迷い込んだブーメラン<改>【本編完結】   作:ひえん

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Search and rescue

 監視カメラの映像が表示されているモニタの中では志願した四人がピクリと動かずに横たわっている。しかし、彼女達に持たせた端末からは当人達の音声が飛び込んでくる。

 

「うーん…ここは…?皆さん無事でして?」

「ええ。楓さん、なんとか。しかし、電波暗室では…ありませんね。ここは工廠科の格納庫でしょうか」

「私も大丈夫です…雨嘉さん、大丈夫ですか?」

「うん…あれ?でも、何か変だよ」

「どうかしまして?雨嘉さん」

「よく見て、楓。ほら、雪風もレイフも無い…」

 

 雨嘉がその一言を言い終えたのと同時に端末のカメラ映像もモニタに表示された。それを深井大尉、桂城少尉、百由の三人がじっと凝視する。確かに二機の雪風とレイフが置かれている筈のスペースにそれらがいない。コンテナがいくつも置かれているだけだ。百由は唖然と口を開きながら画面を見る。そして、深井大尉はフムンと呟くと無線を飛ばす。

 

「こちら深井大尉。救出チーム、聞こえるか?」

「ええ、こちら救出チーム。通信に問題なしですわ」

「了解、そちらの様子は端末のカメラ映像にて確認中。現時点で何か問題は?」

「まだ状況を確認中。しかし…そちらでは私達はどうなっていますの?まさか、消えたとか?」

 

 すると、深井大尉は電波暗室のカメラ映像に視線を移す。室内の四人に変化は無い。

 

「いや、あの部屋の中に全員いる。意識はない様子だが」

「それを聞くと妙な気分ですわ。私達が同時に二人存在する事になりますもの。しかし、ここにあの二人がいる事は確実でして?」

「とりあえず、調べてみない事にはどうにもならんだろう。他に手が無い以上、雪風を信じるしかない」

「まあ、今は億に一つの可能性でもそれに賭けるしかありませんものね…大尉、これからの方針を決めるので、一度通信を切りますわ」

「了解」

 

 楓がそう言うと、音声通信が切れる。そして、百由がポツリと呟く。

 

「で、この状況をどう考えるのかしら?まさか、これがジャムの仕業…ついに雪風の位置を嗅ぎつけたという事?」

「いや、違うと思う」

 

 百由の疑問に対して、桂城少尉がそう返す。

 

「それは何故かしら、桂城少尉」

「見える景色の様子が違うからさ」

「景色の様子?」

 

 百由は首を傾げる。すると、桂城少尉はその理由を話し始める。

 

「そうさ、今この映像に映し出される光景は人の目線から見たそれだ。ジャムや機械知性体が絡んでいるのならこうはならないだろう」

「じゃあ、前はどう見えたのよ」

「もっと殺風景…人の痕跡がまるで無い感じ。今回とは大違いだ」

 

 それに続いて深井大尉も意見を述べる。

 

「色も無かったな、さっきみたいに。つまり、雪風は空間の異常を利用して道を作っただけなのだろう。行き先が明確に定まっていたのもあるだろうが」

 

 しかし、併せて疑問点も述べる。

 

「これがジャムの仕業だとしても、あの二人をピンポイントで狙った意味が分からない。俺達を狙ったならともかく、だ…それに範囲が狭すぎる。事象が生じたのがあの部屋の中だけなんてそれこそ妙な話だと思う」

「それは僕も同感。ここら一帯まとめて妙な空間にしてもおかしくないな。下手すればこの星丸ごとだって有り得る」

「では、何が…まさか、あれがヒュージの仕業だと?」

「分からない。だからこそ、今ある情報から考えるしかない」

「結局、何もかも未知か」

 

 三人は画面に視線を戻す。

 

 

 

「で、みんな…これからどうするの?」

 

 雨嘉は周囲を警戒しつつ言う。

 

「そうですね、電波暗室でも見に行ってみますか?」

「ええ、神琳さん。その手でいきましょうか。もしかしたら、あの二人が中にいるかもしれませんし」

「では、長居は無用ですね。移動しましょう」

「無線報告は?」

「移動しながらでいいのでは。立ち止まると何があるか…」

 

 二水が出口を指さしてそう言うと、一行は格納庫を出る。そして、廊下を歩きだした時である。その先に見知った人物の影を見かけた。

 

「あれは…閑さんですね」

「あら、こっちに気づいたようですわ。ちょうどいいですわね、梨璃さんをどこかで見たか聞いてみましょう」

「ええと、迂闊に接触して大丈夫でしょうか…?」

 

 そして、楓は閑に声をかける。

 

「ごきげんよう、閑さん」

「お前達こんな所でどうした、梨璃はもう目を覚ましたのか?」

「え…?」

 

 四人は目を丸くすると互いに顔を見合わせる。その理由は自分達の知る閑とは口調がまるで違うからである。そして、なんとか表情を誤魔化しながら話を聞く。

 

「えーと…梨璃さんの居場所を知っていますの?」

「何を言っているんだ、そっちの控え室に送り届けた筈だが…」

「え?あ…ああ、そうでしたのね」

 

