主人公に暴走の力があるのは間違っているだろうか……いいや、間違っていないはずだ、だってカッコイイじゃん 作:遠無/とおな
神様と話をした翌々日、僕はミノタウロスとの戦いにおいて破損してしまった武具などを新調して、ダンジョンに向かっていた。あの強化種ミノタウロスと戦った事で僕のステイタスは大きく上昇した。流石にレベルアップとまではいかなかったが、トータル600オーバー。どれぐらいヤバいのかと言うと、つい先日まではもやしと言われるぐらいに肌白く、痩せ細っていた知り合いが急にボディビルダー顔負けのゴリマッチョとなり、世界大会で優勝してるレベルぐらい。
あのミノタウロスにいいようにやられた事もあってか、耐久CだったステイタスがBを超えてAになっていた。他のステイタスも軒並み上昇し、全てがAを突破していた。成長補正系のスキルが同時に2つもあって、他の冒険者とは比較にならないぐらいには飛躍し続けている僕だが、それでもいきなりAというのはドン引きである。ちなみにステイタスを更新した時、神様は数刻程、魂が肉体から抜けていた。
ステイタスとは、経験の証とでも言うべきものであり、いきなりCだった耐久がAになったという事は、それだけの経験をした事を、どれだけ手酷くやられたのかを示している。それはもう、神様に何があったのかを根掘り葉掘り聞かれました。それでも神様。「1年間は、ダンジョン潜るの禁止!」とかいう冗談は流石に笑えないです。心配してくれているのは嬉しいですけど。
話を戻して、ステイタス的には既にレベルアップの準備は万端である。だが、未だに偉業は何もない。出来る事なら、あの強化種ミノタウロスに打ち勝って、レベルアップをしたい。一度負けてしまった相手に再び挑んで、打ち勝ち、更なる力を手に入れる。どこかにありそうな英雄譚ではなかろうか。
そんな事を考えていると、後ろから声を掛けられた。
「あの~、これ落としましたよ」
慌てて後ろを振り向けば、そこには薄純色の髪を持ったヒューマンの女性がいた。服装からして、どこかの店員なのだろうか。人当たりの良さそうな笑みを浮かべているし、きっとウェイトレスか何かな気がする。そんな彼女の掌の上には1つの魔石が置かれていた。
……無視しようか、超迷う。何故か、彼女を見ていると悪寒を感じるのだ。そんな悪寒を走らせる彼女が持っている魔石。魔石を落としたと言っているが、全ての魔石は昨日換金したし、その魔石を手に取ると良くない悪魔と契約を結んでしまうような気がする。
「むぅ、何か失礼な事考えてませんか?」
頬を膨らませながら、ジトッとした目でこちらを見る。頬を膨らませるなど、正直言って痛い人ばかりがするのかと思っていたが、彼女がするとそれはそれで絵になる。
「とりあえず、ありがとうございます………… 誰の物か分かりませんけど」
ポーチに入れるふりをして、魔石を砕く。残骸は後でダンジョンにでも捨てる事にしよう。
「あの、冒険者の方ですよね? それなら今夜はダンジョンの帰りにでもうちの店に寄ってください。サービスしちゃいますよ?」
うわぁ、すごい断りたい。悪寒は未だにあるが、上目遣いで「来て下さいよ?」と言われると、若干心が揺れる。まぁ、サービスしてくれるなら、神様でも連れてこようかな。神様は今日は休みだと言っていたし。ステイタスも上昇したおかげでもう少し深めのモンスターの魔石を売っても怪しまれないだろうし。
一旦引き返し、ホームにいた神様と一緒に豊穣の女主人に行く事を約束して、僕はダンジョンへと向かった。
──────
ダンジョンに入ったら、モンスターを作業でもするかのように次々と倒していく。僕が今いるのは15階層。そして、軽く2桁を超えるミノタウロスの群れが僕を囲んでいた。それは
1対1ならば、ミノタウロス相手であろうと快勝出来る。が、これほど大量のミノタウロスを相手に勝てるのかと聞かれれば、僕は絶対に勝てるとは言えないだろう。魔法やスキルのおかげでLV.2上位相当の力を手に入れている僕だが、それでもミノタウロスの
けど、ここで負け死ぬ事も逃げる事も許されないし、僕自身が許さない。
負け死ねば、昨日神様に言った「あなたを独りにしない」という言葉が嘘だった事になってしまう。約束して、1日でその約束を破るなどあり得ない。その約束を違える気など毛頭ない。
