目の前に広がっているのは一面の純白。
空から飛び降りたかのように風を斬る感覚。
底の知れない白に落ちていく。
浮遊感を身体全体に感じるも、口元には笑みが浮かんでいる。
当然だ、今の俺は異世界転移しているのだから。
なにかの手違いによって死んだ俺は、神様によってリリカルなのはの世界に転移することになったのだ。
なんとチート特典貰っている。
一見ただのインテリジェントデバイスだが、特定のワードを言う事で魔法を使った後に半径50mから魔力を蒐集して再度最速でクールタイムなしで魔法を放つといった永久機関、それに加えて高度なAIを内蔵したクソ強転生特典を持って転移出来るのだ。
こりゃクッソイージーゲームですわwww
転移してやりたいことと言ったら当然なのはとフェイトの間に挟まること!
他の人が聞けば百合の間に挟まるな!とかガイアッ!!とか言って激昂するだろう。
確かにあの二人のカップリングはエモい物がある。
間に入るなんて許されないのは分かってる。
....でもさぁ、そういう綺麗な物ほど穢したくない?
少なくともクソ強特典持って転移する権利を持っている俺にはそれが出来るのだ!
このクソ強特典を使ってなのはやフェイトを始めとした主要キャラを食えば、自ずと見せ場も独占出来て、主要キャラの好感度が上がるだろう。
なんならフェイトやなのは二人とくっついてヴィヴィオのパパになっちゃったりして....
うはっ!夢が広がリングwwww
来るべき異世界ライフに心躍らせていると、さっきまで眼前に広がっていた純白の景色に一筋の光が見える。
直感的に異世界に辿り着くと分かる。
すると、目の前の光景が純白から一面の青になる。
どうやら一面の大海原だ。
そして周囲を見ると杖を構えている二人の少女。
杖の先から桃色の光と金色の光が俺に迫って....って。
違う!俺は二人の間に挟まりたいとは言ったが、二人の魔法の間に挟まりたいとは言ってな....
その瞬間、目の前が真っ白になり、意識が途切れた....。
アースラの管制室。
リンディはモニターを見て、声を上げる。
「...空間が歪曲している!?」
なのはとフェイトがジュエルシードを封印する為に放った魔法。
竜巻をフェイトの雷が包み込み、なのはの砲撃魔法がそれを撃ち抜く。
その間の空間が歪み、虚空から一人の少年が出てきたのだ。
「男の子がっ!!」
「ジュエルシードによるもの...?いや、そんなことより!!」
船員の一人が悲痛に声を上げる。
それもそのはず、このままでは二人の魔法が彼に直撃してしまう。
そしてそれは二人も分かっているようで急に虚空から少年が出てきたことで表情を驚愕で歪ませ、声を上げようとする。
しかし、無情にも魔法は直撃。
小さな人影一人、海へと堕ちていく。
それを見て、リンディは唇を噛む。
虚空から湧いて出た少年。
そして無用な犠牲を出してしまったかもしれない事実に。
「誰か、回収に向かわせて!」
リンディは指示を出す。
そして、それは現場の二人も同じであり、なのはとフェイトが少年の方へと向かおうとする。
しかし、突如天からの雷をフェイトが受けて悲痛な声を上げ、それから現場ではジュエルシードの奪い合いによって少年どころではなくなっていったのだった....。
朝、窓の外からは小鳥の鳴く声が聞こえる。
この子達にも帰る場所があるのだと思うと、少し羨ましい。
病院はやはり傷ついた人や病に病んでいる人などを収容しているだけあって辛気臭くて好きではない。
...もっぱらここ以外に居た記憶などないのだが。
俺には、記憶がない。
お見舞いに来てくれたリンディさんが言うにはいきなりある二人の魔導師の放った魔法に挟まるような形で急に俺が現れたらしい。
どうやら俺は次元漂流者というらしい。
しかしかなりまずい部類の次元漂流者らしく、どこの次元世界?においても該当する人物が居らず、さながら元々この世界に居ない人間と言った方が納得できるレベルらしい。
