セブルス=スネイプの啓蒙的生活   作:亜希羅

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 前回は、評価、感想、しおり、ここ好き、誤字報告、ありがとうございました。

 というわけで、続きです。

 第2楽章はどこまでやるの?ということですが、第3楽章のスタートをキリよくしたいので、あと1話+外伝(実質2話)で終わりということにします。





 ※寮杯の得点について

 セブルスさんが原作とは違ってえこひいきをしないので、原作とはだいぶ得点が違うと思います。

 あと、劇中で語っていますが、ハグリッドのドラゴンについての報告も、後日ハリーJr.&ドラコ、ハーマイオニー、それぞれ得点が与えられています。

 ロンも、第2楽章6ラストでダンブルドアが語った通り、(やり方はどうあれ、ハグリッドを思いやっての行動のため)減点・罰則が軽減されているので、30点減点に軽減されています。



 もう一つ。

 思うところがいろいろあるかもしれませんが、ロンはまだ11~12歳の子供です。反抗期も入ってくるでしょうし。子供は間違いを一杯やって叱られて成長していくものでもあります。1年生の時点ではこの有様ですが、まだ来年以降があります。もうちょっと彼については温かな目で見てあげてください。

 具体的には・・・ペットのネズミの件でひと悶着あるだろう3年生までは!




【8】セブルス=スネイプと、賢者の石②

 

 クィレルを追って、セブルスも奥の部屋に踏み込んだ。

 

 がらんどうの室内には、一つ大きな姿見が鎮座している。

 

 そして、クィレルはそれにへばりつくようにああでもないこうでもない、と調べているらしい。

 

 「何だこの鏡は・・・?

 

 この中に石が?私が石をご主人さまに差し出しているのが見える・・・どうすれば得られる?」

 

 へばりついてブツブツ言うクィレル(どうやら気が付いた彼自身らしい)を無視し、セブルスは鏡に目を向けた。

 

 鏡の枠に、古めかしい字体で『すつうを みぞの のろここ のたなあ くなはで おか のたなあ はしたわ』と書かれているのが、薄暗さの中かろうじて読めた。

 

 そして、セブルスの視線が鏡の中の彼自身と交わった。

 

 瞬間、鏡の中の彼がニヤリッと邪悪な笑みを浮かべ、ほぼ同時にパンっ!と音を立てて、鏡が粉々に砕ける。

 

 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!目がぁぁぁぁ!目がぁぁぁ!!

 

 ご主人さまぁぁぁぁぁっ!!」

 

 至近距離で鏡にへばりついていたクィレルはたまったものではなかったらしい。目の中に破片が入ったらしく、顔を覆ってゴロゴロと悶え転げ回っている。

 

 これが闇の帝王と、その手先の現在の姿か。

 

 セブルスは遠い目をしてため息を吐いた。

 

 ポッター家を襲撃して、数多くの死喰い人にひれ伏された、恐怖の権化の姿としては、何ともしまらないものがある。

 

 『ええい、クィレルよ、落ち着くのだ!』

 

 「ごしゅ、ご主人さまぁぁぁぁ」

 

 「気は済んだかね?」

 

 主従漫才にしか見えないやり取りをするクィレルとヴォルデモートに、セブルスは冷淡なツッコミを入れた。

 

 『スネイプ!貴様、何をした?!』

 

 「私が知るわけないだろう」

 

 ヴォルデモートの詰問を、セブルスは冷たく切り捨てた。

 

 

 

 

 

 この時点のセブルスは知らなかったが、この姿見は“みぞの鏡”という、一種の闇のアイテムで、その人の望みを映し出し、虜にして身動き取れなくさせるというものだったのだ。(こんな危険性があるのだから、十分闇のアイテムの範疇に入るだろう)

 

 ダンブルドアはそれを応用し、鏡の中に賢者の石を入れ、石を望めど使用までは望まない人間にしか、石を取り出せないようにしたのだ。

 

