「ヒュージ確認。ラージ級と思しきものが海上に1、ミドル級6体とスモール級…数えきれない数が現在上陸中。アールヴヘイム、交戦開始しました!」
零と桂城少尉は双眼鏡で戦闘の観戦を始めた。大量の銀色の物体が海から浜辺へと押し寄せているのが見える。サイズはバラバラ、足は3から4本のものが多数。中ぐらいのサイズは丸っこい形状に足のような物が生えている、大きさは直径2~3mだろうか。そして、小型のものは全長が1~2m程度に見える、形状は例えるならば円柱を横倒しにしたような形だろうか?4つ足でのそのそ歩く。そういったものがぞろぞろと歩いている。その行動には戦術性も何もない、ただ前へと突き進んでいるような単調な動きである。
「あれがヒュージとやらか、機械ではなさそうだ」
「ええ、見た目はともかく…動きは生き物のそれですね。色は銀色だ、何でできているんだろう」
そして、それを迎え撃つ勢力が攻撃を始める。それはレギオンと呼ばれるリリィの部隊。この学院では10人前後の人数から構成されているという。例えるならば分隊のようなものだろう、前衛と後衛におおよそ分かれて行動しているらしい。銃撃と斬撃、そのような攻撃でヒュージとやらの大群を刈り取っていくような勢いで倒していく。跳躍して建物を飛び越え、そのままの勢いで斬り伏せる。跳ね飛んだ後に空中で姿勢を安定させながら撃つ…それはまさに人間離れした動きである。
「流石は百合ヶ丘のトップレギオンであるアールヴヘイム!引き込んだスモール級の群れを十字砲火であっという間に片づけていきます。おお、やっぱり凄い!!」
隣で二水という生徒が聞いてもいないのに状況や用語の内容を逐一説明し続けている。やたらと力の入った説明、最早執念を感じる程だ。これはたまにいるマニアというやつだろう。そんな彼女に若干うんざりしながら、零はFAF語で桂城少尉に話しかけた。会話の内容を周囲に聞き取られないようにする為である。よりにもよって、待機組のレギオンである一柳隊とやらが興味本位で自分達の周りに集まっているのだ。
「少尉。この生徒は何故、双眼鏡も使わずに状況を把握できるのだろうか?」
「さあ、分かりません。とんでもなく視力がいいのかも」
「あれだけ身体能力を上げる事ができるのなら、不思議ではないか」
「あれは、彼女のレアスキルと呼ばれる力の効果ですわ。お客人」
はたから流暢な英語が飛んでくる。零達が話すFAF語は英語を簡略化したような言語である。つまり、英語ができれば聞き取る事は容易であった。考えが甘かったと零は思う。改めて周りを見回すと、このレギオンの人員は思いの外、多国籍な構成であった。
「そのレアスキルとは?」
零はその英語で話しかけてきた生徒に聞く。
「素質のあるリリィが持つ事の出来る特殊能力…と言えば分かりやすいでしょうか。おや、失敬。私、楓・ジョアン・ヌーベルと申します。以後、お見知りおきを。ええっと、深井さん?とお呼びすればいいでしょうか?」
「よろしく、深井大尉でいい。で、その特殊能力とやらで視力を強化しているのか」
「厳密には違いますわ。さて…英語と日本語、どちらで解説した方がよろしいでしょうか?」
「どちらでも。好きな方でいい」
「では、日本語で。彼女の場合は鷹の目というスキル…これは上空から地上を見下ろすように辺り一帯を見る事ができるスキルですの」
「垂直に?上空に偵察機やUAVなんかを飛ばしているわけでもないのにか。超能力だな」
零は双眼鏡を使って戦闘の観察を再開する。一方、その隣では梨璃が楓に先の会話について聞く。
「楓さん、英語で何を話していたの?」
「二水さんが何も使わずに戦場を見通しているのが不思議だと申していたので、どういう力か説明しましたの」
「ああ、鷹の目…確かに説明しないと分からないもんね」
「しかし、あのお二人の英語…どうも違和感が」
「違和感?」
