セブルス=スネイプの啓蒙的生活   作:亜希羅

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 評価、お気に入り、ここ好き、誤字報告、ありがとうございました。

唐突ですが、『ベルセルク』作者の三浦健太郎先生がお亡くなりになられたそうです。言葉にできないほど悲しいです。この場を借りて、ご冥福お祈り申し上げます。



 話を戻して、本編の方は、『賢者の石』編が終了、次回から『秘密の部屋』編に突入となりますが、その前に外伝を一つ。

 インテルメッツォということからお察しのとおり、小話集です。

 お品書きはこちら。

①[狸の腹鼓で羊は踊るか]

②[森番は教導者たり得るか]

③[悪戯騒霊と、帰ってきたいじめられっ子]

 以上、3本立てとなります。以前から予告していたケトルバーン先生のお話もあります。


【インテルメッツォ2】ホグワーツ教職夜話

[狸の腹鼓で羊は踊るか]

 

※第2楽章1中盤以降、ダンブルドアの錯乱回復直後。

 

 

 

 

 

 「皆、すまなかったの」

 

 「ダンブルドア先生!もう大丈夫なんで?!」

 

 「ほっほっほ。心配かけたの、ハグリッド」

 

 医務室のベッドの一つを囲み、和やかな空気を漂わせていた。

 

 ベッドに上半身を起こすのは、偉大なる魔法使い、ダンブルドアである。

 

 にっこり笑うダンブルドアに、ぱあっと表情を明るくするハグリッド。ハグリッドほどでないにしろ、正気を取り戻して落ち着いた様子の校長に、他の教職員たちはほっとしたような顔をした。

 

 

 

 

 

 なお、ダンブルドアは教職員たちがやってくる前に意識を取り戻し、自分自身に杖を向けて忘却術を使用した。

 

 忘却術を使ったこと自体は覚えていた彼は、その記憶を、自分の賢い脳みそにとどめておくには不要だと判断したと思っているが、実際は違う。

 

 彼の賢くお行儀のよい脳みそには、あまりに過酷で冒涜的であったためだ。放置しておけば、脳溢血を起こしてもおかしくなかった。

 

 そもそも、ダンブルドアは自分が開心術を使ったことをセブルスに察知されたとは思ってもいなかった。

 

 何しろ、彼の使う杖は最強の杖であるニワトコの杖だ。この杖を手にしてからは、無言呪文も格段に楽になり、さらに本来なら詠唱をしなければ表層意識を探るのがせいぜいの開心術も、無言呪文で軽々と深層記憶まで探れるようになった。よほどの閉心術師でない限り、開心されているとは察知するのも困難であろう。

 

 より良き善のために。

 

 白に見えようと黒であるやもしれない。白を白と証明するために、正しく魔法を使っているのだ。何も問題はない。

 

 

 

 

 

 人間は楽な方へ流れる生き物である。

 

 一度楽を覚えてしまえば、そこから抜け出すのは至難の業である。

 

 ニワトコの杖によって強化された、察知されにくい無言呪文開心術を習得してしまったダンブルドアは、最初の頃こそ使うのに慎重になっていたが、数十年も使い続けたことによってすっかり感覚がマヒしていた。

 

 ゆえにこそ、目を合わせるだけで気軽に使えるその魔法を使うことに、ためらいはなかった。

 

 特に、学校から出奔して、数年も足取りがつかめず、次に姿を現した時は学生時代の面影もないほどの変貌を遂げていた――まるで、かつてのヴォルデモートと同じような、セブルス相手に使うのには。

 

 見た目こそ小ぎれいになっていたが、油断はできない。見せかけは人を惑わす邪悪だ。

 

 しっかり内面まで覗いて問題がないか確かめなければ。それもできないのに教師として雇うなどもってのほかだ。

 

 

 

 

 

 「まったくですよ、アルバス。一体どうしたのです?」

 

 「うむ。実は、久々に魔法薬の実験をやったのじゃが、どうも調合を間違えてしまったようでの。副作用が今頃になって出てしもうたようじゃ」

 

 「おっちょこちょいですね、次から気を付けてくださいよ」

 

 「ほっほっほ。すまんの」

 

 和やかに談笑する一同。

 

