「はあ、疲れたわ…」
生徒会長の一人、秦祀はそう呟きながら自室のベッドに倒れこむ。
「ずいぶんとお疲れのようね」
そして、そのルームメイトである2年生の白井夢結が声をかける。
「色々ありすぎてもうボロボロよ」
「お疲れ様。生徒会の仕事は今そんなに忙しいの?」
「ええ、ちょっと…機密だらけで詳しくは言えないけど。来客の対応がね」
ベッドに倒れこんだままの祀の一言から、夢結はいつから彼女が忙しくなったのかを考える。
そう、あれはあの日からだ。自分たち一柳隊が出動し、その帰り道に不時着した戦闘機を救援しようとしたあの日である。その日から学院内はどこか慌ただしく、外部からの車両の出入りもやたらと増えた。もっとも、一般の生徒にはそんな変化は無縁であり、普段通りに過ごしている。しかし、生徒会等は激務が続いているらしい。いったい、自分たちの知らぬところで何が起きているのか?夢結はそう考えながらも消灯時間に合わせて部屋の電気を消した。明日は一柳隊が当番で一日待機せねばならない、早く寝なければ。そんな事も考えながら。
そして、その翌日。
「眠い…」
「ミリアムさん、どうしました?ずいぶん眠そうですが」
ミリアム・ヒルデガルド・v・グロピウスが大あくびをしながら一柳隊の控え室に入ってきた。それを見た他の面々は心配そうに聞く。
「いや、大丈夫じゃ。昨晩急に図面を描けと百由様に色々押し付けれてな…それで睡眠時間がガクッと削れてしまったわけじゃ。あんな炭素繊維複合材でできた翼みたいな部品、何に使うのやら」
「大変そうですねえ」
それを聞いた一柳隊のメンバーである郭神琳が呟く。
「いやいや、面倒じゃったわい。しかし、最近どうも上級生がみんな徹夜してなにかやっておってのう」
「なんでしょう、何か工廠科でありました?」
「さあ?じゃが…みんなやばそうな笑みを浮かべつつ、目が血走っていてとても関わりたくないわ」
「さっき翼みたいな部品とありましたが。まさか、飛行機でも作っているとか…」
「いやいや、まさかそんな…いや、百由様なら何かの拍子にやりかねん」
そう言うと、ミリアムは栄養ドリンクの蓋を開けた。一柳隊の待機時間まではまだ時間がある。少し休もう、そう考えながら。
「さて…ここで見学か」
深井零大尉と桂城少尉は廃墟と化した鎌倉の街中にまで来ていた。見学スペースとして指定されたのは廃墟の屋上である。廃墟の中は荒れ放題。ボロボロの階段を上がると、屋上にはご丁寧にリゾートかカフェの店先にあるような大きな日傘と洒落たテーブル、椅子まで用意されている。そして、その隣にはクーラーボックスも置いてあった、何が入っているかは分からないが。周囲を見ていると、そこに百由がやってきた。
「やあやあ、深井大尉に桂城少尉。時間ぴったりですねえ」
「この日傘はなんだ」
「待機組の班がいつも色々持ち込んでいるので、お二人の分もついでに置かせていただいただけですよ。あ、何か飲みます?色々入っていますよ」
ほう、と零が呟く。そして、飲み物のリクエストを言う。
「それなら、冷えたビールがいいな」
「あー、その…アルコールはちょっと…」
「だろうな、冗談だ。コーヒーはあるか?」
「ええ、缶コーヒーですけどいいですか?」
「うちのブリーフィングルームに置いてあるコーヒーよりうまければなんでもいい」
そう言うと、零はコーヒーを受け取って椅子に座る。一方、桂城少尉はクーラーボックスの中を覗き込んで、缶のコーラを取り出していた。
「で、ここで見学か」
「ええ、ここなら上陸してくるヒュージがよく見えますので。それに待機組のレギオンも陣取っていますからねえ。何かあっても一安心ですよ」
そう言うと百由は指をさす。その先には別の日傘とテーブルがあった、そこでその待機する連中が屯するらしい。まだ誰もいないが、テーブルの上には茶菓子が用意されている。待機でなければただの茶会だろう。そんな事を考えながら零は海を眺める。すると、階段の方が賑やかになってきた。待機組の班とやらが来たらしい。関わるのも面倒だ、零はそのまま海の方を見る。テーブルには双眼鏡も置いてある、これで見物しろという事だろう。用意のいい事だ。桂城少尉は既に椅子に深く腰掛け、コーラの缶を開けてのんびり見物する気満々だ。
