セブルス=スネイプの啓蒙的生活   作:亜希羅

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 ゴールデンウィーク中の連投にお付き合いくださり、ありがとうございました。

 それに伴う、評価、お気にいり、ここ好き、誤字報告も、ありがとうございました。



 ハグリッドの行く末について、いろいろ気になるでしょうが、彼についてはいったんここまで。

 そろそろVSヴォルデモートの第2ラウンドに行ってみましょうか。まずは前編です。

 さーて、弱り切ったゴースト以下の寄生帝王様が絶好調の狩人様に勝てるでしょうか?


【7】セブルス=スネイプと、賢者の石①

 そんないざこざはあれど、再び日々は平穏に過ぎて行った。

 

 ノルウェーリッジバックの幼生体は無事、チャーリー率いるルーマニアのドラゴン研究チームに引き渡された。ハグリッドは泣いてお別れをしていたが、教授陣はそれを冷めた目で眺めていた。

 

 セブルスは思っていた。多分この男、懲りてない。

 

 

 

 

 

 ところで、そろそろ寮杯の集計も近いところで、一気に60点も減らされたグリフィンドール寮はピリピリしていた。

 

 別の時間軸では、もっと大量に減らされていたことを思えば、かなりの減刑であり、なおかつ温情あふれる処置であるともいえる。

 

 そして、それとは別に件の2人は後日マクゴナガルから呼び出しを受け、減点の原因であることと罰則を言い渡されたらしい。

 

 2人を弁護したのはセブルスであり、感謝するように、とも付け加えられたらしく、後日授業後に2人が礼を述べに来たほどだ。

 

 もっとも、素直に礼を言ったのはロングボトムだけで、ロナルド=ウィーズリーは睨みつけながらぼそぼそと、不本意感丸出しで言ったので、いやなら言いに来なくていい、自分は素直に告白したロングボトムのことだけ軽減を提案したのであり、貴公は関係ないと言った。

 

 これにはあからさまにむっとした顔をしたロナルド=ウィーズリーをよそに、ロングボトムはそれでも、かばってくれたのは本当だったんですね!ありがとうございます!と気にした様子も見せずに頭を下げた。

 

 さすがにこれには毒気を抜かれたセブルスは、感謝するなら、学生の本分を全うしたまえ、学年末テストの結果を楽しみにしている、といつもの嫌味でもって、2人を帰した。

 

 ・・・慕われ過ぎるのも問題である。

 

 「セブルス様、お顔が赤いように見えます」

 

 「・・・そういうこともある」

 

 「わかりました」

 

 淡々としたメアリーが首をかしげる程度には、セブルスは照れているように見えたらしい。

 

 

 

 

 

 ロンとネビルはといえば、マクゴナガルによる呼び出しのせいで二人が夜中抜け出したことはばれてしまい、何考えてるんだ?と冷たい目にさらされることとなった。

 

 小躍りするスリザリン生たちをよそに、とにかく今からでもいいから頑張ろう!とグリフィンドール生たちは必死にくらいついていた。

 

 そのため現在はスリザリンとグリフィンドールが拮抗状態である。(ハーマイオニーは自分が必死で稼いだ得点が!と大いに嘆いた)

 

 なお、ロナルド=ウィーズリーはマダム・ポンフリーの治療を受けて、綺麗に回復した。

 

 ロナルドはネビルの告発に、何でそんなことしたんだ!裏切り者!と食って掛かったが、それを見ていたハーマイオニーの、私もマクゴナガル先生に言ったわ!ドラゴンが誰か傷つけてからじゃ遅いのよ?!そうなった時、あなた、責任とれるの?!という言葉に、今度こそカンカンになり、絶交だ!と言い切ってそっぽを向いた。

 

 仲のいい友人からの言葉にネビルは落ち込んだが、これによって事情が知れ渡り、ネビルはそれでも友達を止めようとした、とどうにか評判を回復させた。ロナルドについては、お察しいただきたい。