 セブルスに開心術を仕掛けたら、冒涜的すぎる記憶と経験を垣間見て、耐えきれずに発狂しかけて錯乱したのが実際のところだが、ダンブルドアはその内容は忘れてしまっている。

 

 だが、開心術を仕掛けたということ自体は覚えていた。それでも、他人に開心術をいきなり仕掛けるのは、マナーというか、人道的にどうかというのは分かっていたので、口にはしなかった。

 

 「時に、セブルスはどうしたのじゃ?」

 

 「今はホラスとともに、城内を見て回っていますよ。彼が在学していたころとは、使用教室が違ったりしていますからね」

 

 ダンブルドアの問いかけに、マクゴナガルが答えた。

 

 ホグワーツ城は広い。そして、創立して数百年、どころかもうすぐ千年経とうかという超骨董物件でもある。いくら魔法で耐久性を増していると言っても、メンテナンスは必要である。人間が中で生活していれば、なおのこと負担がかかるものだ。

 

 ゆえに、周期的に教室を変更し、使ってない教室は改装したり、補強工事を行ったりしているのだ。工事といっても、古い構造を魔法で補強したり保存や耐久性増加のための魔法をかけなおしたりしているだけだが。

 

 「それにしても、少々驚きましたわ。男子三日会わざれば刮目して見よ、という言葉が中国にありますが、ずいぶんな変わりようでしたわね」

 

 「あの拳には驚きました・・・杖を抜く前に、まさかマグルのように殴りに行くとは」

 

 スプラウトとフリットウィックが口々に言う中、教授陣唯一のゴーストであるカスバート=ビンズ(魔法史担当)がぽつりと言った。

 

 『なにやら不思議な香りもしましたな』

 

 「不思議な香り?」

 

 『ええ。まるで月の香りのようでした』

 

 現世と幽世の狭間に在るゴーストだからこそ、その香りを嗅ぎ取ったのであろうか?ぽつりと言ったビンズに、他の教授陣は全員が怪訝そうな顔をした。彼らにはそれらしい匂いは分からなかったのだ。

 

 髭をなでながら、一人静かに思案していたダンブルドアは、やがてポツリと言った。

 

 「ルビウス。覚えておるか?」

 

 「ヘイ。何をですか?」

 

 「かつて、この学校におった、優秀な魔法使いじゃ」

 

 途端に、教授陣がしんと静まり返る。

 

 「あやつは、邪な心をもって、この学び舎を邪悪に染めようとし、儂に阻止されてからは姿を消した。

 

 そして、そのまま何年も潜伏し、再び姿を現した時、あやつは変わっておった。姿はもちろん、かつての名前すら捨てて。

 

 皆が、その名を口にすることさえ恐れるほどの、恐怖の象徴、闇の魔法使いとなって」

 

 滔々としたダンブルドアの言葉に、誰かがごくりとつばを飲み込んだ。

 

 「アルバス?

 

 まさか!いくらなんでも!」

 

 「ミネルバ。儂は、悔いておるのじゃ。あ奴を見逃してしまったことを」

 

 言って、ダンブルドアは項垂れた。

 

 「あの時は、それが最善と思っておった。じゃが、もしかすれば・・・他に選択肢があったのかもしれぬ。

 

 あるいは、トムをもっと間近に置いて、しっかりと見ておけば、とな」

 

 「アルバス・・・」

 

 「・・・我々は、教師です。教え子が間違えそうならば、正して導くのもまた、我々の務めであるべきでした。

 

 それができなかった時点で、ここにいるものはほとんど同罪でしょう、ダンブルドア」

 

 もの言いたげにするマクゴナガルと、しんみりした調子になって言ったのはフリットウィックだ。

 

 「・・・今ならば、まだ間に合う者も、おるのじゃ」

 

 「・・・彼がそうなるとは限りませんよ?信じるのもまた、教師の務めでは?」

 

 顔を上げて言ったダンブルドアに、苦言を呈する調子で口をはさんだのは、校医のマダム・ポンフリーだった。

 

 「そうして、また繰り返せというのかのう?」

 

 「・・・校長。あまりこのようなことは言いたくありませんが、これだけは言っておきましょう」

 

