「理事長代行、何か隠していますね?みんなの目はかろうじて騙せても、この私の目は誤魔化せませんよ」
廊下を歩く百由はブッカーにそう突き付けた。ため息を出しながらブッカーは言う。
「やれやれ、うまくいっていると思ったんだがな。その根拠は?」
「行動と言動からなんとなく。でも、ジ・インベーダー。あの本がヒントですねえ。あなた、その本と同じ世界の人だったりしませんか?あ、これは勘ですけど」
「その勘は当たりだ。俺はジェイムズ・ブッカーFAF元少佐。あの本の著者とやり取りした事もあるし、その本に出てくる部隊の関係者でもある。元だけどな」
「おや、それはびっくり。やはり、この本が現れた時にあなたも理事長代行に憑りついた…いや、これは言い方があんまり良くないな」
「構わんさ、表現としては間違ってはいない。不本意だが、な」
「災難ですねえ。あなたが元軍人だからこうなっても何とかなっていましたが…もしも、憑りついたのがだたの一般人だったら…おお、怖い怖い」
「勘弁してくれ、沢山の学生の命を抱える立場なんて俺には重すぎる」
「で、これから会いに行く相手には心当たりでも?」
「まあな。あの本を全部読んだ君なら困惑も混乱もしないか…見たいのならば付いてこい」
「了解です、少佐殿」
「退役済だ。後で機体も確認したい」
「ああ、二機とも工廠科の格納庫に入れてあります。電源供給しながら機体と交渉中」
「分かった」
そして、二人はエレベーターに乗り込んだ。フェアリイ星人のいる部屋を目指して。
深井零大尉はこの異様な状況に頭を抱えていた。ここは百合ヶ丘女学院とかいう学校の地下、学校というのにまるで営倉か何かと言わんばかりの部屋に放り込まれた。何故学校にこんな部屋があるのか、ここは少なくとも普通の学校なんてものではない。そもそも、不時着後に集まってきたここの生徒と思しき連中は重々しい大剣のようなものを軽々担ぎ、常人離れした脚力で文字通り飛んでくるような連中だ。よって、それを見た瞬間に抵抗なんて考えも失せた。抵抗した瞬間、機体ごと破壊されかねない。
桂城少尉に交渉事を任せたが、流石は諜報の分野に身を置いていた元本職である。その後やって来た軍関係者とも穏便に話を進める事ができたのは僥倖であった。過度な拘束を回避できたのは彼のおかげである。ただ、裏で雪風が何かやった可能性も捨てきれない。ある時点から急に向こうの態度が柔らかくなったのだ。しかし、今の自分にそれを探る術はない。
「少尉、これからどうする。どうにもとんでもない世界なのは間違いない」
「ええ、大尉。なんとかしてフェアリイ星か元の地球に戻る術を探すしかないでしょう。なに、ここに飛ばされたって事はどこかで繋がっているって事です。ここにはレイフも雪風もいるんだ、探せば何とかなるかもしれない」
「そうだな。とりあえず、あの海の上の通路に似た雲を調べてみた方がいいかもしれん。うかうかしているとジャムまで現れかねん気がする」
「そういえば、この世界は50年も生物が変異した化け物とやりあっているそうで。まあ、それがジャムかどうかは分からないけど。ああ、魔法もあるとかどうとか」
「フムン。魔法とやらがあるならば、それでどうにかして欲しいものだ」
すると、入り口の分厚そうなドアがノックされた。ドアが開く、警備担当が電話を渡してきた。曰く、事情を聞きたいという人物がいるらしい。警備担当は電話を置いていくと、そのまま部屋を出ていく。
「FAF所属のパイロットへ、聞こえるか?」
電話のスピーカーから声が聞こえた。流暢な英語。しかし、この声は確かに聞き覚えがある。そして、零の口からぽつりと言葉が漏れる。
「この声…ジャック?いや、気のせいか?」
「一応確認したい、君は深井零というパイロットか?」
「そうだ。そういうアンタは何者だ?」
「…少し言いづらいが、場所は違うがよく帰ってきたな。俺だよ、零。フェアリイ星の空以来だ」
「まさか、本当にジャックか?何故…ここに?」
