迷い込んだブーメラン<改>【本編完結】   作:ひえん

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RTB

 ヒュージネストを壊せば元の世界に帰れるかもしれない…ブッカーのその発言に特殊戦の三人が驚いた表情を浮かべる。

 

「いや、ネストが帰還への鍵だという事は分かっているが…だが、破壊して大丈夫なのか、ジャック」

「あくまでこちらで考えた仮説だよ。でも、何かしらの変化は起こるだろう。それだけあのネストは怪しい」

「何かしらとは何だ?」

「私が説明するわ、深井中尉」

 

 そうして、端末を抱えた百由が説明を始めた。

 

「さて…あのネストからマギが放出されて、空中の謎の穴へと消えているわよね。で、このマギがあなた達をここに引っ張り込んだ異変を起こしたと思われるというところまではいいわね?」

「そこは理解している」

「それで、このマギの供給が止まれば異世界との繋がりが絶たれる筈。そうすればあなた達がこの世界に繋ぎとめられる事も無くなると考えたの」

「では、なんだ。あのネストのせいで俺達はこの世界に放り込まれた上に帰れなくなっていると?」

 

 深井中尉がネストの想像図を指差しながら言った。

 

「例のCHARMでネスト全体がおかしくなった結果ね。でも、それだけだとなんかこの世界に来た理由が足りない気がするわ。そうね…深井中尉も深井大尉も超空間通路に入ったという点は共通しているのよね?」

「ああ、そうだ。向こうもこっちも戦闘中に…だ」

「戦闘中…つまり、普段の状況とは異なる状態で通路に入った?」

「そうなるな。そして、こちら側に至っては核を使って通路を破壊している」

 

 深井大尉も一度頷くと続けて口を開く。

 

「こっちはジャムのせいで星が丸ごと奇妙な空間になっていた、と考えられる。例の曖昧な空間だ」

「なるほど…いやでも、それぞれ別世界の出来事で直接の繋がりなんて無いし…」

「崩壊した通路がおかしくなってここに繋がった可能性は?」

 

 桂城少尉の意見に百由は首を横に振った。それを断定できる程の根拠が無いのだ。

 

「その通路がどういう理屈か分からないからなんとも。いや、だからこそ何でも仮説を言えるけれど…それは結局、あらゆる可能性があるって事になるわ。あれこれ考え始めるとキリがない。まあ、それを偶然の一言で片づけるならともかく」

「そういえば…この前、お前が言っていたじゃないか。マギは世界を変える力だと考える人も世の中にはいる、川添美鈴が世界を変える為にそんな考えを使ったかもしれない…と」

「ああ…そういえば、そんな事もこの前考えたわね。そして、マギがこっちからそっちの世界に流れ込んだかもしれないとも。でも、何故そうなったのかと考えるとどうにも理由が見つからないわ」

「その辺りはともかく、暴走したマギによってここへの道が出来てしまったのは間違いないだろう。しかし、それがどちらかの世界に繋がったとしても…だ。何故、並行世界のもう一機の雪風までやって来た?」

 

 百由はうーんと唸る。

 

「これは完全に思い付きだけど…おかしくなった通路の中で雪風という存在が重なり合ったという可能性は?物理的ではなく、概念的に」

「それぞれの世界の雪風が異常な状態の通路に飛び込んだ…という共通点は確かにある。しかし、何故こんな事態を引き起こしたのか。それが分からない。概念で考えたらそれこそ何もかもあやふやだ」

 

 話が続かず、三人はどこか困ったような様子で口をつぐむ。そうして、沈黙が場を包む。

 

「いや、それについてはなんか心当たりがあるな」

 

 桂城少尉が何か思いついたような顔を浮かべて言う。

 

「僕らがいたフェアリイ星はジャムが何もかもぐちゃぐちゃにした曖昧な空間だったんだ。だから、それで別の可能性であるもう一機の雪風と存在が重なったのかもしれない。今出た話の様に」

「フムン、ありえそうだ。問題はそれをジャムが意図してやったのか、だな」

「この世界に僕らが飛ばされたのはジャムの想定していない事態ではないかと前に予想はした。そして、僕はまだそう考えている」

「フムン。結局、ジャムやロンバート大佐はここに出てこなかった。よって、その可能性は高いと言えるだろう」

「それにジャムが僕達を閉じ込めるつもりなら、件のネストが機能不全なんて事態を起こす訳がない」

 

 そうして、そのまま話題は変わる。もう一つの謎についてである。

 