 その人の望みを映す――つまるところ、開心術の応用のような魔法が使われている。そして、それが上位者にして、ヤーナムで狂気と啓蒙、冒涜あふれる経験を山と積んだセブルスを映せば、キャパシティオーバーに至っても無理はなかった。

 

 憂いの篩(ペンシーヴ)や、死の秘宝である蘇りの石でさえ壊れるのだ。みぞの鏡に耐えられるわけがなかったのだ。

 

 

 

 

 

 『おのれええええ!どこまでも邪魔をぉぉぉ!』

 

 とうとう堪忍袋の緒が切れたらしいヴォルデモートが、クィレルの身体を操って立ち上がってきた。杖を振りかざし、呪いを放つ。

 

 セブルスは、それを軽くよけながら、右手に出現させたノコギリ鉈で、斬り付ける。

 

 「ぎゃああああ!痛い!ご主人さまあああ!」

 

 『黙っていろ!クィレル!殺してやるぞ!セブルス=スネイプ!』

 

 「できもしないことを言わないでいただきたい。大言壮語という言葉をご存じですかな?帝王閣下」

 

 ローブの上から胴を切りつけられ、傷口を押さえながらよろけるクィレル(鏡の破片のせいで顔面血まみれ)をよそに、喚く帝王と、静かに切り返すセブルス。

 

 わずかにリゲインできたクィレルの血に、セブルスは顔をしかめた。

 

 普通の血よりも、熱い。穢れた血族のそれとよく似ている。こちらの方が若干ぬるめではあるし、より臭いのだ。これこそが、ユニコーンの血をすすったことによる呪いだろうか。

 

 『苦しめ(クルーシオ)!』

 

 再びの杖を振り上げての呪いに、セブルスは左手にさげていた獣狩りの短銃を撃つことで対応する。ガンパリィだ。

 

 ・・・懲りない男である。

 

 「がはぁっ?!」

 

 杖を取り落とし、よろめくクィレルに、瞬時に距離を詰めたセブルスは、ノコギリ鉈を消した右手を、その腹に突き入れた。

 

 必殺にして必須技能たる、内臓攻撃だ。

 

 ブチブチと腸管を引きちぎり、たっぷりと熱い返り血を浴びながら、セブルスは吐き捨てる。

 

 「二度あることは三度ある、でしたかな?」

 

 「『ごあっ・・・?!」』

 

 血を吐いて倒れこむクィレルをよそに、セブルスは右手の腸管を放り捨てようとして、ふっと眉をひそめた。

 

 いつの間にか、それは風化した石のようにボロボロに硬くなり、砂のように崩れていっている。

 

 同様に、クィレルの身体も腹の傷からボロボロと砂と化して、崩れているところだった。

 

 遺言も残さずに、クィレルの身体は砕けて崩れ去り、ローブなどの衣類を残して床に散らばった。

 

 だが、セブルスは油断せずに静かにそれを見つめていた。直後、その砂に埋もれたローブから、ジワリと黒いインクがにじみ出るように、黒い霞のようなものが現れた。

 

 どこか悔しげに黒い霞は揺らめくと、そのまま通路を飛び出すように去っていく。

 

 セブルスは止めなかった。分霊箱が健在な以上、現時点での完全滅却が難しい上、今はその前にやることがあったからだ。

 

 先も記したように、今回の一連の出来事が、ダンブルドアのネビル=ロングボトムに対する試金石であるならば、もうすぐダンブルドアは魔法省への出張と見せかけた外出を切り上げて戻ってくるだろう。

 

 そして、セブルス自身は浴びたクィレルの返り血も砂になってしまっているので、砂まみれである。この状況をどうにかこうにか誤魔化す必要があるのだ。

 

 ダンブルドアに睨まれれば、ホグワーツを辞めなければならない。そうなれば、分霊箱探しが頓挫となるのだ。

 

 そして何よりも。

 

 セブルスはいつの間にかポケットに感じる重みにため息を吐いた。

 

 手を突っ込んで取り出してみれば、小ぶりな、血のように赤い結晶のような石があった。いつ手に入ったのだろうか?

