迷い込んだブーメラン<改>【本編完結】   作:ひえん

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花の影

「で、ノインヴェルトというのは…九つの世界という意味よ。九人のリリィが持つマギをそれぞれのCHARMを介してマギスフィアに注ぎ込み、育てる。そして、それをヒュージに撃ち込む…」

「何を言っているのかさっぱり分からん」

 

 深井中尉とB-3、B-13が飛び上がったその頃、百合ヶ丘女学院のグラウンドでは一柳隊が訓練を行っていた。そこに自分達も何かしておこうと深井大尉と桂城少尉が見物にやってきて、夢結から対ヒュージ戦の切り札であるノインヴェルト戦術がどのようなものか説明を受けている。

 

「夢結様、その御仁にそういう説明は通用せんと思うぞ」

「困ったわね。では、どう説明したものかしら」

「あー、マギとかそういうのを抜きに説明した方が早そうじゃ」

 

 そして、ミリアムが深井大尉に説明する。

 

「まあ、マギスフィアを多段式ロケットみたいなものだと考えてもらえば分かりやすいかのう。リリィがマギを注いだ回数をロケットの段数と例えるような」

「フムン」

「要するにエネルギーをどんどん継ぎ足していくような感じじゃの。そして、最終的に必要なエネルギー量に達すればいい。ロケットだって必要な速度が出なければ、ミッションに支障を与えたり、最悪の場合だと失敗したりするじゃろ?で、この学園では九人分のエネルギーを注ぎ込むのがベストとされておる。だからこそ、レギオンの構成人数は最小で九人となっておる。まあ、これはローカルルールだからよその学園では五人程度でも撃つがのう」

 

 ミリアムの説明でなんとなくイメージが付いたらしく、深井大尉は頷いた。続いて夢結が説明を重ねる。

 

「で、この戦術は難易度が極めて高いわ。レギオンの連携はとにかく重要、最高の威力を出すには九人全員にパスを回さないといけない。しかし、この戦術はマギもCHARMも激しく消耗するの…当たればどんなヒュージも一撃必殺で撃破可能、外れれば一転して窮地に陥りかねない諸刃の剣。威力は先程見てもらった資料映像の通りよ」

「接敵と同時に叩き込めばいいのでは」

「そうはいかないわ。周囲のヒュージから妨害を受ける可能性もあるし、大型のヒュージはマギの障壁…マギリフレクターを使って攻撃を防ぐ事もあるわ。だからこそ、攻撃を浴びせつつ、機を見て使用するの」

 

 その説明を聞いた桂城少尉が驚いたように言う。

 

「あの化け物はバリアも使うのか」

「ええ。だからこそ、通常兵器では効果が出ない」

「面倒な相手だ」

「だからこそ、この世界はこんな有様だと言えるわ。まあ、それは別として…そろそろ訓練を始めましょう」

 

 一柳隊の面々が動く。標的はヒュージを模した機械…百由特製のロボットが複数。まずは通常攻撃の練習だ。初めに梅と鶴紗が駆け出す。すると、梅が瞬間移動するように標的に向けて動く。

 

「なんだあれは」

「レアスキルの縮地。高速移動を可能とする梅の能力」

 

 深井大尉の疑問に夢結が答える。

 

「どういう理屈であんな動きができるのか」

「体にかかるベクトルを操作し、それを推進力に変える…と言えば通じるかしら」

「つまり、空気抵抗や反力を反転させると?無茶苦茶だ、物理法則を無視している」

「それがリリィというものよ」

 

 最早、考えるだけ無駄なのかもしれない。深井大尉はそんな事を考えると視線を戻す。鶴紗が撃って牽制。その隙に梅が縮地で接近、至近距離から射撃を浴びせる。そして、そのまま二人がかりで目標を制圧した。

 

「まあ、ざっとこんなもんだ」

 

 梅が深井大尉の隣で自慢げに言う。あの縮地とやらでいつの間にか移動してきたらしい。

 

「で、他の面子にもそんな能力があるのか?」

 

 夢結は頷く。

 

「ええ、もちろん。例えば…そこで射撃練習中の雨嘉さん。彼女のレアスキルは天の秤目。標的との距離等を正確に把握する事ができるわ」

 

 それを聞いた深井大尉は雨嘉を見る。彼女はCHARM…アステリオンを構えている。そして、その銃身の先から遥か彼方、廃墟の屋上…そこに的が複数並んでいる。距離は目測でおおよそ800mといったところか。まさに狙撃である。雨嘉の隣に立つ神琳は双眼鏡で標的を見ている。どうやら、射撃結果の評価をするらしい。

