啓蒙が高まったら続きができるかもしれません。
ヤケクソになっていた。投げ遣りともいう。
とにもかくにも、セブルス=スネイプは思っていた。
自業自得は多分にあったのだろう。
あの胸糞悪い4人組に辱められ、とっさに出た言葉で最愛の人を心にもない言葉で罵倒し、挽回しようと秘密を暴こうとしたら危うく殺されかけて、彼らに助けられる始末。
プライドはズタボロ、周囲の大人は口止めを強要しただけで、労いや慰めもなく、退校の意を伝えようと引き止められはしなかった。
もう、どうでもいい。
どこか遠くへ行きたい。
行き当たりばったりの逃避行だった。
ロンドン、キングスクロス駅着の9と4分の3番線を降りたセブルスが、フラフラと適当に乗ったバスは、ロンドン市街から郊外を抜け、田舎の山道へさしかかっても、心折れてボロボロのセブルスは半ば放心しており、興味を示さなかった。
だから、そのバスが到着したのが、まるで時代遅れの――まるで19世紀ごろを思わせる古風な街並みで、高く聳える時計塔と、湖の傍らに立つ古城を備えた、妙な街であろうと気にも留めなかった。
そこが、ヤーナムと呼ばれる街で、本日は獣狩りの夜と言われる災禍の真っ只中であったとしても。
行かなきゃよかったと心底後悔したのは、最初の数時間ほどで、すぐさまそれどころではなくなり、魔法がほとんど役に立たないと知るや、受け取ったノコギリ鉈と獣狩りの短銃、死体からはぎ取った狩装束をまとって奮闘する羽目になる。
そこで起こった悲喜こもごもの、腐臭と血臭、啓蒙と冒涜溢るる事象の数々は、語るに及ばずだが、少なくともセブルスは二度とこんなところ来るかと思ったのは確かだ。
結果だけ述べるなら、彼を操り人形に仕立て上げようとした上位者、月の魔物と、その傀儡とさせられていたゲールマンは、ベールの向こうへ導いてやった。
どうやって街を脱出したか、セブルス自身もよく覚えてないのだが、とにかく彼はヤーナムを後にできた。
セブルス自身は、自分では百年以上いたような気がしたのだが、どうもヤーナムの中で時間はループしようと、外の時間とは時間の流れが異なるらしく、気が付けば1年近くあの町にいたらしい。
スピナーズ・エンドに戻ろうかと思ったが、失踪扱いになっている己が今更戻るのもどうかと思い悩んだ挙句、結局彼はヤーナムで手に入れたいくつかの、外に出しても問題ない品(と言っても、輝く金貨程度しかなかったが、使い道がなく大量に溜まっていたので問題なかった)を売り払い、資金を得て、その足で世界を旅してみたのだ。
はるか以前は成人した魔法使いは
・・・最初に向かったのが、アメリカにあるサイレントヒルという田舎町という時点でどうかしていたとしか言えなかったのだが。
死ぬかと思った。
というよりも、すでに何度か死んでいて、夢としてやり直したような気もする。
ヤーナムでも悲惨な目に遭ったし、何度もメンタルを削られたが、負けず劣らずここもひどかった。
獣ではないにしろ、悪夢や妄想の産物のような化け物が、ヤーナムばりに徘徊しているのだ。魔法もロクに通じず、結局、ヤーナム以来の仕掛け武器と銃器でズタズタにする羽目になった。
狩人どころか、上位者となっていなければ、確実に死んでいただろう。
3本の3本目のへその緒をその身に取り込み、月の魔物の返り血を大量にリゲインしたその身は、見た目こそ人間のそれだが、中身は大きく変質してしまっている。
肉体的な死は意味をなさず、夢として片づけられる辺りが、その証左だろう。
とある少女を憑代として生誕しようとしていた神と称された化物(悪魔だか上位者だかは定かではないが)を、少女の父親と一緒に退け、這う這うの体で町から逃げだした。
少女が転生した赤子を連れた父親とは、適当なところで別れ、セブルスは再び適当な一人旅に戻った。
今度こそ、心身を休める場所でゆっくり療養するのだ。
サイレントヒルの街並みで拾った適当な旅行パンフレットを広げ、どこに行こうかと思案する。
なぜこんな行く先々でロクでもない目に遭うのか。
自分はこんなにかわいそう、と悲劇ぶるつもりはないが、いくらなんでもあんまりなのではないか。
いや、欧米圏なのが問題なのかもしれない。ならばいっそアジア圏にでも行ってみてはどうだろうか。
田舎でゆっくりのんびりしてみよう。
啓蒙も、腐臭と冒涜も、錆と血臭も、一生分味わった。別にそれが嫌というわけではないが(このあたりヤーナムで過ごした影響が凄まじい)、そろそろ一区切り入れてもいいだろう。
次の目的地はここにしよう、と軽い気持ちで選んだのは羽生蛇村という日本の片田舎にある村落だった。
例にもれずひどい目に遭い、屍人の群れから仕掛け武器を駆使して、どうにか逃げ切り、這う這うの体で村から脱出した。
他にも何人か来訪者がいたようだが、あいにくセブルスは上位者であっても万能ではない。冷たいようだが、自分で何とかしてくれ、と積極的に助けることはできなかった。
