ホラゲー主人公と、児童文学主人公の姉弟ですもん。平穏無事に過ごせると?何かあると思いますやん?
というわけで、ディズニーにしては珍しいホラー『モンスターハウス』編始動です!まあ、ほぼこの話オンリーですけどね。
狩人セブルスさんはおまけ要素くらいです。居なくても、片づけれたかもしれません。
『賢者の石』が始まらないんですけど?!
新学期が始まった。
スラグホーンとともに、大広間での入学式を終えたセブルスは、ついでスリザリンの寮監補佐としても、寮生に挨拶を行う。
暴力沙汰は最終手段。実に面倒なものだ。ヤーナムとかだったら、腹が立ったらすぐに武器を振り抜けたというのに。
・・・生活の知恵袋のように、暴力沙汰に至ろうとするあたり、実に猟奇的思考をしているのだが、本人に自覚はあまりない。
幾度かスラグホーンの授業の補佐をしていた彼は、とうとうある日、自身で授業を行ってみるということになった。
それは別にいい。セブルス自身もいつかやらねばと思ってはいた。だからと言って、いきなりグリフィンドールとスリザリンの合同授業というのはハードル高くないか?
グリフィンドールとスリザリンの仲はあまりよくない。セブルスの在学時代から変わらない不文律である。というのに、授業は一緒。
学生としてのセブルスにはあまり文句はなかった。なぜなら当時は、グリフィンドールに行ってしまった幼馴染と机を共にできたのだ。できるだけ近い席を取って、ノートを写して、呪文の練習をしあえるだけで、嬉しかった。
だが、それで授業終わりにポッターたちに絡まれるのだけは辟易した。
セブルスたちだけではなく、そもそもそりが合わないものが多いらしく、小競り合いが頻発し、それだけで授業が中断、減点沙汰というのも珍しくなかった。
だったら、別の寮との合同にするか、あるいはローテーション制にするべきなのに、それもなく、合同授業は必ずこの組み合わせなのだ。
セブルスは学生時代からそこを少し不満に思っていたので、職員会議の時に提案してみたのだが、「だからこそ、じゃよ。受け入れあうのも愛じゃ」という校長の鶴の一声で却下された。
それは、自分が闇の帝王とハグとチューで和解してから言うべき台詞ではないか?とセブルスは思った。
なお、セブルスには和解なんて一ミリもない。切り刻んで内臓ぶちまけて遺志を強奪出来たら許せんでもない、というところだ。
いっそ対立をあおっているのでは?と勘繰りたくなってくる。
ともあれ。決められているならば仕方ない。この後も授業は決まっている。グズグズしている時間はない。
生徒たちにも時間割が決まっているように、教師にも時間割は決まっているのだ。
ハードであろうとしっかりこなさねば、とセブルスは授業に臨んだ。
基礎理論のノートを取らせてから、さっそく調合に入らせる。材料の下ごしらえである。基本水薬の魔法薬なんだから、煮てしまえばみな同じ、というのは素人考えだ。
必要部分だけ切り分けたり、すりつぶしたり、材料ごとに別に下茹でが必要だったりと、やることはむしろ料理に近いかもしれない。
セブルスは四方に目をやりながら、今回は補佐に回ったスラグホーンやメアリーの手も借りて、生徒の手つきを眺める。
おぼつかない手つきや、材料の下処理が甘いものがチラホラいる。
グリフィンドールの生徒は、派手好きでどちらかといえば体を動かすのが得意な者が多く、こういう大人しく座って試行錯誤を深めるような地味作業は苦手らしい。
ポッターやシリウスも悪くはなかったが、魔法薬学においてはセブルスにかなわなかったのは、そういう生来の部分が大きかったのだろう。
逆に、スリザリン系のものは、得意な者が多いらしい。手つきがしっかりしているもの、あるいは実家で多少は手伝ったりした経験があったりするのだろう。
