今回は、アンケートでもお聞きした、リリーさんとペチュニアさんの和解話となります。
時系列としては、メイソン一家のイギリス移住後、第2楽章2ハロウィーンのモンスターハウス騒動以前とは決めていますが、細かな時期とかは決めてません。皆さんの好きなようにご想像なさってください。
セブルスさんの出番はなし。
啓蒙と冒涜が足りないですか?すみませんね、次回までお待ちください。
ペチュニア=ダーズリーは、絶句していた。
髪の色を金に染め、ハーフリムの眼鏡をかけて、少々印象が変わっているが、わかるものにはわかる。
彼女の妹、リリーが、そこにいた。
ペチュニアの、リリーに対する感情は複雑だ。
妹が魔法の学校に行き始めて、最初の数年はまだマシだった。
しがない工場夫である父の稼ぎでは、妹の学費、学用品のすべてを賄いきることはできず、ペチュニアは母とともに内職をして青春の日々を潰した。
それでも妹の笑顔を思えば我慢できたのだ。
おかしいと思うようになったのはいつごろだっただろうか。
だんだん会話がかみ合わなくなってきた。
そんなもの持って帰ってこないでというこちらの訴えを無視して、ポケット一杯のカエルの卵やら、存在意義が疑われるようなみょうちきりんな食べ物やらをお土産と称して持って帰ってくるようになった。やめてというのを無視して、コップをネズミに変え、筆記用具を羽虫に変えるようになった。
ペチュニアが嫌悪感を丸出しにして怒っても――近所から奇異の目で見られたら近所づきあいに困る、生活に必要な道具だから生き物にされたら困るというのも分かってくれなくなり、妹は困惑するようになり、やがて呆れたようなため息をつくようになった。
まったくチュニーは大げさなんだから。このくらいで文句を言うなんて、チュニーはおかしいわ。
すっかり、あの世界の常識に染まってしまった妹は、まるでペチュニアの訴えが幼い子供のわがままであるかのようにふるまうようになってしまった。
学校を卒業するや、会ったことも話に聞いたこともない男といきなり結婚するとリリーが言い出したこと、あまつさえ、その男が玄関先の植木を変な形にしても、何も咎めず、こちらにフォローさえ入れなかったことで、ペチュニアは悟った。
ああ、あの子は完全に変わったのだと突きつけられた。
その時には、妹の卒業と引き換えに、体を壊して寝たきりになった父と病気がちになった母の面倒を見始めていたペチュニアのことを一顧だにすることなく、リリーは独立した。
魔法界の平和のために、不死鳥の騎士団で戦うのだと誇らしげに言う妹を、ペチュニアは冷ややかに見送った。
ええ、そうですか。あなたは魔法の使えないただの人間の父と母の面倒を見るより、魔法界の平和とやらのために戦う方がいいっていうのね。
あなたの学費を稼ぐために寝る間も惜しんで働いて、体を壊した父と病弱になった母のことなんて、考える価値もないってわけね。
ならさっさと行けばいいわ。もう住む世界が違うんだから!
それから数か月後、父が死に、後を追うように母が亡くなった。最後まで、リリーのことを心配し、会いたい、と言いながら。
ペチュニアは一人で両親の葬儀の手配をした。当時すでに交際を始めていたバーノンがいなければ、もっと苦労したことだろう。
妹に両親の死を伝えたくても、どうすれば連絡が取れるのか、彼女にはさっぱりわからなかった。
いいや、どうせなんとも思っていないに違いない。彼らは“魔法界の平和のために戦う正義の戦士”なのだ。そのためなら、魔法の使えない普通の両親がどうなろうが、知ったことではないのだ。魔法が使えないというだけで!
