セブルス=スネイプの啓蒙的生活   作:亜希羅

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 ようやく『賢者の石』編がスタートです。

 長かった・・・。

 後、セブルスさん視点になるのと、原作主人公が全然違うので、話の展開もいろいろ違います。ご了承ください。




 R3.05.04.追記

 寮の出入り方法についてご指摘があったので直しました。ご指摘ありがとうございました。





 メイソン夫妻コソコソ話

 「ジュニアには、出生の事情とか、前の父親のことは内緒にしておこうと思うの」

 「どうしてだい?」

 「寮に振り分けられるにあたって“組み分け帽子”をかぶせられるんだけど、今思えば、あの帽子、開心術――ええっと、頭の中を読む魔法ね、それに類似した魔法が使えるんじゃないかしら?

 知らせてたら、ダンブルドアにジュニアのことがばれて危険な目に遭わされかねないわ」

 「なるほど。あの子は隠し事が苦手だしね。きちんと成人してから話そうか」

 「・・・戦うにしろ、せめて学校でちゃんと魔法を習ってからにしてほしいものだわ。

 去年のハロウィーンのようなことは、もうたくさん!」

 「えてしてトラブルってのは、向こうからやってくるけどね」



【3】セブルス=スネイプ、引継ぎを終える

 

 さて、少々遅くなったが、話をドラコ=マルフォイとメイソン姉弟の関係について移そう。

 

 彼らが仲良くすることになった経緯を語るには、話の時間軸をセブルスがホグワーツにくる1か月ほど前にさかのぼる必要がある。

 

 その日、ヘザーとハリーJr.のメイソン姉弟は、近所の公園でいつものように遊んでいたのだが、突如ヘザーが何をかぎつけたか、付き添っていた父親の手をひいて「あの子が危ない」「父さん、助けてあげて」と言い出した。

 

 ヘザーは出自が出自だけに、時折このような超感覚の発揮――事故発生の予知や、天気の変化の言い当てをする。

 

 親交を続けているセブルスに相談したところ、ヘザーは特化型のスクイブ(魔法は使えないが、予知などは一部分野に秀でている)なのかもしれない、という話だった。

 

 とにかく、ヘザーのその手の言動にすっかり慣れていたハリーは、娘の導くままに、離れたところにある廃屋に縛られ囚われ、泣いて震えていた一人の少年を保護した。

 

 それが、身代金目当てで誘拐されていたドラコ=マルフォイである。

 

 ドラコを保護したものの、その言動から魔法族と判断したハリーは、ひとまずセブルスに連絡を取った。

 

 一方で、セブルスの方は息子が誘拐された!と血眼になっているルシウスの依頼で、あちこち走り回っており、ハリーの連絡を受け取って安堵した。

 

 ・・・ただし、すぐそばにルシウスがいなければ。

 

 自分が迎えに行くから、というセブルスのやんわりした反対を押しのけて、ルシウスはメイソン宅のすぐそばまで行った。さすがに忠誠の術で守られているメイソン宅にそのまま乗り込むことはできなかった。

 

 それでも、メイソン宅の近所でリリー=メイソン、ハリー=メイソンJr.の元ポッター母子と鉢合わせしてしまったのだ。

 

 リリーは簡単な変装をしているが、海千山千の貴族社会に慣らされたルシウスには通用せず、さっくり正体を見抜かれてしまった。・・・鉢合わせ時に、思わずリリーが「Mr.マルフォイ?」と呟いてしまったのも不味かった。

 

 これはどういうことだ、と詰め寄るルシウスに、セブルスはやむなく事情を説明。・・・いつでも忘却術を発動できるよう、心構えをしながら。

 

 ルシウスの中で、損得利害の素早い計算が行われたことだろう。英雄母子の生存の公表で動かせる人間につくか、英雄母子とポッター家の後継、そしてその味方であろうセブルスにつくか。

 

 結局、ルシウスの中で選ばれたのは、後者であったらしい。

 

 大人組が難しい話に興じている間、子供たちが仲良くなっていたのも、大きな理由であったのかもしれない。

 

 大事な一人息子から折角できた友達を取り上げるのもやりにくかったのだろう。

 

 ドラコは一応、クラッブ家とゴイル家の子息たちと親密にしていたが、いまいちおつむの弱い子供たちに物足りなさげにしていたため、同い年くらいで利発なメイソン姉弟が新鮮であったに違いない。

 

 加えて、一見マグルのヘザーが、予知や察知能力の特化型のスクイブというのも、利用価値があったのかもしれない。それに、ドラコを救うきっかけになったのもあっただろう。

 