「ええ、意味は分かるのにどうにも表現が薄いと言いますか…片言ってわけではないのですけど、不思議な感じでして」
「それは、あれが厳密には英語じゃないからさ」
その会話に桂城少尉が答えを返す。
「あれは通称FAF語、英語がベースだけど不要な文法なんかはバッサリ削られている。要は意味さえ通ればいいという言語だ」
「意味さえ通れば…異世界ではどうしてそんな奇妙な言語を?」
「どこの誰でも戦争できるように、だよ。すぐに言葉を覚えてジャムと戦えるように」
桂城少尉の話を聞いた梨璃は、誰でも…と呟いてから言った。
「そちらの世界は大変そうですね…」
それを聞いた桂城少尉は苦笑いしながら返事を返す。
「君らの世界の方が大変なんじゃないかな」
「え、でも…宇宙人と戦争しているってさっき聞きました。だから…もっとひどいのかなって」
「さて、どうかな。僕らの世界の地球は呑気そのものだから。ジャムとやりあっているフェアリイ星はともかく…でも、こういう人が跳ね回って直接化け物と戦うような戦場とはかなり違うって事だけは確かかな」
桂城少尉はそう言うと戦場に視線を向ける。こんな会話をしているうちにヒュージの数はかなり減っていた。残るはほぼ大型のヒュージのみ。
「ラージ級です!上陸してきました!!でも、形が妙です…またレストアですかね?」
二水が叫ぶ。
「彼女の言うレストアというのは、戦闘で傷ついたヒュージが一度ヒュージネストに戻り、そこで修復を受けた個体の通称。戦闘経験を持つから面倒な個体が多いのよ。しかし、表面がやたらごつごつしているわね…またCHARMか何かでも刺さっているのかしら」
百由が解説するように言う。その個体は比較的大きなものだ。形が変だというが、どこが変なのかはよく分からない。その形を言い表すのならバケツをひっくり返したような形状で、その上面にはごつごつとした突起が大小複数ある。大きさは目測で全高が10m以上、全幅も20m以上あるだろうか。そして、金属の鎖のような見た目の触腕を何本も振り回している。周りを飛び回るリリィと比較すると明らかに巨大だ。
「フムン、人力であんなものを倒せるのか?」
「大丈夫、今戦っているアールヴヘイムはこの百合ヶ丘でも優秀なレギオン。すなわち、世界でも有数の強力な戦力よ。そう簡単に負けたりしないわ」
「なるほど、それがどの程度か分からんが…高性能なら期待してみよう」
そして、桂城少尉も特大の化け物を見てその感想を述べる。
「僕なら迷わず航空機から2000ポンドの徹甲爆弾を叩き込むよ。あんなのと生身で戦うなんて御免だな」
「右に同じ」
零も頷きながら言う。魔法とやらがどんなに強力であろうと、爆撃や砲撃で遠距離から攻撃すれば安全だろう、零はそんな考えを浮かべる。しかし、戦場にいるリリィ達は臆することなく撃ち、そして、斬りかかる。たちまち、ヒュージの触腕が一つ斬り落とされる。その影響か、ヒュージは怯んだように動きを止める。そして、リリィ達が四方八方から集中砲火を浴びせ、被弾痕から青い液体が噴き出す。あれはあの生物の体液だろうか?そして、ヒュージ上面の巨大な突起がはじけ飛ぶ。そのはじけ飛んだ跡には金属質の大きな物体があった、明らかな人工物である。それを見た一柳隊の王雨嘉がポツリと呟く。
「あれは…飛行機の残骸?」
零は確かにその物体に見覚えがあった。そして、反射的に叫ぶ。
「シルフィードだ!!あれを見たか、桂城少尉!」
「ええ、あれは…間違いない、シルフィードの右主翼ですよ。おや、FAFのマークもある」
「なんですって!?」
ジ・インベーダーに出てきた機体の名前が聞こえてきて百由は仰天する。そして、双眼鏡でその様子をまじまじと見ると、通信機に向かって叫ぶように言う。
「アールヴヘイムへ!そのヒュージに刺さっている航空機の残骸についてどうしても確認したいの。出来る限りでいいから、そのヒュージは原型を保ったまま倒してちょうだい!」
