大自然が遣わした正義の使者は異世界最強 作:Hetzer愛好家
「あの、猛さん。入りますね」
入って良いか? とは聞くこともなく、香織はノックをした数秒後に平然と俺の部屋に入ってきた。流石に困惑せざるを得ない。
「男の部屋に平然と入り込むんじゃないよ、全くお前は。こんな所を智一さんに見られたら間違いなく俺が殺されるんだが」
「あれ、別に良くないですか? 猛さんなら過ちを犯す心配はないですし」
「男として見られてないのは分かった」
「いやいや、そうじゃないです! 猛さんって紳士的だから、理性も強いと信じてるんですよ!」
はたしてフォローになっているのだろうか。香織は多分、最大限のフォローをしたつもりなのだろう。
いやまあ、確かに無防備であっても女性を襲うなんて事はしない。同意すらなく一方的に襲うなど、人として有り得ない。
それでも、勇気のない意気地なしと遠回しに言われた気がして少しだけ悔しく思う。
「はあ。で、何で部屋に来た?」
「あ、その……猛さんにお礼が言いたくて」
「今日の事か? 別にお礼をわざわざしなくても気にしないんだが」
「……それでも、お礼がしたいんです。猛さん、さり気なくですけど戦うときは私の前に立ってましたよね?」
何ということだ。バレていたらしい。実は、俺が光輝パーティーに混じって戦うときは必ずと言って良いほど香織の前に立っていたのである。なるべく彼女が被弾しないように、俺は守ろうとしていたのだ。
しかし、その事を改めて礼を言われると……何というか、こっぱずかしい。
「……まあ、あれだ。お前達は俺と違って未来がある。それを凄惨な物にはしたくないんだ」
「ふふ、相変わらず優しいですね。猛さんって、光輝くんよりもヒーローっぽくて英雄みたいですよ」
「ヒーローだの英雄だの、俺に関してはなりたくてなっているわけじゃない。本当なら戦いたくないし、静かに余生を送りたい。それでも、目の前で散ってしまう可能性のある命を見捨てることは出来ない。だから、あんな行動をとるのさ」
ヒーローや英雄というのは、なろうとした瞬間に英雄にはなれなくなる。英雄に自らなろうとする者は、必ず失敗をして地位や名誉を失う。
その事を知ったのは、戦い始めてからかなり時間が流れてからだ。何時しか人類から「ヒーロー」だの「英雄」だのと呼ばれ、その呼称に喜ぶこともなく戦っていたときに偶然とある男と出会ったことで知ることが出来たのである。
その男は世間では連続殺人事件の犯人として認知されていた。しかし彼は、弱者から「英雄」と呼ばれるために復讐代行をしていた。それだけだった。本来なら、人を殺すのも辛いはずなのに、英雄になりたくて彼は犯す必要の無い過ちを犯し続けていた。
警察と連携して男を無力化した際に、彼から投げかけられた言葉は今でも脳にこびりついている。
「俺はただ、英雄になりたかっただけなのに」
この時に俺は悟ったのだ。英雄というのは、何時の間にか他人から呼ばれるありがたくもない称号なのだと。なりたくてもなれない。手に入れたくても手に入れられない。そんな称号なのだと。
そして、英雄になるためには何人もの犠牲者を生み出さなくてはならない事も同時に悟った。俺の後ろには、救えなかったショッカーの犠牲者で道が広がっている。英雄は、犠牲者の死体を踏み台にして進むのだ。
「香織。俺は英雄でもヒーローでもないんだ。どんなに君が俺のことを英雄だと呼んでも、俺は真の英雄ではないしヒーローでもない」
「そんな事ないですよ! 猛さんは立派なヒーローじゃないですか!」
「俺は、これまで多くの生き物を殺してきた。もちろん人も殺した。そんな奴を、本当にヒーローと呼べるか?」
一人を殺害すれば犯罪者。万人を殺害すれば英雄。自分の命を脅かす者を殺してもらえば、人はその人物をヒーローと崇める。
「誰かのことをヒーローや英雄と、簡単に呼んではいけないよ。歴史上に名を残すヒーローや英雄と呼ばれる者は、それだけ多くの苦しみと悩みをを抱えて生きてきたんだから」
「猛さんも……やっぱり苦しいしいんですか?」
「そうだな。俺は、今でもこの手で殺したショッカーの犠牲者の事を夢で見る。この十字架は一生背負う物だから仕方ないけどな」
時には親友を。時には恩師を。俺はこの手で殺した。俺は、一人を守るより万人を守る道を選んだ。彼らは、そのための犠牲者でもあった。
「辛くは、ないですか?」
香織が身を乗り出して俺に尋ねる。距離感がとても近く、絶世の美女ともいえる香織の顔に俺の心臓は限界まで高鳴る。
が、すぐに煩悩は消え去った。香織の瞳には、心から誰かを心配している色が浮かんでいたのだ。
俺は香織よりもずっと長い月日を生きてきた。年下に甘えるのも何処か気後れしてしまう。だが、香織の真っ直ぐな瞳を見ていると、俺は意識せずに言葉を発した。
「……辛いさ」
一度口にしてしまえば止まることは困難だ。約十数年の間も心の内に溜めていた「辛さ」は、とめどめもなく溢れ出て行く。
