セブルス=スネイプの啓蒙的生活   作:亜希羅

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 前回は、評価、お気に入り、しおり、ここ好き、誤字報告、ありがとうございました。

 ワクチン接種も終わりましたので、また隔週投稿に戻ります!

 いやー、覚悟はしてたんですが、2日ほど身動き取れませんでした。仕事も休ませていただきましたしね。今はもう大丈夫なんですが。これから受ける方も、翌日は気を付けられた方がいいかと思います。

 お詫びと言っては何ですが、ちょっとおまけをつけておきました。

 メアリーは書いてると癒されます。また彼女視点の外伝でも書きましょうかね。


【3】文殊の知恵、あるいはズッコケ3人組

 

 さて、再び3人――ハリーJr.、ドラコ、ハーマイオニーの3人が大広間に集まったのは、ジャスティン&ニック石化の数日後だった。

 

 ハーマイオニーの方がお目当ての書籍が手に入らなかったことと、スリザリン生の二人に近寄らない方がいい、と周囲に止められていたらしいのでなかなか集まれなかったのだ。

 

 複雑そうな顔をする二人をよそに、当のハーマイオニーは、「ホグワーツ設立時のグリフィンドールとスリザリンは親友だったと聞いているわ。この非常事態なんですもの。気にしてなんていられないわ」としれっと言ってのけた。

 

 この数日でそれぞれ手分けして、50年前にあったことなどを調べてきた。

 

 そして、そこから判明したことは以下のとおりである。

 

 ●女子生徒が一人、事故で亡くなっている。この事故の原因を究明、犯人を発見したということで当時の監督生トム=マールヴォロ=リドルが、ホグワーツ特別功労賞を受賞している。

 

 残念ながら事故の詳細はわからなかったが、この“事故”こそが“秘密の部屋”に関係しているに違いない、と3人は推測した。

 

 続いて、ビンズが話してくれた秘密の部屋関連のことから推測できることをとにかく、片っ端から並べていこう、とハリーJr.が提案した。一通り並べてから、細かな詳細を審議して、可能性の低いものから除外していくことにした。

 

 残ったものを組み合わせれば、真実に近いところに行きつくかもしれない。

 

 

 

 

 

 テーマ1:秘密の部屋について(ある場所、開け方など)

 

 ●隠し部屋というくらいなので、絵画裏などに偽装されている。

 

 ●合言葉で開く。

 

 ●継承者にのみ伝わる魔法、魔道具でのみ開く。

 

 まず、絵画裏ということだが、これについてはすぐに否、と結論が出た。絵画裏などに隠されていたなら、描写人物たちが、何か言ってくるからだ。その手の情報がないということは、違うのだろう。

 

 次に、合言葉方式ということだが、これも怪しいだろう、と3人は見ている。たとえば、通りがかりに、学生がうっかり合言葉を口にしてしまった時に反応しないか、などだ。

 

 そうそう口にしない言葉であるのか、そもそも合言葉ではないのか。

 

 そして、魔法や魔道具で開くということだが、これも怪しいものだ。

 

 魔法ならば低学年には難しいだろうし、魔道具であれば持ち運びに不審を持たれる可能性がある。現実的ではない、と出た。

 

 

 

 

 

 テーマ2:秘密の部屋の中の“恐怖”(ビンズ曰く、何らかの怪物)とは?もしかしたら怪物ではないかもしれないので、その可能性も考える。

 

 ヒント…その被害者は、石化or死亡となる。また、最初の被害猫の現場付近で、ハリーJr.が焼け焦げをあちこちで見つける。

 

 ●部屋の中に収められている、スリザリンのオリジナル魔法。

 

 ●同じくスリザリン作製の魔道具。

 

 ●何らかの魔法生物。

 

 まずは魔法の線だが、これは技量や魔力の低い低学年には無理だろう、とすぐさま取り消された。大体、それならばわざわざ秘密の部屋に封じる意味がない。学外でも使えそうなものだからだ。

 

 魔道具にしても持ち運びが目立つし、扱い方次第では使用者が自爆しかねないのでは?という問題も想像できた。

 

 最後の魔法生物だが、ホグワーツ設立から千年経とうかというのに、それほど長寿な生き物が、果たして同じ部屋に閉じ込められ続けてくれるか、という常識的な問題があった。

 

 ただ、これにはハーマイオニーが反論を述べた。生き物には冬眠するものがいる。同じように、活動しないときは仮死状態になって生きながらえている可能性があるのかも、あるいは秘密の部屋自体に、そのような仕掛けがあるのかも、と。

 