 いずれにせよ、ルシウスは元ポッター母子とセブルスの後ろ盾の一つとなることを決めてくれたのだ。

 

 完全に信用は難しいにしても、これは大きな収穫だった。

 

 ルシウスの存在に、リリーは最初こそひどく複雑そうな顔をしたが、自分が逃げる手助けをしてくれたセブルスやレギュラスの存在を思い出したらしい。

 

 加えてこの9年で様々なことを考えたのか、亡き夫の学生時代の所業を謝罪した。これにはむしろ、ルシウスの方が面食らっていたほどだ。

 

 そして、怪物邸騒動の時の助力には素直に感謝を述べた。ただ、ひそかに警戒はしているようだった。

 

 

 

 

 

 一方で、クリスマス休暇に、セブルスはルシウスから呼び出された。

 

 本当はすぐにでも問い詰めたかったであろうに、ルシウスもホグワーツの理事でもあるので、学校の方に問題が生じないようにと、気を遣ってくれたらしい。

 

 呼び出されたマルフォイ邸で、難しい顔をしたルシウスにさっそく問い詰められた。

 

 「あの武器は何だね?杖はどうしたのだ?いつから魔法使いを辞めたのだね?

 

 それから、急に姿を消すなど、一体何なのだ?“姿くらまし”とは明らかに系統の違う魔法だろう?」

 

 やめようと思ってやめれるような気軽なものだろうか、魔法使いというものは。

 

 さすがにヤーナムのことすべてを白状するわけにもいかなかったので、世界一周(グランドツアー)中に手に入れたアイテムや、知り合った人々の影響だ、ハリーは断じて関係ない、とだけ伝えた。

 

 その一方で、ルシウスは気が付いていた。奇怪な武器をマグルのごとく扱う、黒ずくめ。その様子に、ルシウスとて気が付かないものがないわけではなかった。錯乱したとされたリリー=ポッターの証言は、当時、日刊預言者新聞の一面記事をにぎわせたのだから。

 

 あの騒動を目の当たりにするまでのルシウスであれば、バカバカしいと一顧だにしなかっただろう。だが、あの時のような動きをするセブルスであるならば、あるいは。

 

 ルシウスも難しそうな顔をしていたものの、やがてため息交じりに質問を止めてくれた。

 

 友人だから。先輩後輩だから。だからすべて話して分かち合うことはない。ルシウスだってセブルスに話してないことはたくさんある。その逆もまた。お互いそれがわかっていたから、話さずに済ませることにしたのだ。

 

 闇の帝王を、真に屠ったのは誰か。

 

 ルシウスは、らしくもなく、その正体を察しそうになるのをやめた。別段、わからなくても支障はない。今までそうだったのだ。これからも、そうだ。

 

 セブルスは、ルシウスの親しい後輩であり、理解者である。それで充分である、と。

 

 セブルスが、一番大事な部分は変わってないのは(リリーとその息子を保護していることからも)、ルシウスの目には明白だったからだ。

 

 ただし。

 

 まだ何か、ルシウスの目に余る異変があるようなら、ルシウスはセブルスを切り捨てる。彼には、何よりも家族が大事だからだ。

 

 もちろん、そんなことはセブルスもわかっている。

 

 純血貴族と付き合うというのは、そういうことでもあるのだ。

 

 なお、セブルスの方もヴォルデモートに内臓攻撃を仕掛けて殺害したことや、分霊箱関連のことは、ルシウスに感づかれているとわかっていてなお、まだ話していない。

 

 いくら元ポッター母子の味方に付いてくれたとはいえ、まだルシウスを巻き込んでもいいものか、踏ん切りがつかなかったのだ。

 

 

 

 

 

 さて、そんなこんなで一年経過し、当初の予定通り、セブルスは無事スラグホーンから引継ぎを終えて、正式に魔法薬学教授兼スリザリンの寮監となった。

 

 貴族出身者が多く、純血を重んじる気風のあるスリザリンは、生半な相手では軽んじられるだろうが、そこはセブルスである。

 

 脱狼薬の改良や、欧州魔法薬学連盟の会員であることや、ケンブリッジをスキップ卒業したことを前面に押し出し、なめてかかろうとする学生たちを黙らせる予定だ。

 

 

 

 

 

 なお、当初にして最大の目的たる分霊箱はまだ見つかっていない。

 

 ホグワーツには、隠し通路が山ほどあるが、大体は管理人のフィルチが知り尽くしてしまっている。だが、きっと、他にも彼でも把握しきれない通路や隠し部屋がある可能性がある。

 

 そして、そこに分霊箱が隠されている可能性も、否定しきれない。

 