 

 ・・・手に入った物はもらっておこう。ヤーナムでは死体漁りや、拾得物の無断着服など日常茶飯事だった。盗人も入っていたことだし、火事場泥棒などばれはしないだろう。

 

 ちょっと研究させてもらったら、速やかにフラメル夫妻に返却しよう。

 

 そう思い、その赤い石――賢者の石を血の遺志に還元して、速やかにしまった。証拠隠滅、これで身体検査をされようと、ばれる心配は皆無になった。

 

 すぐさまセブルスは服に洗浄呪文(スコージファイ)をかけて身ぎれいにして、武器の類も血の遺志に還元してしまった。

 

 そうして、彼は懐から取り出した青い秘薬を飲み干した。・・・最近この薬ばかり飲んでいるような気がする。

 

 直後、老体には似つかわしくない猛スピードでダンブルドアが部屋に駆け込んできた。

 

 お早いお越しだ。

 

 床に転がるクィレルの残骸(亡骸というにはあまりに無機質だった)に視線をくぎ付けにするダンブルドアをしり目に、セブルスは悠々と廊下を抜け出して不可視のまま自室に引き上げた。

 

 部屋についたところで薬は効果切れしたが、こちらの方が都合がいい。

 

 枯れ羽帽子と防疫マスクを外し、インバネスコートを脱いでコート掛けにかけて、デスクについた。

 

 まだいくつか書かなければならない書類がある。教授陣は生徒たちの帰宅3日後からサマーバケーションとなるが、帰宅しない教授もいるし、軽くでも来学期の準備をしておかねばならないのだ。

 

 羽ペンをとって、羊皮紙に書き付け始めたところで、目の前に銀色の猫が飛び込んできた。猫の守護霊といえば、マクゴナガルのそれだ。

 

 『セブルス。夜分遅くにすみません。教職員は全員緊急の招集がかけられました。

 

 すぐに職員室に来ていただけないでしょうか』

 

 ダンブルドアの行動は想像以上に早かったらしい。

 

 短く了承の意を告げて、セブルスは脱いだばかりのインバネスコートに袖を通し直した。

 

 

 

 

 

 その後、起こったことは端的に述べるとしよう。

 

 とりあえず夜中というのに開かれた緊急の職員会議でダンブルドアが事情を説明。

 

 ハロウィーンでのクィレルの不審行動を訝しんでいたが確証がなくて言い出せなかった、ハグリッドの卵の入手経路を訝しんで独自に入手経路を調べ上げて確信したが、証拠がない。そこで、罠にはめるべくわざと出張を装った、案の定クィレルが侵入したので、後を追って止めようとした、と。

 

 そして、4階廊下で砂に埋もれたローブが発見されたらしい。サイズと、一つ前の部屋に転がっていた紫のターバンから、クィレルのものだろうと。

 

 おそらく、帝王の寄生による反動だろう、とダンブルドアは憐れむようにつぶやいた。

 

 ここでダンブルドアは、ひたとセブルスに視線を向けて(開心術ではないが、反応を見逃すまいとしてだろう)、皆、何か知っていることはないだろうか、と尋ねてきた。

 

 嘘ばかりは言ってない、事実すべてでもないだろうな、とセブルスは閉心術できっちり閉ざした頭の中で思った。

 

 ここで、マクゴナガルが賢者の石はどうしたのか、という質問を投げた。

 

 壊した、フラメル夫妻から許可はもらっている、としれっと言ったダンブルドアに、セブルスは閉心術で覆い隠した内心で、嘘つけ嘘を、とぼやく。

 

 セブルスが着服したことはばれてないだろうが、石を収めた“みぞの鏡”は割れてしまっているわけで。ヴォルデモートが持っていったと思ったのだろうか。

 

 いや、それならヴォルデモートが復活しているだろうから、それはないと思っているのだろうか。

 

 ならば、なぜわざわざ壊した宣言をするのだろうか?