 確かに、これが一番可能性が高いかも、と3人は秘密の部屋にいる“恐怖”を、“怪物”と改めて仮称することにした。

 

 

 

 

 

 テーマ3:スリザリンの継承者、そもそもサラザール=スリザリンについて。

 

 少し切り口を変えて、とハリーJr.の提案で、こちらも改めて検討することとなった。

 

 ●ホグワーツ創始者のひとり。ホグワーツ学生寮の名前は、創始者たちの名前からとられている。

 

 ●優秀な魔法使い。湿原から来た「俊敏狡猾なスリザリン」。

 

 ●ホグワーツにマグル生まれを招聘することを問題視。他創始者の同意を得られず、学校を去る。

 

 ●スリザリン寮のシンボルが蛇とされていることの由来は、彼がパーセルマウス(蛇語使い)であるため。

 

 パーセルマウスについてはハリーJr.は初耳であったので、本で学んだハーマイオニーと純血家系に詳しいドラコが補足解説をした。(なお、正史と違い、ハリーJr.はパーセルマウスではない)

 

 ドラコはわずかに声を震わせて、「一番有名なパーセルマウスは、“闇の帝王”だな」とぽつりと言った。

 

 つまるところ、ヴォルデモートのせいでパーセルマウスのイメージがガタ落ちした、という側面もあったりするのだ。

 

 「あのさ。すごく安直だけど、蛇の魔法生物とか、どうかな?」

 

 「「蛇?」」

 

 ハリーJr.の言葉に、他二人が聞き返した。

 

 「うん。スリザリンの継承者なら、当然パーセルマウスだろうから、蛇なら言うこと聞かせられるんじゃないかなって・・・秘密の部屋の怪物に、うってつけじゃない?」

 

 「・・・蛇なら、冬眠もするか。魔法で部屋に無人の時はそうなるように術式を組み込んでおけばいいな。

 

 だが、1000年も長生きするなど、規格外もいいところだぞ」

 

 考え込むように言ったドラコに、突如勢いよくハーマイオニーが立ち上がった。何か思いついたのだろうか?

 

 「もしかして!ごめんね、二人とも!ちょっと、図書館へ行ってくるわ!」

 

 言うや、ハーマイオニーは意見を書きだした羊皮紙の切れ端はテーブルの上に置いたまま、猛然と大広間を出て行ってしまった。

 

 「相変わらずだなあ」

 

 「これだからグリフィンドールは」

 

 苦笑するハリーJr.に、その勢いにやれやれとため息を吐くドラコ。

 

 だが、すぐにハリーJr.は何か考え込むように視線を落とした。

 

 「何が気になるんだ?」

 

 「うん。

 父さんからの受け売りなんだけどね。“物事には、必ず理由がある”んだ。

 何で今なのかな?」

 

 口元に手を当てて考え込むその姿は、作家のハリー=メイソンが、書斎のデスクで万年筆を置いて、作品構想を練っているときに、よく見せていた姿勢とそっくりだった。

 

 血のつながりがなくとも、彼もまた、ハリー=メイソンの息子であるのだ。

 

 「? どういう意味だ?」

 

 「ブランクだよ。何で50年も、前の事件から空いたんだろう?それが、キーのような気がして。

 模倣犯だったらブランクなんて関係ないかもしれないんだけどさ」

 

 首を傾げたドラコに、ハリーJr.は眉を寄せながら答えた。

 

 ここで、わきで聞いていたネビル=ロングボトムがポロッと口をはさんだ。

 

 「そういえば、ハグリッドが森番になったのも、50年前だって言ってたなぁ。

 変な偶然だね」

 

 おそらく、ネビルに悪気はなかったのだろう。

 

 「それだ!森番だ!」

 

 「え?何が?」

 

 手を打って言ったドラコに、ハリーJr.はキョトンと目を瞬かせた。

 

 「思い出せ、ハリー。

 スリザリンでの、森番のうわさを」

 

 真剣な表情で囁くように言ったドラコに、「あー・・・」とハリーは視線をさまよわせたが、次の瞬間ハッとしたような顔をして、考え込むように口元に手を当てた。

 

 「何?うわさって」

 

 「・・・ハグリッドと仲がいいなら、多分、気を悪くするから、やめといたほうがいいよ」

 

 尋ねて来たネビルに、ハリーJr.は気づかわしげに言ったが、彼は首を振った。

 

 「友達だからこそ、聞いておきたい。ドラゴンのことで嫌われちゃったけど、後悔はないから」

 

 「・・・わかった。そう言うなら」

 

 ネビルの言葉に、ハリーJr.は自分が聞いた限りの、ハグリッドに関する話――禁じられた森についてのうわさや、ハグリッドの退学理由を聞かせた。

 

 「悪い人じゃないんだろうけど・・・そう言われてたらね・・・」

 

 「どうしよう・・・何一つ、言い返せないや・・・」

 

 困ったように言ったハリーJr.に、ネビルはうめいて頭を抱えた。

 

 去年が去年である。特に、ネビルはよく一緒に行動している友人(どうやら一応、仲直りしたらしい)の腕を、下手をすれば切り落としかねない目に遭わされたわけで。

 

 「ロングボトム、50年前に森番が退学したと言ってたな?

