めちゃくちゃ処分したいものが見つかって、どうしましょうと頭抱えています。整理しようとしてさらに散らかす奴です。
流石にそれだけだと気が狂うので、本編も更新しましょう、そうしましょう。
というわけで本編の続きです。
さて、新学期がスタートした。
今まではともにいたスラグホーンがこなしていたことを、今度はセブルス一人でこなさなければならない。
その一方で、セブルスはクィレルを怪しんでいた。
ごくごくわずかな腐臭が、脳の奥の瞳を刺激してくるのだ。さて、彼はいったいどんな秘密を隠しているのか。秘匿は破られるものなのだ。
なにしろ、ダンブルドア主催の例のあれは4階の立ち入り禁止の廊下の奥にある。あれを知っている者にとっては、喉から手が出るほど欲しいだろう。
セブルスは・・・特に欲しいとは思わないが、手に入ったなら入ったで、実験に使いたいだろう。
とにかく、セブルスは授業の合間を縫って、それとなくクィレルを見ていた。
クィレルの方も隠しているようなのだが、時折セブルスに観察するような視線を向けてきているのだから。
奴の視線は、セブルスにとってはあからさま過ぎた。
隠すならもっとうまく隠せと言ってやりたい。
その点、尼僧アデーラは上手く隠していた。
オドン教会に避難してきた娼婦のアリアンナと話し、血を分けてもらったり、時々食事の差し入れとかもくれた・・・ところを、アデーラはじっと監視していたらしい。
最初、セブルスはそれに気が付かず、ようやく気が付いた時には後の祭りだった。
嫉妬に狂った彼女は、アリアンナを殺したナイフを片手に、セブルスをも殺そうと襲い掛かってきたのだ。
そんなつもりは!と言い訳する機会すら与えてくれず、結局返り討ちにするしかなかった。
あれ以降、彼女を教会に招いた後は、アリアンナとは距離を取るようになった。女って怖いと震撼する事件でもあった。
閑話休題。
だが、クィレルにだけ意識を払っているわけにもいかない。
今年のグリフィンドール生は、一段と問題児が入学してきたのだ。
名前はネビル=ロングボトム。聖28家にも数えられる、純血名家の一員である。
彼は、諸事情で片親がおらず、厳格な祖母の手によって教育を受けたためか(この辺りの事情をセブルスが知っているのにも理由があるが、またの機会とする)、非常に気弱な性格をしており、常にびくびくオドオドしている。
で、息をするようにやらかした。
最初の週の金曜日に行った初授業では、初歩中の初歩のおできを治す薬の調合中に、手順違いに気がついて声をかけたメアリーに驚いてミスを犯し、それによって彼女を溶かした。
服と表面がドロドロに溶けて床に横たわるメアリーに、パニックを起こしたロングボトムはそのまま魔力暴走まで引き起こした。
とっさにセブルスが
下手をすれば――薬が目に入りでもすれば、魔法薬や治癒魔法でも治療不能の失明をしていた可能性だってあった。
それでも、どうにか授業を終わらせた。やらかしたロングボトム以外の全員が、出来の違いはあれど、どうにか薬は提出できた。
ロングボトムは後日補習を受けさせねばならない。何事も最初が肝心なのだ。これでトラウマでも持ってしまえば、これ以降の魔法薬学が大変になる。
そうとも。最初が肝心だ。
セブルスは、箒は苦手だ。高所自体はどうということはない。だが、初回の授業でのあれこれが完全に尾を引いてしまい、飛行訓練が終わってからは二度と箒には触らなくなった。
ポッターとシリウスとフーチは、一度コントロールが完全に利かない暴走した箒に縛り付けられたまま、地面すれすれを大西洋までぶっ飛んでいけばいい。
出来ない人間の気持ちがわからんから、あんなことができるのだ。
話をロングボトムのことに戻す。
セブルスの授業である魔法薬学以外にも、飛行術訓練では箒を暴走させ(ちょっかいをかけられたわけでもなく)、変身術ではマッチ棒を爆発させ、どうしたらそうなる、と言いたくなるほどのやらかしを見せた。
そのうち落ち着いていくだろうと思いつつ、とりあえずセブルスはロングボトムを夕食後に呼び出した。