そろそろ出来上がる生徒もいるかと、視線をあげて時計を確認した直後だった。
ボフンッと粉の入った袋を地面に叩き落したような音を立て、とある鍋がピンク色に爆発した。
あっという間に、地下牢教室は、ほぼ一面のピンクで染め上げられてしまう。
・・・用意していた元素材からこんな調合ができるはずがないので、誰かがあらかじめ材料を持ち込んで、やらかしたらしい。
眉をひそめて、セブルス(彼も髪も狩り装束もピンク色にされた)が口を開くより早く、誰かが噴出した。
生徒たちは寮の別なくお互いを指さしあって、くすくすと笑い、肩を震わせあっている。
「はっはっは!ピンクか!こりゃまいったね!」
ひときわ大きな声を上げて、スラグホーンは大笑いしてから、杖を一振りした。
あっという間に、地下牢教室は元の薄暗さを取り戻す。
「ゲッ!嘘だろ、こんな簡単に!」
「あの花苦労して手に入れたのに!」
と、不満を喚くのは二人の赤毛のグリフィンドール生。今年で2年生となる、双子だ。この二人が仕掛け人か。しかも、故意らしい。
確か、ジョージ=ウィーズリーと、フレッド=ウィーズリー。どっちがどっちでもいい。どうせ死ねばみな同じだ。
「いや、どうしてなかなか。なかなかユーモラスだが、教室に色付けするのはいただけないね?グリフィンドールから10点減点」
にこにこ笑いながら言うスラグホーンだが、セブルスは眉をひそめたままだ。
「スラグホーン教授」
「セブルス、あまりなんでも怒りまくるものでもないよ。幸い今回はけが人がいないし」
「今回はたまたまです。魔法薬の調合は、危険と隣り合わせだとおわかりでしょう。今回はたまたまピンクで済みました。
この教室を丸ごと吹き飛ばすような結果になってたらどうするのです!」
教室の面々が何やらギョッとしたような顔をしているが、歯牙にもかけずにセブルスはまくしたてる。
何度も記述するようだが、魔法薬の調合は危険なのだ。そして、手順一つで全く違う薬になる。毒と薬は紙一重を文字通りで行くものなのだ。
生徒たちがぎょっとしているのは、セブルスが気難しそうな見た目とは裏腹に、自分たちを気遣ってるような発言をしたからだ。
存外、いい先生なのだろうか、という生徒たちのほのかな期待は、見事に叩き潰された。
「では、君の気の済むように罰則を行えばいいだろう」
「「げげっ?!」」
「わかりました、そうしましょう。
聞いていたな?ウィーズリーツインズ、本日、夕食後に地下牢に来るように。
逃げたらどうなるか・・・楽しみにしていたまえ」
ニタリッと、妙に尖った犬歯を見せて笑うその様は、闇の魔法使いのような見事な悪役であったと、のちに授業に出ていた学生の一人は回想する。
翌日、大広間朝食をとろうとしていたマクゴナガルは、ミネストローネを吹きそうになった。
入学してから間もなく、悪戯好きでその頭角を現していたウィーズリーツインズが、頭に円筒形の檻をかぶって姿を現したからだ。
「ジョージ=ウィーズリー!フレッド=ウィーズリー!」
「先生、違います。俺がフレッドで、こっちがジョージ」
「どっちでも構いません!その頭はどうしたのです?!」
「スネイプ先生からの罰則です。一週間これつけたまま過ごせって」
「シャワーと着替えと寝るときは消えるんだ。便利だよな」
「ちょっと邪魔だけど、それだけだよな。口と目は空いてるから、授業や食事には支障ないし」
双子からの返答に、マクゴナガルは頭痛を覚えた。まさかの、相手だった。確かに、セブルスからは連絡があった。授業妨害の罰則として、双子に少々妙な格好をさせる、と。下手な言いつけ(マグル式の鍋磨きや掃除など)は堪えそうにないので、ということだったが、いくらなんでも。少々どころのレベルではない。
「セブルス!!」
「何ですかな?」