 奴が持ち込んでいた危険生物こそが、“秘密の部屋”の怪物だったんじゃないか?

 父上にも確認を取ったが、その危険生物が何だったのか、確実に処分されたのかという話も聞けなかった。

 奴が50年前に“秘密の部屋”を開けて、まだどこかに怪物を匿っているというなら、筋が通る」

 

 「そ、そんなこと!」

 

 腕組みして言ったドラコに、ネビルは蒼白であわてた。

 

 「おい!黙って聞いてたら、ハグリッドを犯人扱いしやがって!

 証拠はあるのかよ!」

 

 ここで口をはさんだのは、ロナルド=ウィーズリーだった。カチンときた様子でいきり立った彼は、ずかずかとスリザリンのテーブルに歩み寄って来て、バンと叩いて抗議する。

 

 去年の件――ロナルドなりに助けようと計画を練っていたのに、ドラゴンに噛まれ、それを自分のせいにされたことにはしこりを感じている。

 

 だが、それ以上に犯人として有力なドラコが、赤の他人を犯人扱いしている。ロナルドにとっては、現状はそうとしか見えなかったのだ。

 

 「はっ!人のことを証拠もなしに犯人扱いしておいて、自分たちの番になったらそれか。これだからグリフィンドールは」

 

 「何だと?!」

 

 やれやれと厭味ったらしく肩をすくめるドラコに、ウィーズリーは歯をむき出しにして唸った。

 

 なお、自分たちの話に夢中で、彼らは周囲がひそひそとこれまでのハグリッドの素行について噂しまくっているのに気が付いていなかった。去年のドラゴンの件があったのが大きい。

 

 「・・・ハグリッドってのは早計かも」

 

 静かに言ったのは、ハリーJr.だった。

 

 「どういうこと?」

 

 「ロングボトム、ハグリッドって、退学してすぐに森番になったんだよね?」

 

 「うん。退学して杖も折られたけど、ダンブルドアが森番として学校にいられるようにしてくれたって聞いてるよ。

 理由までは聞けなかったけど」

 

 「じゃあ、やっぱり違うのかも」

 

 頷いて言ったネビルに、ハリーJr.はうなずいた。

 

 「どういうことだ?ハリー」

 

 「“物事には、必ず理由がある”。ハグリッドなら、50年のブランクの説明が付けられないんだ。

 だって、森番小屋と、ホグワーツ城は目と鼻の先だよ?

 ほとぼり冷めるのを待っていたにしても、50年は長すぎると思わない?」

 

 「・・・確かに。

 加えて、あの森番の性格と頭の出来を思えば、先にこっちの疑問が出てくるな。

 どうやって部屋の在処を見つけ、部屋を開けたのか。

 僕たちでさえわからないのが、あれにわかるとは思えない」

 

 何気に非常に失礼なことを言うドラコだが、とりあえず疑いは晴れたらしい、と不服そうにしつつもロナルドは口をつぐんだ。

 

 「50年前かあ・・・当時を知ってる人に話を聞けたらいいんだけど・・・」

 

 「話してくれると思うか?僕たちは一学生、それも低学年だ。

 当時を知ってそうな教授陣が相手にしてくれるとは思えない。

 ゴーストも“ほとんど首なし卿”のせいでピリピリしているからな」

 

 「他に知ってそうなのは・・・当事者であるハグリッドくらいかな?」

 

 「論外だろう。僕たちはドラゴンのことで相当恨まれているんだ。絶対何も言わないぞ」

 

 「だよねえ」

 

 うーんと、改めて考えこむドラコとハリーに、ややあって口を開いたのはロナルドだった。

 

 「・・・僕が、訊いてきてやる」

 

 「え?」

 

 「僕がハグリッドから話を聞いてきてやるって言ってるんだ!

