「おおっ!本当に杖で魔法を使うんだな!ちゃんと魔法使いだ!」
「あたりまえでしょう?魔法使いなんですもの」
「いや、セブルスは杖を持ってないように見えたからね」
「・・・あれと一緒にしないでほしいわ。それに、どうせどっかに隠し持ってると思うし」
「そうなのかい?ところで、君はどんな武器を使うんだい?」
「武器?」
「セブルスは使ってたんだよ。鉈にも変形するノコギリと、古い感じの銃を」
「使わないわよ!あれと一緒にしないで!」
ハリー=メイソンさんは、魔法使いの第一印象がセブルスさんだから、リリーさんに対して、最初色々誤解してたよ!
運命的なハロウィーンの夜から、月日は流れた。
セブルスは、時々魔法薬を調合したり、論文を書いたりする引きこもり研究者のような生活をしていた。
一応20代の青年(戸籍上)の割に、陰気と言うなかれ。
調剤薬局の経営も考えないでもなかったのだが、啓蒙高く血生臭い、加えて無愛想で偏屈なセブルスに客商売ができるのかという至極真っ当な問題が立ちはだかったので、無理もないだろう。
さて、セブルス自身はそんな状態ではあるが、こっそり生存を知らせた実家から、無事に事業を引き継いだレギュラス経由で、引きこもり研究者の片手間ながらモグリの闇払いのようなこともするようになった。
具体的には、不動産を不法占拠をしている闇の魔法生物や有害なゴーストの類を駆除する業務である。
血が出るなら、悪霊だろうが上位者だろうが殺せるという、狩人の技量は伊達ではない。廃城カインハーストでは、悪霊を仕掛け武器の錆にしてやったものだ。
一方で、ルシウスとの付き合いも続いていた。と言っても、たまに会ったりして近況について愚痴る程度なのだが。・・・なお、この数年で、失脚した“闇の帝王”に服従の呪文で操られていたと言い訳して、光の陣営との付き合いで綱渡りをしている彼は、額の広さが広がったようにも見えた。純血一族の当主も大変なのだな、と他人事気味にセブルスは思ったりしたものだ。
大事なのは、件のハロウィーンから3年ほど経ったということだろうか。
リンッと澄んだ鐘の音が、セブルスの鼓膜を揺らす。
書斎で研究用のメモを見ながら羽ペンで羊皮紙に論文を書きつけていたセブルスは、眉を寄せた。
珍しいこともあったものだ。
確かに、モグリの闇払いもするが、腕が鈍っては困ると、聖杯ダンジョンにも定期的に潜っている。
内部で、“狩人呼びの鐘”や“共鳴する小さな鐘”が鳴るのも珍しいことではない。だが、聖杯ダンジョンの外で鳴るのはまた違う。
それこそ、3年前のハロウィーンの夜以来だ。(その後も一度鳴ったが、あれはセブルスが無効化したため除外扱いとする)
確か、あの晩にセブルスを呼び出した、“狩人呼びの鐘”に酷似したアイテムを、リリーはちゃっかり持ち出していた。
リリーが言うには、ポッター家に伝わる魔道具の一種で、“呼び鐘”と呼ばれていて、持ち主が危険な時に鳴らせば、強力な助っ人が呼び出せるが、眉唾物だとジェームズ=ポッターは笑い飛ばしていたらしい。
・・・それは、あの男に、危険な時など滅多になかったことだろう。無駄に能力だけは優秀だったのだから。
加えて、セブルスがあの男に呼ばれようものなら、その場で“共鳴破りの空砲”を使って呼び出しをキャンセルし、なおかつ二度と呼ばれないように“共鳴する不吉な鐘”を使って、あの男の前に出たうえで、殺すほどはいかずと、腕の一本や二本は切り落として、脅すつもりだった。
いや、ズタズタのひき肉にして、火炎放射器で焦がしミンチにした後、
考えるだけ不快なので、適当なところでその想像を打ち切る。
そもそもあの啓蒙低い男に、脅しが通用するだろうか?無駄に高いプライドを発揮して、仕返しを目論まれていたかもしれない。どちらにしたって面倒なことになっていただろう。
とはいえ、持ち主がリリーなら、セブルスとしては文句はない。ただし、リリー本人は嫌がってこの家に置いていこうとしていた。また前のようなことがあっても嫌だろう、自分なら盾ぐらいにはなるから持っていけ、と無理やり持っていかせたのだ。
ヤーナムの外に出て、すでに何年も経つが、その間に聖杯ダンジョンの外で鐘が鳴ったのは、どれもリリーが持っているその“呼び鐘”によるものだ。
実質、世界に一つしかなく、またその音色を感知できるのも世界に一人しかいないのだから、当然だろう。
そのリリーの持つ鐘がまた鳴った。また何か、トラブルが起こったのか。とはいえ、アメリカにいるはずのリリーの持つ鐘の音が、はるか遠くのイギリスに届くとは、やはりあの鐘は魔法界のアイテムとしても、いろいろ規格外――どちらかと言えば、ヤーナム製のそれに近いのかもしれない。
加えて、リリーはセブルスに嫌悪感を持っているというのに、素直に鳴らすのはどうにも解せない。よほどの非常事態があったのだろうか?
