理事長代行の執務室では生徒会の面々が任務失敗を報告していた。
「一柳梨璃が一柳結梨を連れて逃走しました。申し訳ありません…」
「いや、気にするな。いきなりそんな話になればそのような反応にもなるだろう」
生徒会は一柳結梨を確保すべく動いたものの、あまりの事態に恐怖を抱いた一柳梨璃が結梨を連れて逃亡する結果となったのだ。
「二人は付近にある廃墟のどこかに身を潜めていると思われます」
「うむ。だが、うかうかしてはいられない。政府が周辺校のレギオンに対して出動要請を出した」
「他校のリリィがここに?うちには出ていませんよね」
「どういう訳か知らんが、うちには出ていない」
生徒会会長の一人である秦祀が驚いたように言う。それに対して、ブッカーはため息交じりに返す。
「最悪の場合はリリィとリリィが交戦…という恐れまで出てきた。笑えない話だよ」
「では、その前に確保します。警戒用のドローンを各所に放ち、警備の人員を要点に配置。更に待機中のレギオンも出動させましょう」
「ああ」
すると、報告を聞いていた史房が首を傾げながら質問を飛ばす。
「政府が派遣してきたのは他校のリリィのみでしょうか?防衛軍の人員は全く動きがありませんが…」
「そうだ、どの部隊も動き無し。来るだろうと予想したお偉い様方まで来ない」
「それは…気味が悪い話ですね」
「これは仮説だが…この前やった雪風の電子攻撃が思った以上に効いているのかもしれない。政府の上層部はそれを恐れているのかもしれん」
しかし、このブッカーの仮説に違和感を持つ人物がいた。真島百由である。
「確かに雪風の電子攻撃が怖いのならなるべく刺激しないようにするのもおかしくはない…いや、それなら何故リリィだけを送ってくるんだろう?それは刺激になるだろうし…結局、報復に繋がってもおかしくない。うーん?」
「通常兵力では手に負えないものを恐れているに違いない。雪風以外の、な」
深井中尉が百由のその独り言を聞いて意見を口にする。
「そうなると…ヒュージ関連?ゲヘナや国は何かを掴んでいて、その脅威を恐れている?じゃあ、この百合ヶ丘周辺に私達が知らない何か未知の脅威が潜んでいる可能性が…」
「それはお前の方が詳しいだろう」
そういうと、深井中尉は椅子から立ち上がる。
「だが、そんな小難しい事よりも今は優先すべき事があるだろう。証拠を示す為の材料は確保したと言っていたな」
「ええ、楓・J・ヌーベルの実家であるグランギョニル、そこから入手した人造リリィの研究データ。これさえあれば遅くても今日中には結果が出るはずよ。結梨がヒュージではなく、人間であるという証拠が」
「では、そいつを優先すべきだ。前提条件が崩れれば、相手は大義名分を失って撤退するしかないからな。その理屈が何かは知らんが」
深井中尉がそう言うと、百由はどうやって証明するかの方針を語る。
「それは当然。で、その理屈は…ヒュージの持つ細胞には過去から現在までに存在した全ての生き物の遺伝子情報が格納されていると言われていてね。無論、そこには人間の遺伝子もある筈だと連中は考えたのでしょう。それを使ってヒュージの細胞から人間を作り出した。その結果、出来上がった実験体が結梨って事」
「それは分かった。でも、どうやってヒュージでは無いと証明するんだ」
「人以外の遺伝子が含まれていない事を証明すればいいのよ。そうすれば人であるとしか言いようが無くなるわ。まあ、細かい個人差とかの話は除いてね」
「なるほど。しかし、それがうまくいったらヒュージの細胞から古代の生物まで復元できそうだ。きっと儲かるに違いない」