 普段のどこか内気な態度と違い、今の雨嘉は照準に神経を集中している様子だ。その銃身はぴたりと目標を見据えていてぶれない。そして、発砲。その弾丸は的に見事直撃。それを見た桂城少尉は感心したような表情を見せる。続いて二発目、またも命中。更に三発目、四発目…十発目まで全て命中。

 

「お見事ですわ、雨嘉さん。的のど真ん中を見事全弾直撃です」

「よかった…みんなが見ているからちょっと緊張しちゃったよ」

 

 狙撃を終えた雨嘉を見て、深井大尉は夢結に聞く。

 

「あの狙撃の腕もレアスキルとやらの能力が影響しているのか?」

「いえ、あの射撃の腕は彼女の才能よ」

「フムン」

 

 レアスキルとやらは補助的な能力が多いのだろうか、深井大尉は内心でそう考える。すると、桂城少尉が一つの質問を夢結に投げた。

 

「そういえば、君のレアスキルはどういうものなんだ?」

「それは…えーと、色々あってな」

 

 夢結は黙り込んで答えない。そして、慌てて梅が話を誤魔化そうとする。

 

「もしかして、何もないのか?」

 

 その態度を訝しんだ深井大尉がそう言うと、夢結は小さな声で答える。

 

「いえ…あるわ。ルナティックトランサー…使い道のないレアスキルよ」

「使い道がない?それはどういった能力なのか」

「力と引き換えに理性を消し、ただひたすら攻撃を続ける…暴れるだけの能力と言えるかも怪しい代物。私にはそれはただの呪いとしか思えない」

「呪いとは大げさだ。ひたすら攻撃を続ける…集中力を高める能力と解釈していいのか?それなら有益だろう」

「それだけならどれだけいいか。マギを使い尽くすまで暴れ続け、敵どころか味方すら襲いかねない…ただの暴走よ」

 

 夢結の話を聞いた深井大尉は返答に困った。どうやら彼女にとってこの話は何かトラウマがあるらしい。他人のそういう事をあまり気にしない深井大尉にもはっきり分かる程、彼女の表情も声色もすっかり沈んでしまったのだ。梅の方を見るが、彼女の表情もどこか暗い。これ以上、この件には触れない方がよさそうだ。

 

「あら、皆さんどうなさいました?」

 

 そうしていると、楓が話しかけてきた。

 

「いや、なんでもない。この後は何をするんだ?」

「そうですわね…一通り訓練は終えましたので、残るはノインヴェルト戦術だけですわ」

「フムン、さっきの話のやつだな」

「ええ。これがノインヴェルト用の特殊弾…と言いたいところですが、今回は演習用の模擬弾を使用しますわ。なにしろ実弾は高価かつ使用時の負担が大きいもので」

 

 楓が懐からケースに入った一発の弾丸を取り出す。ノインヴェルト戦術とやらにはこれが必要らしい。

 

「では、始めましょうか。楓さん、皆を集めて」

「了解ですわ」

 

 夢結は何事もなかったように元の涼しげな表情で楓に指示を出した。そして、それを見ていた桂城少尉が言う。

 

「あの様子だと、彼女はいつもトラウマか何かに耐えているのだろう。でもないと、あんなすぐに表情を変えられないと思う。要するにあれは痩せ我慢だ、良くはないだろう」

「フムン。しかし、他人のトラウマなんてどうしようもない。そうだな…フォス大尉でもいれば話は別だが」

「確かに」

 

 こういう場合、軍医でありメンタル専門のフォス大尉ならうまく対処するのだろうな、と深井大尉は内心でそう考える。しかし、いないものはどうしようもない。それに、あくまでそれは夢結やその周囲の問題であり、そういう問題は彼女達が解決すべきだろう。そう思いつつ、深井大尉は集まってくる一柳隊の面々に視線を向けた。そろそろ、ノインヴェルト戦術の訓練が始まる頃合いだろう。

 

 

 

「さて、皆さん。では始めましょうか」

 

 集まった面々を前に梨璃が言う。

 

「じゃあ、今回は誰から撃ちましょうか?」

「私が撃つわ。最後は梨璃…あなたが決めなさい」

 

 夢結が最初に撃つと宣言する。そして、それを聞いた梨璃は驚いたような表情で聞き返す。

 