唯一分かるのは俺がデバイスなる魔法を使う為の道具を持っている為、ミッドチルダの人間であるということだけらしい。
そもそもミッドチルダとはどんなところなのだろう。
現状、足を動かすことが出来ない俺にはこの病院が世界の全てだ。
どうやら魔法の威力で結構ボロボロの状態だったらしい。
そりゃ半年近くは寝込んでいるはずだ。
横を見ると、デバイスが立てかけてある。
「...おはよう。」
<Good morning.master!>
白く艶やかに輝く棒状の物から女性の声がする。
最近気づいたのだが、このデバイスはなんか結構高い部類らしく、ちゃんと思考して受け答えが出来るのだ。
天涯孤独である為、この子と大半話して日々を過ごしている。
昔の自分のことについてなんて何一つ分からない。
昔の自分に由来するのはこのデバイスと、そして.....。
「ハラオウン君、ご飯の時間....ってまたマットレスの間に挟まっているの?」
病院食を持って来た看護師の人が呆れた目で見ている。
そりゃ足骨折している男子児童が器用にもマットレスに頭から突き刺さるような形で挟まっており、それが複数回続いているのだから。
俺は、ただ一つ覚えていることがある。
俺は確か、ある物の間に挟まる為に存在しているような気がする。
まるでこの世界に居る理由がそれであると言えるほどに、何かに挟まらなければいけないと漠然と思わされるのだ。
前の俺に何かあったのだろうか。
しかしその何かが何か分からない。
だからこそ色んな物に挟まって、これが自分が求めている物か判別しているのだ。
これが分からない限り、自分がここに居る意味がない気がするから。
ちなみに、身元が分からず天涯孤独な俺は一時的にリンディさんに保護されるらしく、名前がハラオウンになるらしい。
どこぞの見知らぬ子どもを保護してくれるのだからとてもありがたい物だ。
彼女には頭が上がらないな。
そう考えながら病院食を口に運んでいると、看護師の人が口を開く。
「あっ、そうだ。ハラオウン君、今日は二人お見舞いに来てくれるらしいわよ。」
「二人?」
誰だろう?
リンディさんかな?
しかしリンディさんにしても後一人は誰だろう。
それとも話に聞いていた息子さんも連れて来てくれたのかな?
病院食を食べ終わり、看護師さんに食事を下げてもらう。
正直、移動手段が車椅子なんだよなぁ。
最近自分と同じ女の子と話したが、やはりこれはきつい物がある。
自分は骨が折れているからくっつけば歩行可能だが、彼女に関しては原因が分かっていないのだから俺よりも大変だ。
「誰が来るんだろうね?棒切れ。」
<Hey, master! Please change my name!!>
「えぇ....でもどう見ても棒切れだし.....。」
目を覚ましてこの子と初めて話した時、名前を聞いたところ付けてほしい的なことを言われた。
正直いきなりそんなこと言われても良く分からないので、案の定見たまんまの名前を付けてしまったのだ。
...まぁ今後思い出したらなんかまともな名前を付けなおそうかな。
今は思いつかないから棒切れで。
まぁ取り敢えずもらった教科書を読んでおこう。
なんでも、ミッドチルダ?に関して纏めた物らしい。
....挟まりてぇ。
この本と布団の間に挟まりたい。
そこまで移動する必要ないし、挟まるか....?
そう考えていると、部屋のドアが叩かれる。
看護師さんが話していたお見舞いだろうか?
「どうぞー!」
そう言うと、病室のドアが開く。
そして人が二人入ってくる。
茶色のツインテールと金髪のツインテールが部屋に入ってきた時に揺らめく。
どことなく部屋全体が良い匂いになったかのような錯覚。
そして目を釘付けにされるような感覚、それに付随する既視感。
二人の少女が俺の病室に入ってきたのだ。
「し、失礼しまーす....」
「失礼します....」
二人は入ってくると俺の近くまで歩み寄る。
その間、俺は謎の感覚に首を捻っていた。
何故だろう。
俺は、この子たちを知っている。
前の俺と関係あるのだろうか.....?
