また会う日まで—のんのんびより—   作:憩 恋子

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 のんのんびよりはアニメしか見てないし、なんなら観たのも記憶が曖昧になるくらい昔なので多少おかしくても指摘されませぬよう。あれ、ここおかしくね?なんて思ったとしてもパラレルワールドだと思って無理やり納得してくだちい……。


小鞠と会った 前編

「……おい、いい加減にしろ」

 

 畳に寝転がってテレビを観ながら煎餅を齧っていると駄菓子屋に尻を蹴られた。

 

「ちょっと男子ィ、可愛い子のお尻を蹴るとかサイテー」

 

「男はお前だろうが!」

 

「フギャッ‼︎」

 

 いきなり駄菓子屋が飛びかかってきた。不意打ちだから咄嗟に抵抗することも出来ず、あれよあれよという間に腕を取られ、そのまま腕ひしぎ十字固めの形で関節を極められてしまった。

 

「ちょっ、ギブギブギブ‼︎」

 

「うっせえ、ちょっとは痛い目見せてやる」

 

「タップを無視しないでくれませんかね⁉︎」

 

 ……本当はそれほど痛くもない。手加減してくれているのかとも思ったけどそうでもないらしく、マジで腕力が弱いだけのようだ。力が弱過ぎて下手に振り払うと逆に怪我させてしまうのではと心配になるレベル。ただ女の子の柔らかい身体と鼻を突き抜ける甘い匂いですごくムラムラする。

 

 あー、めっちゃムラムラする。

 

「ふぅ、こんなもんか」

 

 額の汗を拭う仕草とともに俺から離れて座布団の上に座る駄菓子屋。俺もテントを見られないように即座に上体を起こす。

 

「それで、何の用だ?」

 

「何の用だ、じゃねえよ。毎日毎日うちに来てゴロゴロしやがって。しかも私の家の菓子を貪るな。どんだけ煎餅食うんだよ、買い置きしてた煎餅がもう一袋しか無いじゃねえか」

 

「あー、なるほどね。そういやここに来てもう一ヶ月くらいか」

 

「飽きもせずに一ヶ月休まず来やがって」

 

「だってゴロゴロしてるだけで美味いものが出てくるんだもーん」

 

 パスタ、オムライス、カレーにシチュー。美味いものが出てくる居心地の良い場所なんてもはや心の実家だろ。俺ここに住みたい。

 

「お前、部屋の片付けも済んでないんだろ? 手伝ってやろうか?」

 

「……えっと、お幾らで?」

 

「これくらいだな」

 

 どこからか取り出した電卓には子供の小遣いかと思ってしまうほど低い数字が提示されており、驚きに言葉を失ってしまう。

 

「こんな料金で良いのかよ」

 

「すげえ久しぶりだからな。これは一回限りの特別料金だ」

 

「マジかよ、一回限りの特別料金なら頼もうかな。……終わるまで帰らせずに一回分の料金でとことん働かせてやるか」

 

「最低じゃねえか」

 

 互いに数秒ほど見つめ合い、どちらともなく吹き出して腹を抱える。

 

「んじゃ、私は仕事してるから早く帰れよ」

 

「やーだね」

 

 店の方へ戻っていく駄菓子屋を尻目にもう一つ煎餅をバリボリ。やっぱり煎餅は駄菓子屋のに限るぜ。なんて考えているとガラス戸を開ける音とわずかに声が聞こえた。どうやら来客のようだ。

 

「うわぁ……!」

 

 ふむ、声質から察するに来客は女の子か。しかもリアクションからして駄菓子屋に初めて来たと見る。つまり、ここらの子ではないな。

 

 店の奥にある居住スペースからこっそり覗くと二人の少女が店内を見て回っていた。あれは……高校生くらいか? 大人びた中学三年生か、あるいは高校生か。小学生という選択肢は無いな。絶対にあり得ない。そんでもってもう片方は小鞠だな、うん。夏海を見間違えないレベルで小鞠も見間違えようがない。

 

「いらっしゃい」

 

「こ、こんにちわ」

 

「こんにちわー」

 