 

 弟が済まない、とネビルに謝るウィーズリー家の3男にしてグリフィンドール寮の監督生でもあるパーシーが実に気の毒である。

 

 

 

 

 

 ところで、2人組の罰則はセブルスの見ていないところで行われた。

 

 とある夜中に、禁じられた森の中でユニコーンが殺されたので、ハグリッドを伴ってその原因の調査、というのが内訳である。

 

 まだろくに呪文を使いこなせない1年のすることではない、というのは後日それを聞かされたセブルスの感想である。

 

 ・・・なお、言い出したのはダンブルドアである。

 

 何を考えてやがるあの爺、というセブルスの内心はさておき、結論を述べるなら、ユニコーンを殺したのは、れっきとした人間の仕業だったらしい。

 

 なんと、殺したユニコーンの生き血をすすっていたという。

 

 目撃者はネビル=ロングボトムで、彼は襲われそうになったところを辛うじて、ケンタウルスに救われたとのことだ。

 

 ユニコーンは、確かに価値ある生き物である。角は魔法薬に、鬣と尾は杖芯に、それぞれ用いられる。だが、その血はだめだ。

 

 その血を飲めば、瀕死のものも命を取り留めるが、代わりに、生きながらの死という恐ろしい呪いを受けることになるのだ。

 

 ふと、セブルスは思った。それは、穢れた血族とどちらがやばいのだろうか?と。

 

 

 

 

 

 穢れた血族は、医療教会の裏切り者が持ち帰った遺物*1を用いて生まれた者たちだ。

 

 その血族たちは、処刑隊によって尽く粛清され、只一人女王アンナリーゼのみ、玉座の間に幽閉されていた。

 

 彼女は、アルフレートによってすべての内側の粘膜をさらけ出された、ピンク色の肉塊にされていてなお、生きていた。生きながら死んでいるのか、死にながら生きているのか。

 

 生と死、夢と現が混在するヤーナムらしいといえば、それまでなのだろうが。

 

 なお、その肉塊アンナリーゼは、セブルスがうっかり元に戻してしまったので、アルフレートは全くの徒労に終わってしまった。悪気はなかった。善意もなかった。

 

 

 

 

 

 話がそれた。

 

 セブルスは、穢れた血族の血もその身に取り込んでしまっている。血液と遺志のごった煮上位者である。

 

 今更、ユニコーンの血ごとき何ともなさそうではある。試したことはないから、定かではないが。

 

 だが、それはセブルスがヤーナムの血を受けたという、土台があるからだ。それがない常人には、十分呪わしく、悍ましく、耐えがたいことなのだろう。

 

 そう。セブルス以外に、ユニコーンの血など、もっての外であるはずなのだ。

 

 そんなものを欲するのは、きっと、ろくでもないものなのだろう。

 

 

 

 

 

 例えば、分霊箱で無理やり死に損なっている、例のあの人とか。

 

 

 

 

 

 そして、ある朝クィレルのそばを通りかかったセブルスは、彼から濃厚な血の臭いを嗅ぎつけた。

 

 ・・・後日知ったことだが、その日はちょうど、件の罰則の翌日だったのだ。

 

 常人からしてみればかすかなものだろうが、狩人として血に馴染んできたセブルスの鼻は誤魔化せない。

 

 「おや、クィレル教授。どうされたのです?」

 

 「え?な、なな、何がですか?」

 

 「血の臭いがしたような気がして。吸血鬼とでもお会いになられてたので?」

 

 「そそそ、そんなこと!ス、スネイプ教授の気のせいでは?」

 

 「ふむ。いずれにせよ、気を付けた方がよろしいかと」

 

 そう言って、セブルスはクィレルのそばをすれ違いながら、ぼそりと呟いた。

 

 「たまらぬ血の臭いで誘われているかと、誤解されますぞ?」

 