あんな風になるなら、魔法なんか使えなくていい。普通が一番なのだ。ペチュニアの可愛い妹は、魔法が使えるようになってしまったばかりに、普通がわからなくなり、普通の両親を捨てることに迷いがなくなったのだ。そんなふうにならなくてよかったのだ。
ペチュニアは、両親の墓前で必死に自分に言い聞かせた。あいつらはおかしい。リリーはおかしい。ペチュニアは普通だ。普通が一番なのだと。
辛い思い出しかない土地にしがみつくのも馬鹿馬鹿しくて、ペチュニアは両親が住んでいた家を完全に引き払い、改めてリトルウィンジングに移り住んだ。
愛する夫、バーノンと出会って孤独が癒されたのは、あの街なのだから。
もう何年前になるだろうか、やたら奇妙な日があった。確か、11月の初め頃だったように思う。
空を大挙してフクロウが飛び交い、道端ではみょうちきりんな――マントのようにゆったりした格好をした人々(まるで魔法使いのように!おお、ヤダヤダ)が、コソコソと話し合い。
ペチュニアは最初、それを他人事じみて認識していた。
妹側の世界で何かあったのかもしれないと思ったが、所詮対岸の火事だ。ペチュニアにはどうすることもできない。
・・・妹は無事だろうか?正義のために戦うなどと言っていたが、とチラとも思わなかったと言えば、嘘になるのだが。
だが、それから数日後、かわいい愛息子のダドリーの育児に懸命なペチュニアの元に、実に忌々しい騒ぎが飛び込んでくることになった。
いつものように、会社に出かける夫を見送り、ベビーベッドにダドリーをおとなしく寝かせ、家事に励んでいたペチュニアの元に、来客が訪れた。
それは、あのいわゆるローブを着た、忌々しい連中――妹のいる、イカれた世界の連中だった。
彼らが言うには・・・ペチュニアにはよくわからない単語も多かったが、要するにテロリストに妹の一家が狙われ、息子と彼女はどうにか助かったが、その後姿を消した。早く保護しないと、残党にも狙われるかもしれない、ということだった。
そうして、ペチュニアに、彼女らの居所を聞いてきたのだ。
もちろん、ペチュニアは知らない、何も聞いてない、と素直に答えた。
だが、連中はしつこかった。ハナからペチュニアの話はどうでもよかったのだろう、とにかく調べさせてもらうと言い放ち、文句を言おうとするペチュニアを魔法で押しのけ、動けなくさせ、泣きわめくダドリーすら黙らせ、家中を荒らしまわったのだ。
ここにもいない、どこにいる、くまなく探せ!という連中に、ペチュニアは動けさえすれば、電話で夫、あるいは警察に助けを求めていたに違いない。・・・それが役に立ったかは、定かではないが。
やがて、連中は舌打ち交じりに出て行った。後片付けもせず、床に転がったままのペチュニアを一顧だにせず。
泣きわめいているだろうダドリーの元に行きたかった。無事を確認して、もう大丈夫よ、とあやしてやりたかった。
夫に電話したかった。警察に助けを求めたかった。
それすらもできず、ペチュニアは初冬の冷たい床に転がされたまま、数時間過ごす羽目になった。
体調を崩さなかったことだけが、不幸中の幸いだった。
夫が帰ってくる頃には、彼女は動けるようになっていた。だが、片付けが間に合わず、帰ってきた夫に仰天され、やむなく事情を話した。
夫には、妹のことは話していた。幸い、妹が向こうで撮ったという、動く写真が残っていたので、証拠になった。
夫は半信半疑ながら、信じてくれていた。ペチュニアが、彼女とは縁を切っている、といったのも大きかったのだろう。
だが、今回のことは、さしものバーノン=ダーズリー氏にも衝撃が大きかったに違いない。
引っ越しも視野に入れるべきか、と片づけを手伝いながらバーノンは言ってくれたが、ペチュニアは黙って首を横に振った。きっと、無駄だ、と。
ペチュニアは、妹の結婚報告を機に、彼女とは一切連絡を取っていない。連絡先すらわからなかったし、ペチュニア本人にもその気がなかった。
にもかかわらず、彼女の居所が特定されたということは、見張られている可能性が高い。そして、それはおそらく現在進行形になるに違いない。
だったら、住み慣れたここに居続けた方がいい。ダドリーも赤ん坊だから、余計な負担をかけたくない、と。
・・・間違いなく、バーノン=ダーズリー氏の中で、魔法族がキ●ガイの、クソ以下認定されたのは、この事件がきっかけであったことだろう。
彼は、ペチュニアの普通が一番!という言葉に大いに賛同してくれた。何があっても、これからも、自分たちは普通でいよう、あの連中とは違うのだから!が二人の合言葉となった。
それからしばらく、また何度か魔法族の連中がやってきた。リリー=ポッターとその息子のハリーを探しているという連中は、知らない、いない、というペチュニアの言葉を無視して、何度か家探ししていった。
そのうち何度かはバーノンが阻止してくれようとしたし、警察にも通報したのだが、すべて無駄骨に終わった。
やっぱり、あの連中は頭がおかしい。同じ言語を話しているはずなのに、何でこうも話が合わない?とペチュニアとバーノンが二人して頭を抱えたのは言うまでもないだろう。
そして、ある日、ぴたりと連中が来なくなった。
最後まで、詫びの一言もなければ、どうして急にやめたかの説明すらなかった。
なんて身勝手な連中なんだ!
