それでは、外伝をやっていきます。
ちなみに、カプリッチオと題されているのは、基本1話形式としていますが、インテルメッツォは小話集として区別をつけます。ご了承くださいませ。
お品書きはこちら。
①[アグラオフォティスのあれこれについて]
②[プリンスの血統 ~貴族は辛いよ~]
③[貴族と作家 百合と狩人をはさんで]
以上、3本立てとなります。
[アグラオフォティスのあれこれについて]
※第1楽章6冒頭、メイソン宅の引っ越し終了後。
その日は、セブルスはダイアゴン横丁の一角にある薬問屋を訪れていた。
相も変わらず悪くなった卵と腐ったキャベツの入り混じったような悪臭のする店内を、セブルスは平然と進んでいた。
この程度、血と獣臭に満ち満ちたヤーナムや、もっと風通しの悪い聖杯ダンジョン、錆による鉄臭と焦げ臭さも大量付随のサイレントヒルや、死臭の満ちた羽生蛇村の数倍、マシである。
無理を言って注文していた品が届いたそうなので、取りに来たのだ。
こんなもの何に使うんだい?と胡散臭そうな顔をしながら注文の品を差し出した店主に、セブルスは相場の倍額を支払い、店を後にした。
この品の価値をわからないとは、哀れな男だ。あるいは、わからなくても支障はない=まともに生きて居られているということでもあるので、幸運であるのか。
そう思いながら、セブルスは帰宅した。
セブルスが手に入れたのは、デザートローズというアラビア砂漠でのみ自生する薬草である。無理を言って、鉢で一株丸ごと取り寄せてもらったのだ。
通常、デザートローズというのはバラの花状の鉱物のことを指す。その複雑な形状から、多くのマグルの間で標本や観賞用として取引されているとのことだ。
だが、魔法族の間でのデザートローズは全く違う。文字通り、砂漠に咲くバラなのだ。ただし、その存在は極めて希少であり、人工栽培に成功したものはほとんどいない。
更には、これがきわめて強力な霊薬の材料となるなど、あまり知られておらず、魔法族の間でも観賞用として取引される始末である。
その霊薬の名は、アグラオフォティス。
邪悪を払う、神殺しの霊薬である。
かつて、セブルスがハリーとともに訪れたサイレントヒルで、このアグラオフォティスを入手したカウフマンは、それを生誕したばかりの“神”に使い、大幅に弱体化させた。母体となったアレッサ自身の抵抗もあったのだろうが、この霊薬の効力も大きかった。
そして、先日の騒動――教団からの襲撃があったことからもわかる通り、アレッサの転生体ともいえるシェリル――ヘザーもまた、神の因子を受け継いでしまっている可能性が高い。
となれば、再び“神”が現れた時に備えてこの霊薬を手に入れておきたい、どうにかならないだろうか。そうセブルスに持ち掛けてきたのは、引っ越してから間もなくのハリーからの手紙だった。
だが、ハリー=メイソンも、セブルス=スネイプも、両者ともにこの霊薬は持っていないのだ。
正確には、ハリーは霊薬を一度は手に入れたが、操られたシビルという女性警官を助けるために使ってしまい、なくなってしまったのだ。辛うじてハリーが持ち歩いていた霊薬を入れていたボトルに、ほんの数滴残っているだけだった。とてもではないが、足りない。
そこで、セブルスは魔法界の書籍――古い伝承や、魔法薬学の書物を漁り、どうにかアグラオフォティスの名前と、その原料、レシピを探りだした。だが、その大部分は失われ、手探り同然に作らなければならないらしい。
面白い。
魔法薬学者としての好奇心と探求心が疼く。邪払いの霊薬、神殺しの秘薬を、この手で再現する。
それが、友人の助けにだってなる。
挑戦しない理由の方がない。
少々てこずりはしたが、どうにかアグラオフォティスは出来上がった。
ハリーから分けてもらった、アグラオフォティス現物(数滴分)のと比べても、間違いはない。
ただ、鉢植え一株のデザートローズから調合できたのは、ほんの少し――錠剤化呪文でさらに縮小したら、小ぶりなピンポン玉ほどになってしまったのだ。