だが、ここで逃げる訳にもいかないのだ。僕が憧れる数多くの英雄ならば、きっと逃げる事などあり得ない。全てを救い、敵を薙ぎ倒し、周りを仲間の笑顔で染め上げる英雄ならば。
剣を構え、【
英雄とは、何であるかを。ある人は多くの人から畏怖を集める者が英雄だと言うだろう。またある人は、誰もが達成不可能であろうと思われていた事を為した者であると言うだろう。僕は、「逃げなかった」者こそが英雄になるのだと思っている。英雄が英雄と呼ばれる最低条件は「勇気」である。誰もが逃げ出すような状況で勇気で心を灯して、周りを照らし救う者こそが英雄だ。
僕は、そんな英雄になるのだと誓ったのだ。そんな英雄の背に憧れたのだ。
もう二度と誰かが悲しみの涙を流す悲劇など起こさせない為に。
多くの
「「「「オオオオオオオオオ!!」」」」
ミノタウロスの雄叫びが開戦を告げる鐘となりて、ここに人と怪物の戦いが幕を開けた。
ほぼ同時に僕の頭上から隕石とさえ思える程に巨大な拳が流星群となって、降り注ぐ。それを食らえば、今の僕なら原型が無くなる程に滅茶苦茶になるだろう。あわよくば生き残れたとしても、再生中に滅多刺しにされて終いだ。
なら、今僕が取るべき行動は回避。
ミノタウロスという、その巨体故に足も大きく、足と足の間は人が屈めば、十分に通り抜けられる。スライディングして、ミノタウロスの足を通り抜ける事で初撃を回避する事に成功した。拳の群れは目標を失い、空振る事で地面に叩き付けられる。爆発でも起きたのかとさえ思える程の轟音が鳴り響くが、そんなものはお構いなしに手に持っていた剣で1体のミノタウロスの頭を貫いた。骨と内臓を潰した感触が手に伝わる。
後頭部から突き刺した剣は、骨や肉を貫通し、ミノタウロスの口から刃が飛び出した。そのまま切り払い、口から上部を宙へと舞わせる。
これで1体目。続けて、近くにいた2体目も狩ろうとしたが、僕が攻撃している内に体勢を整えていたようでまた拳が振り下ろされた。後ろに跳ぶ事で何とか回避するが、その僕の回避行動を読んでいたかのように僕が着地した瞬間、横から別のミノタウロスのラリアットが炸裂する。
丸太のように極太の腕から繰り出されるその攻撃は、僕の小さな体を大砲で撃たれる砲弾のように吹き飛ばされる。なんとか受け身を取り、素早く体の状態を確認する。首の骨は折れ、罅も入っている。脊髄もやられたのか、左腕の感覚は既に無く、右足も痺れを訴えていた。
これぐらいならば、問題ない。【
正確に言うなら、こっちに突進して来ているミノタウロス達だが。
頭に生えた鉄を貫く太い角を前にしながら、突撃してくるミノタウロス達。それはさながら、前世で見た闘牛のようだった。地を踏み鳴らしながら、こちらへと迫る闘牛達。それに恐れなど抱きやしない。ただ、僕はひたすらに地面を蹴って、前に走り始めた。
──────
「これで、最後ッ!」
肩に乗り、暴れる脳天を手刀で貫けば、最後のミノタウロスは消滅した。剣は途中でまた砕けて、それ以降は体を使って倒している。体内に手を突っ込んでモンスターの核である魔石を直接引き抜いたり、手刀で首を切断したり、蹴りで頭を吹き飛ばしたりと。硬い皮膚を直接攻撃している為、攻撃する度に骨が砕けたりして内側から出血したりしたおかげで僕の体は全身真っ赤に染まっていた。
周囲を見渡せば、戦いの激しさを物語るかのように地面、壁、天井、360度見渡しても無事な所などなかった。亀裂が走ったり、地面が陥没していたりとしていた。まぁ、ダンジョンの中なのでほんの数時間もあれば元通りになるのだろうが。地面には多くの魔石が散乱していた。戦闘の最中に踏み砕いてしまったものもあるが、ここにある魔石だけでも結構な収入が見込めるはずだ。
……まぁ、今の僕はLv.1なのでこれを持っていったとしても、どこからか盗まれたとか言われて終わりだろうから、僕の部屋に今は隠しておくことにする。
地面に落ちている魔石は、実はミノタウロスだけのものではない。ライガーファングという大きな虎のようなモンスターの魔石も落ちている。一体誰が2連続で同じ場所で