「あら、百由様?ごきげんよう。しかし、それは…なかなか厄介で刺激的なお願いですわね。まあ…可能な限り、善処しますわ」
アールヴヘイムの遠藤亜羅椰が返事を返してきた。百由はため息を付きながら通信を終える。
「やれやれ、これで残骸はなんとか回収できそうだわ。ノインヴェルトなんて撃ち込まれたら跡形も残らないでしょうし…」
「いいのか?」
「ええ、私も興味があるから。無理難題を押し付けたアールヴヘイムには…まあ、後で何か埋め合わせしておけばいいでしょう」
零は端末を取り出す。
「こちら深井大尉、B-1へ。友軍機の残骸を発見した。ブッカー少佐…そして、B-3とその乗員にもこの旨を連絡せよ。また、B-13にもデータリンクにて伝達」
そして、端末には<B-1、了解。実行>と表示が出る。そのやり取りを梨璃は物珍しそうに眺める。
「さて、大尉。これでこの世界とフェアリイ星がどこかで繋がったという根拠が増えたわけだ。残骸からデータを吸い出せればもっといいけれど」
桂城少尉が双眼鏡で様子を見ながら言う。
「少尉、できそうだと思うか?」
「ええ、微妙ですね。ここから見た限り、コクピットは無くなっているでしょう。あとはフライトデータレコーダや機体各部の電子機器。そして、そのログが残っているかどうか…」
一方、戦闘の情勢は微妙に変化していた。百由の要請によって、攻撃の勢いが鈍くなっていたのだ。攻撃をやり過ぎては問題の残骸を破壊してしまうだろう、そんな心理が彼女達に働いているのである。
それを見た梨璃が動く。
「百由様、私達も出ます!あれを回収できれば、このお二人が元の世界に戻る手掛かりになるかもしれないのですよね?」
「え、いいの?」
「はい!みんなも大丈夫?」
そんな梨璃の問いに一柳隊の面々は軽く笑みを浮かべながら頷く。
「隊長命令、了解ですわ。喜んで」
「反対しても止まらないでしょう、お供しますよ。梨璃さん」
「まあ、仕方ない。人助けだ」
「ありがとう!みんな」
その返事を聞いた梨璃は満面の笑みを浮かべると、そのまま自分のCHARM…グングニルを手に取った。
「では…一柳隊、出撃します!!」
梨璃の号令が響き、9人のリリィが飛び出した。
そして、リリィ達が手負いのヒュージに次々と襲い掛かる。そこからは早かった。戦力が倍に増え、投射される火力は飛躍的に上がる。それによって、ヒュージは完全に足止めされ、前にも後ろにも動けなくなった。そこに夢結や梨璃が一気に接近、ヒュージの胴体を斬り付ける。それに続いて二つのレギオンの前衛担当であるリリィ達が代わる代わる攻撃を浴びせ、後衛のリリィ達も弾を次々と撃ち込む。そして、断末魔の悲鳴のような轟音を出しながらその巨体が崩れ落ちた。ついにヒュージを撃破したのである。
「シルフィードの残骸はなんとか回収成功、か。結局、穴だらけだが…贅沢は言えないな」
「ええ。粉々よりはましですね。しかし…彼女は何でもやりますね」
零と桂城少尉は撃破されたヒュージの残骸を見ながら言う。百由は多数の人員と重機を引き連れてヒュージのサンプルとシルフィードの残骸回収作業を実施している為、この場から離れた位置にいる。するとそこに、梨璃がやってきた。
「あの…深井さん。すみません、無傷で回収できなくて」
「深井大尉でいい。こういうのは戦っていない部外者がどうこう言えるものではない。形があるだけ御の字だ」
「ありがとうございます」
そして、梨璃は零の目をじっと見て言った。
「それで、これは提案なのですけど」
「どうした?」
「深井大尉、お二人が帰る為の手掛かり探しを私にも手伝わせてください!!」
その一言を聞いた零と桂城少尉は困惑したように顔を見合わせた。
戦闘描写と口調が難しい…!
夢結様は梨璃と出会わずあのまま過ごして悪化したら特殊戦向けの性格になってしまいそうだなあ、って書いててふと思ったり