「じゃあ、説明しようかのう」
ミリアムがコホンと咳払いを一つしてから話し始めた。
「ヒュージがケイブ…ワームホールで移動する場合がある。それは皆理解しておるな?」
「フムン、そいつは初耳だ」
深井大尉が答える。
「あー、そうか。あの時は桂城少尉だけしか会話に加わっていなかったな…では、一から説明しよう。ヒュージの侵攻パターンは大きく分けて3つじゃ。まず、陸上か海からの侵攻。これは文字通り直接ヒュージが攻めてくる。次に、空中から攻めてくるパターン。これは飛行可能なヒュージが使ってくる手。これでネストやヒュージ制圧化の陥落地域から離れた地域にも侵入してくる。最後にケイブを使った侵攻、これはワームホールを使ってくる。空中から攻めてくるならレーダーや目視で探知できる可能性がある分、まだ見つけるのは容易じゃのう。しかし、ワームホールを使うとワープのようにいきなり現れる。つまり、通常ではヒュージの移動を探知できない。完全なる奇襲となる」
ミリアムの説明を聞いた零は頷いた。そして、説明は続く。
「さて、このケイブ…そのままでは人類にとって大きな脅威じゃな。なにせ、ヒュージが何の前触れもなく突然現れるのじゃからのう。しかし、人類は対応策を見つけ出した。まず、ケイブ出現時に発生する特殊な粒子を捉えることで事前にそれの発生を探知する方法じゃ。しかし、それでも完璧とは言えない。探知できても常にそれの出現に備えた警戒網を広範囲に敷かねばならぬからな。よって、次に更なる対抗策を作り出した。それが話に出てきたエリアディフェンスというものじゃ」
「フムン」
「このエリアディフェンス、原理まではわしもそこまで詳しくない。よって、概要だけ説明するぞ。エリアディフェンスというものは妨害電波を出し、ケイブが出現する際に出る特殊な粒子の発生をそれによって妨害するのじゃ。よって、その妨害電波が強く作用する場所では粒子の発生が阻害されてケイブ出現を阻止できる。これで東京のような主要都市や防備が必要な地域なんかはヒュージの奇襲攻撃から守られておる…じゃが、地形なんかの制約もあってなのか、この学院のようにエリアディフェンスを置いてもうまく効果が出ない所もある。まあ、大雑把な説明だとこんなものかのう」
「で、雪風はそれを叩き潰す用意があると脅したわけか」
「しかし、あの機体は何故エリアディフェンスが重要なものだと判断できたのか…」
「指揮系統と通信回線の規模。そして、データのやり取りの総量とそのセキュリティレベル…それでそのシステムの重要度におおよその目星をつけたのだろう」
「正直、そこの機体に電子攻撃でシステムの破壊なんて事ができるか分からんが…もしも、それをやられたら国内全体大騒ぎになるのは間違いない。防衛戦略が完全に瓦解するからのう」
その一言に対して、零は雪風を見つめながら言った。
「雪風ならやるだろう。それをやるだけの性能があるのだから」
そして、その一言に場が静まり返る。一連の話を聞いていた一柳隊の一同は自然と雪風へと視線を向ける。その機体に動きは全く無い…ただそこに鎮座しているだけだというのに、だんだんとその黒い塗装の機体がまるで生き物のように思えてきた。すると、百由がその沈んだ空気を払うように咳払いをする。そして、一言。
「さて、解説はこれでいいかしら。さあ、仕事再開!さっさと終わらせるわよ!!」
そして、作業は再開。皆はまた動き出す。機体と格納庫内の大型スクリーン間の配線は終えた。テストもそのまま終えて、スクリーンに映像を表示する事が可能という確認もできた。
そして、その作業が終わったという知らせを聞いて皆が次々とスクリーンの前に集まった。一通り集まったところで百由が言う。
「さて、お集りの皆様…会議とやらを始めましょうか。この会議、機械からの要求で開催という特殊なものではありますが…気にせずにどしどし発言しちゃってくださいね。意見と情報とアイデアは多い程いいので」
そして、深井大尉が早速発言する。
「では…まず、この世界の化け物について考えよう。あれがジャムと同様の存在、もしくはジャムが関わっているかどうかについて、だ」
「一ついいか?」
まず、深井中尉が手を挙げる。それに対して深井大尉は頷いた。
「俺は先程までここでこの世界の資料を色々と見た。そして、それらを見た結果、俺はこう確信を得た…あの化け物はジャムとは違う、と」
「何故そう思った?」
ブッカーが質問を飛ばす。そして、深井中尉はそれに対して回答する。
「勘で分かる…俺がどれぐらいこの仕事をやって、ジャムの動きを見てきたと思っているんだ、ジャック。その体が持つ知識や記憶による価値観から一度離れて、特殊戦のブッカー少佐としての価値観で物事を考えろ。するとどうだ、ヒュージという化け物の動きに一貫した戦略や戦術があるように思えるか?」
「だが…零。この世界の人類がそういう傾向を捉えていないだけかもしれない。そう考えるとどうだ?」
「だが、それでもジャムとは違うと言える。ジャムなら人類に合わせて戦力や兵器の質を変化させてくる。だが、このヒュージという化け物は個体ごとに性質も形もバラバラでとにかく統一性が無い。それに性能も上下する」
「なるほど…確かに。百由君、どう思う?」