怒り狂うバーノンをよそに、ペチュニアはどうにも嫌な予感を覚えていた。
ペチュニアは、追い詰められた妹が、息子ともども自爆したニュースなど、知らなかった。
そして、それから月日は流れ、現在。
息子の誕生日祝いとして、ダーズリー一家は出かけていた。
リトル・ウィンジングからも近い、動物園だ。ダドリーは蛇が気に入っているらしく、バーノンと一緒に爬虫類館に行ってしまった。
ペチュニアは、その外のベンチに腰かけて、一息ついている。
あんなものを好むなんて、正直、ペチュニアにはよくわからない。ぬめる鱗に、縦長い瞳孔と、チョロチョロと出し入れする小さな舌先、極めつけはシュルシュルというあの動きだ。気持ち悪いとしか言いようがない。
「男の子って何で蛇とかトカゲとか、好きなのかしら?」
「そう?ママは子供のころ、カエルとかよく捕まえていたわよ?動かない草木より、そっちの方が面白かったわ」
すぐ隣のベンチにかける、金髪の親子がそんなことを話している。
青い目の下に少々クマのある金髪の少女・・・ダドリーより、若干年上だろう娘が、母親らしき女性に話しかけていた。
おそらく、自分と同じように、他の家族が爬虫類館に入っているので、出てくるのを待っているのだろう。
「母さんってすごいわ・・・私は、ちょっと苦手。何考えてるかわからないし、あの目がね・・・うん、私、無理」
「無理に好きになることないわ。人それぞれよ。母さんの姉さんも、ああいう生き物が苦手だったの。その代わり、花を育てるのがうまかったわ。
・・・チュニー、今頃、どうしているかしら?」
どこか懐かしむような、寂しがるようなその声に、思わずペチュニアはそちらを振り向いていた。
母親であろう女性の顔を、そうしてまじまじと見た。
パッと見は違和感を覚えた*1が、すぐに分かった。眼鏡をかけていても、あのエメラルドの瞳は同じだ。髪は(まの付く忌々しい技術)だか薬剤だかで染めているに違いない。
それほど、彼女は似ていたのだ。
「リリー?」
思わず、ペチュニアはつぶやいていた。もう何年も口にしてなかった、妹の名を。
「え?」
そうして、その女性も視線を上げて、娘の頭越しに、ペチュニアと視線を合わせた。
「チュニー?」
やっぱり!
ペチュニアは、確信した。そして、彼女の妹もまた。
完全に偶然とはいえ、こうして、姉妹は再会してしまったのだ。
とりあえず、ペチュニアがやったのは、再会の抱擁でもなく、行方不明になっていたくせに、のんきに動物園なんかに来ている妹を張り飛ばすことだった。
この子のせいで、どれだけ苦労したことか!
いきなり何するのよ!と怒声を張り上げる娘を無視して、ペチュニアは金切り声で怒鳴り散らした。
あんたのせいで、うちがどれだけ迷惑をこうむったかわかっているの?!