深井中尉が皮肉気味にそう言うと、百由は軽く考えながら呟く。
「…その考え方は無かったわ。今度の論文のネタにしようかしら、アノマロカリス復元とか」
「まあ、今やる事ではないな」
「ええ。でも、今の状況は異常よ。私にはとても気味が悪い状況としか思えない。このまま調査を優先すべきかどうか…」
「気味が悪くてもやるしかないだろう」
そんな会話をしていると、生徒会の面々が慌ただしく動き出す。どうやら、偵察に放ったUAVが廃墟に隠れていた二人を見つけたらしいとの事だ。
「おい、零。どこに行くんだ?」
「ただの散歩だ、ジャック。どうも最近歩いてない気がしてな」
「零。お前、まさか探しに行くのか…もしやと思うが、あのトマホークと結梨の事を重ねて見ていないか?」
「人の心配している場合か、ジャック。俺からすると、アンタは憑依先の記憶に引っ張られていてかなり危うく見えるよ」
「いや、だが…お前がわざわざ行く必要なんて無いだろう」
「実はこの前、アイツから質問を受けた…まだ、その質問に答えていないんだ。だから、答えてやろうと思っている」
「…そうか、気を付けてな」
「ああ。無事に帰ってくるさ」
深井中尉は生徒会の面々の後に続いて部屋を出ていった。
鎌倉市街跡地のとある廃墟。そこに一柳梨璃と結梨は身を潜めていた。孤立無援、装備はCHARMと制服に忍ばせているいくつかの小道具のみ。
「私が必ず守るからね」
「梨璃…」
「大丈夫。あんな話、きっと何かの間違いでみんなが助けてくれるから…」
一柳結梨はヒュージ由来の細胞から作られた人造人間であり、すなわちヒュージであると認定された。その為、彼女をこちらに引き渡せ。
生徒会会長達が放った衝撃的な一言。梨璃はそれを脅威に感じ取り、結梨を連れて学院から逃走したのである。そして、梨璃は既に最悪の場合に備えて鎌倉から脱出する覚悟も決めていた。学院や政府、その他の信用の置けない相手に結梨を奪われたらどんな事になるか分からない。信頼できる仲間達が何とかするまでとにかく逃げ続けるしかないのである。もしかすると、深井大尉達が雪風を使って何とかしてくれるかも…梨璃がそう考えたところで結梨がポツリと呟く。
「私とヒュージって似ているのかな?」
「えっ…?いや、全然違うよ!」
「でも、私はヒュージだって言われたよ」
「あんなの気にしなくていいよ。あれはきっと、何かの間違いだから…結梨ちゃんは私達と同じリリィだよ」
「じゃあ、私がもしヒュージの所に逃げ込んでも追い返されちゃうんだね」
結梨は窓の外をぼんやり眺めながら言う。
「私、こんな風になりたいなんて思ってもいなかったのに…梨璃も自分の事が嫌になる事ってあるの?」
「そんなに大げさに考える事は無いよ。私だって自分の駄目な所を思い浮かべる事もあるし、自分がお姉様みたいに綺麗で格好良かったらって思う事もあるもの」
「じゃあ、そんな夢結はきっと自分の事で悩んだりする事なんて無いんだね」
「それは…」
梨璃の脳裏に過去のトラウマに悩む夢結の姿が思い浮かぶ。いくら他者から見て優秀な人間でも、悩みが無いなんて事はきっと無いに違いない。他の一柳隊の仲間達だってそうだ。皆、何かしらの悩みや暗い過去を抱えている。梨璃はそんな考えに至ると結梨に言う。
「誰だって悩み事はあるんだよ。だから、結梨ちゃんが何かに悩んでいても別に何もおかしくない。だからね、結梨ちゃん。無理に自分を変えようなんて考えなくていいんだよ」
「うん。でも、きっと梨璃が私の事を結梨と名付けてくれたから今の私があると思うの。だから、それはとても感謝しているんだ。それにね、記憶や過去の有無なんて関係ないって深井中尉も言ってたし」