とはいえ、考えている時間はない。今、レギュラスは変装をして外出している。亡くなった母、ヴァルブルガに代わり、ブラックの資産や荘園を管理する業務があり、今日は現地視察に出ているのだ。
手早くデスクの上に、いつ戻るかわからないので、遅くなるようなら先に休むようにという旨のメモを残し、装備を整える。顔が見えないと警戒されるかもしれないが、ハロウィーンの時のような場合に備えて枯れ羽帽子と防疫マスクを身につけ、デスクの上に置いていた“共鳴する小さな鐘”を手に取る。
「メアリー、少し出る。レギュラスが戻ってきたら、所用で、Mrs.メイソンのところに行ったと伝えてくれ」
「わかりました。行ってらっしゃい、狩人様。あなたの目覚めが、よきものでありますように」
その姿を薄れさせながら言ったセブルスに、メアリーは丁寧にお辞儀した。
再び、姿を現したセブルスは、見知らぬ家の玄関先に蒼褪めた霧を纏って立っていた。
以前のように足元に死体も転がってなければ、少々郊外にあるこじんまりした一戸建ての、ごく普通の家だ。
念のため左手に銃をさげ、右手でインターホンを押す。
しばし待てば、バタバタという足音を立てて、どこか憔悴しきった様子の男が、ドアを開けてきた。
「?! セブルスか!」
「久しぶりだな、ハリー」
そう言って、セブルスはわずかに口元を緩めた。左手の銃は、もちろん血の遺志に変換して即座にしまった。
なお、ハリーという名前の持ち主は、この家では家主のハリー=メイソンと、ジェームズ=ポッターの血を継いでいる、子供のハリー=ポッター改め、ハリー=メイソンJr.(母親の再婚に合わせて、身元隠しも兼ねて改名した)の二人がいる。セブルスがハリーと名前を呼んでいるのは前者の方で、子供の方はジュニアとだけ呼んでいる。
以前、メイソンと呼んでいたのは、赤ん坊のハリーと混同して、紛らわしかったからで、今は手紙のやり取りで、そう呼称することになっているのだ。
「Mrs.メイソンはいるかね?どうも、呼ばれたようなのだが?」
「やはり、あの魔法の鐘は、君を呼び出せるんだな。リリーからそう聞いていたから、ダメ元で私が鳴らしたんだ」
憔悴した様子ながらも、メイソンは言って、ドアを大きく開く。
「とりあえず上がってくれ。ここには化け物はいないから、その怪しそうな帽子やマスクはとった方がいい」
「そうさせてもらおう」
メイソンの言葉に軽く眉をひそめつつ、セブルスはお言葉に甘え、中に入ると枯れ羽帽子と防疫マスクを外す。
「それで、Mrs.メイソンはどうした?なぜ君が私を呼んだ?」
「そうだ、そのことなんだ」
憔悴しきった様子で、ハリーは話し出した。
「いなくなったんだ。サイレントヒルに行く、と言い残して」
ことのきっかけは、リリーとハリーのちょっとした口論だった。
リリーはハリーとセブルスの文通をも快く思ってないようで、折につけやめるように促していたらしい。
だが、ハリーはセブルスには世話になったし、今も世話になっているから、とやめるつもりはなかった。
普段と違ったのは、リリーが珍しく食い下がってきたのだ。あんな殺人鬼なんかに!と罵倒するリリーに、ハリーは思わず言い返した。
私がサイレントヒルで娘のために戦っていたときに、彼は味方をしてくれた。手段と格好はともかく、手を貸してくれた。本質的には優しい人物だ。
彼が手を貸さなければ、君も危ないところだったんじゃないか?私に君を紹介してきたのも、彼の提案だったのだろう?その彼の功績を無視して、殺人だけを非難するのはどうなのか?