 マダム・ポンフリーは、嫌悪に満ちた表情を隠しもせずに、老人を睨みつけて言い放った。

 

 「ここはホグワーツで、ここにいるのは、未来のイギリス魔法界を担う、魔法使いの子供たちです。寮で分けられていようと、それだけは絶対変わらないはず。

 

 そして、我々は、彼らを教え、守り、導く立場であるはずです。

 

 それをまとめるべきあなたが、率先して敵を作り上げるのは、子供たちに見せるべき、大人の姿勢なのですか?」

 

 マダム・ポンフリーの問いかけに、ダンブルドアはかけなおした半月型の眼鏡の奥のペールブルーの瞳を、黙ってきらりと光らせただけだ。

 

 「私はあくまで、生徒の味方です。彼らの心身の安全こそ、私の最優先課題です。

 

 それだけは確かですので。

 

 ・・・言いたいのは、それだけですよ」

 

 言い捨てて、マダム・ポンフリーはくるりと踵を返した。

 

 「ほっほっほ。わかっておるとも」

 

 ダンブルドアはそう鷹揚に笑った。

 

 

 

 

 

 のちに、己を殴り飛ばしてきたことについて詰ってきたセブルスに、ダンブルドアは自分の行いを早計であったかもしれないと思った。

 

 しかし、ハロウィーンの日、血の海を前に妙に落ち着いたセブルスを前に、再び疑心が持ち上がってきたのは、言うまでもない。

 

 

 

 

 

[森番は教導者たり得るか]

 

 ※第2楽章6以降、ドラゴンの卵が引き取られてから。

 

 

 

 

 

 バーホーテンのココアの合言葉で、シルバヌス=ケトルバーン魔法生物飼育学教授が校長室に入室した。後ろにはそわそわしているハグリッドを連れている。

 

 ハグリッドは、きっと例の話だと確信していた。

 

 去年のことだ。引退を決めたスラグホーンが、自身の後継者としてスネイプを助手として雇い、1年かけて授業進行や指導のノウハウを伝え、後継者として太鼓判が押された状態にしてから、引退をした。

 

 そして、ケトルバーンもまた、向こう見ずさと情熱の結果、手足を次々失っていき、まだ無事な手足があるうちに、と引退を視野に入れ始めた。

 

 そこで、ダンブルドアが彼に後継者として推挙したのが、ハグリッドだった。

 

 ハグリッドは、危険生物の扱いにも長けているし、子供たちとも仲良くできるし、森番としての経験もある。きっとよい教師になる、と。

 

 ケトルバーンはそれを前向きにとらえたようで、とりあえず今年はハグリッドに対する指導内容をまとめ、来年から助手として授業に同席させる予定である。

 

 何だろうか?

 

 ハグリッドは、深くは考えず、きっとドラゴンを孵化させた自分のことを認め直してくれたに違いない!と気楽に考えていた。

 

 わざわざ自分を伴って、ダンブルドアの元へ行くのも、彼の元で、もう一度ぜひ後継者に!と言ってくれるのだろうと。

 

 ・・・もし、セブルスが彼の心の内を“開心”しようものなら、その啓蒙の低さを鼻で笑ったことだろう。

 

 この期に及んで、ハグリッドはドラゴン飼育の問題を問題と認識していなかった。

 

 

 

 

 

 「さて、シルバヌスや。大事な話とは、何事かのう?」

 

 ダンブルドアのデスクを挟んで立つ、ケトルバーンは、ゆっくりと口を開いた。

 

 「ダンブルドア。率直に言いましょう。ハグリッドを私の後継に、という話ですが、なかったことにしていただきたい」

 

 「へ?!」

 

 思っても見なかった言葉に、ハグリッドは思わず聞き返していた。

 

 「・・・理由を聞いても?」

 

 「聞くまでもないでしょう。先日の騒動を、お忘れですか?」

 

 静かに訊いたダンブルドアに、ケトルバーンは淡々と言った。

 

 「私が言えた義理ではないでしょう。アッシュワインダーの件*1は、決して人様に自慢できたものではありません。むしろ非難されてしかるべきです。私としても、耳の痛い限りでした。

 

 ですが、私にも最後の一線というものはあるのです。

 

 守るべき子供たちのいるホグワーツのすぐそばでドラゴンの飼育をするなど――うらやま、エヘンッ、そう、一番の問題は噛まれたことの危険性を指摘もせずに、子供自身のせいにする男が、魔法生物飼育学の教授になる?