 なぜなら、ヴォルデモート卿は一度教職を求めてホグワーツに来ている。採用は見送られたらしいが、それでも彼はホグワーツに何らかの執着を抱いているとみるべきだろう。

 

 だとしたら、そこにいられない自分の代わりに、その魂の断片を収めた分霊箱を置いていったとしても、おかしくはない。

 

 それが、どこにあるかは、まったくわからないのだが。

 

 さほど急ぐことでもあるまいと、セブルスは焦らずに教職に慣れることを優先することとした。

 

 

 

 

 

 さて、そんなこんなの記念すべき正規教授生活一年目に入る前の夏休み、再びルシウスに呼び出されたセブルスは、近況報告を兼ねた食事会をすることとなり、そこで神妙な口調のルシウスに――彼としては、近況報告より、こちらが本題だったのだろう――息子のことを話し出された。

 

 貴族の子息らしく、気位高くあれと教育されたが、それでも繊細なところのある一人息子が心配でたまらないらしいルシウスは、セブルスに息子をくれぐれも頼む、と直々に頭を下げてきた。

 

 セブルスとしても、かわいがってくれた先輩の頼みは聞いてやりたいので、ひいきにならない程度に目をかけると約束した。

 

 えこひいきは自他のためにならない。ダンブルドアは反面教師にはなった。

 

 

 

 

 

 リリーの息子となるハリー=メイソンJr.もホグワーツ入学になるのだった、と改めて実感したのは、ブラックウッド郵便配達員から届けられた手紙を読んだときだ。

 

 最初は、入学時期になったらアメリカに再度わたって、イルヴァモーニー(アメリカの魔法学校)に入学する予定だったのだが、諸事情あって結局ホグワーツに入学となったのだ。

 

 リリーは最初こそ、どうにか逃れる手立てはないか模索しまくったらしいが、あまり露骨に嫌がるとその方が目をつけられかねない、と周囲に言われ、さらにはジュニア本人の強い希望もあって、やむなく折れることになった。

 

 校長は、自分の計画のためなら善意を盾に人の気持ちを平然と踏みにじって利用してくる無自覚エゴイストだから、絶対近寄っちゃダメ、とリリーはジュニアにコンコンと言い聞かせていた。グリフィンドールに入ったら絶対目をつけられるから、あえてスリザリンに入りなさい!友達もいることだし!とも言っていた。

 

 その後届けられたハリーとリリー二人分の手紙から、ジュニアにもホグワーツからの手紙が届き、マグルのジュニアハイに進学予定のヘザーが羨ましがっているのをなだめた、ジュニアの学用品の買い出しはリリーから場所を聞いてハリーが付き添って、ジュニアの友人もともにいくことになったと書かれている。

 

 ヘザーの方にも、進学祝いでお手製の魔法を込めたお守りを送ったが、ジュニアにも何か送らなければ、と思う。

 

 時々食事会や、誕生日やクリスマスなどの行事パーティーの際にたまに会っているから知っているのだが、ジュニアは忌々しい彼の血縁上の父親には、パッと見はあまり似ていない。

 

 黒髪はツヤツヤで少々カールしている程度だし(魔法薬学が得意なリリーが、癖毛矯正用のシャンプーを手ずから調合したためらしい)、子供らしく細身ながらもふくふくした体格は、セブルスの幼少とは比べ物にならず、親に愛されたのだと見て取れる。眼鏡はなく、緑の瞳はリリーそっくりで、セブルスはジュニアの一番のチャームポイントだと思っている。

 

 ・・・ただし、顔立ち自体はジェームズによく似ていた。おそらく、さらに成長すれば、さらに似てくるに違いない。抑え気味になったくせ毛と眼鏡がないから、パッと見は分からないだけだ。

 

 正史というべき、原作のハリー・ポッターは、額の稲妻型の傷跡、鳥の巣のようなくるくるの黒髪、丸眼鏡をかけた、鶏がらのようなやせっぽちのチビなので、それとは似ても似つかない。

 

 もっとも、セブルスは知る由もないのだが。

 

 後日、セブルスはジュニアに、初心者向けの魔法薬学の書籍――セブルスも学生時代によく読んだものを進呈した。調合のコツなども載っているので、魔法薬学が苦手なら、重宝するかもしれない。

 

 そして、そのお礼の返信にて、ハリーとリリーからジュニアのことをくれぐれもよろしく頼む、と書かれていた。言われるまでもない、とセブルスはひそかに誓った。

 

 ・・・本人はあずかり知らぬことだが、セブルスはメイソン一家からは、近所、あるいは縁戚の頼れるおじさんポジションであった。

 

 

 

 

 

