大自然が遣わした正義の使者は異世界最強 作:Hetzer愛好家
ハジメは夢を見ていた。
何もない真っ黒な空間にただ一人立つ、とても悲しい夢を。
寂しい風。胸の奥が締め付けられる風。頬に感じ、ハジメは顔を顰めた。
「此処は……」
何もない。誰も居ない。ただ暗闇のみが広がる空間。とても良い気分になれるような場所ではない。
早くこの空間から抜け出したいと思ったハジメは、適当に真っ直ぐ歩いてみる。
真っ暗闇ながらも足場はしっかりとあるようで、コツコツと足音を鳴らしながら前へ進む。
すると、目の前が急に明るくなってきた。
「何これ、暖かい……」
花があり、蝶が舞い、人々の笑顔のみが存在している。そんな気がして、ハジメは更に前へと進もうとした。
しかし、そんな彼の腕は誰かによってガッシリと掴まれ、ハジメは身動きが取れなくなる。
「誰ですか?」
振り向いたその先に居た人物。それは……
「え、貴方……何処かで会いましたか?」
「……ダメだよ。君はまだ、こっちに来てはいけない」
見覚えのある男だった。実際に会った事はないけれど。誰かに顔が似ている。そうハジメは感じ、剣呑な雰囲気を収めた。
こっちに来てはいけない。その言葉の意味が分からず、首を傾げたハジメに男は微笑む。
「娘が世話になってるね。これからもよろしく頼むよ」
「え、あ、はい」
「ほら、もう行きなさい。娘が待ってる」
ハジメの視界に、一気に光が広がっていく。同時に意識も消えていく。まだ話したい事があるのにと藻掻くが、無情にも彼の意識はブツリと途絶えてしまった。
空間には、笑みを浮かべた男だけが残された。
「僕が恵里を愛せなかった分、君に全てを託すよ……」
涙を流しながら。
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「……はっ!?」
「お、やっと目が覚めたか」
手術が無事終了してから一週間。やっと目を覚ましたハジメに安心感を覚える。
何故かすぐには目を覚まさず、時折心臓が止まったり脈がおかしくなったりと、まあ随分とひやひやさせられた。
恵里の顔色も日に日に悪くなってたので、もうそろそろ起きて欲しいと思ってた所だった。もう見てられないぐらい酷い顔をしてたよ。
「先生……? あれ、あの空間は……」
「どうした、悪い夢でも見たのか?」
「……いえ、悪い夢ではなかったと思います。二度と会えないはずの人物とお話が出来たので」
誰と話したのかは分からない。ただ、悪夢ではなかったようだ。
眼帯の下に輝いているはずの左目も特に問題なさそうだ。拒絶反応が出たら色々と厄介だったので、それがなくて一安心である。
後はそうだな……半ば死んでる恵里とユエを一刻も早く生き返らせてもらいたい。
「恵里とユエを呼んでくる。説明は後でちゃんとするが、取り敢えず簡潔に。お前の左目は他者から移植した物になった」
「移植、ですか」
「ま、追々な。それよりもあの二人を早く安心させてやってくれ」
隣の宿泊セットで寝泊まりしてる恵里とユエを呼びに、俺は部屋を出た。
この一週間、本当に大変だった。恵里は取り乱して気絶するまで泣くし、ユエは食事が一切出来ないぐらいにまで体調を崩すし、ハジメは何度も生死の境目を彷徨うし。
香織は香織で随分と負荷を強いてしまい、今はシアが付きっきりで看病している。町の復興を手伝いつつも看病を引き受けたシアには後で何かお礼をしなければなるまい。
しかし、ギリギリではあったがハジメを救えた。左目に移植した使徒の目は幸いにも拒絶反応を起こさずに定着しており、問題なくこれまで通り視界を確保できるはずだ。
長い間寝ていたので、ハジメは体的にはすっかり元気だ。そんな彼の姿を見れば、半死状態の二人もすぐに帰って来てくれると信じている。
「恵里、ユエ、起きてるか? ちょっと報告があるんだが」
「……先生か。何、報告って。ハジメ絡み?」
「んぅ……」
おお……昨日よりも顔色が悪くなってるじゃないか。
人は精神を病むと顔に出るのだが、恵里とユエは特に分かりやすい。恵里の目には光が宿ってないし、ユエも頬が瘦せこけてしまっている。
「ハジメ絡みだ。それも吉報だぞ」
「吉報……」
「んっ」
「ハジメが目を覚ましたぞ。ついさっきな」
刹那、ガバリと恵里が身を起こした。
俺の横を物凄い速度で通り抜け、ハジメが寝ていた部屋まで一直線に突撃していく。さっきまで今にも死にそうな顔してた人間の動きとは思えない。
