大自然が遣わした正義の使者は異世界最強 作:Hetzer愛好家
帝国兵が残した馬車類をそのまま拝借し、俺達は樹海へと向かう。
助けた礼に樹海を案内するようにハジメがいつの間にか約束を取り付けていたため、本来なら樹海に近付きたくないはずなのにハウリアは一も二もなく同行してくれることになった。
サイクロンやハジメのバイクを馬車と連結させ、二人して徐行運転で樹海を目指す。
シアは馬車内で家族と積もる話があるらしく、サイクロンの後部座席には乗っていない。代わりに香織が現在は俺の後ろに居る。
「あの、猛さん……大丈夫ですか?」
「……逆に、どの辺りが大丈夫じゃなく見えるんだ?」
「そんな悲しそうな顔して大丈夫だとは流石に思えませんよ」
どうやら、俺は随分と沈んだ顔をしていたらしい。香織に気がつかれたということは、ハジメ達ももしかしたら気がついているかもしれない。
俺の抱える痛みは誰も理解することが出来ない代物だ。気がつかれたところで如何する事も出来ないだろう。人を殺した時の嫌な感触に悩むなど、余程の狂人でもなければ経験しない。
出来ることなら、彼女らには殺人を経験しないまま元の世界に帰って欲しいところだが、きっとそれは叶わないだろう。せめてもの抵抗で俺が手を汚し続けているが……意味は薄いかもしれない。
単なる自己満足と分かっていても止めることが出来ない自分自身に嫌悪感を覚え、俺は歯を食いしばる。
すると、背中に柔らかい不思議な感触が当たった。何だろうと思ってチラリと背中を見ると、香織が俺に体重を預けるような抱きつき方をしている。思わずサイクロンから落ちるところだった。
「香織?」
「……ありがとうございます、猛さん」
「何のことだ? 俺はお前にお礼を言われるようなことはしてないはずだ」
「もう、本当は分かってるくせに……」
フニフニと二つの山の形を押し付けながら抱き締められるこの状態。生物的な本能が目覚めてしまいそうで怖い。いっそのこと香織に全てを委ねてしまおうか。そんな考えも浮かび出てくる。
しかし、改造人間は思い人と結ばれる事は許されない。いや、出来ない。その割には永遠の命という厄介な代物があるため、俺は永遠に孤独に生きなければならない。
「ならば改造人間同士なら心が通い合うだろう」という考えもあるかもしれない。だが、各々が心に抱える痛みは同族であっても理解出来ない。最も近い位置に立っていた一文字隼人の苦悩でさえも本質から分かっていた訳ではない俺が、他の改造人間と心から通い合う事など出来ないだろう。
「猛さん。何で貴方は、そこまでして私達の手を汚すまいとしているんですか?」
「……気がついてたか。まあ、理由は簡単だ。お前達に人殺しの感触を味わって欲しくないからだ。いつかその時が来るとは分かっていても、俺はお前達には綺麗な手でいて欲しい」
「でも、それじゃあ猛さんだけが傷付く事になりますよね。もっと頼ってくれても良いんですよ?」
「人殺しをしてくれとは頼めないな」
誰かに頼るという考えが抜け落ちている事は自覚している。そこを改善すれば、俺はもっと楽に生きられるだろう。
だが、それは許せない。我が儘でも自分勝手でも何とでも言えば良い。それでも俺はこの考えを改めず、永遠に独りでも戦うつもりだ。悲しい生き方だとしても、ずっと、永遠に……。
そんな俺の雰囲気を感じ取ったのだろうか。香織が俺の肩に顎を乗せ、耳に囁くように声を発した。
「なら、せめて二人きりの時は甘えてください。猛さんが辛そうな顔をしていると、私も辛いです」
「うっ……しかしなあ。大の大人が年下に甘えるのは如何なものか」
「大好きな人のためには何でもしてあげたいんです。歳の差なんて関係ないですよ」
この娘はどこまで天使なのだろうか。智一さんが彼女の事を天使と評するのも分かる。多分、俺が感じている彼女の像は智一さんとは違うと思うが、それでも天使には変わりない。
果たして彼女の好意を真っ向から受けても良いのだろうか。