「深井中尉が?」
「うん」
梨璃はその一言を聞いて驚く。深井大尉以上に無口なあの人物がそんな事を結梨に語る姿なんてとても想像できないからである。
「深井中尉なら外にいるわよ」
「お姉様!?」
室内に第三者の声が突如響き、梨璃は仰天しながら振り返る。その声の主は夢結であった。いつの間にか、廃墟の室内には一柳隊の面々が勢ぞろいしていた。
「事態は理事長代行…いえ、ブッカー少佐と百由が対処したわ。結梨が人間だって証明して政府を説得したの。もう大丈夫よ、二人とも」
「え?それじゃあ…」
「ええ、百合ヶ丘に帰りましょう」
すると、梅が笑いながら言う。
「よかったな。一歩間違えたら梨璃と結梨は全国指名手配まっしぐらだったぞ」
「ええ!そんな大事になりかけていたんですか!?」
「そりゃそうだ。命令無視して飛び出したんだからな。まあ、細かい話は歩きながらしよう」
一行は百合ヶ丘へ帰る為に海沿いの道を歩く。梨璃と一柳隊の面々が会話をしながら歩いているその遥か前方を深井中尉は歩いていた。生徒会の面々は深井中尉よりも先を歩いている。すると、結梨は中尉の方へと駆け寄っていった。
「深井中尉」
「なんだ?」
「探しに来てくれたの?」
「ただの散歩だ」
「ふーん」
結梨は視線を海へと向けると、一つの問いを投げかける。
「ねえ、中尉。私は人間かな」
「お前がどんな事情を抱えていても…あれだけ色々考えてものを言えるんだ、化け物にそんな真似は出来ない。だから、お前は立派な人間だ」
「そう。よかった、やっと質問の答えを聞けた」
すると、異変が起こる。突如、海上から鎌倉の廃墟街へと熱線が撃ち込まれたのだ。深井中尉は咄嗟に視線を海へと向けて敵を探す。
「島?いや、あれは…」
小島のように大きなサイズの物体がゆっくりと洋上を移動している。とてつもなく巨大な個体だ。その周囲には小型の飛行物体がいくつか飛び回っている。そこから放たれた熱線の威力は着弾点を見る限り、ただただ強烈と言える。こちらに撃たれたらひとたまりもない。現に周囲のリリィ達すら焦っているらしい。
「…マギを直接攻撃に使った?」
「あんな攻撃、何度も撃てないはず」
「うん、ヒュージのマギが枯渇しちゃう」
「おかしいわ。あのヒュージ、まるでマギを使いこなしているように見える」
「とにかく、一度百合ヶ丘に戻ろう」
すると、梨璃の叫び声が響く。
「待って!結梨ちゃん!!いきなり戦闘なんて無茶だよ!!」
深井中尉が声のした方へ振り向くと、結梨が海へと駆け出していく姿が見えた。すると、深井中尉の脳裏にトマホークの最後の姿が不意に思い浮かぶ。彼と同じようにこれが彼女の最後の姿になるかもしれないという悪い予感と共に。
「待て!」
深井中尉がそう叫んだ途端に端末が鳴った。
<ENGAGE>
遠くから轟音が鳴り響き、深井中尉は咄嗟に空を見上げた。
その少し前、無人の格納庫では出撃準備が進んでいた。
無人であるのにB-3…雪風の出撃準備は淡々と進む。そして、機体の周りでその作業を行っているのは百由が作った機械達であった。一方、既に作戦中の機械もあった。B-1…もう一機の雪風である。B-1は電子的に周囲の情報をかき集めながら百由が作った機械達に命令を出している。標的用の無人機を異変が探知された洋上へと飛ばし、ヒュージを模した標的ロボットはアームを使って2000ポンドの大型爆弾やロケットポッドをB-3の翼下へと搭載し、更に機体各所の安全ピンを外していく。そして、格納庫の扉は自動で開き、無人の牽引車がB-3を外へと移動させていく。