確かに、殺人は許されないだろう。だが、誰かを守るためなら、譲れない何かのためなら、仕方ないというのはあるんじゃないか?私利私欲や、八つ当たりなどならともかく。
そもそも、君だって不死鳥の騎士団とかいうところで、戦ったことがあるんだろう?自分は真っ白潔白の手をしていると、したり顔で言うつもりか?
ハリーのそんな言葉を聞き終えた時、リリーは真っ青な顔になって黙り込んでいたそうだ。
まるで、指摘されたくないことを、図星をつかれたかのように。
それから間もなく、彼女はひどく魘されるようになった。よく眠れていない様子で、夜中に飛び起きるようになったのだ。
そして、今朝、サイレントヒルに行くと言い残して、失踪してしまったのだ。
散々近所中を探し回ったが、一向に見つからず、本当にサイレントヒルに向かってしまったのかもしれない、とハリーはここにいたって思った。
本当は自分の足で探しに行きたかったのだが、シェリルとジュニアの面倒を見なければならない、加えてシェリルの事情が事情なので、サイレントヒルに連れて行くわけにもいかない、と身動きが取れず、やむなく事情を知り、手を貸してくれそうなセブルスに相談することにしたのだという。
まずい、とセブルスは思った。脳にある瞳が囁いてきた、というべきか。
サイレントヒルは、セブルスたちが訪れる遥か昔から、地元民の間では聖なる土地と呼ばれ――早い話、強い力を持った土地だったらしい。
そこに、力の方向性はとにかく、“神”と呼ばれる存在が降ろされた。たとえ、それが力を失ってしまおうと、一度出てきたという事実は、取り消されない。
絶対、何がしかよくない影響が出ているに違いない。
だが、そんなことをハリーの前で言ったとしても、余計な不安を掻き立てるだけだ。
「・・・わかった。彼女の方は私が捜しに行く。お前はこのままここで子供たちを守っていろ。
あと、万が一、私と連絡が取れなくなっても、お前だけはサイレントヒルに来るな。木乃伊取りが木乃伊になるなど、洒落にならんぞ」
「ああ。ありがとう、すまないな」
「気にするな」
セブルスはすでに十分慣れているわけで。
「数日かかるだろうが、それまで待っててくれ」
「ああ。十分気をつけろ」
ハリーの言葉にうなずくと、セブルスは懐から引き抜いた“共鳴破りの空砲”の引き金を引く。
轟音が轟くや、その姿は蒼褪めた霧に解けるように、消えた。
一度“葬送の工房”に戻ったセブルスは、きちんと渡航手続きを取って、国際煙突飛行ネットワークを使ってアメリカに渡った。
そうして、今度は高速移動呪文を使って、滑るように移動をし始めた。目的地はもちろん、サイレントヒルだ。
何があったかを語るならば、霧深いその街は、以前以上の静寂と悍ましさ、内包した闇をもって、来訪者を出迎えるようになっていた。
セブルスの予想は、見事的中していた。
その街は、心に闇を持った人間を呼び寄せ、その記憶を捻じ曲げ、妄想を具現化させる、ヤーナムとは別の方向でひどい場所となっていたのだ。
* * *
ジェイムス=サンダーランドは、霧深い道を歩いていた。
片手にははぎ取った角材、胸にはフラッシュライト。オリーブグリーンのジャケットのポケットには拳銃、懐にあるラジオの音に耳を傾けながら、彼は進んでいた。
死んだはずの妻メアリーから手紙がきた。サイレントヒルの、あの思い出の場所で待っていると。
ああ、メアリー。君に逢いたい。そのためなら、なんだってできる。
ジェイムスは妄信していた。この先に、絶対、メアリーがいる。彼女に逢うためなら、たとえ化け物が待ち構えている廃墟だろうと、乗り切って見せると、固く決意していた。
・・・真っ当な人間であれば、死んだ妻からの手紙という胡散臭い代物を妄信する彼を、おかしいと指摘できるのは言うまでもないだろう。
その重々しい音が聞こえたのは、霧に覆われた大通を通過中のときだった。
何か、重々しいものを、柔らかなものにたたきつける音、だろうか?