「不可思議なのは二機の雪風だけじゃない。何故、ジャックは精神だけこの世界に飛ばされたんだ?」

「それもそうだ。俺の世界のジャックだけ飛ばされた理由も分からない。何故、大尉の方のジャックは飛ばされなかったのか」

「レイフは来たけどな。いや、これについては通路に飛び込んだ物体という共通点があるのか?あの墜落していたシルフィードも含めて」

「ジャックは通路を潜っていないから精神だけ飛ばされた…と?」

「フムン。そういえば、電波暗室の一件も精神だけ漂流したな。B-1が介入する前の時点だ」

「確かに…でも、そうだとしても何故ブッカーさんがそっちの地球からこっちに来たのか分からないわ」

 

 すると、深井中尉がポツリと呟いた。

 

「そういえば、最後に飛んだ時に必ず帰還しろと言われたな」

「それはいつもの命令だろう」

「まるで雪風のたどり着く先にジャックが用意されたようだと、ふと思ったんだ」

「命令を果たす為に辻褄を合わせた…?まさか」

 

 深井中尉の一言を聞いた百由は口を開けて唖然としたようにそう呟く。

 

「フムン、辻褄と考えたか。それだと誰がその辻褄を合わせたのかという話になるな」

「うちの雪風にあんな無茶苦茶な能力は無いし、この世界に現れた時のそっちの雪風がこちらの事情を知っていたとも思えない」

「確かにそうだ。結局は謎か」

 

 各々こうして考えを並べていくが、どれもあくまで想像と仮説ばかりであり、明確な結論らしい答えは出ない。何故、二機の雪風が来たのか、ブッカーは何故精神だけ飛ばされたのか、その答えにたどり着くのは現状困難であるとしか考えられない。

 

「まあ、明日の事もある。この辺りにしておこう」

 

 ブッカーがそう言うと、この場は一先ず解散という流れになった。そして、深井大尉は愛機の点検をする為に格納庫へと向かった。すると、既にもう一人の自分はB-3のコクピットで作業を始めている様子である。

 

「中尉、元の世界に帰ったら何をするつもりだ?」

 

 深井大尉は深井中尉にそう尋ねた。彼の向かう先は並行世界の地球であり、ブッカーの話の通りならそこに現状ジャムの脅威は無い。もし、ジャムが突然いなくなったら自分は何をしようと考えるだろう…

 

「まだ、何も考えてはいない」

 

 まあ、無理もないか…と深井大尉は考える。

 

「だが、とりあえずはジャックの所に行くつもりだ」

「フムン」

「どうせ、それも短い休暇になるのは間違いない。ジャムは必ずまた現れる筈だ」

 

 深井中尉の言葉に深井大尉は頷いた。彼は一切油断していない、本能的にジャムの脅威を感じ取っているのである。よって、例え通路が消えたとしても、ジャムとの戦いはまだ終わっていないと考えているのだ。

 

「大尉の方はどうするんだ?」

「決まっている、命令通りにフェアリイ星へ帰ってジャムと戦うだけだ」

「そっちはまだ戦争真っ只中…当然か」

「ああ、まだ問題山積みだ」

 

 そんな話をしていると、梨璃がやって来た。

 

「お二人とも、その…記念に写真を撮りませんか?みんなで一緒に」

 

 彼女はそんな提案をしてきた。そして、深井中尉は断る為に『くだらない』と言おうとするも、別の方から声が飛ぶ。

 

「いいじゃないか、零。写真ぐらい」

「ジャック、それは命令か?」

「いいや、お願い程度の話だ。深井大尉は?」

「上官がそう言うのなら断る訳にはいかないだろう」

「だから、命令では無いと言っただろう。ただの記念写真だ」

 

 ブッカーがそう言うと、二人の深井零はしぶしぶといった様子で歩き出す。その先には一柳隊、生徒会の主だった面々や百由の姿があった。既に桂城少尉もいる。

 

「仕方ない、早く済まそう」

「ああ、それがいい」

 

 思いの外、大人数が集まって格納庫の隅で記念の集合写真を数枚撮影。リリィ達だけでなく、機体の面倒を見てくれた整備員や技術者達とも写真を撮る事となった。

 そして、一通り終わってやっと解放されたかと思いきや、今度は政府や軍の人間達がわざわざヘリに乗って挨拶にやって来た。深井大尉はそれらを適当にやり過ごす、心の内ではうんざりしながら。しかし、やって来た連中の様子を見ると、単に自分達に別れの挨拶をしに来たというだけでは無さそうな様子である。

 

「あれもある種の偵察か…」

 

