きっかり10分たった。スクリーンの前にはだいたいの人数が戻ってきた様子だ。そんな中、深井大尉はこれから流す記録映像の内容を決めた時の会話を思い出す。
「これを流したら確実にこの学院の連中はみんな混乱すると僕は思う。それでも流しますか、大尉?」
「ああ、そうだ少尉。そうなる事は俺だって承知しているさ。だが、今回は本質を見てどう思うか、それが重要な要素だ。それならあの時の映像が最も適している、俺はそう考えたよ」
「フム…じゃあ、流すのは必要最小限の箇所だけにしましょうか」
「そうだな。だらだら流しても仕方ないし、時間も惜しい」
しかし、別世界の自分が流した先程の映像を見て、その考えを改めた。あの様子ではこの学院の連中だけでなく、別世界の自分とブッカーまで混乱する可能性が高い。なにしろ、ジャムの見た目からして違うのだ。よって、この映像内容を流した結果、双方から多種多様な質問が雨霰と飛んでくる可能性が大だろう。今のうちに覚悟を決めておくべきだと深井大尉は考えた。
「では、再開しましょうか。次は深井大尉の方の記録映像よ」
そして、スクリーンに映像が映し出された。地球とは違う色をした空、地表には巨大なクレーターのような窪みが映る。だが、それだけではなく、突然目の前にどす黒い航空機のようなものが映し出された。それは一切の反射が無い黒色の機体であった。例えるとしたら空中という紙にインクを垂らしたような黒一色。映像の中の雪風はこの機体を追って猛烈な旋回を続けている最中のようであった。そして、猛烈なGに耐える為の独特な呼吸音が映像と共に流れてくる。
「なんだあいつは?分かるか、ジャック」
「分からん…もしや、あれが向こうのジャムか?」
深井中尉とブッカーが映像に現れた黒い機体をじっと見る。それが見たこともない機影だったからである。
「あの…画面端に浮いているものは?」
「どれだ?」
史房の疑問を聞いた深井中尉とブッカーは視線を動かす。そして、言葉を失った。その黒い機体の進行方向に奇妙なものがあったからである。それはレンズのような歪みであった。そんな不可解なものが空中に浮いているのだ。
「あれはケイブ…?」
リリィの中の誰かがそう呟くが、映像はそのまま続く。黒い機体は更に旋回を続ける。そして、次の瞬間である。黒い機体は急横転し、白い雲に包まれた。それがちらっと見えたかと思うと、映像は激しく揺さぶられながら暗転した。
『少尉、起きているか?機体の損傷等を確認して報告しろ、少尉』
『起きている…状態確認中、フライトシステム異常なし』
『キャビンの環境を再調整しろ。靄で何も見えん』
『実行中。現在位置は…不明』
機内には警告音が鳴り響く。深井大尉は機体の状態を確かめる為にロールをしながら飛ぶ。しかし、深井大尉は困惑したような声で唸りながらロールを止めて、警報を切った。だが、それよりも映像の先に奇妙としか言いようのない不思議な空が映っている状況の方が、映像を見ている一同にとって衝撃は大きかった。
「何よ、この空は…」
百由もそう呟く。映像内の空は上下が分厚い雲で覆われており、雪風が飛ぶ高度だけ雲が無い。まるで雲の隙間を飛んでいるような状態だ。そして、雲の切れ間の先には帯状の青い光が見える。
『各翼に損傷見られず。現在高度は約3万メートルと表示されている。おそらく…ここはフェアリイ星の環境ではなさそうだ、人工的な空間かもしれない。高度計の数値が正しいとは思えない』
『そうだな。それに上下から電波が返ってくる…上と下に壁のようなものがあるらしい』
『なんてことだ…これはジャムの移動用通路なのだろうか』
『そうかもしれない』
『深井大尉、このまま飛んで出られるのか?』
『分からない。しかし、ジャムがその前に現れるかもしれない。警戒しろ』
緊迫感のある会話が続く。だが、これを翻訳の字幕を見ながら聞く梨璃には、ある一つの疑問が浮かんでいた。映像の中で深井大尉と会話をする桂城少尉の雰囲気が、目の前にいる少尉とどこか違うように思えたのだ。そして、その口調はどこか深井中尉のような雰囲気があるようにも感じた。梨璃はそんな疑問を抱き、首を傾げつつも映像の続きに意識を向けた。
映像は編集されているらしく、場面が切り替わる。しかし、周囲の風景には一切変化が無い。画面の中では警報音が鳴っている。