 ハリー=メイソンJr.こと、旧姓ハリー=ポッターの扱いについて、ここで少し、補足しておこう。

 

 ポッター母子が、セブルスとレギュラス二人の力を借りて、アメリカ、ポートランドのメイソン宅に転がり込んだ後のことだ。

 

 以前記述したと思うが、リリー=ポッターの証言――“例のあの人”を、マグルの奇妙な武器で殺した黒ずくめについては、まったく重要視されていない。錯乱中の人間の妄言扱いされている。

 

 ダンブルドアは予言を重要視していて、そんなことあるわけがないと切って捨てていたようで、周囲はそのダンブルドアを妄信してしまっていたからだ。

 

 そしてこれが一番大きい理由だが、魔法使いの常識というのもあった。マグルが魔法族に勝てるわけねえだろ、と。野蛮な武器?はいはい、鉄砲とかね!盾の呪文使えば簡単じゃないか!という感じで、大半の魔法族はマグルとその使用道具を見下していたため、ありえないと判断した。

 

 ゆえに、“例のあの人”は何らかの理由でポッター家周辺で虐殺行為を行った後、ポッター母子を殺そうとしたが、何らかの手段で返り討ちに遭い、力を失って逃亡、それを成し遂げたリリーはその時に錯乱した、というのが世間の認識なのだ。

 

 日刊預言者新聞を始めとした各メディアもそれに沿った報道をしてしまったのが、さらに拍車をかけてしまったのだ。

 

 さらに付け加えると、のちにダンブルドアはリリーは錯乱していなかった、と訂正に動いたのだが、大部分の人間が「可哀そうに、ご自分を責められて・・・」と彼を気の毒がって、死後もリリーは錯乱していたという汚名が着せられたままである。

 

 当のリリーはこれに関しては、「しょうがないわよ。魔法界の人たちって、新聞とかのいい加減な情報を自分たちの都合のいいように解釈したがるところあるもの。ゴシップとか大好物ってところもあるし」とコメントしていた。

 

 その緑の目は、豚って飛べないのよ?飛べるって信じるなんて、馬鹿よね?というかのような冷たい眼差しをしていた。

 

 

 

 

 

 話を戻す。

 

 10年前、リリーは息子と引き離されそうになったので、隙をついて逃げたといったが、その後、当然ダンブルドア旗下の“不死鳥の騎士団”(ダンブルドアによって説得済み)は保護という名目でポッター母子を探し回った。

 

 それだけではなく、勝手に失踪届けも出して、魔法省の力も借りて、二人を探し回っていたのだ。赤子をつれた若い女、しかも後ろ盾もなしである。すぐに見つかるだろうと、当初は楽観視されていたが、時間が経過するにつれて、どんどん焦りとなっていき、焦りは絶望へと変わっていった。

 

 まさか、死喰い人の残党の手にかかったのでは?という疑惑が持ち上がってきたころだったのだ。

 

 リリーがロンドンの一角で見つかったが、保護されるのを拒否して、赤ん坊ともども自爆した。

 

 ホグワーツの入学名簿からハリー=ポッターの名前が消えたことからも、間違いなく死んでいる。

 

 実際は、この名簿はイギリス国内に住む、入学条件を満たした子供(一定以上の魔力を保有する、対象年齢者)が載るよう条件付けされているので、国外に移り住めば対象外となる。すなわち、ハリー=ポッターの名前は対象外になったにすぎない。

 

 加えて、リリーが再婚したことも相まって、もし載るとしても、ハリー=メイソンJr.に改名されることにもなる。実際、メイソン一家がイギリスに移住してきた後には、ハリー=メイソンJr.の名前は載ったのだ。ハリーという名前が凡庸で気づかれなかった上、ジュニアとついた以上、父親と同名の可能性が高く、まず別人だろうと判断されただけで。

 

 とにかく、ハリー=ポッターの消失についてはホグワーツの教職員は大騒ぎだった。ダンブルドアも、はた目には泰然としているように見えたが、内心では激しく動揺していたに違いない。

 

 加えて、自爆事件後に魔法省から戻ってきたダンブルドアが一気に10年ほど老け込んでいるようなありさまになっており、職員一同で驚愕した。

 

 きっと、みすみす二人を死なせてしまったことにショックを受けているのだろう、と職員一同の間で結論が出ていた。

 

 

 

 

 

 以上の状況は、セブルスもルシウスとの会食の際に、時々聞かされており、知っていた。

 

 この頃には、自分が予言を破壊してしまったという状況について、薄々とそうなのかもしれない、と自覚してきていた。10年以上経ってようやっと、この始末である。

 

