主人公に暴走の力があるのは間違っているだろうか……いいや、間違っていないはずだ、だってカッコイイじゃん   作:遠無/とおな

2 / 4
第二話 色々とやべぇステイタス

 僕には、前世の記憶がある。この世界にベル・クラネルとして生を受ける前に、こことは別の世界で生きていた記憶だ。その世界はここには無い「科学」というものが発展した世界で、少なくとも、僕は神というものをあまり信じていなかった。神社に行ったりもしたが、それは周りがそうしてたからそうしてただけであって、神様にお願いをしていたりはしていなかった。信仰心なんてほぼなかった。

 

 前世での自分の名前は既に思い出せないが、家族は良い人ばかりだったように思う。近所の評判も悪くなかった。そんな家族に恥じない息子になりたくて、色々と頑張った。人には優しくしたり、勉強したり、大変な事もあったけれど、満ち足りた日々だった。だが、それも終わりを迎えた。今は、思い出したくないけれど、あれは僕が忘れてはいけない罪の1つだ。

 

 前世では、20歳になる前に死んでしまったし、両親に顔向け出来るような最後でもなかった。僕は地獄行きでもいいような罪を幾つも犯した。出来れば、両親がいるであろう天国には行きたくなかったというのは、覚えている。だが、そんな僕の思いは全く違う形で裏切られた。

 

 その後、僕はベル・クラネルとして、この世界で、神という超越存在(デウスデア)がいる世界に生まれ変わったのだ。だけど、僕が生まれた世界は、初めて来た世界だったけれど、全く知らない世界じゃなかった。何故か。

 

 それは、僕がその世界を物語として知っていらから。その物語の名前は「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」、略して「ダンまち」と言われていた。アニメは3期も制作され、映画も放映された人気の作品だった。その物語の主人公の名前はベル・クラネル。生まれ変わった僕と同じ名前だった。名前が同じだけだったら、凄い偶然もあるものだなと思っていたが、生まれ変わった世界とダンまちの共通点は他にもあった。

 

 ダンジョンの存在や、オラリオという都市の名前、神という存在、地名、等々。他にも色々とあるけれど、それだけ共通点があれば、偶然とは言い難いだろう。僕は、ダンまちという物語の世界、若しくはそれに著しく類似した世界に、主人公の立場として生まれ変わったのだと認識した。物語の通りに行くのなら、きっとこの先、良い人、悪い人、仲間と敵、色々な人と出会い、様々な経験をするのは確実だと分かった。力が無くて、誰かを助けれなかったなんていうのにはなりたくなかったから、育ててくれていた祖父に師事して、鍛え始めた。ただ、オラリオに行く頃になると僕が知っていた「ダンまち」についての記憶は遠い過去の事となり、細部まで思い出す事は難しくなっていた。

 

 覚えているのは、主人公が好きな人の為に頑張って、色々な人と関わり、英雄として成長するみたいな程度で正直登場人物の名前なんぞ、殆ど覚えていない。まぁ、そこは物語は物語でこの世界とは違うという事で割り切った。

 

 モンスターと戦ったり、死にそうになったり、祖父が死んでしまった後は何をとち狂ったのか、幾つかの戦争に参加して、人を殺す自分を嫌悪して死にそうになって、色々な事をした。その過程で体中に傷も出来たが、「服を脱いだら凄いですよ」状態にはなれた。

 

 それで物語の舞台である迷宮都市オラリオに来る事が出来た。そして、ヘスティア・ファミリアに所属してから早2週間。今日も今日とて、ダンジョンに潜る日々である。ちなみに今の到達最高階層は17階層。17階層は、最初のボスがいる階層でソロでそのボスに挑んだら、返り討ちに遭い、ボロボロにされた。だが、いつか必ず倒さなくてはいけない相手だ。

 

 僕のギルド(冒険者やファミリアを管理する組織)の担当員から5階層以上は潜っては駄目と言われているので、それがバレないように魔石は換金せずに自分の部屋に溜めている。そこまで行けるようになった時を見計らって、少しずつ換金していくつもりである。

 

 ちなみに2週間経過した僕のステイタスはこんな感じである。ステイタスとは、自分の強さなどを数値化したりしたものの名前だ。

 

