主人公に暴走の力があるのは間違っているだろうか……いいや、間違っていないはずだ、だってカッコイイじゃん   作:遠無/とおな

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ミノ君魔改造


第三話 ミノタウロス

 何処からか聞こえたミノタウロスの咆哮が聞こえた。その咆哮が聞こえた方へ向けて、動こうとした時、足がその場から動かなかった。足だけではない。腕すら動かせず、目を動かす事しか出来なかった。

 

 これは、強制停止(リストレイト)……!? 

 

「ヴモオォォォオオ!!」

 

 通路の向こうから雄叫びが聞こえた。時間が経つにつれて、大きな足音が近づいてきている。強制停止(リストレイト)によって、Lv.2上位相当のステイタスを持つはずの僕が動けない。普通なら、対抗できるはずなのにどうして? 

 

 そんな疑問と焦りが頭の中で渦を巻く。

 

 通路の奥に何かが見えた。

 

 それは、段々と近付いて来る。そして、それはすぐに見えた。先程まで相手していたミノタウロスよりも1回り程大きい漆黒のミノタウロスがいた。普通のミノタウロスは赤黒い皮膚なのだが、こちらに向かって来ているミノタウロスは赤がない漆黒の皮膚を持っていた。

 

 普通のモンスターとは違う見た目。先程とは別次元の威圧感。まさか、強化種!? 

 

 強化種とは、文字通り通常のモンスターよりも諸々強化されたモンスタ―の事だ。他のモンスターの魔石を食らう事で力が増し、知恵も身に着く。何倍も手強いモンスターなのだが、滅多に遭遇しない。普通、冒険者数週間で遭遇する事など、ほぼないのになんて運がない。

 

 己の不運さを呪っている間にも、ミノタウロスはゆっくりと近付いて来る。逃げようにも動かない体。これは本当にマズ……ッ! 

 

「ぐふっ!?」

 

 数M先いたはずのミノタウロスが一瞬で目の前に迫り、その拳を僕の腹に叩き込んだ。内臓が幾つか潰れるのが自分でも分かり、振り抜かれた拳によって、元いた通路の端から反対側の端まで吹き飛ばされた。口から大量の血液が零れ落ち、殴られた腹部は明らかに陥没していた。

 

 再生能力を向上させるスキルがあるが、幾つもの内臓が潰れ、その衝撃で背骨の方にもダメージがいったのか、背中の方にも激痛が走っている。幾ら再生能力を向上させるスキルを持っているとはいえ、これだけのダメージを負っていると、治るまでに時間は掛かる。

 

 だが、こちらが治るまで待ってくれたりはしない。

 

「ヴモォオ!」

 

 僕の足を掴み取り、鞭のように振るった。体中が壁や天井、床に激突するが、相手はそんな事知るかと振り続ける。足の骨が折れ、骨盤が曲がり、遠心力によって体のあちこちの骨、筋肉にダメージがいっている。普通のLv.1冒険者ならば、間違いなく即死だが、何とかスキルのおかげで意識を保つ事が出来ている。

 

「いい、加減、離、せ!」」

 

 体を振るわれる中で、痛みを無視して、掴まれていない方の足でミノタウロスの眼球を潰した。思ってもいなかった反撃にミノタウロスは思わず、手を離して、潰された目を抑える。

 

 体中から流れ出る血が地面を血の池へと変えていく。体中に激痛が走るが、そんなもの知ったるかと震える足に力を入れて、立ち上がる。【龍の心臓(ドラゴン・ハート)】に全ての魔力を回して、傷をある程度回復させる。完全治癒にまでは時間がかかるが、何とか動けるようになるまで回復させる。

 

「……【魔力放出(マナ・ブースト)】」

 

 そして、全ての魔力を【魔力放出(マナ・ブースト)】に当てる。この状態だと【龍の心臓(ドラゴン・ハート)】の回復よりも消費が早い。この状態だと1分程しか動く事しか出来ないが、その間はLv.3相当のステイタスを発揮する事が出来る。

 