マクゴナガルの金切り声に、自分の席で食事をとっていたセブルス(ホグワーツの食事は味が濃すぎるので、メアリーに用意してもらった)が顔を上げて聞き返す。
「あれは何ですか!」
「メンシスの檻ですが」
「名称ではなくて!」
「罰則です。ちなみに、以前あれをかぶっていた男は変態として有名でしたな」
セブルスの中で。ミコラーシュは変態だった。間違いない。
メンシス学派の連中は、夢の中に閉じこもって、死んだ上位者に瞳を要求し続けていた。メルゴーの乳母は、なぜあんな曲解をしてしまったのか。あの上位者がもうちょっとまともであれば、あんなことにならなかったかもしれない。
結果、現実ではミイラとなって、ヤーナムが獣狩りの夜に汚染されていようと知らん顔だ。セブルスが追い回して八つ裂きにしてやったが。
「他にもかぶってるやつがいるのか・・・」
「この大広間の席が埋まるほど、大勢のものが被っておりましたが」
呆れたらしい誰かのつぶやきに、セブルスはしれっと答え、パンをちぎった。
ちゃんと人数を数えたわけではないが、隠し街ヤハグルで見かけたミイラたちは、大体そのぐらいいたように思う。
きちんと学徒の正装をしていたのはミコラーシュだけで、他の面子はパンイチだったというのは、セブルスの胸中にしまっておく。
あきれ果てたらしいマクゴナガルは、それ以降何も言わなかった。
その衝撃的な朝食以降、セブルスは教職・生徒共通でこう認識されるようになった。
教師としてはまともだが、例にもれず変人。
頭に檻被った変態大勢と出くわしたらしい経験がある。そして、彼自身も頭にかぶる檻を持っており、罰則ではそれをかぶって過ごすことを強要される。
なお、ウィーズリーツインズは、頭に檻被って過ごすことが定番化するのは、間もなくであった。
しかし、第三者からの評価などどうでもいいセブルスは、そんなことまったく相手にしていない。
さて、ハロウィーンである。
毎年、ささやかなごちそうでその日を過ごすセブルスは、今年は朝っぱらから甘ったるい臭いに顔をしかめ、そのまま出席せざるを得なかったパーティーのごちそうも、最低限しか口をつけなかった。
甘いのは嫌いではないのだが、ホグワーツのハロウィーンは砂糖の暴虐でしかない。何事もほどほどが一番というのに。
とりあえず、メアリーにしょっぱくてあっさり食べられそうなものを頼もうと思いながら、セブルスが自室に戻ったのは夜のことだ。
袖を持ち上げてスンッと鼻を鳴らす。インバネスコートにまでカボチャの甘ったるい臭いが染みついているような気がする。城中にあふれる臭いのせいでよくわからない。消臭呪文をかけて、明日は別の奴を着ようと決める。
その時だった。
リンッと澄んだ音が鳴り響き、彼は瞬時に表情を引き締める。
“共鳴する小さな鐘”が鳴っている。ずいぶん久しぶりだ。
以前鳴ったのが、サイレントヒルに再訪する少し前のことで、あれ以降は完全に沈黙していたというのに。
あの鐘は、メイソン一家が持っている。
リリーと、ハリーに、また何かあったのかもしれない。
思い至れば、速かった。
すぐさまセブルスは動いた。
枯れ羽帽子と防疫マスクを素早く纏い、“共鳴する小さな鐘”を手に取った。
「メアリー。誰か訪ねてきたら、私は先に休んだ、用件は明日にしてほしいと伝えてくれ」
「わかりました」
その姿をゆらゆらと陽炎のように揺らめかせながら言ったセブルスに、メアリーは淡々と頷いた。
「・・・帰ってきたときのために、何か軽く食べるものを用意しておいてくれ。
塩味のある、あっさりしたものがいい」
「はい。行ってらっしゃい、セブルス様。
あなたの目覚めが、よきものでありますように」
メアリーが頭を下げるのとほぼ同時に、セブルスは空気に溶かすようにその姿を消した。
蒼褪めた霧を纏ったセブルスが姿を現したのは、ぽつりぽつりと街灯の点いている、郊外だった。