「り、リンディさんから聞いて、もう元気になったって...その、私たちのせいでそうなって...ごめんなさい!」
「私も、...ごめんなさい。」
茶髪の子が頭を下げる。
彼女達は一瞬俺の足を見て、表情を強張らせて頭を下げる。
俺の足を見たのだろうか。
というより二人の魔導師ってこの子たちのことなんだろうな。
いや、でもそんなことよりも。
「そんなことはいいよ。それよりも...あの君たち、俺のベッドの右と左に立ってみてくれないか?」
「...へ?」
「えっ...と、どういうこと?」
二人は目を点にする。
そりゃそうだ。
謝った相手がそんなこといいと言い出して、急にベッドの横に立てと言ってきたのだから。
しかし説明するよりさせた方が早い。
なんというか....ピンっと来たのだ。
自分が求めている間に挟まる物。
それに後一歩で辿りつけそうな気がする。
「説明は後!そこの金髪の子、名前は?」
「ふぇ、フェイトです!」
....なぜだろう。
やっぱり聞き覚えがある。
俺はフェイトちゃんを指さした後に俺のベッドの左横を指さす。
「ちょっとそこに立ってみて。それと茶髪の子....君は.....。」
「た、高町なのは....」
「じゃあなのはさんは右に立ってね。」
俺の勢いに押されたのか二人は素直に言われた通りに俺のベッドの左右に立っている。
今、俺は位置的にこの二人に挟まれていると言えるのだ。
どうだ、見つかりそうか......
......なーんか、違うんだよなぁ。
なんかコレジャナイって感じが。
俺の思い違いだったかなぁ?
いや、探している物に滅茶苦茶近いって感じてたんだけどなぁ...。
「あ、あの....もう、良いですか?」
フェイトさんは首を傾げて唸っている俺を見て、恐る恐る聞いてくる。
「あ、あぁ。ごめんごめん。もういいよ。」
すると、フェイトさんはなのはさんの横に立つ。
二人は不思議そうな顔をしている。
流石に説明は後とか言っちゃったから、ちゃんと説明はしないとな。
「えっと、俺記憶がなくてさ。でも、何かに挟まらないといけないってことは覚えているんだよ。二人を見たらなんか今まで一番それが見つけられそうな気がしたからさ....。」
「そ、そうなんだ。大変だね.....。」
「うん、私たちの魔法でこんなことに......」
二人は理解しているか分からないが、哀れみの目で俺を見ていた。
...確かに記憶がなくて、覚えていることと言えばそんな意味不明な欲求だけとか哀れすぎて涙が出るだろう。
おまけに身元不明の天涯孤独だ。
「あぁいや、俺が二人の間に急に出てきたって聞いてたし、ほんと気にしないで。それで、二人はもしかして、この為に来たの?」
俺が聞くと、二人は首を横に振るう。
「それもあるけど、その....ユーリ君ってリンディさんに保護されるでしょ?そうなると、フェイトちゃんと家族になるんだから、会いに行かないっと思ってね。」
「え?フェイトさんもリンディさんの子供なの?」
俺が首を傾げると、彼女は微笑する。
「厳密に言えば、君と同じなんだけどね。君より先に保護されたから、私の方がお姉ちゃんって感じかも。」
つまりは彼女も保護されたのだと分かる。
へぇ~つまりは似たような境遇ということなのか?
...いや、なんか違う気がする。
違う気がするけど、でもなんていうか聞いちゃいけないような.....
「本当はクロノ君も会いに行くつもりだったみたいだけど、ほら執務官の仕事で忙しいみたいだから....」
「そうなんだ。」
クロノ君。
名前をよく聞くがどんな子なんだろうか。
名前を聞くと、どことなくクール系な気がする。
それにしてもお姉ちゃんは無理があるだろう。
どう見ても同い年だ。
それに元々リンディさんの子供であったクロノ君を後から入ってきたフェイトさんがお兄ちゃんと呼ぶのは許される気がするが、同じく後から保護された俺がフェイトさんをお姉ちゃんと呼ぶのはなんか憚られる。
そもそも今日会ったばかりの男が相手から言われたからってそう呼ぶのはいかがなものだろうか。
「会ってみたいけどなぁ....クロノ君。フェイト先輩は会ったことあるんですか?」
俺が先輩と呼ぶとフェイトさんは面を食らった後に、表情を暗くする。
「そ、そうだよね....急に言われても、困るよね........。」
えっ、なんでこんな暗くなってるの?
戸惑っていると急になのはさんが耳元に近づく。
「あのっ!フェイトちゃん、君が同じハラオウン家に保護されるって聞いて家族が増えるって喜んでてさ、その....抵抗があるのかもしれないけど、張り切ってたしお姉ちゃんって呼んであげて.......」
なるほど....。
確かにハラオウン家の一員になるとリンディさんに聞かされた時、今日から家族的な事を言われた。
彼女も俺と同じ保護された身で、そう言う経験があるのであれば似たような境遇の後発が出てくれば、心優しい人であれば目をかけようとしてもおかしくない。
ましてや身元不明の天涯孤独だ、猶更だろう。
図らずも彼女の厚意を無下にしようとしていたのだ。
反省しないと。
「そ、そうなんだ。ごめん、知らなかった。....い、いやこれからよろしく!お、お、お姉ちゃん。」
なんだ....真正面から見ると照れくさいぞ。
こんな可愛い女の子が今日から姉とか俺なんか前世でやってたのか...?