いっそこちらが悪いことをしているような気分にさせられるほど、蒼褪めた顔をしたロングボトムが太っちょをカタカタ震わせながら、地下牢教室に入ってきたのを見て、「そんなにいやなら帰れ」と言いたくなったのを、セブルスはぐっとこらえた。
『先輩、時々辛辣ですから、低学年相手にはせめて言わないようにしてあげてください。
先輩の難しい顔で、それ言われたら泣く子がいてもおかしくないですよ』
という、レギュラスのありがたい忠告が脳裏をよぎったせいでもある。
今の自分は教師。加えて狩人は後輩には親切にするものだ。目の前の少年は後輩、自分の後輩、と自身に言い聞かせながら、セブルスは淡々とロングボトムに指導を行った。
が、やはり震えて非常に危なっかしい手元だったので、材料の下ごしらえを始めさせる前に、セブルスは言った。
「貴公、物事に挑む前には、まず深呼吸して落ち着くよう心掛けたまえ。
焦りと恐怖は、手元を狂わせる最大の敵だ」
「し、深こきゅ、ひ、ひーひーふー」
それは別の呼吸法だとツッコミを入れたくなるのをぐっとこらえ、セブルスは一歩離れ、ロングボトムの視界に入らないようにする。
そうして、時々声をかけながら――怒鳴らないように、忍耐が必要だった――マンツーマンで、おできを治す薬を再調合に挑んだのだ。震えながらも、しっかりした手つきで調合するロングボトム。今度は、山嵐の針も、ちゃんと鍋を火からおろしてから入れた。
少々とろみは足りないが、なかなか上質な薬に仕上がった。
やればできるではないか。
「よろしい。もう帰って構わない」
クリスタルビンに入ったそれを見て、セブルスは一つ頷いて言った。
「え?それだけ、ですか?」
「それだけだが?貴公は、ここに補習をしに来たのではないのかね?」
「え?その・・・てっきり、罰則があるのかと」
「・・・貴公、あのミスを故意でやったというのかね?」
「いいえ!ちがいます!」
首が取れんばかりにフルフルと左右に振るロングボトムに、セブルスはならばいいと頷いた。
「で、でも、教授の大事なメアリーさんを、その、けが、させてしまって」
「気にすることはない。
・・・貴公、この後時間はあるかね?」
「え?えっと、はい」
納得していない様子のロングボトムに声をかけると、彼は恐る恐るという様子で頷いた。
「お茶でも飲んでいきたまえ。あれの菓子は、同居人も気に入っている」
そう言って、セブルスは教授室へのドアを開けて、ロングボトムを招き入れた。
「お疲れ様です。セブルス様」
「メアリー。お茶の用意を頼む。菓子も何か適当に出してくれ」
「はい。昨日焼き上げたバスクチーズケーキがありますので、そちらをお持ちします」
「それは楽しみだ」
「ホグワーツのオーブンは、家にあるものとは少々勝手が違いましたので、厨房のハウスエルフの皆様にもお手伝いいただきました。
おかげでよいものができたと思います」
淡々と答えるメアリーは簡易キッチンに立ち、お茶の準備を始めた。
「何をしている?かけたまえ」
「あ、えっと、も、もう、直したんですか?」
メアリーの方を凝視しながら口をパクパクするロングボトムに、セブルスは軽く首を振って答えた。
「『直した』ではない。彼女は魔法は使えないが、魔法のように元に戻る、それだけの話だ」
正確には、魔法でできたものでもないし、どちらかといえば夢の一部だから元に戻っているというべきなのだろうが、セブルスはそう説明した。
「よかったぁ・・・」
ほっとしたような顔をするロングボトムは、切り分けたバスクチーズケーキの入った皿とフォークを持ってきたメアリーに、改めて頭を下げた。
「あの!折角注意してくれたのに、失敗して怪我させてしまってごめんなさい」
「気になさらないでください。私は人形。夜が明ければ夢は終わるように、私には怪我も痛みも無意味です」
「でも、あなたを怪我させたことに変わりはありません!結果が大丈夫だったからって、僕のやったことが帳消しになるなんて、おかしいです!