そのまま仮設滑走路へ移動したB-3はアフターバーナーを焚いて急加速、たちまち大空へと飛び上がった。
<B-1:good luck...>
<B-3:THANKS>
そして、その後にB-13…レイフも格納庫から機体を外に出す。しかし、レイフは飛び上がらない。エンジンを始動して地上を移動し、機首を洋上へと向けると空間受動レーダーと全システムを起動する。全ての情報を記録する為にこちらも静かな戦いを開始した。
「どうしましょう!結梨ちゃん、海の上を走って移動していますよ!」
「あれはまさか縮地か!?でも、梅だって海の上なんか走った事ないぞ!!」
レアスキルである鷹の目で結梨の姿を追う二水が叫び、梅が唖然としながら言う。
「いや、それだけじゃない。それを補う為にフェイズトランセンデンスも組み合わせているようじゃぞ」
「まさか、レアスキルを複数同時に使っている?いや、しかし…」
「あれじゃあ、マギがすぐ無くなっちゃう!」
「梨璃!待て、もう間に合わない!戻れ!!」
止めようとする仲間達の叫ぶ声を振り切り、梨璃は結梨を追う為に駆け出した。マギを足場にしてなんとか海面上を移動する。だが、梨璃の視線の先にいる結梨との距離は開くばかり。そして、その先にいるヒュージは小さな光弾を乱射する。結梨の接近を阻止する為だ。
「結梨ちゃん、待って!」
梨璃は結梨に向けて手を伸ばす。だが、結梨は振り返りもしない。挙句、光弾が流れ弾となって梨璃の至近に着弾。その衝撃で梨璃は吹き飛ばされる。そして、薄れゆく意識の中、視界の隅に赤く輝く何かが見えた。
一方、結梨はヒュージに肉薄する事に成功。
「マギをかき集めている…?」
結梨はこのヒュージがヒュージネストからマギを吸い上げている事を悟る。なるほど、これで不足分を補っているのだ。そして、周囲を飛ぶ砲台のような小型ヒュージへと攻撃を始める。一点に留まっていては蜂の巣にされるだろう、本能的にそう感じ取って縮地で海面を駆け回る。そして、タイミングを見計らって射撃開始。砲台を一つ破壊。そのままの勢いで跳ね上がると、更に銃撃して二つ目を破壊。勢いのままに斬り込んで三つ目を叩き切る。そして、海面に着地。
ヒュージの攻撃は砲台の半数近くが失われた事により、接敵時よりも密度が低下していた。千載一遇の好機と言える。これでけりを付けて百合ヶ丘と梨璃達を守り抜く、例え自分がどうなろうと…心の内で結梨はそう決心する。
「私も百合ヶ丘のリリィだから!!」
そして、CHARMに全力を注ぎ込む。CHARMの心臓部であるマギクリスタルコアは今までに見た事が無い程の異常な状態だ。これは壊れるかもしれない…しかし、結梨は無視する。海面を蹴り飛ばし、再び跳ね上がる。そのまま全力全開の一撃を叩き込もうと更にマギを注ぎ込もうとするが、そこで異変が起きた。
<Disapproval. Emergency stop...>
「えっ!!なんで!?」
CHARMの出力が急低下、通常時の出力にまで低下してしまった。結梨は困惑しながらも勢いのままCHARMでヒュージを斬り付ける。効果無し、そのままヒュージのマギに弾き飛ばされる。結梨は何が起きたのか把握する事も出来ずに海面へと真っ逆さまに落ちる。だが、その前に一瞬だけ雷のような轟音を聞き取った。
<MODE AGG...>
ヒュージは落下する結梨を追撃しようとするが、上空の異変を感じ取って攻撃停止。その上空には赤く点滅する航空機が一機。そして、ヒュージはそれに向けて全力で射撃を開始、数多の光弾がその機影を追う。最早、周囲のリリィや百合ヶ丘等は眼中にないといった様子であり、最優先攻撃目標はその機体となっていた。まるでその赤く点滅する物体がこの世にあってはならないと言いたいように。
