大自然が遣わした正義の使者は異世界最強 作:Hetzer愛好家
立ち込める煙。その奥には、先程まで戦っていたミレディ・ゴーレムが横たわっている。
さっきまではあんなに生き生きとしていたのに、今はただの無機質な騎士甲冑として倒れている。その姿に違和感しか感じない。
「あ、そうだ恵里! さっき倒れた気配があったような……」
「ええ!? それってかなり大変なんじゃないですか!?」
隣に立っていたハジメは恵里の元へ行ってしまった。シアもそれに追従したので、ミレディの前で佇んでいるのは俺だけとなった。
ミレディ・ライセン。道中の言動や此処で直接ぶつけられた雰囲気から、彼女が非常に腹が煮えくり返る性格をしているのが分かった。
だが、分かったのはそれだけではなかった。彼女もまた、狂った神に立ち向かうため奮闘した解放者の一人である事を、俺は再認識させられた。
「……ホント、根本の性格を何とかしてたらな。こんなに腹が立たなかったと思うんだがな」
「ふふ、それは無理かなぁ~、だってこの性格は大切な人から受け継いだ物だしぃ」
声がした。ミレディの声が。
警戒心を一気に引き上げる。だが、そんな様子を見たミレディは慌てた声音で付け足す。
「ちょちょ、そんなに警戒しなくても大丈夫だってぇ。核に残された力を使って話しをする時間を取っただけだよぉ。もう数分しかもたないから安心してねぇ~」
「……嘘ではなさそうだな」
彼女の言葉に噓偽りはないらしい。よく見ると、ゴーレムの目の部分の光が慌ただしく明滅している。まるで切れる前の電球だ。
念のため完全には警戒を解きはしないが、さっきよりは緩めてミレディに問う。
「何を話すんだ? 俺達の目的は言っただろ。これ以上何を話すって言うんだ?」
「そうだね。でも、もう一回聞かせてくれるかな? 何のために神代魔法を手に入れるのか。何のために此処までやって来たのかを」
彼女の言葉に首を傾げる。だが、俺はすぐに思い直した。
これは、彼女の魂が消滅する前に耳にしたかった言葉なんだと。
「……俺達は、狂った神とショッカーをこの世から散滅するために神代魔法を習得する旅に出ている。奴らを打ち滅ぼさなければ、彼らが元居た世界にまで進行して来そうだしな」
「そっか。君達は異世界人だったんだね。それなら、見た事も聞いた事もない武器が沢山出てきてもおかしくなかったね……」
「安心して眠れ。俺達が貴方達の意思を継ぐ。必ずや、神とショッカーを滅ぼす」
いつしか、ミレディ・ゴーレムの体は燐光のような青白い光に包まれていた。その光が蛍火の如く、淡い小さな光となって天へと登っていく。死した魂が天へと召されていくようだ。とても、とても神秘的な光景である。
もう成仏するのだろう。これ以上話す事もない。
右を向けば、上方の壁の一角が輝いている。先へ進むための扉はそこにあるのだろう。
皆を呼んで一言、「進むぞ」と告げてミレディに背を向けた。
「見守っていてくれ。天国でな」
「ふふ……君達のこれからが……自由な意志の下に……あらんことを……」
オスカーと同じ言葉を告げたのを最後に、ミレディの気配は途絶えた。
……と思ったのだが。全く、あの野郎は。
「猛さん?」
仮面を外して渋面している俺が気になったのか、香織が顔を覗き込んでくる。
あのやり取りを眠っている恵里以外は聞いていたようで、全員しんみりとした雰囲気を纏っている。そんな中、俺だけは何とも言えない表情を浮かべていたらそれは目立つだろう。
上の方にある光る壁の方へ向かうために足場を乗り継ごうとすると、唐突に俺達を乗せて動き出した。
「わわ、まさか乗せて行ってくれるんですかね?」
「ミレディさん、もしかしたら最後の最後にサービスをしてくれてるのかもね」
「……んっ」
シアと香織とユエは無邪気で純粋だ。気が付かないで済んでいる。
あ、恵里を背負っているハジメは気が付いた。と言うよりかは察したらしい。彼も渋面になった。
足場は十秒もかからず光る壁の前まで進むと、その手前五メートル程の場所でピタリと動きを止めた。すると、光る壁は、まるで見計らったようなタイミングで発光を薄れさせていき、スっと音も立てずに発光部分の壁だけが手前に抜き取られた。奥には光沢のある白い壁で出来た通路が続いている。
そのまま通路を滑るように足場は進む。このまま住処まで連れて行ってくれるのだろう。それはありがたい。
そうして進んだ先には、オルクス大迷宮にあったオスカーの住処へと続く扉に刻まれていた七つの文様と同じものが描かれた壁があった。俺達が近づくと、やはりタイミングよく壁が横にスライドし奥へと誘う。浮遊ブロックは止まることなく壁の向こう側へと進んでいった。
くぐり抜けた壁の向こうには……
「やっほー、さっきぶり! ミレディちゃんだよ!」
ちっこいミレディ・ゴーレムが居た。
ちっこいミレディ・ゴーレムは、巨体版と異なり人間らしいデザインだ。華奢なボディに乳白色の長いローブを身に纏い、白い仮面を付けている。ニコちゃんマークなところが微妙に腹立たしい。