とはいえ、これで現状、セブルスができることはやり切った。あとはハリーの采配に託すだけだ。
いつもの胡散臭い郵便配達員に、くれぐれも確実に、と念押しして、厳重に梱包したアグラオフォティス入りの小包を託す。
魔法で封をしたそれは、名前を書き込む欄のところに、ハリーが直筆でサインをして、拇印を押せば開くという仕組みだ。サイレントヒルの七面倒な謎ときと比べれば、だいぶ優しいはずだ。
出来れば、使う時が来なければいい。セブルスはひそかに、そう思う。
それから数日後、ヘザーは父親からお守りと称されて、球状のロケットの付いたペンダントをもらい、首からさげることになる。
[プリンスの血統 ~貴族は辛いよ~]
「無理です。どうかお引き取りを」
「何を言うのだね!一体何が不満なんだ!もはやお前しかいないのだ!セブルス!」
無表情で首を振るセブルスと、それに縋り付くように声を張り上げる品のいい老紳士を、二人が挟むテーブルの側面にあるソファに座る格好でいるルシウスは、己の斜め後ろに立つ男を蹴りつけてやりたい衝動をこらえながら眺めていた。
まったく、余計な事をしてくれた、と。
ルシウス=マルフォイは、聖28家にも名を連ねるマルフォイ家現当主であり、純血名家の大家として、他の寄り子たちをまとめる役――いわゆる寄り親も果たしている。
魔法界の貴族制度は、聖28家、さらにその他純血名家各家、さらにさらにその他、という順でピラミッドを構築している。はっきりとそう階級わけされているというわけではないが、暗黙のルールという奴である。
つまり、ルシウスは魔法界上層部の階級者として、下の者たちを束ねているのだ。
そこには、死喰い人の活動にもともに従事したクラッブ家とゴイル家も含まれている。
ちょうど息子と同い年の子息もいることだし、将来は息子を支えてくれるだろうという見通しで付き合わせているが、どうも彼らの家の子息たちはおつむの出来がよろしくないらしい。
脳みそに回すべき栄養を、脂肪に回してしまった愚か者というべきだろうか。曲がりなりにも、寄り子であり、商売仲間でもあるので、あまりひどいことは言わないのだが。
だが、子息はそうであろうと、親の方はもう少しまともだと、ルシウスは信じていた。・・・信じたかった。
数か月前、ルシウスは懇意にしていた元死喰い人仲間のエイブリーから、ちょっとしたセブルスの醜聞を聞いてしまい、彼の名誉のために胸の内にしまい込もうと思っていたのだ。(エイブリーも実に気の毒そうにしていた)
だが、それを知ってか知らずか(おそらく後者)、クラッブの当主がやらかした。
プリンス家――セブルスの母の実家がセブルスを跡継ぎにすべく探し回っていると聞いた彼は、ルシウスに無断でセブルスの居場所を知らせてしまったのだ。
純血名家たるプリンス家の後継ぎになれるのだ。これ以上ない名誉だろう!と鼻高々に報告してきた愚か者に、ルシウスはめまいがした。
あとは大体お決まりだ。仲介のクラッブとその寄り親に当たるマルフォイ家の立会いの下、プリンス家現当主(つまりセブルスの祖父)と、セブルスの、感動の対面である。
なお、ここまでの会話でプリンス家当主はホグワーツにも、セブルスの存在を探して、連絡を入れていたらしい。
セブルスは聞いたことがない、知らないと一刀両断していた。
誰が握りつぶしたかは、お察しである。
ルシウスの中で(正確にはこの場にいた全員の中で)、髭狸爺に対する不信がまた一つ増えた瞬間でもあった。
これはルシウス個人の邪推でしかないのだが、あの爺、純血貴族を撲滅したがっているに違いない。
さて、孫と祖父の感動の対面が一通り終わったところで、さあ次期当主教育を受けてもらおうか!引っ越しとかいろいろ手続き要るよね!などとプリンス家当主が一人で盛り上がって話を進めようとしたところで、セブルスが言った。
自分は名家の当主には不適格だから、他を当たってほしい、と。
