セブルス=スネイプの啓蒙的生活   作:亜希羅

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啓蒙が高まったので、ちょっぴり続きをば。

くどいようですが、原作読んだがの大分昔なので、時系列がかなりおぼろげです。

許してクレアボヤンス。


【2】セブルス=スネイプは、ハウスエルフに泣かれる

 ルシウスとの再会から数日後。

 

 “葬送の工房”の結界に何かがぶつかった。

 

 前述したが、“葬送の工房”にはマグル避けと偽装結界が施してあり、傍目には襤褸屋にしか見えない。

 

 加えて、最近上位者としての力の使い方というのもわかってきたセブルスが、ちょくちょく実験がてらいじくっているので、力ある魔法使いといえど、この工房の結界を解くことは実質不可能である。原理からして違うのだ。

 

 力任せに強引に破ることも不可能ではないのだが、その場合結界の主であるセブルスが容易に察知できる。

 

 

 

 

 

 思えば、ヤーナムは上位者によって作られた箱庭であり、巨大な胎盤でもあったのだろう。上位者の赤子を孕み、それを育て上げるための。赤子には栄養がいかねばならず、肥え太らせるために外部とのつながりが必要だった。

 

 ゆえにこそ、狩人は夢を通じて、ヤーナムの内部であれば自由に行き来できたのだろう。アメンドーズやメンシスのように独自の領域を持てど、決して侵入が不可能というわけではなかったのは、そういうことなのだ。

 

 セブルスを始めとした外部から来たものは、赤子に行き渡る養分であり、細菌でもあった。まさか取って代わられるとは、月の魔物も思ってもいなかったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 閑話休題(話を戻す)

 

 セブルスの場合、そういった外部からの異物の混入が不要なので、結界の主が望まぬ場合、結界は何人も通さないのだ。

 

 例えそれが、闇の帝王であろうと、人間の魔法使いよりよほど器用に魔法を使うハウスエルフであろうと。

 

 どうも、外から結界を破ろうとしているらしく、地震のように定期的な振動がわずかに工房を揺らす。

 

 「何事でしょうか?」

 

 ティーサーバーを片手に静かに尋ねてきたメアリーに、セブルスは「さてな」と言いつつ、インバネスコートを着込み、防疫マスクと枯れ羽の帽子を身につける。

 

 ちょうど今は、大学は休み、研究の合間の息抜きのお茶の時間だった。メアリーはクッキーを焼くのが上手い。老ゲールマンも食べていたのだろうか?もっとも、ヤーナムでは食事は不要であったのだが。

 

 工房道具の脇に立てかけておいたノコギリ鉈と獣狩りの短銃を持ち、「行って来る」と言って、彼は踵を返す。

 

 「お茶と菓子は残しておいてくれ。帰ってきてから続きを食べる」

 

 「わかりました。行ってらっしゃい、狩人様。あなたの目覚めが、よきものでありますよう」

 

 礼儀正しく一礼して見送るメアリーにうなずいて、セブルスは踵を返した。

 

 

 

 

 

 ちょうど結界の外に出た直後、泣きそうな顔をしたハウスエルフが、結界の外をうろついているのを目撃し、セブルスは脱力する。

 

 もし闇の陣営の魔法使いであれば、ズタズタにして、血を抜き取ってから、聖杯ダンジョンに獣のエサとして放り込んでやろうと思っていたのに。

 

 ・・・大分思考が猟奇的になってしまっているが、ヤーナムに毒されてこの程度で済んでいるのは御の字であろう。その気になればもっと冒涜的なこともできるのだから。

 

 もちろん、そんな思考は閉心術でキッチリと覆い隠し、セブルスはハウスエルフに声をかけた。

 

 「我が家に何用かな?小さな隣人よ」

 

 はたと振り返ったハウスエルフは、セブルスを見上げて一瞬ギョッとした顔をするが、それはマスクと帽子のせいで顔が見えなかったからだろう。セブルスが頭装備を取ったことで彼が誰かわかるや、すぐにほっとしたような顔をした。

 

 ・・・余談だが、セブルスは普段、上位者としての気配は基本的に押し隠している。以前、羽生蛇村で気配を全開にしたら屍人の群れが泣いて回れ右したので、以降は押し隠すようにしている。

 

 ひょっとしたらハウスエルフには悟られるかもしれないとチラと思ったが、この分なら大丈夫だろう。

 

 「ああ!セブルス=スネイプ様!どうか!どうかレギュラス坊ちゃまを助けてください!」

 

 ハウスエルフ特有のキーキー声で喚かれて、セブルスは眉根を寄せた。

 