 

 あえて厳しく言いましょう、ダンブルドア。

 

 今のハグリッドを教授に据えてごらんなさい。魔法生物飼育学は、けが人を大量生産する、ホグワーツ一危険な授業となるでしょう」

 

 「そ、そんな・・・」

 

 真っ青になって唇をブルブル震わせるハグリッドを他所に、ダンブルドアは半月型の眼鏡の奥の瞳の輝きを消して、険しい表情となる。

 

 「じゃからこそ、お主にそうならぬよう、後継指導をさせようと思うておったのじゃが・・・」

 

 「ええ。そのつもりでした。ですが、」

 

 ここでケトルバーンは、いつになく険しい視線でハグリッドを見上げながら言った。

 

 「どこの世界に、教え導くべき子供たち――まして、世話になったのは自分だというのに、処罰対象だと売り飛ばす男を、後継に据えるものがいるのですか!

 

 教授となるはずならば、もっと他にありようがあったのではないのですか?」

 

 「お、俺はそんなつもりじゃ」

 

 「あれから数日経つ。

 

 ハグリッド、子供たちに礼と詫びは入れたのかね?」

 

 「へ?」

 

 目を白黒させるハグリッドに、ケトルバーンは盛大にため息を吐いた。

 

 「セブルスの言ったことを忘れたのかね?

 

 本来、あのドラゴンは殺処分の上、解剖して標本化、あるいは魔法薬の材料にされてもおかしくなかったのだ。もったいな、エヘンッ、至極当然だ。

 

 それを、子供たちの恩情で、ルーマニア行きにされたのだぞ。

 

 飼い主として本来ならばお前がそうやって責任を取るべきところを、代わりにやってもらおうとしたのだ。

 

 ならば、最低限、その礼と、自分のために処罰を受けることになってしまったことへの詫びを入れるべきでは?

 

 私はここ数日、お前の動向をずっと見ていた。まったく、その気配はなかった。

 

 人の上に立つ教師の姿勢として、どうかと思ったのだ」

 

 子供に言い聞かせるように、事細かに言ったケトルバーンに、ハグリッドは慌てたように言った。

 

 「そんなら、礼を言って、謝ればいいんですかい?」

 

 ハグリッドは慌てると口を滑らす悪癖がある。加えて、極めて短気で単純なので、深く考えることをしない。

 

 だが、この状況で、その一言は実に余計で、啓蒙低い一言であった。

 

 ダンブルドアが顔色を変えて慌てた時には、すべてが遅かった。

 

 「そんならとはなんだね、そんならとは!!!」

 

 ケトルバーンは激怒した。必ずや、この無知蒙昧な森番を、後継に据えてなるものか、と固く決意した。

 

 「私に指摘されたから!魔法生物飼育学教授になるためだから!

 

 だから礼を言って謝るのかね?!本当は何も考えてないのだろう?!悪いとすら思ってないのだろう?!

 

 物事の筋も理解せずに、人としての礼節さえ弁えてないものが、教師として子供たちを教え導く?!笑わせるな!!」

 

 「じゃ、じゃがのう、シルバヌスや。お主とて、魔法生物関連では、いくつか事故をしておったではないか。あまりハグリッドばかり責め立てるのは」

 

 「ええ、してました!子供たちを巻き込んでしまうこともあって、申し訳ない限りでした!

 

 ですが、後始末はやりましたよ?!自分で!きちんと!

 

 アッシュワインダーの件だって、後で関係者に謝罪して回りましたし、片付けに協力してくださった関係各所にもお礼をして回りました!

 

 こんな片付けもできない、図体ばかり大きな子供とは違いますのでね!」

 

 なだめようとするダンブルドアにさえ、ケトルバーンは激高のまま言い返した。

 

 「まったく!スラグホーンが羨ましいですよ!まともな後継者に恵まれて!

