「はぁ...はぁ...っ.....!」
手すりに体重を乗せてぎこちなく歩く。
額には玉の汗が浮かんでいて、手は手すりを強く握りしめているからこそ白くなっている。
折れた足が完全にくっついて結構経った。
しかし長い期間足を動かせなかったので、結構筋肉が落ちているなと実感させられる。
「....記憶もないのに、筋肉量が落ちてるなんてよくわかるっ...もんだ....」
感覚的に筋肉量について言及した自分に自嘲する。
「ユーリ君!」
すると、不意に予期しない方向から名前を呼ばれる。
見ると、そこには金髪の儚い印象を受ける美少女。
フェイト・T・ハラオウン。
あの後、フルネームを聞きそびれたとメールで聞いたのだ。
「フェイトお姉ちゃん。どうしたの?」
お姉ちゃん呼びしないと少し悲しそうな表情をする為、そう呼んでいる。
けど、やはりちょっと呼びづらい。
なんていうか相手が年上とはいえ、血のつながってない同年代の女の子にお姉ちゃんと言って甘えているようにも自分には見えてしまったのだ。
正直気持ち悪い。
しかし彼女はそんなこと気にせず、俺に笑顔を向けた。
どうやら彼女自身、色々あったらしく特段今のハラオウンの一員としての家族という関係性に対して敏感のようだ。
「裁判が終わってね。なのはに会う前にどうしてるか気になって病室に行ったら居なくて、それじゃリハビリしてるのかなぁって。母さんに聞いてたから。」
なんか前の家関連で裁判とか受けなくてはいけないらしい。
....なんとなく触れてはいけない気がしてリンディさんにも聞いては居ないのだが。
終ったらこちらに向かってくると言ったし、問題なく裁判が終わったのだろう。
それにしてもさすがハラオウン家の先輩だけあってもうリンディさんのことをスムーズに母さん呼びしている。
俺にはまだ心の中でリンディさんと呼んでしまうのだ。
時間が経てば、俺も引っ掛かりなく思えるようになるのだろうか?
リンディさんを母さんと、フェイトさんをお姉ちゃんと。
「そうなんだ....。っ.....じゃあ今日はリンディさんやクロノ兄貴も?」
前にリンディさんがクロノ兄貴を伴って一緒に来たことがある。
クールそうな印象を受ける相貌で、一瞬おっかない印象を持ったが話してみれば普通に良い人でなんでも身元不明の俺に色々取り計らってくれたのは彼であるらしいので俺は彼を兄貴と呼んでいるのだ。
それにお兄ちゃんと呼ぶのは憚られるが、兄貴と呼ぶのはなぜか結構スムーズに呼べた。
それに、フェイトのような可愛い女の子がお兄ちゃんと呼ぶのは絵になるが、俺のような男が言うとなるとなんか違う....気がする。
「ううん、やっぱり母さんもお兄ちゃんも大変そうだから。それより、お兄ちゃんのこと兄貴って呼んでるんだ。なんかカッコいいね。」
カッコいい....のか?
ただ何となく呼びやすいからそう呼んでいるだけだ。
「そうかな。ッ....ふっ........」
それよりこの子、人がリハビリしている時に滅茶苦茶話しかけてくるな。
少し身体の重心が揺らいだので立て直す。
すると、彼女は心配した表情をするが、邪魔をしちゃ悪いと思ったのか俺から離れて近くのベンチに腰を掛ける。
良い判断だ。
誰かの過度な助けがあるとリハビリにならない。
少なくとも駄目になるまで見守っていて欲しい。
最後まで行き着くと、足から力が抜ける。
すると、フェイトさんがこちらに駆け寄ってきて腕を取ってくれた。
「大丈夫?凄いよ...最後まで行けて。」
「あぁ....大丈夫。そりゃ連日このリハビリしてるしね。」
これでも最初と比べると歩けるようになってきたのだ。
最初は固まって足が動かなかったのだから。
看護師さんからマッサージも受け、この歩行練習をしたことでここまで歩けるようになったのだ。
しかしそれにしても汗だくだ。
結構疲れるんだよなぁ....。
汗だくの俺を見て、フェイトさんがベンチに座らせる。
「それにしても....デバイス、普通に剥き出しなんだね。待機状態にしないの?」
フェイトさんが思いついたのか話を切りだす。
どういうことだろうか。
そりゃ手をほとんど付けてないのだからそうだろう。
「まぁ...どう見てもただの棒だし、他の人にも触れられないからね。てか、そんなのあるの?」
もしくはクロノ兄貴やリンディさんが他の人に話したのか。
まぁなんにせよアレは今実質俺のおしゃべり相手でしかない。
なんでも魔導師はアレを使って凄い魔法を使うという。
魔法と言われてもどんなの物か見たことがない以上、分からないのだが。
というか結構初耳だった。
そんな便利な形態があるのだったら初めから教えて欲しかった。
「そ、そうなんだ...。インテリジェントなら言えばデバイスが自律的にやってくれるだろうし、あとで試してみたら?」
(やっぱり...魔法については必要最低限も教えられてない。そりゃ登録されていないデバイスを持つ身元不明人。...もしかしたら私みたいに、何か事情があって非合法なことやらされていたのかもしれないから本人が希望するまで教えられていないんだろうなぁ......)
