大自然が遣わした正義の使者は異世界最強 作:Hetzer愛好家
荒野を一台の大型二輪が駆けていく。土煙を上げ、時折現れる魔物を文字通り瞬殺しながらもその足を止めない。
それを操るのはまだ成人もしていない少年。その後ろにヒシと抱き付くのは同い年ぐらいの少女。そんな事実を知ったら、きっと大人は卒倒してしまうだろう。
「おい、大丈夫か? ここで眠っちまったら落ちるかもしれないぞ」
「う、ん……むにゃ……」
「……ダメだこりゃ」
すっかり夢の世界に入ってやがる。そう幸利は悪態をついた。
仕方がないのでバイクをその辺に生えてる木の傍に停車させ、うつらうつらしている雫を降ろすと木陰に寝かせる。体が冷えないように自分が来ていたコートを被せ、彼自身は幹に寄りかかるようにして地面に座る。
時刻は既に夕方。出発から数時間が経過している。幼児退行している雫が疲れから寝てしまうのも仕方がない。そう割り切った幸利は、今日は外泊だなあ……とため息を付いた。
「まあ、ここから湖畔の町ウルまでそう遠くないから偶には外で寝るのも良いか。飯は持ってるし何とかなるな」
携帯食として便利な乾燥させたオニギリを取り出すと、魔法で水を掛けて多少柔らかくしてから口にした。味は少々落ちてしまうが、すっかり慣れた大迷宮攻略中の食事だ。特に気にもせずオニギリを二つ完食する。
「ん、んう……ゆきおにいちゃ?」
「あんだ? もう目が覚めたのかよ。もうちょい眠っても問題ねえぞ」
「おにいちゃもいっしょにねるぅ……」
「はあ? おいこら、何を言って……もう寝てやがる」
片眉を吊り上げる幸利。しかし雫はそんな彼にお構いなしだ。幸利の腕を取って無理やり引き寄せてそのまま抱き枕にすると、再び眠りに落ちてしまった。
「この野郎……」と再度悪態をつく幸利だが、一向に雫が起きる気配はないので、遂には諦めて自分も横になった。
まだ寝るには明らかに早い時間だ。しかし、離れられない以上はこのまま仮眠を取ってしまうのが最適解だろう。ある程度仮眠を取ったらそのまま出発、という流れを改めて幸利は構築していく。
……と、思ったのだが。どうやら外では寝ることすらままならないらしい。
「……おい、マジかよ」
「「「「イーッ!!」」」」
「キエーッ!」
「何度殺っても出てくるな、お前ら。一体どのぐらい居るんだ? それとも改造人間は不死身ってか?」
雫を起こさないようにして立ち上がると、ダイヤルスイッチをカチカチと捻って強化服を身に纏ってから仮面を被った。
深紅のマフラーが風によってはためく。怪しく光る複眼が怪人達を威圧する。
無粋な襲撃者は、これから襲う相手の本質をしっかりと見抜けなかったようだ。連れている戦闘員の数も少ない。大部隊であれば、今だ呑気に寝ている雫を人質に取ることも出来るだろう。しかし、この人数ではどの位置に立ったとしても幸利に感知される。下手な動きをすれば即座に抹殺されるだろう。
拳銃に弾を装填して冷静に銃を構えると、「何時でも良いぞ?」と挑発。それに乗せられて、戦闘員は我先にと飛び出した。
途端に響く銃声音は三つ。あっという間に風穴を開けて倒れ伏せる哀れな戦闘員達。
「ほら、どうした? その程度か?」
「弱いな」と吐き捨てるように侮蔑すると、拳銃を雫の傍に投げてからその場を飛び出す。近接格闘はハジメの方が今では上手だが、怪人程度には後れを取らないだろう。
ドパンッ! と空気が破裂するような轟音を鳴らして繰り出される拳打。肘打ち。裏拳。正拳。そして回し蹴り。
数分もしないうちに戦闘員は全滅した。
「後はお前だ。その見た目は……ハヤブサか」
「キィエーッ!」
バサリッと翼を広げて空に上がると、某オールレンジ兵器のような機動で羽毛を飛ばすハヤブサ怪人。相違点と言えば、レーザー等は発射せずに自爆攻撃を仕掛けてくることか。
あっちに行ったりこっちに行ったり。偶にフェイントをかけたり。非常に複雑怪奇な機動だ。しかし、ハジメが扱う数々の兵器の御蔭で幸利は動揺一つしない。其れ処か、鼻で軽く嗤う余裕すら見せる。
