セブルス=スネイプの啓蒙的生活   作:亜希羅

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 前回、ロンのフルネームを勘違いしておりました。ロナ「ウ」ドじゃなくて、ロナ「ル」ドでしたね。すみません。ご指摘ありがとうございました。



 一日近くかけて、読み物の整理と処分は終わりました。読み物系は。

 まだ衣服とか、他の収納の片づけができておりませぬ!クソが!

 で、連投ってどういう感じにしていこうかと思いましたが、どうせならキリのいいところまでやろうか、とドラゴンの卵騒動が片付くところまでやります。

 というわけで、続きです。


 2021.05.06.追記

 ハーマイオニーの敬称について意見をいただきましたので、原作に沿ってMiss表記とします。


【5】セブルス=スネイプと、ドラゴンの卵

 

 その惨状を最初に発見したのは、同級生への暴言を反省しているロナルド=ウィーズリー・・・ではなく、ハリー=メイソンJr.とドラコ=マルフォイだった。

 

 おそらくやっかみ半分があったのだろうが、女の子に向かって悪夢のような奴!なんて言うか?と呆れるハリーJr.に、これだからウィーズリーは、と軽蔑をあらわにするドラコ。二人は、それを聞いたハーマイオニーが泣いて走っていくのを横目で見ていた。

 

 確かに、押しつけがましいところがあって、あまり好ましくは思えないが、だからといってあの言い方はないだろう、と盛大に呆れた。

 

 とはいえ、寮が違うし、あまり親しくないので、さほど気にかけることもあるまい、グリフィンドールならグリフィンドールで解決すればいいと、ハーマイオニーがトイレで泣いていると聞いても、彼らは能天気にそう思っていた。

 

 そうも言ってられなくなったのは、パーティー会場に飛び込んできたクィレルの言葉のためだ。彼がトロールの侵入を告げてきたとき、真っ先にここにいないハーマイオニー=グレンジャーのことを思い浮かべたのはハリーJr.の方が先だった。

 

 避難し始めているほかのみんなならともかく、ハーマイオニーは知らないのでは?彼女の身に、何かあったら!

 

 本当は、誰かにハーマイオニーのことを言うべきだった。先生でも、誰か監督生でもいい、誰かに知らせるべきだった。

 

 それでも、ハリーJr.は動いたし、ドラコはグリフィンドールなんて放っておけばいい!と口では言いつつもそのあとに続いた。ハリーJr.は、“生き残った男の子”というわけでもないのに、お節介焼きが災いしてかトラブルメーカーだった。

 

 寮へ向かう他の同級生たちをよそに、二人はこっそり抜け出し、ハーマイオニーがいるという女子トイレに向かった。

 

 そして、そこで見つけてしまった惨状。

 

 赤、ピンク、赤、白、赤、黄色、赤、紅、緋。とにかく、赤でない部分を探すのが難しいほどの、ほぼ一面の赤い海が、廊下を彩っていた。

 

 ところどころに散らばっているのは、肉片だろうか?あるいは骨?何らかの臓器?とにかく、そのようなものもある。ほぼ原形をとどめず、ミンチよりもひでえ、というようなありさまだった。

 

 辛うじて残っている血まみれのこん棒が、その原型が何だったかを物語っている。

 

 一拍茫然とした彼らの鼻を、次の瞬間凄まじいまでの生臭さと鉄さびにも似た臭い――血の臭いが駆け巡った。

 

 たまらず、ドラコはその場にかがみこみ、嘔吐した。ハリーJr.も口元を押さえ、顔をそむけた。どうにか堪えたのは、父親による英才教育の賜物だろう。

 

 カボチャジュースや、パンプキンパイを始めとしたハロウィンのごちそうを戻したが、それでも彼らは必死に女子トイレに向かった。

 

 現実逃避があったかもしれない。

 

 それでも、まさかハーマイオニーまで何かありはしなかったかと、不安でたまらなくなったのだ。彼女の無事を確かめなくては。

 

 そんな思い一つで、這うようなドラコと、それを支えるハリーJr.は女子トイレに入り、個室の扉を開け、中でガチガチと歯を鳴らして耳を塞ぎ、滂沱の涙を流しているハーマイオニーの無事を確認した。

 

 「グレンジャー・・・大丈夫?」

 

