こそこそアンケートは、一応、第3楽章7まで実施、ということにしておきます。べ、別に冗談で聞いた、「セブルスさんが日記を拾ったら」っていうのが、めちゃくちゃ食いつきがよくて、それは微塵も書けてないからなんてことはないんですからね?!
ところで。
正直、タイトルで出オチ感が凄まじい話です。
みんなでロックハートの新しいお名前を呼んであげましょう♪
さて、そんなこんなで4人組が駆け込んだのは、夜逃げ準備中と言わんばかりに大急ぎで荷造りするロックハートの部屋だった。
ショックを受けて詰め寄るハーマイオニーに、本の話は他人の手柄、詳細を聞き出してから忘却術で本人の記憶を消してた、とあっさり白状するロックハートは、続いて彼らにも忘却術をかけようと杖を向けてきた。
だが、彼は知らなかった。
彼の目の前にいるのは、サイレントヒル帰りの父母を持ち、自身も当時魔法なしで怪物邸の騒動を生き延びて見せた、最上級のポテンシャルを持つ魔法使いの卵なのだ。
「
鋭い杖の一閃と同時に弾けた赤い閃光によって、ロックハートは吹き飛んでいた。
その手から飛んだ杖は、呪文を放ったハリーJr.がハシッと左手で受け止めて見せる。
同時に、その足元にバサリッと何かが落ちた。それは金髪の・・・鬘だった。
え?と誰かがつぶやいた。あるいはそれは全員だったのかもしれない。そして、彼らは気が付く。
のろのろと顔を上げたロックハートの頭に、髪はなかった。つるんとした頭皮が、ツヤツヤと輝く見事な光沢を一同に見せつけている。
たまらず吹き出したのはロナルドだった。腹を抱えてゲラゲラと笑い転げている。
吹き出しそうになるのを必死にこらえながら、肩と手を震わせつつ、それでもロックハートに杖先を向けるハリーJr.に、片手で口元を押さえ、目元だけでニヤニヤしながらドラコも杖を向ける。
ハーマイオニーはただ一人、信じられないものを見るまなざしで、ロックハートの頭を凝視して、青い顔をしている。
「見るな!やめろ!見ないでくれええええ!」
突きつけられた、ハリーJr.のヤマナラシの杖と、ドラコのサンザシの杖(二つとも笑いで小刻みに震えている)をものともせずに、ロックハートは頭を手で覆い隠そうとするが、隠そうとして隠れるものではない。
「せ、先生、その頭は・・・!」
「ああ!あの陰険教師のせいです!Missグレンジャー!あのヘボ教師が、卑劣にもMissメアリーのプレゼントをすり替えたのです!」
「「どっちがヘボ教師だ、この詐欺師が」」
ロックハートのへたくそな言い訳に、瞬時に真顔になったハリーJr.とドラコが異口同音に吐き捨てた。
震えの止まった杖先が、改めてうずくまってなおも頭を隠そうとするロックハートに向けられる。
ヒーヒーといまだに笑い、時折ブッと吹き出しつつも、ロナルドもスペロテープを巻いたトネリコの杖をロックハートに向けた。なお、笑いをこらえるせいで、その杖先はプルプル震えている。
ロナルドはともかく、他二人はたかが2年生と侮ることは、現在のロックハートにはできなかった。
ハリーJr.は武装解除呪文を習得済みである(決闘クラブから、練習したらしい)し、ドラコは自衛の一環でいくつか呪いを習得済みだ。くわえて、致命にはならなくても、危険な呪文は山ほどある。杖先は、マグルで言うところの銃口のような危険性を帯びているのだ。
まして、ロックハートは杖を失って丸腰になってしまったのだから。これがハリー=メイソンであれば、まだ話は違ったかもしれないが、ロックハートにそんなポテンシャルは、微塵も存在しなかった。
ロックハートは助けを求めるようにハーマイオニーを見たが、さすがの彼女も忘却術をかけようとしてきた相手を前に、弁護をしようとはしなかった。
ロックハートを軽蔑の目で睨みつけるや、ハリーJr.達のそばに並び立った。
やがて、自分が無力で味方などいないことを悟ったロックハートは、どうしようもない、と嘆き始めたが、ここでハーマイオニーが言った。
「あれだけ大口をたたいたんですから、せめてどれか一つでも実現させようとか思わないんですか?!
秘密の部屋の場所なら私たちが知ってます!せめて散り際だけでもヒーローらしくしてください!」
とんでもねえこと言い出した!
ハーマイオニーの提案に、ハリーJr.とドラコはぎょっと目を剥いた。
さっき、今までの嘘って言ってたじゃん!そんな実力ないって自白したじゃん!バジリスク退治なんてできるわけが・・・散り際ってそういうこと?!