彼女が何故か表情を曇らせる。
どうしたのだろうか?
「?どうかした?」
「う、ううん。なんでもない!気にしないで!」
(まぁ母さんやお兄ちゃんの事だし、いずれ教えるんだろうけど....。魔法だって使う必要がないに越したことないしね....。)
何故かフェイトさんが俺の頭を撫でる。
その目はまるで慈しむようであり、視線がこそばゆい。
こういうのは苦手だ。
「ユーリ・ハラウオンさーん、入浴の時間ですよ~。」
看護師の人に呼ばれる。
すると、フェイトは立ち上がった。
「それじゃ...行くね?なのはにも会いに行かないといけないし。」
なのはさんか。
彼女は頻繁に来てくれる人の一人だ。
まぁ目の前のフェイトさんは裁判やらなにやらでミッドチルダ?で用があるみたいだし、そりゃそれと比べればなのはさんの方が頻度が多いのは当然ではあるのだが。
偶に来た時にすずかさんとアリサさんという友人との学校での出来事を話してもらう。
正直知らない人の話ではあるが、彼女が楽しそうであるなら聞く価値はある。
それに、俺はこの病院の中のことしか知らないし。
...あー、やっぱ俺も学校行った方が良いのかなぁ?
何故か行かなくても良い気がするけど、行きたくもある。
よく分からない気持ちだった。
「そうなんだ。ならなのはさんにもよろしく言ってて?」
そう言うとフェイトさんは頷く。
そして思い出したかのように手を叩く。
「そうだ!なら少しなのはと話してみる?ちょうど私も今から行くって言わないといけないし。」
「えっ、良いの?」
俺が聞くと彼女はもちろんと頷く。
そう言って彼女は携帯を耳に当てる。
しかし暫くすると携帯を耳から離した。
どうやら繋がらなったらしい。
「電源切ってるのかな?ちょっと待ってて。」
そう言って彼女は宝石のような何かを握って目を閉じる。
すると、その瞬間弾かれたように顔を上げた。
「ごめん、今すぐ行かないと!」
「へ?急にどうし....」
俺が彼女の変わりようにどうかしたのか聞こうとするも、肩を掴まれる。
そして真っ直ぐな目で見つめられる。
綺麗な金色の瞳。
その瞳に魅入られて言葉を失う。
すると彼女はまるで子供に言い聞かせるように言った。
「今日は....この病院から出ちゃ駄目だよ?絶対だよ?」
「そ、そりゃこの足じゃ看護師さんが居ないと外出も出来ないし、言われなくてもそうするけど....。」
それに今日は結構疲れていた。
速く眠りたい。
しかし、それにしても態々なんでこんなことを言うのだろう?
本当に何かあったのだろうか?
俺の答えを聞くとフェイトさんは頷いて俺に笑顔を見せる。
「うん、良い子だね....。それじゃ、行ってくる!」
「ちょっ、ちょっと!!...行っちゃった.....。」
彼女は俺の頭を一度撫でるとすぐさまその場を走り去ってしまう。
俺はただ彼女の背中を見ているだけだった。
なんなんだろう?
とにもかくにも看護師さんが入浴の時間だと行っていたし、すぐに行こう。
そう思って車椅子に乗った瞬間、頭に直接声が聞こえて来た。
『Hey master! please come here! Hurry!!』
棒切れの声....?
何故脳内に直接聞こえるのだろう?
それに急げと言われても、俺は呼ばれてるわけだし....。
頭に響く声に従うか躊躇う。
すると、棒きれは続いて声を発する。
『If you follow me, you can find what you are looking for.』
その言葉に身体が止まる。
もし彼女に従えば俺が探している物が見つかる。
それは何に挟まるべきか見つかるということだろうか?
それは俺にとってはずっと抱いてきた使命感。
記憶がなくなる前の手がかりが見つかるということだ。
何かに挟まらないといけない。
このために俺は今生きているような、そんな感覚。
その正体が判明するのだ。
....しかし、それでも看護師さんが呼んでいる。
彼等だって仕事だ。
それを煩わせるのは.....
葛藤する。
そして結局俺は...
「来ちゃったよ....。」
自分の病室の中に来ていた。
目の前には白磁のように艶やかに輝く白い棒きれ。
俺が見ていると、彼女は言葉を発する。
<thank you for following me.>
「どうしても知りたいからな。....俺が、何に挟まれば良いのか。」
そう言うと先っぽがペカペカ光る。
それはさながらCMで見たゲーミングPCのようであった。
...なんか派手だな。
<OK! Please touch me and Say the words that come to your mind!!>
長い英単語をさらっと言わないで欲しいんだよなぁ....
えっーと、多分この棒を触って頭に浮かんだ言葉を言う....かな?
まぁ言う事に従えば何に挟まれば良いか教えてくれるから良いよな。
棒切れ...俺は何に挟まれば良い?