「あっ、百由様。ごきげんよう」
屋上に上がってきた一団、それはレギオンの一つである一柳隊だった。その中の一柳梨璃は百由を見かけるとにっこりとした笑顔で挨拶する。
「あら、ごきげんよう」
「どうしたんですか?こんな所で」
「ええ、ちょっと来客にヒュージ迎撃の見学を、ね。それの付き添い」
「なるほど。ああ、あそこの方々ですね。うん?」
それを見た梨璃は首を傾げる。その二人組の姿はどこかで見覚えがあったからである。そして、わずかに考えると、脳裏に黒い戦闘機の姿が思い浮かぶ…そして、思い出した。
「あっ、思い出した。この前の不時着した戦闘機のパイロットだ」
「ああ、そういえば…なんでここにいるのでしょう?」
二川二水が首を傾げながら言う。それに対して百由が答える。
「ええ、ちょっとねえ。異世界人に対ヒュージ戦と実物のヒュージを見てもらおうかと…あっ」
「…異世界人?」
百由はふと漏らしてしまった一言で頭を抱えながら唸る。
「しまった、疲労感でついうっかり口が滑った…ほほほ。いや、何でもないのよー。ただ、あの人達がちょっと変わり者だからつい、ね」
「怪しい」
「ああ、あれは明らかに動揺している顔じゃな」
一柳隊の視線が百由に刺さる。
「あはは…いや、その。これは機密なんでどうかご勘弁を…」
百由が引き攣った笑みで話を誤魔化そうとしていると、誰かがポツリと呟いた。
「フムン、やはり俺達は機密扱いか」
その一言で皆の視線が別の方向へと移る。その先には二人の男性、例のパイロットだ。梨璃が質問を飛ばす。
「あなた達はいったい何者なんですか?」
「俺達か?フム…お前達には関係ない、ただのフェアリイ星人さ」
「えーと…宇宙人?」
「冗談は程々に…見たところどこかの軍人、パイロットでしょう?所属、氏名、階級を聞いてもいいかしら?」
それを聞いた夢結は睨むような視線を飛ばしながら問う。彼らが不審な人物にしか見えないからである。そして、夢結はCHARM…ブリューナクの切っ先をその謎のパイロットに向ける。
砲と剣を一つの武器に纏めたその独特な形、砲の口径は人間が扱うには大きい部類。先端には木すら叩き切れそうな程の大きな刃が付いている。しかし、この武器のような物に例え本物の刃が付いていなくても、このようなサイズの金属の塊で思い切り叩かれればそれだけで無事では済まないだろう。それを見たパイロットはそう考えを巡らせ、フムンと呟く。そして、返事を返した。
「フェアリイ空軍戦術戦闘航空団、特殊戦第五飛行戦隊所属、深井零大尉。日本語は最近猛特訓してやっと思い出したんだ、そういう身振りを交えた難しい表現は使わないでほしい」
「そうかしら、実にシンプルな内容だと思ったけれど。しかし、聞いたことが無い国名ね」
「国名じゃない、フェアリイは星の名前だ。これが嘘だと思うなら、お前らの理事長代行殿に聞くといい」
「百由、これはどういう事?説明してちょうだい。このご時世、ガーデンやリリィ関係の技術や情報を狙う胡散臭い組織は掃いて捨てる程あるわ。この連中もその類?」
話を振られた百由は頭を掻いて唸る。夢結と零の間には殺気が漂っていた。
「百由様!このままだと収まりがつきません!!なんとか事情を話してもらう事はできませんか?」
慌てた梨璃が百由に言う。百由は「むむむ…」と唸り、数秒悩んだ後に大きなため息を出しながら言った。
「はあ、仕方ない…いい?これから話す内容は絶対に、他の誰にも話しては駄目よ。もしも、誰かに言ったら2週間は謹慎処分になると思ってね」
それを聞いた一柳隊の皆は頷く。そして、百由は語る。
一柳隊が遭遇した謎の戦闘機、それは異世界から何らかの事故で飛ばされた機体である。そして、その異世界ではヒュージは存在せず、ジャムという敵対的な地球外生命体と人類がフェアリイ星という惑星で戦っている。そして、彼らはそのジャムの大侵攻の最中、彼らの世界の地球を目指して超空間通路に飛び込んだところ、この世界に飛ばされてしまったという。
「とても信じられない。映画か何かの話のようだわ」
「でも、本当の事なのよ。この世界にあんな航空機は無いもの。そして、他の件も含めて信じざるを得なかった」
「どうしてですか?」