 「うっぷ、無事だろうな・・・」

 

 「ああああああっ!メイソン!マルフォイ!こ、ころ、殺されるかと思ったわ!!」

 

 ほっとして笑うハリーJr.と、ゲロ塗れながら力なく笑って言ったドラコの二人に、ハーマイオニーは、かまわず抱き着いた。

 

 その拍子に、二人は後ろにしりもちをつくように座り込み、おそらくトロールの断末魔を聞かされたであろう、泣きじゃくる同級生を慰めようと、ぎこちなくその背を撫でた。

 

 物言いは腹立つ女の子だけど、無事でよかった。

 

 こっそり視線を交わした二人はそう思った。

 

 

 

 

 

 ハーマイオニーの泣きじゃくるような叫びに、トロールを探し回っていた教職員らが気が付いたのか、駆け付けてきた。

 

 もっとも、常軌を逸した廊下の惨状に大半が足を止め、マクゴナガルだけが、女子トイレで抱き合って座り込む三人を見つけてくれた。

 

 「これはどういうことですか!!

 

 ハリー=メイソンJr.!ドラコ=マルフォイ!ハーマイオニー=グレンジャー!何があったのです!!どうしてここにいるんです!!」

 

 「ぼ、僕らは、その」

 

 ドラコは口元をモゴつかせたが、それよりも早く、ハーマイオニーが立ち上がり、涙をぬぐってしゃくりあげながら言った。

 

 「二人は、私を探しに来てくれたんですっ。わ、私、トロールをやっつけようと思ってっ。

 

 本で読んだから、きっとできると思ってっ」

 

 「まあ・・・そうなのですか?」

 

 「違うっ!いや、違います!」

 

 呆れた顔をしたマクゴナガルに、ドラコはとっさに声を張り上げた。

 

 ハーマイオニーはかばってくれようとしたけど、ドラコは我慢ならなかった。助けに行った自分たちが、よりにもよって泣き虫の出しゃばり女にかばわれるなんて。

 

 「グレンジャーがトイレにいるというのを耳にしまして。トロールのことを、知らないだろうと思って。言い出したのはハリーですが、その・・・」

 

 「心配だったんだよね。ドラコも。素直じゃないんだからさ」

 

 「う、うるさい!」

 

 ニヤニヤ笑うハリーに、つっけんどんに言ってドラコはハーマイオニーを見やった。

 

 「おい、ウィーズリーなんか真面目に相手するな。確かに君の物言いにはどうかと思うことはあるが・・・その・・・」

 

 「グレンジャーは勉強できるからね。嫉妬だよ、嫉妬。できない奴のひがみだよ。元気出しなって!

 

 でも、物言いでドラコは人のこと言えないんじゃない?」

 

 「お前もな!まったく!」

 

 ツンとそっぽを向くドラコと、くすくす笑うハリーJr.に、ハーマイオニーはやがて頬を緩めた。

 

 「助けに来てくれてありがとう、二人とも」

 

 そんな三人のやり取りに毒気を抜かれたのか、マクゴナガルは深いため息をついた。

 

 本当の事情を察したのだ。

 

 「いいでしょう。お互いの友人思いに免じて、減点はなしにします。

 

 あなたたちに怪我がなくて本当によかった・・・」

 

 最後にほっとした様子でそう言って、マクゴナガルは無言で杖を一振りした。

 

 途端に、嘔吐物で汚れていた三人の服は新品のようにきれいになる。

 

 「酷なことをきくようですが、あなたたち、外で何があったか、わかりませんか?」

 

 「わかりません。ボクたちが来た時には、その、すでに、あんな状態で」

 

 「私、私は、ずっとトイレの中にいました。悲鳴は聞きました。トロールのだと思います。あと、何か、金属がすりあわされるような・・・変な音は聞きました。

 

 ギャリギャリというか・・・すごく耳障りな音でした。

 

 それより、トロールの悲鳴の方がずっと怖くて、動けませんでした。

 

 トロールよりも恐ろしい、怪物がいるみたいで・・・!」

 

 答えることもできずに真っ青になったドラコに対し、ハリーJr.は少し顔色を悪くしたがすぐに首を振った。そして、音声のみとはいえ惨状を聞いてしまったらしいハーマイオニーは、哀れなほど蒼褪めた。

 