悪いことをしたらちゃんと謝らないとだめだって、ばあちゃんも言ってました。
だから、本当に、ごめんなさい。
スネイプ先生も、メアリーさんを怪我させてしまったことを、深くお詫びします」
これにはむしろ、セブルスの方が絶句した。
らしくもなく目を見開いて、まじまじとロングボトムを見やった。
思っていた以上に、まともだったからだ。
セブルスにとって、グリフィンドールといえばあの忌々しい4人が想起されるが、彼らは一度としてセブルスに謝ったことなどなかった。
ダンブルドアでさえ、治療魔法や魔法薬で治ったから、結果オーライだよね!ともみ消しにかかってきた。
つまり、セブルスは心のどこかで、連中は謝罪という高等技術を持ち合わせない、劣等種と思い込み、グリフィンドールそのものをそれと混同していたのだ。
そこに所属しているもの個人には、関係ないというのに。
リリーだって、グリフィンドールの出身であったというのに。いつの間にか、そのように思い込んでいた。
これでは、闇の魔法使い=スリザリンという偏見をかぶせてきた、連中と何一つ大差ない。
自分もまだまだ、啓蒙が低いらしい。
「・・・わかった。謝罪を受け取ろう。
次から気を付ければいい」
「はい・・・!」
ようやくほっとしたように、ロングボトムは力なく笑った。
「どうぞ」
メアリーが紅茶を入れ終えたところで、セブルスがチーズケーキに手を付けたのと一緒に、ロングボトムも恐る恐る切り分けたそれを口に運んだ。
「! 美味しい!」
「そうだろう。彼女は料理も掃除も、家事に分類されるものは尽く一級品だ」
「ありがとうございます」
どこか自慢げに言うセブルスに、淡々としながらも柔らかな声で言ったメアリーに、ロングボトムはようやく肩に入っていた力を完全に抜いた。
頭に檻を被らされるとか、あの絶対零度の視線で、長時間嫌味を言われるとか、先輩たちに散々心配されていたが、ふたを開けてみればむしろ普通で、お茶までごちそうしてもらえた。
ちょっと変わっているかもしれないけど、いい先生だ。入学してよかった。次の魔法薬学は、もう少し頑張ろう。
紅茶を飲みながら、ロングボトムはこっそりとそう思った。
「ロングボトム、貴公が何に怯えているか私にはわからんが、それはけして悪いことではない」
ふいに、セブルスは口を開いた。
気まぐれに近いが、今日は気分がいい。だから、親愛なる狩人の先人の言葉を聞かせようと思った。それだけだ。
狩人狩りのアイリーンは、セブルスが尊敬する狩人の一人だ。すべてを同じまま言うわけにはいかないので、少々言い回しを拝借させてもらう。
「失敗が恐ろしいかね?恐れなき者など、獣と大差ない。貴公らグリフィンドールが好む言い回しをするならば、恐れを知る者こそ、真に勇気を持てる、というところだろう。
貴公、恐れを忘れず、戒めとして持ち続けたまえよ」
「は、はい!」
ロングボトムは大きく頷いた。
臆病者の自分は、グリフィンドールにはふさわしくないと思っていた。けど、怖がってもいい。むしろ、それこそが勇気を持つことになるといわれるなんて。
よくわからないが、励まされたのだろうと思い、ロングボトムはうなずいた。
焦ることはない、自分なりに、頑張っていこう、と。
それからしばらく後、何事もなく日々は過ぎた。