 深井大尉の視線の先では防衛軍の関係者が先の戦闘で撃破されたヒュージの残骸と戦場跡の写真を撮影していた。連中は先の戦闘の調査の為に何か理由を付けてこの学院にやってきたのか、はたまた挨拶のついでに戦闘の痕跡を調べているのか…そんな考えが心の中に浮かぶと、深井大尉は溜息をついた。そんな事を考えていても面倒だし、くだらない。それなら明日の支度をしていた方がまだ有意義である。そんな気分に至り、深井大尉は自室へと帰っていった。しかし、その途中の廊下で梨璃と夢結が待ち構えていた。

 

「深井大尉、これで最後になるかもしれないので…これまでありがとうございました」

「大尉、ご武運を」

「ああ、二人とも世話になった。そっちこそ幸運を」

 

 梨璃と夢結は一礼し、去っていく。そして、それを見届けると、深井大尉は再び歩き出す。

 

 

 

 深井大尉が自室へ戻ると、今度はドアの前に深井中尉が立っていた。その様子に深井大尉は意外そうな表情を浮かべる。

 

「どうした?」

「明日は俺と雪風…B-3が先に雲へ飛び込む」

 

 深井中尉は静かにそう言った。

 

「理由は?」

「勘だ。俺達が帰らないと何もかも解決しない気がする」

「フムン」

 

 そして、深井中尉は続けて言う。

 

「そっちはジャックが飛ばされていないが、こっちは飛ばされた。それだけ今回の問題と俺達の世界との繋がりは深い…そう思ったんだ」

「さっき、雪風のたどり着く先にジャックが用意されていたようだと言っていたが…それか。この事象に何かしらの条件が定められていると考えると、俺達が先に雲へ飛び込んでもここに戻される可能性はあるか」

「そうだ、だから先に俺が飛ぶ」

「それでもしも駄目だったらこっちが飛び込む。それでいいな」

「ああ、そうしよう」

 

 そのような結論を出すと、二人はそれぞれの自室へと入っていった。

 

 

 

 

 

 そして、翌朝。

 夜明けとともに一機のティルトローター機が学院の敷地内から飛び上がっていく。それはネストへ梨璃と夢結を運ぶ為の機体である。その機の爆音が周囲に響く中、格納庫の扉が開く。そして、二機の雪風とレイフが早朝の日差しを浴びながら仮設滑走路へと牽引されていく。そうして車両で所定の位置まで運ばれると、整備員達が集まって最後の点検を実施する。梨璃と夢結の見送りに行ったのか、生徒の姿は周囲に無い。

 

「いよいよここも最後か…いや、そうであってほしいが」

「ああ、いい加減帰りたい」

 

 二人の深井零は作業の様子を眺めながらそう呟く。そして、深井中尉は時計を一目見ると、ヘルメットを掴んで立ち上がった。

 

「じゃあ、先に行く」

「グッドラック、中尉」

「そっちもな、大尉」

 

 深井大尉との短い会話を終えると、深井中尉は機体へと駆けていく。途中、すれ違った桂城少尉と敬礼を交わす。

 

「中尉、幸運を」

「ああ」

 

 そして、機体に駆け寄ると、慣れた様子で機体を一周…目視点検を実施。それを終えてコクピットに滑り込むと、そのまま機体の離陸準備を進めていく。そして、手順通りにエンジン始動…スーパーフェニックスの轟音が周囲に轟く。

 

「こちらB-3、雪風。これより離陸する」

「了解、幸運を」

 

 深井中尉の無線に軍の管制がすかさず返事を返してきた。向こうも事情は知っている為、スムーズに許可を出してくる。そして、深井中尉はアフターバーナーを点火、周囲にいる整備員達に敬礼をするとブレーキを放して一気に加速。機体がふわりと浮いた途端に機首を大きく持ち上げると、あっという間に高度を上げていく。

 

「もう飛ぶのか…問題は無いか、零?」

「ああ、絶好調だ。ジャック」

 

 地上にいるブッカーから無線が飛ぶ。

 

「直接見送れず、済まんな」

「いや、いいさ…ジャック、無事に連れて帰ってやる。俺と雪風で」

「ああ、頼りにしているよ。あの二人がネストを破壊したらすぐに情報を送る」

「了解」

 

 そうして、B-3…雪風は大海原へと機首を向けた。

 

 

 

 B-3が飛び上がって少し経った頃、仮設滑走路にリリィ達が次々集まって来た。

 

「深井中尉は…もう飛んでしまったの!?」

「ああ、さっきのエンジン音がそうだ」

 