 勘違いするな!ハグリッドの無実を証明するだけだ!お前たちが怪しいってのはそのままだからな!」

 

 言い残してロナルドは踵を返して大広間から出て行く。

 

 なお、彼は去年が去年なので、寮内では厳しく監視されており、一人で森番小屋へ行くのを禁じられている。

 

 勢いで言ったが、撤回する気は微塵もない。頑固者のパーシーはともかく、双子の方なら話が通じるかもしれない。そう考えながらロナルドは走った。

 

 「あ、ロン!ごめんね、二人とも!じゃあ、また授業で!」

 

 「うん。また今度ね」

 

 「ああ」

 

 ネビルがそう言って去っていくのに、ハリーJr.は手を振って、ドラコはぶっきらぼうに言った。

 

 「50年前じゃ、スネイプ先生もわからないかな?」

 

 「それ以前に、ロクデナシのせいで去年以上に忙しそうにされているらしいぞ」

 

 「あー・・・藪を突きに行くのはやめとこうか」

 

 「グレンジャー待ちだな」

 

 一応、話の片手間にハリーJr.はハーマイオニーが残していった議事録代わりの羊皮紙に、簡単なメモは残していた。

 

 二人で突き詰められるのはここまでだろう。あるいはハーマイオニーなら、別の視点や知恵を話してくれるかもしれない。

 

 だが、ここで分厚い本を抱えて、ハーマイオニーが慌ただしく飛び込んできた。

 

 「やっぱりそうだったわ!二人とも!やったわよ!

 私たち、怪物の正体が分かったかもしれないわ!」

 

 そうして、嬉々として彼女はスリザリンのテーブルの上に書籍を広げ、勢いよくページをまくる。

 

 「あったわ!ここ!バジリスクの項目よ!」

 

 そうして、3人は目を皿のようにして、その本をのぞき込んだ。

 

 「ね?“毒蛇の王”、“巨大に成長することがあり、何百年も生きながらえることがある”・・・!」

 

 「“毒牙による殺傷とは別に、バジリスクのひと睨みが致命的となる。その眼からの光線に捕らわれし物は即死する”。

 待て、グレンジャー。即死とあるぞ?50年前はともかく、誰も死んでないだろう」

 

 興奮気味のハーマイオニーに、ドラコが待ったをかけた。

 

 ちなみに、医務室に収容された彼らは、現在マンドレイク薬を飲ませればいいということで、原料となるマンドレイクの収穫待ちという状態である。

 

 「誰も目を直接見てないからよ!思い出して!犠牲者たちの現場を!」

 

 「! ミセス・ノリスの時は、3階トイレ付近だ!トイレからあふれた水で床が濡れてた・・・濡れた床に反射したバジリスクを見た?

 コリン=クリービーはカメラのフィルムが焼き切れていたらしいから、多分カメラ越しで、フレッチリーは、“ほとんど首なしニック”越しに見たんだ!ニックはもう死んでるから・・・!」

 

 「・・・そういえば、第一の現場付近には焦げ跡が見つかってたな・・・それも、即死光線が原因か!」

 

 ハッとしたハリーJr.に、ドラコも真剣な顔になり、もう一度文面をのぞき込んだ。

 

 「“蜘蛛が逃げ出す”・・・そういえば、ケトルバーン教授が、教材の蜘蛛が暴れ回っていけないと言ってたな。逃げたくても逃げられなかったからか!

 “弱点は雄鶏が時を作る声”・・・森番小屋の雄鶏が殺されていた!あれはそのせいか!」

 

 いつの間にか、大広間はしんと静まり返っていた。

 

 「ね?!全部ぴったり一致するでしょう?!蛇の怪物だから、パーセルタングで言うことを聞かせられるもの!」

 

 「うん!すごいよ、ハーマイオニー!」

 

 「ふん・・・やるじゃないか」

 

 踊りあがりそうなハーマイオニーとハリーJr.に、ドラコもほおを紅潮させながら言うが、すぐに視線を険しくした。

 

 「だが、一つだけ問題点がある」

 

 「問題点?」

 

 「バジリスクの巨体ね?」

 

 「そうだ。創設者の時代から生きているとすれば1000歳を超える、巨体の持ち主だ。そんな奴が城を徘徊していて、なぜ目撃者がいない?

 透明な呪文でもかかっているのか?」

 

 「いいえ!それはすでに第1の現場に答えがあるわ!」

 

 ドラコの反論に、ハーマイオニーは叫ぶように答える。

 

 「トイレ・・・パイプだね?!」

 

 「ええ!秘密の部屋って、地下にあるんじゃないかしら?

 下水道みたいに、城の地下中にパイプを巡らせているのよ!バジリスクはそのパイプを通じて、どこにでも姿を現せるんじゃないかしら!