 ギクンッとクィレルは大きく肩をはねさせた。そして、セブルスをこわばった顔で見やった。

 

 セブルスは素知らぬ顔をしていたが、見逃さなかった。

 

 一瞬セブルスを振り返ったクィレルの目が、殺気を帯びた冷徹さをもってセブルスを見返したことを。

 

 それはまるで、別人のような目つきだった。

 

 だが、すぐさまクィレルは普段通りのオドオドした態度に戻り、そのまま授業の準備をすべく、広間を出て行った。

 

 

 

 

 

 さて、学年末テストを終え、学生たちは解放感に浸っているが、セブルスたち教師はそうでもない。

 

 学年末の寮杯パーティーまでに、テストの結果を出して、通知表にまとめ、ついでに夏季休暇中の課題の通達、できるなら来年次カリキュラムの下準備と、やることは山のようにある。

 

 ・・・まあ、セブルスには裏技があったりするのだが。

 

 来客用ソファセットのテーブルの上や、双子呪文で臨時に増やしたデスクの上に、何やら白くてフワフワしたものが蠢いている。

 

 よく見れば、それは少々不気味な干からびた小人の群れのように見えるだろう。夢の使者たちである。

 

 血の遺志という代価さえ支払えば、アイテムの売買を取り行ってくれる彼らは、最近はセブルスの仕事の忙しさを認識したのか、血の遺志と交換でテストやレポートの採点をやってくれるようになった。

 

 調合結果に対する評価のつけようは文句なしだった。彼らはいったいどこから魔法薬学に対する知識を得たのであろうか?

 

 まあ、彼らの謎は今に始まった話ではない。便利ならそれでいいだろう、とセブルスは思考を放棄している。

 

 ともあれ、この調子ならば、余裕で学年末パーティーに間に合うことだろう。

 

 ちなみに、寮杯はぎりぎりでスリザリンが獲得ということになる。

 

 とはいえ、学年末パーティーの前に、まだやるべきこと――というか、起こるべきことが残っている。

 

 さらに、最近セブルスが思いついたこともあった。

 

 あの森番、ドラゴンの卵をホッグズヘッドで偶然出会った男からもらったと言っていたが、飼育禁止のそれをたまたま持っているなど、ありうるわけがない。

 

 加えて、あの振ればカラカラなりそうなほど軽い頭と、油でも塗られてそうなほどよく滑る口である。酒でも飲まされたら、ドラゴンの卵と引き換えに何か余計な一言を漏らしていてもおかしくない。・・・例えば、4階の例のあれ絡みの情報とか。

 

 一応、セブルスはその旨をマクゴナガルに伝え、マクゴナガルはハグリッドに問いただしたが、当の森番は発案者がセブルスだと知るや、知らん!話すことなんぞない!ダンブルドアの信用を裏切るわけがない!と発言を拒否した。

 

 このため、マクゴナガルは一応ハグリッドを信じてその場をお開きとしたが、セブルスはその発言は充てにならないと思っている。

 

 そして今夜、ダンブルドアが留守にするのだ。今朝、職員会議で言っていたので、間違いない。

 

 で、よく利く目耳がいないとなれば、盗人は動き出す。

 

 つまりは、今夜、あの4階の立ち入り禁止の廊下の奥にある、預かり物――“賢者の石”を狙って、侵入者があるということだ。

 

 

 

 

 

 賢者の石。錬金術の最高峰であり、黄金を作り、命の水を生み出す、最高にして最上の完全物質である。

 

 その作者は、錬金術師として著名なニコラス=フラメルであり、共同研究者としてダンブルドアと開発した、とされている。が、フラメル氏は300歳を優に過ぎており、賢者の石は独力で完成させてしまっているのは自明の理である。

 

 では、なぜ共同研究者としてダンブルドアの名が挙がっているのか?

 

 ずうずうしくダンブルドアが共同研究にしたいと申し出たか?

