焔SIDE
「……成る程。試練に神代魔法、それに神の盤上か……」
亜人族の故郷であるフェアベルゲンへとやってきた私達はアルフレリックさんに会談の場へと案内された。私、南雲、雫、ユエ、スグ、董香はアルフレリックと向かい合って話をしている。内容は、オスカーから聞いた“解放者„のことや神代魔法のこと、自分達が異世界の人間であり七大迷宮を考慮すれば元の世界に帰るための神代魔法が手に入るかもしれないことなど。
これを聞いたスグは目を泳がしていた。董香に至っては「チッ!」と舌打ちした。
それにしてもアルフレリックさん、この世界の神の話を聞いても顔色を変えなかった。南雲が尋ねると「この世界は亜人族に優しくはない、今更だ」という答えが返ってきた。神が狂人のような存在であろうがなかろうが、亜人族の現状は変わらないということらしい。聖教会の権威もないこの場所では信仰心もないようだ。あるとすれば自然への感謝の念だという。
私達の話を聞いたアルフレリックさんは、フェアベルゲンの長老の座についた者に伝えられる掟を話した。
要約するとこうだ。
この樹海の地に七大迷宮を示す紋章を持つ者が現れたら、それがどのような者であれ敵対しないこと。
そして、その者を気に入ったのなら望む場所に連れて行くこと。
これは大迷宮の創設者であるリューティリス,ハルツィナが、自分が“解放者„という存在であることと、仲間の名前と共に伝えたものだという。フェアベルゲンが出来る前からこの地に住んでいた一族が延々と伝えてきたのだとか。最初の敵対せずは、大迷宮の試練を越えた者の実力が途轍もないことを知っているからこその忠告だ。
そして、オルクスの指輪の紋章にアルフレリックさんが反応したのは、大樹の根元に七つの紋章が刻まれた石板があり、その内の一つと同じだったからだそうだ。
「それで、俺は資格を持っているというわけか……」
アルフレリックさんの説明で、人間であるはずの南雲や私達をここに招き入れた理由を理解した。でも、全ての亜人族がそんな事情を知っているわけではないはずなので、今後の話をする必要がある。
私達とアルフレリックさんが話を詰めようとしたその時、下の方から騒がしい音がした。私達のいるのは最上階、階下にはシア達ハウリア族が待機している。どうやら、下で争い事でも起きているようだ。私達とアルフレリックさんは顔を見合わせ、同時に立ち上がった。
階下では、大柄な熊の亜人族や虎の亜人族、狐の亜人族、背中から羽を生やした亜人族、小さく毛むくじゃらのドワーフらしき亜人族が剣呑な眼差しで、ハウリア族を睨みつけていた。部屋の隅で縮こまり、カムがシアを庇っていた。シアもカムも頬が腫れていた。殴られたようだ。
私、南雲、ユエ、雫、スグ、董香が階段から下りると、彼等は一斉に鋭い視線を送る。熊の亜人が剣呑さを声に乗せて発言した。
「アルフレリック……貴様、どういうつもりだ。何故人間を招き入れた?こいつら兎人族もだ。忌み子にこの地を踏ませるなど……返答によっては、長老会議にて貴様に処分を下すことになるぞ」
握り締められた拳がわなわなと震えていた。こいつらにとって私達人間は敵みたいな存在なんだと感じた。おまけに亜人族にとって忌み子でもあるシアまでいる。熊の亜人だけでなく他の亜人達もアルフレリックを睨んでいる。
しかし、アルフレリックさんはどこ吹く風といった様子だ。
「なに、口伝に従ったまでだ。お前達も各種族の長老の座にあるのだ。事情は理解できるはずだが?」
「なにが口伝だ!そんなもの眉唾物ではないか!フェアベルゲン建国以来、ただの一度とて実行されたことなどないではないか!」
「だから、今回が最初になるのだろう。それだけのことだ。お前達も長老なら口伝には従え。それが掟だ。我等長老の座にあるものが掟を軽視してどうする」
「なら、こんな人間族の小僧が資格者だとでも言うのか!敵対してはならない強者だと!」
「そうだ」