「辛いし、俺は憎い。己の運命が憎い。なんで俺がこんな目に遭わなければいけないんだ。俺は平々凡々な人生を送りたかったのに……」
「猛さん……」
「すまない、香織。今日だけは。今夜だけは、君に甘えても……良いだろうか」
俺は人のように弱さを見せ、甘えても良いかと聞く。香織はただ優しく微笑み、俺の頭を抱き締めて自分の胸元に引き寄せた。
十数年ぶりに流した涙は、俺の長年溜め込んだストレスを優しく流していくのだった。
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一方その頃
「ねえ恵里。自分の部屋には戻らないの?」
「……イヤ。ここで寝る」
「参ったなあ。ここには幸利も居るんだよ?」
ハジメは相部屋の幸利や猫のようにやって来た恵里と談笑していた。
一人勝手に傷ついている光輝や溜め込んでいたストレスを吐き出している猛とは違い、彼らは純粋に今日体験したオルクスでの出来事を共有していた。
……ハジメは恵里を膝枕しながら。
「気にするなって。俺も慣れてるから」
「……ごめんね幸利」
「恵里が甘えん坊なのは知ってるから気にしないさ。むしろ、今日の奮闘を労うためにも膝枕以外に何かしてやったらどうだ?」
幸利の事も労いたいのに、とハジメは内心で口にする。二人の的確な援護がなければベヒモスを圧倒する事は出来なかったのは事実なので、ハジメの内心はとても複雑だ。
「……ハジメ、顔が硬いよ」
「誰のせいだと思ってるのかなあ……全くもう」
「あ、髪の毛撫でられるの気持ちいい。もっとして欲しいかな」
「恵里は変わらないなあ。あ、そうだハジメ。お前が今日装着していたパワードスーツって一着しかないのか?」
「あれは猛先生が作った物だから僕は分からないな。明日にでも聞いてみたら?」
「そうだな。中々に決まってたから俺も欲しくなったんだよ。情報提供サンキューな」
マイペースな恵里に振り回されつつも幸利の質問にはしっかり答える。が、撫でる手が疎かになるとすぐに恵里から指摘が入る。
苦笑しつつも、ハジメは恵里の頭を撫で続ける。時折頬にも触れ、モチモチとしたほっぺたの感触を楽しみながら。
「ねえハジメ。ボク、お願いがあるんだけど」
「なんだい? 出来る範囲でよろしくね」
「キス、してくれないかなあ」
「「ぶふっ!?」」
「え、えっと……」
「あー、その、なんだ。ごゆっくりな。俺は夜風に当たってくるから」
「ちょ、幸利!?」
そそくさと部屋を出て行く幸利の事を、ハジメは恨み顔で見送る。
実はハジメと恵里は恋人関係ではない。ハジメの甘やかし度合いを見れば「いやいや待て待て」となるだろうが、断じて恋人関係ではない。
……と、ハジメは思っている。
どこまでも鈍感なハジメさんだが、恵里のシチュエーションを考えれば彼女が彼に惚れるのは当然の結果である。
「ダメ、なの? それても、ボクとするのはイヤなの?」
「いやいや、そうじゃないよ! でもさ、こういうのは恋人同士じゃないとダメでしょ?」
「恋人同士なら良いの? お互いに好きなら、ハジメは良いの?」
「え、うん……僕はそう思ってるけど」
ここまで膝枕をしておいて何を言っているんだという話である。ハジメの己に対する評価が最低レベルをぶっちぎっているので仕方ないかもしれないが、これは中々に酷いだろう。
逆にこれだけハジメが鈍感でもめげない恵里は称賛されるべきだ。
恵里はさらにハジメとの距離を詰めると、真っ直ぐ彼の瞳を見つめる。
「ハジメ。ハジメは、ボクの事が嫌い?」
「そんなこと有り得ないよ! 恵里の事を嫌ってたら何でこうして受け入れてると思うの!?」
「そう、良かった。ボクもハジメの事は好きだから。異性としてね」
「……え? い、異性?」
「それが違うなら何だと思ったのさ」
何時の間にかハジメの事を押し倒し、彼の上に覆い被さるように抱きつく恵里。脳処理が追いついていないハジメの耳元に、囁くように言葉を口にする。
「大好き。愛してる。ハジメ」
「うぐっ……」
「ねえ、返事を聞かせて?」
内心ではアドバイスをしてくれた親友の谷口鈴に感謝の言葉を述べつつ、恵里は熟れたリンゴの様に顔を赤くしたハジメに尚も迫るのだった。
その後なにがあったのかは……幸利の「臭え」が全てを物語っているだろう。
今作はR-15ですので前作とは違い行為描写はないです。前作なら間違いなく書いてましたが、ないです(しつこい)。
次回はもう一度オルクスに潜ります。
本郷猛と結ばれて欲しい人は?
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香織&シア
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ユエ&ティオ
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雫