 「わかりました。Mr.メイソン、Mr.マルフォイとMissグレンジャーを医務室へ。二人は少し、落ち着く必要があります」

 

 「わかりました。行こう、グレンジャー」

 

 「私、別に病気じゃ!」

 

 「意地を張るな。マダム・ポンフリーに見てもらったら、すぐに戻ればいい。

 

 僕は酔い止めの薬が欲しい」

 

 「そうですよ、Missグレンジャー。落ち着いたら、寮の談話室に戻りなさい。そこでパーティーの続きをやっているはずですから」

 

 優しく言ったマクゴナガルと、手を引いて歩きだしたハリーJr.に、ハーマイオニーは少々不満そうにしながらもおとなしく手を引かれ、いまだに気分悪そうなドラコがそのあとに続く。

 

 トイレを出て行く三人は、かたくなに血の海からは顔を背けて、見ないようにした。

 

 マグル換算でプライマリーの高学年ほどの年齢しかない三人に、R-18Gの残虐描写光景は、どぎつすぎる。

 

 ひょっとしたら、当分魘されることになるかもしれない。マクゴナガルでさえそうなのだ。あまりひどいようなら、睡眠薬の処方や忘却術の使用も視野に入れようと、彼女はひそかに思った。

 

 駆けつけた他の教授方は、現場を検分しようとしていたが、いかんせん魔法族であろうとめったに見ない残虐現場に、全員が固まってしまっていた。

 

 否、嘔吐したり失神したりして、ことごとく使い物にならない状態になっている。

 

 マクゴナガル自身も貧血で頭がふらついたが、生徒を案じる一心で平静を装っていたにすぎない。

 

 

 

 

 

 「何事ですかな?」

 

 「セブルス!どこにいたのです!」

 

 「少々気にかかることがありましてな」

 

 悠々と現れたセブルスにマクゴナガルが声を張り上げるが、セブルスの担いだものを認識するや、顔をこわばらせて絶句する。

 

 今日だけで何度こんな気分になるのだろうか。

 

 せっかくのハロウィーンが、何という有様なのだ。(元々は死者をお迎えする、ケルトの行事なのだが)

 

 セブルスが肩に担いでいたのは、あちこち焦げたクィレルだった。気絶しているらしい。

 

 「クィリナス?」

 

 「例の立ち入り禁止の廊下のすぐそばに倒れておりましてな。トロールがこのホグワーツにただで侵入できるわけがありませんから、囮か何かで本当の狙いはあの場所ではと思い行ってみれば、そこに倒れておりました」

 

 「そういえば、トロール侵入の知らせを持ってきたのも彼でしたね・・・」

 

 「もしかして、彼もそれに気が付いて?」

 

 「気を失いながらも、意識回復させるなり駆け付けようとしたのですね。何とも凄まじい・・・」

 

 「しかし、なぜこんな怪我を?」

 

 セブルスの説明に、やってきた他の教授方が口をはさむ。

 

 なるほど、とマクゴナガルはそれにうなずいた。

 

 クィレルはあちこち焦げているし、油でも被ったのか、ツンとする変な匂いもする。

 

 「きっと、侵入者を追い払うのに尽力なさったのでしょうな。私が駆け付けた時には、彼が一人であそこに倒れていたのです。わが身の力不足を恥じ入るばかりです」

 

 至極申し訳なさそうにするセブルスに、マクゴナガルは気にすることはない、と首を振った。

 

 「何を言っているのです!セブルス!我々とくれば、トロールに気を取られ、あそこへの警戒が完全に緩んでいました!

 

 それに、あなたが来たからこそ、クィリナスは助かったのかもしれません!」

 

 お人よし、かつ感動屋のマクゴナガルは、完全にセブルスの言を信じて疑っていなかった。

 

 とりあえず気絶したままのクィリナスは、フリットウィックの浮遊術で医務室に移送し、他の面々で、消失呪文(エバネスコ)をフル活用して廊下の惨状を消しにかかった。

 

 「当分お肉食べられないかも・・・」

 

 「私はワインがダメになりそうだ・・・」

 

 青ざめた顔で口々に呻く教授陣。

 

 ダンブルドアはといえば、駆け付けはしたものの意味ありげな顔で一同を見守っていただけだった。

 