 

 こうなったら、私も魔法生物研究協会や、愛護連盟の伝手で、別に後継を推薦するとしましょう!」

 

 義足を引きずるのも荒っぽく、ケトルバーンは踵を返した。

 

 「50年も森番をして、何一つ学べてないようだな。正直、失望したよ」

 

 振り向きもせずに吐き捨てて、ケトルバーンはそのまま校長室を出て行った。

 

 がっくりと膝をついて、さめざめと泣きだしたハグリッドと、疲れた様子でため息を吐くダンブルドアなど、一顧だにせずに。

 

 

 

 

 

[悪戯騒霊と、帰ってきたいじめられっ子]

 

 ※第2楽章1以降、セブルスのホグワーツ教員生活1年目中。

 

 

 

 

 

 ホグワーツ城には、大小さまざまな仕掛けがある。

 

 絵画は描写人物がおしゃべりして生徒たちを見守っているし、道に迷っていたならば、正しい教室への案内をしてやったりする。

 

 魔法にもよらない抜け道も大量にあり、スクイブの管理人フィルチはほとんどそれらを網羅してしまっている。

 

 階段は気まぐれで動き、途中で段が消えるからジャンプしなければならない、というものもある。

 

 ・・・一部の仕掛けは、城にかかった古い防護魔法の副作用からくるのかもしれない、とセブルスは考えている。

 

 強い薬に副作用があるように、強い魔法もまた、ノーリスクではないということだ。

 

 久々に・・・彼の感覚で100年以上間隔空けてのホグワーツ城である。いろいろ地理や仕掛けを忘れている部分があるのだ。

 

 セブルスも、多少の懐かしさもあって、スラグホーンとの打ち合わせの片手間、無人に近いホグワーツ城をこうして歩き回って、感覚を取り戻しているのだ。

 

 9月になれば、生徒たちが押し寄せ、あのにぎやかなホグワーツが帰ってくる。その前に、せめて満足に動き回れるようになっておかねば。

 

 「ほっほーん?変な匂いがすると思えば!」

 

 無人の教室を通りかかったセブルスは、その不快な声に足を止め、視線を上に向けた。

 

 意地悪そうな暗い目つきに大きな口の小男が、空中で胡坐をかき、頭の後ろで腕を組みながら、セブルスをしげしげと見下ろしている。

 

 「あんたが噂の新米助教授ちゃん?本当に変な匂いだ!まるで・・・そう、月の香り!」

 

 「・・・貴公にそう呼ばれる覚えはないのだがね?ピーブズ」

 

 「あっれ?どっかで会った?」

 

 小首をかしげる小男――ポルターガイストのピーブズは、しげしげとセブルスを眺め、ややあってポンと手を打つと、ニタァッとひときわ意地悪気に笑った。

 

 「だ~れかと思えば、泣き味噌灰色パンツのスニベルスちゃんか!ひっさしぶり~!」

 

 このポルターガイストは、セブルスの在学時も当然、ホグワーツにいた。

 

 そして、当然、セブルスの在学時の様子はおろか、やめるきっかけになった騒動、当時の渾名なども知っていた。

 

 当のセブルスは、わずかに眉を動かしただけだ。

 

 「何々、その格好?ずいぶん様変わりしたね~。死んだって聞いてたけど?」

 

 ・・・誰が死んだと噂したか、セブルスにはすぐに予想はついた。

 

 「リクエストにお応えする義理はありませんな。誰ぞが死んだといううわさをご所望ならば、本人が直接首をくくればいい。きっと皆、声を上げることでしょうな」

 

 「おお~う、怖い怖い。す~っかり、グレちゃって」

 

 フヒヒッと意地悪く笑うポルターガイストは、あいさつ代わりだろうか、悪戯を仕掛けようとした。

 

 浮遊魔法で、セブルスの持ち物を引き寄せた。

 

 「ほーら、ポケットの中身をごかいちょ、ぎゃああぁぁぁぁ?!」

 

 「あ」

 

 取られたのは、血走った目玉(儀式素材)だった。

 

 うっかり血の遺志収納に入れっぱなしにしてて、そのうち保管箱に放り込もうと、ポケットに入れ直していたのだ。

 

 「何、何これぇぇぇ?!」

 

 さしものポルターガイストも、目玉をそのまま手に持つということはできなかったらしく、エンガチョ!と言わんばかりに放り捨て、うっかり握ってしまった右手をズボンで拭いている。