 さて、長くなってしまったが、要するに、ダンブルドアは予言が失われ、ヴォルデモートを確実に倒す手段の喪失を憂いているようだった。

 

 だからと言って、彼があきらめるとは到底思えない。ジュニアことハリーJr.のことはばれてないにしても、何らかの手段を講じてくる可能性がある。(ハリーJr.は自分の出生について知らない)

 

 肝心のヴォルデモートは、予言が失われたことは知らないのだ。ヴォルデモートが知らないことを、ダンブルドアは逆手に取って動く可能性があるのだ。

 

 確実に、何か面倒が起きそうだと、セブルスは嫌な予感を感じずにはいられなかった。あるいは、彼の脳にある瞳がそう囁いてきたのか。

 

 案の定、入学式を1週間前に控えた、教職員の打ち合わせ期間にて、とある厄介ごとの片棒担ぎを依頼されたセブルスは、深い溜息をつくこととなった。

 

 本来の目的(分霊箱探し)がどんどん遠のいていくような気がするのは、セブルスの気のせいではあるまい。

 

 

 

 

 

 さて、入学式である。

 

 満天の星を透かす天井と、そのすぐ下に浮かぶ何千何百もの蝋燭の下、大広間にある教員席に座り、入場してきた大勢の新入生――真新しい制服をまとった一団を、セブルスは目を細めて眺めていた。

 

 全く懐かしい。自分もかつてはあそこにいたのだ。幼馴染のリリーもともに。

 

 例年通り、すでに寮ごとのテーブルに分かれている上級生に対し、別に入ってきた新入生は組み分け帽子での組み分けを受けて、選ばれた寮のテーブルへ向かう。

 

 若き日のルシウスに非常によく似ているドラコ=マルフォイ――ルシウスの息子は、即行でスリザリンに組み分けされていた。やはり血だな、とセブルスは思う。

 

 などと、彼がぼんやりと思っているうちに、組み分けは進んでいく。

 

 ハリー=メイソンJr.の番が来た。性格的には、乱暴ではあるが優しく家族思いの姉のヘザーの影響を大きく受けているようだ。負けん気の強いところはグリフィンドールだろうか?だが、手段を選ばない強かさはスリザリンらしいだろう。

 

 そうセブルスが思いながら見ていると、帽子はしばらくぼそぼそとジュニアと話し合った後、「スリザリン!」と叫んだ。

 

 なるほど。そういえば、ハリーも必要なら手を汚すのは厭わない狡猾さを持っていた。加えて、母親の方からも言われていれば、スリザリンにもなるだろう。

 

 ジュニアは満足げに帽子を脱いで、セブルスをちらりと見て小さく微笑んで見せると、そのままスリザリンの席に向かって歩いて行った。

 

 事前に、えこひいきはしないし、公私の区別はつけるので学校では先生と呼ぶように、自分もMr.メイソンと呼ぶと通達をしていたので、それでだろう。

 

 なお、ダンブルドアを始めとしたほかの教職員はジュニアには気が付いてないらしく、それよりも別の生徒に注目しているようだった。セブルスとしては、ジュニアにちょっかいを出さないなら勝手にやってくれ、というところだ。

 

 さて、そのまま順調に組み分けは進んで、無事終了した。セブルスの視点では、その他特段注目すべき事柄はなかったので、細かな描写は省かせていただく。

 

 そうして、組み分けが済んだところで、ダンブルドアが立ち上がり、新入生に祝福と歓迎の意を述べ、続いて新任教授の紹介に移る。

 

 「さて、歓迎の宴に入る前に、諸君らに新任の教授を紹介しておこう。前年まで在籍されていたスラグホーン教授が隠居されることになり、正式に教授になった、セブルス=スネイプ教授じゃ」

 

 立ち上がって優雅に胸に手を当てての一礼――“狩人の一礼”をするセブルスをよそに、ダンブルドアは彼のことを紹介する。

 

 「スネイプ教授はケンブリッジの魔法薬学部をスキップで卒業し、欧州魔法薬学連盟の名誉会員であり、脱狼薬の改良など、数々の新薬を学会に発表されておる優秀な魔法薬学者じゃ。授業では、魔法薬学を受け持つことになっておる。

 

 また、スリザリンの寮監も受け持つ。何か困ったこと、わからないことがあれば、いつでも教授を頼るように」

 

 なるほど、家柄や功績を重視するスリザリン生には有効な紹介方だ。

 

 内心感心するセブルス。ただし、注目を浴びるのは少々居心地が悪いと思った。

 

