蕾はいつか散らなければならない   作:口十

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「…ここが?」

 項羽の黒い波に呑まれてやって来たのは所々鉄骨も見える廃屋だ。そこには、ドイツの軍服を羽織った少女、褐色の男、片翼の少女、でこの広い男、筋骨隆々の男がいた。

「いや、実はもうちょっと広いんだがな。ちょっとした理由で此処にいるんだ」

「ふんっ。僕らは罪人格だからね」

 そういってぷんすか頬を膨らませたのは軍服を羽織る少女だった。齢一八、もしかしたら一五も越えてないだろう幼い子供だ。

「なんだぁ?ちっこい」

 ぽんぽんと帽子の上から頭を叩く六花の手を、褐色の男が握る。

「今度はでかい…なんだ?」

 男が離した際に握られた箇所を見ると、既に薄いあざらしきものが出来ていた。余程の力の持ち主なのだろう。

「ヒトラーだよ!知らないのかい? とんだ無能者だね」

「おいヒトラー…!」

「いいよ。俺が頭悪いのは知ってるから」

 へらへら笑う六花はそれで?と次々に他の人の名前も聞いていった。

 皆、名だたる偉人、または罪人だった。

 アドルフ・ヒトラー。ポル・ポト。ダルモン。カエサル。アルバート・デサルボ。独裁者が二人、貴族、軍人、絞殺魔。とバラバラだ。六花が知っているのは一人もいない。

「へぇ。凄いな凄いな。俺なんて誰も知らないだろう」

「六花のは俺も噂でしか聞いた事が無いからな」

「へぇ…おかしいな。僕でも見えない」

 ヒトラーは一度項羽を嗤ったが、六花を見て顔が険しくなった。

 ヒトラーは『掌握者(エニグマ)』とは別に、意識せずとも発動できる才能がある。それは他の偉人格罪人格にも相当するが、ヒトラーのは異質だ。

 目を合致させた者の心底が分かる。心を見透かせるのだ。

 だが、可笑しい。

 何も分からない。というより、無いのだ。心情が、心底が。ただ、大雑把な喜怒哀楽、それから三大欲求程度の欲が見える程度で、自分の事も才能の事も、まるで理解していないように思えた。

 だが、そんなことを口走るのも、分からないと肩を竦めるのもヒトラーの人格は許さない。

「僕が当ててあげるよ。うーん…学がないってことは衝動的殺人犯系?」

「いや、六花は偉人側だぜ」

「偉人!? じゃぁ、学者以外で…剣豪でもないだろう? あの時代のは学もつけなきゃいけないから…う~ん」

 ダルモンと項羽がひそひそ話している中、六花は一人、どんな答えを出すのか考えていた。もうすでに答えからは遠のき始めているようだが。

「紀元前の…軍人? それか奴隷」

「ハハハ、ヒトラーの脳みそでも答えを導き出せないとはな」

 項羽に教えてやれと言われた六花は、子供の遊びを見守る親のように笑って自分の才能と前世を教えた。

「弥助? 聴いたことはあるけれど、名前程度かな。そんなに強そうにも聞こえないし」

「そう思うだろ? 俺の万象儀を掻い潜ったんだぜ」

 一気に皆の視線が集まる。それは先ほどまで鉄骨を握っていたデサルボも含めだった。

 項羽は、自他共に認める世界最強だ。今まで負った傷はたったの一つ。それも不意打ちだ。それを掻い潜ったというのは、項羽(最強)の領域に一歩を踏み込んでいるといことだ。

「へへへ。まぁ、これでも無敗なんで」

「凄い」

 ダルモンの感嘆に、ヒトラーが真剣な面持ちで同意する。

「一回、ポル・ポトさんと戦ってみたいなぁ」

「止めといた方がいいよ。近接戦じゃ到底勝てない」

 ハハ、と嘲るように両手を広げ、己のことのように胸を張る。

 ポル・ポトの才能は自身を中止にに腐食させていくもの。近接戦特化の才能では勝ち目は薄いだろう。

 それから暫く談笑を交わした。ヒトラーからは小馬鹿にされ続け、ポル・ポトは喋らず、ダルモンからは惚気話が、カエサルからはナンパの仕方を、デサルボとは仲が良くなりそうだった。

「俺はもっと人を増やしていくつもりだ。六花の頭もその度に良くなるだろ?」

「あはは。それは俺に学のやる気が出たらですねぇ」

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