ユエも恵里に続いて俺の横を駆け抜けていった。あの様子じゃ、部屋の戸をぶち壊しながらハジメの胸元に飛び込むつもりだろう。
本来なら止めるべきだろうが、手術から時間はかなり経過しているし、何よりあの勢い止められる気がしないし。このまま放置だ。
軽く数時間はハジメは動けないだろうし、俺は香織の看病の手伝いをしに行くとしようか。
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ハジメside
ドタバタと外が騒がしい。愛する人達の気配が近付いているので文句は言えないが、もう少しだけ静かにして欲しいとも思う。
だって僕、これでも一応怪我人だし……。
「ハジメ!」
「おにいちゃっ」
「ぐへぇ!?」
扉を破壊するぐらいの勢いで飛び付いてきた恵里とユエ。肋骨から悲鳴が上がり、情けない声を漏らしてしまう。少しは遠慮と言う物を知ってくれ。
……いや、心配を掛けてしまったのだから、このぐらいは寛容しないとダメか。
彼女達の想いをかなり甘く見ていた。
特に恵里。大切な人を失うトラウマを既に抱えていると言うのに、今回の自殺にも近い僕の行為はそのトラウマを穿り返している。
完全にやってしまった……。
「バカッ。バカ、バカ、バカァ! あのまま死んじゃったらどうするつもりだったの!?」
何も言い返せない。生きて帰るつもりではあったが、戦場では何が起こるか分からないのが常。死んでしまっても不思議ではない。
ましてや、あれだけ強力な敵とやり合っていたなら何時死亡してもおかしくないのである。
今回生き残ったのは、ただ運が良かった、それだけなのだ。
「ごめん、恵里」
こうして謝る事しか出来ない。恵里とユエを、そしてこの場には居ない幸利を独りにしてしまうかもしれなかった事を。死ぬのも承知の上で戦いに行った事を。
僕の命は、もう僕だけの物ではない事をしっかりと覚えておかねばなるまい。
「心配したんだから。もし起きなかったらどうしようって。目が見えなくなってしまったらどうしようって……!」
「恵里……」
「もう会えなくなったらと考えたら、一睡も出来なかった。先生からハジメの容態を聞く度に心臓がおかしくなりそうだった。ハジメが死んじゃったら、私はどうやって生きれば良いのか分からないよ……」
恵里は僕の胸の中に顔を埋めて泣き出してしまった。この数日間、流そうにも流せなかった涙。存分に流させてあげよう。
昔したように彼女の背中を撫でる。
少しの間そうしていると、不意にユエが僕の服の裾をチョイチョイと引っ張ってきた。
何事かと思ってユエを見ると、彼女もまた目に涙を浮かべている。
「……めっ」
「ごめんよ。君にもこんな思いをさせてしまった。僕、自分の命がどれだけ多くの人に影響を与えているのか理解してなかった」
「きをつける?」
「うん。もうあんな事はしないって約束するよ」
守るために命を燃やすのは変わらない。でも、限度をしっかりと見極めないといけないな。
「……わたしもなでて」
「わ、分かった。何だか沢山喋れるようになったね」
金糸の様なユエの髪を撫でると、彼女はすぐに瞼を落として眠りに落ちてしまった。
恵里は一睡も出来なかったと言っていた。もしかしたら、ユエも全く眠れていなかったのかもしれない。
ふと気が付くと、恵里も寝息を立てて瞼を落としていた。安心して糸が切れたのだろう。結構無理な体勢ではあるが、特に問題なく熟睡している。
ベッドの下で寝ているユエを抱えて左隣に、恵里は位置をずらして右隣に置き、三人川の字で寝るような体勢を取った。
もぞもぞと寝返りを打った恵里は、起きている時と遜色ない動きで僕の腕を抱き枕にした。ユエは足を絡め、意地でも離れまいとしてくる。
動けない。動けないが、これも僕が引き寄せた罰だ。甘んじて受け入れよう。
人肌に包まれ、眠気を再度催した僕は、そのまま眠りに落ちていくのだった。
登場した男の人がすぐに誰なのか分かったら原作をしっかり読んでいる証拠だと勝手に思っています。
今回でライセン大迷宮編はお終いです。次回からは章が変わります。フューレン支部へ出向く章ですが、当然一筋縄ではいきません。ショッカーの魔の手は世界中に伸びてますので。また、既に湖畔の町ウルに滞在している幸利くんにも注目です。
本郷猛と結ばれて欲しい人は?
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