大自然が遣わした正義の使者は異世界最強   作:Hetzer愛好家

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第四十六話 夜叉姫

怪人の襲撃から三日。その後は特に襲撃を受ける事もなく、俺達は無事に中立商業都市フューレンに到着した。

 

襲撃を数人で撃退した事もあってか、あれからの旅はこれまで以上に騒々しくなったのは良い思い出である。

 

ずっと冒険者に構われていた面子に加え、ハジメも多くの女性に言い寄られていた。その度に恵里の表情がストンと抜け落ちるので、俺はかなりヒヤヒヤしていたのは内緒だが……此れも今となっては良い思い出の一つになったと言えるはずだ。

 

ちなみにハジメの強化服だが、同行していた商人がかなり口煩く「売ってくれ」と取引を持ち掛けてきた。初日にも会話したモットー曰く、

 

「強化服が量産が出来たなら、来るべき魔人族との戦争も有利に進むのです。そのための試作品として是非譲って頂きたい」

 

……との事である。

 

当然、強化服を売るつもりのない俺とハジメは再三に渡って断った。

 

ハジメは真っ向から「大切な人を守る為の力なんです」と言い切って出鼻を挫き、俺が「兵器量産の足掛かりになるつもりはない」とバッサリ切ったので、やがて商人達も諦めていった。モットーだけはしつこく交渉して来たが。

 

兵器量産によって起こる悲劇を知ってる俺が何度も何度も断り、最終的にはほんの少しだけ殺意をぶつけた事で、モットーも漸く諦めてくれた。

 

さて、少々暗い話題はこの辺りにしよう。

 

フューレンの東門には六つの入場受付があり、そこで持ち込み品のチェックをするそうだ。列に並んで持ち込み品検査を終え、門を通された俺達。証印を受けた依頼書を持ち、俺達はフューレンに足を踏み入れた。

 

手紙に書いてあった集合場所である冒険者ギルドへ入り、依頼達成の報酬を受け取ってからギルド内のカフェを見渡す事数分。

 

「お、見つけた」

 

少し長めのサラッとした短髪。ガタイの良い肉体。鋭さと柔和さを兼ね備えた瞳。

 

彼で間違いない。俺に救援要請をして来た男は彼だ。

 

「敬介」

 

席に座ってコーヒーを飲んでいた男は、俺の声を聞いて顔を上げた。

 

「本郷さん、お久しぶりです!」

 

神敬介。仮面ライダーX。GOD機関を叩き潰し、その後も戦い続けた俺の兄弟。

 

彼と会うのも実に数年ぶりだ。生身の身体で会った事はないが、彼もアマゾンや結城と同じく声だけで“本郷猛”であると認識してくれているようで安心した。

 

積もる話もある。ショッカーの基地云々の前に、少しだけ雑談の時間を取ってもバチは当たるまい。

 

そう思って敬介の対面に座ろうとした俺であったが、不意に彼の隣の椅子の上に何かが居たような気がして立ち止まった。

 

「パパ……?」

 

居た。確かに何かが。四歳ぐらいの幼子であったのと、敬介にしか目が行ってなかったので気が付かなかった。

 

性別は女。エメラルドグリーンの美しい髪の毛と、扇状のヒレの様な耳を持っている。

 

てか待て。今この娘は何と言った? パパ?

 

「驚かせて済まんなミュウ。この人は悪い人じゃないから安心して良いぞ」

「そうなの? 怖くない?」

「怖くない怖くない。むしろすっごく優しい人だぜ」

 

……いや、本当に何があった? 誰か説明してくれないかな。

 

敬介は確か結婚してなかったはずだ。恋人とその妹を殺され、「大切な人を失う悲しみをもう味わいたくない」と言う理由から必要以上に人間と関わりを持たなくなったはずなのだが……。

 

え、娘が出来たの? どう見ても亜人な子供をいつの間に作ってたの? それじゃあ、敬介は亜人と結婚している?