「雪風…」
深井中尉はその様子を見てポツリと呟く。視線の先のB-3はもう一機の雪風やレイフには無い装備を使って飛び回っていた。ジャムセンスジャマー、ジャムの発光パターンを模倣する事で視覚的に妨害する事を試みた装備である。その見た目はジャムを知るものであれば、ジャムと誤認するかもしれない。
そして、B-3は軽やかに飛び回る。各動翼と可変エンジンノズル、更に強力なエンジンの組み合わせから生み出されるランダムで予測不能なその機動にヒュージの攻撃は掠りもしない様子だ。当然だ、あの程度の攻撃が雪風に当たる筈はない、深井中尉はそう心の内で考える。だが、それでも勝ち目は見えない。それは相手が通常兵器の効かないラージ級以上のヒュージだからだ。
「どうするつもりだ、雪風…有効打は与えられないぞ」
端末が再び鳴った。
<こちらB-1、深井中尉へ。今のうちにリリィと呼ばれる地上戦力を展開されたし。脅威を排除するにはあの地上戦力が必要である>
なるほど、そういう事か。深井中尉は走り出すと、あまりの出来事が続いて呆然と事態を眺める一柳隊に叫ぶ。
「何をしている!今の内に態勢を整えて攻撃しろ!雪風が稼いでいるこの貴重な時間を無駄にするな!!」
その声にハッとなった夢結は咄嗟に指示を出す。
「今すぐ攻撃…いえ、あの二人を収容した後にノインヴェルト戦術にて攻撃します。みんな、準備を」
「夢結様、駄目です。梨璃さんが欠けています!」
「仕方ないわ、威力は落ちるけれど八人で仕掛けましょう」
二水の悲鳴のような指摘に夢結は大きなため息を吐き出しながら言う。すると、背後から声が飛んできた。
「私達で補います」
そこにいたのは生徒会会長の三人だった。そして、夢結は振り返って一礼する。
「よろしくお願い致します」
「夢結さん、梨璃さんの分は私がカバーするわ」
「ありがとう、祀さん」
生徒会長の一人であり、夢結のルームメイトでもある秦祀が梨璃の代わりとして一柳隊の戦列に加わった。戦力の問題はこれで解決である。視線をヒュージに戻した刹那、ヒュージの頭上で凄まじい大爆発が起こる。その上空には急上昇するB-3の姿、どうやら大型爆弾を撃ち込んだらしい。すると、二水が叫ぶ。
「爆風で周囲に漂う子機が弾き飛ばされたみたいです!」
「チャンスね。行くわよ!!」
それが好機と判断したリリィ達は海へと飛び出していった。
ヒュージは百合ヶ丘のリリィ達によって撃破された。だが、明るい知らせだけではなく、悲しい知らせも同様に飛び交っていた。重傷者が出たという一報である。
「結梨ちゃん!結梨ちゃん!!」
ストレッチャーが慌ただしく動く。その上には一人のリリィが乗せられていた。ぐったりとした様子でピクリとも動かない。そこに梨璃がしがみ付く様に駆け寄ろうとするが、楓がそれを止める。
「梨璃さん!落ち着きなさい!!彼女はこれから私の実家が管理するフランスの病院に送りますわ。現状ではそこが一番安全でしょうからね。それに…お父様も自分のやった事を深く知る事になるでしょう」
「うん…でも、結梨ちゃんは大丈夫かな…」
「まだなんとも…医師の診断待ちですわ」
そして、ストレッチャーはそのままティルトローター機のカーゴランプから機内へと収容された。機内には楓の実家が手配した護衛の人員や医療スタッフが乗り込んでいるらしい。後は彼らに任せるしかない。機体後部のカーゴランプが閉じると、機体はそのまま垂直離陸。ローターの角度が変わり、スピードを付けると水平飛行に移行してそのまま飛び去って行った。リリィ達は暗い表情でそれをただ見送っていく。
