迷い込んだブーメラン<改>【本編完結】   作:ひえん

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舞台裏では

「あー…疲れたー…」

 

 梨璃は自室のベッドに倒れ込む。異世界人との接触に続き、異世界の戦闘記録映像を観るという、実に衝撃的な出来事だらけであった一日がやっと終わったのだ。

 

「梨璃さん。今日はずいぶん遅かったわね」

 

 二段ベッドの上段からルームメイトである伊東閑が話しかけてきた。

 

「うん、閑さん。色々あってね…ちょっと疲れちゃった」

「お疲れ様。ああ、そういえば…最近この学院で人の出入りがやたらと増えたって聞いたけれど、何かご存じ?」

「人の出入り…?」

「ええ。どうも飛行機の整備員みたいな一団が次々やってきたとか聞いたわ」

「あー…」

 

 それは心当たりのある内容であった。間違いなく雪風に関係する人員だろう。しかし、口が裂けてもその真相を彼女に教える事はできない。言ってしまえば謹慎等の処罰が待っているのだから。

 

「その反応、何か知っていそうね」

「えっ!?い、いや、何も知らないよ?」

「梨璃さんは分かりやすいわね。まあ、言えないか」

「うん…ごめんね」

「いいのよ。自分で調べてみるから」

 

 そして、会話を終えると梨璃は眠気に耐えきれず、そのまま目を閉じた。夕食まで少しだけ仮眠しよう、そう思いながら。

 

 

 

 

 

 ここ百合ヶ丘女学院には日本中から航空関係の技術者が集まっていた。整備の人間だけでなく、研究や開発…官民併せて幅広い分野の人材が集結している。リリィとはまず無縁な分野の人々がこれだけこの学院に集まるのは通常ではありえない事態だ。そんな彼らが集まった理由は学院敷地内の格納庫にあった。それは異世界からやってきた未知の航空機である。彼らは表向きではその機体を修復、整備する目的でやってきたのだ。もちろん裏の事情もある。それは異世界の技術がどのようなものなのか調べる為だ。

 

 しかし、そんな彼らを熱心に突き動かす原動力はそれとは別にあった。それは『この怪物達が空を飛ぶところを見てみたい』…飛行機に情熱を注ぐ人々のそんな素朴な好奇心である。

 

 この世界とはまったく別の進化を辿った航空機…マギを応用した技術等は一切使用していない。その代わり、この機体達はただ純粋に航空力学の進化と空戦能力を追求したような代物だ。この機体はどんな飛び方で空を駆け抜けるのだろう…そんな期待から、作業担当の人員達は喜び勇んで百合ヶ丘で作業に当たる。そして、彼らはこの怪物が業界に猛烈なブレイクスルーを起こしかねないとんでもないものを秘めた機体だという確信を得ていた。

 ただ、修復作業を開始した当初は大変であった。まず、どこから手を付けるのか。パイロット達に話を聞いたが、彼らは機体を飛ばす事や簡単な整備の知識は有っても、専門的な整備に関する知識は乏しい。更に提供された整備マニュアルを見ても、聞いた事の無い組織の独自規格が並んでいる。これで異世界の機体を整備できるのか。また、部品は用意できるのか…そういった壁にぶち当たり、作業はスローペースであった。しかし、作業の見学にやってきた学院の理事長代行のある発言から作業は大いに前進した。

 

「パイロットからの聞き取りの結果、異世界とこの世界はある時点まではかなり似た歴史の流れを辿ったらしい。そのある時点とはこちらで言えばヒュージの出現である。また、向こうの世界でも何かしらの怪物が出たとの事だが…その時点で歴史の流れが大きく変わったと言える。つまり、その前から存在した工業規格なんかは共通である可能性が高い。それをヒントに調べていけば、互換性のある規格が見つかるかもしれないと儂は思う」

 

 なお、言った本人は正体が別人だとバレたりしないかと内心ヒヤヒヤであったが、その場の誰もその点には気が付かなかった。本来の理事長代行と会った事のある人物がいないからそれも当然であるのだが。

 

 さて、独自規格であろうとベースになった規格はある筈だ。また、異世界と言っても使用されている単位や言語はこの世界のものと同じである。そして、エンジニア達は過去・現在の各種民間や軍用の工業規格を片っ端から洗い出し、この未知の機体で使用されている規格に近い物を探し出していった。その結果、互換性のあるオイル等の各種消耗品やコネクタ、配線類の目途はたった。しかし、破損部品についてはどうしても一から作るしか選択肢がなかった。本来であれば航空機メーカーに運び込み、そこで徹底的に重整備を行いながら破損パーツの製造と交換を実施するところだ。だが、政府から機体の移動許可が出なかった事により、この場で修復を実施するしかない。