 

「本郷さん。この辺りの事も含めてお話しします」

「あ、ああ。頼むよ」

 

未だにポカンとしている香織達を席に座るように促し、俺も椅子に腰を下ろす。

 

ミュウと呼ばれた女の子は、俺の顔を穴が空く程見つめて来る。何だかとても居心地が悪い。

 

「こらミュウ。失礼だぞ」

「……悪い人じゃないか確認してたの」

 

ああ、そうなの……。

 

「先に彼女の事を紹介しちゃいますね。名前はミュウ。フューレンのショッカーの基地を偵察してた際に、改造されそうになってた所を助けたんです」

 

一気に真面目な雰囲気になった敬介。どうやら、目の前の少女はショッカーと大いに関係があるらしい。

 

改造されかけていた。その状況はかつてのシアと似ている。シアは純粋に能力値が高かったので怪人にされかけてた訳だが、この少女にはそんな強大な力が眠ってるとは思えない。

 

「あれか? 子供兵でも作ろうとしてるのか、ショッカーは」

「ええ、この娘以外にも大勢の子供が尖兵にされてました。子供兵を量産し、大人を手出し出来なくさせるつもりなんでしょう」

「下衆め……」

 

本格的に壊滅させなければならない。子供にまで手を出すとは許せん。

 

「本当なら壊滅させてしまいたかったんですけどね。ちょっと規模が大きいのと、攫われた子供が多すぎるんですよ。単騎で壊滅と救出を高いレベルで両立するのは無理だと判断したのが一つ。それと、ミュウを助ける際に能力を酷使させてマーキュリー回路が故障してしまったので、戦闘に不安があるから今回こうして救援要請を出したんです」

 

話によると、ショッカーの基地はフューレン全体を軽く覆えるぐらいの規模だと言う。オルクス程ではないが、それでもかなりの広さがあると言えるだろう。

 

壊滅だけなら単騎でも可能だと思うが、其処に人助けの要素を加えるとなると難易度は激増する。

 

ちなみに基地内を警護する戦闘員の強さはGOD工作員と同等ぐらいらしい。怪人の質もそれなりに高いそうだ。

 

それにしてもマーキュリー回路が故障するまで戦うとは、一体どれだけの怪人を屠ったんだろう?

 

「ダイナモはどうだ。動くか?」

「問題なしですね。親父に貰ったダイナモは、そう簡単には壊れません」

 

なら、俺達が加勢すれば基地の壊滅は容易になるだろうし、人命救助も上手く行くだろう。マーキュリー回路が使えなくてもXライダーは十二分に強い。心配は不要だ。

 

作戦は追々立てるとしよう。今日、特に午前中は敬介から様々な話を聞きたい。主にミュウに関して。

 

「分かった。基地壊滅作戦は明日にでも実行しよう。今日の午後から作戦会議だ」

「了解です。あ、ところでなんですけど……随分とお仲間さんが増えたんですね。知らん顔触れだらけです」

 

敬介の視線は主にハジメへと注がれている。何かを悟っているようで、ハジメの右腕と左目を見ると俺の顔をチラリと見た。

 

頷くと、彼は納得したように軽く頭を振った。

 

次に敬介はユエを見た。服に隠れているが、彼女の身体には未だに痛々しい傷跡が多く残っている。それを改造人間の目で見つけたのだろう。彼の表情が少し歪む。

 

「……どの世界にも、大変な苦労をする人は居るんだな」

「え?」

「んぅ」

 

勝手に改造された者。両親と妹を目の前で殺された者。信じていた組織に裏切られた者。父親、恋人、その妹を失った者。野性で育ったがために、中々受け入れられなかった者。親友の敵討ちのために自ら修羅道を選んだ者。

 

そんな人物がゴロゴロ存在した世界で生きていたからか、仮面ライダーが向ける大変な苦労をした者への視線はとても優しい。

 

それは敬介も例外ではなかった。

 

「君、名前は?」

「僕ですか? 僕はハジメ。南雲ハジメです」

「……ユエ」

「よろしくな。早速だが幾つか聞きたい事が……」

 

暫く二人は質問攻めされるだろう。多分、俺がちょいちょいと口を挟んでも戻って来ないと思う。

 

置いてきぼりになってる香織と恵里に目配せをして意識を向けさせ、俺は口を開いた。

 

「一応説明しておこう。彼は神敬介。俺と同じく仮面ライダーだ。彼は深海での活動に特化してる」

「あ、そうなんですね。結城さんやアマゾンさんと同じ感じですか」

「……仮面ライダーって何人居るの?」

「ザッと数えるだけでも100は居ると思うぞ」

「多すぎ……」

 

呆れ顔の恵里。ちなみに香織は慣れたのか特に表情は変えていない。

 

軽く敬介(とXライダー)の説明をしながらお冷を飲み、それなりに時間が経過したなあ……と思った次の瞬間。俺の背筋に、言いようのない寒気が走った。

 

ねっとり、ぎっとり。そんな言葉が良く似合う視線。それを香織達も感じたらしく、眉を顰めるか腕を擦るかをしている。

 

視線の先を見やると、其処には……豚みたいな容姿の男が居た。体重が軽く百キロは超えていそうな肥えた体に、脂ぎった顔、豚鼻と頭部にちょこんと乗っているベットリした金髪。身なりだけは良いようで、遠目にも分かる豪奢な服を着ている。