 自覚はしてなかったが、セブルスは非常に目立った。狩人として身につけた経験・貫禄、歴戦の戦士としての気迫、それらを身にまとい、生来持つ物静かな空気を融和させた彼は、もともとの端正な容姿と独特の狩装束が相まってどこか浮世離れした空気を纏うようになった。

 

 彼が座ったところで、代わって隣に用意されていた椅子に座っていたメアリーが立ち上がる。

 

 「メアリーじゃ。スネイプ教授の持ち物の人形ということじゃが、意思を持って動き、しゃべることができる。主にスネイプ教授の授業の補佐をするそうじゃから、教授同様に頼るように」

 

 「初めまして。ホグワーツの皆様。私は人形。セブルス様からはメアリーと呼ばれております。

 

 微力ながら、皆様の学業のお手伝いをさせていただきたく思います」

 

 スカートをつまんで一礼してから、淡々と、しかしゆったりと話すメアリーを、大勢が注目し、一部の新入生はひそひそと話している。やはり、メアリーのような人形は規格外なのだ。

 

 ダンブルドアにもしつこく出処を聞かれ、セブルスは大陸で手に入れた、元の工房や作り手については知らないとごり押した。

 

 まあ、精神汚染や命の危険迫る闇のアイテムではない。むしろ、とっても役に立つ、忠実な家人だ。それがわからないとは、哀れなことだ。

 

 そうして、メアリーが座ったところで、最後に頭に巻いた大きな紫のターバンがことさら目立つクィレル教授が立った。

 

 「今年度から『闇の魔術に対する防衛術』を受け持つことになったクィレル教授じゃ。教授はロンドン大学の禁忌魔術学部を優秀成績で卒業されておる、秀才じゃ」

 

 「よ、よろしく、お願いします」

 

 たどたどしく、そして奇妙な笑みを浮かべる彼(去年までマグル学の教授であったはず)に、セブルスは表情にこそ出さなかったが、懸念の視線を向けた。

 

 一つ鼻を鳴らし、セブルスは思う。この男、にんにく臭いが、ごくごくわずかに腐臭を感じる。去年にはなかったものだ。・・・確か、夏季休暇前に“闇の魔術に対する防衛術”を受け持つにあたって経験を積むべく、アルバニアに行くとか言っていたような気がする。それが原因だろうか?

 

 狩人の鼻を馬鹿にしてはいけない。血の臭いの中に、腐臭と冒涜、啓蒙を嗅ぎ取るのが、狩人なのだ。

 

 要注意人物と、脳内でリストに書き加え、セブルスは視線を前に戻した。

 

 しかしながら、クィレルは実に気の毒であった。

 

 鉤鼻ではあるが、整った顔にクールな雰囲気のセブルスと、美少女そのままの造形で動いてしゃべる人形のメアリー。

 

 インパクト抜群二人の後の変人(セブルスは見た目にはわからない)は、非常に気の毒である。

 

 案の定、大半の生徒はあいさつするクィレルを無視してセブルスとメアリーに好奇と情熱をまぜこぜにした視線を飛ばしている。

 

 「では、長々とすまなかったのう。食事にするとしよう!」

 

 ダンブルドアが大声で叫んだ。いつの間にか、目の前にある大皿が食べ物でいっぱいになっている。

 

 本日は歓迎の宴ということなので、味の濃い食事を我慢しなければ、と思いながら、セブルスは食べ物でいっぱいになった大皿に視線を落とした。

 

 上位者であれど、人間の中で暮らすならば、ある程度協調性は重んじるべきだろう。

 

 

 

 

 

 ずいぶん見られている。

 

 濃い味付けのマッシュポテトを食べながら、セブルスは思う。

 

 大方、新任教授が珍しいだけだろう。すぐに飽きるにちがいない。

 

 やはり濃い味付けは好きになれない。食事はエネルギー補給ではなく、娯楽に近いのだから、余計に好みの味を恋しく思う。

 

 とりあえず、自室に戻ったら、メアリーに紅茶と茶菓子を出してもらうとしよう。口直しがしたい。

 

 「あ、改めまして、す、スネイプ君・・・いいえ、スネイプ教授」

 

 話しかけてきたのは、クィレルである。ちなみに、彼はセブルスと在学期間が重なっていたことがある。ただし、寮も学年も違ったうえ、セブルスはスリザリンのいじめられっ子であったため、そういう人もいると一方的に見知られただけである。

 

 そして、例にもれず記憶に疎い上位者のセブルスは、クィレルを馬の骨扱いして、まったく覚えていなかった。

 

 「お、同じ教授職に就けるとは。そ、卒業する前に、学校からいなくなられたとか、どこに行ったのかとか噂に、なってたんですよ」

 

 どもりながら、おどおどと言ったクィレルに、セブルスは淡々と返した。

 