 ──────

 Lv.1

 力:B 702

 耐久:C 669

 器用:B 712

 俊敏:B 748

 魔力:SS 1069

 

 罪:F

 

 魔法

魔力放出(マナ・バースト)

 ・速攻魔法

 ・身体能力強化

 ・使用中、魔力は常時消費

 ・消費量は、強化の度合いによって変動

 

 スキル

咎人(クリミナル)

 ・早熟する

 ・罪の意識が続く限り、効果は持続する

 ・罪の意識の重さによって、効果向上

 ・アビリティ「罪」を付与

 ・アビリティ「罪」がAになった時、スキルは【咎人の枷】へと変化する

 

虚ろなる異界英雄(ホロウ・アルゴノゥト)

 ・忘却補正

 ・早熟する

 ・英雄を目指す限り、効果持続

 ・意思の大きさによって、効果向上

 

龍の心臓(ドラゴン・ハート)

 ・魔力の回復量超向上

 ・人の限界を超える

 ・魔力消費によって、再生能力向上

 ・精神疲弊(マインドダウン)状態であれば、魔力の回復量向上の効果が低下

 

 ──────

 

 こんな感じである。ちなみに初めてこれを見た時に神様は悲鳴を上げていた。このステイタスでおかしくない箇所を探すのは、逆に難しいのだが、おかしい所を1つ1つ挙げていこう。

 

 まず、基本アビリティ。今の筋力や俊敏性などを数値で示したものだ。数値が高ければ高い程、身体能力は向上する。魔力というのは、魔法とい超常の力を使う時に使用する特別な力の事だ。見ての通り、魔力だけが抜きんでている。普通の人なら、魔力の回復にだいぶ時間が掛かるか、もしくはマナ・ポーションという飲み物を飲む事で回復する。魔力の消費と回復を繰り返す事で段々と魔力の数値が挙がっていくのだ。が、僕が持つ【龍の心臓】のおかげで消費した途端に回復していくのだから。消費、回復、消費、回復というのをこの2週間だけで何回も繰り返したおかげで魔力だけがおかしい事になっている。

 

 次に魔法だろうか。身体能力を強化するという単純な能力なのだが、魔力の消費量によるが2倍以上は身体能力が上昇しているような気がする。そのおかげで魔法発動中は、魔力を除くステイタスはLv.2上位相当になれる。

 

 最後にスキル。一番ヤバいのが、これである。【咎人】と【虚ろなる英雄】という名前も効果もヤバい2つのスキルである。早熟するというのは、文字通りの意味で周囲の人よりも強くなりやすいのだ。それも何十倍も。今までの歴史において、成長を促すスキルを獲得した者はいないらしく、これを知られたら娯楽に飢えている神々に玩具にされる事間違い無しであるらしい。神様からは口外しないように口留めされている。名前に関しても、思い当たる節しかないのだが、神様は何も聞かないでいてくれた。

 

 神様曰く、「君が話したくなるまで待つよ」との事だ。感謝の気持ちとそれを隠す罪悪感が凄まじかった。文字化けしてる部分は、神様も分からないらしい。原作の時にスキルを隠していたりもしたのだが、今回は本当に文字化けしていたらしい。

 

 【咎人】の文字化けに関しては、神様にもよく分からないらしい。

 

 【龍の心臓】は比較的分かりやすい。効果はえげつないが。魔力の回復量を向上させるというのもあるが、その向上具合がえげつない。普通の人が100ある魔力を1分で1回復するなら、僕はそれを1分だけで全回復する。他の人と比較することも出来ない為、分からないが、とりあえずそれぐらいヤバい。人の限界を超えるというのは、基本アビリティの数値である。今の僕の魔力がSSなのだが、他の人は超良くてAぐらい、数値にして800~899である。それぐらいが人としての限界と言われている。それを超えると他の人は微々たる程度にしか上がらないのだが、僕は未だにバンバン上がっている。

 