何だろう?
好奇心に駆られたジェイムスは、のそのそとそちらに足を向けた。
・・・真っ当な神経の持ち主であれば、絶対よくないものがいる!とむしろ音がする方から遠ざかろうとするだろう。(例えば、ハリー=メイソンなどはそうしていた)
やがてゴツッとジェイムスの足が何か蹴飛ばした。
それは、下半身をくっつけあったような、マネキンもどきの怪物・・・の死体だった。ジェイムスも今まで何度か殺してきたあれだ。
それが、半分ひき肉になっている。下半身の片方が引きちぎれ、グシャグシャの・・・不謹慎ながら、ジェイムスは車に轢かれた猫を思い出した、あれによく似た感じにされている。
思わず呆然とそれを眺め、よせばいいものを、ジェイムスは視線を音の発生源に向けた。
白い霧ににじむように、それはいた。
それは、人影だった。霧よりも暗めの――元の色はグレーだったらしいローブを纏っており、高位の司祭を彷彿とさせる。精緻な刺しゅう入りのマントもまた、その高潔な雰囲気を強調する。
・・・が、それらはみんなまとめて、化け物の返り血で血まみれだった。
そして何より、首から上がいただけなかった。
その頭は・・・兜の一種だろうか、金色の三角がのっかっていた。三角帽ではなく、顎から上をすっぽり覆い隠すようなデザインをしているのだ。どうやって周りを見ているのだろう?(そしてそれも血まみれだった)
ジェイムスは、少し前にアパートで、襲われそうになった赤い三角頭を、否応なしに思い出していた。
奴は、もっと鉄っぽい感じの兜で、顎どころか肩までかかるほどの大きなやつをかぶっていたし、ずた袋のような腰布をしていた。
まさか、あれの同類だろうか?
加えて、持ち物も妙だった。赤い三角頭の方は、錆だらけの身の丈ほどの大鉈を引きずり歩いていたが、目の前の金色三角頭は巨大な車輪を肩に担いでいた。ゴム製のタイヤとかじゃなくて、重そうな木を金属枠で補強されたものだ。
ジェイムスは知らなかった。それは、処刑隊の武器、ローゲリウスの車輪であるということを。
・・・で、目の前の金色三角頭は、それを玩具のように軽々と振り回し、ジェイムスは見たことのない・・・スクラム組んだ4人組っぽいのや、人間ムカデのような感じの、こん棒を持ったような化け物を挽肉にしていた。
文字通り、轢殺していた。車輪の縁に上下についている取っ手をもって、グルングルン回転するような感じで、化け物どもにたたきつけている。
これが、あの音の正体だ。
ヤベエ。あいつ、赤い三角頭よりヤベエんじゃね?
茫然としながら、ジェイムスは思う。
あの赤い三角頭もやばかった。アパートの一室に入ったら、化け物をヤベエ感じにレイプしながら惨殺してたし、めちゃくちゃ怖かった。叫ばなかっただけ上等だ、とジェイムスは思っている。(発砲はした)
ついでに言えば、金色三角頭を襲う化け物どもも、尋常な数ではないらしい。
ジェイムスを襲ってくる化け物どもは、多い時で精々一度に3体程度なのだ。危なくなったら逃げればいい、とジェイムスもわかる。
・・・それでも、できれば殺しておきたいのだが。あんな化け物は、生かしておくべきではない。殺すべきだとジェイムスは真剣に思っている。
だが、金色三角がやったらしい死体の数は、ゆうに10を超えていた。
ヤベエ。再度ジェイムスは思う。
この金色三角頭、とんでもねえ奴だ。敵に回すべきじゃない。
ゴシャンッと音を立てて、化け物の最後の一体が挽肉と化しながら吹っ飛んだ。
それを見届けたらしい、金色三角頭は、やがて両の拳を天に突き上げながら天を仰ぐ――いわゆる“喜び”のジェスチャーを取りながら、叫んだ。
「ご覧あれ!私はやりました、やりましたぞ!