『ボギー捕捉、数は一機。左下方から急上昇中。このままだと衝突コース。戦闘機サイズの物体だ』
『少尉、目視にて確認しろ。そして、そのまま口頭での報告を続けるんだ。記録内容を後から見た時に把握できるように、詳細に報告…いや、実況しろ』
『了解。目標は雲海の中、目視不能。だが、距離としては近いはずだ。目標、機の下を通過』
『真横に来るぞ。IFF応答なし、敵味方不明と表示されている…ジャムではない?速度はこちらに合わせているらしい』
『見えた。雲の中から何か…垂直尾翼の先端らしきものが出てきた』
灰色の物体が雲の中から少しずつ姿を見せる。
『薄暗いな…そろそろ雲から機体が出るか?』
『何か模様のようなものが見える…マーキングか?相手が雲から出た。あれは…機種はシルフィード、厳密にはスーパーシルフ。垂直尾翼に特殊戦第五飛行戦隊のマークを確認』
『あれは…雪風だ。旧雪風のコピーだ。過去にも遭遇している、これが初めてではない』
雲中から現れた航空機、それがジャムのコピーであるという深井大尉の言葉に、映像を見ている面々は困惑する。戦闘機をコピーしたものを飛ばす…相手は異星人の類ではなかったのか?そういったような事を考えているような表情が並ぶ。しかし、この後に更なる衝撃が次々やってくる事を彼女達はまだ知らない。
一方、深井中尉とブッカーはその現れた偽スーパーシルフの姿を見て会話を交わす。
「あれが向こうのスーパーシルフか。やはり、形が違う」
「同じなのは名前だけで、様々なものが違う世界なのかもしれんな」
「そう考えた方がよさそうだ。しかし、ジャック。これと同じような状況に覚えがあるが…」
「ああ、南極の帰りだな。あれと同じような展開になるかどうか」
画面の中では深井大尉が偽スーパーシルフをロックオン。敵機として認定、レーダー上の表示も不明機から敵に切り替わる。そして、桂城少尉は何かに気づく。
『コクピット内に誰かが乗っている…顔は見えない。ヘルメットと酸素マスクで覆われている。いや、待て。マスクを指さしているらしい…通話したいのか?』
そして、無線から音声が鳴り響く。
『聞こえているか?深井中尉、貴官は不要かつ無益な戦いを行っている。直ちに戦意を放棄し、我に従う生き方をされたし。応答せよ』
まるで機械か何かで合成したような声が響く。その通信内容も分かりにくくぎこちない感じである。
「なんだ…まさか、ジャム人間が音声で通信してきたのか?」
「だが、人間のコピーにしては話し方が妙だ。どうなっているのか…」
深井中尉とブッカーは口をポカンと開けながらその声を聴く。他の者も困惑したような感じの表情で映像を見る。これが、地球外生命体の声なのか。
『こちらB-1、聞こえている。そちらの所属、氏名と階級を知らせたし』
深井大尉が返信する。
『返答する。我に個体を分類、識別するようなコードはない。よって、その問いに対する回答は不可能である。深井中尉へ、先程の我の要請を受け入れるか否か、返答を求む』
『身分を明かさずに人に対してお願いとは無礼だな…お前は誰だ?』
『貴殿に理解できる概念で説明する。我はジャムと呼ばれるものの総体である』
『総体?つまり、ジャムの代表のようなものと解釈していいのか?』
『そう考えてもらって構わない。先程の返答を求む』
一度、無線を止めて深井大尉は桂城少尉に問う。
『少尉、どう思う?あれの言葉を信じていいものか』
『さて、どうだろう。色々と不自然だ、特に言葉遣い。誰かに言わされているような感じだ』
『フム、やはりそう思うか。このまま警戒せよ』
通信を再開する。
『そちらの要請の意味が分からない。不要かつ無益な戦いとはなんだ。誰にとっての不要かつ無益な戦いなのか。それが分からない以上、返事のしようがない』
『深井中尉。意味は分かっているはずだろう』
急に流暢な言葉遣いの声が飛んできた。スクリーン前の面々はその変化に驚く。そして、映像を見る深井中尉はその声が聞き覚えのあるもので愕然とする。
「この声…まさか、あの時の」
「知っているのか?零。これは誰の声だ」
「これは俺とバーガディシュ少尉が不時着した時に現れたジャム人間の声だ」
「なんだと!?あの偽物の基地か」
それは深井中尉がスーパーシルフ時代の雪風に乗っていた時の出来事である。偵察任務に出撃した際、奇妙な空間に飛び込み、そこにあった偽の前線基地に不時着。その偽の基地にいた男がこんな声をしていたのだ。バーガディシュ少尉が消えた事やそこで食わされたものといった嫌な記憶が蘇り、深井中尉の表情は曇る。