 再生能力も向上させるのだが、これもえげつない。四肢の1つを欠損したとしても、数秒あれば元通りだ。だが、何回も同じところを怪我していると、爬虫類のような黒い鱗に覆われ始める。スキルから考えるに体に生えた鱗は龍のそれなのだろう。例えば、今の僕の右腕なのだが、使い物にならなくなるような大怪我を100回程度しているのだが、そのせいで黒い鱗に覆われてしまった。そのおかげで暑かろうと長袖を着るしかなくなった。神様に教えると心配されそうだから、まだ言っていない。

 

 教えないままでいて、いつかあっちから気が付けば、起こられる事は間違いないだろうがその時はその時だ。

 

 僕のステイタスに関しては、そんな感じだろうか。ただ、問題点があるとすれば、それは魂の昇華とも言われているレベルアップだろうか。レベルアップとは、次のステージに昇る事で簡単に言えば、壁を超えるのだ。レベルアップすれば、数値は0から始まり、また強くなれる。ステイタスは数値が低い方が上昇率が良い為、そのレベルで限界を感じたらレベルアップしてまた強くなりやすくするのだ。

 

 レベルアップするには、いずれかの基本アビリティがDを超えていて、そして偉業を為す事だ。要するに功績を上げろという事である。冒険者ならば、格上のモンスターに辛勝するのが一般的だろう。なまじ、僕のスキルやらが強い為、そうそう強敵と出会う事がないのだ。今の所はゴライアスぐらいだが、あれはまだ無理だ。今はソロで挑んでいる為、ゴライアスにたどり着くまでにだいぶ消耗してしまうのだ。魔力的には問題ないのだが、精神的な消耗がある。それからゴライアス戦をするとなると、相当にきつい。

 

 ステイタスは、ただ敵と戦えば、強くなるという訳ではない。ステイタスの上昇率は、個人差や戦い方によって変わってくる。力を鍛えるのなら重い武器を振り回す。耐久を鍛えるのなら敵の攻撃をその身に受ける必要がある、等々。ステイタスは行動によって上昇するものだ。要するに筋トレに近い。鍛える場所を選んで、その部位を鍛えて、休ませる事で筋肉は強くなる。ステイタスもそれと一緒なのだ。

 

 昨日、更新したばかりのステイタスを眺めながら、今日の準備をする。今日もいつも通り、朝早くからダンジョンに潜る。最初の頃は数日間の間、ダンジョンに籠っていたのだが、そんな事をしたら神様に怒られた。だから、日帰りをするようになったのだが、それならばと朝早くから行って、夜遅くまで潜る事にしている。午前5時に潜り始めて、地上に出てくるのは午後10時であるから、凡そ17時間程、ダンジョンに潜っている。

 

 ダンジョンに潜る装備だが、最初の内は金がない為、安物しか買えない。金属製の胸当てと片手剣だけが今の僕の装備だ。普通なら体を癒す為のポーション、魔力を回復させる為のマナ・ポーションを持っていくのだが、僕はスキルがあるのでどちらも要らない。

 

 朝食は、神様の分だけを作ってテーブルの上に置いておく。【龍の心臓】の説明には書いていないのだが、このスキルは身体に必要な栄養まで体内で作ってくれるので料理は食べる必要は無い。今は、少しでもお金が必要なので僕の分の食費だけでも浮かして、余ったお金を貯金に回している。何かあった時の為にも貯金は必要だ。

 

 さて、行くか。

 

 ──────

 

 早朝という事もあって、ダンジョンに人影は全くない。そのおかげで人目を気にせず、全力で暴れる事が出来る。次々と生まれてくるモンスターを剣で両断していく。時間が経つ事にモンスターの体は切り裂かれ、消滅し、その場に魔石が残る。魔石はモンスターを倒した時に落とす石で、それを加工する事で前世で言う電灯になったり、レンジや冷蔵庫になったりする。冒険者はこれを換金する事で収入を得ている。魔石の量や質が収入にそのまま直結するのだ。

 

 冒険者がいない今は稼ぎ時なのだが、問題点がある。それは魔石を持てる限界量である。前世のゲームみたいなアイテムボックスとかあればいいのだが、生憎とそんな便利なものはない。魔石は自分で持たなくてはいけない。行動の邪魔にならないような小さなリュックに魔石を入れていくのだが、それでも大した量は持てない。

 