相変わらずロングボトムはドジをしているようだが、最初の週のような大失敗はなく、こまごましたレベルに落ち着いてきている。
セブルスからアドバイスされたとおり、何か物事に取り掛かる前には、まず深呼吸して落ち着こうとするようになったらしい。いい傾向だ。
彼は、特に薬草学が得意らしく、休みの日は自主的にポモーナ=スプラウトの元に出向き、薬草畑の世話を手伝っているらしい。
「本当にいい子ですよ!覚えもいいし、植物に対する思いやりもあります。この分野では、きっと大成するでしょう!」
スプラウトはそうニコニコと言ってから、寂しげに視線を落とした。
「・・・フランクも、薬草の世話が得意だったわ」
フランク・・・フランク=ロングボトムは、ネビル=ロングボトムの父親の名前である。母親の方はアリスといい、二人とも純血魔法使いで、“不死鳥の騎士団”に所属していた。
なぜ過去形で語るかと言えば、フランクが聖マンゴ治療院に入院しており、アリスはその介護のためにネビルとは別々に暮らしているからだ。
実は、例の『予言』だが、条件に当てはまる子供がハリー=メイソンJr.以外にも、もう一人いた。それが、ネビル=ロングボトムだったのだ。
結局、ヴォルデモートは己と同じ半純血のハリーJr.を宿敵と定め(ようとして)、純血であるネビルは選ばなかったわけだが、こちらもこちらで過酷――どころか、セブルスが助けに入ったメイソン母子とほぼ同等の、悲惨な目に遭っていた。
ヴォルデモートの失踪・失脚後、彼の居場所を知っていると判断したらしい死喰い人の一派が、なぜかロングボトム夫妻を拷問しようとした。ネビルを連れたアリスを逃がすべく、フランクはその身を犠牲にした。捕らえられた彼は“磔の呪文”に加え、“開心術”の合わせ技に、他にも大小さまざまな呪いを総動員された結果・・・口に出すのもはばかられるような状態になってしまい、入院ということになってしまったらしいのだ。
自分が逃げたから、と自責の念に駆られたアリスは、騎士団を脱退し、夫の介護に付き添うようになった。
ロングボトムが祖母と暮らしているのは、そういう事情があるからなのだ。
なお、セブルス本人はあずかり知らぬことではあるが、ロングボトムの補習後、彼のグリフィンドールに対する態度が少々軟化した――嫌味と辛らつレベルが若干下がったため、熱でもあるのかとひそかに噂になった。
さて、少々遅くなったが、話をセブルスが気にかけるべき、二人の男子学生に移そう。
スリザリンに所属するドラコ=マルフォイは、ハリー=メイソンJr.とよく一緒に行動している。
気だるげで上から目線発言をするドラコは、普通の子供であればカチンとくるだろうが、最初に貴族の子供と分かったため、そんなものか、と納得されたのもある。父親の菩薩級寛容さは、ハリーJr.にも無事引き継がれたらしい。
怪物邸の騒動の際、友誼を深めあったのも大きかった。
そうして、二人の子供たちがお互いの父親自慢をきっかけに、さらには怪物邸の騒動を経てから、立場を超えた親友となるのは、それからほどなくのことだ。セブルス=スネイプという共通の知人にして頼れる大人がいたのも大きかった。
スリザリンの中で、ハリーJr.はマグル出身の上マグルの片親を持つと、最初こそ冷たい目で見られたが、すぐさまその評価は撤回されることになった。