この穢れた怪物どもを、潰して潰して潰して、ピンク色の肉塊に変えてやりましたぞ!
どうだ、化け物が!
如何に貴様らが勇猛果敢と称して数で挑んでこようとて、このままずっとあるのなら、何ものも苦しめられんだろう!
すべて内側、粘膜をさらけ出したその姿こそが、いやらしい貴様らには丁度よいわ!
フハ、フハッ、フハハハハハハァーッ」
キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!
化け物がしゃべったというのも、かなりショッキングだったが、いかんせん内容が内容であったので、ジェイムスは脳内ではそんな雄たけびを上げつつも完全に硬直していた。
懐のラジオも沈黙したままで、ついでに街に満ちる不穏な気配さえその瞬間は沈黙していた。
ヤベエ。三度、ジェイムスは思った。
こいつは、赤い三角頭とかとは、別ベクトルにヤベエ。顔合わせたらいけない奴だ。
我に返ったジェイムスは、そそくさと方向転換した。
なお、ジェイムスが踵を返すや、金色三角頭も我に返ったか、金色三角・・・正式名称、金のアルデオをずらして、懐から取り出した飲み薬をグイっと飲み干した。
ヤーナム製の鎮静剤は、人血製である。血の医療にもつながる、ビルゲンワース発祥の飲み薬で、効果のほどはお墨付きだ。
高ぶった獣性を抑え込んだ金色三角頭は、「・・・やはりいつもの格好がよいか」とぽつりと言って、血の遺志収納を応用した瞬間衣装替えで、いつもの黒いインバネスコート姿(頭装備付き)に早変わりして、そのまま街の奥へ向かって姿を消した。
なお、気分転換で処刑隊コスプレをしていたセブルスは、ジェイムス=サンダーランドに目撃されて、ヤベエ奴呼ばわりされたことは知らない。
知ろうものなら、「便器に躊躇なく腕を突っ込む奴にだけは言われたくないわ」と吐き捨てること請け合いである。
・・・とある廃屋のトイレで、ジェイムスが躊躇なくそれをやらかしているのを、セブルスはうっかり目撃してしまったのである。
ハリー=メイソン辺りが知れば、どっちもどっち、とため息を吐いて言ったに違いない。
さて、そんなちょっとした邂逅劇の後、セブルスはようやくリリーを見つけた。
この街は、誘い込んだ人間にそれぞれ別の次元の街並みを見せつける――ある意味、ヤーナムと似通った特性を持っているが、夢を司ることもできる上位者であり、夢を渡れる狩人でもあるセブルスは、ある程度それを無視して干渉することができる。
それに気が付いてしまえば、後は居場所を見つけるだけで何とかなった。
「あんたたちのせいよ!あんたたちのせいで!この!この化け物!」
ようやく見つけた、セブルスの、かつて最愛に位置付けた女性は、憎悪に顔を歪め、血と錆にまみれた人型のような怪物に、呪いの赤い光弾を乱射していた。
セブルスは、動かなくなったそれをなおも踏みにじる彼女を落ち着かせようとした。
すでに、ここまでの道中で見かけたものの痕跡、再現された幻などから、彼女の身に何があったか、なぜこの街に惹かれたかは、わかりきっていた。
リリーがジェームズ=ポッターと結婚したのにはわけがあった。
実は、セブルスは、あれほど嫌っていたポッターとあっさりくっつくなど変だな、と少々解せなかったのだ。
自分という当て馬(当時とその後を思い返せば、そういうポジションだろう)がいなくなったからだろうか、とも思っていたが、実のところ、もっと深刻な理由があったのだ。
リリーのことを追い回していたジェームズ=ポッターは、好意を持った女性の存在を家族に打ち明けていたのだろう、ポッター夫妻から彼女に圧力がかかるようになっていたのだ。