 

 否。フラメル氏の方がダンブルドアに共同研究という形にしてくれと申し出たのだ。

 

 そもそも、ダンブルドアがその名を一躍有名にしたのは、闇の魔法使い、先代の闇の帝王、ゲラート=グリンデルバルトとの決闘を制し、彼をヌルメンガードに投獄させることに成功したからだ。

 

 それ以前の時期、フラメル氏は気が気でなかったことだろう。いつグリンデルバルトが賢者の石のことを聞きつけ、狙ってくるかもしれない、と。

 

 そこで、彼はダンブルドアに頼み込んだのだ。共同研究者という形にするから、グリンデルバルトを始めとした石を狙う輩から、守ってほしい――要は、盾になれと言ったわけだ。

 

 ダンブルドアはそれに諾と答え、結果、賢者の石は二人の共同研究という形で発表されたわけである。

 

 そして、グリンデルバルトとの戦いが終わり、新たな闇の帝王ヴォルデモート卿が台頭したのちも、そのひそやかな契約は継続されていたのである。

 

 ダンブルドアは契約に則り、賢者の石をグリンゴッツからホグワーツに移送。(この時の運搬役がハグリッドで、ネビルも居合わせていたのだが、本筋とはあまり関係ない)

 

 そして、ホグワーツの4階廊下を立ち入り禁止にして、集めた教職員陣の知恵と知識と工夫を凝らさせ、トラップを張り巡らせたわけである。

 

 なお、参加した教職員は、ダンブルドア本人以外では、マクゴナガル、フリットウィック、スプラウト、セブルス、ハグリッド、クィレルの計6名である。

 

 

 

 

 

 さて、消灯時間を過ぎた夜中。

 

 立ち入り禁止の廊下の奥、最奥部――の手前である。

 

 その侵入者は、実に悠々とそこに至っていた。

 

 第1試練の三頭犬はドラゴンの卵と引き換えに聞きだしたとおり音楽を聞かせて眠らせて通過、

 

 悪魔の罠(byスプラウト)を軽々突破し、

 

 フリットウィックの飛び回る鍵の鳥も呼び寄せ呪文(アクシオ)で易々捕まえ、

 

 トロールは元々自分ならば問題ないということで仕掛けたので容易に殺し、

 

 マクゴナガルのチェスはそもそも終了呪文(フィニート)で一発終了、

 

 残すところは、あの嫌味で陰気な、どこか不気味な魔法薬学の新米教授の仕掛けである。

 

 部屋に侵入するなり、出口と入り口がそれぞれ別の色の炎で燃えだし、出現した8つの小瓶と、メモ用紙を前にふうん、と彼はうなずいた。

 

 実に簡単な論理パズルだ。

 

 まあ、呪文だけ出来て論理はからっけつという魔法使いもいるので、確かに対応としては正しいのだろう。

 

 ひねくれているといえばそこまでなのだろうが。

 

 だが、彼は一人ではない。心強いご主人だっているのだ。ご主人と打ち合わせながら、正解の瓶を手に取った。

 

 これだ!この小瓶の中身が、奥へ向かうために必要な薬だ!

 

 だが、それを手に取った瞬間、不気味なサイレンが鳴り響いた。

 

 何だ?

 

 ぎょっとした彼が周囲を見回すより早く。

 

 瞬時に出入り口を燃やす炎は消えて、鉄格子が無情にそこを封鎖する。破壊不可魔法と盾の呪文が併用付加されているものだ。

 

 検知不能拡大呪文でも使われたか、瞬時に部屋の面積が一気に運動場ほどに広がり、メッキがはがれるように石畳と壁がはがれて不気味な錆だらけの金網と金属壁にとって代わる。

 

 空気まで変わったのか、不気味な生臭さまでしてきて、彼はウッと息をつめた。

 

 そして最後に、ずるりっとそれが地面から生えるように現れた。

 

 それは、奇妙な生き物だった。

 