淡々と返すアルフレリックさん。熊の亜人は信じられないという表情でアルフレリックさんと南雲を睨む。
「……ならば、今、この場で試してやろう!」
熊の亜人が南雲に向かって突進してきた。
そして、一瞬で間合いを詰め、奴の剛腕が南雲に向かって振り落とされる。
……が、
「なに!?」
その前に私が、南雲の前に出て、熊の亜人の剛腕を右手一本で止めた。
「姉貴」
「悪りぃな南雲。さっきあんなことしたんだ。今度は私にやらせろ」
「ぐっ、放せ!人間の小娘の分際で!」
「ガタガタ言うなクソ熊。こいつと遊ぶ前に私と遊べ!クソ熊!」
「ぐお!?」
止めいた剛腕を思いっきり強く握り締める。こんな奴に日輪刀を使うまでもない。手を離し、私は素早く熊の亜人に近づく。
「オラオラオラオラオラオラ!」
熊の亜人を何度も殴りまくった。腹、顔、腕、足を。
「ほぉーっ!!ワチャーッ!!」
奴の腹に蹴りを入れると、熊の亜人は背後の壁を突き破り落ちて行った。私は奴が落ちた方を見て叫んだ。
「クソ熊。アーーーーーー!!アーーー!!勝ったぜ!ザマァ見ろ!ザマァ見やがれ!ハハハ!参ったか!これで分かったかよ、どっちが強いか!えぇ!どんなもんだ!見てやがれこの次はテメェの仲間全員フルボッコにしてやる!」
「相変わらず派手だね」
「ほむちゃん、それもしかしてイン○ペンデ○ス?」
「で、次は誰だ?」
私はコキコキと首を動かしながら言ったが、頷く者はいなかった。
あの後、アルフレリックさんがなんとか執り成し、私の蹂躙劇は回避された。熊の亜人は大怪我を負ったけど、命に別状はないらしい。
現在、当代の長老衆である虎人族のゼル、翼人族のマオ、狐人族のルア、土人族のグゼ、そして森人族のアルフレリックさんが、私達と向かい合って座っている。私達の傍らにはユエとカム、シアが座り、その後ろにハウリア族が固まって座っている。
「で、あんた達は俺等をどうしたいんだ?俺は大樹のもとへ行きたいだけで、邪魔しなければ敵対することもないんだが……亜人族としての意思を統一してくれないと、いざってとき、どこまでやっていいか分からない。それでは、あんた達的に不味いだろう?殺し合いの最中、敵味方の区別に配慮するほど、俺はお人好しじゃないぞ」
南雲の言葉に、身を強ばらせる長老衆。
「こちらの仲間をあんな目にしておいて、第一声がそれか……それで友好的になるとでも?」
グゼが苦虫を噛み潰したような表情で呻くように呟いた。
「おいおい、何言ってるんだ?喧嘩を売ったのはあの熊野郎だろう?私は南雲を守って、返り討ちにしただけだ。あんな目に合ったのは熊野郎の自業自得だ」
「き、貴様!ジンはな!ジンは、いつも国のことを想って!」
「それが、初対面の相手を問答無用に殺していい理由になるとでも?」
「そ、それは!しかしっ」
「勘違いするなよ?俺と姉貴が被害者で、あの熊野郎が加害者。長老ってのは罪科の判断も下すんだろ?なら、そこのところ、長老のあんたが履き違えないくれよ」
「グゼ、気持ちは分かるが、そのくらいにしておけ。彼と彼女の言い分は正論だ」
アルフレリックさんの言葉に、立ち上がりかけたグゼは表情を歪めて座り込んだ。
「確かに、この少年は紋章の一つを所持しているし、仲間である彼女の実力も大迷宮を突破したと言うだけのことはあるね。僕は、彼を口伝の資格者と認めるよ」
狐人族の長老であるルアが言う。
「南雲ハジメ。我等フェアベルゲンの長老衆は、お前さん達を口伝の資格者として認める。故に、お前さんと敵対しないというのが総意だ……可能な限り、末端の者にも手を出さないように伝える。しかし……」
アルフレリックさんが南雲に伝える。
「絶対じゃない、か?」
「ああ。知っての通り、亜人族は人間族をよく思っていない。正直、憎んでいるとも言える。血気盛んな者達は、長老会議の通達を無視する可能性を否定できない。特に今回のジンの種族、熊人族の怒りは抑えきれない可能性が高井。あいつは人望があったからな……」