だが、二人がそうツッコミを入れるより早く、ロナルドが動いた。
「何でもいいだろ!ジニーが待ってるんだ!急ぐぞ!」
そう言い捨て、さっさと歩けとばかりにロックハートの脛に蹴りを入れて、強引に立たせる。ついでに鬘を蹴飛ばして、ぶふふっと笑いをこらえている。
「これだからグリフィンドールは・・・!」
「・・・ロックハートは僕が見とくから、ドラコ、一人だけでも職員室に行ってくれる?」
忌々し気に舌打ちしたのは、ドラコである。
折れた杖のせいで戦力的には不安しかないロナルドと、いまだにロックハートに甘いところがあるらしいハーマイオニーだけ残すわけにもいかないので、ハリーJr.がそう提案した時だった。
「その必要はありませんな」
ガチャンッと扉が開いて、黒い影が入室してきた。
束ねた黒髪と、インバネスコートの裾をなびかせ、セブルスは宇宙色の双眸を静かに眇めた。
「貴公ら、ここで何をしているのかね?」
「「「スネイプ先生!」」」
「げっ」
ハリーJr.、ドラコ、ハーマイオニーが声を上げる中、一人ロナルドはいやそうな声で顔をしかめた。
聞き逃しはしなかったセブルスは軽く片眉を上げたが、何も言わずに視線をハリーJr.とドラコに向ける。
「どういうことですかな?生徒は残らず、寮塔で待機とされていたはずでしたな?それとも、私の記憶違いでしたかな?」
「・・・すみません」
「すみません、先生。でも!僕たち、秘密の部屋の場所が分かったんです!」
怒られ慣れなくてしゅんと肩を落とすドラコに対し、ハリーJr.も頭を下げるが、すぐに顔を上げて、事情を説明しだした。
・・・なお、セブルスは本来監督するスリザリンにて、生徒たちに帰宅の説明をするところなのだが、それはメアリーに任せてきている。
ロックハートが逃げるかもしれない、あるいはと念のため様子を見に来てみれば、この始末である。
ハリーJr.にしろ、ドラコにしろ、ハーマイオニーにしろ、ロナルドにしろ、トラブルに好かれているのだろうか?
とはいえ、ハリーJr.とドラコ、ハーマイオニーの三人組が、それぞれに補足しあいながら話す事柄に、セブルスは軽く眩暈を覚えた。
秘密の部屋の在処を突き止めた。これについては、よくやった、と褒めるべきだろう。やはりあの森番がヒントを知っていたのだ。というか、当時を知っていた人間をさっさと締め上げるべきだったのだ。仕事を増やして、そんな暇を無くしたロックハートを、セブルスは改めて忌々しく思う。
で、それとは別に、ロックハートの実情である。(ついでに忘却術のくだりを聞いた瞬間、セブルスは完全にこの男に対する慈悲を消去した)
案の定、という思いと同時に、再び湧き上がってきた。何でこんな奴を正規採用した!ダンブルドア!詐欺師の正体暴きがしたいなら、校外でやれ!子供の教育に悪いだろうが!
おかしい。
セブルス=スネイプは、ヤーナム帰りの、啓蒙高く血生臭い、上位者狩人である。
暴力上等、敵は死ね、遺志とドロップよこせという魔境帰りの摩耗された人間性持ちのはず。
それがなぜ、良識を説いているのだろうか?
おかしなことばかり起こる。ホグワーツだからだろうか?ここじゃあ、誰もが、人間性がおかしくなる。(学校であるはずなのに)
「よろしい」
どうにか気を取り直したセブルスは口を開いた。
「では、貴公らはそれぞれ自分の寮塔に」
「ま、待ってください!先生!」
発言を遮られ、セブルスは不機嫌に眉を寄せたが、声を張り上げたハリーJr.は真剣だった。
「お願いします。僕たちも一緒に、マートルのいる3階女子トイレに行かせてください!」
「?! 何を言っているのだ!」
「先生、ハリーの言うことは正しいと思います。万が一、僕たちだけで行動中にバジリスクに出くわしてしまったら、どうしたらいいと思います?」
ぎょっとするセブルスに、さも悪だくみしているような顔で言ってきたのはドラコだった。
こういう規則の間や合理性を縫うように、口八丁で相手を口説き落とそうというあたりが、実にマルフォイらしい。
「僕やウィーズリーはまだしも、ハリーは半純血、グレンジャーに至ってはマグル出身です。
“スリザリンの継承者”が目障りに思ってきてもおかしくありません」
「そう!そうだわ!“スリザリンの継承者”はジニーを人質に取ってるけど、見張るなら継承者本人がやればいいわ!
バジリスクがまだ校内をうろついてる可能性もあるんだわ!