 

男の視線に映っているのはシアとユエ。後はミュウ。その三人を欲望の籠っている濁った眼で見ていた。シアは自衛が可能だから良いとして、ユエとミュウは問題大有りだ。

 

どうやって切り抜けようか。そう考えようとするが、ブタ男が重そうな体をゆっさゆっさと揺すりながら真っ直ぐ俺達の方へ近寄ってくる。見た目が何と言うか、バッチイので生理的嫌悪感を感じ、上手く考えを纏められない。

 

ブタ男は俺達の居る机の傍までやって来ると、ニヤニヤと目を細めながら獲物を選んでいる。

 

「お、おい男。ひゃ、百万ルタやる。この兎と魚人を、わ、渡せ。それとそっちの金髪はわ、私の妾にしてやる。い、一緒に来い」

 

随分と傲慢な態度だ。さては甘やかしに甘やかされて生きて来たか。

 

軽く手術跡でも見せたら撤退してくれるだろうか、だなんて考えて俺は席を立とうとする。

 

……が、それよりも先に敬介が凄惨な殺意を撒き散らしながら立ち上がった。

 

「ひぃ!?」

 

練りに練り上げられた殺意。近くに座っていた人間は一も二もなく意識を刈り取られ、少し離れで座っていた人間も顔を盛大に青褪めさせて椅子から転がり落ちている。

 

少し遅れてハジメも怒りが籠った目を携えてブタ男を見ていた。気絶させない程度に殺意を抑えているのが何とも言えない。

 

マズい。直感がそう指し示す。

 

敬介もハジメも本気で怒っている。このまま放って置いたら、絶対に厄介事になる……!

 

「敬介、ハジメ。二人とも一回落ち着け」

「先生……」

「分かってますよ本郷さん。ただ、このまま放って置くのは……」

「直接手出しをされていないのに攻撃を仕掛けたらこっちが加害者だ。腹立たしいのは痛いほど分かるが、此処は我慢してくれ」

 

内心ヒヤヒヤしている。「それでも」と言って殴り込みに行く可能性がどうしても拭えんのだ。

 

どっちが暴れたとしても厄介事は確実。猛烈な怒りを感じているのは分かっているが、先を考えると此処は矛を収めるべきなのだ。どうか理解して欲しい。

 

怒りを覚えているのは俺も同じだが、大人の対応をせねばならない時もある。

 

「……分かりました。此処は手出しせんでおきましょう」

「この怒りはショッカーにぶつけます」

「二人ともすまんな」

 

危なかった。もう少しで、このギルド内が血の海になってしまう所であった。

 

とは言え、このまま去るのは俺も納得いかない。

 

「手を出したらいけない」と思い知らせる必要があるだろう。

 

少し考えた末に、俺は何時もより多く手術跡を出してブタ男を真っ直ぐ見つめる。瞳が怪人の物に変わってしまうぐらいには顔面を変化させると、俺は口を開いた。

 

「二度と近寄るな。次はないぞ」

「バ、バケモノだぁぁぁぁあ!?」

 

あ、しまった。勢い余って顔面だけ怪人の姿に変えてしまった。醜い飛蝗男の顔は恐ろしいであろう。

 

……まあ良しとしよう。この際、絶対に近づけないオーラを出してしまおうか。

 

軽く床を殴ってやると、壊れこそしないが震度四ぐらいの揺れが建物を襲った。

 

「ひ、ひぃ!?」

「報復だの復讐だの、余計な事は考えるんじゃないぞ? 今度は俺も止めないからな」

 

これは冗談なんかじゃない。俺だって相当にハラワタが煮え繰り返ってるんだ。

 

人を脅すのは気が進まないのだが、今回だけ。今回だけは特別である。

 

最後に一瞥すると、俺は元の姿に戻って皆に一言。

 

「場所を変えよう」

 

そのままギルドを出ようとする。

 

だが、殺意を収めたのがいけなかった。場を支配していた猛烈な殺気が消えたからか、猛然と動いてギルドの出入り口を塞いだ大男が現れた。ブタ男とは違う意味で百キロはありそうな巨体である。全身筋肉の塊で腰に長剣を差しており、歴戦の戦士といった風貌だ。

 

その巨体が目に入ったのか、ブタ男が再びキィキィ声で喚きだした。

 

「そ、そうだ、レガニド! そのクソ共を殺せ! わ、私を殺そうとしたのだ! 嬲り殺せぇ!」

「坊ちゃん、流石に殺すのはヤバイですぜ。半殺し位にしときましょうや」

「やれぇ! い、いいからやれぇ! お、女は、傷つけるな! 私のだぁ!」

「了解ですぜ。報酬は弾んで下さいよ」

「い、いくらでもやる! さっさとやれぇ!」

 

どうやら、軽く脅した程度では虚勢を叩き潰せなかったようだ。

 

……容赦は不要か? もう警告は発したぞ。最後通告はもう手渡したはずだが?