夜だから視界が悪いものの、セブルスはこの風景を知っている。メイソン一家の住まう近所だ。
だが、そんなものは気にもならないものが、視界の真ん中を占拠していた。
「は?」
思わず彼は、らしくもなくそんな声を出していた。
何か黒々とした巨大なシルエットが、ものすごい勢いで走っていく。小山ほどはあろうそれは、妙に四角い胴に、セメントの土台を太い手足として持ち、四つん這いで移動していた。
三角形の屋根と突き出た煙突、目と思しき四角の明かりから、それが家だろうとかろうじて分かる。
張り出し屋根の上顎と、元はベランダの柵だったであろう下顎を咬み合わせてギチギチと鳴らしながら、目の前の獲物に鋭い爪を振り下ろして、つかみかかろうとしていた。今にも捕食せんばかりに。
そんな怪物としか言いようのない家が向かう先には、光のドームが立ちはだかり、その中には人がいた。
うずくまって胸を苦しそうに押さえる老人と、彼を必死に支えて声をかけている様子の子供たち――ヘザー、ジュニア、ドラコだ。
ドラコ=マルフォイが一緒にいるというのにも事情があるのだが、その切っ掛けなどはこの場では関係ないので後回しにさせてほしい。
大事なのは、ドラコとメイソン姉弟は友誼を結んでいるということだ。
そして、彼らの前に立って、杖を振りかざして光のドーム――
なお、リリーとナルシッサは外出から戻ってきたところなのか、髪を結い上げてドレスアップしている。ただし、その形相は必死そのものだ。ナルシッサに至っては半泣きになっており、リリーに何事か叱咤されている。
大体のことには動じないセブルスも、これは予想外過ぎた。
何がどうなっているのか。
とにかく、あの邸宅のような怪物は倒さなければなるまい、とセブルスが動くより早く、そのそばに大型のトラクター(工事用の車両だろう。黄色の塗装がされている)が急ブレーキをかけながら停車した。
「すまない、セブルス!急に呼びつけてしまって!」
「どういう状況だね?ハリー」
その運転席から身を乗り出すように叫んできたハリー=メイソン(出版社関係のパーティーがあるとかで、彼も正装していた)に、セブルスは血の遺志収納から取り出した爆発金槌を右肩に担ぎながら尋ねた。
「手紙で相談しただろう!?ジュニアが怪しい怪しいって言ってた、ネバークラッカーさんの邸宅だ!あの張り出し窓がそっくりなんだ!間違いない!
我々も先ほど帰宅したばかりで、状況はよくわからないんだ!」
「・・・家というのは、ああも動き回って、人間を捕食しようというものだったかね?」
「そんなわけないじゃないか!とにかく、あれを何とかする!手を貸してくれ!」
吹っ飛んだところのある魔法使いでさえ建てないだろう事故物件を通り越した何かに、呆れて尋ねるセブルスに、ハリーは即座に言い返した。
ともあれ、確かに放置というわけにもいくまい。このままでは、彼らの子供たちが危ないのだ。
ひらりと、セブルスはトラクターに飛び乗り、とりあえずよさそうな取っ手に掴まった。ほぼ同時に、ハリーはギアを入れ替えて発車する。
「貴公、このようなものも運転できたのかね?!」
「昔取った杵柄って奴さ!売れない時代のアルバイトがこんな形で役立とうとはね!」
揺れながら猛突進するトラクターに掴まるセブルスの問いに、ハリーが叫び返した直後、その頭上を黒い影が通り過ぎた。
プラチナブロンドとドレスローブをなびかせたルシウスだ。箒に頼らない飛行術で飛ぶ彼は、そのまま杖を振りかざし、爆発呪文を家に浴びせかける。
怒った家(瓦礫こそ飛び散ったが、致命打にはなってないらしい)はそのまま体をそらすように見上げ、飛び回るルシウスを発見するや、咆哮を上げて彼に向かって手を伸ばす。
さすがのルシウスも顔を引きつらせて、その手をよけて逃げ回るが、気が気でないに違いない。