『我々が助けてやろうという意味だ。FAFに勝ち目はないからな。これで意味は分かっただろう。さあ、ついてこい。安全な場所に連れて行ってやろう。従わなければ、どうなるか分かるだろう』
『お前とは交渉する気はない、拒否する。お前の言葉は一切信用できないからだ』
『君に分かりやすく伝えているのだが、何故拒否するんだ』
『先に言った通りだ。お前と交渉する気は無い。桂城少尉、EW(電子戦)準備。交戦する。目標に注意、反撃に備えろ』
『了解、EW準備』
ターゲットをロックオン、武装選択の表示がすぐさまディスプレイに出る。攻撃態勢に入ったのだ。そして、右旋回。相手の後方に入り込もうとする。だが、偽スーパーシルフも反応するように左旋回開始。互いに左右の旋回を繰り返し、鋏の形のような機動を行うシザースと呼ばれる空戦機動の態勢に入った。だが、相手よりも雪風の運動性能が勝っているらしく、すぐに相手の後ろに喰いついた。そして、ミサイルを発射…命中確実。だが、そこで変化が起こる。相手が突然消えたのだ。
そして、ミサイルはそのまま直進、しばらく飛んだ先で自爆した。
『無駄だよ、深井中尉』
あざ笑う声が響く。
『くそ、ダメか。大尉、あいつは幻のような物かもしれない。実体が存在しないのかも』
桂城少尉がそう言うと、スクリーン上のディスプレイ表示に文章が現れる。雪風が表示したものらしい。スクリーン下方に和訳された文章も併せて表示される。
<今の攻撃はほんの威嚇だ。次は本気であり、確実に命中させる…覚悟はいいか、ジャム>
深井大尉はそれと同じ内容を無線に向けて呟く。
『なんて馬鹿者なんだ。こちらが助けてやろうと言っているのに…まあ、いい。そちらがその気なら、こちらも加減しない。今の立場を思い知らせてやる。ここがお前達にとって、最後の…おい、やめろ!やめ…』
無線から絶叫する声が響く。すると、偽スーパーシルフに異変が起こった。その機のキャノピーが飛んだのだ。そして、二つの物体が勢いよく飛び出す。
『射出された、前席と後席の両方だ。どうなっている、逃げだした?』
『逃げたようには思えないな』
雪風の光学センサは射出された座席を追う。その二つの座席は螺旋を描くように飛ぶ。だが、パラシュートは開かない。そのまま遠ざかると雲間に落ちていく。そして、それらが赤く輝くとそのまま消えてしまった。座席は乗員と共に燃え尽きたように見えた。映像を見る面々はその様子に言葉が出ない。そして、その場に一つの共通した疑問が浮かぶ。パイロット無しであの機体は何故飛んでいられるのだ、と。
『ジャムへ、応答せよ。俺はジャムと直接話がしたい…人間のコピーではなく。応答せよ』
『我には理解できない。お前は何故戦闘を行うのか』
無線の声は再び合成音のような声に戻っていた。偽スーパーシルフはコクピットが空のまま安定して飛んでいる。
『我には理解できない。その機体の知性体、ユキカゼという存在。そして、特殊戦という知性体の集団が。深井中尉へ、何故戦うのか』
『それは生きる為だ。お前にやられない為。そんな単純な話が何故理解できないんだ。他の人間や知性体、他の部隊は違うと言いたいのか?』
『深井中尉やその機の知性体を含む特殊戦の知性体群は他の知性体群とは異なる。ヒト的意識を持たない知性体である。よって、我と似た存在であると考えられる。それがFAFと共に存在し、我を妨害し、戦闘を行うのか理解ができない。ユキカゼは非戦協定を拒絶している。その為、深井中尉にその拒絶を撤回するように交渉してほしい。それが可能なのは貴官だけである。覚醒せよ、深井中尉』
『何を言っている。俺がヒト的意識を持たない知性体?非戦協定?お前の言っている事はさっぱり分からない』
『現在のヒトとその配下にある人工的な知性体は、我が予定していた性質とは外れた性質を持つ特異な存在である。だが、貴官らは違う。我の本来予定していた性質である。よって、我は貴官らの敵ではない。貴官らを損耗させる事は我の本意ではない。我の下に来る事を求む』
スクリーン前では小さく唸るような声があちこちで上がる。ジャムの発言をどう解釈すればいいものか、そんな考えが場を包んでいた。