 一日に何百体ものモンスターを狩るから、その分魔石の量も増えてくるのだが、100個の魔石を持つ事すら難しい。金があれば、ダンジョンでポーションを持ったり、魔石を持ってくれたりするサポーターを雇う事も出来るのだが、金がない今はそれは出来ない。

 

 地上では、サポーターは冷遇している者もいたりするのだが、そういう人に抱く正直な感想は「あたおか(頭おかしい)」である。サポーターを役立たずと言う冒険者は多いのだが、ならサポーターを雇うなという話である。それなのにそういう奴に限って、サポーターを雇う。自分の言葉と行動がだいぶ矛盾している。己を省みるという事を知らないのだろうか。有名なファミリア、例えばロキ・ファミリアなどは自分のファミリア内で数多くのサポーターを抱えているだろう。だが、ファミリア内でサポーターを持たない弱小ファミリア所属の冒険者にとって、サポーターという存在はだいぶ有用だ。

 

 持てる量にも限界があって魔石を多く持てないし、サポーターを雇えるような収入でもない。ならば、魔石を換金してくれるギルドとダンジョンを往復する事も考えたのだが、そうすると僕の担当員、エイナさんというエルフが怒る事は簡単に予想できる。「そんなにダンジョンに潜っちゃダメだよッ!」みたいな感じで。

 

 魔石の換金も出来ない。持てる魔石の量にも限界がある。その結果、僕は魔石を砕く事に決めた。魔石を取らずにダンジョンに放置したままでいると、通りがかった冒険者に拾われる可能性もある。僕が倒したモンスターの魔石を見知らぬ誰かが換金して、自分のお金にするのも少し腹が立つ。そう言う事で仕方なしに魔石を砕く事にした。魔石とは案外脆いので、踏めばガラスのように砕け散る。砕けた魔石を換金する事は出来ないのでその後は、誰にも拾われず、土に還るだけだ。

 

 勿体ない気がしてならないが、こればかりは仕方ない。

 

 ──────

 

 いつものように魔石を限界まで集めた為、モンスターを倒しては、魔石を砕き、モンスターを倒しては魔石を砕くというのを続けていた。そろそろ、10階層以降の階層に潜ろうかなと考えていた時だった。

 

「「「ブモォォオォォオ」」」

 

 牛のような叫び声が下の階層から幾つも聞こえた。その叫び声は、聞いた事のあるモンスターの声だった。ミノタウロスという、人型の牛のような見た目をしたモンスターである。Lv.2であれば、油断してなければ倒せる程度のモンスターで僕自身、何度か戦い、勝利した事があるモンスターだ。

 

 ミノタウロスが出てくるのは、中層から。数字で言えば、15階層付近からのはずだ。そもそも、下のモンスターが上に来るような事は、ほぼ無い筈なのだ。「何故?」という疑問が頭を埋め尽くすが、とりあえず下から登ってくるであろうモンスターの駆除だ。

 

 僕はスキルのおかげでLv.3間近のLv.2ぐらいのステイタスへと上昇する。だから、僕はミノタウロスが出てきても問題ないのだが、他のLv.1の冒険者がミノタウロスを相手にした場合、ほぼほぼ死ぬ。時間的には、上層に冒険者がいてもおかしくない。

 

 ミノタウロスが他の冒険者の所にいかないようにここで仕留める他ない。

 

「【魔力放出(マナ・ブースト)】」

 

 その言葉と共に僕の体に力が漲り、黒い靄のようなものが、黒色の魔力が噴き出す。上層ならば、この魔法を使わずとも対処できるが、流石にミノタウロス相手に素のステイタスで相手をするのは厳しい。

 

 安物の両刃の片手剣を構えて、ミノタウロスを待つ。

 

 それを聞いた冒険者の体を強制的に停止させる強制停止(リストレイト)という効果を持つ咆哮を放ちながら、下の層からミノタウロス達が2体やってきた。2体の内、一番前にいたミノタウロスが僕に向けて、僕の頭程の大きさがある巨大な拳を振り下ろす。

 

 それを体を捻る事で紙一重に避ける。空ぶった拳は重さと速度をそのままに、地面に激突して周りに粉塵を巻き上げた。ミノタウロス2体と僕を粉塵が包み込む。突然、視覚が機能しなくなり、ミノタウロスは慌てたように咆哮を上げる。先程、僕には強制停止(リストレイト)が効かなかった事を忘れてしまったのだろうか。