彼がその細身の見た目とは裏腹に、敵に回すとヤベエマルフォイのボディーガード(実際、クラッブやゴイルの見掛け倒し以上に強い。父親から教わった体術に、黄金の右足もある)扱いされるようになったので、孤立だけはせずに済んでいた。
というのも、廊下でウィーズリーの六男のロナルドが、大声でドラコの父親のことを闇の魔法使いで刑罰から逃げた卑怯者だと罵倒しているのを聞きつけたハリーJr.が怒って、彼を敵認定して言い返した。
挙句、その場で取っ組み合いの大げんかをやらかし、ろくに呪文も使えない杖をロナルドが振り上げるより早く、その腕から杖を叩き落として、黄金の右足で蹴飛ばしてノックアウトした。教授陣や監督生が見咎めるよりも早い、見事な手管であった。
君、ドラコのお父さんと直接話したの?よく知りもしないのに、よくもそんなこと言えたもんだね!と嫌悪感たっぷりに吐き捨てたハリーJr.は、ロナルドを敵認定したに違いない。
家族大好き、父さんを尊敬する者同士の友人を馬鹿にする相手に、彼は容赦はしない。
正史と言える世界線とはえらい違いである。
さて、話を現在に戻す。
朝早くから校内に漂う胸焼けするほどの甘ったるい香りに、セブルスは眉をひそめた。
ハロウィーンである。
幼少の欠食期であれば、甘いものがこんなにたくさん!と目を輝かせられたが、今は食事は娯楽同然なので、甘すぎるのは遠慮したいところである。
とはいえ、郷に入りては何とやら。
セブルスはスリザリンの寮監でもあるので、ハロウィーンのパーティーは参加せざるを得ない。娯楽に忍耐を要するなんて、面倒で仕方ない。
いっそ、誰か適当な人間にポリジュースでも飲ませて、影武者に仕立て上げてやろうか。
防犯上、無理だと即行で気が付いて舌打ちする。ついでに、セブルスは上位者で人間の姿は仮の姿同然なので、ポリジュース薬など作ろうものなら、飲んだ相手が発狂しかねない。
去年は、途中からうんざりした。今回は、適当なところで切り上げさせてもらおうか。
などと思いながら、セブルスは本日にもある授業をこなすべく、地下牢教室の準備を整えた。
授業後の片づけを終えたセブルスは廊下を歩いていた。すでにパーティーは始まっていることだろう。
あの双子が、またしてもやらかしてくれた。授業妨害こそしなかったが、悪戯グッズで廊下にどでかいカボチャと「Happy Halloween!」などと落書きしているところに出くわせば、減点・・・は、ハロウィーンにかこつけて大目に見ても、罰則は禁じ得ない。
烈火のごとく怒るフィルチになだめを入れ、誰かが怪我したり不快になったわけでもないから、明日には自分たちで消すことを条件に、いつものメンシスの檻で手を打つことにした。(大体罰則期間が明ける前に次のいたずらをするので、メンシスの檻が被りっぱなしのような状態になってしまっているのだ)
「ありがとうございます!教授!」
「教授は話が分かりますね!」
「・・・貴公ら、いたずら仕掛け人を自称するなら、その名を持った先代の所業を調べてからにしたまえ。
貴公らがいたずらと称し、スリザリン生に一方的な攻撃を仕掛けようものなら容赦はせん」
「そんなことしませんよ?!」
「俺たちは、みんなを笑顔にする悪戯をするんですから!まあ、見といてくださいよ!
