百合の間に挟まりたいっ!   作:胡椒こしょこしょ

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なんで一人増えてんだ。

「なんやレースゲーも弱いんやなぁユーリ君!ウチがまた一位や!!!」

 

「ま、また負けた....。」

 

はやてが闇の書の主だということが分かったあの日から数日後。

現在俺は、遊びに来てくれたはやてとゲームをしていた。

...が、今の俺は正直それどころじゃない。

 

視線を逸らすと、そこにはシグナムさんともう一人赤毛の小柄な少女がこちらに鋭い目を向けている。

あの時居たヴォル何とかの一人。

はやてが言うにはヴィータという少女だ。

 

現在、なのは達と対立構造にある敵勢力が二人もこの部屋に居るのだ。

ぐぅうお.....胃が、胃が痛い.......。

なんでこんなことになっているのか.....。

あっ、はやてが闇の書の主だからか。

 

連中がやろうと思えば俺なんか簡単に倒せるだろう。

その現実が俺の胃腸をキリキリと締め付ける。

現状、今の俺の命綱ははやてだけだった。

 

 

すると、はやてはヴィータに目線を向ける。

 

「なんや静かにずっとこっち見て。...あっ、そういうことか!」

 

はやてはそう言うと袋からもう一つコントローラーを出す。

 

「はい!も~ヴィータもやりたかったなら言えばええのに~。」

 

「えっ、いやあたしは......。」

 

はやてにコントローラーを差し出されて狼狽えるヴィータ。

はやてはヴィータがゲームをやりたいからこちらをずっと見ていたと勘違いしたのだろう。

実際にはただ俺を睨んでいただけなんだが。

 

しかし、確かにこのまま彼女の視線を感じながらゲームをするのはきつすぎる。

ただでさえ弱いのに殊更集中出来ない。

はやてにもさっきから大丈夫?体調悪いんか?って心配されるし。

ならば逆に二人居る中でも滅茶苦茶見てくるヴィータの視線をテレビに向けさせればある程度楽になりそう!!!

 

そう思うと、俺は口を開いた。

 

「そ、そうだよ!ヴィータさん!!二人でやるより三人でやる方が楽しい!こういうゲームは人数が大事なんだ!!!!」

 

半ばやけくそになってヴィータさんに言う。

一緒にゲームでもやりましょうよ!

 

「...ッチ、分かった。じゃああたしもやるよ、はやて。」

 

ヴィータさんは俺を見て、はやてに聞こえない位の小さな舌打ちをすると、はやてに笑顔を向けてコントローラーを受け取った。

しかし、どこに座らせる....。

 

病室にある椅子は既にシグナムが座っている。

彼女はまるで見守るかのようにこちらを見ていた。

どうやら寡黙な人らしい。

 

そして右隣には車椅子に座ったはやて。

となれば必然的に座るならば.....。

 

「立ったままやとやりにくいやろうし.....そうや、ユーリ君のベッドに腰下ろしたらどう?」

 

「コイツの.....」

 

案の定はやてがそうヴィータに進言する。

しかしそれはつまり俺の隣にヴィータが来ることに他ならない。

うぉ、もっときつくなってきた。

ただでさえ今にも射殺さんばかりの視線を向ける女の子が隣とか耐えきれる自信がない。

 

しかし彼女ははやてと目が合うと笑顔で答える。

 

「おう、分かった。....それじゃあ、よろしくな。」

 

そう言うと彼女は俺の右となり、ベッドに腰を下ろした。

そして笑顔を俺にも向ける...が、それはさっきはやてに向けていた柔和な笑顔ではなく攻撃性が現れた獰猛な笑みだった。

一度どこかで聞いたことがある。

笑顔とは本来攻撃的な意味合いのものであり獣が牙をむく行為が原点であるとテレビで見たが、本当だと実感させられた。

 

彼女ははやての意図を汲み取ったのだろう。

はやては俺とヴィータ達に仲良くなってもらいたい。

考えてみれば自分の家族と紹介していたし、そんな人達と友達があまり仲がよろしくないのは少し思う所があっても仕方ない。

実際さっきから黙っていたヴィータやシグナムについて俺に話しを振って来ていたしな。

それを察したからこそ、この場だけは仲良く振る舞おうとしたのだと思う。

今だけは仲良くしてやるが、勘違いするなよ。お前なんかいつでも闇の書の餌にしてやるぜ。

そういう意図が透けて見えるんだよね。

この怖い笑みからは。

 

うおお、すげぇ隣から凄い圧が来るぜ....。

これは早くも胃がダウンしそうだ。

しかし、挨拶されたからには返さないと....。

少しでも雰囲気を良くするためにもッ!!