 

 鏡が割れたので、中の石も失われたと判断したのかもしれない。

 

 いずれにせよ、セブルスに何か言う権利はない。手元の石は有効活用させてもらうとしよう。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、寮杯を発表する学年末パーティーの時間である。

 

 グリフィンドールの途中大幅な減点のため、スリザリンがトップ!・・・となるはずが、最後の最後で駆け込み点数――石泥棒を察知したロナルドと、彼を止めたネビルとハーマイオニーのため――が与えられてしまい、セブルスは溜息をついた。

 

 

 

 

 

 ちなみに、ドラゴン関連の減点加点について補足しておくと、

 

 グリフィンドール・・・ネビルとロナルド(ダンブルドアの宣言もあって)がそれぞれ30点ずつ減点。ドラゴンのことを報告したハーマイオニーに後日10点の加点

 

 スリザリン・・・ドラコとハリーJr.のドラゴンの報告にそれぞれ5点の加点

 

 となる。

 

 

 

 

 

 それはもっと早く与えておけ。ここでやるんじゃない。

 

 ほら見ろ、スリザリンのテーブルがめちゃくちゃしらけている。自分たちの期待返せって、しらけてる。

 

 盛り上がる他3寮のテーブル(どちらかというと、ハッフルパフとレイブンクローはつられて盛り上がっているだけだ)をよそに、セブルスは早くパーティーが終わらないだろうか、と遠い目をした。

 

 「セブルス様、この場で点数を与えるのはよいのですか?」

 

 「よいのではないか?校長殿御公認だ」

 

 「では、私の方はスリザリンに5点あげたいです。今朝、5年生のニコルソン様が、荷物運びを手伝ってくださいました。先日が締め切りと伺っていたので加点できなかったのですが、ここで加点していいなら加点とします」

 

 投げやりに言ったセブルスに対し、メアリーが淡々と言った。

 

 瞬間、寮の得点掲示用の砂時計に加点がなされ(実はメアリーにも減点加点の権利があるのだ)、それまで盛り上がっていた全員が沈黙した。

 

 またしても、ギリギリの逆転だったのに、スリザリンがトップに躍り出てしまったからだ。

 

 「・・・では、ハッフルパフにも5点追加を。今朝早く、温室の掃除をMr.コードウェルが手伝ってくれましたので」

 

 「ならば、レイブンクローも5点・・・いいえ、10点追加を!」

 

 言い出したスプラウトと、フリットウィックに、ダンブルドアが信じられないものを見るような目を向けている。空気読め!と言わんばかりだ。

 

 最初に空気読まないことやらかしたのは自分だという自覚はあるのだろうか?

 

 「いいんですよね?セブルス様」

 

 「よいのではないか?最初に許可を出したのは校長殿だ」

 

 不思議そうに首をかしげるメアリーに、セブルスは遠い目をしながらうなずいた。

 

 「駆け込みの加点が許されるなら、当然減点も許されますな」

 

 遠い目をして投げやりに言い放ったセブルス(彼にはこうなるのがわかっていた)に、ギラリと各寮の監督生が目を光らせた。減点ならば監督生にも権限がある。

 

 そこからは見るも聞くも苦しい、減点合戦が横行してグダグダとなり、せっかくのパーティーが台無しになりかけた。

 

 やむなく、マクゴナガルが駆け込みの加点減点のすべてをなかったこととし(そんな!とロナルドが一人喚いていた。ネビルとハーマイオニーは当然だろうという顔をしていた)、スリザリンが寮杯を獲得することで、学年末パーティーは幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 なお、それ以降、学年末パーティーの席における寮の加点・減点は永久禁止となったのは、言うまでもない。