 

 セブルスは、放られた目玉を呼び寄せ呪文でポケットにしまい直した。

 

 ・・・狩人のポケットは、目玉や肉片から石ころまでしまい込まれている、ゴミ屋敷以上の魔窟である。

 

 「スニーちゃん、何ポケットに入れてるの?!」

 

 「(儀式)素材だが?」

 

 「え?おいらが知らないだけで、最近の魔法薬って、生き物の目玉を使うの?それで、それを直でポケットに入れるの?」

 

 「何を言ってるのだ、貴公は」

 

 セブルスは、怪訝そうにポルターガイストを見上げて言い放った。

 

 「今は亡きポッター夫人は、ポケットに直接カエルの卵を入れて持ち運んでいたと聞いたが?」

 

 「え?あの子、あんなかわいい顔して、そんな豪傑だったの?」

 

 「うむ」

 

 セブルスは遠い目をした。

 

 ・・・そうとも。リリーはかわいい見た目の割に、ミミズやら蜘蛛やらカエルやらを素手で平然と掴み、これ見て!と姉であるペチュニアに見せては、悲鳴を上げられていた。

 

 ホグワーツに入ってから、セブルスは他の女性はああいうものは嫌がるのだ、とようやく学習したものだ。

 

 なお、ヤーナムの女性たちは血まみれであろうと普通に接してくれた。おかげで感覚がマヒした。

 

 だが、ポルターガイスト・ピーブズが、やられっぱなしで黙っているわけがない。

 

 セブルスのすきを見逃さず、彼は続けて悪戯を仕掛けた。

 

 「そーれ!就任記念の挨拶だよぉぉぉ!」

 

 元々、そのつもりだったか、近くにあった道具入れを開くや、中にしまわれていた掃除用具を、セブルスめがけて飛ばしてきたのだ。

 

 不意を突かれた初撃は、バケツの一撃を頭に喰らってしまったが、モップによる薙ぎ払い、箒や塵取りの殴打連撃は、バックステップとローリングを駆使してどうにか回避した。

 

 少々ふらつくセブルスを指さして、ピーブズは空中でげらげら笑い転げている。

 

 ・・・彼の危機察知能力がもう少し高ければ、彼はこの直後さっさと逃げだす・・・どころか、そもそも、最初の悪戯さえ仕掛けようとはしなかっただろう。

 

 狩人は、敵認定した相手には、容赦しないのだ。

 

 「なるほど」

 

 シャンと背筋を伸ばして、セブルスは低くねっとりした声音で言い放った。

 

 「ならば、私も挨拶をしよう。これからよろしく頼む、ピーブズ」

 

 「うぎゃああああああああ?!」

 

 右手をのばしながら言い放ったセブルス。直後、そこから大量の青い触手の束が殺到し、ピーブズは甲高い悲鳴を上げながら、それに突き飛ばされた。

 

 言わずもがな、秘儀“エーブリエタースの先触れ”である。

 

 頭から教室斜め上の壁に激突して目を回すピーブズだが、それで狩人が容赦するわけがなかった。

 

 「なぜ悲鳴を上げるのだね?たかが挨拶だろう」

 

 「い、今の魔法は何?!」

 

 「星の娘の握手も気に食わんかね?彼女の神秘に(まみ)えたことを、むしろ(ほまれ)に思うべきだ。それもわからぬか。啓蒙低いことだ」

 

 肩をすくめてやれやれと首を振って見せるセブルス。

 

 まるでピーブズを、頭の悪い、しつけの悪い子ども扱いをしているのだが、ポルターガイストは、完全初見の魔法・・・らしき所業に、完全に混乱していた。

 

 混沌の化身にして、不老不死たるピーブズには分かった。あの触手は、この世のものではない、何か、異常な気配があったのだ。

 

 「星のむす・・・何?!どういうことなの?!」

 

 目を白黒させるピーブズに、セブルスは容赦なく追い打ちをかけた。

 

 「もう一度(まみ)えたまえよ」

 

 「うぎゃああああああああ?!