そして、そのすきに二人の乗ったトラクターは魔女二人と子供たちと老人のいる結界のすぐそばに滑り込んだ。
「ヘザー!ジュニア!ドラコ君!無事かい?!」
「父さん!」
「父さん!コンスタンスを止めて!」
「コンスタンス?!」
パッと顔を明るくする子供たちだが、すぐに口々にそんなことを言い出した。
「あの家のことだよ!ネバークラッカーの奥さんなんだ!」
ネバークラッカーとは、すぐそばにいる老人のことらしい。心臓が悪いのか、胸を押さえて非常に顔色が悪い。すぐにでも医者に診てもらった方がいいだろう。
「ボイラーが心臓になってるの!それを何とかしないと!」
「ハリー、私は先に行くぞ」
ルシウス一人に怪物邸の相手をさせるわけにはいかない。話を聞くのはハリーに任せた方がいいだろう。
言い残して、セブルスはトラクターから飛び降りると、高速移動呪文を発動して、滑るように移動する。
後足立ちして、飛び回るルシウスを叩き落とさんと手を振り回す怪物邸――まるで聞き分けのない子供のような動きをするそれに、セブルスはまっすぐに向かう。
撃鉄を起こして、炉に火を入れる。凄まじい爆音を咆哮として、セブルスは怪物邸の足めがけて、爆発金鎚を振り抜いた。
爆発。瓦礫を飛び散らせ、怪物邸はよろめきながら、何事かと下を見やってきた。
その左目のような張り出し窓に、ルシウスの爆発呪文が炸裂する。
ルシウスは、一度セブルスを見るや、ぎょっとした顔をする(そういえば、彼には枯れ羽帽子と防疫マスク姿は初めて見せることになる)が、すぐさまそれどころではないとばかりに表情を引き締めた。
怪物邸は、足元のセブルスにも気が付いたのだろう、姿勢を四つん這いに戻し、叩き潰そうと腕を振り下ろしてきた。
狩人のステップで、既のところでよけるが、セブルスは内心舌打ちしたい気分だった。
家!獣ではなくて!上位者でもなくて!化け物・邪神の類ではなくて!血が出るなら殺せるが、動く家の解体は専門外だ。業者に行け、と言いたくなった。
狩人とは血に酔うものだ。あれではリゲイン出来ず、狩人の強みが半分近く発揮されない。何と相性の悪い相手なのだ!
ここで、セブルスの隣に銀色に輝く雌鹿が並んできた。リリーの
『スネイプ!怪物の姿勢を崩せる?!できるなら、お願い!
動きを止めたら、後はこっちで何とかするわ!』
『それから、来てくれてありがとう!また迷惑をかけてごめんなさいね!』
「気にするな」
続けて聞こえてきた言葉に、セブルスは今度は控えめに応えるや、左手に巨大な金属の円筒を出現させる。
大砲だ。一発で水銀弾を最大所持数の半分近く消費するが、その分威力はお墨付きの銃火器だ。
またしても空中のルシウスに、今度は
そのまま、ルシウスは怪物を誘導するように飛び始める。おそらく、彼も守護霊から何か言われたのだろう。
向かうのは、マンション建設の現場だろう、周囲に鉄筋やら作業機械が置かれ(ハリーのトラクターもおそらくここから拝借したのだろう)、その奥にある基礎作りのために大きくえぐられたくぼ地だ。
くぼ地の縁で、慌てたように立ち止まる怪物邸に、セブルスは後足の片方に、大砲を叩きこみ、反対側の足にリリーが同乗し、ハリーの運転するトラクター(子供たちのことはナルシッサに任せ、ハリーのフォローにリリーも一緒に来たらしい)が体当たりした。
たまらず、怪物邸は轟音を立てながらくぼ地の中に転がり落ちた。
今度こそ怒り狂った様子で爪を振り上げてくぼ地の縁に前足をかけようとするが、そうは問屋が卸さない、とセブルスはそこに爆発金槌を振り下ろした。
再びの爆発によって、怪物邸の爪が引きはがされ、くぼ地の中に転がり落ちていく。
そこに何かが飛び出した。おそらくリリーの仕業だろう、もの飛ばしの呪文で何か飛ばしたらしい。
飛ばされた小包らしきものは、怪物邸の煙突にすっぽりと入り込んだ。