頬を押さえて、茫然とペチュニアを見るリリーだが、すぐさま蒼白になって、御免なさい!お願いだから、騒がないで!などと言い出した。
張られた拍子に取れた眼鏡を、急いで拾ってかけなおし、懸命にペチュニアをなだめようとしてきた。
娘もいるの!お願い!と言ってきたリリーに、ペチュニアはふんと鼻を鳴らす。
何が娘だ。ペチュニアが何も知らないと?あのろくでなしのポッターとの間に儲けたのは一人息子だろうに!娘?どうせ、ポッターを捨ててから駆けこんだ先で儲けたのだろう?なんて股の緩い、はしたない女なのだ!こんなのが妹なんて、なんと恥ずかしい!
ペチュニアがそう怒鳴るより早く、「どうしたんだい?」と穏やかな声が割って入ってきた。
「ハリー!」
「すみません、家内がどうかしましたか?」
そう言いながら、ハリーと呼ばれた男は、リリーをかばうようにその傍らに立ち、鋭い目でペチュニアを睨んできた。リリーの頬が赤くなっていることから、何があったか察したのだろう。
随分なよっちそうな男だ、とペチュニアは思う。ついでにリリーよりもだいぶ年上らしい。寄らば大樹の下、なるほど、ポッターの次はその男というわけか、とペチュニアは一層軽蔑の念を強くした。
「そのおばさん、母さんを殴ったの!いきなりよ!ひどいでしょ?!」
「おば・・・?!」
「あ!母さんのほっぺ!大丈夫?!」
噛みつくように叫ぶ娘に、ペチュニアは鼻白むが、それよりもハリーの足元にくっついていた少年が叫んだ。
少年は、パッと駆け出してすぐそばの蛇口でハンカチを濡らすと、背伸びして母親に差し出した。
「はい!母さん、これ!」
「ありがとう、ジュニア。でもいいの。私が悪いから・・・」
かがみこんでハンカチを受け取るリリーは、それをそっと頬に当てがった。
「何の騒ぎだね?ペチュニア」
ここで、ダドリーを連れたバーノンがようやく戻ってきた。
そこまで来て、ようやくペチュニアは自分たちが、他の客たちから注目を集めていることに気が付いた。
「・・・どうやら、少し場所を変えた方がよさそうですね。
二人とも、動物園はここまでにしていいかい?」
「えー?!お土産は?」
「またにしてもらいましょ、ジュニア。このおばさん、ママの知り合いみたいだし」
「・・・うん。わかったよ」
子供たちを見回すハリーに、少女と少年はそれぞれ声を上げる。
不満そうにしながらも素直に従った少年に、こっそりペチュニアはうらやましいな、と思った。
ペチュニアの息子、ダドリーは少々意志が強いところがあるのだ。
なお、世間一般で、それはわがままという。
喚いて癇癪を炸裂させるダドリーをどうにかこうにかなだめすかせ、一同は場所を移した。
リトル・ウィンジングの、ダーズリー宅だ。リリーたち一家は、泊りがけで遊びに来ていたらしい。
彼らを家にあげるのは、最初はどうかと思ったが、(まの付く以下略)関連を、わずかでも誰かに見聞きされ、関係者扱いされるのは御免であるので、仕方なく・・・本当に仕方なく、家にあげたのだ。
もし、我が家で変なことをしたら承知しない、としっかり釘を刺して。
しかし、玄関先につくや、リリーは素早くバッグの中から取り出した木の棒(魔法の杖!やっぱり持っていたのね!)を一振りした。
「な、何の真似だ?!」
「こちらを見ている人がいました。興味を失うように、仕向けただけです。すみません、ひらにご容赦を」
のけぞるように言ったバーノンに、リリーは素早く杖をバッグの中に戻して言った。
そうして、通されたリビングで、彼女はペチュニアに改まった様子で言った。
「改めて久しぶりね、チュニー。さっきはどうしたの?」
「どうしたのですって?!あれだけの騒ぎを起こしたくせに、動物園ですって?!どういうことなの?!」
おそらく、できるだけ落ち着こうとしているらしいリリーを無視して、かまわずペチュニアは食って掛かった。
「あれだけ・・・?
