病院内。
俺は車椅子に乗って院内を彷徨う。
現状、この病院内が俺の世界の全てだ。
そして彷徨っていると、ふと視界の隅に見知った顔が見える。
「あっ....。」
俺が声を漏らすと、向こうも察知したのか車椅子で寄ってくる。
「なんや、今日は変な所に挟まってないみたいやな。」
彼女は目の前まで来ると、そう言ってくる。
俺はそんな彼女に対して返答した。
「俺は何でもかんでも挟まろうとするわけじゃない。こう...ビビッと来たものに挟まるんだ。」
「わけわからんわ。」
ジト目で俺を見るはやて。
彼女はこの病院で度々見かける少女だ。
俺と同じく車椅子に乗っていることから話しかけて、そこそこ話すくらいの仲になった。
どうやら検診に来ているらしい。
本人は前に原因が分からないって分かっているのに検診に行っているので嫌になると言っていたが。
しかしそれにしても....
「なんだ。ご挨拶な。今日は随分と冷たいじゃん。どうした?機嫌でも悪いのか?」
「私がもし機嫌悪かったとしても普通本人には直接聞かへんやろ.....。あーもういいや。アンタにデリカシーとか期待した私がバカやったわ。」
いや本当に凄い言われようだな。
ここまで言われるようなことした覚えがないぞ。
俺は不安になって彼女に聞いた。
「....俺、なんかした?」
「べっつにー?なんもしてへんよ。なんもしてへん。」
えぇ...だとしたら普通に理不尽なんだが。
俺が戸惑っていると、はやては不意に吹き出したように笑う。
「ふふ....ごめんて。ちょっと意地悪してもうた。ホンマごめんな?」
「意地悪って....いや本当何かしたのか必死に考えてたんだからな。」
「私怒らせたくらいで大袈裟やな~。私怒らせてもユーリ君には私以外に話してくれる人が居るやろ?」
彼女は笑いながらそう言ってくる。
だが、それは違う。
「いや、はやては俺にとって初めての友達だからな。いうて他とはやっぱ違うよ。」
一番最初にこの病院で目を覚まして話した同年代の女の子。
それだけに特別な存在である。
現状記憶喪失で前の俺の関係者などいない俺にとっては一人一人が重要なのだ。
俺の言葉を聞くと、はやては俯く。
「そういうこと....さらっと言うんや。」
「え、なに?」
なんか小さい声でボソボソ言ってるんだが。
俺が聞き返すと彼女は笑顔を見せる。
「ううん、なんでもない。まっ、そうやって歯の浮くようなことペラペラ言えるってことは元気ってことやな!」
「べつに歯の浮く言葉でもないような....」
俺がボソリと呟くも、彼女は聞くこともなく彼女はバッグを膝の上に置く。
そして中から携帯ゲーム機を出す。
「まぁ?どうせ病室でなんもすることなくて暇やろうから?私が暇つぶしに遊んだろう思って今日は来た訳や。」
「えっ!?これ新しいゲームじゃん。早いなぁ。」
感心してると、頭に電流走る。
もしかしたら....これ!
「....なんしとるん。」
はやては俺を呆れた顔で見る。
それもそのはず、彼女が渡してくれた携帯ゲーム機を態々身体を折って頭の上に乗っけだしたのだから。
「...やっぱりこれじゃない。ってか車椅子に乗っているからどうしても車椅子と何かの間にしか挟まれない.....」
「改めて見ると病的やな。ほら、そんなおかしなことしてないでユーリ君の病室、行くよ?」
はやてが先導して車椅子で進んでいく。
俺はその後を付いて行く。
「なんやユーリ君、ゲーム苦手か?」
「そりゃ今日やったばかりの素人が前からやっていた経験者に勝てるわけないでしょ....。」
病室で項垂れる。
ゲームを初めて一時間弱。
遂に一度も勝つことは出来なかった。
テレビでゲームの宣伝を見ていたためにどのような物か知っていた分、これほどまでに自分に才能がないとは思わなかった。
「どしたん?...もしかしてゲームで負けて不機嫌なっとるん?子供やなぁ?」
愉快そうな笑みでこちらに顔を近づけるはやて。
楽しそうだ。
「別にそんなことない。」
「本当?」
「本当!」
そう言うと彼女はそう言う事にしておくと言ってゲームに視線を戻す。
それにしても距離が近い物だ。
しかし、こんなに遅いのに大丈夫だろうか?