ステッキを触る。
そして目を閉じた。
すると、なぜか口から言葉が漏れた。
「ガイアッッッ!!!!」
....どういう意味?
なぜ急にその英単語を....?
俺が戸惑っていると、杖から光の粒子が噴き出す。
えっ、ちょいちょいちょい!!ナニコレ!!
眩しい!全体的に自分の体が眩しい!!!
あっ!服消えた!!!
ちょっ!服消えたんですけど!!
凄いスースーする...なんかぴったりしたぁ!!
えっ、ちょっ....これどういう.....。
戸惑っている間に眩しいのが収まる。
なんか服消えてるし、謎のぴっちりとした感覚を覚える。
今、俺はどうなっているんだろう。
てかこれは何をされたのか....?
恐る恐る姿鏡を見ると、信じられない物を目の当たりにする。
「なんだよ....この恰好は.....こんなの不審者じゃないか。」
全身に黒いガムテープを巻いたかのような露出度の高い服。
隙間からは俺の身体を外気に晒している。
今、看護師に見られたらヤバい恰好した子供が棒持って車椅子に座っているという世にも奇妙な光景を目にすることになるのだ。
これは非常にまずい。
「お、おい!これがお前が言ってた俺の探してたもの....」
<Guide-mode>
すると杖が俺の言葉を遮るように形を変える。
それはさながら一つの槍。
<bind>
「えっ!ちょっ....手が、杖に縛り付けられてる!!」
そして杖の声と共に魔方陣のような物が俺の手元に現れて杖に手を縛り付ける。
どういうことだ!?
何故俺は今杖に緊縛されている!?
今起きていることに理解が追いつかない。
しかし、杖はそんな俺を置き去りにするように.....。
「ちょっ...お前、いい加減に!...ッ!まっ、待て!流石にそれは無理がある!窓は駄目だ!色んな意味でダ...がぁああ!!!」
杖が急に宙に浮いて、切っ先を病室の窓に向ける。
嫌な予感がした俺はそれを必死に止めるがそんな懇願も虚しく、杖は力いっぱい俺を引き摺る様にして窓をぶち抜いた。
全身を容赦なく襲う浮遊感。
これ、どっかで味わったことがあるような...。
そんなことよりも、この状況。
杖に引っ張られるようにして全身が外に投げ出されている。
俺の病室は4階。
正直助かる気がしない。
杖の言う事など聞かなければよかった。
探していた物などが見つかるという杖の甘言に乗せられて変な恰好にされて挙句殺されるだなんて笑えない。
もし死体が発見されても全身黒テープのような衣装を身に纏っている遺体なんて一体どこにあるのか。
今更ながらに後悔し、来るべき衝撃と痛みに備えて目を閉じるも、いつまでもそれは訪れない。
どうしたのだろう?
恐る恐る目を開けると、家などの背の低い建物が見える。
前を見ると、杖に引かれるような形で空を飛んでいたのだ。
...これは良い。
今、足があまり使えないにも関わらず、外に出れている。
こんなことがあって良いのだろうか。
普通では考えられない。
まさに奇跡か魔法.....。
そう考えるとハッとした。
そういえばフェイトさんが言えば待機形態になると言っていた。
それに偶に杖と話すが、普通に会話が成立している。
つまりはこの杖には意思がある。
そして、ミッドチルダ?の魔導師はこの杖を使って魔法を使うらしい。
...つまりは、この杖は今俺の代わりに魔法を使っているのではないだろうか?
「....これが、魔法?」
<Yes!>
やはり魔法のようだった。
どうやら俺は早とちりをしていた。
この衣装が俺の探してたものではなく、これからそれを見せに行ってくれるのだろう。
そう思い、杖に従ってただ飛んでいると目の前になんか変な色をしたドーム状の何かが見えた。
これは...。
そしてそれをぶち抜く。
何故か肌がピリッとした。
だが、その程度だ。
静電気だろうか?
そう首を捻っていると...目の前で白い衣装を身に纏い、ステッキを持ったなのはさんが地面へと堕ちていくのが見えた。
主人公が来ているバリアジャケットは黒テープと言われていますが、要するにホットなリミットを歌う歌手のアレです。
転生前に色々注文を付けたせいで神がうざがって、嫌がらせとしておふざけ要素にバリアジャケットや先っぽがゲーミングになると言った要素をデバイスが付けられています。
またクロノを兄貴と無意識に呼び出したのは、クロノの成長後の終身名誉ホモガキな声に内なる淫夢厨が反応したのが原因です。
主人公は百合の間に挟まる為に戦闘に介入して良い所を見せると言った目的を覚えていませんが、杖は覚えています。
そして杖は神に悪ふざけ盛られまくっていますが、一応彼の望みを叶える為に存在している為、当初の彼の目的に沿うように行動します。
よって現在の記憶喪失状態でも彼が目的を果たせるように導いているんですね。
まぁ特典としての力を使う為のワードも主人公は忘れているのでただのインテリジェントデバイスに成り下がっていますし、余計なお世話と言えばそこまでなのですが。