「それで?」
「お前さんを襲った者達を殺さないで欲しい」
「……殺意を向けてくる相手に手加減しろと?」
「そうだ。お前さんらの実力なら可能だろう?」
「あの熊野郎のレベルで手練れだというなら、可能か否かで言えば可能だろうな。だが、殺し合いで手加減するつもりはない。あんたの気持ちは分かるけどな、そちらの事情は俺にとって関係のないものだ。同胞を死なせたくないなら死ぬ気で止めてやれ」
南雲はそう言うが、虎人族のゼルが口挟む。
「ならば、我々は、大樹のもとへの案内を拒否させてもらう。口伝にも気に入らない相手を案内する必要はないとあるからな」
その言葉に南雲は訝しそうな表情をした。
「ハウリア族に案内してもらえるとは思わないことだ。そいつらは罪人。フェアベルゲンの掟に基づいて裁きを与える。何があって同道していたのか知らんが、ここでお別れだ。忌まわしき魔物の性質を持つ子とそれを匿った罪。フェアベルゲンを危険に晒したも同然なのだ。既に長老会議で処刑処分が下っている」
ゼルの言葉にシアは泣きそうな表情で震え、カム達は諦めたような表情をしている。
スグが文句を言おうと立ち上がろうとするが、私はそれを止め、首を横に振った。私達が何を言っても無駄だから。
「長老様方!どうか、どうか一族だけはご寛恕を!どうか!」
「シア!止めなさい!皆、覚悟は出来ている。お前にはなんの落ち度もないのだ。そんな家族を見捨ててまで生きたいとは思わない。ハウリア族の皆で何度も何度も話し合って決めたことなのだ。お前が気に病む必要はない」
「でも、父様!」
土下座しながら必死に寛恕を請うシアだったが、ゼルが容赦なく言った。
「既に決定したことだ。ハウリア族は全員処刑する。フェアベルゲンを謀らなければ忌み子の追放だけで済んだかもしれんのにな」
ワッと泣き出すシア。それをカム達は優しく慰めた。決定事項なのだろう。他の長老達は何も言わなかった。
「そういうわけだ。これで、貴様らが大樹に行く方法は途絶えたわけだが?どうする?運良く辿り可能性に賭けてみるか?」
それが嫌なら、こちらの要求を飲めと言外に伝えてくるゼル。
ふん!そんなのでどうにかなると思ってるのかこいつ?
「お前アホだろ?」
「馬鹿か、お前?」
「な、なんだと!」
私と南雲の物言いに、目を釣り上げるゼル!シア達も思わずと言った風に南雲と私を見る。
「俺は、お前らの事情なんて関係ないって言ったんだ。俺からこいつらを奪うってことは、結局、俺の行く道を阻んでいるのと変わらないだろうが」
南雲は長老衆を睥睨しながら、泣き崩れているシアの頭に手を乗せた。シアは南雲を見上げる。
「俺から、こいつらを奪おうってんなら……覚悟を決めてもらおうか」
「ハジメさん……」
「本気かね?」
アルフレリックさんが南雲を鋭い眼光で射抜く。
「当然だ」
「フェアベルゲンから案内を出すと言っても?」
「何度も言わせるな。俺の案内人はハウリアだ」
「何故、彼等にこだわる。大樹に行きたいだけなら案内人は誰でもよかろう」
アルフレリックさんの言葉に南雲は面倒そうな顔になる。
「約束したからな。案内と引き換えに助けてやるって」
「そうだ。約束を破るなんてバカな真似は出来ないからな」
「ホムラさん」
南雲とアルフレリックさんの会話に横入り、シアの側に立つ。
「……約束か。それならもう果たしたと考えてもいいのではないか?峡谷の魔物からも、帝国兵からも守ったのだろう?なら、あとは報酬として案内を受けるだけだ。報酬を渡す者が変わるだけで問題なかろう」
「問題大ありだ。案内するまで身の安全するってのが約束なんだよ」
「そういう契約だ。途中でホイホイと変えるなんて……」
「「格好悪いだろ(じゃねぇか)?」」
南雲と私が揃えて言うと、雫、スグ、董香も立ち上がり、シアの側に立つ。
「私はシアがそんな理由で殺めるなんて許せません。もし、手を出すなら刻みます」
