優花が伊黒さんと頑張っていきます!
少し前に遡る。
「……」
ハイリヒ王国王宮内、召喚者達に与えられた部屋の一室で、園部優花は、暗く沈んだ表情でベッドにくるまっていた。
あの後、宿場町ホルアドで一泊し、早朝には高速馬車に乗って一行は王国へと戻った。とても、迷宮内で実戦訓練を続けられるような状態ではなかったし、勇者の同胞が死んだ以上、国王にも教会にも報告は必要だった。
因みに香織は未だ眠ったまま目を覚さないでいた。
帰還を果たし生徒の死亡が伝えられた時、王国側の人間は誰も彼もが愕然とした。
「いえ、死んだのは南雲と東堂の二人です!雫は生きています!」
光輝が大きく叫んだ。
それを聞いた者達は安堵の息を漏らしたのだ。死んだのが“無能„のハジメと“愚か者„の焔と知ると。
国王やイシュタルですら同じだった。強大な力を持った勇者一行が迷宮で死ぬことなどあってはならないこと。迷宮から生還できない者が魔人族に勝てるのかと不安が広がっては困るのだ。神の使徒たる勇者一行は無敵でなければならないのだから。
だが、国王やイシュタルはまだ分別のある方だっただろう。中には悪し様にハジメと焔を罵る者までいた。また、焔にはある噂が流れた。
それは彼女が魔人族と関わりがあるんじゃないかと。
焔は剣士でありながら勇者である光輝を上回っているのは絶対におかしい事や、魔人族と手を組んでいるのではないか、裏切り者などと南雲の悪口とともにヒソヒソと囁かれた。これには優花は怒り、何度も手を出そうになったが、光輝が激しく抗議した。その事で国王や教会も悪い印象を持たれてはマズイと判断したのか罵った人物達は処分を受けたようだが……
逆に、光輝は無能と裏切り者にも心を砕く優しい勇者であると噂が広まり、結局、光輝の株が上がっただけになった。
「南雲、焔、雫」
ベッドにくるまっている優花は落ちた三人の名を呟く。彼女はある事を思い出す。
「何で南雲と焔なの!」
優花は光輝に抗議した。なぜ、死んだのが焔とハジメで雫は生きているのだと。
「雫は生きている!俺には分かる!雫のステータスなら生きていると!」
「じゃあ焔は!彼女はアンタよりあるのよ!それなら彼女も生きているはずよ!」
「東堂はダメだ」
「何で?」
「だって瓢箪に息を吹いて破裂させたり訳の分からない事ばっかやっていたし、実戦訓練前にも」
確かに他人から見ればそう見えるが、あれは焔にとって常中を取得するためにやっていた事だ。
「それであの強さはおかし過ぎる。やっぱり魔人族と手を組んでいたに違いない。その柱という奴と」
光輝は柱を魔人族だと思っている。もしここに焔がいたら彼に怒っていただろう。
『パァン!』
光輝の言葉に放心していた優花は彼に思いっきりビンタした。
「アンタ最低よ」
そう言い、優花は自分の部屋へと行ったのであった。
「私……どうしたら……」
優花の目から涙流れる。よっぽど悔しかったのだろう。
「うぅぅぅぅ〜ヒック、ヒック」
やがて泣き出してしまった。
数時間後、彼女は泣き疲れたのか眠ってしまった。
「おい起きろ。、起きるんだ」
「ん〜」
「いつまで寝てるんださっさと起きろ!蛇柱様の前だぞ!」
「っ!?」
突然の怒声に優花は目を覚まし、周りを見回す。
『えっ?どこここ?私王宮内の部屋で寝ていたはず?』
優花は周りが自分が寝ていた王宮内の部屋と違う事に戸惑う。今、彼女がいるとこはどこかの庭みたいなとこだった。
「おい、蛇柱様の前なのに何ウロチョロしてる?」
『というかさっきからこの人誰?あと何蛇柱様って?』
「俺とお前の目の前にいるのが分からないのか?」
隠に言われ、目の前を見た。
そこには左右の目の色が異なり、口には包帯、首に白蛇を巻いていた。
『誰?』
「このお方は鬼殺隊の中でも最も位の高い剣士の一人、蛇柱・伊黒小芭内様だぞ」
『鬼殺隊?何それ?』
優花はもう何がなんだか混乱していた。
「えっと……伊黒小芭内?」
「バカかお前!!柱を呼び捨てにする奴があるか!!お前死にたいのか!!」
『うぇ!?そこまで怒る!?この人そんなに偉いの!?なんか口に包帯巻いてるし、首に蛇もいるし』
