蕾はいつか散らなければならない   作:口十

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Muse Dash始めました。楽しいですね。


彼の男

 項羽に拾われて、大体五年だろうか。それほどの年月が経つのは、案外にも早い。

 六花の才能は確かに強かった。が、どれだけ教えても彼の才は刀以外に働かなかった。別の動き、型は覚えらえたが、それらを必中まで昇華させるには相当な鍛錬が必要になってくるだろう。また、ヒトラーを筆頭にした知識人の教育も、さして意味をなさなかった。辛うじて小学生五年生と同程度の知識が付いただけ。四則計算も桁が大きくなると間違えるし、漢字も書くと新たなものが生まれてしまう。後は、何とか適当な喋り方を直したぐらいか。五年経ってそれだけの成長しか得られなかった。

 結果、どの罪人、偉人からも呆れられ、酒にギャンブルに金を費やし始めた。その時だ。

「おい六花。行くぞ」

「あぁ? 落ちこぼれに何の用ですか」

 夜の街でパチンコ店に入ろうとした六花を項羽が呼び止める。

「今からパチンコ…」

「黙れ。ついてこい」

 言い、問答無用で項羽は六花を連れその場から姿を消す。

 黒い渦から視界が放たれた時に感じたのは、日本より寒い太陽の照るビル群であった。先ほどまで夜だった筈だが、誰かの才能だろうか。

 いや、それはないだろう。確かに日本のビル群に似ているが、空気からもどことなく日本ではないことが理解できる。

「どこここ」

「アメリカのプロヴィデンスだ」

「ぷろ…?で、何ですか。捨てるなら別に亜米利加じゃなくてもいいでしょ。その辺にポイって」

「ちげぇよ。大事な戦力を誰が捨てるか。偉人を仲間にすんだよ」

「それこそ何でですか。ここで騒動起こそうっていうならもっと大軍勢引き連れて夜とかにするでしょうし、そうでなかったとしても暗殺向きの才能なんてごまんと…」

 六花の言葉を遮るように項羽が溜息をこぼす。

「六花と一緒で不完全な廻り者なんだよ。ってか、なったばっか」

「あ~…あっ、なるほど」

 一瞬理解の出来なかった回答に辿り着く。

 つまり、同じ境遇の人間の方が理解者となりうるだろうという算段だろうか。

「で、このビルの何階にその廻り者さんは?」

「十五階だ。保護対象は白髪のガキ。それ以外に対しては、別に殺していいし逃げてもいい。どうせ俺が全員片す。六花はそのガキを助けろ」

「? …は~い」

 項羽の言葉に疑問を抱いたが、すぐに抵抗しても殴られるだけだ、と自分を諭し、同意の声をあげる。項羽の拳は痛いから。

「最後に教えておく。情は要らん」

「ハッ。この阿呆に情なんてもの学ぶ暇はありませんでしたよ」

「確かに。じゃぁ、行くか」

 こくんと頷き、首を切る。姿が少し変わり、ジャージから動きやすい服へと。

 脚に力を溜め、一気に階段まで跳ぶ。皆に呆れられるまでに鍛え上げた体は、まだ鈍っていなかったようだ。人間から見れば異常な速度で駆け上がる。後方からは項羽の怒号と銃声が聞こえたが、彼なら大丈夫だろう。

 階段を階層ごとに見張っていた男達は怠けていたのか、仕事がなかったのか警戒心が薄い。欠伸をしたり談笑している内に切り殺せる。それに巡回の人間が気付く前に更に上階へ。自他ともに認めた情が欠如している六花にとってはながら作業に等しい。

 その作業の傍ら、ずっと疑問に対する答えを探し求めていた。しかし、問いはさらに難解さを増していく。

 オフィスビルのように家具家電は設置されているが、明らかに使われた形跡がないか、近くで見ればハリボテと分かる程の騙しだ。それに、どれだけ慎重な社長だったとしても各階ごとに銃を持った任気を配置しないだろう。しかも、その銃はどれも戦争で使われるような、護身用とは程遠い殺傷能力の高い銃だ。