百由の一言に梨璃は首を傾げる。
「理事長代行にも異変が起きたの。私の目の前で」
「ええっ!?」
「その起こった事象について物凄く分かりやすく説明すると…理事長代行には今別人が憑依したような状態になっているわ。記憶は両者のものが同居しているような感じだけど、人格はその別人。その人物はちょっとややこしいけど、立場上はそのパイロット達の上官と同一人物みたい」
「えーと…そんな事が本当に起こったんですか?」
「ええ。私がこの目で全て確認したわ。でも、ここからの話はもっとややこしいわよ。混乱しないように」
そして、百由は言った。理事長代行に憑依している人物とあのパイロット達はちょっと…しかし、決定的に異なる点がある、と。
「?」
一柳隊はその一言を聞いて一斉に首を傾げた。
「まあ、そんな反応にもなるわよね。並行世界って聞いた事ある?」
百由のその言葉にミリアムが反応する。
「お、知っておるぞ。漫画とか映画のSFものでは定番のアレじゃな」
読書が趣味である夢結と神琳もそのような作品を読んだ記憶があるのか同意するように頷いた。そして、百由も頷きながら語る。
「そう、その通り。SFとかでよく出てくるアレよ。それぞれ違う可能性を辿った世界が枝葉のように広がって無数に存在しているという説。で、今回の事例はまさにそれ。あのパイロットと理事長代行の中にいる人はその似たような別々の世界からそれぞれやってきた。だから、最初に相手が何者か分かっていても、話が全く嚙み合わないなんて事が起こったのよ。で、それ絡みでもう一つ事象が起こってね」
そして、百由は言った。そこにいるパイロット、深井零がもう一人現れた、と。それを聞いた夢結が疑問を言う。
「同じ人間がもう一人?そんな事起こりえるの?」
「現に起きてしまった以上、否定する事なんて不可能よ。そもそも、ドッペルゲンガーじゃあるまいし…二人並べても何も起きていないわ。更に戦闘機ももう一機現れた、同じ名前で型式も同じだけど形は大きく違う。まさに並行世界というものを感じ取った気がするわ」
そして、今まで会話に参加していなかった人物の声が聞こえてきた。
「まあ、似たような…と話があったけど、例外もある。例えば…僕やレイフだ」
その声がした方向に皆が視線を向ける。そこにはもう一人のパイロットがいた。
「僕はフェアリイ空軍戦術戦闘航空団、特殊戦第五飛行戦隊所属、桂城彰少尉。そこの深井大尉の部下だ。なぜ、僕が例外か。説明すると、向こうの世界にはどうやら僕はいないらしい。いや、もしかするとどこかにいるのかもしれないけど…向こうの少佐や深井中尉は僕の存在を知らない。よって、君らから見れば二つの世界はそれぞれちょっと違う並行世界に見えるかもしれないが、当事者である僕らから見れば大きく違う世界なんだ。だからこそ、困った事になっているけど」
それを聞いた百由は言う。
「まあ、そこは価値観の違いって事で。で、私が説明できる内容は大雑把だけどおおよそこんな感じ。という事で、夢結はCHARMをさっさと片付けてちょうだい。その人達は一応、学院と国が諸々の許可を与えている安全な人物よ」
「納得はできないけども、とりあえず…ね。証拠が無いから全て信じることはできないわ」
夢結はしぶしぶといった様子でCHARMの切っ先を下した。
「困ったわねえ。証拠…雪風でも見せるしかないかしら」
「雪風?」
「この人達が乗っていた機体の愛称。私や防衛軍でも匙を投げるようなコンピュータを載せているのよ」
「人の機体を勝手に証拠品にするのはやめてくれ」
二人の会話を聞いた零が言う。
「それに、本来の目的を忘れてもらっては困る。俺達はこの世界の脅威がどんなものか知る為に今ここにいるんだ。話が明後日の方向に進んでは本末転倒としか言いようがない」
「そうね。まずは本題から、ね」
そして、零は海の方向に視線を向ける。これで静かになるか、そう思いつつ缶コーヒーを一口飲んだところで二水の声が響く。
「アールヴヘイム、多数のヒュージと接敵しました!!」
そして、遠くの方から射撃音と爆発音が聞こえてきた。いよいよ戦闘開始、この世界での情報収集活動開始である。
設定が追いきれない…!(アニメと小説とゲームの設定の差異を確認しながら)