実際、ルシウスもあらかじめセブルスから依頼を受けていたこともあって、プリンスの血統を調べ、だいぶ遠縁とはなってしまうが、前当主の血筋を継ぐ子供が、マルフォイ傘下の孤児院にいると調べ上げている。
そちらの子供の情報を渡し、養子縁組をそちらにしたらいい、と言ったのだが、プリンス家の当主は首を縦に振ろうとはしない。
そうだろうな、とルシウスは思う。
セブルスのホグワーツにおける成績はかなりのものだった。何とやらと紙一重のポッター&シリウスには今一歩及ばないが、魔法薬学のみの成績を見れば、ホグワーツでもトップクラスだ。
ホグワーツは中退してしまったが、今でもケンブリッジの魔法薬学部をスキップ卒業、欧州魔法薬学連盟の一員に名を連ね、若くして一級魔法薬学者の資格を持つのだ。脱狼薬の改良、錠剤化魔法開発による技術革命の立役者でもあるのだ。
その能力は十分魅力的だろう。
加えて容姿である。
彼は学生時代であれば、虐待のせいで痩せ気味で小汚く、髪はべとついて俯き猫背の、陰気な子供だった。
だが、今はやや鉤鼻ではあるが、陰のある美丈夫で十分通用する。猫背は伸びて、サラサラの長い髪を背中でゆるくくくっている。加えて歯並びも変わっていた。矯正した割に妙に犬歯の目立つ、獣じみた歯並びだとひそかに思った。
妻のナルシッサが一度今の彼を見た時に、彼女はこうこぼしていた。
「驚くようなことかしら?元の素材はいいんだから、セブルスは。気づかない方がおかしいのよ」
そしてこうも呟いていた。
「自分のことにとことん無頓着という感じだったのに、何がきっかけでああなったのかしらね?
ホグワーツで慕っていたマグル女は違うと思うけど」
と。
この手に事に関しては、存外女の方が鋭かったりするのだ。ルシウスは妻の貴重な意見を胸の内にとどめておいた。
とにかく、中身も見た目も優秀ならば、ぜひとも後継に据えたいだろう。ルシウスが彼の立場でも、そうしていた。
だが、ルシウスはマルフォイ家の当主だ。そして、純血名家の当主である。さらにさらに、セブルスの友人である。
その3つの立場すべてが、それを反対すべきだとしている。
何より、お互いのためにならないのだから。
ひたすら沈黙せざるを得ないルシウスをよそに、セブルスを説得しようと、プリンス家の当主があれこれと話を持ち掛けている。
アイリーンの忘れ形見!ずっと探していたんだ!老い先短い祖父にどうか慈悲を与えてくれ、という泣き落としもあれば、好きな人がいるなら釣り合う身分にもなるぞ!というなかなか魅力的な提案もしてくる。
プリンスは魔法薬学で有名なので、専門の書籍も大量にある、それが君のものになる、という口説き文句にセブルスは少し心揺れたようだが、やはり平坦な口調で、お断りしますと答え続けている。
それはそうだ。セブルスからしてみれば、一時の物欲に負けたら、後が恐ろしすぎることになるのだから。
だが、セブルスの反論――半純血であることや、ホグワーツ中退であること、純粋なマグルの友人がおり、彼との交友を断つつもりがないことも、暖簾に腕押しでしかないらしい。
完全に話は平行線に陥った――ように思われた。
セブルスが、腹をくくったように、その言葉を口にするまでは。
普段よりも眉間に激しく皺を寄せ、険しいまなざしをしながら、彼は口を開く。
「わかりました。私が、プリンス家の当主を受けられない、本当の理由をお話しします」
一息ついて、セブルスは、口を開いた。
極東の国ジャパンでは昔、覚悟の度合いを示すために切腹――腹を切って見せたという。
きっと、セブルスの言葉は、その腹を切るような覚悟が宿っていた。少なくとも、ルシウスにはそう感じられた。
「私は、不能です」
一拍の沈黙。
プリンス家当主と背後のクラッブは言葉の意味を理解しかねたか、一瞬わけがわからないというような顔をした。
ややあって、スン・・・とプリンス家当主は虚無顔になった。
プリンス家当主が、遠縁にあたる子供の引き取りをマルフォイ家に申し出たのは、それから間もなくだった。
セブルスのことは、なかったことにするつもりらしい。