 ともあれ、ひとまずこれで一件落着というところだろうか。まだ、トロールを殺して、この惨状を作り上げた犯人が判明していないが、教授陣の間では4階の立ち入り禁止の廊下への侵入をクィレルの妨害によって失敗し、脱出ついでにトロールを証拠も残さないように殺したというところだろう、と結論付けられている。

 

 そして、トロールの残虐殺害についてはかん口令が敷かれ、ハリーJr.、ドラコ、ハーマイオニーの三人にも強く口止めがされることになった。

 

 もちろん、そんなお粗末な結論が真実など、あるわけがない。実際はこうである。

 

 

 

 

 

 まず、セブルスは立ち入り禁止廊下前にトラップを張り巡らせた。

 

 縄付き時限式爆発瓶を粘着呪文で床に固定し、その隣にも火炎瓶をいくつか設置。縄を床から数センチほど上に引っ張り、足をひっかけたら作動するように仕掛けておく。

 

 連鎖で油壷も落ちてくるように手配して、目くらましの呪文をかければ、準備はよし、である。

 

 その後、トロールを廊下で迎撃する。

 

 肖像画たちには、カラーボールのように投げればインクが飛び散って目潰しになる専用魔法具(色は例によって赤。血に紛れてわからなくなるだろうという計算だ)で視界を潰しておき、耳塞ぎ呪文(マフリアート)でできる限りの防音も施し、遠慮なくトロールをめった切りにした。

 

 工房の異端“火薬庫”特製の回転ノコギリは手ごたえが素晴らしい。ヴァルトールが愛用したがるのもよくわかる。

 

 その後は、再び4階に取って返し、見事トラップに引っかかって(まさかこんなマグル式の古典トラップがあるとは思わなかったのだろう。ヤーナムに比べればだいぶ優しいのだが)焦げて気絶しているクィレルを担いで、教授陣に合流した。

 

 以上が、セブルスの知る本当の事情である。

 

 なお、トラップの痕跡は真っ先に隠滅した。消失呪文(エバネスコ)は素晴らしい魔法である。

 

 そして、クィレルも本当のこと(自分こそがトロールを投入して、4階に侵入を試みた犯人である)は言えないので、侵入者の迎撃をしただろうという、周囲の推測に乗るしかないのだ。

 

 

 

 

 

 なお、ドラコ、ハリーJr.、ハーマイオニーの3人は、この事件後、寮を越えて一緒に行動するようになる。

 

 ハーマイオニーは二人から注意を受けたのか物言いを反省したらしく、物腰は少し柔らかくなり、規則破りにも少し寛容になったらしい。

 

 そして、ロナルド=ウィーズリーは、そんなハーマイオニーを天敵の腰巾着!とさらに忌み嫌うようになった。

 

 

 

 

 

 さて、そんなこんなで恐るべきハロウィーン(一部)を終え、日々は過ぎていった。

 

 

 

 

 

 校庭を白一面に染めるクリスマスの朝。セブルスは眉間にしわを寄せていた。

 

 もともと気難しく、眉間にしわを寄せがちではあったが、ここまでではなかった。

 

 一つは、古城と雪の組み合わせが、廃城カインハーストを思い出させたためだ。ホグワーツはただでさえも似ているというのに、雪が降るとさらに似て見える。

 

 

 

 

 

 あの城もひどかった。門をくぐっての庭はぼってりした腹の血舐めが徘徊しまわり、城内は城内で金切り声を喚く悪霊がナイフをもって大挙して斬りかかってくる。

 

 一番最初訪れた時は、ホグワーツに似ているな、と思ったが、すぐさま似ても似つかない魔境だ!と撤回したくなった。

 

 大体、ホグワーツは廊下をちゃんと通れる。窓から壁や屋根伝いに移動しないといけないなんて、絶対おかしい。

 

 

 

 

 

 ともあれ。

 

 「メリークリスマス!遅くなりましたが、正式な就任おめでとうございます、教授」

 

 「・・・なぜ貴公は、この城の、私の居所を正確に当てるのだ」

 

 すでに顔馴染みとなってしまったブラックウッド配達員が、青い制服の上にコートをひるがえし、肩にかけたカバンから小包を取り出すのをしり目に、セブルスは思わず呻いてしまった。

 

 この男の神出鬼没ぶりは重々承知しているつもりだったが、まさかこんなところまで現れるとは思わなかった。

 