 というよりも、例のごとく、記憶が摩耗しているので、名前を聞いても誰だっけ?状態だったりする。

 

 数拍の沈黙の後、ようやく思い出す。

 

 ああ、ブラックの弟!純血貴族にしては、ハウスエルフをかわいがっていた、あの奇特な!・・・ついでに、兄の非礼をことあるごとに平謝りに謝ってきて、兄に代わって家を継がなければならないというプレッシャーに苛まれていたように見えた。

 

 あの、啓蒙低い愚か者が兄では、要らぬ苦労も背負い込まざるを得ないだろう。

 

 「レギュラスがどうかしたのか?いや、待て」

 

 周囲を見回し――人通りの少ない田舎であるが、壁に耳ありである。目耳はないだろうが、用心するに越したことはない。

 

 「立ち話もなんだ。むさくるしい我が家であるが、あがりたまえ」

 

 くるりと踵を返し、無言呪文で結界を緩め、ブラック家のハウスエルフが通れるようにしてやる。

 

 ついでに言うなら、セブルスはヤーナムを出てから、杖は狩衣装の右の手甲に仕込むようにしたので、一見すると杖なしで魔法を使っているように見えるのだ。

 

 家に通し、床に座ろうとするハウスエルフにソファを勧めるや、「坊ちゃまの学友まで、クリーチャーに優しい!」と号泣される始末だった。(もっとも、混血だと知られれば、また違った反応をされただろうが)

 

 

 

 

 

 セブルスは知らないことだが、同じ事をレギュラスが、クリーチャーというハウスエルフにして、それをきっかけに二人は種族を越えた友となり、終生変わらぬ親愛と忠誠を捧げられることになるのは、全くの余談である。

 

 

 

 

 

 メアリーが新しく紅茶を用意して、クリーチャーの前に置くや、またしても感極まって号泣された。(「クリーチャーめにお茶まで出してくれるなんて!」)話が進まない。

 

 なだめすかして、本題を聞き出す。

 

 聞き出して、セブルスは天井を仰ぎたくなった。

 

 お茶をしているどころではなかった。

 

 後輩に呼ばれたようで、“姿くらまし”で消えようとして、失敗したクリーチャーがもんどりうってソファから転がり落ち、セブルスが家の外に出ないと使えないと言うや、あわてた様子で、挨拶を述べて家を飛び出していった。

 

 紅茶を飲み干し、セブルスは席を立った。

 

 一度は外しておいた、枯れ羽帽子と防疫マスクを身に着け、保管箱からは白い丸薬を、家の地下からは解毒剤とベゾアール石を取り出しておく。

 

 「騒々しくて済まないが、行ってくる。客間を整えておいてくれ」

 

 「わかりました。行ってらっしゃい、狩人様。あなたの目覚めが、よきものでありますよう」

 

 メアリーの丁寧な一礼を背に、セブルスは工房の扉を閉めた。

 

 

 

 

 

 ちなみに、ハウスエルフのクリーチャーが持ってきたレギュラスの話というのは、割とろくでもなかった。啓蒙高くはなかったのが救いか。

 

 ざっくり言ってしまえば、家庭の事情もあって、ホグワーツの卒業前に“死喰い人(デスイーター)”になったレギュラスが、クリーチャーを痛めつけられたため、闇の帝王に反旗を翻した。

 

 その痛めつけられた要因というのが分霊箱(ホークラックス)――端的に言うなら、魂を分割して、それを隠した器の隠し場所のために、毒薬をたらふく飲まされたというものだった。

 

 レギュラスは単騎で分霊箱を取ってくるので、それをクリーチャーに破壊しろということだが、肝心のハウスエルフはそれをやったら確実にレギュラスの命はないと思い、学生時代に彼が慕ったセブルスを、どうにか探り出し、助けを求めたのだ。

 

 

 

 

 

 何故に己なのだ。

 

 教えてもらった隠し場所の海辺の洞窟目がけて高速で駆け抜けながら、埒もあかないことを考えてみる。

 

 ・・・なお、以前は触媒として古狩人の遺骨がなければ、この高速移動はできなかったし、使用の度に水銀弾を消費しなければできなかったのだが、上位者となっているうえ、魔法も応用して、いくつかの秘儀は触媒抜きで魔法として行使できるようになった。

 

 ともあれ、セブルスは高速で駆け抜けながら、もう一度問う。なぜに己に助けが求められたのやら。

 

 

 

 

 

 まあ、無理もないかもしれない。

 