「ああ」

 

 そう返す駄菓子屋の背後にぬるりと移動し、肩に手を置いて耳に顔を近づける。

 

「楓ちゃん素っ気なーい」

 

「ひゃわっ!」

 

 駄菓子屋が耳を押さえて飛び上がった。それを見て俺は腹を抱える。ここに来てから一気に笑う回数が増えたせいか腹筋のキレが更に良くなってる気がするんだよね。

 

「てンめえ!」

 

「うきゃー、逃げろ逃げろー!」

 

 少女二人の視線も気にせず俺たちは追っかけっこを開始し、店内をぐるっと一周したあと飛びかかってきた駄菓子屋に捕まってしまった。

 

「オラオラオラァ!」

 

「ひゃー、痛いー。やーめーてー」

 

 駄菓子屋に関節技をガッチリやられている途中で二人に目を向けると、ポカーンとアホっぽい顔でこっちを見ていた。

 

「だ、駄菓子屋! その大人っぽい綺麗なお姉さんは誰……?」

 

「アタシの名前は麗奈(れな)よ、よろしくね。見た目通りの綺麗なお姉さんだから仲良くしてちょうだい」

 

「コラ、嘘吐くなっての。小鞠、コイツはあの麗那だ。小鞠が小さい頃に一緒に遊んでた上砂原(かさはら)麗那(れいな)だよ。忘れたか?」

 

「えっ、でも麗那お兄ちゃんは男の人だったよね? その綺麗な人はどう見ても女の人だし……。あれ? なんだか頭がぐるぐるしてきた〜」

 

「せ、先輩⁉︎ 大丈夫ですか⁉︎」

 

 頭から煙を発して目を回す小鞠の肩を少女は激しく揺さぶった。何故この少女も若干涙目なのかは理解できないが、きっと小鞠を想っての涙だと思うので放っておくべきか。

 

 …………ん? 先輩?

 

「もしかして君って小鞠より年下だったりする?」

 

「はい、私は小鞠先輩より年下で小学五年生ですけど……」

 

「しょ、小学生だったかぁ……」

 

 うーん、この見た目で小学生は無理があるね。ランドセルを背負った姿なんてきっと犯罪臭がしそうだ。むしろ小鞠の方がランドセル似合うと思うなぁ。

 

「よっこいせっと」

 

 駄菓子屋の関節技より逃げ出してから目の前でプスプスと音を立てる小鞠を抱えて奥へ入り、座布団を枕に寝かせる。とりあえず再起動するまで小鞠は寝かせておくとしよう。

 

「駄菓子屋、彼女にアレを」

 

「いやどれだよ」

 

「アレって言ったらアレだよ。むしろアレ以外にアレって呼ぶ物なんてほとんどないでしょ。ほら、早くアレ持ってきてアレ」

 

「……次アレって言ったら飯抜きだからな?」

 

「冷蔵庫に入ってるオレンジジュースです生意気言って本当にすみません」

 

「最初からそう言えっての」

 

 ブツブツ文句を垂れ流しながらも用意してくれる辺り、駄菓子屋は本当に優しくて良い人だなって感じる。見た目とは裏腹に家庭的なのもポイント高い。

 

 寝かせている小鞠の横に腰を下ろし、小鞠の頭をそっと持ち上げて俺の太腿にのせて優しく撫でると顔色が多少良くなった気がする。その様子をジッと見ている自称小学五年生の顔には羨ましいと書いてあった。たぶん疲れたから座って休みたいんだよね。きっとそうだ。……小鞠を膝枕している俺が羨ましいとかアリエナイ。

 

「ほら、君もこっちに来て座りたまえ」

 

「あっ、はい。失礼します」

 

「堅い堅い、我が家だと思って寛いで——フギャッ‼︎」

 

 背後から平手で後頭部を叩かれた。

 

「何が我が家だと思って寛いでだ。ここは私の家だっつの」

 

「ふふっ、まぁまぁ気にしなさんな。あ、オレンジジュースありがとうね」

 

「ありがとうございます!」

 

「……おう」

 

