「やりましたね。一柳隊、今日も無事に任務達成です」
「これもリーダーが立派だからですわね」
「いやいや、大袈裟な。これもみんなのおかげだよ…んん?」
鎌倉市街地跡でヒュージを撃破したリリィの一団、それは複数のリリィから構成されるレギオンと称する部隊編成である。そして、そこを行くのは一柳隊の九人であった。その中のリーダーである一柳梨璃は海を見ていて何かに気が付いた。それに対して楓・J・ヌーベルが声をかける。
「あら、梨璃さん。なにかありまして?」
「うん、今ヒュージネストの雲が揺れたような気が…」
「気のせいではなくて?」
ヒュージネスト…それは一見すると漏斗状の巨大な雲に見えるが、狂暴かつ多種多様な生命体であるヒュージが出現する巣のようなものである。
「あっ!見てください、あれ!!」
梨璃の声を聞いてそちらの方向を向いていた二川二水が叫ぶ。
「戦闘機みたいな航空機がヒュージネストの陰から突然飛び出してきました!車輪を降ろしています。この辺りのどこかに滑り込むつもりですよ、あれ!」
「ええっ!?故障か何かって事?大変、助けに行かないと!」
梨璃は駆け出した。そして、残りのメンバーもそれに釣られるように駆け出す。ヒュージに備えてCHARMというリリィ専用の武器を用意し、リリィにのみ使う事ができるマギと称する魔力を使用しながら。
「くそ、ここはどこだ?南極じゃないぞ。桂城少尉、エンジン再始動は間に合うか?」
「駄目ですね、深井大尉。高度不足、再始動は間に合いません。機位も不明。一応、全て記録中」
ロンバート大佐の野望を阻止すべく超空間通路に飛び込んだ雪風。このまま何事も無ければ自分達の知る南極へと飛び出すはずであった。しかし、通路の先は南極ではなかった。ここはどこだ?機長の深井零大尉がそう思った途端、警報が鳴った。通路から出た直後、既にエンジンが停止していたのである。高度は低い、エンジン再始動は間に合わない。後席に座る桂城彰少尉もそう判断した。
<i have control...Lt>
すると、この機のコンピュータである雪風が自ら操縦を始めた。同時に機体各所のセンサが進行方向にある廃墟街を探査、着陸可能な場所を瞬時に探る。そして、目星をつけた場所に向けて雪風は機首を向ける。全ての動翼を適切に動かし、最短着陸距離で着陸できるように姿勢を全て自動で保持。失速を避ける為に速度を稼ぐ、その代償として高度はぐんぐん下がっていく。だが、FAF最新鋭機である『FFR-41 メイヴ』の優れた機体性能と雪風の処理能力はそれでも無傷で機体を降ろすであろう。そう考えながら零は周囲を確認する。目に見える範囲の建物は全てが廃墟、原型をとどめていないものも多い。植物に飲み込まれている建物すらある。もしや、文明崩壊後の地球にでも放り込まれてしまったか?零の脳裏にそんな考えすら浮かぶ。
「機長、3時方向。あれを見てください!」
「何かあった…なんだあれは」
零は桂城少尉の言う方向を見た。すると、奇妙なものが見えた。人が廃墟の上を飛び越えるように移動しているのだ。それも複数。零は唖然としながらそれを見る。唖然とした刹那、ずしんと衝撃。機体が着陸したのだ。機首を上げて機体全体をエアブレーキとし、同時に各動翼をフル活用してギリギリまで揚力を稼ぐ。その結果は殆ど地面を滑走する事もない驚異的な短距離着陸であった。そして、すぐさま後ろにピタリともう一機降りてきた。その機は特殊戦13番機レイフ、雪風とほぼ同型だが無人機である。この機も同時に通路に飛び込んだが、健在である事はこれで確認できた。そして、零は改めて周囲を見回す。降りた場所は広めの道路。だが、周囲の建物は無茶苦茶に壊れている。戦闘か自然災害か、はたまた事故か…なぜこうなったのか見当もつかない。すると、突然キャノピーがノックされた。ぎょっとしながらも零はノックされた側に視線を向ける。そこには子供がいた。