 

 

 

 

 

 さて、サマーバケーションだが、セブルスは積もりに積もったフラストレーション解消のために、聖杯に潜っていた。

 

 やはり、子供の相手というのは大変なことである。

 

 特に、平時ならば面倒になってすぐさま暴力に訴えられるところでも、曲がりなりにも教職であるならば我慢せねばならないのは、かなりの苦行であるともいえた。

 

 

 

 

 

 一応、前年のスラグホーンから授業の進め方の手ほどきを受けていたし、ホグワーツにも一応、授業マニュアルというものはある。

 

 魔法薬学の場合は、まずはノートに写すための基礎理論があり、それを中心に用いる例題の薬の調合法の指導法がセットで載っている感じだろうか。

 

 教師はそれに肉付けし、生徒が理解しやすく補佐する役目、と言い換えてもいいだろう。もちろん、約1000年前に成立したホグワーツの授業マニュアルだし、教科書も担当教授によって変わってきている上、年々改定されてきている。マニュアルはあくまで、目安に過ぎないのだ。

 

 そして、セブルスもそれを参考に授業を進めているが、やはりフラストレーションはたまる。

 

 

 

 

 

 投げる。斬る。斬る。斬る。投げる。斬る。斬る。斬る。

 

 本日の聖杯ダンジョンの階層ボスは、血に渇いた獣である。一見すると、赤く長い毛の4つ足の獣に見えるが、実は毛ではなくて、背中の皮が剥がれて垂れているだけと分かった時のセブルスの衝撃はすごかった。

 

 この獣の厄介なところは毒性の血液を持っており、リゲインすると毒も取り込んでしまうのだ。

 

 一番最初、旧市街でこの獣と戦った時、獣の攻撃よりも先に毒のダメージのせいで力尽きたのは言うまでもないだろう。

 

 ゆえに、本日はあらかじめカレル文字で耐性をつけておき、匂い立つ血の酒で誘導して、背後からひたすら斬りかかる戦法を取っている。

 

 この獣、垂れてきた背中の皮のせいもあるのだろう、視力があまりよくないらしく匂いで標的を探っているらしい。ゆえに、匂い立つ血の酒で容易に誘導できるのだ。

 

 発火ヤスリによる火炎属性付加も併用して、早期決着が目標である。

 

 ヤーナムの獣の持つ毒は下手な魔法薬系統の解毒剤でも中和しきれず、白い丸薬が必要不可欠だ。できれば、それも使わずに済ませたい。

 

 最後の一撃を叩きつけるや、断末魔とともに血に渇いた獣はドオッと横倒しになって倒れて消える。

 

 倒れたところにあった血晶石をセブルスはすぐさま拾い上げ、聖杯ダンジョンのあちこちに設置されている薄明かりに透かして確かめる。

 

 あまりレベルは高くないが、まだ未強化の武器もあったので、そちらにつけるとしよう。

 

 一つ頷いて、セブルスは血晶石を懐にしまう。

 

 ここでセブルスは、懐から銀鎖の付いた懐中時計を取り出した。

 

 言っておくが、魔法界製のみょうちきりんなものではない。下手をすれば文字盤の方が動くとか、そもそも時間ではなく持ち主の行動を表しているとか、針じゃなくて惑星運動で示しているとか、ややこしいものではなく、マグル製の良識的なものである。

 

 ・・・なお、その蓋には“瞳”のカレル文字が彫り込まれていたりする。

 

 セブルスはこの時計に魔法をかけており、時間の流れがわかりづらい聖杯ダンジョンでも、外の時間(年月日まで表示される)がわかるようにしているのだ。

 

 うっかり時間も忘れて、聖杯ダンジョンにのめりこんでいた。

 