「私はジャムをあの本の内容以外に知りません。よって、安易に比較してどうのこうのとは言えません。しかし、ヒュージが多種多様な点は間違いなく事実ですね」
「では…深井大尉、ヒュージの実物を見てきた君の意見も聞きたい」
深井大尉はフムと少し考えてから話し始めた。
「俺も中尉と同意見だ。あれはジャムとは無関係、俺もそう結論を出した。その理由を言おうか?少佐」
「頼む」
そして、深井大尉は頷くと言った。
「あれは生物だ。ジャムとはその時点で違う」
「なるほど、実に分かりやすいな。だが、ヒュージがジャムの作った生物兵器である可能性は?」
「ジャムがこの世界に現れて攻撃したのだとすると…ジャムは間違いなく、最初にこの世界の機械へと真っ先にコンタクトするはずだ。ジャムにとっては人類とコンタクトするよりもその方が手っ取り早い。そして、人類が航空機や艦船、戦闘車両といった戦力を投入したのなら、それに対抗する兵器をまず出すはずだ」
「なるほど。だが…我々の世界で作った生物兵器をいきなりこちらに投入した可能性は?」
「ヒュージがジャムの生物兵器だと考えるのなら、俺達の世界にこんな化け物が現れていない時点でそれは違うと言えるだろう。そして、ジャムがこんな回りくどい生物を一から作るとはとても思えない。なにしろ、たんぱく質と違う成分でできた人間のコピーを作ってそのままにするぐらい、生物というものに無理解と言えるような存在だぞ」
深井大尉の言った『人間のコピー』という単語の衝撃に場がざわつく。静粛に、と史房は言う。そして、桂城少尉も手を挙げた。
「僕も一ついいかな」
それに対してブッカーは頷いた。
「では…ヒュージがジャムと関係あるかどうか。それについては僕も直接関係ないと思う。でも、僕は違う可能性を最初に警戒していた。それは、この世界はロンバート大佐が作った世界なんじゃないかって考えだ。僕らが地球に行く事を阻止しつつ、僕らを閉じ込めて驚かせる為に、ね」
「フムン。なるほど、その考えは無かったな」
深井大尉は感心したように頷いて言った。そして、『ここがロンバートとやらに作られた世界ではないか』という発言に再び場はざわめいた。この世界に生きる人々にそんな考えはとても受け入れられるものではない。
「でも、あちこち見聞きしてからさっき改めて考えた。すると、ロンバート大佐にこんな世界は考えだす事はできないだろうって結論が僕の中に出たよ。化け物を出すにしても、大佐ならもっと分かりやすい物を出してくると思う。例えば…神話や伝承に出てくる怪物や妖怪とか、一目見てわかるような魔法使いや騎士とかかな」
「確かに…ユニコーンとか天使とかそういう分かりやすい物を出して、それを見て驚く俺達を笑いながら観察しそうだ」
「それに驚かせるだけなら別世界の雪風を出す意味もないかな」
そして、それを聞いた深井中尉が発言する。
「俺達の世界のロンバート大佐は既に戦死している、まるで無関係だな。そっちのロンバート大佐が何をしたのかは知らんが…」
「その話は詳しく説明すると長くなる、別の機会に話そう。中尉」
「了解だ、大尉。で、ジャック…ヒュージとジャムは無関係という結論でいいか?」
「いや、まだだ。ヒュージと戦ってきた彼女達にジャムの記録を見せてからにしよう。リリィの側からの意見も聞こうじゃないか」
深井中尉の意見にブッカーは返事を返す。そして、スクリーンに特殊戦機の記録映像を流す時がついに来た。事前に話し合った結果、まず先にB-3の記録映像を流す事となった。
「では、流します。スタート!」
スクリーンに映像が表示された。その映像には地球の空とは異なる色の空が広がる。それを見た一同から驚きの声が出る。
「まるで緑色に近い空の色…」
「地球の空とはどこか違うわね」
そして、スピーカから音声も流れる。機内では英語と思しき言語で会話が行われているらしい。その声のうち、一人はここにいる深井零で間違いない。そして、もう一人…それはまさに理事長代行とそっくりな声であった。これがブッカーの声なのだろうか。
「あれは…ヒュージネスト?」
映像を見ていた梨璃がポツリと言う。彼女の視線の先にあるスクリーンには巨大な雲の柱が映っていたのだ。
「あれは超空間通路だ。フェアリイ星と地球の南極を繋いでいる」
「超空間通路…」
隣に立っていた深井大尉がそう梨璃に言う。そして、少しすると映像に変化があった。音声からも警報音と共に緊迫感のある発言が飛ぶ。
「ジャムだ!なんでこんなところに!?CAP(哨戒)の連中は何をしているんだ…零、迎撃しろ!」
「ここからでは不可能だ。このまま通路に突入する」
「とんでもない土産付きになっちまったな」
そのまま計器情報を次々と読み上げる音声が入る。そして、青白い光が機体の周囲に次々と現れた。まるでセントエルモの火のような現象だ。
そして…次の瞬間、画面が暗転する。そのまま風景は大きく変わる、今度は青い空が広がっていた。
「深井大尉、これは地球の空?」
夢結が深井大尉に聞く。
「そうだ。あれは通路の先…南極の空だ」
深井大尉はそう答えながら、スクリーンをじっと見つめていた。もう一機の雪風の戦いを知る為に。そして、B-1…雪風のセンサも忙しなく動いていた。この場で得る事ができる全ての情報を逃すまいと。
とりあえずひたすら考察回。ゲームからのネタもちらほらと。