『それはつまり…そっちの味方になれ、という事か。FAFから寝返って、ジャムと共にFAFや人類と戦えと』
『貴官は何者か。回答を求む』
『僕はフェアリイ空軍戦術戦闘航空団、特殊戦第五飛行戦隊所属、桂城彰少尉。雪風のフライトオフィサ…人間だよ。僕達が何故お前達と戦うのか、理由を教えてやろう。それは仕事だからだ、分かるか?仕事であり任務だよ、任務。これしか選択肢が無いからやっているんだ』
『我と戦う選択は不要である。生きていけると判断できる』
『お前は僕達特殊戦が仲間になればいいと考えているな。そう解釈しても問題ないな?では、お前は俺達に仕事を出してくれるのか?』
『少尉、その返しはいいな。仕事か、確かにそうだ』
深井大尉が笑いながら言う。そして、ジャムから返答が飛ぶ。
『我と貴官らは似てはいる。しかし、仲間ではない。だが、人類…FAFとの共闘はできると解釈してほしい。それこそが貴官…桂城少尉の生きる道となりうる筈である。深井中尉、回答を求む。FAFから離脱し、我が方に付く意はあるか。回答を求む』
しばし、無言の間が続く。深井大尉は相手の出方をうかがっているらしい。
『回答されたし』
『俺はお前の事を知りたい。お前という存在がどういうものなのか、それを知りたい。こちら側がそっちの正体を理解できないのに、そちらがこちらをある程度理解している…この状況は不公平だと俺は思う。それでは非戦協定なんてとても呑めない。そもそもだが、そちらは人語を完全に理解しているのか?その協定内容についての解釈が異なるというのなら、とても交渉も約束もできない。そして…お前は何者だ?機械か、生物か、それとも情報としてだけの存在なのか?』
『貴官の理解している概念では、我を説明することは不可能。我は、我である』
『それ以上の説明ができないというのであれば、これ以上の交渉は続ける意味がない。そちらの要求は拒否する』
『了解』
深井大尉の拒否に対し、ジャムは無機質な返答を返してきた。そして、用を終えたと言わんばかりに深井大尉が宣言する。
『戦略偵察完了。帰投する…RTB』
そして、映像はそこで終了した。格納庫内の照明が点灯、室内は明るくなる。
深井大尉は改めて周囲を見る。かなりの人数が疲弊したような表情を見せている。字幕を見る必要のない語学力が高そうな面々は特にダメージが大きいらしい。未知の生命体との会話シーンという衝撃だけでなく、ジャムの言葉が音声としてダイレクトに伝わったのだ。そして、自分の頭でその言葉の意味に対する解釈を考えた結果、思考が追いつかず混乱に襲われたのであろう。
深井大尉はこの場の面々からどんな質問や意見が出るのかと一応身構えているが、誰も何も言ってこない。まず、どの内容から手を付けていいのか…そこから悩んでいるような感じなのだろうか。ブッカーや深井中尉ですら、先の情報を整理している真っ只中らしい。二人で何やら話し合っている。まあ、無理もない。なにしろ自分達の世界の特殊戦ですら混乱した内容なのだ。この記録を見て、それでも元気だったのはフォス大尉ぐらいしかいなかった程だ。桂城少尉が「とりあえず休憩にして一度時間を空けよう」と深井大尉に伝えようとしたところで、誰かが手を挙げた。一柳梨璃である。
「深井大尉、とりあえずあれがヒュージと同じ存在と思えるか…そんな意見が欲しいのですよね?」
「ああ、そうだ。直接あの化け物と戦っている者からの意見が欲しい」
「では、みんな悩んでいるようなので…私にはあれがヒュージと同じとは思えません」
「何故だ?理由を言ってみろ」
「えーと…ヒュージは戦闘機なんて飛ばしません!」
梨璃の発言に何人かが頭を抱える。何を当たり前の事を言っているのだ、と。
「梨璃、もう少し考えてから言いなさい。これはそんな簡単な話じゃないわ」
夢結がため息をつきながら言う。それに対し、深井大尉は言った。
「いや、そういうシンプルな意見でいい。こういうのは直感が大事だ。では、お前はどう思った?」
深井大尉は夢結に聞く。
「ええ、正直…私も違うとは思う。でも、あのジャムの言っている事がよく分からなくて話が纏まらないわ」
「私もそう思いますわ。我は我である…ヒュージが人語を使ってそんな事を言い出したら、あまりのショックで三日は寝込みますわね」
楓も続けて意見を出した。彼女は語学力が高いものの、割と元気そうだ。フォス大尉並みにメンタルが強いのかもしれない。