なお、クラッブは最後までわけがわかってない顔をしていた。何でこんな男が純血名家の当主をできるんだ。ルシウスは息子同士の交友をやめさせようか、一瞬本気で悩んだ。
ルシウスは、知っていたのだ。
道端でばったり再会したセブルスとエイブリーは、そのままお互い話し込み、男同士の社交場ということで、ノクターンの一角にあるパブもある高級娼館の門をくぐったそうだ。
そこでセブルスは一等人気の娼婦に声をかけられ、うらやましがるエイブリーをよそに、嫌がる本人は娼婦に引きずられるように、部屋に向かった。
ところが、それからしばらく、泣き腫らして目を真っ赤にしつつ、怒りで眉を吊り上げた娼婦が部屋から飛び出してきて、セブルスを散々に罵った。
内訳は、あまりに品がないため、ソフトにさせていただくが、要はセブルスはどんなに娼婦が働きかけようと、やる気を出さなかった――出せなかったらしい。いたくプライドを傷つけられた娼婦は、散々に彼を罵った。
つまるところ、中身も見た目もかなりのものであるはずのセブルスが、実は不能というとんだ欠陥が発覚したのだ。
純血名家は、家の維持が第一である。すなわち、先祖代々の遺産や魔道具の保管、企業や荘園の管理なども大事だが、それ以上に血筋を残さなければならない。
どんなに性格に難があろうと血が残せるならば、それだけでかなり許される部分があるのだ。要は、種馬にはなるからだ。
逆を言えば、どんなに優秀でも血が残せないなら、それだけで欠陥品の烙印が押されるのだ。
セブルスが不能であるというのは、男としても、純血名家当主としても、致命的だったのだ。
こうなるから、プリンス家にセブルスのことを伝えなかったのだ。
ルシウスはひそかにため息をついた。
あと、クラッブはルシウスの
ルシウスが、プリンスに黙秘していた理由を察しなかった馬鹿に付ける薬はない。
なお、セブルスは好きで不能であるわけではない。
正確には、彼にはまだ、その機能が備わっていないのだ。
セブルスは、上位者である。人間の青年姿は、あくまでその姿を取っているだけに過ぎない。本性は、上位者の赤子なのだ。
そう。上位者であっても、赤子なのだ。
赤子に生殖機能などあるわけがない。
なお、上位者が人間を孕ませられるかという疑問には、ヤーナム市民の女性たちが身をもって証明してくれた。娼婦アリアンナ、ヨセフカを名乗る偽医者、おまけで尼僧アデーラ*1。
・・・当時まだ、ピュアだったセブルスの人間性に、ガリガリと鑿を突き立ててくれた女性たちでもある。
オドンは、本当に節操がない。
[貴族と作家 百合と狩人をはさんで]
ハリー=メイソンはガチゴチに緊張していた。
ここまで緊張したのは、デビュー作を編集に見てもらった時以来だ。
「まずは、礼を述べよう。Mr.メイソン。感謝する」
「いいえ!こちらこそ、ご助力ありがとうございます!」
ゆったりと、カウチ(メイソン宅にある安物だが、今はルシウス氏の魔法で豪奢にされている)に腰かけて足を組むルシウス=マルフォイを前に、ハリーは首を振った。
リリーからの事前情報では、ガチガチの純血主義で、純マグルのハリーなど歯牙にもかけないようなお人だと思っていたのに、こうして訪ねてくるとは。
先日の、怪物邸騒動の顛末についてだ。
てっきり、手紙一つで済ませるかと思っていたのに、わざわざフクロウ便でアポを取ってから“姿くらまし”でこられたらしい。
もちろん、ハリーはめちゃくちゃ驚いた。
妻が留守だったのもあって(今日はジュニアとヘザーの授業参観だ)、ろくにお茶も出すことはできなかった(ハリーはアメリカ育ちの元アメリカ人だ。紅茶よりもコーヒー党なのだ)が、どうにかインスタントのコーヒーぐらいは出せた。
もっとも、ルシウス氏は軽く眉をひそめただけで、一切カップには手を付けない。そうだろうな、とハリーも思ったので、何も言わなかった。
ルシウス氏の話によると、あの夜は結構派手に魔法を使ったので、魔法省の役人たちが後始末に来たらしい。