サイレントヒルの時とは何もかもが違ったのだ。
何故行く先々でこんな目に遭うのだ。
あれか。自分が上位者だから、無意識に腐臭と血臭、啓蒙と冒涜の集う地へ向かってしまうのか。
・・・そして、それが表面では嫌だと思いつつも、思い返してみればさほど嫌ではないと思っている自分がいるのも嫌だった。
逃げてもどこに行っても、結局一緒。
行く先には腐臭と血臭、啓蒙と冒涜が待ち構えており、魔法の杖は役立たず、仕掛け武器と、銃火器を駆使して切り抜ける羽目になる。
加えて、ホグワーツでの辱めなど、ヤーナムでの地獄の1年を始めとした、数々の修羅場と比べたら、数段マシ。
そう結論が出てからは、早かった。
フラリと出国したセブルスは、行きと同じくフラリと帰国し、田舎の適当な土地を買い上げて(旅のさなか、いろいろ面倒なものを手に入れ、処分ついでに金がたまったのだ)、そこに狩工房のような一軒家を構えることにした。
セブルスが出国している間に両親は亡くなったらしい。荷物を取りにスピナーズ・エンドを訪れた際にそれを聞いた。家はあばら家同然となっており、相続人たるセブルスが行方不明となっていたため放置されていたのだ。
少し悲しくなったが、その程度だ。
両親の遺産の整理をしながら、セブルスは自分の冷たさに内心驚いた。
あるいは、そういった人間らしさはヤーナムの路地裏に置き去りにしたのかもしれない。
ふと、この町で出会った、最愛の女性を思い出した。
シクリッと胸の奥がいたんだが、すぐに首を振って振り払う。彼女は今頃、彼女なりに幸せになっていることだろう。
そうして、今の今まで彼女のことをチラとも思いださなかった自分に、今度こそ愕然とした。
いくら修羅場の連続であったとはいえ、己の人生を捧げて愛そうと思った女性のことを、こうも簡単に忘れていたなんて。
ショックを受ける一方で、心の片隅で納得もした。
ああやはり、己はもう、人ではないのだ。
狂気と啓蒙に、ほんの一欠けらの人間性を残しただけの、上位者でしかないのだ。
遺産の整理と、あばら家の始末を終え、セブルスは新しく家とする場所に戻った。
庭には真白の葬送花を植え、墓石のような石碑と十字架をまばらに置いた、わびしくもどこか荘厳な雰囲気に。あの、ヤーナムの“狩人の夢”のように。
狩工房には、“狩人の夢”で用いていた狩道具と、その手入れ道具を。地下には魔法薬の調合道具を、そうして、最後に己の世話役として“狩人の夢”から呼び寄せた人形を置くことにした。
時計塔のマリアをモデルとした人形は、血の遺志を糧に狩人の力を強める力を持っているが、それとはまた別にハウスエルフばりの家事能力の持ち主だった。
魔法を使うことはできないため、マグル式の家事だが、それでも凄まじい能力を見せつけてくれた。
おかげで、家は衛生的で、快適な食生活を保障されている。
ただし、周囲にはマグル避けと偽装結界を張り巡らせ、単なる襤褸屋にしか見えないようにした。
ちなみに、セブルスは帰国してから放置気味だった魔法薬学の勉強に独学で打ちこみ、マグルの方からも専門書を取り寄せて勉強している。
ホグワーツから出奔して2年後の現在は、ケンブリッジ大学の魔法界側キャンパスにて、魔法薬学部に入り、あれこれと勉強を続けている。
・・・この年、ジェームズ=ポッターとリリー=エバンズが結婚したというのを、のちにセブルスは耳にした。
【セブルス=スネイプの杖】
セブルス=スネイプが学生時代から愛用している長さ35センチの杖。
菩提樹に、セストラルの尾の毛を使っている。
異国の天の御使いたる男がその下で悟りを開いたといういわれある木材と、死を目の当たりにしたものにしか見えない不吉なる天馬の尾の毛を、なぜ組み合わせようと思ったか。
杖職人の老オリバンダーはいまだにわからない。
ブラボ風テキスト。ちなみに、本当の杖の素材は不明。長さは某テーマパーク販売のものが、そうらしいです。
外伝(ポッター家周辺惨殺現場、予言、シリウス裁判関連のあれこれについて。ブラボ要素はほぼ皆無)を読んでみたいですか?
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もちろん!すぐに!
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サイレントヒル2編の後で!
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第1楽章終了後で
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むしろプリンス家関連の話の方がいい
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興味ないです
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その他!