行こうぜ!フレッド!」
「おうよ、兄弟!」
元気よく駆け出していく双子。なお、その頭にはすでに馴染んだ縦長の円筒形の檻がのっかっている。
最初の頃こそ、他の教授陣も仰天していたが、最近はまたか、という感じになった(なお、その瞳は獣のごとく蕩けている)。順応性が高まってきたのだろう。いいことだ。
とにかく、双子に時間を取られ、少々遅くなってしまった。
急ぎ、パーティー会場の大広間に向かおうとしたところで、セブルスはふと足を止め、スンと鼻を鳴らした。
ごくごくわずかだが、空気に悪臭が混じっている。何年も洗ってない、家畜じみた悪臭だ。
ハロウィーンはパーティーで皆、浮足立っている。なるほど、4階の例の場所に行くにはうってつけだろう。
この臭いから察して、おそらくはトロールあたりをおとりとして、校内に解き放ったか。面倒なことをしてくれる。
さて、どうするか。
逡巡したのは一瞬で、次の瞬間セブルスは肖像画の目の届かないところに移動してから青い秘薬を飲み干すと、高速移動呪文を発動して、矢のように4階めがけて駆け出した。
魔法で空中に瞬間的に足場を設置する魔法(こちらもセブルスのオリジナルだ。ヤーナムは割と縦横に入り組んだ複雑な街構造をしていたため、少しでも移動範囲を広げようと編み出した)も使って、階段をもスキップし、あっという間に4階の立ち入り禁止の廊下前にたどり着く。
本格的な進入路は、施錠魔法で閉ざされているが、こんなものは
その先に続く、トラップの内訳も・・・他の教師の分は知らないが、セブルスのは少し複雑にしてある。
ダンブルドアからは万が一にも迷い込んだ生徒が傷つくといけないから、時間稼ぎレベルくらいでいいよ!と言われていた(なぜそんな難易度?)が、そんな生易しいものを用意してやる気はさらさらなく、2段構えで手厳しいもの(自分やハリー=メイソンならば大丈夫だ)を用意した。だが、かなうならばそこに到達させないのが一番だ。
自分でもそうなのだから、きっと他の教授陣も同じくらいのものを用意しているに違いない。
守らせている内訳を想えば、当然だろう。
さて、ここに侵入させないためには。
ふむ、と腕組みをほどいて、セブルスは懐に手を突っ込み、アイテムを漁りだした。
用意を終えて、セブルスは続いて再び高速移動呪文で、廊下を突っ切っていく。
4階の対処は終えたので、次は侵入してきたトロールをどうにかすべきだろう。
というよりも、ここ最近大人しくし過ぎてて、ストレスがたまり切っていた。臨時で合法的に暴れていいなど、何と素晴らしいのだ。
ニタァッとセブルスの口元が愉悦にゆがむ。
もし、その笑みをフェンリール=グレイバックが見ようものなら、怯え切って背を丸めた挙句、トロールに対して憐れみさえ覚えたことだろう。
こんな男のいる場所に放り込まれた、哀れで愚鈍な魔法生物に。
棍棒を引きずって歩いていたトロールは、豚鼻をフゴフゴ言わせながら、いい匂いのする方向に向かっていた。
頭がよくない代わりに、頑丈で三大欲求に忠実なこの魔法生物は、とにかくその時は食欲に従順で、そのいい匂いのところになら食べ物があるだろうと思ったからだ。
だが、不意にトロールは足を止めた。何か硬いものが頭部に命中したからだ。
何だ?
誰かが攻撃して来たか。生意気な。
のっそりとトロールが振り向いた。直後、その目に何かが刺さった。
激痛にトロールが吼える。それは、スローイングナイフ・・・ヤーナムでは、道端にも転がっているいわゆる投げナイフだ。刺突に特化し投擲にも優れたそれは、もっぱら陽動に用いられている。
だが、獣の膂力と耐久力の前に、陽動にしか使えないというだけにすぎず、当たり所が悪ければ十分な凶器となる。
ちょうど、トロールの右目を潰せた、今のように。
たたらを踏んで後ずさるトロールの足元に、踏み込んできた一つの影。
インバネスコートと呼ばれる独特のコートに、枯れ羽帽子と長い黒髪をなびかせ、彼は両手に持っていたそれを振りかぶった。
ギャインギャインという空気をひっかく凶悪な駆動音は、回転ノコギリと呼ばれる仕掛け武器のものだ。
鎚鉾の先端についた、円盤状のノコギリは、狩工房の異端“火薬庫”の驚異の技術力によって、恐るべき速度で回転し続け、獣の肉と皮と刻みとっていくのだ。
火花すら散らし、空気に焦げ臭さを残しながら振り抜かれたそれは、次の瞬間、トロールの右足首の皮と骨・・・どころか、神経と骨も恐るべき速度で削り、抉るように切断した。
屠殺される豚のような悲鳴を上げて、トロールは倒れこんだ。
棍棒は手を離れ、彼の哀れな右足首は、なおもぎゃんぎゃんと奇妙に吠えたてる回転ノコギリの持ち主が、ぐしゃりと踏みつぶし、バラバラの肉と骨片に変える。
飛び散った血をしとどに浴びながら、それは笑った。
笑った。笑ったのだ。おかしい。大きくて強いはずの自分を、それは変な道具で足を切って来て、笑ってきた!
