迷い込んだブーメラン<改>【本編完結】   作:ひえん

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妖精の戦い

 深井中尉とブッカーはB-3の記録映像を皆と見ていた。何故、二人がこの南極での戦いの映像を流す事を決めたのか…その理由は地球という環境下で戦った唯一の記録であり、映像的にも分かりやすいだろうという判断からであった。もちろん、映像内ではジャムの姿も捉えている…条件はしっかり満たしていた。英語が分からない者の為に急ごしらえだが、映像内で流れる無線交信等の翻訳文も用意した。深井中尉はそのやりとりを思い出すと、食い入るように映像を見る面々の様子を一度見てから、視線をスクリーンへと戻した。

 

 リリィ達や別世界の自分、そして雪風の目には俺達の知るジャムがどう映るだろうか。

 

 一方、映像を見る深井大尉はこれがどこか見覚えのある状況だと感じた。以前、エンジンテストとして南極へ向けて飛んだ時に似ていたのだ。だが、あの時の自分はスーパーシルフ時代の雪風に乗っていたし、敵の数も違う。やはり、これは別世界の出来事なのだと深井大尉は心の内で考えていた。

 

『FAF機へ。直ちに武装を解除し、我が方の指示に従え。こちらは国連軍所属、日本海軍機である』

『俺達を囲んでいる場合じゃないだろう!ジャムに喰われるぞ』

 

 映像には見たこともない航空機が現れた。その機体の国籍マークは日の丸…日本機であった。そして、無線から警告音声が流れ続ける。

 

「南極に日本機…」

「南極防衛は国連の指揮下だ、どこの軍がいてもおかしくないのさ」

 

 夢結の呟きに桂城少尉が答える。

 

『地球艦隊が迎撃開始、多数のミサイル発射を確認…これは抜かれるだろうな』

『こんな近くに空母がいるのか…?まずい、零。絶対にやらせるな!やつらを撃墜しろ』

 

 スクリーンにはレーダーや計器の表示も映っていた。レーダー画面には多数のシンボル。この場にいる全ての艦艇と航空機…そして、ジャムが表示されているのだ。すると、艦艇を模したシンボルの近くに複数の表示が次々と現れた。シンボルと共に表示されている数値や記号の意味や内容はリリィ達には分からない。だが、これが艦隊から放たれたミサイルなのだろう。

 

『駄目だ、燃料がもたない。帰還できなくなる』

『構わん、ジャムの撃墜を優先しろ!』

 

 ブッカー少佐の命令が飛んだ途端、映像はすごい勢いで回転を始めた。雪風はマイナスピッチ…機首を下に向けてぐるりと回転したのだ。海が映り、空が映る。凄い勢いでその風景が流れていき、HUDに表示されているピッチ角や速度計、高度計の数値や表示もすさまじい勢いで動く。その回転を3度、4度と…5秒にも満たない間にやったのである。

 

 深井大尉と桂城少尉は感心したように「いい機動性だ」と呟いた。しかし、画面を見ていたリリィ数人の顔が青くなる。画面を見ただけで酔ったのだろう。

 

 そして、機体が水平に戻るとそのまま一気に加速。雪風の周りに張り付いていた日本海軍機はこの機動に翻弄され、あっという間に置き去りにされた。無線から驚いたような声が上がる。雪風はこの場の通信を全て傍受し、記録しているようだ。すると、レーダーの表示がいくつか減る。それと共に『撃墜された』という悲鳴のような無線が鳴った。ジャムが地球艦隊側の迎撃機を易々と排除したらしい。レーダー画面上で凄まじい動きをしながら飛ぶ赤いシンボル…それがジャムなのだ。

 雪風の光学センサが捉えた情報も画面に表示される。黒く、赤い光が表面で輝く飛行物体…あれがジャムなのだろう、一同はそう理解した。すると、いきなりその姿が消え、その少し後に離れた場所に現れる。映像を見ていた一同から驚きの声が上がる。そして、楓が深井大尉に聞く。