 最悪、目を見るだけなら、穴が空いてたら、そこから外を見ればいいだけですもの!」

 

 「確か、他の二人が襲われた現場は・・・水場の近くだ!パイプが通じててもおかしくない!」

 

 うん、と3人はうなずいた。

 

 バジリスクに関する矛盾は、これで片付いた。間違いない。

 

 「そうと決まれば、行くわよ!」

 

 「うん!マクゴナガル教授の部屋だね!」

 

 「校長室がわからないからな。副校長のマクゴナガル先生が確かだな」

 

 そう言いながら、3人は勢いよく大広間を後にした。

 

 途端に堰を切ったように、ざわつきだした他の生徒たちなど、一顧だにせずに。

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

 さて、3人の説明を聞いたマクゴナガルは、真っ青になりながらうなずく。さすがに実物がなく、状況証拠ばかりでしかないとはいえ、一考の余地はあるとした。

 

 この可能性に行きついた3人を褒め、それぞれの寮に50点ずつを与えることとなった。

 

 そして、直後開かれた職員会議で、マクゴナガルは即座にこの三人から聞かされた推理を話し、鵜呑みにするのは危険だが、それを基にした対策をとってみるべきだ、と提案した。

 

 それを聞いたケトルバーンが、それならといくつかの対策を提案した。

 

 ●直接目を見なければ最悪即死は免れられるので、角を曲がるときは鏡で確認する。

 

 ●雄鶏の時を告げる声は魔道具で録音しておいたものを、定期的に城内に魔法で流す。

 

 ●蜘蛛が逃げ出すのが前触れなので、ガラス瓶に入れた蜘蛛を持ち歩き、彼らがいよいよ逃げ出そうとしたら要注意する。

 

 とりあえずこんなところだろうか。

 

 どこかのロから始まる自己愛の強い新米教授が何か言いだす前に、それじゃこれで行こう!となった時だった。

 

 「バジリスクですか!いや、私の考えでは、コカトリスの線もあります!ご存じでしょうか、皆さん!鶏の卵をヒキガエルが温めることでバジリスクが生まれますが、コカトリスはその逆!ヒキガエルの卵を鶏が温め、孵化させることで生まれるのです!

 小さくとも獰猛で、奴も即死とまではいかずと、石化の光線を持っていまして!」

 

 はい、出た。また出た。

 

 ぺらぺらとしたり顔で話し出したロックハートに、全員がスン・・・と虚無顔になった。ロックハートが職員会議でも余計なのは今更だ。遅刻・早退は当たり前。時折話をさえぎって長演説をかます。この後のほか教授方の予定も考えずに、だ。

 

 毎度のこととはいえ、この長い演説を聞いている時間は多忙な教授陣にはない。特に今年はどこかの誰かさんのせいで、“闇の魔術に対する防衛術”の補講を充実させねばならないのだ。去年のクィレルはつまらないとは言われたが、それをさせなかったところは十分優秀な範囲に入ったのだ。

 

 ジロリッとセブルスは、何でこんな奴採用した、と視線だけでダンブルドアを見ると、当の老人は急に耳が遠くなったかのような顔で、髭を撫でている。

 

 セブルスは、いい加減にしてもらいたいと、右手を無言のまま振った。途端に、発動した沈黙呪文(シレンシオ)でロックハートは口をパクパク動かすだけの存在に成り下がった。

 

 はたと彼は自分が声を出せてないことに気が付いて、喉と口を押さえて慌てふためいたが、その時にはマクゴナガルが「では、そのように」という鶴の一声をもって、職員会議を終了とさせた。

 

 ・・・なお、彼は“闇の魔術に対する防衛術”担当の教授のくせに無言呪文を習得していないらしく、呪いが効果切れを起こすまで、珍しく物静かなロックハートが見られたことを、ここに記しておく。

 

 すでにセブルスのみならず大多数の教授が、書籍に書いてあることはこの男が実際にやったことではないと完全に確信していた。

 

 

 

 

 

 果たして、この取り組みがよかったのか、悪かったのか。

 

 この取り組みの知らせと、大広間での3人組のやり取りを聞いていた生徒たちも、それぞれに身を護る工夫を始めた。

 

 それまでも、生徒間で魔除けのお守りが流行していたが、この件以降、鶏の鳴き声を発する魔道具が高値で取引されるようになったのだ。

 

 さらには、手鏡を使って必ず曲がり角を確認したり、トイレなどの水場に近づくときは、念入りに周囲を確認したりするようにもなった。

 

 

 

 

 

 さて、クリスマス休暇も明けて、しばらく経ったころだろうか。

 