 困惑しつつも梨璃の居場所を知る事が出来た。しかし、それが自分達の知る梨璃であればという大きな問題付きではあるが。

 一行はそのまま立ち去ろうと軽く会釈しながら歩き出す。

 

「ちょっと待て」

「はいっ!?」

 

 だが、閑に呼び止められて四人はびくりと止まる。そして、閑は四人の様子をじっと見ながら言う。

 

「なんだそのCHARMは、見た事ないが…」

 

 この反応…どうやら、この世界には無いCHARMがこの四人の持つ内にあるらしい。そして、その問いに対して楓は咄嗟に話を誤魔化す。

 

「あー、その…これは実家が作った試作品でして…」

「なるほど。そうか、試作品なら見られてはいけないやつか。道理で慌てた様子だったのだな」

「ええ。出来れば黙っていてくださるとありがたいのですが」

「分かった、秘密にしておくよ。じゃあ、梨璃によろしく伝えておいてくれ」

 

 そう言うと、閑は歩き出していった。四人は呆然とその背を見送る。

 

「あれ、本当に閑さん…ですよね?」

「え、ええ…見た目は間違いなく…」

「私達の知っている閑さんとは間違いなく違いますね。これは厄介ですよ」

「ねえ、とりあえず大尉や百由様に相談してみようよ」

 

 雨嘉の提案に皆は頷く。

 

「こちら救出チーム。深井大尉へ」

「こちら深井大尉だ。方針は決まったか?」

「ええ…でも、一つ問題が」

「なんだ?」

「先程クラスメートと遭遇したのですが、私達の知る人物とはその…口調が全く異なっていまして…」

「フムン」

 

 すると、百由がマイクに向かって言う。

 

「まるで深井大尉と同じ気分ね。知っている人なのにどこか違う…」

 

 桂城少尉もそれに続けて言う。

 

「こちら桂城少尉だ。そうなると、面倒な点が出てくるだろうと僕は思う」

「それは?」

「状況は違うが、深井大尉はもう一人の自分と遭遇した。つまり、君達にも同じ事が起こり得るって事さ」

 

 少尉の一言を聞いた四人の背に冷や汗が流れる。万が一、この世界の自分と出会ってしまったらどうなってしまうのだろう…少なくとも、さっきの様に誤魔化しは出来ない。そうなればこの学院全体から不審人物として追い回され、最悪の場合には捕縛される可能性すらあるだろう。

 

「で、今後の方針は?」

「大尉。とりあえず、まずはこちらの電波暗室を探ってみますわ」

「フムン」

「もしかしたらその中にいるかもしれませんし。また、先程目撃情報を一つ得ましたが、そちらを探るのはリスクが高いと判断しますわ」

「目撃情報…先程会ったという件の人物から聞いたのか。しかし、何故リスキーだと判断した?」

「その場所が場所ですからね…一柳隊の控え室に梨璃さんが寝ているという話ですわ」

 

 一柳隊の控え室となれば、当然こちらの世界の面々が勢ぞろいしている可能性が極めて高い。そして、その中にこの世界の自分もいる恐れがある。よって、鉢合わせしてしまえば先に想像した通りの大騒ぎは間違いなしだ。

 

「まるで虎穴だ。飛び込むなら覚悟が必要となるな」

「ええ、できれば回避したいですわね。行くとしても最後にしようかと」

「まあ、それが得策だ。騒動になったらいよいよ動けなくなる」

 

 そう語りながらも一向は工廠科の区画を慎重に歩く。誰かと遭遇しないかとヒヤヒヤしつつ、なんとか電波暗室までたどり着いた。すると、扉の向こうに気配がある。

 

「待って、誰かいる」

「あのお二人かしら?」

「とりあえず、調べてみましょう。少しだけ扉を開けて中の様子を…」

 

 と、二水が言った途端に扉が開いた。そして、四人の視線の先には捜索対象の姿があった。

 

「夢結様…」

 

 しかし、その夢結はどちらの夢結なのか…見た目だけでは判断できない。すると、怪しむような四人のその視線に気づいた夢結がため息をつきながら口を開く。

 

「本当に私なのかと疑っている、そんな所かしら?さて…あなた達、雪風という名前に心当たりは?」

「夢結様!ええ、分かります。分かりますとも!」

「よかった…しかし、どうやってここに?」

「深井大尉から知恵をお借りしましたの。そして、どんな手段なのかは分かりませんが…雪風のサポートでこちらに」

「雪風が…」

 

 その一言にホッとした表情を浮かべた四人は夢結へと駆け寄る。雪風の力でここに来たという話に夢結は信じられないといった表情をしている。そして、楓は無線で報告を飛ばす。

 

「こちら救出チーム、深井大尉へ。夢結様を発見しましたわ」

「そちらからの映像で確認した。こちら側の人物で間違いないか?」

「確認済、間違いありません」

「了解。もう一人…一柳は?」

「いえ、まだ…これから調査しますわ」

 

 そうこうしていると夢結の背後から人影が現れる。そして、モニタでその映像を見ていた百由は絶叫。

 