 

「こ、こっこっ...こちらこそよろしく!!」

 

緊張でどもってしまった。

うっわはずかし。

でもしょうがなくね?

隣で滅茶苦茶殺意飛ばしてくるんだぞ、しかも笑顔で。

さっきから失禁しないだけ有難く思ってほしい。

 

そんな俺の様子を見て、はやてがくすくす笑う。

 

「なんやそんな鶏みたいに、もしかしてヴィータが隣に来て照れてるん?ヴィータはかわええもんなぁ....ウチとの初対面の時は、そんな感じちゃうかったもんなぁ......」

 

...な、なんだ?

右隣だけじゃなく、左隣のはやてからも圧が来たぞ。

凄くどんよりとした圧。

....もしや、これが闇の書の力か!

俺を挟み込んで胃を破壊しにくるなんて恐ろしい。

 

<No, What the hell are you talking about?>

 

デバイスが俺に念話を寄越す。

あっ...違うのか。

てかコイツちょっと鼻で笑ってたぞ。

デバイスに馬鹿にされるとか.....

 

最近棒切れに舐められていることに一種の侘しさのような物を覚えながらも、俺は再びコントローラーを握りしめた。

人が一人増えたのだ。

今度こそ最下位から抜け出したいなぁ。

 

 

 

 

そうしてレースゲームを始めたが、ヴィータさんが入ったことでレースの熾烈さはさらに向上。

理由は簡単だ。

 

「オラっ!これでも食らってろ!!!」

 

「ちょっ!?ヴィータさん?ヴィータおま!!!ヴィータァァ!!!!!」

 

ヴィータが基本的に俺にアイテムを飛ばしまくるからだ。

それにすれ違いざまにタックルしてコース外に落とすわ、やりたい放題だった。

最初、ヴィータよりも高い順位になったことで初めてゲームで人に勝てたので俺は滅茶苦茶喜んだ。

しかし、ヴィータは負けず嫌いだったのだ。

しかも相手は本来敵であるはずの俺。

ゲームをやるほどヴィータは上手くなっていき、そして俺の邪魔をし始めたのだ。

 

「お前はふーふーファンファーレでも吹きながらあたしとはやてがゴールする瞬間を指を咥えて眺めているんだな!」

 

「このっ、鬼!悪魔!!!ちょ、羽甲羅は反則だって!!!!!」

 

ワイの配管工は羽甲羅にやられて上空を舞う。

いくら追いつこうとも的確にアイテムでぶっ飛ばされるんだ。

勝てっこない....こんなの勝てっこないよ......。

 

「おねがい...やめて....やめて.......」

 

「やめてほしいならそれ相応の態度があんだろ。」

 

「おねがいします!勝たせてください!!」

 

俺が言うと、隣で笑みを浮かべるヴィータ。

 

「そうか....駄目だ!墜ちろ!!」

 

「そんな....いや、俺は負けない、当たらなければどうということは...うわあああああ!!!!」

 

今度はボムで吹き飛ばされた。

そのようなことを繰り返すと、いつの間にか二人は先にゴール。

また最下位になっていた。

 

「はっ、他愛ねぇ.....あたしの勝ちだ!!!」

 

どや顔で声高らかに言ってくる。

コイツ.....。

 

「そんな...そんな勝ち方で楽しいか!?楽しいのかよぉ!!!」

 

「ユーリ君、うるさい。」

 

「あっ、ごめん。」

 

はやてにぴしゃりと注意されてまるで冷水をぶっかけられたかのような気持ちになる。

てかなんかはやてなんか機嫌悪くね?

 

(私を置いてけぼりで二人だけで盛り上がって.....なんかムカつく。....せや。)

 

「レースゲーム飽きたし、別のゲーム入れるわ。これでええ?」

 

「お、おう。」

 

そう言って彼女は黙々とゲーム機の方に車椅子を動かしてソフトを入れ替える。

次のゲームは乱闘する奴か。

あれ結構楽しいよな。

そう思っていると、ヴィータは勝気な笑みをこちらに向けた。

 

「次も勝てると思うなよ....ユーなんとか。」

 

彼女はそう言うと、立ち上がってはやてを手伝う。

はやては彼女に俺を紹介した。

しかし、ヴィータは頑なに俺の名前を正しく呼ぼうとしない。

まぁ本当は敵だし、多少はね?

しかしユー何とかとか逆に呼びにくくないか?

よくやるものである。

 

そうしてゲームの用意が終わるとタイトルがテレビに表示される。

俺はピンクの歌う玉を選び、ヴィータは赤髪の剣士。

はやては興味ないねを選んだ。

ステージは終着。

典型的なステージだな。

 

そして戦いが始まった瞬間、赤髪剣士がこちらに迫ってくる。

それを見て、なんとか逃げようとする。

 

(まずはコイツからストックを削り切ってやる....っえ?)