ダンジョンの殺意の高さに辟易しつつ、懐から懐中時計を取り出す。これは、初めて出来た眷属記念みたいな感じで神様が僕にくれたものだ。ちなみに僕の方からは今も付けてくれている白いリボンをプレゼントしている。気に入ってくれたのか、毎日付けてくれていて贈った側からすると嬉しい限りだ。
時間を確認してみると、そろそろ日が暮れ始める時間だった。今日の夜には「豊穣の女主人」に行くと言ってしまったし、ここらで切り上げる事にしよう。
ステイタス的には11階層前後の魔石を売ってもおかしくないはずなので、今日はそこら辺の魔石を換金する事にしていた。これで今日の夕食代は足りるだろう、多分。神様が余程の大食いでも無い限りは。一応、僕自身はそれなりに食べるが【
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ギルドで換金をする際にエイナさんから僕のステイタスを疑われるというちょっとした事件?が発生したのだが、背中に刻まれた
ギルド前で神様と待ち合わせをしていたのだが、どれだけ待っても来ない。ギルド前で待ち合わせをして、僕が換金したらそのまま食べに行こうという事になっていたのだが、30分待っても来なかったため、ホームに戻る事にした。
廃教会の地下へと繋がる扉を開けると、そこにはソファに涎を垂らしながら寝ている神様の姿があった。何か幸せな夢でも見ているのか、その顔にはだらしのない笑みが浮かんでいる。「神の威厳? 何それおいしいの?」みたいな感じになっているが、もはや慣れた。
たった数週間で神様にそれを求めるのは酷な事であると思い知ったのだ。そもそも、神友の脛を齧っていたり、神自らバイトしていたりとしている為、この神様に威厳など求めてはいけないのだ。その分、親しみやすくて良いのだけど。
「神様ー、起きてくださーい」
気持ちよさそうに眠る神様の肩を揺らして起こす事を試みる。だが、案の定神様は起きる気配を全く見せない。この神様、惰眠を貪る事に関しては最強なのだ。過去にも何度か起こそうとした事はあるが、大体の手段を取ると失敗に終わっている。最終手段はあるにはある。それをやれば、ほぼ100%起きる事間違い無しなのだ。だが、それをやると僕の心の方にも少しダメージが発生するのだが、今日は既に豊穣の女主人に行く事を伝えていたのに寝ている神様が悪い事にしよう。
「神様が起きないと
改宗とは、所属するファミリアを変える事だ。まぁ、するつもりなど毛頭ないのだが、これを言うと一発で神様は覚醒する。
神という存在は、この下界に降りる為に己の力の殆どを封印しているのだが、人の言葉の嘘だけは分かるのだ。あくまで嘘であるかそうでないか分かる為、その言葉が真実かどうかを見極める力ではないという若干の弱点を抱えているが。
まぁ、神の持っている力があれば、僕の
「べ、べベベル君!?
「はい嘘ですよ、勿論。僕が神様のファミリアを離れる訳ないじゃないですか」
僕の言葉を聞いて、ひとまずの安心を見せた神様。この方法は何回かしている為、いい加減神様も慣れてよさそうなものなのだが、毎回こうして慌ててしまう。それだけ、僕という眷属を大事に思ってくれているという事なのかもしれないし、もしそうならそれはそれで嬉しい。
「それよりも神様、時間見てください。今日の朝、一緒にご飯食べに行こうって約束しましたよね?」
神様はギギギと錆びついた機械のような動きでゆっくりと時計の方へと首を向ける。そこには約束の時間から40分程遅れた事を示している時計の針があった。その事に気が付くと顔を真っ青にして、口を開く。
「ごめん、ベルくぅぅううんんんんん!!」
叫びながら、神様は自室へと籠った。おそらく身支度を整えているのだろう。女性の身支度にはだいぶ時間はかかるものだと思っていたのだが、神様は素早くそれを終わらせた。約束を破ってしまった罪悪感から手早く終わらせたのか、それともン十億年も生きてきて、その間に文字通り億を超える回数を熟してきた経験がなす技なのか。
……どちらも正解な気がする。10分程度で準備を終わらせた神様は準備を終え、部屋から出てきた。尤も、金銭的な事情でお洒落をさせてあげられないのが少しだけ心苦しい。神様が寝坊してくれたおかげでその心苦しさは半分以上軽減されているが。
「それじゃ、行くか! ベル君!」