もっとも、その前にネバークラッカーを連れたメイソン一家も、マルフォイ一家も退散してたので、くぼ地の中の家の残骸を見つけただけで、空振りに終わったらしい。
大方、質の悪い酔っ払いによる悪戯だろう、目撃もないようだし、マグル側でも事故として片づけられるだろう、と。
まさかルシウス氏を始めとしたマルフォイ一家や、リリーやハリーたちメイソン一家、まして爆発する金槌を振り回すセブルスが関わっているとは思ってないだろう、と。
聞き終えて、ハリーはほっとした。
「わざわざのご連絡、ありがとうございます」
丁寧に頭を下げたハリーに、しかしルシウスは真剣な表情を崩さなかった。
というより、彼はこれが本題であったのだ。
「・・・Mr.メイソン。君は何者だね?」
「はい?」
ハリーの問い返しに、ルシウスは改めて言った。
「普通、あんなもの相手にすると魔法族でも逃げ出す。あれは、我々の常識内でも規格外だ」
「え?そうなんですか?セブルスは平然としてましたから、てっきりそちらでは普通かと」
「マグルではあれが普通なのかね!」
「まさか。私はいろいろ毛色が違いまして。
リリーとセブルスが口をそろえて言うには、私は度胸はある方らしいので」
思わず顔を引きつらせるルシウスに、ハリーは苦笑して答えた。
「私は、本当に怖いものを知っていますので。それに抗うためなら、多少の障害は何ということはない、ただそれだけですよ」
「本当に怖いもの?」
「娘・・・今はもう一人増えて、子供たちというべきですが、とにかく、あの子たちを失うこと、ですね」
「血のつながりがないのに?」
「それはそんなに大事なことですか?二人とも、私のかわいい子供たちです。そこに血は関係ありませんよ。
すみません、あくまで私の勝手な価値観なんですが」
困ったように笑うハリーに、ルシウス氏はぶぜんとした顔をしていた。
魔法族全体の気風として、彼らは血を強く重んじる風潮がある。魔力は血に強く流れ、発揮されるからだ。
ゆえに、血のつながらない子供を我が子として愛する、ハリーの在り方を今一つ理解できないのだ。
しかし、そういうものか、とルシウス氏は流すことにした。
息子の友人の父親であり、先日の騒動で助力をしてくれたからだ。
ルシウス氏は、貸し借りははっきりと重んじる。商売でもそうだし、純血の誇りとしても、当然のことだと思っている。
彼は自分に理解できないものは、自分にその在り方を強制してこない限り、こちらから干渉するということはしない。
貴族というのは、時に鷹揚でもあらねばならないのだ。
「それはそうと、ドラコ君はお元気ですか?」
「・・・無論だ」
「よかった。先日の騒動の後、ジュニアが少し落ち込んでいたので、彼も大丈夫かと思いまして。
ジュニアが言うには・・・そうですね、貴族らしいけれど、先日の時はずいぶん助けられたと。それから、お父さんが大好きなのが同じだとも。
優しいお子さんですね」
にこにこと言ったハリーに、ルシウス氏は息子を褒められ、悪い気はしなかった。
ゆえに、一つ忠告しておこう、と決めた。
借りは返すのが、マルフォイだ。
コホンっという咳払いは、断じて照れ隠しではない。
「時に、ご子息の方の進学については、どのようにお考えかな?」
「ジュニアですか?そうですね・・・実は、本人からの強い要望でホグワーツに行かせるということになりまして。ドラコ君と一緒がいい、と。
妻からは猛反対があったのですが」
「あなたは何も言わなかったのか?」
「私は、正直、息子の意思を尊重してやりたい、と思いまして。
確かに、妻と息子の事情は存じています。それを加味すれば、ホグワーツは危険でしょう。アメリカのイルヴァモーニーという学校への進学も考えたのですが・・・別の事情でアメリカも行きにくいので」
苦笑するハリーに、ルシウス氏は眉をひそめる。
彼の娘の事情だろうか?あの予知じみた直感は、いくらでも利用価値があるだろう。だが、どうも、それだけでもないような気がしないでもない。あくまで、ルシウス氏の予想でしかないのだが。