小さいくせに!小さくて黒い、変な奴のくせに!
どうにか、トロールは抵抗しようとした。
棍棒を拾って、それを杖にして立ち上がり、壁に掴まれば、こんな小さいの、すぐにつぶせる!
だが、手を伸ばそうとしたトロールの右手に、激痛が走る。
トロールは知らない。それは、獣狩りの散弾銃と呼ばれる銃器で、銃身に詰められた骨髄の灰が、散弾の威力を大幅に強化させたのだ。
今や、トロールの右手は、肉に食い込んだ細かな散弾のせいでズタズタだった。動かすこともままならず、激痛にトロールはたまらず転げ回った。
「その鼻の形を見ればわかる。豚か。豚だな?豚は死ね。許さん。絶対に。一片の慈悲もなく、死ね。さっさと死ね」
小さいのが何か言っている。
違う!自分は豚じゃない!
トロールはそう言ってやりたかったが、それよりも早く、再び振りかぶられた回転ノコギリが、左足を、否、足元から自分をバラバラにしていく。
脳天をつんざくような凄まじい激痛と恐怖に、トロールのちっぽけな脳みそはあっという間に屈した。
いやだ!助けてくれ!どうしてこんなことに!
必死にトロールは藻掻いて叫んで助けを求めた。
黒くて小さな、悪魔のような、奈落の底のような空気を持っている何かから逃れようとした。
「貴様のような汚らしい血でも、遺志は我が力となる。せめて有効活用してやろう。わかったらさっさとくたばれ」
何を言われたかわからなかったが、凄まじい激痛は唐突に止んだ。ギャリギャリという耳障りな音も聞こえなくなり、トロールはやっと終わったとだけ思った。
それっきり、何も考えなかった。
続く
【トロールのこん棒】
ホグワーツ魔法魔術学校に侵入してきたトロールが持って居たこん棒。頑丈な樫の木を削りだし、持ち手に獣の皮が巻かれてすべり止めになっている。
大きさもさることながら、重量もかなりのもので、扱うにはかなりの筋力が要求される。
知能の低いトロールたちにとって、刃物を扱うということでもかなりの高等技術である。そこで彼らは鈍器を好んだ。叩いて潰せば、どんな相手も言うことをきくからだ。
ちなみに、最初セブルスさんは石ころを投げてトロールの足を留めさせました。
今更だけど、ハリーJr.はグリフィンドールじゃないから、シーカーの選出は免れてるよ!
そもそも、飛行訓練の時の思い出し玉事件は、ドラコが拾った思い出し玉を、ハリーJr.が、「拾ってあげたんだ!ドラコ気が利くね!」と一声かけて、そのままハーマイオニーに「後で渡してあげてね!」と渡しました。
箒でアクロバティックキャッチなんてやらかしてません。
次回の投稿は、明日!本編を更新します!アンケートでお尋ねした外伝は全部やりましたのでね。しばらくは本編を更新していきます。
内容は、ハーマイオニーとハリーJr.とドラコの話、クリスマスを経て、ドラゴンの卵騒動の始まりをやりますよ!お楽しみに!
書きたいところだけやっていきますのでね。あれどうなってるの?とかはまた、おいおいやっていきます。