それは良い。問題なのは、この野郎がついさっき行った〝演出〟である。
「あのさあ……」
呆れて物も言えなくなってしまった。
さっきの演出。普通の人であったら、ミレディが消えてしまったと間違いなく思うだろう。何なら見せられた直後の俺はそう思ってた。
だが不幸な事に、改造されて強化された気配感知能力は、未だにミレディが健在である事を嫌という程に伝えて来やがったのである。
魔法が使えないため、技能としての〝気配感知〟で彼女の事を捉えられなかった香織達三人はミレディが消えたと思ったのだろう。ハジメだけは何かの拍子に気が付いたようであったが。
「ハジメ。被害が及ばないように何とかしてくれ」
「あ、はい。程々でお願いしますね」
仮面セット。うん、いつも通りの着心地。
「あ、あれぇ? 何だかテンション低くない? もっと驚いてもいいんだよぉ~? あっ、それとも驚きすぎても言葉が出ないとか?」
「いや、呆れて言葉が出ない」
今日以上に仮面ライダーである事を呪った日はないだろう。唯一残された人間の心を恨むだなんて、これから先絶対にない。
「ミレディ、残念だったな。俺が完全な手術を施したショッカーの怪人なら。神に造られた使徒なら、こんな事を言われなくて済んだのにな」
「え、えっとぉ~……落ち着こうか? この身体が壊れたら流石にマズいし、ねえ?」
「この事態も予測できただろうに。まあ、今はそんな事どうでも良いけど」
疾風のような速さでミレディの頭を掴み、そして持ち上げる。
空いている手で拳を作る。何をされるか分かったのか、ミレディはバタバタ暴れているが、無意味な抵抗だ。
「取り敢えず殴らせろ。数発」
ベギィ! と鈍い音が鳴り響いた。
──────────────────
「ご、ごめんなさい~」
結局、あのまま五回殴った。今の身体が壊れたらマズいと聞いていたので、多少顔面が歪む程度に抑えているので問題なし。
顔が歪んでいるので、ニコちゃんが悲痛な表情になってしまっているのだが、まあ良いお勉強になっただろう。
「はあ、今回はこの辺で勘弁してやる。次は無いぞ?」
「了解であります! 金輪際やらないであります!」
「うむ。それじゃあ、君の神代魔法を授けてくれないか? 何となくどんな魔法か想像はついているんだけどな」
「此方へどうぞぉ!!」
案内されたのは魔法陣。全員が中へ入ったのを確認したミレディが魔法陣を起動させると、オルクス大迷宮の時と同じように、直接脳に神代魔法の知識や使用方法が刻まれていった。
ものの数秒で刻み込みは終了。予想通り、彼女の持つ神代魔法は……
「重力魔法か」
「そうですよ~ん。ミレディちゃんの魔法は重力魔法。上手く使ってね。もう一人の仮面の子とウサギちゃんはビックリするぐらい適性がないけど、金髪ちゃんとメガネちゃんはアリアリだねぇ。君と癒術師ちゃんも頑張れば実戦で使えるんじゃない?」
ハジメとシアは適正なし。俺、香織、ユエ、恵里はアリ。まあハジメもシアも拳と武器がある以上、魔法が使えなくても大丈夫だろう。
しかし重力を操るとなると、応用幅が広すぎて大変になりそうだ。その気になったら対象を星の外まで吹っ飛ばせそうである。
「ミレディ。一泊だけしても良いか? お前に重力魔法の主な応用方法と、ショッカーについて聞いておきたい事がある」
「構わないよ~、ミレディちゃんも長らく人と話してなかったし、君に聞いておきたい事がまだまだあるからね。一晩ぐらいなら滞在しても良いよ~」
「との事だ。此処なら魔力の分解もないし、ハジメの外泊セットを使えば如何にかなるはずだぞ」
時間はある。此処で焦ってすぐ外へ行く必要はない。なら、利用できる環境をフルで活用するべきだ。
俺の言葉に皆が頷き、思い思いに動き始める。
「にしても恵里起きないね。ユエも疲れてない?」
「んぅ」
「疲れたか。まあそうだよね。ほら、こっちで休んでよう」
ハジメは恵里とユエを引き連れて外泊セットの中へ入っていく。恵里には随分と無理をさせてしまったので、今はハジメの隣で休んで欲しい。
「香織とシアはどうする?」
「猛さんに構って欲しいです!」
「師匠とお話したいですぅ!」
「ええ……」
正直。以上。
自分の欲望に忠実な子達だとは思っていたが、まさか此処までとは……いや、今更だった。オルクスの時はもっと凄かった。
先に言っておくが、一線は超えていない。シアはそもそも恋愛感情を持っていないので当然として、香織に関しては彼女の親が何て言うか分からないので絶対に手出しできん。
「終わってからで良いよ~、夜は長いからねぇ」
「すまんな。また後で来る」
気を利かせたハジメがもう一個用意していた外泊セットに三人で入る。
ずっと身に纏っていた仮面ライダーの装備をすべて外して人間に戻ると、まず香織が右腕に抱き着いてきた。続いてシアも左腕をガッチリホールド。ピクリとも動きません。