とはいえ、そこが本題ではない。もっと重要な部分があるのだ。
「では、ホグワーツ入学をするのであれば、ご子息の素性は隠したままでいることをお勧めしましょう」
「もちろんです。闇の帝王でしたか?テロリストの頭領を倒した女性の息子が、生き残ってたなんて、不味いですよね。
妻が逃げる原因を作った校長にまた目をつけられるかもしれませんし。
・・・それだけでもないのですね?」
「ご子息の実父について、お伺いのようですな」
「ええ。妻からは時折、聞かされております。
悪戯好きで、子供のような方で・・・良くも悪くも残酷で、悪いことを悪いと認識すらできない、幼稚な人間であったと」
ほう、とルシウス氏は少し感心したような声を出した。
以前謝罪されたことといい、彼の妻であるリリーは、在学時よりも格段に視野が広くなったらしい。
自身のかつての夫の所業を恥じ入って、客観的に見れるとは。さらには、相手は故人である。親しい相手であれば余計に悪く言いたくない、という思いが入るであろうに。
ルシウス氏個人としては、ポッターの死んだドラ息子など、クソミソに貶してやって当然、というところがあるのだが。
むしろ、この件についてセブルスが物静かすぎる方がおかしい、とすら思っている。
セブルスは、
彼の妻である幼馴染の手前もあるのだろうから、セブルスは話してないかもしれないとうすうす思っていた。
むしろ、リリーの方がそれを素直に話していたことの方が意外ですらあった。
「では改めて、私の方から見た、ポッター氏の人柄と彼の在学中の所業について、いくつか話しておきましょう」
出来るだけ、ルシウス氏は事実のみで話したつもりだ。
・・・なお、ルシウス氏はセブルスが退学を決意した一連の出来事については、さすがに彼の名誉を慮って、伏せた。(ホグワーツOB間の連絡網で、ルシウス氏も知っている)だが、一番の被害者はセブルスであるということだけは話した。
「ご子息の素性を伏せるように、という理由はお分かりいただけてますな?」
「・・・復讐を防ぐため、ですね?」
難しい顔になったハリーに、ルシウス氏は頷いた。
ジェームズ=ポッター、シリウス=ブラック、リーマス=ルーピン、ピーター=ペティグリュー。あの時期で、知らぬ者はいない、グリフィンドールの有名チームだ。
確かに、スリザリン生にも悪いところはあっただろう。両親や親戚に影響されて、マグル生まれや半純血を見下していた者だっていたし、闇の魔術すれすれの危険な魔法に手を出して、生徒に実験がてらかけて回る者だっていた。
だからと言って、何もしてない生徒まで、スリザリンだから、闇の魔法使いを大勢輩出した寮だから、と呪いをかけて回ったり、ひどい目に遭わせたりしていいのか。
彼らにひどい目に遭わされたのは、何もセブルスだけではないのだ。しかも、まだやり返すこともあったセブルスはともかく、背後のポッターとブラック怖さに泣き寝入りした生徒もいたはずだ。
正直、ルシウス氏は闇の帝王が手を下さずと、そのうち連中は誰かに復讐されていたに違いないだろう、と思っている。
卒業後、騎士団に入らなければ、奴らはそろって魔法社会からつまはじきにされていた。(自覚があったかはさておいて)スリザリン生のOB・OGが、奴らの居所を許容しないのだ。奴らがこちらを闇の魔法使い呼ばわりしてつまはじきにするなら、こちらも奴らとよろしくしてやる義理も義務もないのだ。
復讐は蜜より甘いのだから。
実際、ルシウス氏も、もしハリー=メイソンJr.がハリー=ポッターとして育てられていたら絶対近寄るな、と息子に言い聞かせていたに違いない。ルシウス氏のみならず、スリザリン系の家庭では絶対そうしていたことだろう。
とはいえ、ハリー=メイソンJr.として育てられたその少年は、温厚で礼儀もわきまえた中小家庭出身者としては好感の持てるものだった。見た目も、忌々しいジェームズ=ポッターをパッと見は想起しないのだ。セブルスが温厚に接することができるのも、納得である。