 「そうですか。どこぞで野垂れ死んでいるとでも吹聴されていたことでしょう」

 

 主にポとかシから始まるアホどもによって。

 

 「そ、そんなことは・・・」

 

 「どうでしたかな?ミネルバ」

 

 「・・・セブルス、こっちのポークチョップもおいしいですよ?」

 

 必死に話題をそらそうとしたマクゴナガルに、しかしセブルスは冷酷に事実を語る。

 

 「かまうことはありません。死ねだのよそ者だの消えろだの、よく言われて嘲笑われました。今更多少のことはへでもありませんな。

 

 さて、ホグワーツの学生諸君が、あれよりお手柔らかだとよいですな、クィレル教授」

 

 「セブルス、ここは大広間です!入学式の宴です!お願いですから、そんな新入生の希望を打ち壊すことを言わないでください!」

 

 必死にマクゴナガルが窘めようとしている。

 

 なお、マクゴナガルの懇願は全くの徒労に終わっている。なぜなら、セブルスは最初から教員席と生徒席を遮断するように耳塞ぎ呪文(マフリアート)で音の壁を作り上げていたからだ。

 

 別に生徒を気遣ったというわけではなく、その逆でスリザリン生たちに舐められる材料を与えたくないためだ。

 

 ただ、何を話しているかわからなくても、マクゴナガルが泣きそうな顔でセブルスに何か懇願しているのは、見える。

 

 「マクゴナガル様。糖蜜パイです。どうか落ち着いてください」

 

 「ああ、メアリー、あなたはいい子ですね・・・。あなたの主人はどうにかならないのですか?ホグワーツに在学していたころは、ここまでやさぐれてはなかったと思うのですが」

 

 「? どうにかとは、どういうことでしょう?

 

 私は、どのような方であっても、か・・・セブルス様を愛しております。

 

 被造物が、造物主を愛するのに、そのありようは関係ないのではないでしょうか」

 

 糖蜜パイの載った皿を受け取りながら涙ぐむマクゴナガルに、メアリーは淡々と答えた。

 

 やはり彼女は素晴らしい。手放せない、貴重な存在だ。

 

 忠実にして麗しくかわいらしい人形を内心で賛美しながら、セブルスは黙々と食事を続けた。

 

 すでに最初に話しかけてきたクィレルの存在はどうでもよくなっていた。

 

 「ふむ。メアリーや。お主には愛があるのじゃな。すばらしい。どうか、その愛でセブルスを支えてやるのじゃ」

 

 そして、メアリーの語る愛に鋭く反応した、愛語り大好きのダンブルドアによる愛の説法すら、スルーして見せた。

 

 「支える・・・?

 

 お言葉ですが、ダンブルドアさま。もとより私は、セブルス様を微力ながらお支えするための存在です。

 

 そこに、愛があろうとなかろうと、何一つ、変わりません」

 

 律義にメアリーが相手にしているのにはカチンときたが、セブルスは面にも出さずに、メアリーに糖蜜パイを取ってもらうべく、名前を呼んだ。

 

 なお、他の教職員も銘々好きなように食事したり、話し込んだりしており、涙ぐむマクゴナガルを非常に気の毒なものを見る目でチラチラ見ていた。

 

 ・・・マクゴナガルは、最近一気に白髪の数が増えてきたので、毛染めの魔法薬に手を出し始めたというのを、セブルスだけは気が付いていたが、何も言わなかった。

 

 彼女はどうして、ああも神経質なのだろうか?

 

 

 

 

 

 「エヘン。――全員よく食べ、よく飲んだことじゃろうから、二言、三言、言いたいことがある」

 

 きれいにデザートまで食べ終えたころ、ダンブルドアが立ち上がり、広間を見回して言った。

 

 広間中が静まり返る中、ダンブルドアは話し出した。

 

 「新学期を迎えるにあたり、いくつかお知らせがある。

 

 一年生に注意しておくが、校内にある森に入ってはいけません。

 

 これは上級生にも、何人かの生徒達に特に注意しておきます」

 

 ここでダンブルドアは、双子のウィーズリーを見た。

 

 「管理人のフィルチさんから授業の合間に廊下で魔法を使わないようにという注意がありました。

 

 今学期は二週目にクィディッチの予選があります。寮のチームに参加したい人はマダム・フーチに連絡してください。

 

 最後ですが、とても痛い死に方をしたくない人は、今年いっぱい四階の右側の廊下に入ってはいけません」

 

 『・・・』

 

 ごく少数の生徒が笑ったが、みんな大真面目に聞いていた。

 