 あちゃー、と言いながら百由は空を見上げた。

 

「予定よりも早いじゃないの」

「俺よりも先に雲に飛び込むつもりだからな」

「何それ、初耳なんだけど」

「昨日決めた。アイツが言い出したんだ」

 

 百由は溜息を吐き出す。

 

「お土産渡せなかったわね」

「土産?」

「ええ、これよ」

 

 そう言うと、彼女は二つの紙袋を持ち上げる。そして、片方を深井大尉に手渡す。

 

「中身は?」

「まず、弁当でしょ。次に昨日の写真。後は一柳隊の皆からの手紙」

「フムン。で…何だこれは」

 

 深井大尉は袋の中に奇妙なものが入っている事に気が付く。

 

「ええ、CHARMの部品…マギクリスタルコアと制御機器。老朽化で使えなくなったCHARMから外して持ってきたわ」

「何故そんなものを?」

「うーん、まあ理由はいくつか…でも、端的に言うとそっちの世界にヒュージが現れた時に備えてかしら。そして、こっちの世界に飛ばされたという物的証拠ね」

 

 ほう、と深井大尉は呟く。元の世界にヒュージが現れる可能性は否定しきれない。それに証拠があるのならそれに越した事は無い。そう考えると悪くない土産だ、そう深井大尉は考える。すると、楓が話しかけてきた。そして、その後ろには一柳隊の面々が並んでいる。

 

「別れの挨拶が長くなっても悪いので、私が一柳隊を代表して…お世話になりましたわ、深井大尉、桂城少尉。どうか、お体に気を付けて」

「こっちこそ世話になった。頑張れよ」

「ええ、そちらも」

 

 そして、楓は空を見上げる。

 

「本当なら深井中尉にも挨拶しておきたかったのですが…」

「無線でも使うか?」

「いや、俺が向こうで伝えておくよ」

 

 ブッカーがそう言いながらこちらへとやって来る。

 

「お願いしますわ、ブッカーさん」

「なんだ、ジャックには別れの挨拶をしないのか?」

「もう済ませたよ、あの二人を送り出す時にな」

 

 そんな話をしていると、端末でネストの様子を見ていた百由が叫ぶ。

 

「アルトラ級の反応消失!あの二人がやったわ!!」

 

 すかさず、ブッカーが無線に叫ぶ。

 

「ネストの反応消失。零、行けるぞ」

「こちらB-3、了解。空に穴のようなものが見える…あれに違いない。突入する」

 

 その会話を聞いた途端に深井大尉と桂城少尉は駆け出した。

 

「じゃあ、今度こそお別れだ。世話になったな、ジャック」

「ああ、大尉。幸運を祈る…それと、そっちの俺にあまり無茶はさせるなよ」

「努力する」

 

 そして、二人は既に点検を終えたB-1…雪風の機内に飛び込む。そのままエンジン始動。深井大尉は機外に向けてラフな敬礼をすると、機体を仮設滑走路上に移動させた…レイフもぴったりと後に続く。

 

「こちらB-1、雪風。離陸する」

「B-1、離陸許可。グッドラック」

 

 管制からの返事が飛び込むのと同時にブレーキ解除、アフターバーナーの轟音を響かせて一気に加速。機が少し浮き上がると、ギアを格納…水平に近い角度のまま海上へと突き進む。そして、たちまち音速を突き破る。周囲には轟音と衝撃をまき散らしただろうが、人家が無いので気にする必要も無い。最短距離でネスト跡地へと向かって飛翔。既に巨大な雲の柱はその形を崩し始めていた…あまり時間は残っていないかもしれない。

 

「機長、周囲にB-3の反応は無い、データリンクも途絶。既に突入した模様。そして、フローズンアイに反応。空間に巨大な穴がある」

「少尉、そのまま注視しろ。それを目標にする」

「了解。全系統異常無し。レイフも同様」

 

<B-1:i have control...Lt>

 

 突如、雪風が自ら操縦すると言ってきた。そして、深井大尉は操縦を雪風に任せる。きっと、雪風には家路が見えているのだろう。それならば、任せた方が確実である。

 

「機長、突入5秒前」

「衝撃に備えろ」

 

 眼前には歪んだ物体らしきものが空中に浮いている、雪風はそれに向かってただ突き進む。その動きには迷いが無い…深井大尉はそれに安心すると、心の内で覚悟を決めた。

 

 そして、機体に軽い衝撃があったかと思うと、二人の視界はそのまま暗転した。

 




次回、エピローグ
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