「わ、わ、わ…私!?」

「いても不思議ではない…救出チーム、その後ろにいるやつとは接触しても問題ないのか?」

「こちら救出チーム、目の前の百由様については夢結様とトラブルに至っていない事から友好的な接触が可能かと」

「了解、可能な限り情報を収集せよ。なお、こっちの同一人物は映像を見て呆然自失になっている」

「了解ですわ。まあ、無理も無いでしょうけど…」

 

 楓は意を決してこの世界の百由に話しかける。

 

「ごきげんよう、百由様。さて、早速ですが…今の事態についてはどの程度把握しているのでしょうか?」

「いえ、実際のところは全くよ。さっき様子のおかしい夢結を見つけて後は流れでこの部屋を見に来ただけ。で…説明してもらってもいいかしら?その見た事の無いCHARMの数々も含めて、ね」

「ええ、分かりましたわ。一からこの事態について説明致しましょう。でも、その前に…夢結様、梨璃さんは?」

 

 楓の問いに対し、夢結は沈んだ表情で答える。

 

「いえ、目が覚めた時には周りにいなかったわ…ここに来た理由も梨璃を探すという目的もあった」

「しかし、いなかった…と」

「ええ」

 

 そして、楓は百由に対して説明を始める。まず、自分達がこことは違う世界の住民である事。夢結と梨璃が何らかのトラブルに巻き込まれてこの世界に飛ばされた事。それを追って自分達が助けに来た事…

 

「とても信じられないけれど…実際にこの部屋の中の異変を見る限り、信じるしかないわね」

「という事は、何かが起こった形跡があったと」

「ええ、見た事の無い品々がいくつか転がっていたわ。それには私が書いたと思しき字があった」

「なるほど。向こうで無くなったという品々はこっちに流れてきたと考えてよさそうですわね」

 

 すると、夢結が質問を飛ばしてきた。

 

「さっき誰かと端末で話をしていたわね。もしかして、深井大尉もこっちに来ているの?」

「いいえ、大尉も少尉も来ていませんわ」

「では、どうやって通信を…?」

「何らかの手段…としか言いようがありませんわね。全ては雪風任せ…」

「最早何でも有りね。都合がよすぎると思えるぐらい」

「何もできないよりはずっとマシでしょう。例え気味が悪くとも」

 

 楓は大きなため息をつきながら夢結に答える。そして、通信という単語にピンとアイデアが浮かぶ。

 

「そうですわ、端末を使えばもしかしたら梨璃さんと繋がるかも…」

「理屈がどうであれ向こうの世界と繋がるなら、自分達が普段持つ端末で通話できてもおかしくない、という事かしら」

「ええ、試してみる価値はあるかと」

「そうね、試してみようかしら。表示は…やはり圏外か」

 

 そんな事を話していると、百由が一つの頼み事をしてきた。

 

「えーと、一つお願いがあるのだけど」

「なんでしょう、百由様?」

「その、そっちの世界の私と話をしてみたいなって…」

「えっ!?」

 

 一行はその発言に驚く。

 

「どうしてですの?」

「いや、純粋な興味かな。怖くもあるけど」

「えーと、少々おまちくださいませ」

 

 楓は端末を使って件の人物へとお伺いを立てる。

 

 

 

「え!?話をしたいって…いや、そうは言われても…」

「いいじゃないか、そのぐらい。何かいい情報を得られるかもしれない」

「深井大尉!?あなた、他人事だと思って面白がってない?」

「さあな。でも、俺と同じ気分を味わわせてやりたいとは思っている。俺だけ奇妙な気分を味わうっていうのは気分が良くないからな」

「あー、もー」

「救助チームへ、本人の許可を得た。通話可能」

 

 百由は頭を一度搔くと、恐る恐るヘッドセットを頭につける。

 

 

 

「この端末で向こうの映像も出るはずです」

「ありがとう」

 

 二水が百由にタブレット状の端末を手渡す。一方、夢結はその後ろで覚悟を決めながら端末の通話ボタンを押していた。すると、圏外表示であるが端末からはコール音が鳴る。そして、誰かが出た。

 

「もしもし…えっ!もしかして、お姉様ですか?」

「梨璃!?梨璃なのね!」

「はい…そうです。なにがどうなっているのかさっぱりで…」

「あなたは今どこにいるの?」

「その、控え室なんですが…なんか様子がおかしくて」

「控え室?分かった、これから向かうわ。ねえ、梨璃。一つ質問」

「なんでしょう?」

「雪風という単語に心当たりは?」

「え、雪風ですか?深井大尉や中尉の?」

「ええ、その通り。よかった、あなたは私の知っている梨璃ね」

 

 楓と神琳はその通話から控え室という単語を聞き取ると頭を抱えた。

 

「閑さんの話の通りですわね…」

「ええ、虎穴に飛び込む覚悟が必要になりますね…そして、百由様と同じ気分を味わう覚悟も…」

 

 そして、楓は天を仰ぐ。

 

「ああ、どうなってしまうのでしょう…」

 




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