 武器は既に無く、使えるのは己の肉体のみ。強制停止(リストレイト)が僕に効くのならば、逃亡という手段は取れない。恐らく、これは僕が知る原作の最初。モンスターの逃走という例を見ない特異な行動によって引き起こされたものだと思われる。その中に強化種がいたという記憶は無いが、これも僕が僕である為に起きた小さな差異なのだろう。

 

 僕がこのミノタウロスを倒せる可能性は低い。無論、倒すつもりでいかねば殺されるのはこちらだが、原作の通りに動くのなら、この後にロキ・ファミリアが来るはず。それまで耐えるしかない。

 

「うおおぉおおおおおお!!」

 

 ダンジョンに潜り始めて、初めて出したであろう雄叫び。絶対に生き残ってやるという意思を表に出して、僕は地面を蹴った。僕と同時にミノタウロスも駆け出した。互いに肉薄する。

 

 人の小さな拳と人ならざる者の拳が次々と衝突する。相手を殺す事のみを考えられた双方の拳は、明確な殺意を乗せて、相手へと繰り出され続ける。拳が衝突する度に発生する衝撃で近くの壁や天井、床に亀裂が走り、段々と見るも無惨な姿へと変えられていく。

 

 最初は拮抗していたように見えたが、膂力では未だにミノタウロスの方に分があるようで腕の骨に罅が入った感覚がした後、腕から血が噴き出した。今までの応酬でボロボロになってしまっていた袖は赤黒く染まっていく。

 

 力では、強化ミノタウロスに負ける事が分かった。ならば速さで勝負するしかない。幸いにも、強化ミノタウロスは通常ミノタウロスよりも一回り体が大きい為、その動きはどうしても鈍重になるだろう。足に魔力を集中させて、素早く動き、強化ミノタウロスの背後に回る。

 

 膝裏に全力の蹴りを食らわせた。膝を折られたミノタウロスは、地に膝を付く。先程、いいように扱われたお返しと言わんばかりにその頭頂に踵落としを繰り出す。脳天まであと少しという所でミノタウロスの腕に受け止められてしまい、頭という弱点に到達する事は無かった。僕の踵落としの重さを証明するようにミノタウロスが膝を付いていた地面は大きく陥没していた。

 

 僕の踵落としをを受け止めた前腕は、あらぬ方向に曲がっていて、痛々しい見た目をしているが、そんなものはお構いなしに受け止めた僕の足を掴み、自らの方へ引き寄せた。

 

 空中にいた僕は成す術もなく、ミノタウロスの方へと引き寄せられ、空いていたもう片方の拳を僕の腹に真上から叩き付けた。振りぬかれた拳によって、僕の体は地面に激突し、まるでスポンジにでも当たったかのように大きくリバウンドした。拳を受け、地面に激突した事で少しずつ治りかかっていた内臓や骨はまた致命傷と言える程に痛めつけられた。

 

 

 大きくリバウンドし、未だ空中に舞っていた僕の体。大きなダメージによって、一瞬硬直してしまったことによって出来た隙。それを見逃してくれる程、相手は甘くない。相手をただひたすらに殺す為に、さらに追い打ちをかけていく。

 

 僕の頭部を鷲掴みにして、壁に全力で叩き付けた。何度も何度も叩きつけられ、頭が文字通り割れるような激痛が絶え間なく、襲ってくる。抵抗するように動かせる腕や足でミノタウロスに攻撃をしかけるが、脳が揺れているのか、はっきりとしない意識の中で繰り出される攻撃など、意味が無かった。

 

 まずい、意識が落ちる。攻撃を受けながらでも、少しでも回復する為に魔力をスキルに回しているのだが、それでも蓄積していくダメージの方が大きい。微かに死を予感しながら、視界が次第に暗くなっていく。

 

 暗くなる視界の中、最後に見たのは吹き飛ぶミノタウロスと黄金だった。

 

「こんな所で、負ける訳には、いか、ない、のに……」

 

 そこで僕の記憶は途絶えた。

 

 ──────

 