「我は我である…か。意識とかそういう話も出ていたし、深く考えるとどうも哲学的な話になりそうですね」
神琳が言う。
「俺もいいか?」
この流れに乗って深井中尉が口を開いた。それに対し、深井大尉は頷く。
「では…俺はあんなジャムを見たことが無い。未知のタイプだ。大尉は俺達の記録を見た時に同じことを考えたか?」
「考えた。俺の知るタイプ2とは色も形も違うものだったからな」
「やはりか。スーパーシルフの形も違う。こちらとそちらはかなり違う世界のように思える」
「俺も同感だよ、中尉。明らかに色々と違う」
そして、ブッカーも口を開く。
「多分だが…そちらとこちらは名前のような概念だけが共通しているのだと思う。名前は同じだが、デザインが違うと例えればいいのか…表現が難しいな」
「フムン」
そして、桂城少尉も会話に加わる。
「なるほど。つまり、そちらのジャムとこちらのジャムは概念としては同じである可能性が高いのかもしれないな。ただ、全く同一の存在ではないだろう…そこに並ぶ2つの雪風のように」
「少尉の考えからすると、こちらとそちらのジャムは同一の存在ではないと考えていいかもしれないな」
「だが、大尉。そう考えると厄介だ。違う世界とはいえ、ジャムという存在が二ついると言えてしまう」
「ジャック、普通ならその二つは同時に存在しないからそんな考えは無視していいはずだ。だが、こんな特殊な状況下ではジャムという脅威が2ついると考えていいかもしれない」
「厄介だな」
ブッカーがため息をつく。そして、桂城少尉が考えを言う。
「でも、少佐。この地球にジャムは確認されていない、それは確かだ。だから、今のところはその心配をしなくていいと思う。だから、一刻も早く帰る方法を探す事に専念すべきだと僕は考えるよ。ジャムが嗅ぎつける前に、ね」
「それがいいな、そうしよう。というより、それしか選択肢が無いな…」
そして、思考がやっと落ち着いたのか、百由が意見を述べる。
「さて、色々気になる事が多すぎて何を言おうか迷ったけれど…とりあえず、私もジャムとヒュージは無関係な存在だと思うわ。で、それとは別に聞きたい事があるわ。深井大尉、ジャムはあなたや特殊戦が似た存在だと言っていた。その根拠に目星はついているの?」
「仮説しかない」
「聞いてもいいかしら?」
「フム、他の人類と我々特殊戦の違う点…それは集団行動を重視するか否か、だ。普通の人間なら集団で社会を形成し、その中で生活すると考えるだろう。だが、特殊戦の人材は違う。集団行動なんて不要で自分ひとりで何もかもやっていけると考えている人間が集まった特殊な隊なんだ。ジャムはそこに注目したのかもしれない。という仮説をあの映像の後に俺達は考えた」
「なるほど、ヒト的意識とはそれか…つまり、ジャムは一個体だと?」
「数や単位で表せる存在かどうかも怪しい。だが、複数の意思があるような存在ではないようだ」
「うーん…とんでもない存在ね。まさに人類の知る概念で説明できるか分からない存在だと」
そして、ブッカーが百由に言う。
「で、百由君。とりあえず、結論としては3つの存在はそれぞれ異なるというものでいいだろうか」
「そう考えた方が自然でしょう。それぞれ繋がっているのなら、もっと面倒な事になっていたと思いますし…ジャムが現れない事がその証拠かも」
「そうだな、現れていたら雪風がこんなに大人しいわけが無い。という事で、帰る為のヒントを探したい」
百由はふむ、と考える。
「では…やはり、雪風が現れたヒュージネストの周りを調べるのが一番かと」
「どのように調べるか…」
そして、深井中尉が意見を述べる。
「雪風で飛んで調べに行こう。それが一番だ」
「零、一人で飛ぶのか?」
「そうするしかないだろう。今のジャックの体ではとても耐えられそうにない。それに、向こうの連中も外まで調べに出たんだ。俺だって何かした方がいいだろう…それにもう飛べるはずだ」
深井中尉はB-3…雪風を見ながら言う。
「じゃあ、私が後ろに乗ってもいいかしら?」
すると、百由がにっこり笑いながらそう提案してきた。
<B-3:I have a similar experience. But the situation is different...>
<B-1:seeking details...>
とりあえず回想シーン完成