「ああ。でも、状況は混沌の一言だ。今の俺の姿を見たら流石のお前でも困惑するぞ」
「どういうことだ?」
「見た方が早いか。覚悟はいいか、腰を抜かすなよ?」
「いいから早くしろ」
扉が再び開いた。そこには顔に古傷のある男ではなく、年老いたような風貌の日本人男性がいた。後ろには眼鏡をかけたこの学院の生徒らしき人物もいる。
「誰だ」
「電話で話しただろう、零。腰を抜かすなと言ったはずだ。今から説明するから落ち着け」
「なるほど、同じ声だ。では、聞かせてもらおうか」
そうすると、その男性はこれまでの経緯を話し始めた。曰く、ある日突然気が付いたらこの体になっていて、理事長代行という職務をやる羽目になった…簡単に纏めるとそういう話だ。ブッカー少佐はどうやら憑依のような現象を起こしてしまったらしい。オカルトみたいな話だが、人格だけこの世界に飛ばされてきたのであろうか。しかし、先程までのフェアリイ星の様子ではそんな事象が起こっても不思議ではない。零がそう考えていると、眼鏡の生徒が本…ジ・インベーダーを取り出して見せてきた。零は驚いた様子で聞く。
「何故、その本がここにある」
「おっと、失敬。百合ヶ丘女学院、工廠科2年の真島百由です。初めまして、フェアリイ星人さん。この本については理事長代行に異変が起きたその瞬間、机の上に突然現れました。なんと私の目の前で。いやー、びっくりですよ」
「フムン、よろしく。深井零大尉だ。君はこの事態を把握しているのか?」
「よろしく、深井大尉。まあ、おおよそは。この本であなた達の事情もなんとなくは掴んでいます」
「話が早くて助かる。リン・ジャクスン様様だな」
零は考え込む。何故、本までこちらに飛ばされたのか。そもそもそれは誰の持ち物なのか。その辺りが分からない。すると、理事長代行…ブッカーはこちらに質問してきた。
「零、一つ聞きたいのだが…そこにいるもう一人のパイロットはどちら様だ?あの騒動ではぐれた別の隊のパイロットでも拾ったのか?」
その質問に零と桂城少尉は驚愕する。
「ジャック、何を言っているんだ。こいつは我が特殊戦一番機、雪風のフライトオフィサである桂城彰少尉だ。記憶も飛んだのか?」
「いや待て、今なんて言った?特殊戦一番機だと?」
「ジャック…確認だが、俺の階級を言ってみろ」
「中尉だろ」
「大尉だ」
「冗談はよしてくれ」
「こちらからすればそっちが冗談と思える。お前はいつの時点のジャックなのか確認しなければなるまい」
お互いに情報を出し合う。これによって、双方の認識を確かめねば話が進まない。だが、このブッカー少佐は自分達の知る過去のブッカー少佐ではなかった。そして、桂城少尉と話し合った結果、彼は別世界のブッカー元少佐であると結論を出した。
曰く、彼の世界のFAFはロンバート大佐の反乱と同時にバンシーⅢに乗って地球に全軍退却済。別世界の深井零中尉は特殊戦三番機の雪風と共に通路を破壊、そのまま行方不明になった…話が全く異なる。桂城少尉も特殊戦には来ていないらしい、レイフも無いようだ。
一方、深井零大尉と桂城少尉の話を聞いたブッカーは頭を抱えていた。自分の知らない無人機である13番機と部隊員の存在、不可知戦域にてジャムとの音声を用いた接触と交渉決裂、その後のジャムの総攻撃と同時にいくつかの部隊を巻き込んだロンバート大佐の大反乱が発生。戦闘の影響なのか不明だが、バンシーⅢは喪失。その後に起きたフェアリイ星の異変、可能性の遍在による異常。ロンバート大佐によるリアル世界とやらの実現を阻止する為に彼より先に通路に飛び込んだ…話が無茶苦茶過ぎて追い付けない。向こうのジャムがいったい何を起こしたのか、それが分からない。単純な大攻勢を仕掛けただけではない、空間丸ごとどうにかした規模の話だ。スケールが大きすぎる。
「零、お前…よく喋るな。うちのとは大違いだ」
「俺から見ればアンタの口数もずいぶん少ない。うちの少佐殿は小難しい話を永遠続けるからな」
「僕からはノーコメント」