遅くにできた一人息子を溺愛する夫妻は、マグル生まれの何の後ろ盾も持たない女が、品行方正で成績優秀な我が息子を選ばないのはおかしいと、その行動に干渉をかけるようになっていたらしい。
そればかりか、あの事件のあった当時はすでに卒業後に備えて、就職活動も始まっていたが、“
息子の妻になるのだから、そんなことする必要はないだろう、と言わんばかりに。
いくらヴォルデモート卿のせいで、後ろ盾のないマグルの女性の就職が難しいといっても(下手をすれば雇った企業もトラブルに巻き込まれかねない)、こうまでうまくいかないのはおかしいとリリー自身も思い続けていた。
ジェームズ=ポッターとの交際は、これ以上彼を邪険にすれば、就職にも響くかもしれないという、打算もあってのことだった。
だが、その後は転がり落ちる、否、泥沼に引きずり込まれるように、彼女の人生の方向は決定づけられた。
全部、ジェームズ=ポッターに好かれ、彼の両親に目をつけられた、ただ、それだけで。
彼女がすべてを知ったのは、ハリーJr.を妊娠する少し前、“不死鳥の騎士団”の活動でジェームズが家を留守にしている時だった。
竜痘で病床にあったポッター夫妻が、罪悪感などまるでなく、看病するリリーに対し、こんな子が息子の嫁に来てくれるなんて、やはり自分たちは間違っていなかった、という誇らしげな物言いで、暴露してきたからだ。
すべての思考が憤怒に塗りつぶされたリリーは、二人につかみかかり、怒鳴り散らした。
だが、前夫妻はそんなリリーの怒りを、病床であるのをものともせずに、せせら笑って流した。
『どうせもう、ジェームズがいなければ何もないだろう?寄生虫の一匹を養う程度、ポッター家にはたやすいことだ』と。
とうとう我慢ならなくなったリリーは前夫妻に杖を振り下ろし、呪いを放った。死の呪いなどではない、ちょっとした悪戯レベルのものだ。ただ、謝罪させたかっただけなのだ。
だが、竜痘によって弱り切っていた夫妻にとって、それは致命的であり、その拍子に亡くなってしまったのだ。そして、帰ってきたジェームズは、それを竜痘による発作によるものだと勘違いした。
リリーに、すべてを打ち明けることはできなかった。ここまで来てしまえば、もはや彼女には、ジェームズしか、寄る辺はなかったのだから。・・・悔しいことに、前夫妻の言うとおりに。
アズカバンには行きたくない。万が一、ジェームズが見逃してくれたとしても、就職もうまくいかなかったマグル出身の魔女一人が易々と生きていけるほど、イギリス魔法界は甘くはないのだから。
そこからは、もう必死だった。ジェームズに捨てられないように、腹を痛めた息子に罪はないと、必死でリリーは自分自身に言い聞かせていたのだ。
続く
【角材】
サイレントヒルの路地裏の柵から、ジェイムスがはぎ取った角材。
適度な重さと大きさに、尖った釘が出ているので、化け物を殴打するのに適している。
化け物は殺さなければならない。そこに連中がいる、それだけでも許せない。だからジェイムスは、奴らを見かけると殺しにかかる。
・・・本当に許せないのは、果たして化け物の方なのだろうか?
ちなみに、ポッター家の鐘は、持ち主が緊急と感じているときに、魔力消費で発動しますが、啓蒙消費でも発動します。ハリー=メイソンさんがセブルスさんを呼びだしたのは、啓蒙消費によるものです。・・・そりゃ、神とか裏世界とか目の当たりにしたら、啓蒙の一つや二つ得るでしょうよ!
あと、ハリー=ポッターのお父さんはジェーム「ズ」=ポッターです。
そして、サイレントヒル2の主人公はジェイム「ス」=サンダーランドです。
紛らわしいですけど、本シリーズではそのようにやっていきます。ハリーもジェームズも、ありがちなんがあかんのや!