ええっと、御免なさい。何のこと?確かに、ジェームズが起こしたことは悪かったけど、ちゃんと手紙で」
「あんたはいったい何のことを言ってるの?!」
ああ、まったく!この妹は!相変わらず、同じ言語をしゃべっているはずなのに、全くかみ合わないのがもどかしい。
「失礼します。すみません、申し訳ありませんが、口を挟ませていただきます」
ここで、たまりかねた様子で、ハリーという男が口を挟んできた。
「・・・失礼ですが、あなたは?」
「ハリー=メイソンと申します。彼女・・・リリーの夫です。おそらく、二人目と、ご存じなのでしょうが」
付け加えられた言葉に、ペチュニアはふんと鼻を鳴らし、バーノンはあからさまに眉をひそめた。
あの妹の、二人目の夫!どんなロクデナシなのやら!
最初、ペチュニアはそんな風に身構えてしまったが、ハリー=メイソンは見た目相応に、穏やかに話して見せた。
頭ごなしにこちらをマグルだなんだと馬鹿にしてこないし、いきなり取り出した棒きれで、奇矯な真似をしてきたりもしない。
リリーと、ペチュニアの仲裁を、終始穏やかに務めて見せたのだ。
それによると、リリーはテロリストから狙われ、前夫(ロクデナシのポッター)を亡くした後、恩師によってほとんど力づくで息子と引き離されそうになり、子連れの状態で必死に逃げ、アメリカに渡った先でこのハリー=メイソンという男と暮らすようになったこと。娘の方は、ハリーの連れ子のヘザーであること。
その時、友人の手引きで、彼女はあちら側の世界では死んだことにされたこと。
その3年ほど後、夫の仕事の都合もあって(ペチュニアはそう聞かされた)、イギリスに戻ってきたこと。
生きているとわかると、また息子と・・・どころか、今の家族とも引き離されそうになるかもしれないので、身元を誤魔化したまま生活していること。
そして。
きわめて驚いたことに、リリーが謝ってきた。
ペチュニアに、前夫の仕打ち――頭ごなしにバカにしてきて、庭木をへんな形に変えてきたことを申し訳なく思っていること、ちゃんと忠告を聞いておけばよかったことを、謝ってきたのだ。
・・・あの、思い込んだら一途、猪突猛進の、リリーが。
目を瞠るペチュニアをよそに、バーノンはふんと鼻を鳴らし、今更か!とお前らのせいで、我々は!とブチブチと文句をつけだした。
バーノンは、リリーが失踪したことで、あちら側の連中の捜索の矛先となり、散々家探しされたことを根に持っているのだ。・・・連中とくれば、片付けも、その後の経過報告も、一切なかったのだから。
加えて。
死んだことにした、とこの妹は言った。ペチュニアは何も知らなかった。
あの連中は、たった一人の姉はマグルであるということだけで、知る権利はない、と判断したのだ。
今日、ペチュニアがリリーに逢えたのは、単なる偶然なのだ。それがなければ、今もペチュニアは何も知らないままであったことだろう。
ここで、リリーが申し訳なさそうにしながら言ってきた。
あの場では、ジェームズの手前、謝ることができなかった。それに、不仲としておいた方が、都合がよかったので、わざと謝らなかった、と。
わざと?