ドラコの友人としては、身分的にはぎりぎりどうかというところはあるが、それは恩義とメリット・デメリット各種による補正込みで許容範囲だろう。
「わかりました。大切なお話、ありがとうございます。胸に止めておきましょう」
うなずいたハリーに、ルシウス氏も、そうしてくれと頷きを返した。
マグルにしては珍しいこの男が、そのうち物書きであるという知識層の広さを生かして、ルシウス氏の外部アドバイザーじみたポジションに収まるのは、それから間もなくのこと。
マグルのものを取り入れるとか、アーサー=ウィーズリーと一緒じゃないか?と嘲笑われたルシウス氏が、趣味と娯楽にしか生かせない無能者と一緒にするな!私は魔法界全体に利益を還元するのに使っている!と激怒するのも、それとほぼ同じころのこと。
続く
【補足解説】
[アグラオフォティスのあれこれについて]
アグラオフォティス自体は無印サイレントヒルに登場。大体は劇中語ったような感じです。アラビア砂漠云々はサイレントヒル3から、植物名は私の勝手な捏造です。魔法界なら、本気であるんじゃないかな、と。
後のシリーズとの兼ね合いから、正史ではシビルさんは死んでしまい、ハリーは使われずに取っておいたアグラオフォティスをヘザーに持たせ、それがのちに彼女を救うことになります。
つまり、シビルを助けると、ヘザーは救われないとなるので、そこのところを整合性を持たせたかったんです。
本シリーズでヘザーの持っているお守りのアグラオフォティスは、セブルスさんお手製ですので、ご留意ください。
[プリンスの血統 ~貴族は辛いよ~]
二次創作あるある、セブルスさんがプリンス家を継ぐ展開。
この、後継者のセブルス=プリンスさんタイプの展開もかっこいいとは思うんですが、本シリーズの彼にはどうあがいても無理なんですよね。
上位者で、不老不死。いくら魔法族が長寿と言えど、いつまでも若々しい姿っておかしい、と思われかねません。
後継者を断ったのは、劇中理由よりこっちの方が圧倒的に大きいでしょうね。
劇中理由は、もっと成長すれば解消できますんでね。(ただし、生まれてくる赤子が真っ当になるとは言ってない)
なお、セブルスさんの不名誉はさすがに気の毒に思われたのか、エイブリーとルシウス、プリンス家当主によって秘匿されることになりました。クラッブにはルシウスがお仕置きついでに口止めしています。
[貴族と作家 百合と狩人をはさんで]
時期としては、第2楽章2、ハロウィーンのモンスターハウス騒動の後日談となります。
原作マルフォイ氏であったら、マグルなど、と一顧だにしないのでしょうし、本シリーズでもドラコの恩人と言えど、話し相手はもっぱらセブルスさんやリリーさんに限定されてました。
それが、モンスターハウス騒動で、あのマグルヤベエな?ちょっとどんな奴か探り入れてみようかな?とマルフォイ氏も影響を受け、話し合いに転じた、というわけです。
話してみたら、ちょっと魔法使い的には理解できない感じではあるけど、別に自分にそれを強要してくるわけでもないし、(それこそどこかの髭のように、愛だ愛だとか言いませんし)立場は弁えてるっぽいし、息子のこと褒められて悪い気はしませんでした。
で、これが原因で、ハリーは魔法族側で取り入れられるマグル技術の窓口扱いされ、マルフォイ氏はそれで一儲け、という感じになります。
マルフォイ家強化フラグと、ハリーJr.君の素性隠しのメリットについて、がこの話の本質ですかね?
・・・ハリー達子世代に確執残す大きな要因作ってるから、ジェームズさんは駄眼鏡呼ばわりされるんですよ。リリーさん的には改心したように見えても、学生時代に迷惑かけまくった方々に、謝罪してない時点でどうしようもないと思うんです。
次回の投稿は・・・ゴールデンウィークで、ステイホーム中につき、明日!
内容は、本編の続きです。スリザリン寮でのハリーJr.とドラコ、トラブルメーカーネビル君、ハロウィーンの惨劇inホグワーツ、という感じです。お楽しみに!