迷い込んだブーメラン<改>【本編完結】   作:ひえん

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いざ虎穴へ

 百由はため息交じりに大きな深呼吸を一つしてからヘッドセットを取り付ける。そして、緊張した様子でヘッドセットに向かって言葉を発した。

 

「えーと、なんて言えばいいのか…ごきげんよう」

「ごきげんよう、そっちの私…いや、どうも緊張するわね」

「無理もないわ、同じ自分に話しかけているのだから」

「そうね。で、そっちの世界はどういう状況なの?その隣の男の人は誰よ?こっちじゃ見た事無いわ」

「えーっと…正直言ってお手上げなぐらいの混沌っぷりね。で、この男の人達…深井零大尉と桂城彰少尉がこの大異変にどっぷり関わっている当事者よ。中心人物と言ってもいいぐらい」

「どういう事かしら…敵がヒュージなのは同じよね?」

「ええ、そこは同じよ。でも、とてつもなくイレギュラーな事態が先日発生したの」

「と言うと?」

「何もかも違う全くの異世界から偵察機がやって来たと言ったら理解できる?」

「は?」

 

 並行世界の百由はその一言を聞いて口をあんぐり開く。その一言に理解が追いつかなかったからだ。あまりにも荒唐無稽過ぎる。そして、画面の向こうの自分はこれまでに何があったのかを淡々と説明し始めた。

 

 

 

 

 

 一方、楓達四人に夢結を加えた救出チームはこの世界の一柳隊控え室へと移動する前に策を練る。下手に突っ込めばこの世界の自分達と鉢合わせになるからだ。

 

「さて、問題はどうやって誰にも遭遇する事なく、あの部屋から梨璃さんを連れ出すか…ですが」

「難題ですわ、虎穴に飛び込むのはなるべく避けたいのですけれど」

 

 楓と神琳が困り果てたようにそう会話していると、夢結が案を出す。

 

「さっきみたいに端末を使いましょう。私達が近くまで行ったら控え室から抜け出すように、と梨璃に伝えて」

「名案ですわね。それでいきましょう」

 

 こうして策は決まった。移動を開始しようかと考えたところで夢結が百由に声をかける。

 

「百由、あなたはどうするの?」

「ちょっと待って、後で追いかける」

「分かったわ」

 

 そして、救出チームは歩き出す。念の為にとCHARMを準備、五人は周囲を念入りに警戒しながら歩く。細々した所以外、校内は元の世界とあまり変わらない。だが、普段見慣れた景色と細々違うという差異から無意識のうちに違和を感じ取る。結果、五人の内心では焦る気持ちが強くなっていく…そうして自然と歩く速度も上がっていった。早く事を済ませて脱出したい、そんな念が彼女達の背を押している。

 そして、控え室に近づいてきた為、手筈通りに夢結が端末を使って梨璃に指示を飛ばす。

 

「いい?今から控え室前に移動するから、あなたはうまく部屋を抜け出して」

「分かりました、なんとかやってみます…」

 

 通話を終えると、五人は控え室前へと前進。すると、控え室の扉が開いている。そこに背を向けて立っている姿が見える。あれは…

 

「梨璃さぁーん!」

「あっ!?楓さん、落ち着いて!」

 

 二水の止める声を置き去りにして楓が飛び出した。そしてその勢いのまま梨璃を抱きしめる。しかし、相手からは困惑した声が出る。

 

「やっと再会できましたわ!」

「えっ?楓ちゃん!?」

「ちゃん?あらあら、なんて可愛らしい呼び方でしょう…素敵ですわ、梨璃さん」

「えっ?」

 

 すると、梨璃の隣から困惑した声が飛ぶ。

 

「どういう事…楓さんが二人…?」

 

 そこには夢結がいた。楓は恐る恐る元居た背後へと振り返る。しかし、そこにも夢結がいる。これはつまり…

 

「こっちの世界のお二人!?」

 

 その光景を見ていた救出チーム残りの四人は唯々天を仰ぐ。そして、もう一人の自分の姿に気が付いたこちらの世界の夢結は唖然とし、口に手を当ててそのまま言葉を失っている。一方、部屋の中からも騒がしい声が響く。