 今日という今日はコイツは殺す、物理的がダメなら社会的に殺す、とセブルスは固く決意していた。

 

 本日はバレンタインデーである。確かに、この日は浮足立つ生徒が多い。セブルスの在学時もそうだったし、教授に赴任してからも、廊下や教室の片隅でこっそりカードを渡していたり、フクロウに託して朝食の席に落としていたりした。

 

 授業妨害にならないなら多少のことは目をつむろうと教授陣も寛容であったし、セブルス自身もそうしていた。

 

 今年は例年にないほどピリピリしていたが、最近は教授陣と生徒間の警戒もあってか、犠牲者も出ず、沈静化しつつあるとどこか緩んだ空気が流れていた。

 

 ロックハートなどは、秘密の部屋は閉ざされた!(ドヤァッ)などと称して、今はそれよりも気分を盛り上げるべきだ!と言い張っていた。

 

 そしてこの始末である。

 

 壁という壁を覆うピンク色の花。淡いブルーの天井から舞う、ハート形の紙吹雪。

 

 一部女生徒はクスクスとのどかなものを見る目で笑っているが、他は呆気にとられたような、あるいは吐き気満載という顔をしていた。(余談だが、ハリーJr.は事態を把握すると困ったような顔をして、ドラコはうんざりした顔をしていた)

 

 セブルスを始めとした教授陣は、石のように無表情で教員席に座っていた。・・・ただし、マクゴナガルは頬がピクピク痙攣していた。

 

 セブルスはといえば、あの目をしていた。決闘クラブでも見せた、あの形容しがたい目だ。これから殺すべき、豚を眺めるまなざしというべきか。

 

 この騒動の元凶たるロックハートは、けばけばしいピンクのローブを纏って、何やらぺらぺらと演説していた。

 

 ・・・セブルスは耳に入れることすら悍ましいとシャットアウトしていたが、要は一緒にバレンタインを祝って、愛を告白しあおうぜ!ということらしい。

 

 その途中で、竪琴をもって金の羽をつけた不愛想そうな小人連中を勝手に城内に招き入れたり、フリットウィックに“魅惑の呪文”を教わろう!セブルスから“愛の妙薬”をもらおう!いい機会だから遠慮せずにみんなでMissメアリーにも気持ちを伝えてはどうだろうか!という話題が出た時に、セブルスは必死に抑え込んでいた獣性がブチッと臨界点を突破したのを感じた。

 

 ガタンっとセブルスは立ち上がった。無表情だった。ひたすらに無表情だった。そうして、仕掛け武器の錆にするのも惜しい、啓蒙低すぎる獣以下を見やった。

 

 ただでさえもクソ忙しくさせているくせに、さらにクソのようなイベントで、さらにクソ忙しくさせるつもりなのか。そんなに死にたいのか。いいだろう。お望みどおりにしてやろうじゃないか。

 

 あまりのことに顔を覆うフリットウィックとは、対照的だった。

 

 「おや、スネイプ先生!お喜びください、皆さん!先生が自ら愛の妙薬の」

 

 「期限付きの惚れ薬なんぞに頼るとは、人間性の底の浅さを露呈するも同然ですな」

 

 何事か言いかけたロックハートを遮って、セブルスが無表情を崩して笑って言った。

 

 奇妙にひきつった、安心感など微塵もない、悪意どころか狂気すら感じる笑みだった。その笑みを目の当たりにした生徒数名が失禁したり、卒倒したりした。そうしなくても、大体のものが青ざめてそっと視線をそらした。

 

 マクゴナガルは、ほおの引きつりこそ治まったが、キリキリしだした胃を押さえて、うつむいた。また白髪が増えたような気がしてならない。

 

 フリットウィックは椅子ごとひっくり返りそうになった。

 

 スプラウトと古代ルーン文字担当のバブリングが青ざめたまま異口同音に呟いた。おお、マーリン、と。

 

 なお、例によって校長は不在である。

 

 ロックハートは知らない。彼が相手にしているのは、赴任して早々に錯乱した校長(イギリスでも1、2を争う大魔法使い)を殴り倒してきりもみ回転でぶっ飛ばして医務室行きにした、時々ヤベエ教授であるのだ、と。

 

 「ロックハート教授」

 

 「何でしょうか?!スネイプ先生!この重大な発表を遮るほどなのです!一体どのようなご用事で?!」

 

 「後で私の部屋に来ていただけますかな?メアリーがぜひ、あなたにお渡ししたいものがあると言ってましてな」

 

 絶対嘘だ!毒薬渡すぞ、あれ!!

