誰しも、自分だけの夢を持っている。それを胸に抱きながら、日々を生きていく。そんな人達の力になれたら・・・そんな想いを実現できる場所があったら。でも、ただ応援するってだけでは何だか違くて。自分も夢中になれるような、そんな素敵なものに出逢えたら・・・・それはきっと、素敵なことなんだと思う。
それを親友と追いかけられたら、もっと楽しくてキラキラしてるかもしれない。
「侑ちゃん」
玄関から校門へと向かう人の流れの中に、見知った姿を見つけて手を振る。遠くからでも声だけでもわかるけど、こんな混雑してる中でもすぐに見つけられるほどに彼女たちは仲が良く関係も深い。幼いころから共に過ごし、さながら家族のような感覚でいつも一緒に居る。その流れで、というわけではないが、この虹ヶ咲学園に入学して早一年。いつもと何ら変わらない日常の中でも、やっぱりこの子との時間はどこか特別な感覚で、侑はテンションをあげる。
「歩夢、お疲れさま」
走ってきた為肩で息をしつつ侑と合流する歩夢。そんなに急がなくても良かったのにとはあえて言わずに、そう声をかけた。その言葉に歩夢は息を整え笑顔で答える。
「ごめんね、待たせちゃって」
「ううん、全然。それより行こうっ」
歩夢の手を取り歩き出す侑。向かう先は、いつもの寄り道コース。学校帰りは大体お決まりのルートで道草をしながら帰宅する。学校を出て、まずはお台場へと向かった。ショッピングモールでウィンドウショッピングをしながら施設内を回る中で、歩夢の視線は店頭のショーケースに釘づけになる。淡いピンク色のワンピースで、デザインはファンシーな可愛らしいものだ。そんな彼女に気づいたのか、歩夢の隣に来て侑がふと呟く。
「・・・ねえねえ、久々にやってくれない?」
そう言いながら手を頭の上に持っていき耳を模したジェスチャーをする。何を意味しているのかわからずに首を傾げる歩夢に対し、侑は何処かからかうかのような笑みを浮かべつつ言う。
「あゆぴょん」
あゆぴょん―――そのワードに、幼いころ自分がやっていた事を想い出して急に恥ずかしくなる。顔を赤らめ、「そんなことはやらない」と拒否するもなお迫る侑。
「そうは言わずにさぁ、一回だけ、ね?」
「そんなこと言って、絶対一回じゃないでしょ。もう・・・せっかく来たんだし、なんか食べてかない?私ちょっとお腹空いちゃった」
「強引に話を逸らされたけど、まあ、賛成だぴょん」
「・・・ゆうぴょんの方がかわいいんじゃない?」
「それはないぴょん」
いつもと変わらないやりとりをしつつ、小腹を満たす為に移動販売のワゴンでコッペパンを購入して食べながら、次は何をしようかと話していると。
「・・・・なんか聴こえない?」
侑の言葉に歩夢は耳を澄ませてみる。たしかに微かではあるが街頭モニターの音声に交じって音楽が聴こえてくる。どこかでイベントでもやっているのだろうか。音の大きさ的に考えてそう距離は離れていないとは思うが・・・。「行ってみる?」と歩夢が言う前に、侑は弾かれたように立ち上がって彼女の手を取る。
「行こう!」
こういう時の彼女の行動力はかなりのもので、ひとたび興味を持って魅かれた事に関しては徹底的に調べたり、没頭したりする事が多い。普段はそうでもない為一見クールな印象を受ける人も多いが、こうして近くにいるとわかる。アグレッシブで、いい意味で子供っぽいところは昔から変わらない、歩夢が一番よく知る幼馴染だ。そんな風に、少しだけ優越感を覚えた頃には、すでに音の正体へとたどり着いていた。
階段の踊り場、その広いスペースをステージに見立ててパフォーマンスをする一人の少女。その歌声は、まるで観る人の心に訴えかけてくるようで、曲と歌、そしてダンスが一つとなり、観客を魅了する。優木せつ菜――それが彼女の名前。なんでも、虹ヶ咲学園のスクールアイドルらしい。侑と歩夢も通う学校の、同じ生徒という事になる。同い年くらいの女の子がこれほどまでに観る人すべてを笑顔にしているのを観て、侑もまた今まで感じた事のない〝何か〟が、彼女の中で大きく溢れだす。優木せつ菜の造りだすステージに、ただただ釘付けに、夢中になっていた・・・・そんな時。
「―――ミィツケタ」
突如鳴り響く爆発音。ステージの飾りや仕掛けだったとしても、大袈裟を通りこしている。屋根はぽっかりと穴が空くほどに壊され、立ち込める煙はステージのみならず観客の方へと流れて視界を曇らせる。何事かと、誰もが動けずに呆気に取られていると、どこからともなく不気味な笑い声が聴こえてきた。ガシャ、ガシャ、とまるで機械が動くかのような音の方へと目を向ければ、煙の中、その奥より現れたシルエット。人の形をしているが、それが人間ではないという事がわかるまで数秒と経たずに〝ソレ〟は現れた。緑と黄色、そして腕に生えた鎌のような鋭利な刃。風貌からカマキリを連想させるその姿は人々を恐怖へと陥れるには充分なものだった。
「お前ノ〝トキメキ〟を頂ク・・・!」
見せつけるように手近にあった瓦礫を片腕で切り裂く。まるでハサミで紙を切るが如くあっさりと両断されたコンクリートの残骸は音を立てて崩れ落ち、粉々になった。ゆっくりと近づく異形。しかし、それは急に方向を変えた。
「・・・ア?なんだこの大きサは・・・」
何かに引き寄せられるかのように首をせつ菜から侑へと向ける。悪寒を感じ取った歩夢は侑の手を取り逃げようとするが、突然飛んできた何かに行く手を阻まれてしまう。反射的に足を止め、飛んできた物を目で追えば、それは先ほど腕に着いていた鎌だった。ブーメランのようにくるくると回転しながら地面に亀裂を入れ、素早い動きで二人を狙う。しかしその軌道は二人の躰を捉える事無く手前で何かに弾かれたように軌道を変え、元の位置へとおさまった。だが弾かれた事で近くにあった街頭を直撃し、鉄の棒が倒れてくる。
「歩夢ッ!」
侑と二人、倒れるようにして伏せる。が、とっさの事で打ち所が悪かったのか、意識が揺らぐ。何とか起き上がり、逃げようと力を入れるも上手くできずに脱力してしまう。薄れゆく意識の中、迫るカマキリの異形。しかしその様子は先ほどとは打って変わって驚いているようにも見える。
「お前ハ・・・!」
『これ以上好きにはさせない。お前を止められるのはただ一人・・・俺だッ!』
「・・・バッ・・・タ・・・?」
そこで、歩夢の意識は途切れた。