ムッとしつつも詳しく尋ねたペチュニアに、リリーはうなずいて説明した。
当時、彼女は反テロ組織のレジスタンス(“不死鳥の騎士団”とかいう。そういえば、そんなことを聞いた)に参加していたが、それでなくてもマグル出身ということで、テロの標的にされた可能性が高かった。
家族であろうと、何の力もないマグルと関わりを持ち続ければ、テロの標的にされ、人質に取られる可能性もあったので、不仲とし、縁を切るつもりだったと。
だったらそう言えばいいのに!そうすれば・・・せめて・・・。
そう言ったペチュニアに、今度こそリリーは困惑した様子で言った。
ちゃんと、その旨を記した手紙を、あの後に出した。そこに、謝罪なども合わせて載せていたはずだ、と。
そんな手紙は届いていない。
顔を見合わせる姉妹だが、ややあって、リリーは目を吊り上げ、唐突にポッター前夫妻を罵りだした。・・・どうも、彼らが彼女の手紙を差し止めていたらしい。
・・・その後、リリーとポッターの真の結婚事情が暴露された。やはり、彼女の前の結婚相手は、ろくでもない男だった(両親含めて)。
今度の相手は大丈夫でしょうね?!思わずそう聞いたペチュニアに、リリーは苦笑気味にうなずいた。
自分の男を見る目がないのは重々承知だけど、私たち、恋愛結婚じゃなくて、契約結婚だから。それに、ハリーは父親としては、最高の相手よ、と。
それを聞いたハリーは、照れくさそうにはにかんでから、まじめな顔をしてペチュニアとバーノンに頭を下げた。
彼女は母親として、最高の相手です。私の力及ぶ限り、社会的伴侶として、家族の一員として、守っていく所存です。力及ばぬ部分はあるでしょう、またあなた方のお手を煩わせてしまうこともあるかもしれません。ですが、どうか、私たちがひそかに暮らすことを許していただけないでしょうか、と。
・・・ジェームズ=ポッターと比べると、だいぶ年かさはあるものの、穏やかな物腰に、丁寧な物言いで、これだけでかなりの高得点だった。
加えて、もしかしたら、リリーが考え直すきっかけを与えたのも、この男のおかげなのかもしれない。
ついでに・・・というより、これが大きかったのだが、このハリー=メイソンという男は、いわゆるマグルだった。
あんた、正気か?!あんな連中を伴侶にするのか?!
と、思わずドン引きするバーノン(リリーの目の前なのだが)に、ハリーという男は苦笑して答えた。
(まから始まる悍ましい種族名)と考えるから、いけないんですよ。私の友人にもいますが、彼は少々変わったところがありますが、いい人です。
そうですね、ちょっと習慣の違う国の住人と考えればいいんです。我々、(まの付く悍ましい技術)の使えない人間でも、善人と悪人がいるように、彼らにも善人と悪人がいるんです。そして、多少話のかみ合わないところは、習慣が違うからと思えば。話しあって、お互いの納得いく部分にすり合わせていけばいいんです。
さすがに、今の彼女は、ポケットにカエルの卵を入れたりはしてないそうですし。
彼がそう言うと、リリーは顔を真っ赤にして、もう!いつまでその話を引っ張ってるの!忘れてよ!などと慌てている。
そうして、彼女は、申し訳なさそうに、ペチュニアを見やった。
ハリーにも注意され、自分でもいろいろ考えるようになって、あの頃のことを反省している。迷惑をかけて、御免なさい、と。
・・・リリーが帰ってきた。
ぼんやりと、ペチュニアは思った。あの頃・・・かみ合わない話に、会話を投げ出し、“妹のリリー”じゃなくて、“魔女のリリー”になってしまった彼女。ペチュニアの、かわいい妹のリリーが、戻ってきた。
思わず黙り込んだペチュニアに、リリーがおろおろする。
どうしたの?何か気に障った?と。
今更なんだ!チュニーが一人で、どれだけ頑張っていたと思っているんだ!!後から反省したと殊勝な顔で出てきて、許されると思うな!