 

「梨璃が二人だって!?なんだ、どうなっているんだ!!」

「まさか、新手のヒュージ!?」

 

 そして、外の異変に気が付いたのか次々と控え室からCHARMを抱えたリリィ達が飛び出してくる。それは物の見事に一柳隊の面々だ。そして、その飛び出した面々は外にいる救出チーム一行の姿を見てやはり愕然としている。そんな状況に楓は大慌てで後退し、一方の救出チーム一行は覚悟を決めてCHARMを構えた。

 

「なんてこと、揃いも揃ってダインスレイフばかり…嘆かわしいですわ、向こうの私まで他社製のCHARMを使っているなんて」

「軽口叩いている余裕はないわ、楓さん。問題はどうやって中から梨璃を無傷で救出するか…」

「しかし夢結様。この状況では中で既に拘束されている可能性も高いかと」

「でも、強行突破は避けたいわね…騒ぎになると他のレギオンまで大集合という最悪のパターンよ」

 

 双方はジリジリと距離を詰める…まさに一触即発の状況である。すると、そんな空気を崩すように端末の着信音が鳴り響く。その音の出所はこの世界の夢結からであった。鳴っているだけ気が散る。夢結はたまりかねて通話ボタンを押す、後でかけ直す…ただ一言そう伝えようとしたところで相手からの声が飛んできた。

 

「おっと、切らないでね!今そこに自分がもう一人いるでしょ」

「…ちょっと、何故分かるの?百由」

「そっちより先に私が会ったからよ。で…彼女達は少なくとも敵じゃないわ、穏便に対処しなさい」

「一体どういう事なの?説明して頂戴」

「あー…今からそっちに行くわ、説明はその際に。いい?絶対に事を荒立てないようにね。後、他の人達に見られないようにして頂戴。騒ぎになったらお手上げよ。じゃあ、切るわね」

「ちょっと!!」

 

 そして、通話が切れてこちらの世界の夢結は盛大なため息をつく。そして、口を開いた。

 

「百由が何か知っているみたい。とりあえず、双方CHARMを降ろして頂戴」

 

 こちらの世界の一柳隊一同は困惑しつつも指示に従う。そして、それを見た救出チームも同じくCHARMの切先を下へと降ろす。

 

「こちらの世界の百由が手を打ってくれたみたいね」

「ええ、夢結様…しかし、あちらとはどうコンタクトしましょう?」

「さて、どうしたものかしら…でも、このまま廊下にいるのはハイリスクと言えるわ。一刻も早く控え室に入った方がいいでしょうね」

 

 そして、夢結は一歩前に出ると口を開く。

 

「その、話しかけても大丈夫かしら?こちらに敵意はないわ」

「え…ええ、とても状況を飲み込めないのだけど…あなたは本当に私なの?」

「そうよ、私は正真正銘の白井夢結。厳密にはこことは別の世界の…だけれど」

「違う世界…?」

「それは中で話しましょう。この光景をよそに見られるとまずいわ」

 

 二人の夢結がそう会話を交わすと、一行は控え室の中へと入る。そして、部屋の中にはソファーに腰かけた梨璃の姿があった。

 

「お姉様!!…えーと、どっち?」

 

 そんな梨璃の視線の先には夢結が二人、見た目は全く同じで見分けがつかない。困惑するのも無理はない。すると、その内の一人がため息を一つ。そして、端末を取り出すと、通話ボタンを押す。途端に梨璃の端末が鳴った。

 

「お姉様!」

 

 梨璃は満面の笑みを浮かべて端末を持った方の夢結へと飛びついた。そして、救出チームの面々はホッとした表情を浮かべる。

 

「これで二人を見つけ出せたね、神琳」

「ええ。しかし、ちょっと厄介な事になってしまったわ…そこに自分と同じ顔があるというのは複雑ね」

「これが深井大尉と同じ気分…なのかな」

「そうでしょうね…話しかけるだけでも勇気が必要だわ」

 