 とある狩人の界隈では、聖杯にのめりこみすぎて、ヤーナムを置き去りにする狩人たちのことを地底人などと呼んでいたが、セブルスは、自分はそこまで重症ではないと信じたい。(一時、ヤーナムなんぞ知らんと聖杯ダンジョンに潜りまくっていたくせに、本人に自覚はない)

 

 いい加減出よう。三日も聖杯ダンジョンに閉じこもっているのは、さすがに精神衛生的によくないだろう。

 

 階層ボスを倒したことで出現した灯に手をかざし、セブルスは聖杯ダンジョンを脱出した。

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

 猛スピードでセブルスは走っていた。

 

 服装はリリーに釘を刺されたので、適当な服屋で購入したマグルの黒服を着用している。

 

 ロンドンでも大手の病院(もちろん、マグル界のだ)の入り口に駆け込み、患者名を告げれば、看護師は少々怪訝そうにしつつも素直に場所を教えてくれた。

 

 赤い処置中ランプの付いた扉の前で、沈痛な表情で集う3人。

 

 涙目のリリーと、その肩を抱き寄せるハリー。そして、泣きそうなのを懸命に我慢している様子のヘザー。

 

 「・・・具合はどうだね?」

 

 歩み寄ったセブルスに、答えたのはリリーだった。

 

 「頭を、強く打ったらしくて、意識不明の、重体で・・・」

 

 ヒクッとしゃくりあげながら言ったリリーに、ハリーが沈痛な面持ちで続けた。

 

 「二人で遊びに行かせて、帰ってくる途中だったんだ。どうして、こんな・・・」

 

 「・・・おじさん、手を貸して」

 

 静かに口を開いたのは、ヘザーだった。据わりきった目つきをしている。

 

 ・・・セブルスはアルフレートを思い出した。カインハーストの招待状を渡し、歓喜に満ちた感謝の言葉を述べた直後の、彼の目つきと同じだった。

 

 「・・・どうするのだね?」

 

 「ジュニアの敵討ちよ。ドラコのところの、あの変な、チンチクリンに、復讐するのよ!」

 

 噛みつくように、ヘザーが言った。

 

 

 

 

 

 ヘザーが言うには、遊びからの帰り道、横断歩道にて、突然その真ん中でハリーJr.が転んだらしい。

 

 ヘザーは渡り終えてからそれに気がつき、慌てて引き返そうとしたが、何か見えない壁でもあるのか、横断歩道の中に踏み込めず、ハリーJr.は立ち上がろうともがくが、立つこともできず、そして。

 

 信号は変わり、走ってきた車にはねられたのだ。

 

 幸い、車の方がスピードを出してなかったのと、目撃者も大勢いて、すぐに救急車が呼ばれた。

 

 そして、そんな中、ヘザーは確かに見たのだ。

 

 ハリーJr.が轢かれた直後、変なものを見たのだ。子供ほどの大きさで、テニスボールのようなぐりぐり目玉に、枕カバーのようなみっともない服を着た、妙な生き物を。少し申し訳なさそうにしながらも小さく笑い、パチンと指を鳴らしてその場から姿を消したのを。

 

 ヘザーには、それは見覚えがあった。

 

 一昨年のハロウィーン、その日に家に遊びに来たドラコが連れていた妙な生き物――ハウスエルフの、ドビーだ。

 

 本来の役目は、ドラコのお目付け役兼世話係のはずだったが、まるでアイドルのようにハリーJr.にウキウキと接しており、あの怪物邸騒動の際は、ひたすら邪魔しかしなかった(ドビーが騒ぎ立てたせいで警官がやって来て、子供たちは一度補導されかけたのだ)、とんだ役立たずだった。

 

 あいつの仕業に違いない!ヘザーは確信していた。

 

 

 

 

 

 直前の、おそらくは多重魔法仕掛けと、指パッチンで姿くらましする子供大の、みっともない服を着た生き物。

 

 何よりも、ヘザーの証言。

 

 「マルフォイ家のハウスエルフか・・・」

 