 ギャグにしては詰まらないな、とセブルスは思う。

 

 “危険だから”ではなく、“とても痛い死に方”するからダメなどという奴があるか。

 

 その理屈だと、マゾな自殺志願者なら入ってよいという結論になる。

 

 そこにあるものを言わずにただ入るなとは、好奇心をくすぐる話でもある。

 

 他の生徒も多少は興味を示したのだろう、ひそひそという声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 これがヤーナムで、セブルスが何も知らない狩人であれば、愚かな好奇の導くままに、甘い秘密をむさぼりに行っていたところだ。

 

 ちょうど、“狩人の悪夢”を踏破して見せた時のように。

 

 あの道のりこそ、真にマゾな自殺志願者御用達だろう。セブルスも数えきれないほど遺志を落っことした。

 

 ごちゃまぜ廃墟群、死体廃棄場からの牢獄、実験棟、時計塔からの漁村。そして、各所に配置された獣と古狩人、とどめとばかりのゴースの遺子。

 

 まさか、あれ以上のハードコースをホグワーツに設置したつもりなのだろうか?(片棒担ぎをしたセブルス自身は、そうでもないつもりだが)

 

 いたいけな生徒の大勢いる学び舎に、そんなものを設置するなんて、廃校になったビルゲンワースでもなかったように思う。

 

 ダンブルドアの耄碌ぶりは、出奔してからさらに悪化したらしい。

 

 セブルスは、とうとう彼を気の毒に思い始めた。聖マンゴで認知症のリハビリを受けるべきかもしれない。

 

 

 

 

 

 「さあ、諸君、就寝時間。駆け足!」

 

 そんなセブルスの内心をよそに、存在意義を疑うメロディーがばらばらの校歌斉唱を終え、校長が言うや、生徒達は一斉に立ち上がった。

 

 各寮の一年生は監督生の案内で寮に向かう。寮の入り口は魔法で閉ざされており、専用の手順(グリフィンドールとスリザリンは合言葉制)で開くようになっている。

 

 スリザリンの入り口は地下だった。セブルスの在学時代から何一つ変わってない。

 

 談話室に立ったセブルスは改めて自己紹介とあいさつをし、何か質問はと尋ねた。

 

 「質問、よろしいですか?」

 

 「君は?」

 

 「6年生のフレデリック=ナウマン、監督生です。改めてお尋ねしますが、スネイプ教授は純血でいらっしゃいますか?」

 

 「質問に質問で返すのは愚かなことだが・・・それは私がスリザリンの寮監として認められていることを念頭に置いて考えての質問かね?」

 

 チロリとセブルスがナウマンを見やると、彼はビクッと肩を揺らして姿勢を正すと強張った声で答えた。

 

 「いいえ!愚問でした!大変失礼しました!」

 

 無理もない、と誰もが思った。

 

 何しろその質問を投げかけられるや、セブルスが纏う怜悧な気配が一層鋭くなったのだ。例えるなら、鞘にしまってある剣が引き抜かれるような気配であったのだ。平穏な世界しか知らない子供から見れば、そんな彼の空気の変化は十分怯えるに値するものであったのだ。

 

 もっとも、これでもセブルスにしては十分すぎるほど加減したそれだったのだが。

 

 「結構。他に質問は?」

 

 生徒たちを見回し、セブルスは挙手がないのを確認し、口を開く。

 

 「よろしい。それでは解散とする。皆疲れているだろうから、早急に休むように」

 

 そう言って、セブルスは漆黒のインバネスコートの裾を翻して談話室を後にした。

 

 とりあえず、舐められることは避けられたようだ。

 

 スリザリン寮の生徒たちは総じてプライドが高いから、一度力関係を認識させることができれば、後は掌握できるだろう。

 

 とはいえ、全てはこれからである。

 

 

 

 

 

続く

 




【ハリー=メイソンJr.の杖】

 ハリー=メイソンJr.が愛用する、長さ28センチの杖。

 不死鳥の羽に、ヤマナラシが用いられている。

 不死鳥フォークスの羽が入った柊の杖は、彼を選ばなかった。予言は破られ、生き残った男の子は失われた。

 しかしそれでも、戦いを運命づけられた彼に、ヤマナラシの木が応えたのだ。





 ハリー=メイソンJr.は、ジェームズ=ポッターとぱっと見あんまり似てなかったから、気が付かれなかったよ!他人の空似って思われたんじゃないかな!





 次回の投稿は来週!外伝「よもやま十年詰め合わせ」になります。

 実は、プリンス家とかアグラオフォティス関連の話はだいぶ短くなってしまったので、他の話も合わせて、小話集という形にします。お楽しみに!

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