 

 おそらく、その場にいる全員の心境が重なった瞬間だった。

 

 ロックハートがいかに話しかけようと、メアリーは最初に菓子を台無しにされたのもあって、狩人たるセブルスでもない、啓蒙も心得てなさそうなロックハートには塩対応を決め込んでいたし、それは大勢のものに目撃され、共通認識されていた。

 

 「おや、Missメアリーが?わかりました!ぜひ伺いますと、彼女にお伝えください!」

 

 そしてお前はなぜそれをすんなり信じる?!

 

 全員がそうツッコミを入れそうになったが、できなかった。余計な事を言えば、次は自分の番だ、あるいは理不尽に減点されると自覚していたからだ。

 

 

 

 

 

 そして、それから間もなく、ロックハートは自室から出てこなくなった。

 

 ロックハートの雇った小人たちが、報酬出せー!と彼の部屋の前に居座り続けるのを無視して。(ちなみに、彼らは最終的にマクゴナガルに訴え、彼女によってロックハートの給料から報酬が直接支払われることになった)

 

 なお、彼らに廊下の移動を邪魔され、愛の歌を同級生の前で歌われた被害者が何人いたかは・・・はっきり数にすると、気の毒になられると思うので、この場では明記しないでおくとする。

 

 翌日マクゴナガルに問いただされたセブルスは、調合で失敗して作った脱毛薬をメアリーに処分を頼みましたな、処分するようにとは言ったが、方法までは指定してませんでしたな、としれっと答えた。

 

 ・・・その脱毛薬は、見た目こそ愛の妙薬のように好ましい香りがするのだが、服用すれば、全身の毛という毛が抜け落ちるそうだ。

 

 自身の輝かしい見た目を愛するロックハートには、致命的すぎるのは明らかであった。

 

 マクゴナガルは、吹き出すとも咽ともつかない変な音を出してから、胃薬を呼び寄せ呪文(アクシオ)で引き寄せた。

 

 そして、それを職員室で聞いたフリットウィックとマグル学のバーベッジがにやけそうになった口元を隠そうともせずに、今度は一緒に呟いた。おお、マーリン、と。

 

 スリザリン出身者を怒らせると、どのような形で報復されても、文句は言えまい。

 

 ・・・教授たちは知らない。こんなものはまだ序の口に過ぎないことを。セブルスは、徹底的になぶり殺しにすると固く決意してしまったことを。

 

 

 

 

 

 そういった些細な事故(少なくともセブルスはそう主張する)はあれど、基本的には穏やかに日々は過ぎていったのだ。

 

 その事件が起きるまでは。

 

 それが起こったのは、クィディッチの試合が行われるかという朝のことだった。

 

 レイブンクロー寮の監督生、ペネロピー=クリアウォーターが、石化した状態――早い話、新たな犠牲者として発見されたのだ。近くに割れた手鏡が落ちていたことから、おそらく、角を曲がるときに手鏡で確認しようとした時に襲われたのだろう、と想像された。

 

 バジリスクの仕業という推測が広まってなければ、下手をしたら死亡していてもおかしくなかったのだ。これでもかなり運のいい方であったというほかない。

 

 直前まで図書館で一緒に居合わせたハーマイオニーは、自分が引き留めていられたら、と強く悔やんでいたらしい。

 

 そして、この件を境に、ホグワーツは完全に厳戒体制に移行した。クィディッチなどのクラブ活動は全面中止。教室間の移動は、必ず直前の担当教授が引率し、トイレも付き添い、図書館の利用も条件付きで制限されるようになってしまったのだ。

 

 

 

 

 

続く

 




【脱毛薬】

 セブルス=スネイプが開発・調合した魔法薬の一種。

 魅惑的な匂いのするゾル状の魔法薬で、塗布によって該当部位の永久脱毛、服用によって、全身の永久脱毛が可能。

 間違っても、本来は服用するものではない。

 魔法薬の種類を確認もせずに服用する啓蒙低い愚か者が、いるはずがないのだから。





 バタフライエフェクトで、ハーマイオニーは襲われずに済んだよ!

 ロンは双子同伴でハグリッドに50年前のことを聞きに行って、やっぱり犯人じゃなかったんだ!と納得して、ハリーJr.達に無実確定宣言をしたよ!最初の犠牲者がトイレで見つかった云々の話も聞いたけど、ロンはそこまで重要視してなかったから伝えてないよ!

 今更だけど、ポリジュース薬は言い出しっぺにして、メイン調合手のハーマイオニーがドラコ&ハリーJr.とズッコケ3人組を組んじゃったから、なくなっちゃったよ!