 うなずいて、セブルスは怪訝そうにしているハリーに対し、ハウスエルフについての補足を入れる。

 

 「ハウスエルフは多くの場合、豪邸などに住む裕福で由緒正しい魔法使いの家庭に仕えている。彼らは、解放されない限りは主人の言うことに必ず従わなければいけないそうだ。

 

 また、杖を必要としない独自の魔術を備えており、小さな体にも関わらず極めて強力だ。

 

 そやつがジュニアに危害を加えたというならば、それを命じた主人がいるはずだ。

 

 だが、ルシウス=マルフォイがそれをするとは・・・」

 

 「Mr.マルフォイのところのハウスエルフ・・・? 何で、ジュニアが・・・?」

 

 涙目で見上げてくるリリーに、セブルスは首を振った。

 

 わかるわけがない。だが、幸い、セブルスはルシウスとは友好関係にある。わからないなら、直接尋ねることも十分可能だろう。

 

 その結果、好ましくないことになったとしても、仕方がない。ルシウスとは良い仲を築けていたと思っていたというのに、残念であったというほかない。

 

 「Mrs.メイソン。フクロウを貸していただけるかね?連絡を取りたい相手がいるのだ」

 

 「・・・ジュニアのだけど、それで何かわかるなら」

 

 セブルスの言葉に、リリーは涙をぬぐってコクリと頷いた。

 

 

 

 

 

続く

 

 




【賢者の石】

 錬金術の深奥、完全物質。血のように赤い石で、不老不死の秘薬、命の水を生成し、黄金を作り出すことが可能。

 ニコラス=フラメルによって錬成されたこの石は、十分な命の水を生み出したのち、グリンゴッツからホグワーツに移送された。

 鏡の奥に眠らされた赤い石は、純粋に求めるものの手の中にこそ、現れるという。





 犬を飼うのは反対されたけど、手紙のやり取りができるし、何よりハリーJr.本人がちゃんと最後まで面倒見るから!(鳥かごの管理、餌はちゃんとやる!飛べなくなっても最後まで!)と宣言したことでシロフクロウのヘドウィグは、メイソン一家の一員になったよ!ハリーJr.のペットだからホグワーツに連れて行ってるし、フクロウのお世話について書かれてるハウツー本とかも読んで、原作よりも甲斐甲斐しく世話してるんじゃないかな?









夏休みコソコソ話

「ハリー=ポッター!ホグワーツに行ってはいけない!」

「ええっと、君、ドラコのところのハウスエルフだよね?ドビー・・・だっけ?

 ボク、ポッターじゃないし、他にもいろいろ疑問だけど・・・何で?」

 「それはそのう・・・ドビーは悪い子!」

 「わあ?!こんな公園で、それはやめて?!わかった、質問は取り消すから!」

 「では、行かないと約束していただけるのですね?!」

 「うーん・・・じゃあ、行かないって言ったら、君がどうにかしてくれる?」

 「え?」

 「だってホグワーツに行かないんだよ?今年の分の魔法の勉強は?君が家庭教師を派遣でもしてくれるの?そうだ!今年からクィディッチも始められるのに、それもダメになるんだから、それも何とかしてよ。ドラコと一緒にチームに入ろうって約束してるんだ。

 ホグワーツがダメなら、せめてイルヴァモーニーに編入とか、そういう手続きは?ルシウスさんがやってくれるの?」

 「(想定外すぎて固まってる)」

 「理由が言えないなら、せめてこれはこう考えて代わりにこうしたらいいように手配してるって説明してよ。でないと納得できないよ?

 あ、ヘザーが戻ってきた。ボク、もう行くね!ドラコによろしくね!」

 ドビーは決意した。言ってわかってもらえないなら、実力行使に出るしかない!と。





 次回の投稿は来週!内容は、セブルス&ハリーVSルシウス、ドビーという名の生肉サンドバッグを添えて。お楽しみに。

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