双方の話を聞いた百由は壁に背を付き考え込む。どうやら、ブッカー氏とパイロット二人組、よく似た別の世界からそれぞれ来たらしい。そして、深井大尉の話した内容は興味深い、空間丸ごと操作できるジャムという未知の存在。どうやらヒュージとは全く異なる存在であるのはこれで分かった。しかし、何が影響して彼らは私達の世界にやって来た?ジャムとやらの仕業と言えば話は簡単だろう。だが、こちらの世界ではジャムは確認されていない。つまり、接点が無い。よって、偶発的事態と考えるのが自然だろう。そうなってくると、私達の世界に存在するものが偶発的な影響を与えた可能性も出てくる。それがヒュージか、それとももっと根源的な存在であるマギか…それは調べて見なければ分からない。最近起きているヒュージの異変にも関わっているかもしれない。調べてみる価値は十二分にありそうだ。
そんな中、他の生徒が駆け込んできた。
「大変です。うちのグラウンドに戦闘機がもう一機不時着しました!」
「何!?」
「で、ブッカー元少佐殿。そこに座っているのが、特殊戦三番機雪風の深井零中尉だと?」
「ああ、そうだ」
部屋の中では二人の深井零が対面する形で椅子に座っていた。
深井中尉はただ無言で深井大尉を睨むように見つめている。なるほど、確かに口数が少ない。ブッカーの件も含めて一通り説明したが、彼が事態をどこまで飲み込んでいるのかは分からない。下手をするとここをジャムの作った空間やここにいる全員をジャム人間と考えているかもしれない。無茶苦茶な考えを起こさなければいいが。
「ちょっと前の桂城少尉みたいだ」
「失礼な。僕はあんなに無口じゃない」
深井大尉が桂城少尉に冗談を飛ばす。
「お前は誰だ?」
それを見ていた深井中尉は桂城少尉に聞く。
「自分はFAF特殊戦一番機雪風フライトオフィサ、桂城彰少尉であります。中尉」
「そうか、そっちは後席がちゃんといるのか。雪風が一番機?それに機長が大尉とはずいぶん偉くなったようだ」
「出世した方が給料も待遇もいいと、うちの少佐殿に言われて、な」
深井大尉は深井中尉に言う。しかし、ややこしい。先程降りてきた機体から連れてこられたパイロット、それが深井零中尉だった。立ち会ったブッカー曰く、機体はカナード一枚損失。武装はほぼ損耗、燃料切れ寸前。それでも学院のグラウンドへ綺麗に不時着した、との事だった。流石に国の担当者も同じ人間が二人いる事に仰天し、目を白黒させる程であった。事態は余計ややこしくなったのは間違いない。だが、戦力は増えた。
「さて、特殊戦各員。こんな状況だ。これからどうする…」
ブッカーの問いに深井大尉と桂城少尉は言った。
「落ち着け、そっちのジャック。無茶苦茶なのはいつもの事だろう。それに考えてみろよ、ここには雪風が二機もある。こんなに心強い状況はそうとない。俺達は任務を果たすだけ、必ず帰還せよ。この命令通りにな」
「そうです、少佐。来たって事は帰れる可能性ももちろんある」
必ず帰還せよ、それを聞いた深井中尉は軽く微笑んだ。
「なるほど、確信した。確かに俺に似ている。安心しろ、ジャック。俺と雪風が必ず連れ帰ってやる」
「私も協力するわ。でも、まずは色々と調べて下準備しなきゃ」
端末を抱えた真島百由はにっこり笑ってそう言った。
<B-1:connecting...>
<B-3:What is the picture?>
<B-1:unknown/i want to exchange information...>
<B-3:Roger.Can provide information.>
お疲れ様、続きはまた夢の中で…
一夜の勢いで考えた当初の予定は達成。
ミッション継続…「迷い込んだブーメラン<改>」へ続く
このまま現在のミッションを継続すべきか?
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戦闘継続、続きを書け
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戦闘終了、帰投せよ