 

怒りを通り過ぎて無表情になる。収めたはずの手術跡がまたぶり返し、悪魔のような形相へと変わっていく。

 

だが、烈火の如く怒っていたのは俺達男連中だけではなかったらしい。

 

「〝八熱地獄〟」

 

不意に響いた恵里の声に驚き、俺は動きを止めてしまった。俺だけではない。今にも飛び掛かろうとしていた敬介とハジメも動きを止めた。

 

体の芯から冷え込む絶対零度の声音。詠唱の声がやけに響いたな……と思った次の瞬間である。

 

「ぐあああああああ!?」

 

レガニドと呼ばれた大男の全身が、ボバッと言う音と共に粘度の高い炎に包まれたのだ。服が燃えるか燃えないか、ギリギリの温度で調整をしているらしい。ただ苦しめるためだけに相手を燃やしている。

 

火を消すためにレガニドは地面をのたうち回るが、魔法で生まれた火だからなのか、一向に消える気配がない。

 

冷ややかな目でレガニドを見る恵里が出す圧倒的な威圧感。まるで夜叉姫。さっき敬介やハジメが出していた殺意なんかよりも凄みがあるかもしれないとまで感じているのだが……。

 

話だけは聞いた事がある恵里のオリジナル魔法。その名を〝八熱地獄〟。別名〝八大地獄〟だ。殺人、窃盗、邪淫を行った亡者が叩き落される地獄の名をそのまま使っているこの魔法は、ランダムで様々な効果を及ぼすと聞いている。

 

今回発動したのは〝焦熱地獄〟らしい。

 

「死ね。ユエに手出しするならこっちも容赦はしない」

「ちょ、恵里!?」

 

慌てて止めに入るハジメ。レガニドを包んでいる炎は恵里が念じないと消えない。彼女の匙加減でそのまま焼死させる事だって出来る。

 

「大丈夫、殺しはしない。でも、相応の罰は受けてもらう」

 

彼女の言葉と共に、レガニドの身体を包んでいた炎が何処かへ去る。

 

レガニドは大火傷こそしているが生きているらしい。ピクピクと指先が動いている。人殺しにまで及ぶ事がなく、まずは一安心した。

 

だが、ユエとミュウ、そしてシアを間接的に傷付けようとした代償は大きく付いた。

 

「あ……」

 

レガニドの男の象徴が焼け落ちているのを偶々見てしまい、俺は声を漏らした。ハジメ達も気が付いたらしく皆が何とも言えない表情を浮かべている。特に男性陣。

 

ブタ男は汚い物を漏らしながら尻餅を付いた。腰が抜けたらしい。

 

それを目敏く見つけた恵里さん。絶対零度の瞳を携えたまま、ブタ男に向かって手を翳した。

 

「男として死ね」

 

途端、ブタ男を包む焔。無詠唱で中級魔法を発動させたらしく、一瞬にしてブタの丸焼き(去勢済み)が完成した。

 

悲鳴すら上げさせない恵里のえげつなさに盛大に顔を顰める。

 

やっぱり一番怒らせたらいけないのは恵里だった。シアでも香織でもない、ハジメでもない。

 

「あ、あの……申し訳ありませんが、あちらで事情聴取にご協力願います」

 

やりきった感満載の恵里を戦慄しながら見ていた俺の服の裾を引いたのはギルドの男性職員。腰が引けてしまっているが。

 

面倒事は避けたかったが、やってしまった事は仕方がない。

 

「分かった。ああ、済まないが倒れてる男達を早く何とかしてやってくれないか? かなり火傷が深い」

 

ギルド内の揉め事は、当事者双方の言い分を聞いた上で公正な判断を下すのが鉄則だとキャサリンさんから聞かされている。此処は素直に従うべきだ。

 

幸いな事に、恵里が上手く調整した御蔭で火傷さえ治せばすぐに二人共目が覚める程度の傷で済んでいる。最悪の場合、俺の薬を使えば一瞬だろう。

 

時間は取られるが、円満解決のためにも俺は身を乗り出すのだった。




次回、大きく動きます。

本郷猛と結ばれて欲しい人は?

  • 香織&シア
  • ユエ&ティオ
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