「あのー、大丈夫ですか?」
「ああ…梨璃さん。届きまして?しかし、肩車というものもこれはこれで…」
「楓、欲望がダダ洩れ…」
キャノピーを開ける。下を見ると妙な物を持った子供…学生と思しき一団がいた。幸い、エンジンは止まっているからエアインテークに吸いこまれる事は無いだろうが、位置としては通常では危ない個所だ。どうやら、彼女らの話している言語は日本語らしい。FAFで長く過ごした為、最早忘れた言語である。零は後席の桂城少尉に視線を向ける。応対してくれ、そうアイコンタクトを送る。
「あー…君達。ちょっと聞きたいんだけどいいかな?」
「なんでしょう?」
桂城少尉の問いに肩車の上に乗った小柄な印象の少女が答える。
「ここはどこだい?」
「ここですか?百合ヶ丘女学院の管理区域内ですけど」
「ん?困ったな。学校の名前よりも具体的に何県何市とか地名を教えて欲しいのだけど」
その少女は首を傾げる。何を当たり前の事を聞くのだろうと思っているような表情だ。そして答える。
「どこって…?鎌倉ですよ」
「鎌倉?これが?まるで廃墟じゃないか」
「あなた方は防衛軍の人じゃないんですか?」
「僕らは日本軍所属ではないな。FAF所属だ、任務中に不時着してしまった」
「んー…?二水ちゃん、知ってる?」
機体の下から別の少女が肩車の少女の問いに答える。
「FAF?いえ、聞いたことないですね。というより、この方面はにわか知識ですけど…こんな機体見たことないです」
「ほら、南極にある通路の向こうの」
「南極?通路?」
「どうなっているんだ?FAFどころか通路も知らない…ここは別世界か何かか?」
桂城少尉は話がかみ合わずに困惑する。一方、前席の零は先の会話から鎌倉という単語を聞き取って困惑する。
ああ、ジャック。どうやら賭けは大外れを引いてしまったらしい。
百合ヶ丘女学院理事長代行、高松咬月…その中身であるブッカーは状況を整理すべく生徒会に確認を行った。報告内容によると…
・国籍不明機二機が学院近隣に無傷で不時着。(機種不明)
・機体に搭乗していた乗員二名と一柳隊が接触、救助と確保に成功。
・機体はトレーラーで牽引し、学院内に保管。
・他の生徒と防衛軍関係者が尋問を行い、FAF…フェアリイ空軍という存在しない組織に所属していると回答。(国連に該当機関無し。過去も同様)
・機体の調査は危険につき不可能と真島百由が回答。
(曰く、機体のコンピュータが電子攻撃と自爆をちらつかせてきた。実際、アクセスを試みたところ、逆に学院と防衛軍側のシステムがハッキングされかけた)
これらの状態により、学院内でこの乗員二名を抑留、調査を実施する事と決定。国の関係各所にはリリィの身体能力なら万が一の事態が起きても制圧は容易と説明し、理解と了承を得た…
FAFのパイロット。そして、電子攻撃で脅してくる航空機。間違いない、これは我が特殊戦三番機の雪風だ、そんな手を使う機体なんてあれ以外にそうはおるまい。これは未帰還であったあの機がこの世界に現れた。きっとそうに違いない。零、やはり生きていたか…しかし、もう一機ともう一人のパイロット。これが謎だ。同じく行方不明になった他の部隊機だろうか?
「儂もその乗員に話を聞きに行こう」
「あー、理事長代行。気になった事があるので私も行きますね。いいですよね?ね?」
「う…うむ」
ブッカーは乗員を収容している部屋へと歩き出した。何故か勝手、いや…強引についてきた百由と共に。
後編へ続く