「手を出すなら、私が派手にアンタらの頸を斬ろう。誰よりも派手な血飛沫を見せてやる。もう派手派手だ」
「シアちゃんは私を助けてくれた恩人です。彼女には指一本触れさせません!」
「シズクさん、トウカさん、スグハさん」
雫、董香、スグが発言する。これを見たアルフレリックさんは深々と溜息を吐く。他の長老衆もどうするんだと顔を見合わせる。しばらく、静寂が辺りを包み、やがてアルフレリックさんが疲れた表情で提案した。
「ならば、お前さんの奴隷ということにしておこう。フェアベルゲンの掟では、樹海の外に出て帰って来なかった者、奴隷として捕まったことが確定した者は、死んだものとして扱う。樹海の深い霧の中なら我等にも勝機はあるが、外では魔法を扱う者相手に勝機はほぼない。故に、無闇に後を追って被害が拡大せぬように死亡したと見なして後追いを禁じているのだ。……既に死亡したものを処刑はできまい」
「アルフレリック!それでは!」
アルフレリックさんの提案にゼルが身を乗り出し、抗議する。
「ゼル。分かっているだろう。この少年と少女達が引かないことも、その力の大きさも。ハウリア族を処刑すれば、確実に敵対することになる。その場合、どれだけの犠牲が出るか……長老の一人として、そのような危険は断じて冒せん」
「しかし、それでは示しがつかん!力に屈して、化け物の子やそれに与する者を野放しにしたと噂が広まれば、長老会議の威信は地に落ちるぞ!」
「だが……」
ゼルとアルフレリックさんが議論を交わし、他の長老衆も加わったわ。
「ああ〜、盛り上がっているところ悪いが、この残念ウサギを見逃すことについては今更だと思うぞ?」
ハジメの発言に、ピタリと議論が止まり、彼に視線が集まる。南雲が右腕の袖を捲ると魔力の直接操作を行なった。すると、右腕の皮膚の内側に薄らと赤い線が浮かび上がる。さらに、“纏雷„を使用し、右手にスパークさせた。
これには長老衆は目を見開く。
「俺も、こいつと同じように魔力の直接操作ができるし、固有魔法も使える。ついでに言えばこっちのユエもな。あんた達のいう化け物ってことだ。処刑の理由が魔物と同じ特性を持つからだというなら、俺達も処刑の対象だろう。だが、口伝では“それがどのような者であれ敵対するな„ってあるんだろ?掟に従うなら、いずれにせよあんた達は化け物を見逃さなくちゃならないんだ。こいつ一人見逃すくらい今更だと思うけどな」
「はぁ〜、ハウリア族は忌み子シア・ハウリアを筆頭に、同じく忌み子である南雲ハジメの身内と見なす。そして、資格者南雲ハジメに対しては、敵対はしないが、フェアベルゲンや周辺の集落への立ち入りを禁ずる。以降、南雲ハジメの一族に手を出した場合は全て自己責任とする……以上だ。なにかあるか?」
アルフレリックさんが決定を告げた。これでシアやハウリア族は処刑されずに済んだ。
「いや、何度も言うが俺は大樹に行ければいいんだ。こいつらの案内でな。文句はねぇよ」
「……そうか。ならば、早々に立ち去ってくれるか。ようやく現れた口伝の資格者を歓迎できないのは心苦しいが……」
「気にしないでくれ。全部、譲れないこととは言え、相当無茶言ってる自覚はあるんだ。むしろ理性的な判断をしてくれて有り難いくらいだよ」
南雲の言葉にアルフレリックさんは苦笑いする。まぁ、なにはともあれこれでシアやハウリアの人達は助かった。
さて、大樹に行くには十日間経たないといけない。その間どうするか?
中高一貫ありふれキメツ学園物語!
ドカーン!ドカーン!
「また宇髄先生かユエ達か?相変わらずだな」
そう言ってかまどベーカリーにパンを食べる焔。
「焔」
「おぉ、雫」
泣きながら焔に抱きつく雫。
「うぅ、もう嫌だよ」
「よしよし。放課後美味しいスイーツ食べに行くか?」
「行く」
「焔!私もスイーツに付き合う!あと奢って、私、今金欠なの」
「はぁ〜梅」
謝花梅もスイーツを食べようと付き合う。
「次回、鍛錬」