俺が壁掛けの時計を見ていると、はやてがそれに気づく。
「あっ!もうこんな時間や!今日はもう帰るなぁ?」
「あまり暗くなると危ないしな。気を付けて帰れよ?」
そう言うと、彼女は振り返って笑みを浮かべる。
「心配してくれるんやな....今度また来るわ。またね。」
「あぁ。またな。」
そう言うと彼女はバッグに携帯ゲーム機を仕舞う。
それにしても......。
「携帯ゲーム機2個も持ってるんだな。アレか?一人で全部図鑑揃える為?」
そう言うと彼女は目を泳がせながらも、答える。
「ま、まぁせやな。じゃあ、本当に帰るわ。」
そう言って彼女は病室を出た。
....棒切れには喋らないように言っておいて良かった。
説明するのとか面倒くさいしな。
でも、今日は楽しかったなぁ。
なんとなくそう思うのだった。
夜。
はやてはベッドに横になっている。
「なんや...あんなペラペラこっぱずかしいこと....」
頬は赤く染まっており、ぼやくように呟く。
考えているのは自分の友人である男の子。
今日、彼から言われたことを思い出していた。
ユーリ・ハラオウン。
似たような境遇であるがゆえに、哀れみを込めて私に接しない人。
最近ハラオウンという苗字であると知った。
初めて会った時にも思えば、彼は私に膝に座るように言った。
今思えば挟まる為にだろうけど。
結局恐る恐る座ると暫くしてやっぱりなんか違うとか抜かしたのだが。
始めはドン引きだったが、話してみれば案外良い奴で。
記憶なんかこれっぽっちもない癖に明るく振る舞う変な奴。
今ではアイツと話す日が待ち遠しく思う自分が居る。
だからこそ、あの日。
私が初めて自分からアイツの病室に向かおうとした日。
病室から二人の女の子が出てきた。
とても綺麗で可愛く、目を惹かれるような二人の女の子。
ユーリ君は二人を見送りつつ、笑顔を見せていた。
それを車椅子に乗っている私はバレないように物陰から目だけ出してそれを覗き見る。
なぜだか胸が....とても痛かった。
私にとってはありのままの私を見てくれるたった一人の同年代の友人でも、彼に取って見れば私は沢山居る知人の一人だ。
幾ら、彼が私を特別と言っても....それは私とは意味合いが違う。
もっと頻繁に会えれば.....
「もし、私が歩けてアイツの車椅子を引いていたら.....」
アイツには、私しか見えないのだろうか....。
「って、アカンアカン!何考えとるんや!」
自分が考えていることの危うさに気づき、首を振って考えを掻き消す。
私いつもこうだ。
お母さんとお父さんが居なくなって、足が動かなくなってから心のどこかで暗い考えをしてしまう。
「とにかく、今日はもう寝よ。アイツと遊んで疲れたからな。」
そう言って彼女はベッドで目を瞑る。
そして深夜。
夜のとばりが降り切って、誰しもが寝静まる刻限。
それははやても例外ではない。
だが、そんな中本棚では、鎖で縛られた本がページの隙間から微かに光を放っているのを本人は気づく由もない。
そりゃ、自分と同じ境遇で話してくれる友人に実は自分以外の仲の良い女の子(可愛い)が居たとなると複雑な気持ちになります。
それに記憶がない分、不思議ちゃん化して歯の浮くようなセリフも恥ずかし気なく言えますしね。