 

迫るヴィータのキャラ。

だが、はやてのキャラがヴィータをハメ始める。

 

「さっきからヴィータは一人を狙いすぎや。だから私はユーリ君の味方につくことにする。」

 

「ちょっ!?はやてぇ!!?」

 

ヴィータのキャラは彼女の叫びも虚しく場外に出て画面に叩きつけられていた。

 

 

結果として俺とはやてが結託し、ヴィータを叩くことになったのだが俺自身のキャラの性能とプレイヤースキルが低すぎて巻き添えを喰らって死んでいた。

結果としてはやてとヴィータの一騎打ちとなり、はやてが勝つ結果で終わった。

 

 

 

 

 

 

夕方。

日も落ちてきた所で、さっきはやて達が病室から出た。

もう一人ヴォルなんとかが来たことでかなり緊張したが、今回も良い感じでやり過ごせてよかった。

そう思っていると、ドアが叩かれる

看護師さんだろうか。

 

「どうぞー。」

 

俺が入室を許可するとドアが開く。

すると、そこにはシグナムさんが立っていた。

 

「っ.....!?」

 

体が強張る。

彼女は敵だ。

さっきまで同じ室内に居たが、それでも攻撃してこなかったのははやてが居たからだ。

今、彼女は居ない。

俺を攻撃してきてもおかしくないのだ。

 

心なしか、汗が噴き出してくる。

そんな俺の様を見て、シグナムは口を開いた。

 

「....信じられないかもしれないが、私はお前を害する為に今ここにいるわけではない。お前と話す為にここに来た。」

 

そう言うシグナム。

その目は真摯に真っ直ぐ俺の目を見つめている。

 

彼女が言うように信用は出来ない。

だが、態々話すと言っているのだ。

ならば、話しを聞くだけ聞いてみるのも良いだろう。

 

「そうすか。なら、何の用っすか?」

 

張り詰める空気。

緊張から生唾を飲み込む。

 

「聞きたかったのだ。君は.....主はやてのことをどう思っている?」

 

...急にどうした?

なぜ急にそんなこと?

そう思ったが、彼女の様子はいたって真剣だ。

だからこそ、俺も真剣に答えた。

 

「俺の大切な友達です。記憶のない俺に最初に優しくしてくれた女の子なんで。」

 

そう言うと、シグナムさんは目を閉じる。

まるで何かを噛み締めるかのように、一言も発さずに閉じる。

そして開くと、一言そうかと返事した。

....なんだったんだ、今の時間。

 

「なら、頼む。我々の邪魔をしないでくれ。」

 

そう頼んでくる。

いや、邪魔するなっていうかほぼなのはさん達が戦うことになるだろうから俺に言われてもって感じなんだが。

しかし、それと彼らの活動に何の関係があるというのか?

 

「最初の質問と合っていませんね。なんではやてが俺にとって大切な友人であれば、あなた達の邪魔をするなって話になるんですか?」

 

俺がそう言うと、彼女は暗い表情のまま話し始める。

 

「それは....主はやてが闇の書の主だからだ。闇の書は頁を埋めようとしなければ、その主の魔力すらも吸い尽くしてしまう。...それは主はやても例外じゃない。」

 

そう言うと、彼女は遠い目をする。

 

「主はやては足がマヒしている。だから歩けない。君は以前それを憐れんでいた。」

 

「まぁ憐れむって言い方は好きじゃないですけど....でもそうですね。」

 

はやては歩けない。

俺よりも前に車椅子に乗っていて、そして俺の方が断然早く回復に向かっている。

今の俺は杖など体重を掛けられる物があれば歩くことは出来るのだから。

そのことに関して、負い目というか複雑な気持ちを抱くのは、友人のことであるからこそ当然だ。

 

すると、シグナムは俺の返事を聞くと、話を続ける。

 

「...原因は闇の書だ。闇の書が頁を埋める為に、未成熟な主はやての体をむしばみ、健全な肉体機能どころか生命活動さえ阻害している。それが今の下半身麻痺という結果につながっている。そしてその麻痺は段々下半身から上にまで及ばんとしてる。」

 

「そ、それって.....。」

 

それが意味せんとすること。

なぜかこんな時に限って頭が冴えているのか容易に想像が出来て....

でもそれはしたくない想像だ。

起こってほしくない最悪の事態。

 

「このままでは、主はやては命を落としてしまう。」

 

シグナムは残酷にも俺がした想像を口に出す。

麻痺が下半身から上にまで及ぶ。

つまりはそれはいずれ心臓にまで...。

 

「我々が出来ること、それは闇の書を完成させて主はやてを真の主にすること。それだけが主はやてを救うことが出来る唯一の手段。完成させてしまえば、頁を埋めようとして主はやての体を蝕むことはなくなるだろう。」

 

「そんな....。」

 

残酷な真実。

闇の書の完成は多くの人を犠牲にする。

だからこそ完成させてはいけないとクロノ兄貴は言っていた。

でも、それをしなければはやてはいずれ死ぬ?