 遠目から見ると、まるで普通の人間のようにも見えるのだろう。だが、それはまるで普通ではなかった。ぼろきれのようなローブは、修道士が纏っているのを彷彿とさせるが、いかんせん、青白く奇妙にぬめった肌に異常に長い腕をしている。何より特徴的なのが首から上で、髪も顔もないその頭には、眼窩を思わせるくぼみとイカタコクラゲの類を思わせる触手が口らしき部分に大量についている。

 

 だが、彼の知識に、そんな魔法生物は存在しない。脳喰らいと呼ばれていることさえ、知るわけがない。

 

 甲高い咆哮を上げるや、その不気味な生き物は異様に長い腕を伸ばして襲い掛かってきた。

 

 「あ、う、あ」

 

 とっさに、彼は応戦しようとした。

 

 何か脳の奥で増えなくていいものが増えそうになったような気もしたが、とにかく応戦しようとした。

 

 「アバダ」

 

 杖を振りかざして死の呪文を放つより早く、彼はそれに捕まった。

 

 ガッチリと長い両手に体を押さえ込まれ、振りほどけない。

 

 そして、その触手塗れの口がターバン越しとはいえ脳天に突き立てられた。

 

 「『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!」』

 

 ずちゅりずちゅりと何か、粘液じみたものをすする音が頭上から聞こえるが、それどころではなく、脳天を中心に走る激痛にたまらず彼は悶絶した。彼と肉体を共にしているご主人もまた、この痛みを共有させられているのだろう。

 

 何とかしろと喚いてきているが、この激痛の中で呪文を使えるような精神力は、彼にはない。

 

 何とか振りほどきたいが、そんな力もない。

 

 激痛の中、何も考えられなくなっていく。むしろ、痛みは減ってきて、だんだん寒くなってきた。

 

 ご主人の叱咤する声すら、霞んで聞こえる。

 

 叫ぶことすらおっくうになり、そして。

 

 ペシンッと、脳喰らいは彼を放り出した。奇妙に軽い音を立てて、彼は倒れ。

 

 そして二度と、起き上がることはなかった。その頭蓋の中身が空になれば、当然ともいえた。

 

 狩人ならば啓蒙で済むところを、そんなもの持ち合わせない彼は、文字通り脳髄を徹底して啜られてしまったのだから。

 

 脳喰らいは、ひどく物足りなげに、ゆうらりゆらりとその場を徘徊し始めた。

 

 

 

 

 

 なお、セブルスはあずかり知らぬことだが、またしても無断で深夜徘徊に至ろうとしたロナルド=ウィーズリー(どうも賢者の石を狙う侵入者がいると気が付いたらしい。そしてそれはセブルスだと彼は確信していた)は、ネビルとハーマイオニーの二人に力づくの呪いづくで止められ、談話室に全身石化状態で転がされる羽目になっていた。

 

 

 

 

 

 さて、セブルスが到着した時には、すべては終わっていた。

 

 セブルスは青い秘薬の力でスキップしてきた。この秘薬は魔法による疑似生命の感知能力も誤魔化せるらしい。

 

 さて、彼は自らの仕掛け部屋で嘆息した。

 

 本当に、1年生でも突破できそうな仕掛けを作るやつがいるか。

 

 セブルスはあずかり知らぬことだが、最初、マクゴナガルやフリットウィック、スプラウトも、もっと難解な仕掛けを用意したのだが、ダンブルドアからダメだしされて、やむなくあの仕掛けに落ち着いたのだ。

 

 セブルスはと言えば、どうも2重仕掛けの方は見抜かれなかったらしく、1段階目の仕掛けでオッケーを出されたのだ。

 

 なお、彼は1段階目の仕掛けで油断させたところを、必殺の2段階目で仕留めるという、発想で仕掛けた。

 

 だまして悪いがはよくあることだ。

 

 というか、こんなことに引っかかるんじゃない。それでも闇の帝王と、その手先か。

 