「手が早すぎない?」
「攻略中全く構ってくれなかったので……」
「私は純粋に師匠とお話がしたかったのでこうしてますぅ」
「だとしても抱き着く必要性……もう良いや。言っても無駄だし」
ミレディと話す前に相当削られるのが約束されている。え、何がってメンタルが……。
これ、俺の体力(精神面)で耐えられるのだろうか。心配になってきた。
ええい、もうどうにでもなれ。
──────────────────
解放されたのはあれから一時間後でした。思ってたより短く済んだ。
道中での疲れもあったのだろう。今はぐっすり眠っている。
「あ、お疲れ様だよ~ん」
「待たせたな」
顔の修復が終わったらしいミニミレディ・ゴーレムが俺を出迎えた。
「早速だが質問だ。重力魔法の使い方を聞きたい」
「重力魔法ねぇ。君が見たように、自分自身や物体をフワフワ浮かしたり落としたりして敵にぶつけるって言うのも立派な戦術になるよ。他にも対象を地面にめり込ませたり、逆に星から追放したり。壁や水上を走る何て芸当も可能になるね~」
「何でもありだな……」
「相応に魔力は持ってかれるけどね~、でも君なら何とか出来るでしょ」
「まあ、うん。やろうと思えば」
この地球上に居る限りは大丈夫だろう。風さえ吸収が出来れば魔力への変換が可能だ。
念の為用意していた紙に重力魔法の使用用途を記しておく。今は寝ているハジメ達にも説明できるように噛み砕いておかねばなるまい。
改めて使用用途の幅の広さに感心していると、不意にミレディが俺に問うてきた。
「ねえ。君ってショッカーと関係のある人物だったりする?」
大ありだ。組織の中だけで言うなら、超希少種の「裏切者」なのだから。知る限りでは俺を含めても二人しか居ない。
頷いて肯定の意を示すと、ミレディの雰囲気が変わった。
「異世界にもショッカーはあるんだね。おそらく首領は全くの別人だろうけど……」
「オルクス大迷宮で知った情報なんだが、この世界のショッカー首領は解放者だったんだよな?」
「うん。神代の頃、私と共に神へ立ち向かった仲間の一人だったよ。裏切っちゃったけどね」
ポツリ、ポツリとミレディは首領について語りだす。
「名前はショウ・イグル。オーくん……オスカー・オルクスと同じく生成魔法の使い手だった。ただ、オーくんが鉱物や金属のような無機物の生成が得意だったのに対し、ショウくんは有機物への干渉も得意だった」
「有機物……」
「もっと言うなら人体錬成。最初の頃は良かった。力をあくまでも自分に向けてたからね。見た目はバケモノみたいになったけど、理性はあったし悪用もしてなかった。でも、ある日唐突にこう言ったんだ」
──やらなきゃ
「この言葉を残してショウくんは裏切った。戦わずして神に敗北した後に聞いたんだけど、彼は自分の力を使って〝人間〟を改造して新鋭組織を立ち上げてたよ。それがショッカー。詳しい話は知らないけど、無作為に強そうな人間を無理やり改造してバケモノにしてるみたい」
無機質に。無感情に。淡々と語っていたミレディだったが、此処に来て声を震わせた。
「彼ね、すっごく優しい人なんだよ。自分を改造したのも〝助けの手を差し伸べられる範囲を広げるため〟って迷いなく言い切れる人だった。そんなショウ君がだよ。こんな、ねえ?」
「ミレディ、お前……」
「誰かにそそのかされてやったんだよ。絶対にそう。だってあの日のショウくん、目が揺れてたもの」
彼女が生きたのはもう数えるのも億劫になるぐらい長い年月。それだけの膨大な年月、彼女は未だに信じている。
その姿は気丈で。しかし痛々しかった。
「押しつけがましいのは分かってる。でも、お願い。ショウくんを……」
「もう良い。無理をしなくて良い。俺が必ず何とかしてみせる。お前も、首領も救ってみせる」
言葉による自身への鞭打ちなのは分かっている。だが、幾らうざったい性格をしていたとしても。人の神経を逆撫でする奴でも。心からの笑顔で幸せを感じられるようにしたい。
俺個人に圧し掛かる重圧はとんでもない。だが、それでもやると決めている。
俺は、大自然が遣わした正義の使者。仮面ライダーなのだから。
少女一人の願いを叶えられなくて、何が正義の使者だ。
約束と言う名の鎖で身を雁字搦めにして、体中から血が噴き出たとしても。俺は止まらない。
強すぎる決意は身を滅ぼすと知っていても、俺は止まれないし引き返せないのだ。本郷猛と言う人物は、そういう性格をしているのだから……。
血みどろになった仮面ライダーを救うのは誰なんでしょうね。
本郷猛と結ばれて欲しい人は?
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香織&シア
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ユエ&ティオ
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雫