びくっと怪物が大きく振るえる。最後の抵抗!とばかりにハリーとリリーの乗るトラクターに、爪を伸ばそうとした。
「うちの子たちに、これ以上手を出さないでもらおう」
言いながら、トラクターの運転席から、いつの間にか拳銃を引き抜いていたハリーが、無事だった怪物邸の右目に銃弾を叩きこんでいた。
怪物邸の右目の窓が蜘蛛の巣のようにひび割れ、怪物邸がのけぞった直後、轟音と閃光を放って、怪物邸は爆発四散した。
至近距離のセブルスと、ハリーとリリーの乗るトラクターは、それぞれ
煙を上げるくぼ地をのぞき込めば、がれきが散乱していた。どうやら爆破解体には成功したらしい。
そこに、のろのろと誰かが来た。ジュニアとヘザーに支えられた、やせぎすの老人――ネバークラッカーだ。ナルシッサに連れられたドラコも一緒にいる。
「コンスタンス・・・」
小さくつぶやくネバークラッカーのところに、がれきのところから何かが出てきた。
銀色の輝く、ゴーストだ。やたら大きく太った、大きく横に裂けたような口が特徴的な、愛嬌ある顔立ちをしている。おそらく、これがコンスタンスという女性なのだろう。
女性はニカッと大きな口で笑うと、そのまますうっと空気に解けるように姿を消してしまった。
それを見届けたネバークラッカーが、わっと泣き伏すのを、ジュニアとヘザーが気の毒そうに、背中をさすっている。ドラコもまた、複雑そうに彼を見ていた。
直後、セブルスの姿が薄れていく。身にまとった蒼褪めた霧に解けるように、消えていく。狩りの助力要請がかなえられ、元の世界に引き戻されるのだ。
「セブルス!後で手紙を出す!今夜はありがとう!」
「役に立てて何よりだ。ルシウスにもよろしく言っておいてくれ」
トラクターから身を乗り出すように叫んだハリーに、セブルスは軽く答えて見せた。
そうして、彼は今度こそ完全に姿を消した。
それを非常に驚いた面持ちで見ていたルシウスにも、それは見えていた。
次に、セブルスが姿を見せたのは、ホグワーツ城の自室だった。
手に持ったままの武器を血の遺志収納にしまい、枯れ羽帽子と防疫マスクを脱いで、インバネスコートをコート掛けにかけ、ソファにかけたところで、メアリーが「お帰りなさい、セブルス様」と声をかけてきた。
「ちょうど出来上がったところです。お召し上がりになられますか?」
「頼む」
セブルスがうなずいたところで、メアリーは奥に引っ込んだ。
持ってきたのは、深めのスープカップだ。中には、ライスボールとなみなみ注がれた赤茶色のスープが入っている。
最近のメアリーは日本食に挑戦し始めている。レギュラスが送ってくれたレシピブック(セブルスによる翻訳魔法をかけられたもの)を手に、ハウスエルフたちに頼み込んで入手した食材を難なく使いこなしているらしい。
「これは何かね?」
「
メアリーの淡々とした説明を聞いてから、セブルスはスプーンを手に取って食べだした。
丸いライスボールは、中に炒めた挽肉が詰められ、表面をカリカリに焼き上げられている。出汁のスープを吸ってか、スプーンで簡単に割れた。
スープの方は、鳥の出汁をベースに、醤油などで味付けをされているらしい。
熱いスープとカリカリホクホクのごはんに、濃い味のひき肉が渾然一体となって、セブルスの疲れた体に染み渡る。
食事の必要はなくても、適度に心を癒すことにはなるのだ。特に、今夜のような騒動の後だと。
最後の一口まで飲み干して、セブルスは一息ついた。
「うまかった。また頼む」
「はい」
セブルスの言葉に、メアリーが微かに微笑んだようにも見えた。
さて、例の怪物邸の騒動の詳細と、その顛末について、ここで補足を入れておく。セブルスは後日、ハリーからの手紙で知らされたことだ。
ジュニア、ヘザー、ドラコの三人が、メイソン宅の近所にあった、実は魂を宿して、何でも食い荒らす怪物邸の秘密を暴いてしまったことが、邸宅の暴走のきっかけであった。