夜遅くなり深井大尉と桂城少尉は百合ヶ丘へと帰還する。しかし、どうも様子がおかしい。普段この時間なら真っ暗な筈の校舎にはいくつも明りが灯っている。
「何かありましたかね」
「さあな。だが、校舎が破壊されている様子はない」
「ええ。では、帰っても問題なさそうだ」
そして、二人は雪風が置いてある格納庫へと入る。だが、機体以外に人影があった。
「誰だ?」
「私ですよ、深井大尉」
「なんだ、お前か」
そこには百由が立っていた。だが、それ以外にも数人座っている。よく見ると一柳隊の面々だ。その表情はどこか暗い。
「こんな時間にどうした?悪いが、俺は疲れている。さっさと部屋に戻りたい」
「いえ、大尉。少しお話が」
「それは俺に関係のある話か?」
「ええ。とっても」
関係があると言われれば仕方ない。荷物を降ろす。
「で、何の用だ?」
「B-1なんですけどね…今日、CHARMの動作に介入した痕跡が見つかりまして」
「フムン」
どうやら、雪風が何かやったという話らしい。
「悪いが、俺は出張に行っていてここで何があったのかを知らん。よって、何も指示を出していない」
「ええ、それは分かってるわ。雪風は…結梨ちゃんのCHARMを強引に遠隔操作したの。戦闘中にね」
「アイツの?で、その遠隔操作の結果どうなった」
「結果、最悪の事態を回避したとは言える。あの介入が無ければCHARMは壊れて機能を失っていたと言えるわ。よって、最低限の保護機能が働いた結果、一命を取り留めたとも」
「フムン。その結梨はどうした」
すると、百由は口をつぐむ。代わりに格納庫の床に座り込んでいた楓が言う。
「意識不明…ですわ。いつ目を覚ますか分からない程の」
「何があった」
「色々ありましたけれど…直接的な原因はヒュージですわ。単独で交戦して…」
「フムン。そこに雪風が介入したと」
「ええ」
「色々あったと言ったな、何があった」
すると、楓がこれまでに何があったのかと淡々と説明を始めた。深井大尉と桂城少尉はそれを聞く。
「で、疑いは晴れた訳だ」
「ええ、でも…」
「それは仕方がない。だが、何故援護しなかった」
「一人で飛び出してしまって、それも追いつけないような勢いで…」
「フムン」
どうも、事態は混沌としていたらしい。そして、意識不明になる程の負傷者が出た事でこの騒ぎのようだ。すると、低い声が格納庫に響く。
「深井大尉に当たってどうする。この件は運が悪かった、そうとしか言えん」
そこにいたのはブッカーと深井中尉だった。
「少佐。任務完了だ、帰還した」
「ああ、了解だ。何もなかったか」
「特には。変な輩がいた程度だ」
「そっちにも何か仕掛けてきたか」
「ああ、特に問題はない。政府の連中が片付けた。しかし、二人とも表情が暗い」
「まあ、話があったように色々な」
「フムン。ああ、少尉。ちょうどいい薬があったな」
「ええ、大尉。こいつですね」
すると、桂城少尉は荷物の中から缶を四つ取り出す。
「薬?どう見ても缶のビールだ」
「ビールを薬って言ったのはお前だよ、ジャック。厳密には俺達の世界の少佐だが」
それを聞いたブッカーは頭を抱える。
「そっちの俺はそこまで不真面目なのか?」
「いや、クソ真面目だよ。仕事最優先の」
「それはよかった」
そして、缶を持った深井大尉は学生の面々に言う。
「お前達はもう遅いから帰れ。俺から慰めの言葉が出ると思うか?」
それを聞いたリリィ達は諦めたように寮へと帰っていく。そして、四人はビールを静かに飲み始めた。
新作のアグレッサーズは凄まじかった…