「フン、まぁいい。おい俺と来い。お前はもう帰っていい」
伊黒は優花の手を掴み、立ち上がらせ連れ出す。隠しの人は言われた通りここを去る。
「ちょっ、ちょっと!」
「黙れ。黙って俺と来い。あと暴れたりするな」
優花は伊黒にそのまま屋敷の中に入る。
「ん」
「えっ?」
中に入るや否や彼女に刀を投げ渡す。
「これは?」
「見れば分かるだろう、刀だ」
「いや、分かるけど……」
「なら始めるぞ」
「えっ?何を?」
「鍛錬だよ。お前を剣士にする」
「剣士?」
「そうだ。お前はもう投術士じゃない」
「えっ?投術士じゃない?」
「いいからとっとと始めるぞ。時間が惜しい」
そこから伊黒は優花に稽古をつけた。刀の握り方や全集中の呼吸についての講義など様々な事を彼女に教えていった。
「そろそろかな」
「えっ?そろそろ?」
「いいか現実でも鍛錬怠るんじゃねぇぞ。投術の訓練はするな。あと、天之河や国の連中が何言っても信用するな、無視するなりしろ」
「えっ?どういう?」
すると優花の視界がおかしくなり始めた。
「っ!?」
ベッドの上で目が覚める優花、彼女は辺りを見渡し、王宮の部屋である事を確認した。
「夢?夢だったの?」
頭を抑えながら、ベッドから降り、歩き出したその時……
「わっ!?」
何かを踏み、転んでしまった。
「痛た、もう何よ?」
踏んでしまった物を拾った」
「何これ?木刀?刀?」
彼女が持っているのは木刀と刀だった。
「誰がこんなもんを」
優花は木刀と刀を持ったまま歩き出す。
『あれ?何か妙に体が軽いような……気のせいかな?』
体が軽くなったような気がしたようだが、気のせいだと思い、気にしなかった。
やがて彼女は広場に着き、ふと木刀と刀を見た。
彼女は木刀持ち、構えると素振りしだした。
『ちょっとは気分転換になるかな。あんな夢見ちゃったんだし』
「あれ?優花?」
そこに二人の女子が来た。
「奈々、妙子」
クラスメイトの宮崎奈々と菅原妙子だ。
「ちょっともう大丈夫?けっこう落ち込んでいたけど」
「うん、まぁね」
「そう」
「ん?優花その木刀どうしたの?あと素振りなんかして」
「えっ?あぁ……ちょっとした気分転換だよ」
「ふぅん」
「ねぇ、それよりもうすぐご飯だよ。行こう」
そのまま三人と食事へと向かった。
「何それ?変な夢だね」
優花は二人に夢の事を話した。
「本当よ」
「でも、所詮は夢だよ!気のしない、気にしない!」
「そうそう!ただの夢だよ!」
なんて二人からそう言われた。
しかし……
「よし、今日もやるぞ」
『また!?』
またしても同じ夢だった。
「お前に俺の蛇の呼吸を見せる。じっくり見るんだぞ」
伊黒は彼女に蛇の呼吸を見せた。その太刀筋に優花は驚きを隠せなかった。
「お前にはこれを自分のものにしろ。いいな」
そこから伊黒は優花に蛇の呼吸の訓練をさせた。
「おい、しっかりやれ。括りつけるぞ」
時にネチネチと言われながら。
「ふん。まぁまぁってとこか。おい、ちゃんと現実でも鍛錬怠るんじゃねぇぞ」
「はぁ〜」
「優花」
「災難だね。また同じ夢を見たって」
優花は奈々、妙子の前でため息を漏らす。
『もうないよね』
彼女はそう願ったが、それかも伊黒との鍛錬は続いた。
そして
「お前にはこの障害物を避けつつ太刀を振るってもらう」
優花の目の前には異様な光景が広がっていた。なぜなら壁や天井、床の至る所にたくさんの人達が括り付けられていた。
『何これ?』
「この……括られている人たちは何ですか?何かした?」
「……まぁ、そうだな」
「弱い罪、覚えない罪、手間を取らせる罪、イラつかせる罪という所だ」
『……もうヤバい人だこの人!!』
胡蝶しのぶ、甘露寺蜜璃登場!
「園部さん鍛錬を始めしたね」
「うん!伊黒さんならきっと優花ちゃん大丈夫だよ!」
「ふふ、大丈夫だといいですけど。ではここでコソコソ噂話。伊黒さんはあの括りつけるの際、天之河さんと檜山さんも括りつけたいと考えていたみたいです」
「優花ちゃん頑張って!私も応援してるから!」
「園部さん健闘を祈ります」
「「次回、治癒師の目覚め」」