 ハリーJr.は“生き残った男の子”じゃないからね!ミーハーなジニーちゃんの興味には引っかからずに済んだから、バレンタインの小人被害者にはならずに済んだよ!





 ちなみに。イギリスにおけるバレンタインデーというのは、恋人とディナーを共にしたり、男性が意中の女性に花やカードを贈る日、みたいです。もちろん、チョコもありみたいです。

 有名ですけど、日本におけるチョコレートを贈るっていうのは、製菓企業の戦略なんですよね。

 バレンタインもお国柄がいろいろ表れてて、以前別の二次創作の際にざっと調べてみたんですが、なかなか興味深かったです。





[おまけ~メアリーさんとロックハート~]

 「やあ、Missメアリー!お呼びと聞いて参上したよ!」

 「? そうですか」

 ロックハートが目の前に現れ、メアリーは淡々と答えた。

 メアリーはあまりロックハートのことが好きではない。せっかくセブルス様のために作ったお菓子を、いつも台無しにするからだ。べたべた馴れ馴れしく触ってくるのも嫌だ。

 セブルス様が悲しそうな顔をされるのが、何よりも嫌だ。考えただけで空っぽのはずの胸の奥がチクチクと不快な感じになる。

 早くどこかに行ってくれないだろうか?

 「ははっ!そろそろ私にも笑顔の一つも見せてくれないかい?美しい君には、笑顔こそ何よりふさわしいと思うんだ」

 なんでこの人の言うことを聞かなければならないのだろう?メアリーは不思議に思えてならない。

 髪を触らないでほしい。ボンネットがずれて、髪飾りが外れてしまう。セブルス様が初めてくれた大事なものなのに。

 セブルス様のところに早く行きたい。この間菓子のレシピブックを見てたら、日本では今日は女性がチョコレートを男性に贈る日だとされているので、これならあの方にもわからずにお祝いできるかもしれないと、チョコレート菓子を作ったのだ。

 早く持っていきたいのに。

 またこのお菓子を台無しにされたらどうしよう。最近はハウスエルフたちに運搬をお願いしてたけれど、今日ばかりはどうしても自分で持っていきたかったのに。

 と、そこでメアリーはふと思いだす。以前、セブルス様からロックハートに絡まれて、どうしようもないと思ったら、これを渡せと言われていたものがあったのだ。

 「では、ロックハート様。こちらをどうぞ」

 そう言って、メアリーはとろりとしたラベンダー色の液体の入った小ぶりなフラスコをロックハートに差し出した。メアリーはホグワーツに来た際に、セブルス様から検知不能拡大呪文のかかったポシェットを渡されており、持ち物はそこに入れるようにしているのだ。

 メアリーには無臭に感じられたが、セブルス様が言うには他人にはいい匂いに感じられるだろうから、ロックハート以外には渡さないように、と強く言われていたのだ。

 「なんと!Missメアリー・・・君の気持は、確かに伝わったとも!」

 きらりとブルーの目を輝かせたロックハートは、フラスコをひったくるように受け取った。

 「気持ち・・・?私は単に、セブルス様にそれをお渡しするように言われただけで」

 「照れ隠しかい?かわいいね、メアリー!
 おっと、これから私は授業だったんだ!それではまたあとで!」

 メアリーの言葉をさえぎった挙句、ぱちんとウィンクするとピンクのローブを翻してウキウキスキップ交じりに去っていくロックハートに、メアリーは不思議なものが湧き上がってくるのを感じた。

 空っぽのはずの胸の奥に、何かちりちりと不快なものがかすっている。焦がしてしまった鍋底を思わせるような不快さだ。

 なんだかよくわからないが、不快であることに間違いない。

 こんなこと、さっさと忘れよう。それより、セブルス様のところにお菓子をもっていこう。最近お疲れ気味だから、甘いものはきっと気分転換になるはずだ。

 このチョコレートタルトは、甘さを控えめに作ったし、きっとお気に召すはず。

 メアリーは不快なだけの出来事はさっさと忘れることにし、セブルス様のかすかな笑みを思い浮かべながら地下牢教室へ足を向けた。





 今日の菓子も美味いな、いつもすまない、と仕事の合間のお茶の時間にセブルスがかすかな笑みを浮かべたころ、“闇の魔術に対する防衛術”教授室にて悲痛な悲鳴が上がったのだが、そんなことはホワホワした胸の奥の心地よさを味わうメアリーの知ったことではない。





 次回の投稿は、来週!内容は、禁じられた森へ!狩人セブルスVSアクロマンチュラ!ハリーJr.達の学生生活を添えて。お楽しみに!

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