....いや、そもそも俺って一体何者なんだろうな。
なんでこんな浮足立ってたんだろ。
結構根源的な問題に行き着いてしまい、気分が沈む。
しかし対照的に目の前の女の子は目を点にした後、さっきのどんよりとした空気はどこへやら、表情を明るくする。
「う、うん!よろしくね、ユーリ君。」
図らずも、姉が出来た一日だった。
....こうまで来るとやはりクロノ君に会いたくなるな。
彼は俺からすればお兄ちゃんと呼べる存在に当たるし。
今の俺はユーリ・ハラオウン。
名前が何か聞かれて、不意に出た百合と言う言葉からそういう名前であると断定的にされた。
ただ...なんだろう。
なんとなく誰か、重要人物と名前が被っているような....そんな気が不思議としてきたのだ。
....まぁ、気のせいか。
「お疲れ様クロノ。」
書類仕事を終えたクロノに、リンディがコーヒーを渡す。
「ありがとう、母さん。」
クロノはそれを受け取ると口を付ける。
机には多くの書類の数々。
フェイトの裁判が終わった後、一段落したかと思えば突如現れた彼の処遇。
執務官である以上しょうがないが、激務は着実にクロノの心身に疲労を蓄積させていた。
「本当、大変ね。いつもありがとう。」
「いいよ...。それに、一番手間のかかる直接様子を見ることはフェイトにやってもらってるから負担は少ないし。」
ミッドチルダから第97管理外世界に行くには手間がかかる。
激務に追われるクロノには行く暇がない。
「そう。それならよかったわ。それにしても....。」
リンディが言わんとしていることは分かる。
あの少年が持っていたデバイス。
あれは登録されていないデバイスだ。
それに彼はジュエルシード騒動の渦中に降って湧いたように現れた。
歪んだ次元から現れた身元不明の次元漂流者。
だからこそ上を黙らせるのは結構骨が折れた。
まぁあのデバイスの存在があるからこそ、彼はミッドチルダの出身の魔導師であり、身元が判明しない以上、彼が自分の力だけで生活出来るまで保護する必要があるとごり押し出来るのだが。
それにしても....。
「記憶があれば、まだ話が違ったんだがなぁ.....。」
クロノはやれやれといった様子で溜息を吐く。
そんな彼を見て労うように肩を叩くと、リンディは笑う。
「まぁ新しい家族になるわけだし、今度一度一緒に会いに行ってみましょ?それに、これからは彼はミッドチルダで暮らせるようにしていかなきゃいけないし、もっと大変になるわよ~」
揶揄うような口調で言うと、クロノは頭を抱える。
「ただでさえ、フェイトの勉強の件で忙しいのに勘弁してよ.....。もしそうなったら別の人に頼むからな!」
どうやら時間があれば彼自身が教える気だったらしい。
やはり自分の息子はなんだかんだと困っている人を見捨てられないのだと思うと、リンディは嬉しくて笑みを浮かべる。
「...何?」
「ううん、なんでもないわ。」
そんな母親をジト目で見るクロノ。
リンディは息子に対して笑顔で首を振った。
百合の間に挟まりたい男。
しかし不幸にも百合(の放った魔法)の間に挟まってしまう。
皮肉にも間に挟まったことで転移する前の記憶も何もかもが消し飛んでしまいました。
そして残ったのは記憶がないから使えないクソ強特典と記憶が消し飛んだ為に転移する理由の残滓である何かに挟まらないといけないという使命感のような物です。
一応記憶の残滓のように知っている気がするとかこれからも起きますが、完全に思い出すなんて展開は今後一切ありません。
なのはとフェイトの間に物理的に挟まりましたが、本来の望みは彼女たちの関係性に割り込みたいと言ったものなんで願望は叶えられていません。
しかも記憶もないので、そんなことにも気づかず多分二人じゃないんだろうと判断しています。
これでは一生成し遂げられませんね。
ま、それで良いんですけど。
今後も、彼には何かの間に挟まってもらいます。