 

「消えた!?深井大尉、あれはどういう理屈でして?」

「さあな、詳しく調べないと分からない。まあ、不可知領域に入ったか、人間や機械の認識から外れて不可視になったか…その辺りだろう。もっとも、雪風のセンサはそれでも捉えているだろうが」

「認識から外れる…?」

 

 その突拍子もない回答に楓は理解が追いつかずに絶句する。一方、深井大尉はそのジャムの姿を見て、ある点に気づく。あのジャムはタイプ2とレーダー上に表示されている。だが、B-3の光学センサが捉えたその姿は自分の知るタイプ2とは大いに異なっている。それどころか、自分の知るどのタイプのジャムとも異なる。そして、深井大尉は小さくため息をついて心の内でこう思った。これはまたややこしい話になりそうだ、と。

 

 映像の中のジャム三機は更に加速。音の壁をあっという間に突き破り、艦隊目掛けて突き進む。地球艦隊側の対空火器はジャムの妨害による影響もあってか、有効な打撃を与える事が出来ない。そして、猛烈な弾幕を潜り抜け、一機のジャムは高度を更に下げる。そして、そのまま手近な艦艇に飛び込んだ。文字通りの体当たりである。そして、その駆逐艦と思しき艦から爆炎と煙が噴き上がる。スクリーン前の面々はその衝撃的な映像に息をのむ。

 

『地球の連中だとやはり無理か…いた、あれだ。残り二機!空母を狙っている』

『まったく…とんだエンジンテストだ』

 

 映像の中の深井中尉がそう呟くと、計器の表示が変わる。RAM-AIR…エンジンのモードをラムジェットに切り替えたのだ。このモードはジェットエンジンのタービンを使用しない。大気中からインテークに飛び込んだ高速の空気がダクト内で圧縮される。そこに燃料を噴射、燃焼する。直接燃焼した空気を排出する事で強烈な推進力を得るのである。

 そして、機体は爆発的に加速する。速度による影響なのか機体は激しく上下左右に揺さぶられる。だが、ジャムとの距離はあっという間に詰まる。短射程空対空ミサイルの射程内に入る。まず一機、シーカーがジャムの熱源を捉えてロックオン。そして、発射。超音速のミサイルはジャム目掛けて飛んでいく。

 

 命中。ジャムは木っ端みじんに吹き飛んだ。

 

 残り一機は更に先を飛ぶ。それを追ってこのまま加速…射程内まで近づく。酸素マスク内の独特な呼吸音が静かに響く。そして、ロックオン。ジャムは空母まであと一息の所まで近づいている。間に合うか?ギリギリのタイミングといった感じである。そして、ミサイルを発射…命中、撃墜。ジャムは空母の至近に落ちた。そして、ジャムが自爆したのか巨大な水柱が立ち昇る。だが、空母を守る事には成功した。至近弾ではあるものの、損害は無さそうだ。そして、コクピット内に警告音が鳴り響く。計器には燃料の警告が表示されている。

 それを見た梨璃はどのくらい深刻な警報なのだろうと首を傾げる。それに対して、深井大尉は言う。放置すればあっという間に燃料切れで落ちる、と。

 

「では、どうするんです?周りは海ですよね」

「だいたい察しはつく。このまま見ていれば分かるだろう」

「んー…?」

 

 深井大尉の回答を聞いた梨璃は首を傾げながらも映像を見る。

 

『間一髪だ…まるで寿命が縮んだ気分』

『このままだと海水浴だよ、ジャック』

『心配はいらんよ。燃料なら…あそこにいくらでもある』

『あそこ…空母に?』

『国際条約があるからな。嫌だなんて断れないよ』

 

 そして、映像の中のブッカー少佐は無線で非常事態を宣言。艦隊に向けて着艦要請を出した。それを聞いた空母側は了解と返答してきたものの、大慌ての様子だ。あちこちに無線を飛ばしている。『宇宙人がやってきた』と。