 実は1段階目の論理パズルも、さらに一ひねりも二ひねりも入れようかと考えていた(サイレントヒルだったら珍しくない。ハリーなら突破できていた)のだが、さすがにそれはNGが出されそうだったので(自分で頼んできたくせにうるさい髭である)、必殺の2段階目を仕掛けたというところだ。

 

 なお、脳喰らいは本物ではなく、セブルスの記憶から幻覚魔法で疑似再現した偽物である。

 

 周囲の雰囲気が変わるのも幻覚魔法によるこけおどしに過ぎない。

 

 万が一にも脱走されて校舎内をうろつかれてはたまらない。帝王を寄生させているらしいクィレルや、いつくたばっても問題なさそうな髭爺はともかく、生徒に被害が出たらことである。

 

 ゆえに、幻覚魔法で対応したのだ。なお、幻覚でも啓蒙を吸われた時の痛みは本物だ。痛みだけだ。本当に脳髄を吸われているわけではない。

 

 セブルスも、最初に聖堂街で奴に出くわした時は、しばらくトラウマになったものだ。挙句、聖杯ダンジョンで階層主になっているのだから、全く笑えない。

 

 逆を言えば、それだけ強力な相手ということなのだ。ハンデとして逃げ回れるほどの広さも用意した。

 

 幻覚なので、仕掛け武器を使わなくても呪いで十分殺せるというのに、このざまか。

 

 なお、幻覚脳喰らいは、セブルスの入室と同時に姿を消している。幻覚なので実は終了呪文(フィニート)で一発終了でもあったのだ。なぜ気が付かなかったのか、実に不思議である。

 

 白目をむいて倒れ伏しているクィレルは、そのターバンがずれて後頭部が見えかけている。

 

 ウゴウゴと何やら蠢いており、かろうじてターバンの布が張り付いていてわからないが、凹凸具合から人の顔のようにも見えた。

 

 次の瞬間、クィレルが動いた。すっくと立ちあがったのだ。

 

 その拍子にターバンが完全に取れて、ほんの一瞬、蛇じみた奇妙な顔が見えた。

 

 『貴様ぁ、あの時の・・・!』

 

 クィレルが話したが、その声は彼のオドオドした声ではなく、氷でできたかのように冷たく、威圧感あふれるものだった。

 

 セブルスは、その声を知っている。10年前の、あの夜。リリーによって呼び出された、ポッター家で聞いたのだ。

 

 今のクィレルの身体を動かしているのはクィレル本人ではなく、寄生している闇の帝王の方なのだろう。

 

 なお、セブルスは枯れ羽帽子と防疫マスクも身につけて、久々の狩人モード全開で武装済みである。更にインバネスコートは校内でも変えずにそのままでいたのだ。おそらくヴォルデモートはそれでセブルスを最初から怪しんでいた。確信したのは今さっきというところだろうか。

 

 「憐れなものだ」

 

 端的に、セブルスは無表情で言った。

 

 分霊箱のために、ゴーストよりも惨めな霧霞のように成り果て、他者に寄生せねばならないヴォルデモートが。

 

 ホグワーツで教授職に勧誘されるだけあって優秀な魔法使いであったろうに、ヴォルデモートに寄生されてその道具にされているクィレルが。

 

 セブルスには、双方ともに憐れに見えずにはいられなかった。

 

 『やはり貴様か!セブルス=スネイプ!』

 

 「そちらは上手く隠そうとされてはいたようだ。が、ダンブルドアは見抜いていたようですな」

 

 『はっ!ダンブルドア!見抜いていたならなぜここにいない?』

 

 「私が知るか。本人に訊け」

 

 口ではそう言いつつも、セブルスには一つ、心当たりがあった。

 

 もし、ダンブルドアが予言のことをまだ信じているならば、いなくなったハリー=ポッターに替わり、ネビル=ロングボトムをその主役につけようとしたことだろう。

 