 幸い、CHARMの整備・補修…果ては製作まで行う工廠科の設備は充実したものであった。よって、破損部品は学院内で製作する事となった。作らねばならないもので特に大きい部品はカナード翼である…無傷な側の翼を参考にする事で作業時間を大幅に短縮。そして、工廠科の生徒達と協力しながら部品類を作り出した。彼女達も技術分野の人間だ…異世界の技術に興味津々であり、士気は高い。どうやら、新しい技術やCHARMの開発のヒントを得る事ができないかと目論んでいる節があるようだ。よって、修復作業は順調に進んでいった。もっとも、機体全てを整備したかというとそうではなく、エンジンやレーダー等はとても手に負えそうもない為、目視や非破壊検査のみで様子を見ていたが。

 そういった流れで機体を飛ばす事が出来る状態まであと少しといったところまでやってきた。

 

 

 

 しかし、ある日突然作業は慌ただしくなった。その日はヒュージ出現に関係した作業で、格納庫を使用するという事で整備作業中断の要請が学院から出たのであった。そして、その予定時刻が過ぎた後に技術者達が作業を再開しようとした矢先、修復中の機体…B-3を試験飛行に飛ばすという知らせが作業現場に飛び込んだのだ。慌てて動作試験のスケジュールを立てる事となった。そして、その日の内に交換したカナード翼の動作試験を実施、試験に立ち会ったパイロットである深井中尉は問題無しだと判断した。だが、ここで深井中尉が注文を出す。これで更にエンジニア達は頭を抱えた。

 

「この周囲は敵が現れる可能性があるのだろう。念の為に試験飛行でも武装を積みたい」

 

 この学院はヒュージネストの目と鼻の先にある。周囲は危険な空域である事は事実であり、それに備えるという意味では深井中尉の注文も間違いではない。同席する防衛軍関係者からも特に止められなかった為、そのまま武装を積む方向で話が進む。しかし、そこで新たな問題にぶち当たる。

 それは搭載可能な兵器をどう調達するかである。まず、B-3のセンターパイロンに積んであったレーザー機関砲は一度降ろして整備中、これはまだ使えそうにない。現状、補充の目星がついている兵器は20mmガトリング機関砲のみだ。機体に残った弾薬からほぼ同一の機関砲弾を既に特定してあった。よって、それを積めば問題ない。しかし、戦闘機にミサイルを積むというのはそう単純な話ではない。ミサイルを機体のパイロンに括り付けても、機体の火器管制システムがそれに対応していなければミサイルを発射する事ができないのである。そして、この世界で現状配備されている空対空、空対地の各種ミサイルは全て不適合であった。流石に機関砲だけでは火力からして心許ない。そこで先のアイデアを使おうと一人の技術者が提案した。

 

「ヒュージが出る前に開発された兵器なら適合する物があるかもしれない」

 

 FAFは国連下の組織だ。よって、地球で補給を受ける事になる可能性はゼロではない。事実、南極に飛んだ時には地球の空母で燃料補給等を実施した。その為、もしかすると地球で運用されている主だった兵器類の搭載も考慮しているかもしれない。普段気にしたことはなかったが、深井中尉は火器管制に登録された運用可能な兵器のリストに目を通す。確かに普段搭載しないような兵器類も記載されている。そのまま目を通すと、最新の物だけではなく旧式な物も一部記載があった。それらはFAFで運用している最新式のAAMと比べると原始的と言ってもいいぐらい古いものだ。もしかすると、当てはまる物がこの世界にあるかもしれないと深井中尉は考えた。そして、その一覧を紙に出力し、技術者達に渡す。

 しかし、受け取った側は頭を抱えた。その一覧を見ると、最新の物とされるミサイルは勿論この世界に存在しない物ばかりである。そして、旧式とされる物に目を通す、狙い通りそこに記載されたミサイルはこの世界でも過去に生産されていた物がいくつかあった。しかし、それでも問題があった。既に生産は終了し、退役してしまった物しかなかったのだ。これでは適合していても搭載する事ができない。

 そうして話が行き詰ってしまった為、技術者達は発想を変える事にした。ミサイル以外ならまだ可能性があるのではないか、という発想である。世の中には開発されてからずっと形が変わっていない製品がある。それはシンプル故に登場した時点で完成しきっている等の理由だ。航空機用の兵器で例えると、無誘導の爆弾やロケット弾…その形はヒュージ出現の遥か前から一切変わらない。その線でリストを洗い直す…するとあった。各種無誘導爆弾にロケット弾、世界的にもメジャーな物ばかりだ。無論、今でも生産され続けている。それらは弾薬側に電子機器が存在しないシンプルな物だ。機体側のコンピュータが照準を合わせて投下するだけ、後は物理法則に従って飛んでいく…よって、機体側の火器管制が対地攻撃に対応していれば搭載できるのだ。そういった無誘導爆弾やロケット弾は現代では誘導弾の母体としての需要が主であったが、誘導キットを載せていないノーマルな無誘導弾を入手する事は今でも容易である。

 そして、深井中尉にこの結果を知らせる。彼は少し考えると、それらを搭載する事に決めた。こう呟きながら。

 

「雪風ならたとえ無誘導でも当てるだろう」

 

 そして、整備に当たる人々はそれらの弾薬を入手するべく動き出した。この怪物が空へ帰るのを見届ける為に。

 




修理回りの話。
雪風に爆弾積めるかどうか…OVA版は爆装して投下してたからいけるかなという感じで
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