 そして、スクリーンに空母の姿が映る。距離はどんどんと縮まっていき、その艦影はだんだんと大きくなる。すると、空母から『着艦コースから外れている』と警告の無線が飛び込む。

 空母への着艦は「制御された墜落」と表現する人もいる程、その難易度は極めて高いのである。なにしろ着艦というものは、洋上で動いている艦の甲板に張ってあるワイヤへ機体のフックをうまく引っかけ、そのまま強引に止まるという荒っぽいものなのだ。その為、いくつもの着艦支援装置の類や技術の進歩が有っても未だに事故が一定数起こるぐらいだ。それ程に難易度が高い。

 だが、深井中尉は無線の警告を無視。雪風はそのまま空母目掛けて飛び続ける。空母甲板上のクルー達が慌てた様子で動き出す。こちらが事故を起こすと判断したのだろう。しかし、雪風はそのまま機首を上に向ける。速度は映像で分かる程の勢いで急減速、機体全体をエアブレーキにしたのであろう。そして、フワリという擬音が似合うような一瞬の浮遊感が生じたかと思うと、そのまま高度がストンと下がり、飛行甲板にドスンと音を立てながら着地。まさに常識離れと言えるような着艦に、映像を見ていた者達から驚きの声が上がる。そして、面々のその表情は映像に映る空母クルー達と同じような唖然とした表情であった。

 機体は駐機スペースまで自走するとそのまま停止。そして、映像も終わる。

 

「まるで…映画みたいだった」

「でも、作り物にはとても見えませんでした。しかし、あのジャムという存在の能力…それにあの戦闘機の性能…どうやら、認識を改める必要がありそうですね」

「あの機体、思った以上にとんでもない化け物じゃぞ。例えるなら、SFアニメの戦闘機が現実にそのまま現れたような次元の話になってくる」

「ジャムとやらがとても面倒な存在だという事はよく分かりましたわ。あんなのと戦うのは御免ですわね。姿が消えたのだって擬態ではないみたいですし」

「内容はともかく…回転したところで酔いました…」

「ごめん、私も…」

「あはは、とんでもない勢いだったもんな」

 

 あちこちから感想の声が次々上がる。そして、百由が手を叩きながら次の上映スケジュールを伝える。

 

「はいはい、皆様。次は深井大尉と桂城少尉の用意した映像を流すわよ。でも…10分休憩にしましょうか。このまま連続でど派手な空戦映像なんて流したら、そのまま寝込む羽目になりそうな人もちらほらいる事だし。いいですかね、理事長代行?」

「構わんよ。その方がよさそうだ。飲み物でも買いに行った方がいいだろう」

 

 ブッカーが笑いながら言う。そして、顔を青くした面々がそれを聞いてそそくさと外へ出ていく。

 

 そんな中、夢結は深井大尉に質問を投げかけた。

 

「深井大尉、一つ聞いてもいいかしら?」

「なんだ?」

「別の世界の自分の戦いを見てどう思ったか、その感想を聞きたいのだけれども」

「フムン。そうだな…同じ名前でも機体の形も性格も違う。だから、飛ばし方も戦い方もやはり違う。そう感じた」

「私達にはとても浮かびそうもない発想ね。まさにパイロットの思考といったところかしら」

「お前達も同じ状況なら俺と同じ事を考えるだろうさ」

「では、別世界のジャムについては?」

「それは後で話そう。俺達の映像を見た後に。だが、その前に俺も休憩だ」

 

 そう言って、深井大尉は立ち上がる。そして、夢結に自販機の場所を聞くと、外へと出ていった。

 

 

 

<B-1:that JAM is unknown...>

<B-3:That is TYPE-2>

<B-1:different from what I know...>

 




とりあえず念願の空戦シーン(回想)
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