信じたくない。

もしなのはさん達が闇の書の完成を阻止してしまえば、はやてはそのまま.....。

 

「.....それは、本当なのか?本当に....他の方法は....」

 

信じられない。

信じたくない。

彼女が自分の行為を正当化しようとして、嘘を吐いているようにしか見えない....。

 

そんな俺を見つめるシグナムは続ける。

 

「現代医学ではどうしようもなく、治癒魔法だって試した。信じられないならそれでも良い。だが立ち塞がるならば、私は主の友人であろうが倒す。主はやてを救う為なら、例え主から憎まれようが構わない。....貴様は、友人を切り捨てるほどの覚悟が合って私達の前に立てるか?」

 

「そんな覚悟、出来るわけ....」

 

そもそも戦う事すら成り行きだ。

はやてが主だってことも前知ったばかり。

それなのに、急に闇の書を完成させなければ助からないなんて。

人の、友人の生死がかかっている。

それなのに、友人を切り捨てるなんてこと、出来るわけがない。

 

狼狽える俺を見て、シグナムは扉の方に向き直る。

 

「ならば悪いことは言わない、何もするな。頼む。」

 

そう言って出ようとする

茫然としながらも、俺は一つ聞きたかったことを思い浮かべた。

 

「じゃあ、アンタは....アンタたちは、はやてから頼まれて人からリンカーコアを採集しているのか!?そんなことあるわけ......。」

 

すると、シグナムは視線だけこちらに寄越した。

 

「主はやては闇の書に何も望まない。そして....彼女は自らの為に誰かが不幸になるのはいけないと、蒐集をしなかった。私達に闇の書のことを忘れて、ただ共に過ごすことを望んでいた。だが、それが今の彼女を苦しめているなら....私は騎士としての誇りも捨て、主の命をも破るつもりだ。」

 

そう言い残すと、彼女は部屋を出ていった。

 

クロノ兄貴によれば闇の書の完成は多くの人の犠牲を出す。

資料にも残っているほどの数の人が死んだ。

...だが、完成しなければ身近な大切な人が死ぬ。

 

「....俺は、どうしたら良いんだ。」

 

きっと多くの人を救う為にも闇の書の完成を防ぐことが正しい事だろう。

しかし、それは心通わせた少女を見捨てることと同義だ。

ならば、例え間違っていようと......俺は、だけど!!

少年の心は二つの命の間で心を揺れ動かす。

 

結論は未だ、出ない。

 

 

 

 

「どうだった?ユーなんとかは。」

 

八神宅。

ヴィータはシグナムに問う。

するとシグナムはただ淡々と返答する。

 

「忠告はした。後は彼次第だ。」

 

「そっ、まっ...それでも来たなら叩きのめすだけだな。」

 

関心の無さそうに言うヴィータ。

そんな彼女にシグナムはふと尋ねた。

 

「ヴィータ、お前はあの少年をどう思う。」

 

そう聞くと、彼女は答える。

 

「まぁゲームは死ぬ程弱いな、キャラ選びも戦術もセンスねぇよ。アレ。一遍あたしに勝てたのもありゃ絶対まぐれだな。」

 

「...そういうことじゃなくてな...。」

 

シグナムが珍しく呆れた様子を見せると、ヴィータは二の句を継ぐ。

 

「わぁってるって。....まぁ悪い奴じゃねぇよ多分。はやてが気に入っているしな。そこは気に喰わないけど。....でも、それであたし達のやるべきことは変らねぇだろ。邪魔するなら潰すだけだ、アイツも。」

 

ヴィータはただ空を眺めてそう呟く。

 

「そうだな。その通りだ。」

 

(だが....。)

 

二人は主であるはやてを想って魔力を蒐集している。

彼女を救う為に。

それ故に、彼女達もはやての悲しむ顔を見たくない。

だからこそ....。

 

「でも、アイツがもし傷ついたらしたら.....はやて、悲しむだろうな。」

 

ポツリと呟くヴィータ。

自分達よりも前にはやてと知り合い、彼女の支えになっていた少年。

それが自分達の前に立ちふさがるかもしれない。

負ける気は到底ない。

...がそれ故に、彼が傷つけば彼女が悲しむのは容易に想像出来る。

 

「あぁ。...だが、私達に出来ることは祈ることだけだ。彼が我々の前に立たないことを...。」

 

シグナムはそう言うと、ヴィータと共に夜空を見上げるのだった。

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