 あくまで推測の域を出ないが、ハグリッドの口の軽さで4階奥に隠されたものに勘づかせようとさせ、罰則やらにかこつけて、ネビルを帝王の元に向かわせようとした。

 

 ただし、ネビルはあくまで一学生としての領分を出ようとはしなかった。

 

 だから、ここにはいない。それが正しい。生徒を預かる寄宿学校で危険な目に遭わせるなど、本末転倒である。

 

 『ダンブルドアの代わりに相手になると?そもそも貴様、いつ気が付いた?』

 

 「答える義理があるとでも?貴公、その腐臭を何とかしたまえよ。ニンニクで紛らわそうと、わかるものにはわかるものだ。」

 

 確信に至ったのはハロウィーンであるのだが、それは言わないでおく。

 

 「それから、あれの代わりとは心外だ。私はあの老人ほど回りくどいことはせん。手短に済ませたい方なのだ」

 

 『おのれえ!』

 

 クィレルの身体を操るヴォルデモートは、苛立たしげに杖を振り上げた。

 

 間髪入れずに飛んできた呪い――流石に死の呪文は隙が大きいと学習したらしい――をセブルスが狩人のステップでよけた直後、クィレルは踵を返していた。

 

 彼はセブルスが解除した出入口――それも奥へ向かう方の通路に一目散に殺到した。

 

 それでも当初の予定通り、賢者の石を狙うつもりなのだろう。

 

 一番奥には、ダンブルドアの施した仕掛けがあるはず。そんな仕掛けがあって、どうやって解くつもりなのだろうか?

 

 興味の湧いたセブルスもまた、クィレルの後を追って部屋の中に入り込んだ。

 

 

 

 

 

続く

 

 

*1
おそらくは、星の娘エーブリエタースやメルゴーなどの上位者絡みの品




【クィレルのターバン】

 ホグワーツの“闇の魔術に対する防衛術”の担当教授、クィリナス=クィレルが頭につけている紫色のターバン。

 吸血鬼と遭遇したという彼は、その中にニンニクを詰めているとされ、極度にニンニク臭い。

 だが、真実は後頭部に出現しているヴォルデモート卿の顔から漂う腐臭を誤魔化すためのもの。

 圧倒的魔力とカリスマに、クィレルの魔法使いとしての矜持は失われた。来る復活の日のために、ターバンには魔除けの薬草たるニンニクを、闇の帝王の防護のために詰め込まれた。









 セブルスさん視点だからわかりづらいですが、ネビルとロンは、仲たがいするまではあれこれ動いて、賢者の石のことを調べ上げていました。(不仲のハーマイオニーは除外です)

 そして、またしてもロンにはセブルスさんは疑われています。原作よりも嫌味成分が控えめだし、ネビルも懐いているので、疑っているのはロンだけです。

 そして、仲たがいの結果、もういい!僕一人で石を守る!と寮を飛び出そうとしたロンを、ハーマイオニーとネビルが二人がかりで止めました。原作ではネビルにかけられた全身石化の呪いは、ロンにかけられる羽目になりました。

 そして、ロン一人じゃフラッフィーさえ突破できなかったんじゃないかな?





 よく二次創作だと、ニコラス=フラメルとダンブルドアの共同研究の件についてツッコミが入れられて、ダンブルドアが名声目当てに共同研究にしたんだー、とか解釈されてますが、フラメルさんから持ち掛けたって可能性もあるよな、と考えてみました。

 まあ、本当は原作者さんがノリと勢いで書いて、後から指摘されて、あっやべってなっただけでしょうけどね。




 次回の投稿は、来週!内容は、VSヴォルデモート後半戦。その後始末からの夏休み序盤。

 原作の2年目の夏休みといえば、ダーズリー一家による鉄格子監禁事件ですが、そのきっかけを作った子。本シリーズでも問題を起こします。

 ご主人さんがセブルスさんにモツ抜きされちゃうかもしれないのに、です。

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