 「それが私の務め・・・やるべきことだからね」

 

 どこか寂し気にそう苦笑する男に、セブルスは口を閉ざした。

 

 この男はこの男で、いろいろあるらしい。そして、セブルスはそれに口をはさむ権利はないのだ。

 

 小包は、メイソン一家からのクリスマスプレゼントらしい。

 

 「くれぐれも、他のものに姿を見られてくれるな。追及をかわすのが面倒なのだ」

 

 「もちろんですよ。では、よいお年を!」

 

 小包を受け取ってサインを書いたセブルスに、ブラックウッドはニッコリ笑って、教授室を出て行った。

 

 これまでの経緯を考えると、本当に誰にも姿を見せずに出て行けるに違いない。

 

 末恐ろしい男である。

 

 さて、セブルスはさっそくプレゼントを開けてみた。

 

 ハリーからはベストセラーになったという、マグルの小説だった。病院を舞台にしたサスペンスらしい。本という大人しいものなのに、それがどこか物騒な内容なのは、ハリーらしくもある。

 

 リリーからは手製のファッジらしい。ホグワーツで寮生活後、卒業してほぼすぐに資産家のポッター家に嫁いだわりに、彼女は手製の菓子を得意とした。あるいは、アメリカで生活していた間、故郷の味を懐かしく思って身につけたかは定かではない。

 

 ヘザーからは万年筆だ。学校(ホグワーツ)での正式書類は羽ペンと義務付けられているが、個人的な物書きや手紙などには喜んで使わせてもらおう。

 

 そして、ハリーJr.からは調合時に材料を切るナイフ・・・を研ぐための砥石だった。修復魔法も付与されているこの砥石は、研いだ際に、刃こぼれも直してくれるという、ありがたいものだ。

 

 ホグワーツで魔法薬学を学び、何がいいか彼なりに考えたのだろう。

 

 ルシウスからは魔法薬学の最新論文――それも、国外のものを英訳した最新版だった。

 

 ドラコからは、高級羽ペンのセットだった。こちらは正式書類を書くのによさそうだ。

 

 レギュラスからは調合時にはめる手袋らしい。ドラゴン革の、高級品だ。今使っているものはだいぶ傷んできていたので、至極ありがたい。

 

 セブルスも、前日に彼ら宛てのプレゼントは送っておいた。他にも使者を通じて、ルシウスやレギュラスにも送った。

 

 ・・・彼らは、2年近く失踪していたセブルスを、それでも友と呼んでくれる貴重な存在なのだから。

 

 

 

 

 

 セブルスも寮監として、残った学生とともにクリスマスパーティーに参加せざるを得ないのだが、ロナルド=ウィーズリーが図書室の禁書目当てにこっそり深夜徘徊していたところ、怪しい鏡を発見して、そこに映る怪しさ満点の光景に、ありえない!と慌てて寮に逃げ帰ったことまでは知る由もなかった。

 

 なお、ドラコ=マルフォイ、ハリー=メイソンJr.、ハーマイオニー=グレンジャーは、それぞれの家に帰宅してそこでクリスマスを祝う予定であり、ホグワーツにはいない。

 

 今までのセブルスは、メイソン一家のクリスマスにお邪魔させてもらっていたのだが、去年からそれができていない。

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

 さて、クリスマス休暇明けから、しばらく。

 

 セブルスが次の騒動の臭いを嗅ぎつけたのは、図書館でのことだった。

 

 脳足りんというか、生まれながら脳喰らいの被害に遭った可能性の高い森番、ルビウス=ハグリッドが、ドラゴンの飼育法についての本を、うきうきした足取りで借りているのを目の当たりにしてしまったのだ。

 

 司書のマダム・ピンスが、怪訝そうな顔をしつつも素直に貸し出すのを横目に、どうしてそこで深くツッコんで事情を訊かない?とセブルスが思っても無理はないだろう。

 

 ルンルンッと弾んだ足取り、調子っぱずれの鼻歌で本を抱えたハグリッドがモジャモジャの髭とボロコートを揺らして去っていくのを見ながら、セブルスは深くため息を吐く。

 

 とうとうあの森番、やらかしたか。

 

 いつかやらかす、絶対やらかす、必ずやらかすとセブルスの学生時代から、ひそかに噂になっていたのだ。

 