 結論から言うと、僕は助けられたらしい。ミノタウロスに滅多打ちにされていた僕だが、【龍の心臓(ドラゴン・ハート)】のおかげで何とか生き残れた。並の冒険者ならば、ほぼ間違いなく死ぬ程のダメージを負っていたと思う。だが、スキルがあったとしても、僕はギリギリの状態であったらしい。あちこちの骨が折れ、内臓もぐちゃぐちゃ、しかも出血多量。そんな重傷だった訳だが、エリクサーとかいうどんな傷をも癒す万能な薬のおかげで生き残れたようだ。

 

 らしいとかようだとか言っているのは、全て言伝だからだ。僕は、ミノタウロスと戦っている最中に意識を落とし、そしてギルドの応接間で目を覚ました。それから僕のギルドの担当員であるエイナさんから事情を聞いた。

 

 僕を助けてくれたのは、【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン。僕の知る(ベル・クラネル)と同じように助けてくれたようだ。だが、違う点があるとすれば、僕が戦ったのは強化種のミノタウロスという事だろう。通常種のミノタウロスなら、僕のスキルで危うげなく討伐出来たのだが、強化種となれば話は別だ。事実、僕は惨敗したと言ってもいいだろう。出来る事なら再戦(リベンジ)したい。強化種ミノタウロスはあの後、逃げたらしい。逃げるミノタウロスと負傷している僕。アイズさんは後者である僕を優先してくれたらしい。ありがたい限りである。その後、余裕のあるロキ・ファミリアのメンバーで追跡を行ったそうだが、深い層にまで潜ってしまった為、追跡は断念したそうだ。確かに遠征帰りにそれは難しいかもしれない。

 

 近々、討伐体が結成され、ダンジョンに行くらしい。それまでは駆け出しの冒険者はダンジョンに潜らないか、黒いミノタウロスを発見したらすぐにその場から離れる事をギルドは推奨するらしい。

 

 そういえば、直接戦ったアイズさんがギルドに伝えた情報によると強化種のミノタウロスはLv.3上位、下手したらLv.4相当の力があったかもしれないとの事。Lv.1の僕が生き残れたのは、本当に運が良かったとしか言う他あるまい。

 

 ──────

 

 エイナさんに小言を貰って、神様が待つホームへと戻ってきた。どうやら、僕はずいぶん意識を失っていたらしい。ようやくホームに帰れた時には、日にちが変わってしまっていた。もっと言えば、あと少しで夜明けという時間である。少し寝すぎではないだろうか、僕。そんな僕が目覚めるまでの間、ずっと看病してくれていたというエイナさんには感謝の念しか湧かない。今度、お礼として何か買おうか。良い値段のするお菓子とか日常に役に立ちそうな物とかだろうか。今度、それとなく欲しい物を聞いてみよう。

 

 神様は仕事で疲れて寝ているだろうと思って、音を立てないようにゆっくりと廃教会の地下に続く扉を開いた。真っ先に目に映ったのは…………

 

「すぴー、すぴ-」

 

 テーブルに突っ伏して寝ている神様の姿だった。テーブルの上には、神様が働き先から譲ってもらったであろうジャガ丸くんが置いてあった。ヘスティア・ファミリアは、新しく出来たばかりのファミリアでお金が常にない。だから、少しでも食費を浮かせる為に夕食は、ただのジャガ丸くんなのだ。

 

 それが未だにテーブルの上に手が付けられていない状態で置いてるという事は、つまり神様はご飯を食べていないだろう。おそらく、帰ってこない僕を待ってくれていたのだろう。本当に優しい神様だ。僕から、神様の眷属になりたいと言っておきながら、僕は心の何処かでこんな素晴らしい神様に僕は相応しいのだろうかと偶に思ってしまう。だからと言って、改宗(コンバート)などする気も起きないけれど。

 

「んぅ、ベルくぅん~ そ、そんな、僕が欲しいだなんて~ でへへへぇ」

 

 一瞬起こしてしまったかと思ってしまったが、どうやらただの寝言なようだ。なにか夢でも見ているようだが、その夢の内容が凄く気になる。ただまぁ、そんな神様の様子を見ていると、先程まで頭の中で渦を巻いていた負の思考が何処かへ飛んでしまったようだ。毒気が抜かれたというのが適切な表現だろうか。

 

「神様ありがとうございます。こんな僕を受け入れてくれて」

 