この怪物邸は、ネバークラッカーという老人が一人で住んでいたが、彼は少しでも敷地に入った子供のおもちゃを没収していたため、近所では嫌われ者になっていた。
ジュニアは、父からもらったキャッチボールのボールを、両親がパーティーに出るため、メイソン宅に預けられていたドラコは父親にクリスマスプレゼントにする予定の小包を、事故のような形で、それぞれ怪物邸の敷地に入れてしまい、どうにか取り戻せないかとした結果、起こった事件でもあった。
なお、ドラコについてシッター代わりのハウスエルフもいたのだが、このハウスエルフはポンコツ過ぎて全く役に立たなかった。
3人は、怪物邸がものを食い散らかし、ネバークラッカーが心不全で救急搬送されたのを皮切りに、ついに人まで襲い始めたのを目の当たりにし、どうにか退治できないかと、囮に睡眠薬を乗せて飲ませよう、などの知恵を絞った。
その過程で、ネバークラッカーの過去や、怪物邸に宿るコンスタンスという巨女(建築中の事故で亡くなったネバークラッカーの妻)のことをも知ってしまった。
一度は怪物邸に追いつめられる3人を救ったのは、病院から無理やり退院する形で帰宅してきたネバークラッカーだった。
ネバークラッカーのために、コンスタンス自身のために。
3人は、怪物邸の破壊を提案。ネバークラッカーがうなずくや、怪物邸がとうとう家ごと動き出し、4人に襲い掛かってきた。
彼らが追い詰められたところで、出版社関係のパーティーに出ていたメイソン夫妻、及び貴族間のパーティーから戻ってきて息子を迎えに来たマルフォイ夫妻、そしてメイソン夫妻から事前に相談を受けていたセブルスも、鐘を鳴らされたことで駆けつけてきた、というわけである。
ハリーが投げて、リリーが魔法で怪物邸の煙突に投げ込んだ小包は、ネバークラッカーがかつての軍役の際にちょろまかしていたダイナマイトだったらしい。
セブルスはあずかり知らぬことであるが、後日、子供たちは保護者たちからしこたま怒られた。子供だけで危ないことをしたのだから、当然である。
ネバークラッカーは、没収したおもちゃを近所の子供たちに返した後、今度こそ心臓を治すために、入院したそうだ。
怪物邸が暴走するのを抑えるために、ろくに家から離れることもできなかったので、心臓を治したら、旅に出るのだ、とすっきりした顔で笑っていた。子供たちに、ありがとう、と感謝もしていた。
この騒動が一つの契機となったのだろう、ハリーJr.は母の反対を押し切って、ホグワーツに入学を決意し(結局怪物邸を自力でどうにかできなかったのが、悔しかったらしい)、一緒に入学する予定のドラコと一緒に買い物に行くという、約束をしたらしい。
セブルスがホグワーツにとどまる理由がまた一つ増えてしまった。
続く
【ダイナマイトの入った小包】
ネバークラッカーが自宅に隠し持っていた、ダイナマイト。かつて、軍で爆撃係についていた彼は、有事に備えてそれを隠し持っていた。
愛する妻。ものを食べるのが好きな妻。誰にも嘲られずに、好きなものを好きなだけ食べられる、理想の場所たる家。その家そのものとなってしまった妻。
愛という名の執着は、退役した青年を、老人になるまで縛り付けることとなった。
その小包は、彼を解放するたった一つのよすがでもあったのだ。
ドラコとメイソン姉弟の出会いと、ルシウスさんの反応は第2楽章3でやります。
今回長いので、いったん切ります。
来週の投稿は、外伝「衝羽根朝顔は百合と鉢を共にできるか」となります。
アンケートでお尋ねした、リリーさんとペチュニアさんの和解話です。ペチュニアさんも色々大変だったんです。あと、リリーさんは周囲から影響を受けて染まりやすい素直な女性になりました。お楽しみに。