 何をやらかしたかと言えば、ドラゴンの飼育を、である。

 

 

 

 

 

 学校の裏手にある森、通称:禁じられた森へは立ち入ってはいけない。校則でも決められているが、スリザリン寮ではもっと恐ろしい、そして真実味を帯びた噂が流れていたからだ。

 

 ケンタウルスの縄張りがあるとか、人狼のコロニーがあるとか、迷子になるとか、そういう理由からではない。

 

 ハグリッドが危険生物を放し飼いにしてて、交配しまくって元の生物より数倍危険な合の子の新種にしている可能性がある。

 

 死にたくないなら、絶対立ち入ってはいけない。ハグリッドはダンブルドア絶対主義だから、闇の魔法使いの卵になるだろうスリザリンの学生なんて、命乞いしても助けてくれない、と。

 

 学生時代のセブルスも至極まじめな顔をしたルシウスにそう話を切り出された当初、冗談だと思ったが、この寮では一つの語り草にもなっている話を聞くなり、絶対近寄らないでおこうと決意したものだ。

 

 ハグリッドは元々ホグワーツに在学していたが、危険生物を校内で飼育しており、それがばれて退学させられている。

 

 それを暴いたのが当時のスリザリンに所属していた主席ということで武勇伝扱いになっているのだが、それがスリザリンではこっそり語り継がれているのだ。

 

 仲間想いの素晴らしい主席だ!というその主席に対する尊敬と、学生が大勢いるところで危険生物を飼ったハグリッドの愚かしさを知らしめ、森への立ち入り禁止理由に信憑性を強めさせるためだ。

 

 ・・・大勢のスリザリン生の間では、なぜそんな危険なことをやらかした奴が、森なんて格好の隠し場所を与えられて野放しにされているのか、理解に苦しむと話が出ている。

 

 魔法使いへの道を断たれたというのに、目の前でその卵たちの成長過程を見せつけられるという拷問の一環だろうか?ハグリッドがそれを理解できているかは、セブルスには疑問である。

 

 

 

 

 

 で、そんなハグリッドは、噂にも聞こえるほど危険生物大好きらしい。今でも飼いたい飼いたいと言い続けているそうだ。

 

 セブルスも調薬の素材仕入れの関係でノクターン横丁に出入りしているのだが、そこでも時折ハグリッドのうわさを聞いた。

 

 非合法の魔法生物バイヤーに、その手の生物の卵や幼生がないか、しょっちゅう聞きにやってくるらしい。

 

 なお、バイヤーはホグワーツのスリザリン寮に流れているその噂を知っているので、ハグリッドには一度たりとも売ったことはないらしい。

 

 新種の危険生物の材料にして、生態系を崩させてたまるか、マグルからその手の生物を隠すって、どんだけ苦労すると思ってんだ、ペットは住処まで丸ごとすべて面倒見て、隅々まで責任とれるようになってから飼え、俺までアズカバンにぶち込まれてたまるか、とハグリッドのいないところで吐き捨てていた。

 

 あの男は、純粋な魔法族ではなく、何らかの種族との混血が疑われるほどおつむが足りない上、短気なので目の前で言わないのは正解だとセブルスは思う。

 

 ・・・セブルスも、よく魔法薬の素材を買い上げてお世話になっているバイヤーなので、ハグリッドの拳でぺしゃんこにされるのはやめてほしいのだ。

 

 

 

 

 

 話を戻す。

 

 ところで、今の今までハグリッドのことが全く話題に上がらなかったのだが、それは当然といえば当然だろう。

 

 何しろ、セブルスはハグリッドから嫌われているのだから。

 

 ダンブルドア絶対主義のハグリッドからしてみれば、ダンブルドアが嫌っているスリザリンの出身というだけで嫌悪感があるというのに、さらに赴任早々、錯乱したダンブルドアを顎が変形するほどの勢いでぶん殴った。

 

 (セブルスも)自分と同じく行き場がなくて拾ってくれただろうダンブルドアに、何という暴挙を!あいつは悪い奴だ!ダンブルドアが許しても、俺は許さねえ!俺がダンブルドアを守るんだ!