 体を冷やさないように僕の寝室から毛布を取ってきて、それを神様の肩にかける。女性の寝室に無断で入る訳にもいかず、自分の寝室から取ってきた男の毛布だが、それは許して欲しい。

 

 テーブルの上にあったじゃが丸くんを冷蔵庫に入れてから、僕の部屋に置いてある予備の剣を手にして地上部分の廃教会へと出た。ダンジョンに潜るとかそういう事ではなくて、自分が英雄になるかもしれない男(ベル・クラネル)だという事に気が付いた日から毎日やっている鍛錬である。それに武器や防具がミノタウロス戦で破損してしまったし、新しい武具を買う必要もあるから、ダンジョンに潜るのは明日からとなりそうだ。

 

 冒険者というのは、人の域を超えた力を手にしたが故にその力に振り回されてしまっている者は少なくない。ステイタスを上げることばかりを目指してしまい、その力を制する事を疎かになってしまうのだ。振り回されたまま武器を振るえば、その武器は容易く壊れるだろう。冒険者という埒外の力を持つ者達の為に作られた頑丈な武器であろうと扱いが悪ければ、短命に終わる。モンスターと戦っている時に日頃の扱いが悪く、壊れてしまったなんて事があれば、まさに絶体絶命。

 

 そういう事がないように僕はこうして武器を手に、鍛錬をするのだ。あとは武器の扱いに優れていれば、それだけで強くもなれる。良い例がタケミカヅチ様。下界に降り立つ為に、その身体能力は一般人並になってしまったが、その神の域の武術があれば、並大抵の冒険者に勝つ事すら可能である。

 

 涼しい朝風をその身に受けながら、僕は剣を振るい続けた。

 

 ────ー

 

 僅かに汗を垂らしながら、剣を振るっていると下の方から、ホームから バタバタと音が聞こえた。どうやら、神様が起きたようだ。

 

 廃教会の地下と地上を繋ぐ扉が開き、そこから神様が飛び出してきた。

 

「ベルくぅぅうぅん!」

 

 近所迷惑では? と思える程の声量で僕の名を呼びながら、神様が僕に抱き着いてきた。ミノタウロスとの戦いで負傷した事はギルドを通して知らされていただろうから、心配性の神様が何らかのアクションを起こすであろうことは想像していたが、まさかここまでとは。

 

 涙と鼻水で色々と台無しになった神様の顔と僕の服。武具の他にも新しい服も買う事を頭の中にメモしておいた。しばらくすると、僕の服との間に粘性の鼻水の橋を架けながら、神様は顔を離した。

 

「ダンジョンでボロボロになったって聞いて、心配したんだからね!? 君はいつか無茶するんじゃないかと常々思っていたけれど、まさか強化種のミノタウロスに単身で挑むなんて何を考えてるんだ! 大体、君はいつも──」

 

 そこから今まで色々と無茶してきた事について、色々なお言葉を貰った。僕の部屋に隠しておいたはずの20階層付近の魔石も見つかっていたようでそれについても説教された。

 

「君の命は君だけのものじゃないんだ。君の死で悲しむ人は大勢いる。僕もそうだけど、ミアやタケ、世話になった人がいっぱいるだろう? だから、自分の命は大切にしてくれよ。それに君は初めて出来た僕の眷属で、今は1人しかいない唯一の家族だ。僕には友達とか(ロキ)もいるけど、家族は君1人しかいないんだ」

 

 ──お願いだから僕を独りにしないでくれよ

 

 最後に力なく吐かれたその言葉。あぁ、確かにその通りだ。独りというのが辛いものであり、耐えがたい悲哀という事をこの身を以て体験している。一度、家族と接する温もりを味わってしまえば、それを失った時の喪失感は凄まじいものだ。あんなもの、出来ればもう二度と経験したくはない。

 

 その悲しみを神様に与えていいのだろうか。否、いいはずがない。

 

 だから、神様にこう言うのだ。

 

「僕はあなたを残して遠くへ行ったりはしない。あなたは僕に希望と夢を叶えるだけの力を与えてくれた。その恩に報いる為にもあなたを独りになんて絶対にさせない」

 

 

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