たちが諦めたら…本当のサッカーは今度こそ終わりなんです!!」
強い。かすみちゃんは強い。
震えた声で力いっぱいに意志をぶつけるかすみの姿を見て、歩夢は自分の心が共鳴したかのように震えているのを感じ取っていた。
それでも果林の雰囲気は一向に変わらない。
しかし、ここで事態は大きく急変することとなる。
「もっと強くなれる…上原歩夢、宮下愛……なるほどね。なら、証明して?」
「上原歩夢、宮下愛、どちらか私と勝負よ。私に勝てたらチームに戻る。私が勝ったらもうサッカー部には誘わないで」
「…!歩夢、どっちがやる?」
ここに来るまでに、これからチームとして戦っていくメンバーの想いや覚悟に触れてきた歩夢。全員がそれぞれ強い意志を持っていて、話を聞くだけで震える自分がいた。
武者震いだった。
私も証明しなければ。私がここにいる理由を、サッカーを取り戻す意志を。覚悟を。
「……愛ちゃん。私がやるよ」
「…!」
「歩夢先輩…!」
仲間のためでもあり、自分のためでもあるこの勝負は、歩夢だけでなくチームの運命も大きく変えるとは…今は誰も知らない。
――――――
果林「制限時間は5分間。それまでに私からボールを奪って」
歩夢「………」
仲間たちが見守る中、歩夢と果林の1対1が始まろうとしていた。両者を取り囲む空気が鋭く尖り始め、この空間にいるものは緊張により冷や汗が流れ始める。
歩夢は気持ちをサッカーに集中させながら考える。"朝香果林の技"についてだった。
歩夢(あの重い箱を風船みたいに軽くさせた技…分かることは発動時に"銃声"のような音がしただけ…)
勝負の中で相手の技を分析するんだ。
そう、考えがまとまったのと同時に開始の合図音。
―――ピーッ!!
果林「……」サッ
そして、構えた果林の姿だった。
歩夢(指を…銃の形に―――バン!!
歩夢「!?」
撃たれた。右足が動かない。
果林は指を銃の形にし、オーラを銃弾のように発射したのである。
歩夢「これって……」
果林「気づいたかしら?」
重い…!!!右足が石のように重くなっている!!全く動かせない。これでは身動きなど取れるわけがなかった。
果林「【グラビティピストル】。このオーラの弾に当たったものの重力をいじることができるわ」
つまり、朝香果林の技は"重力操作"…!!
重いものを軽く、軽いものを重く、あの弾丸に当たったら最後…何も出来ずに負け…いや。
まだチャンスはある。
先程の箱の時に言っていた。"この技は時間制限がある"と。つまり、この右足の拘束も数秒後に解ける。
必殺技の仕組みさえ分かればあとは全て―――
歩夢「────躱していくだけ!!」バッ
愛「歩夢が飛び出した…!」
しずく「間合いを詰めて一気に勝負をつけるのですね…ですが果林さんは…」
果林「舐めないで」ギュン!
歩夢(は、速っっ!?)スカッ
"グラビティピストル"を躱す、出させないの問題では無く。シンプルに抜かされた。
朝香果林…ドリブルテクニックのレベルが高い。必殺技を使わなくても…いや、まるで私が必殺技を出させなければ勝てると思ったことが癪に触ったかのような動きだった。
必殺技を受ければ負け。
シンプルな1対1でも負け。
時間はどんどん経過していく一方。
果林「止まってるわよ!!」バンバン!!
かすみ「り、両足撃たれちゃいましたよ!?大丈夫なんですか!?」
愛「……あと残り1分。歩夢…」
歩夢「ハァ…ハァ……」
これが、UTX高校サッカー部でレギュラーを勝ち取っていた選手の実力…必殺技と自分のプレーの使い分けが洗礼されている。
勝負の中で分析?分析されても勝つ。
これだけシンプルで厄介なことは無い。
果林「私に勝てないのにチームが強くなるなんて…言ったでしょ?夢物語なのよ」
歩夢「………」
確かに。朝香果林に勝てなければチームの実力の大幅な強化は望めない。だが、それ以上に、許せないことがある。
私を信じ、託してくれた仲間たちへの裏切り。自分への怒りだった。弱い自分は要らない。私の覚悟はこんなちっぽけなものなどではない。
だから、この勝負―――
歩夢「絶対に勝ちます」ギュン!!
「「「!!!!」」」
果林(スピードが上がった…?)バンバンバン!