黙り込んだペチュニアの肩を抱き寄せながら、バーノンが怒鳴った。
わけがわからない、という顔をするリリーに、何事か悟ったらしいハリーが尋ねてきた。
リリーのご両親のご葬儀を、一人でされたのか、と。
一人なもんか!私が手伝ったんだ!と胸を張るバーノンに、ペチュニアは当時のことを思い出し、こぼれそうになる涙をそっとハンカチで押さえた。
絶句して蒼褪めるリリーは、茫然とそんな・・・と呟くが、すぐさま我に返ったように、ごめんなさい!チュニー!と頭を下げた。
ペチュニアは黙っていた。何と言うのか、何を言えばいいのか、自分でもわからなかったのだ。
ただ、複雑だった。
そんな時、にわかに部屋の外が騒がしくなった。
廊下にいたダドリーと、ヘザーが取っ組み合いの大げんかをして、ジュニアが困り果てている。
どうも、ダドリーが盗み聞きを試みて、ヘザーがそれを注意しようとしたが、聞く耳を持たず、どころかヘザーの両親のことを馬鹿にしてきたので、ヘザーが逆上、つかみ合いとなったらしい。
ダドリーは盛大に拗ねていた。両親が自分を放って、見知らぬ大人二人にかかりっきりになっているというのが、たいそう気に入らなかったらしい。(動物園からの早期切り上げも原因の一つだろう)
大分長いこと話し込んでいた。
それに気が付いたハリーは、長いことすみません、そろそろ・・・と立ち上がる。
そうして、リリーもまた、バッグを肩にかけて立ち上がった。
会えてよかったわ、チュニー。元気でね。そう言い残して。
フンッとバーノンは一つ鼻を鳴らしただけだ。早く帰れ、と言わんばかりに。
行ってしまう、とペチュニアは思った。このままだと、また。今度こそ、二度と、手の届かないところへ。
やっと、妹が、まともになって、帰って来てくれたのに。
「・・・次の、日曜日」
ポツリっと、ペチュニアが言った。
隣のバーノンがぎょっとしてるのがわかる。何を言いだすんだ、と言わんばかりだ。
だが、ペチュニアは無視した。
「ブレックツリー墓地に、11時に」
「え?」
「・・・命日なのよ。パパの。その気があるなら、来たらいいわ」
振り返って目を丸くするリリーに、ペチュニアは淡々と言った。
「言っておくけど、あっち側の妙な格好で来たら張り飛ばすわよ。ちゃんと、こっちの喪服で来なさい」
「・・・いいの?」
茫然と、信じられないとばかりに尋ねてきたリリーに、ペチュニアはムッとした。
「来たくないの?それとも、普通の人間相手なんて、お墓参りも嫌なの?」
「ううん!行く!行かせて!」
大きく首を振ってから、リリーは泣き笑いとしか言いようのない、涙目のくせにクシャクシャの笑顔で大きく頷いた。
「ありがとう!チュニー!絶対行くわ!」
そうして、今度こそ、妹の一家はダーズリー宅を去っていった。
バーノンには、どういうつもりだと咎められたが、ペチュニアはそれでも譲れなかった。
だって、妹がようやくまともになってくれたのだ。たった一人の、大事な妹が。
・・・相手の男も、今度はまともそうだった。
良くも悪くも、リリーは素直なのだ。影響を受けやすい気質、とでもいうべきか。
魔法は特別と刷り込まれたのが、良くも悪くも、あの子を変えてしまった。
・・・ペチュニアが羨み、同じところに行きたいと願っても、すげなく断られた世界へ、あっさりと飛び込んでいってしまった。
だが、そこがいいことばかりではないこと、とんだ人間の魔窟であったと痛い目を見て、(その後、出会ったハリー=メイソンの影響もあって)妹もようやく目を覚ましたのかもしれない。
さすがにまだ、深く付き合っていこうとは思えない。だが、墓参りくらいはいいだろう。
姉妹そろっての墓参りなら、きっと天国の父母だって、喜ぶはずだ。
一週間後、黒い喪服に身を包んだ、黒髪と金髪の姉妹が、二つ寄り添う墓石に花束を手向けていたのは、別の話。
続く
この後、クリスマスカードぐらいのやり取りはするようになると思います。
さすがにバーノンさんが受け付けないと思うので、必要以上に親しくするのはないです。
ちなみに、ダーズリー一家の容姿とかダドリーに対する溺愛具合とかは原作と大差なしです。
原作ハリー少年がいたから、ああなってたんじゃないか、っていう意見もありますが、原作ハリー少年がいなくてもああなってた可能性もあったと思いましてね。
まあ、彼らはこのシリーズに関してはモブに近いので、多分これ以降の出番はないです。
(そもそも、このホラースポット満載の冒涜ワールドに彼らが参加しようものなら、確実に発狂or惨殺される未来しかないですし)
次回の投稿は、本編の更新です。ドラコ少年とメイソン一家の邂逅、ルシウスさんの反応をやってから、今度こそ原作1巻『ハリー・ポッターと賢者の石』編がスタートしますよ!お楽しみに!