「ええ!?私が一人で最後に…ですか?」

「そうよ。実戦では何が起こるか分からない…よって、予定が崩れて誰が最後に撃つか分からない場合も十二分に考えられるのよ。だから、誰にパスが回ってもいいように練習していく必要があるわ」

「なるほど…分かりました。私、やります!」

 

 夢結の説明を聞き、梨璃は納得したように頷いた。すると、楓がにこやかに言う。

 

「ご安心ください、梨璃さん。万が一の場合でも、私が一から十まできっちりしっかりサポート致しますわ。大船に乗った気分でいてくださいまし!!」

「あはは…楓さん。そこまでしなくても大丈夫だから、ね?」

 

 梨璃は苦笑いしながら配置に向かう。まもなく訓練開始だ。

 

 このノインヴェルト戦術というものはレギオン各員がマギスフィアという弾のようなものをボールのようにパスして回すというものである。よって、その訓練とはパスをいかに高精度かつ手早く回す点を鍛える事が重視される。今回は実戦を想定し、パスを繋ぐ間に模擬標的による妨害が入る。それを回避しながらパスを回していくのだ。そして、大型の模擬標的にマギスフィアを撃ち込めば訓練成功となる。

 

「では…始めるわ!」

 

 深井大尉は訓練を見渡せる位置に陣取って見物を始める。最初に夢結が引き金を引いた。だが、それを見て深井大尉は驚く、夢結が梅に目掛けて弾を撃ったからだ。しかし、梅は動じずにCHARMの刃で光り輝く光球を受け止める。この光る球体がマギスフィアというものらしい。そして、梅はCHARMを振ると光球を飛ばす。まるでバットでボールを打ったように光の玉は飛ぶ。そして、次の相手が受け止めて、また同じように球を飛ばす。そして、深井大尉はそれを見ていてある事に気が付いた。パスを繋ぐたびに光球の色が変わっているような気がする。これは込められたマギの量によって色が変わるのか、それとも撃つ人によって色が変わるのか。その辺りはよく分からない。

 

 そして、マギスフィアは五人目の二水へと飛ぶ。だが、空中を飛び回る小型の模擬標的はそれを阻止すべく動く。射線上に飛び込もうと飛んできたのである。すると、マギを回し終えた面々がそれを迎撃、妨害を排除して道を開く。そして、無事に受け取った二水は慌てながらもミリアムへとパスを回す。その次は雨嘉へ…妨害とパスが繰り返されていく。ついに最後、楓から梨璃にマギスフィアがパスされる。梨璃は標的に向けて駆け、そのままの勢いで跳ね上がる。そして、光球を保持したCHARMを振り下ろして標的に光球を叩きつけた。一瞬の閃光、深井大尉はその眩しさで反射的に目を瞑った。そして、目を開くとマギスフィアが着弾した辺りに視線を向ける。すると、標的のロボットはスクラップと化しており、原型を留めていない。おそらく命中したらしい。

 

「終わったか」

 

 流れとしてはシンプルなものだ、深井大尉はそう感想を呟く。しかし、実戦ではヒュージの攻撃を掻い潜り、主目標へ肉薄せねばならない。生身で化け物の大群相手にそれをやるのは明らかに過酷である。それに今回は模擬弾であったが、実弾の威力はこの比ではない。その辺りにも注意しながら撃たねばならないだろう。戦術の内容はシンプルだが、それを実行する事は決して簡単ではなさそうだ。

 

 そして、訓練の見学を終えた深井大尉と桂城少尉は格納庫へと歩き出す。上空を飛ぶレイフの様子を確認する為だ。なお、その後ろを一柳隊の面々も付いてくるが、二人は最早気にもしない。

 歩きながら深井大尉は頭上を見上げる。空は雲も少なく晴れている、少なくとも天気の心配はなさそうだ。

 

 

 

 

 

 彼らは本当に信頼できるのかい?

 

 そう耳元で囁くような声が聞こえた気がした夢結は咄嗟に振り返る…その声は確かにここにいる筈の無い人物のものだった。だがしかし、そこには誰もいない。

 

「また、か…」

「どうした、夢結?」

「何でもないわ」

 

 そうして、夢結は一柳隊の皆の背を追って歩き出す。さっきの声はきっと気のせいか何かだろう…そう自分に言い聞かせながら。

 




書いていたら前半がやたら長くなったので一区切り
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