 レギュラスの兄、シリウスは成績こそ優秀だったものの、次期当主の自覚、どころかそんなものは知らんと言い放ち、放蕩三昧。代々スリザリンの家系であるというのに、ただ一人のグリフィンドールというのは、まだ微妙なラインだが、完全に魔法界の王族を自称するブラック家の責任を放棄しているあたり、ダメだろう。

 

 噂を聞く限り、どうも不死鳥の騎士団に所属しているようで、彼に助けを求めようものなら、よくて見捨てられ、悪ければダンブルドアが出てきてダブルスパイに仕立て上げられるだろう。

 

 ・・・同じ名門純血一族の次期当主のルシウスの爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。

 

 両親は両親で、勘気の強いヴァルブルガと、その尻に敷かれている節はあるが立派に当主を務めるオリオンである。加えて、二人とも闇の陣営にすっかり染まっている。

 

 おまけにハウスエルフを家畜扱いしているので、助けを求めても徒労に終わるだろう。

 

 そもそも、クリーチャーは“家族にも言ってはいけない”と口止めを食らっていたらしい。そこを“家族ではない。けれど信頼できる”人材として、セブルスを頼ることにしたらしい。

 

 認められていたのは素直に嬉しいが、だからと言って1年以上放浪して連絡不能になっていた彼を、信頼に値すると判断するとは。

 

 ・・・ハウスエルフの感性が、わからない。

 

 

 

 

 

 話を戻す。

 

 如何に人間性を摩耗した上位者であろうと、やはり知己がいなくなるのはさびしいものだ。

 

 ・・・オルゴールを思い出す。あの少女のようなことは、あってはならない。

 

 あと、豚は死ね。いっぺんの慈悲もない。

 

 ヤーナムを出てから、豚肉だけは受け付けなくなった。奴らは家畜ではなく、汚物の一種だ。

 

 決意を新たに、セブルスは足を速めた。

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

 結論だけを言ってしまうなら、救出は間に合った。

 

 亡者に掴まれて水底に引きずり込まれそうになっていたレギュラスを、間一髪で駆け込んだセブルスは、亡者を獣狩りの散弾銃で蹴散らし、ノコギリ鉈でズタズタにして、レギュラスが気絶しているのをいいことに、上位者としての気配を全開にして威圧した。

 

 亡者は泣いて我先に水底に飛び込むように帰って行った。

 

 すでに死していようと、狂気と啓蒙は御免こうむりたいらしい。

 

 ともあれ、たらふく毒を飲んだせいでグッタリしているレギュラスに解毒剤とベゾアール石を砕いて与えるが、それらでは効果が薄く、結局ヤーナム産の白い丸薬を喉奥まで押し込んで水を飲ませて強制嚥下させた。

 

 どうにか呼吸と脈が落ち着いたところで、セブルスは彼を担いで洞窟の外で“姿くらまし”をした。行先はもちろん、“葬送の工房”である。

 

 

 

 

 

 工房の外で“姿現し”したセブルスは、そのままグッタリしたままのレギュラスを着替えさせてから、メアリーの用意した客間に放り込んだ。

 

 先ほど中途半端に暴れたので、まだ熱がくすぶっている。

 

 そろそろ時期だし、聖杯ダンジョンに潜って3デブを狩ってこよう。アメンドーズもいいかもしれない。

 

 黒髪とインバネスコートの裾を翻し、セブルスは庭先にある聖杯ダンジョンに続く石碑へと向かった。

 

 

 

 

 

 守り人の長と、残酷な守り人2人、通称3デブの返り血をたっぷりと浴びて、全身を真っ赤に染め上げたセブルスが、聖杯ダンジョンから戻ってきた。

 

 ちなみに、今回はなかなかいいレベルの呪われた濡れ血晶が手に入ったが、デメリットが全マイだったので、その場で捨てた。残念。

 

 工房に入る前に、 洗浄呪文(スコージファイ)で返り血を落とし、消臭呪文で臭い消しをする。

 

 ヤーナムにいるときは気にしなかったが、サイレントヒルや羽生蛇村をうろつくとき血塗れでいたら、会えたまともな人間たちにドン引きされたので、それ以降は人に会いそうだと判断したらその前にできるだけ血糊を落としている。魔法は便利だ。

 

 流石に亡者の軍勢に水底ボッシュートされそうになった後、全身血塗れの啓蒙ガンギマリ狩人と面会したら、気苦労を一身に背負い込んでメンタルを鍛えられたレギュラスといえど、発狂待ったなしだろう。体から槍が生えて死んでしまう。

 

 加えて、工房に血がついては、掃除をするメアリーの手間を増やしてしまう。

 

 忠実な家人は「それも私のつとめですから」としれっと言ってのけるが、やはり必要以上に彼女の手は煩わせたくない。

 

 工房の扉のノブに手をかけたところで、大声で悲鳴が聞こえた。だいぶ聞いてなかったが、おそらくレギュラスの悲鳴だ。

 

 はて?彼のいる客間には冒涜的な品々――レッドゼリー(真っ赤な胎児らしき肉片)やら生きてる紐(血濡れで時々グネグネ動く血管じみた紐)やらは置いてなかったはずだが?