 

 一旦、最も近かったミノタウロスから距離を取り、限りなく気配を消して、僕自身の姿を粉塵の中に消す。粉塵の中でもミノタウロスの位置はミノタウロス自身が咆哮で教えてくれる。

 

 僕を見失い、無駄な咆哮を上げていたミノタウロス1体の頸に向けて、手に持っていた剣を振るう。僕が持っていた剣は、剣本来の切れ味ではミノタウロスの強大な筋肉という天然の鎧に阻まれるだろう。だから、魔法によってブーストされた膂力に任せた力任せの一撃を振るう。

 

 僕の扱いの悪さとミノタウロスの硬さによって、持っていた剣に決して小さくない罅が入ってしまった。だが、そのおかげでミノタウロス1体の首を飛ばす事が出来た。体が消え、その場に魔石が落ちる。ようやく粉塵が晴れて、残っていた2体のミノタウロスは、いつの間にか仲間が1体消えていた事に動揺しているようだった。

 

 その動揺していた隙を突いて、1体のミノタウロスを背後から一突きする。剣の根本までミノタウロスの腹部に埋まっていた。突然刺され、慌ててミノタウロスは背後を振り向く。そこにいたのは、剣を突き刺す僕の姿。普通の人間なら、これだけで致命傷なのだが、相手は生命力が桁外れのモンスターだ。重傷である事に間違いはないが、動けなくなる程ではない。

 

 ミノタウロスが片手で剣を持っていた方の僕の右手首を掴んで固定する。そして、もう片方の手で僕の顔目掛けて、拳を振るった。回避する為に腕を引き抜こうとしても、びくともしない訳ではないが、これなら腕を引き抜くよりも相手の拳が僕に到達する方が僅かに早いだろう。首を傾けるだけでは、ミノタウロスの巨大な拳を避ける事は出来ない。

 

 ……仕方ないか。

 

 剣を持っていなかった片方の手で手刀を繰り出す。その矛先は、僕の右肘。手刀で肘から先を切断した事で身動きが取れるようになった。迫る拳を躱す為に、兎の如く後ろに跳躍する。右腕を見てみれば、傷口から血が滝のように流れ、僕が立っている地面を赤く染めている。

 

 軽くはない傷を負った僕に追撃するように、ミノタウロスがその巨大な2本の角を前に出して、突進してきた。それはさながら暴走列車のよう。ミノタウロスが踏みしめた地面は、その重量と脚力によって、亀裂が走る。

 

 右腕が使えない状態では、些か面倒だ。ミノタウロスの角が僕に届くよりも早く、右腕に魔力を集中させる事で新しい腕を生やす。その新しい腕は【龍の心臓】の使い過ぎによって、黒い鱗に覆われていて、モンスターのようであったが、今はそんな事よりもミノタウロスだ。

 

 ミノタウロスの鋼鉄をも貫きそうな鋭利な角が僕に届くその瞬間、僕はその角を掴んだ。ミノタウロスの突進を正面から受け止めた事で地面が陥没してしまうが、そんな事でバランスを崩すような鍛え方はしていない。ミノタウロスが必死に前に進もうと、雄叫びを上げながら脚に力を込めるが、びくともしなかった。

 

 その角を離すのと同時に、ミノタウロスの顔面に膝蹴りを食らわす。あまりの衝撃に仰け反ったミノタウロスの顔を掴み取り、その首を180度回転させた。如何に生命力豊かなモンスターであろうと、首を折られては一溜まりもない。

 

 ミノタウロスの体は消滅し、ミノタウロスに突き刺した剣と報酬であるミノタウロスの魔石はカランカランと音を立てて、地面に落ちた。

 

 地面に落ちた剣を拾い上げてみるが、それと同時に剣に走っていた亀裂は大きくなり、そして、その刀身は砕けてしまった。

 

「……はぁ、また買いなおすか」

 

 剣の出費などを考えていると、泣きそうになってきた。そんな時だった。通路の向こうからついさっきまで聞いていたのと同じミノタウロスの雄叫びが聞こえた。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。