 一方、この世界の梨璃は目の前にいるもう一人の自分の顔をまじまじと見ていた。

 

「うわあ、まるで鏡みたい。本当にそっくり…あ、よく見ると髪飾りが違う」

「あの…ごめんね。こんな大騒ぎ起こしちゃって」

「大丈夫だよ。誰も怪我したりしていないし…それで、何が起こったのか教えて欲しいな」

「うん、それがあんまりよく覚えていないの。百由様の依頼で部屋の監視をしていたら気を失って、気が付いたら別の世界…ここに飛ばされちゃったみたいなの」

「つまり事故?」

「そうなるのかなあ…どうしてこうなって、更には楓さん達までここに助けに来たのかまでは分からないけど」

「別の世界かあ…聞いてみたい事はたくさんあるけど。あなたもラムネは好き?」

「それは勿論!」

「やっぱり、そこは同じなんだね。じゃあ、冷蔵庫にあるから取ってくる」

「うん、ありがとう」

 

 そんな二人の梨璃の様子をうっとり眺める二人の楓。

 

「ああ…梨璃さんが二人!数は倍、可愛さは2000倍以上ですわ…」

「尊いですわ…これぞまさに奇跡…!!」

「梨璃さん達!もうちょい寄ってくださいまし!はい、そこでストップ」

「シャッターチャンス!ナイスですわ、流石は私!!」

 

 そして、二人の楓はここぞとばかりに端末とカメラで撮影開始、室内にシャッター音が鳴り響く。また、部屋の片隅では二人の二水が興奮したような様子で写真らしきものを見せあっている。そんな光景を見て頭を抱える二人の夢結。

 

「苦労するわね…」

「お互いね…」

 

 その一方、救出チーム側の神琳は端末を操作すると元の世界へと通信を開始。状況を報告する為だ。

 

「こちら救出チーム。深井大尉、聞こえますか?」

「こちら深井大尉、通信良好」

「状況報告ですが…梨璃さんを発見し、合流に成功しました」

「了解、映像でも確認している。こちらも生徒会の連中とジャックが来たので、状況を説明していたところだ。で、確認するが交戦はしていないな?」

「ええ。ギリギリで回避しました」

「フムン」

 

 端末で通信する神琳を雨嘉はぼんやり眺めていた。耳につけたイヤホンからその会話の内容が聞こえてくる。どうやら向こうも大騒ぎになっているらしい。

 

「あの、雨嘉さん」

 

 自分を呼ぶ神琳の声が背後から聞こえ、雨嘉は仰天する。目の前の神琳は通信を続けている…では、この声は?雨嘉は恐る恐る振り返る。すると、そこには神琳がいた…この世界の神琳だ。

 

「えっと、どうしたの…いえ、どうしましたか?神琳さん」

「そんなに畏まらなくてもいいですよ。普段、もう一人の私に話しているような口調でどうぞ」

「じゃあ…どうしたの、神琳?」

「ええ、もう一人の私は誰と会話しているのか気になって…」

「元の世界の百由様や深井大尉と…あ、こっちに大尉達はいないか」

「大尉という事は…相手は軍人かしら?」

「うん、パイロットだよ」

「パイロットですか?」

「えーと、正真正銘の異世界から飛ばされてきた異世界人」

「え?」

 

 雨嘉のその一言に神琳は絶句する。とてつもなくスケールの大きい話が出てきて困惑したのだ。そして、もう一人の自分達から詳細な話を聞く必要があると心の内で考える。

 一方、雨嘉はもう一人の自分へと視線を向けた。彼女は心配そうにこちらの世界の神琳を見つめている。その様子を見て、雨嘉はどこか安心した心地になった。こちらの世界でも自分と神琳の関係は同じような感じなのだろうと感じ取ったからである。

 

 そんな中、勢いよく部屋の扉が開く。すると、皆が何事かと反射的に扉の方へと視線を向けた。

 

「待たせたわね!」

 

 端末と小型ディスプレイを抱えたこの世界の百由の姿がそこにはあった。

 

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