「うーん、変だ」

 どれだけ考えても納得のいく答えは出せない。明らかにヒントは出されているものの、そのヒントが少し分かり辛い。自分が少しでも勉学に興味を持てていれば、と今になって後悔がやってくる。

 そうして斬って捨ててたまに銃使い捨ててを繰り返し十五階までやって来た。基礎体力は昔からあったので、たいして息も上がっていない。

「…あ?」

 大きく開けた空間にソファが二つとテーブルが一つ。対になって座っている男と、護衛らしき男が一人。そして、可愛いフリルのついた服を着せられた白髪の少女が一人。

 不思議なのは、その護衛の首から花びらが舞っていたこと。

「あ、白髪のガキ」

「なんだぁ? 護衛はどうしたんだ!護衛はぁ!!?」

 ソファに座っていた横に長い男のコメカミに筋が浮き出る。

「落ち着いてくださいお客様。すぐに片付けますので」

 言って反対に座っていた若い音尾が顎で護衛を六花に向かわす。

 男は表情一つ変えずこちらに銃を向け、乱射し始めた。それは明らか六花の急所を狙っているものではなく、退路を断つ、もしくは退かせる弾丸だった。

「おぉ。怖っ」

 すぐに階段を数段下がり弾を避ける。

「チャールズ。何をもたついてる?」

「申し訳ありません。ですが、ここで騒ぎを起こすのは得策ではないかと。向こうも廻り者の様ですし」

「チャールズ…ちゃーるず?」

 その名前に心当たりはないが、こちらは一人で戦に来たのではない。

「項羽さんやぁ!相手はチャールズだそうだ。銃を使う!」

 一つ下の階にいるであろう項羽に声をかける。項羽の闘気が強いお蔭で大して気を張らなくても大体の居場所はつかめる。

「多分チャールズ・ケリーだ。武器なら何でも使うぞ。加勢してやろうか?」

「要らない!…あ~、やっぱあとで来て!」

 チャールズ・ケリー。”コマンドー・ケリー”の名で知られる第二次世界大戦の軍人だ。

 その軍人が大きく息を吸う。

「…隠れてばっかで面白くもねぇ!さっさと出てこい!無名野郎!!!」

 どうやら挑発のようだ。もしくは、チャールズに注意を向かせているだけか。

「嫌だなぁ。俺は本来戦うのが嫌いなんだ。道場破りも大して面白くないし、そもそも護衛だって好きでやってたんじゃない……あ、でもあの子可愛かったなぁ…」

 六花の考えはいつも単純だ。後先など考えず、楽しそうならやる。つまらなければ止める。それが今は楽しそうに傾いてるだけだ。別に、項羽率いる軍に捨てられても、パチンコで生きていけばいい。それが無理なら別に窃盗すればいい。

 原動力などなんでもいいのだ。事実、崇高な志でもって動く者はそう多くない。偉人ともなればそれはさらに限られてくるだろう。そこは記録する者が美辞麗句を並べればいいのだから。

 銃声が止んだところで両手を上げふらふらと表に出る。

「…は?つまんね」

「元からプライドなんてないからね」

「早く殺せぇ!!」

 その太った男の金切り声とも似た怒号、それから銃の引き金を引く際に発生する極々僅かな摩擦音。それが六花にとっての開戦の狼煙。

 乱射される銃弾は概ね反動に準ずる。学がなくても嫌という程軍人同士の訓練を見てきた六花の目はほぼ完璧に弾丸の軌道を読んでいた。思わぬ伏兵もいない。

「よし。じゃぁ、反撃な」

 チャールズ・ケリーのすぐ後ろに回り込み、刀を振りかぶり、亜音速で振り下ろす。

「…これで終わり、か」

 達成感など湧かぬまま、戦は終わる。




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