 

 おそらく、彼の恐ろしくちっぽけで単純な脳内では、そう結論が出たのだろう。

 

 ダンブルドアが取りなさなかったら、ハグリッドとセブルスは、二日目にして大広間で大乱闘の挙句、内臓ぶちまけに至っていただろう。誰の内臓がぶちまけられるかは、お察しいただきたい。

 

 殴られたら殴り返し、撃たれたら撃ち返し、殺されたら殺し返すのが狩人である。

 

 いずれにせよ、以降はハグリッドはセブルスを見るたびに、罵声を浴びせかけるが、ダンブルドアの頼みだから、と必死に我慢するようになり、セブルスはセブルスで嫌われている相手は好き好んで関わりたくないので、近寄らなくなった。

 

 ゆえに、今の今まで接点がなかったのだ。

 

 

 

 

 

 ヤーナムの偏屈な男も大概だったが、ハグリッドと比べると、どちらがマシであろうか?

 

 セブルスも最初こそ男も助けようとしたが、悪態吐くばかりで何の役にも立たなかった(むしろ不快にさせられる一方だった)ので、最終的には放置か、わざとヨセフカ診療所行にしてやった。

 

 男の落とす匂い立つ血の酒なら、多少は役に立ったからだ。

 

 摩耗された人間性の前では、ドロップアイテム>人命がたやすく成立してしまうのだ。

 

 

 

 

 

 どうせハグリッドのことだ。あのザルを通り越して、枠のごとく隠し事など、絶対、確実に、不可能な男である。

 

 セブルス以外にも、気が付くものはいるだろう、ダンブルドアもいることだし、と思っていた。

 

 

 

 

 

 だが、結局、セブルスが何とかする羽目になった。

 

 というのも、気が付いたのが教え子たちで、セブルスにどうしたらいい?と相談を持ち掛けられてしまったからだ。

 

 いい加減、土壇場でもダンブルドアは役に立たないと学習すべきだったのだ。

 

 脳に瞳があっても、この始末である。

 

 

 

 

 

 「何とも奇矯な組み合わせだな」

 

 その組み合わせを見た時、思わずセブルスはそうつぶやいていた。

 

 「た、たまたま廊下で会いまして」

 

 「偶然です。ロングボトムとは、そこで、一緒になっただけです」

 

 「まあまあ」

 

 オドオドと隣を気にするネビル=ロングボトム(グリフィンドール1年生)と、ツンと顎をあげてそっぽを向くドラコ=マルフォイ(スリザリン1年生)と、ハリー=メイソンJr.(スリザリン1年生)に、セブルスは遠い目をした。

 

 とりあえず、教授室の中に入れて話を聞くことにする。

 

 教授室には来客用にソファセットもある。

 

 セブルスは、“葬送の工房”にもあった一人掛けソファと同じデザインのものに腰かけ、ドラコとハリーJr.は同じソファに、ネビルは一人、その対面となるソファの端にそれぞれ座る。

 

 メアリーが茶菓子を出し(本日はオレンジマーマレードのパウンドケーキ)、紅茶を入れるのをよそに、セブルスはさっそく話を促した。

 

 「さて、貴公ら、貴重な放課後に何用かな?別々に話を聞くべきなら、コイントスなりして、話す順を決めるべきと思うのだが」

 

 「では、僕たちは出直します。行くぞ、ハリー」

 

 「ま、待って。多分、同じ話だと思うから、ここにいて!」

 

 ソファから腰を浮かせかけたドラコに、ネビルが声を張り上げて身を乗り出して、制服ローブの裾を掴んで引き留めた。

 

 思わずつんのめって、ネビルを睨むドラコに、ネビルは「ごめんっ」とすぐさま手を離したが、すがるような視線を向けてから続ける。

 

 「マルフォイとメイソンも、その・・・ハグリッドのことを言いに来たんでしょ?」

 

 「お前・・・!」

 

 ネビルの言葉に、ドラコは虚を突かれたように目を丸くしたが、すぐさまフンッと鼻を鳴らし、向き直る。

 

 「勇猛果敢なグリフィンドールのくせに、告げ口か?弱虫ロングボトム」

 

 「またそんなこと言って。告げ口なんていいの?相手に悪くない?って言ってるんだよ、ドラコは」

 

 「余計なこと言うな!」

 

 呆れたように口をはさむハリーJr.に、ドラコがカッと顔を赤らめて言い返した。

 

 「よ、弱虫でもいいよ!でも、これ以上放っとけない!早くしないと、誰かが怪我しちゃうかもしれないんだよ?!ううん、もう手遅れだけど・・・。

 

 メイソンとマルフォイだってそう思ったから、来たんでしょ?!」

 

 「まあね」

 

 「僕はウィーズリーをギャフンと言わせてやりたいだけだ

 

 ・・・いいのか、裏切りものって言われるぞ?」

 

 「これ以上取り返しのつかないことになるよりマシだよ!