 駄菓子屋は微妙に照れた様子で俺と自称小学五年生の間となる位置にどかっと座る。いやなんで座ってるんだよ。

 

「駄菓子屋、店番はしなくていいのか?」

 

「……暇なんだよ。それに店番は呼び鈴に任せてあるから大丈夫だ」

 

「確かに駄菓子屋の駄菓子屋を駄菓子屋として利用するのは旭丘分校の生徒ぐらいだもんな。他の人間は駄菓子屋の駄菓子屋を駄菓子屋としてではなく便利屋的な感じで利用してるっぽいし」

 

「駄菓子屋って言葉がゲシュタルト崩壊を起こすからやめろ」

 

「それにしても、小鞠も大きくなったもんだなぁ」

 

「話題転換が雑過ぎる、話し下手かよ……」

 

「あのっ、えっと、駄菓子屋さん? とお兄さんと小鞠先輩はどういうご関係なんですか?」

 

 駄菓子屋とじゃれていると自称小学五年生ちゃん、略して自五ちゃんが言葉のボールを投げてきて、そういえばこの子もいたなと改めて存在を認識した。申し訳ない。

 

「まず自己紹介ね。俺は上砂原麗那で、こっちの見るからに不良で怖そうな人は加賀山楓ね」

 

「おい」

 

「駄菓子屋『かがや』の店主、加賀山楓さんです」

 

 駄菓子屋がぶっきらぼうによろしくと言うと、自五ちゃんは律儀に頭を下げてよろしくお願いしますっと言った。

 

「私は一条蛍です。東京から引っ越してきました」

 

「へー、東京から! 俺と一緒だね!」

 

「お兄さんも東京から来られたんですか?」

 

「そうそう、ちょっと前に宝くじで十億円が当たったから余生はこっちで過ごそうかと思ってね」

 

「「十億円⁉︎」」

 

 駄菓子屋が飛び上がる。かと思えば俺の両肩を掴んでぐわんぐわんと激しく揺らした。

 

「十億円だって⁉︎ 本当なのか⁉︎」

 

「本当だよ〜ん。あれ、駄菓子屋には言ってなかったっけ?」

 

「聞いてねえよ!」

 

「じ、じじじ十億円もあるのに、どうしてこの村に引っ越して来られたんですか⁉︎」

 

「話せば長くなるんだけどね——」

 

 

 

 俺は生まれも育ちも東京で、小中高大学も全て東京で完結している。そんな俺がどうしてこの村に住む小鞠や駄菓子屋と知り合いかと言うと、それは偏に母方の祖父母がここに住んでいて長期休暇の度に遊びに来ていたからだ。

 

 今は亡き祖父母の家に遊びに行くと近所に住む一穂や駄菓子屋、他のやつらとも偶然顔を合わせる機会が多々あり、気づけば俺もメンバーに入れられて野山を駆け回っていた。田舎っ子の怖いもの知らずなところは素直に尊敬する次第だな。

 

 そうして毎年二回から三回ほど遊びに来ていると相手の親にも顔と名前を覚えられ、その流れで村に住む他のちびっ子の子守りを任されることも増え始めるわけで。

 

 だから俺は一穂や駄菓子屋と一緒に越谷家三兄妹のオムツを替えたことだってあるんだぜ。つまり駄菓子屋たちとはそれぐらい幼い頃からの付き合いってことだ。

 

「どうよ、すっげーでしょ」

 

「あのあのっ、赤ちゃんの頃の小鞠先輩もやっぱり可愛かったですか⁉︎」

 

「そりゃあもう目に入れても痛くないくらい可愛いかったぞ。その頃は夏海も可愛げがあったんだけどなぁ。ある程度成長したらクソガキになったからな、あいつ……」

 

「そのクソガキと一緒になって遊んでたのはお前だろうが」

 

 呆れ顔の駄菓子屋に睨まれる。蛍ちゃんは緩み切った笑みを浮かべながら「赤ちゃん小鞠先輩……赤ちゃん小鞠先輩……」なんて呟いていた。彼女が犯罪に手を染めないことを切に願うばかりである。

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