飛び出した歩夢に弾丸を3発。しかし、
歩夢「──────っっ!!」ヒュンヒュンヒュン!!
果林「!?!?」
全て躱し、止まらず突っ込んできた。
突然のギアチェンジに動揺する果林。だがドリブルで逃げ切ればタイムアウトで自分の勝ちだ。
すぐに距離を取って体制を整え―――ギュン!!
果林(ウソ!?一瞬でこの距離を!?)
歩夢「──────っっ!!!」
スピードだけでは無い。テクニックで抜かそうとしても着いてくる。くっついて離れない。動きが…先程までとはまるで違う。
果林「この数秒で何が…しまっ!?」ズルッ
しずく「果林さんが体勢を崩した…!!」
愛「取れる!!歩夢!!!」
…まさか自分がここまで追い詰められるとは。果林は自分に向かってくる少女を見ながら笑っていた。勝負を楽しむ顔だった。
対する歩夢は動きの変化だけでない。雰囲気も先程までとは別人。ボールと自分を獲物と認識し、狩る肉食獣の目をしていた。
だが、朝香果林は―――
果林「この近距離を待っていたのよ」
歩夢「───────
崩れた体勢のまま地面に手をつけた。
自身のオーラを地面に流し込み、重力操作の空間を作り出す。この中に入れば、絶体絶命―――
果林「銃だけじゃないのよ。私の「はい。知ってます」バッ!
果林「―――ぇ、」
愛、かすみ、しずく「「「!!!!」」」
この場にいる者全員、歩夢の行動が理解できなかった。いや、予想出来なかった。
果林(なんで…分かってたような動きを…)
突っ込んできたはずの歩夢は果林が必殺技を発動するよりも先に範囲外から出る行動。つまり、距離を開いたのだ。
初めて見る技でさらに不意打ち。
回避は不可能なはず。だが、回避された。
歩夢「これが私の───────
果林(まずい…奪われ…っっ!!)
──────覚悟です!!!!」ギュン!!
果林「─────」
果林の範囲必殺技を回避するために一旦距離を置き、跳ねるゴムのように一瞬で再び詰められボールを奪われた。
この一連の流れの中、果林は何もすることが出来なかった。
歩夢「ハァハァ…ハァハァっっ!!」
残り時間は5秒。ボールを持っているのは歩夢。
上原歩夢と朝香果林の1対1勝負は…歩夢の勝利により幕を閉じた。
かすみ「歩夢先輩ーーっっ!!!」
しずく「凄いです歩夢先輩!!」
愛「サッカーしてる時の歩夢…ちょーかっこいいじゃん…」
地面に座り込んだままの果林。予想もしていなかった結果に、理解が追いついていなかった。
しかし、膝に手をつき、肩で荒く呼吸を続ける歩夢。そんな彼女を見た果林は、自分へのため息と同時に現実を受け止めるため立ち上がった。
果林「私の負けよ。歩夢ちゃん」
歩夢「ハァハァ…果林さん、」
果林「あなたの気持ちがこれでもかってくらい伝わってきた。私も…それに応えなきゃね」
駆け寄る仲間たち。歩夢が"サッカー"で人の心を動かした瞬間だった。
まだ始まったばかりだが、確実に一歩を踏み出し続けている。それだけは確信していた。
「さあ、皆さん!明日は部室(仮)に集合してミーティングですからね!忘れないでくださいよ!」
かすみの元気な声が夕焼け空に響き渡った。
帰宅する仲間たちの足取りは、少しだけ軽やかに見えた。
それぞれ自分の帰路につく中、愛は1人、歩夢と果林が勝負をした場所に残っていた。理由はもちろん…"あの一瞬"のことだった。
「………」
(歩夢のあの動き…なんで果林さんが必殺技を使ってくるって分かったんだろう、)
(なんだろう、モヤモヤする…まるで未来をよ「まだ帰ってなかったの?」
「!!」
突然の声に振り向くと、そこにいたのは果林だった。怒られてもいないのにヒヤッとしてしまった。
「うん…さっきの歩夢のプレーが気になって」
「あなたも?でも、私は愛ちゃんのことも気になっているのよ?」
「え…私?」
「ええ。色々と話を聞きたいもの」
「"星章学園"の宮下愛さん♪」
『グラビティピストル』
ドリブル&ブロック/朝香果林
果林さんは重力を操作することが出来ます。そのオーラを指先にこめ、弾丸のように撃つことにより、狙った物・相手の重力を操作します。時間制限ありです。拘束や阻害など、さまざまことに利用できます。