 

 ロンも、ハグリッドも、友達なんだ!友達だから、止めなくちゃいけないんだ!」

 

 ドラコとネビルは、そのようにしばし揉めていたが、やがてため息交じりにドラコが座り直す。考えを変えたらしい。

 

 「・・・話はまとまったかね?」

 

 「うん、じゃなくて、はい。僕が話すけど、いいかな?」

 

 たまに顔を合わせていたせいか、ハリーJr.はセブルスが相手だと、時々敬語が抜ける。他二人を見やるハリーJr.に、ドラコはそっぽを向き、ネビルは苦笑交じりにうなずいた

 

 「勝手にしろ」

 

 「うん。お願い・・・メイソンも知ってるんだね?」

 

 「まあね」

 

 苦笑して、ハリーJr.は口を開いた。

 

 「すみません、おじ・・・先生。僕が、いいえ、僕たちがお伝えしたいのは、お聞きになっていた通り、ハグリッドのことについてです。

 

 あの人がドラゴンを飼いだしました」

 

 案の定。切り出したハリーJr.に、ドラコは心底軽蔑すると言いたげに、鼻を鳴らした。

 

 「何を考えてるんでしょうね、あの木偶の坊」

 

 「・・・何も考えてないのではないかね?幼子のごとく、目についたもの、興味の湧いたものに、片っ端から手を伸ばさずにいられぬのだろう。なまじ能力を伴うから質が悪い。

 

 本来、この手の自制に関しては年長者から指導を受けたりして身につけていくものなのだがな」

 

 「・・・僕はよく知らないけど、そんなに問題ある人なの?」

 

 「・・・そう、悪い人じゃあ」

 

 辛辣なドラコとセブルスのため息交じりの言葉に、困惑した様子のハリーJr.の問いに、困ったような顔をしてネビルが口をはさみかけるが、セブルスが一睨みして黙らせる。

 

 「悪い人でないなら、何をしてもいいのかね?あれは善悪以前の問題だ。ひたすら幼稚なだけだ。それゆえ、質が悪いのだ。

 

 貴公は、先ほど『誰かが怪我をしてしまうかもしれない』『もう手遅れ』と言っていただろう。

 

 どういうことだ?ウィーズリーが絡んでいるとも。詳しく説明せよ」

 

 居心地悪そうに身じろぎし、ネビルは大きく深呼吸してから、たどたどしく話し出した。

 

 

 

 

 

続く

 




【ドラゴンの卵】

 森番ハグリッドが入手した、ドラゴン・ノルウェーリッジバック種の卵。

 母竜が息を吹きかけるように火の中に置いて温め、孵ったら鶏の血とブランデーを混ぜて30分ごとに飲ませるといい。

 ハグリッドは木製の小屋にて、卵の孵化に成功した。

 己の欲のために、法すらも犯して。





 ハリーJr.は、スリザリンだからね!ハグリッドはよくない印象持っているから近寄ってこなかったよ!出自も知らないしね!

 ハリーJr.はリリーさんからハグリッドのことを聞いてたけど、他のスリザリンの先輩方の警告で、小屋に近寄ったことはないよ!





 透明マントはダンブルドアが持ったままだよ!ハリーJr.はポッターじゃない、スリザリン生だからね!似てるなあ、とは怪しまれてるかもしれないけど、ジュニアって何だ?と思われてるんじゃないかな?

 今更だけど、真夜中の決闘はドラコが言い出す前に、ハリーJr.が止めたのでそもそも起こっていません。

 多分、映画版みたいに道に迷って、うっかり4階に立ち入っちゃったんじゃないかな、ネビルとロンは。





 次回の投稿は明日!本編の続き!内容はドラゴンの卵騒動の続きです。いろいろ捏造が加わりましたが、キリよくしたらちょっと短めになりました。お楽しみに!




 

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