それが気に食わないのはハヤブサ怪人だ。自動生成される羽毛を此れでもかと言うほど発射。幸利がどんな動きをしても直撃出来る思われる位置に羽毛を飛ばした。
その努力を嘲笑うかの如く、幸利は羽毛を蹴り飛ばして活路を見出す。
遂には一発が直撃するが……。
「直撃してもなんてことないけどな」
「キエーッ!?」
無傷の幸利が現れる。それもそうだろう。彼が身に纏ってる強化服は、仮面ライダー本郷猛の“普通の”ライダーキックの直撃を耐えられるぐらいには頑丈なのだから。
少なくとも戦車を一撃で破壊する蹴りを耐えられるだけの耐久力は保障されているため、幸利は特に焦ることなく雫の方へ向かった羽毛だけを叩き落としつつも徐々にハヤブサ怪人に接近していく。
そこまでして、漸く攻撃が一切通用しないとハヤブサ怪人は気が付いたらしい。その翼を使って大空に逃げようとする。
しかし、それはあまりにも遅すぎた。まあ、そもそも上昇する速度が遅いのだが……。
「そらっ」
「キエッ!?」
バッタの跳躍力を最大限活かして跳び上がり、右膝でハヤブサ怪人の横っ面を打ち抜く。
横っ面を打ち抜く都合上、体は左方向へスピンしている。幸利はその勢いを利用する形で180°回転すると、落下しながらも左足を振り上げてそのまま顔面を蹴り抜きにかかった。
「墜ちやがれっ!」
ヒュッ! グギ!
変則的な蹴りは、ハヤブサ怪人の首をいとも簡単にへし折ってしまった。
所謂“ムーンキック”である。本来はトリッキングの技なので破壊力は無いに等しいのだが、そこは仮面ライダークオリティ。バッタの脚力があれば魅せ技も立派な必殺技になる。
魅せと破壊力を両立するのを秘かな目標にしていた幸利は大満足だ。
ちなみに、羽毛が爆発する音で目が覚めた雫も格好良い戦い方に大満足である。
「おにいちゃ、つかれた?」
「あん? お前、寝てたんじゃなかったのかよ。寝たり起きたりと忙しい奴だなぁ」
着地した幸利を雫が出迎える。仮面を外した幸利は、さっきまで寝ていた雫が目を覚ましている事に呆れながらも木陰に連れ戻した。
「少し寝る。何かあったら起こしてくれ」
「わたしもねる~」
「……ホントに忙しい奴だな」
腕に抱き付く雫は諦めたらしい。もう何も言わずに幸利は目を閉じる。何だかんだで人肌を感じると寝やすい、なんて事を考えてるぐらいだ。
一時間ぐらい仮眠を取ったら出発。それだけを頭に入れて、暫しの休眠に幸利は入った。
雫は眠ってしまった幸利の頬をツンツンと触る。寝ているときは穏やかな顔をしている幸利を見て、雫はニコリと無邪気に笑う。
その笑顔は、日本にいた頃では見られなかった心からの笑みだった。皮肉なことに、幼児退行したことによって彼女は本来の笑顔を取り戻したのである。何処か陰のある苦笑は、もう影も形も見当たらない。
何も知らない人が見れば、ただの純真無垢な素晴らしい笑顔。事情を知る人から見れば、悲しいぐらいに明るい本来の笑顔。
そんな笑顔を、今夜も幸利だけに向ける。今の彼女にとって、幸利は世界一格好良いヒーローだから。英雄だから。誰よりも信頼出来る優しい人だから。幼児のような笑顔を向ける。
結局、幸利が目を覚ますまでの一時間もの間、雫はずっと彼の顔を見つめて笑顔を浮かべていた。
目を覚ました幸利は思わず「うおっ」とたじろいだが、すぐに我に返ると少しストレッチをする。そして、雫を自分の前に座らせてからバイクに跨がる。今度は途中で寝てしまってもどうにかなる体勢だ。
幸利はゆっくりと魔力をバイクに流す。緩やかに発進したバイクは、音を立てず静かに夜闇へと消えていった。
ムーンキックは説明するより動画を見た方が早いです。You Tubeで調べたらすぐに出てきますが、トリッキングの技の中でも私が特に好きな技です。清水sideはライセン大迷宮を攻略した辺りでもう一度挟みます。
本郷猛と結ばれて欲しい人は?
-
香織&シア
-
ユエ&ティオ
-
雫