 

 ふと、思い出した。メアリーは、等身大の、動いてしゃべる人形である。

 

 他の魔法使いの邸宅でも、メアリーのような人形の話は聞いたことがない。下手をすれば闇の魔法の影響を受けたアイテム扱いされているのでは?

 

 思い至るや、セブルスは猛スピードで客間に向かった。

 

 杖を取り上げておいてよかった。でなければ、メアリーは粉砕呪文(レダクト)あたりで粉々に・・・いや、彼女も夢の一部であったはず。以前、図々しく乗り込んできた他世界の狩人との戦闘に巻き込まれて胴体が泣き別れしたというのに、ちょっと目を離したすきに平然と復活していたのだから。

 

 セブルスが客間の扉を開けた時には、困っている様子のメアリーと警戒を露わにできるだけ距離を取っている――ようにベッドの端に寄っているレギュラスに、セブルスは安堵の息を吐く。

 

 「彼女のことなら心配はいらない。気が付いてよかった、レギュラス」

 

 「えっと・・・?!」

 

 「ああ、これではわからないか」

 

 困惑と警戒を宿した目で見てきたレギュラスに、セブルスは枯れ羽帽子と防疫マスクを脱いでみせる。

 

 「あ・・・スネイプ先輩?!」

 

 「久しぶりだな」

 

 目を白黒させるレギュラスに、スネイプはわずかに笑みを浮かべて見せた。

 

 それは、かつて格子窓越しに父母を必ず見つけ出すと少女に約束した時の顔と同じであった。

 

 

 

 

 

 その後、どうにか落ち着かせたレギュラスに、メアリーを大陸から持ち帰った由緒正しい魔法の品であると納得させるのに腐心した。

 

 もっとも、本来は魔法どころか上位者の力が使われている、数倍わけのわからない代物なのだが。

 

 しかしまあ、メアリーは本来は啓蒙を得ていなければ、彼女が動いていることは認識できないはずなのだが。このあたり、セブルスが上位者となって、彼女を“狩人の夢”の外に連れ出した影響が出ているのかもしれない。

 

 ともあれ、その後、回復したレギュラスは行き場がないため(闇の陣営からは裏切り者、光の陣営には逆スパイにされかねない)、大学をスキップで卒業したセブルスのもとで、容姿を誤魔化して居候させてもらうことになった。

 

 ・・・余談になるが、レギュラスは当初は警戒していたくせに、間もなくメアリーの作るアイリッシュシチューに陥落することになる。

 

 

 

 

 

 なお、クリーチャーが持っているスリザリンのロケット(つまり分霊箱)だが、言葉巧みに手元に置くことに成功したセブルスが、ノコギリ鉈(+10、呪われ濡れ血晶でギリギリまで強化済み)を一撃当てただけで、黒い靄のようなものを吐き出しながら簡単に砕けた。

 

 ・・・強化しきった仕掛け武器(獣、狩人、上位者を殺害済みでその血に塗れている)は、バジリスクの牙、悪霊の炎、ゴブリン製の武器以上の凶器である。

 

 

 

 

 

 その年のハロウィンに、運命が動き出す。

 

 幼年期の終わりを迎え、人類の新たな門出を迎えたセブルス=スネイプとて、それを知る由はなかった。

 

 

 

 




【家宝のペンダント】

 魔法界の王族ともいわれる純血貴族、ブラック家に代々伝わる家宝のペンダント。

 精緻な細工には、古の魔力と伝統が込められている。

 代々の当主が持つべきそれは、冷たい毒の底に沈められた。

 彼の小さな友を苦しめた、闇の帝王に対する、たった一つの反逆の証として。



 ブラボ風テキストに初挑戦。めっちゃむずいです。



 2021.01.10.追記

 1月9日はスネイプ先生のお誕生日でした!投稿後に知ったのですが。

 先生、誕生日おめでとうございます!

外伝(ポッター家周辺惨殺現場、予言、シリウス裁判関連のあれこれについて。ブラボ要素はほぼ皆無)を読んでみたいですか?

  • もちろん!すぐに!
  • サイレントヒル2編の後で!
  • 第1楽章終了後で
  • むしろプリンス家関連の話の方がいい
  • 興味ないです
  • その他!

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