 

 いや!やめて!増えちゃう!おいらの頭の中に!何か、変なものが増えちゃうぅぅ!」

 

 ・・・それからしばらく、ピーブズはセブルスに追い回されて、“エーブリエタースの先触れ”を叩きこまれ続けた。

 

 

 

 

 

 新学期が始まってから間もなく。

 

 ピーブズが地下牢にだけは近寄らないし、セブルスの姿を見るや回れ右して逃げていく、というのを、生徒たちが知るのは、当然の結果でもあった。

 

 

 

 

 

続く

 

*1
豊かな幸運の泉をモチーフにした劇中において、イモムシが肥大させたアッシュワインダーだったため、大広間で火災が発生し、その日の余興が超満員の病棟になったという事件のこと




【解説という名の補足】

[狸の腹鼓で羊は踊るか]

 ダンブルドアって何考えてるの?という実験作のつもりでした。

 でも、結局この人、秘密主義すぎてわかんねーな、で終わってしまいました。

 セブルスやばくね?ってそれとなく周囲をあおってたダンブルドアですが、私が憑依したマダム・ポンフリーがおめえが言うなで終わってしまったともいいます。





[森番は教導者たり得るか]

 第2楽章5~6の後日談になります。

 別名、懲りないハグリッドのその後。

 原作を初読時、ハグリッドに対して凄くモヤモヤしてて。大人になってから、あれ?ハリー達、あんな苦労して、こんなひどい目に遭って、罰則まで受けることになったのに、ハグリッド、それについてノーコメント?フォローの一つもなく?と、モヤモヤが解けまして。

 描写がないだけかもしれませんが、ハグリッドの立場なら、せめてありがとうとか、すまんな俺のせいで、みたいな一言があってもよかったと思いまして。

 ハグリッド、嫌いじゃないんですが、教育現場にいさせる人材としては、どうなのかな?ってところがあると思います。

 原作では、結局ハグリッドのやらかしは表ざたになることなく、終わりました。

 でも、こちらでは狩人セブルスさんと、バタフライエフェクトの影響で、表ざたになりました。そして、それを目の当たりにして、ケトルバーン教授にも思うところができた、ということです。

 ちょっと人柄を捏造してしまいましたがね。魔法生物に熱血で、向こう見ずではあっても後始末はしっかりする、とさせていただきました。62回も謹慎って、実はハグリッド並みにヤベエお人ですが、一応この段階では落ち着いている、という設定です。問題は起こしても、自分でちゃんと後始末はできている(当たり前ですが)ということにしました。

 この世界線では、ハグリッドは魔法生物飼育学教授にはならずに、終わることになります。

 ・・・またスネイプのせいか!と逆恨まれそうですね。きっと、セブルスさん本人は気にされないんでしょうけど。





[悪戯騒霊と、帰ってきたいじめられっ子]

 ホグワーツのトリックスター、ピーブズの話。本編に入れるほどではないにしろ、カットは可哀そう、映画版じゃないんだから、と番外挿入しました。

 リリーさんのカエルの卵は実話。ペチュニアさんが、愚痴ってました。・・・さすがは、ポケットに肉片をねじ込む狩人様がほれ込んでた女やでえ。

 ジェームズさん、そんなリリーも素敵だ!とか言ってたんでしょうかねえ?割と百年の恋も冷めそうな話だと思うのですが。

 ピーブズさん、フラれて出奔したいじめられっ子がグレて帰ってきたと思ったら、ポケットに目玉入れてるわ(ついでに袖にナメクジ仕込んでるわ)、何かこの世のものじゃないヤベエ魔法使うわと、絡んで間もなくそのやばさを察知されました。

 一応、彼は不老不死の混沌の化身らしいので、その手の感覚も一等鋭かったらしいです。絡んでから察知するあたりが、どうしようもないのですがね。

 なので、彼の出番は原作ほどはないでしょう。怖がって近寄ろうとしないので。

 ダンブルドアに詰問されても、多分頑として口を閉ざすことでしょう。





 ところで、ピーブズの一人称って、おいらでよかったんでしたっけね?





 次回の投稿は、来週!

 内容は、第3楽章!ホグワーツを舞台に、『秘密の部屋』編スタート!

 ロックハート登場からの事件発生です。ハリーJr.の容体についてもさらっとやりますよ!あんまり深刻にしてもしょうがないですからね。お楽しみに!
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