という悩みの前に、鈴の鳴るような香織の声にダメにされそうである。脳が直接溶かされている気がしてならない。
樹海まではあと一時間。俺は自分の鋼の意志を信じてほんの少しスロットルを捻って速度を上げるのだった。
───────────────────
一時間が経過し、俺達は漸く【ハルツィナ樹海】と平原の境界に到着した。樹海の外から見る限り、ただの鬱蒼とした森にしか見えないのだが、一度中に入ると直ぐさま霧に覆われるらしい。その霧は亜人でなければ一瞬で方向を見失ってしまうモノだそうだ。
「それでは、中に入ったら決して我らから離れないで下さい。貴方方を中心にして進みますが、万一はぐれると厄介ですからな。それと、行き先は森の深部、大樹の下で宜しいのですな?」
「ええ。何かすみませんね」
「いえ、命を助けてもらった身としてはこのぐらい何てことないですよ」
カムが言った〝大樹〟とは、【ハルツィナ樹海】の最深部にある巨大な一本樹木で、亜人達には〝大樹ウーア・アルト〟と呼ばれており、神聖な場所として滅多に近づくものはいないらしい。ハジメがカムから聞いた話だ。
恵里の情報から樹海の大迷宮は大樹にあると聞いているため、そこを目指すことにしたのである。
「猛殿、できる限り気配は消してもらえますかな。大樹は、神聖な場所とされておりますから、あまり近づくものはおりませんが、特別禁止されているわけでもないので、フェアベルゲンや、他の集落の者達と遭遇してしまうかもしれません。我々は、お尋ね者なので見つかると厄介です」
「心得てます。ハジメ達もある程度は気配遮断できるので大丈夫ですよ」
ユエぐらいの気配遮断に合わせて俺も技能を発動させる。ユエの気配遮断術は若干粗が残るが、それでも実戦で使うには十分すぎるぐらいの物である。
ハウリアに囲まれ、俺達は霧の中を進む。なるほど、俺の仮面を以てしても周囲の情報が満足に把握できない。これは相当厄介だ。しかし、ハウリアにはしっかりと位置が分かるらしい。迷いのない歩行で俺達を案内していく。
時折現れる魔物は俺がカウンター気味に殴るかユエと恵里が魔法で殺害するかの何方かなため、一匹たりとも被害を与えた魔物は居ない。
ちなみに魔物は猿のような奴だった。ウッキーウッキー言いながら集団で飛びかかってくるが、俺の場合は軽い鉄拳で死んでしまうので大した脅威ではなかった。
どうやら樹海の魔物は、一般的には相当厄介なものとして認識されているのだが、何の問題もなかったのは何とも言えない気分である。
しかし、樹海に入って数時間が過ぎた頃、今までにない無数の気配に囲まれ、俺達は歩みを止めることになった。数も殺気も、連携の練度も、今までの魔物とは比べ物にならない。カム達は忙しなくウサミミを動かし索敵をしている。そして、何かを掴んだのか苦虫を噛み潰したような表情を見せた。
俺も気配を索敵し、確かに数が多く面倒だ……と思ったところで、一つどういう訳だか覚えのある気配を感じ取った。随分と懐かしい気配な気がして、戦闘態勢を取らなければいけないのだが、俺は気配の正体が気になって仕方がなかった。
やがて、殺気を伴った集団と相対する。
「お前達……何故人間といる! 種族と族名を名乗れ!」
まず現れたのは虎模様の耳と尻尾を付けた、筋骨隆々の亜人だ。目に殺気を宿しており、放置すればすぐにでも戦闘が始まるだろう。
だが、正直言って亜人の方へは意識が行かなかった。俺の視線は一人の男に釘付けだ。
肩までかかる長い癖毛。野性的な半袖の破れた服装。口元から覗く犬歯。腕には特徴的な銀色の腕輪。
「オレ、トモダチ守ル! トモダチ傷付ケルノ許サナイ!」
「お前、まさか……!」
そして片言の日本語。俺の予測は確信へと変わった!
「アマゾンか!?」
奴です。あいつです()
ちなみに樹海に滞在している間にもう一人と意外な再会をしますので誰が出てくるか予想してみてください。
本郷猛と結ばれて欲しい人は?
-
香織&シア
-
ユエ&ティオ
-
雫