ああ、もう!何で私ってば、こんな簡単なこと、思いつかないのかしら!」
頭を抱えるハーマイオニーをしり目に、自分に注目が集まってないと思ったか、そろりとロックハートが体を動かした。
「どこへ行かれるつもりかね?そのみっともない頭を隠す程度なら許容せんでもありませんがな」
じろりと視線を動かして睨みつけながら言ったセブルスに、ハリーJr.が思わずポロリと呟いた。
「ヅラデロイ=ロックハーゲ・・・」
ブッフォ、とたまらずロナルドがむせた。
ヒクヒクと頬を引きつらせながら、ドラコは振り向きもせずにハリーJr.を肘で突いた。余計なこと言うな、とばかりだ。
ふむ、とセブルスはハリーJr.を見下ろした。
「よいセンスだ。スリザリンに5点」
「先生?!」
ぎょっとするハーマイオニーをしり目に、ロナルドがとうとう腹を抱えて笑い転げ始めた。
「ブフッ、ヅ、ヅラデ・・・ブハッ、ロクハー・・・ブクッ!ああ、ダメだ!」
ゲラゲラと笑い倒すロナルドをしり目に、一人ロックハートが顔を真っ赤にしている。鬘を拾い上げてどうにか再装着し(粘着呪文を使えばいいのに、とドラコはひそかに思った)、口を開いた。
「人のことを笑いものにするとは、失礼ですよ!Mr.メイソン!スリザリンから」
何事か喚きかけたロックハートだが、直後に一振りされたセブルスの腕の一振りに声を出せなくなったらしく、パクパクと口を開け閉めするだけとなった。
「話を戻すとしよう。確かに、Mr.マルフォイとMissグレンジャーの言うことには一理ありますな」
「じゃあ・・・!」
パッと表情を明るくするハリーJr.に、セブルスはため息を吐いた。
確かに、この場で彼らだけを寮塔にというのは危険すぎる。面倒ではあっても、一緒に行動させるべきだ。
「言っておくが、3階女子トイレ、入り口の在処を確認するだけだ。少しでも勝手な行動をすれば、一挙に50点減点するので、そのつもりでいたまえ」
「! 一緒に行っていいんですか?!」
意外そうに目を瞬かせたハーマイオニーの問いかけに、セブルスは鼻を鳴らした。
もちろん、本来であれば、却下するべきなのだろう。だが。
「入口の在処を突き止めたのは貴公らであろう。答え合わせがしたいというのは自明の理だ。貴公らにはその権利がある。嫌ならば、このまま寮の方に先に送り届けるが?」
「行く!行くよ!」
ようやく笑いの発作が治まったロナルドが飛び跳ねるように叫び、ハーマイオニーやドラコ、ハリーJr.も大きく頷く。
コソコソとなおも無駄に立ち去ろうとするロックハートに、セブルスは右手のひらを一振りした。
「そう、遠慮することもありませんぞ?ロックハート教授。
古来より、一番の盾は、人肉と決まっておるのです。生きてようが、死んでようが、些細なことでしょう。
貴公の尊い犠牲が、生徒たちを守るのですから、英雄にして教師の本懐ともいえましょう!」
ニタァッと悪役面さながらに笑って言い放ったセブルスに、信じられないものを見る目を向けるロックハート。
なお、ロナルドは「コイツやっぱ、闇の魔法使いじゃね?父さんが言ってた」と言わんばかりの疑わしげな表情をしてたのは、言うまでもないだろう。
ハーマイオニーは、大丈夫かしら、という感じの心配そうな顔をしていた。
ドラコですら若干顔を引きつらせていたが、平然を装おうとはしていた。
ハリーJr.は平然としていた。敵には容赦ないなあ、と完全にロックハートを切り捨てていたし、自分たちには何もないと確信していたからだ。だから、彼はスリザリンなのだ。
そういうわけで、縛り上げたロックハートを蹴り上げながら、先頭にして廊下を進み、一同は無事、3階女子トイレの前にたどり着いた。
幸か不幸か、バジリスクとは遭遇せずに済んだ。
3階女子トイレを根城にしているゴースト“嘆きのマートル”は、変わらずそこにいた。
分厚い瓶底眼鏡をかけた、卑屈で太り気味の女生徒姿をしている。
大勢で押し掛けたうえ、女子が一人しかいないという面子に、いつものごとくヒステリーを起こしかけたマートルだが、ハリーJr.の「突然押しかけてごめんね。“嘆きのマートル”だよね?君が死んだ時の様子を教えてほしいんだ」と言うなり、豹変した。
誇らしげに、一言一句を味わうように、彼女は語りだした。
彼女の言によると、当時いじめられていた彼女は、トイレの個室に閉じこもり一人で泣いていたそうだ。
そこに、誰かがやって来て、何事か話しだした。外国語らしく、マートルには理解不能だったが、声から男子生徒と彼女は判断。ここは女子トイレだ、出て行け、と言うつもりで個室の扉を開けたところで・・・ということらしい。
なお、彼女は死因を覚えてないそうだ。見たのは、黄色の目玉が二つ、ということだけ。
その目玉は、個室前の手洗い台の前で見たそうだ。
さっとそこから離れるロックハートをしり目に、生徒4人はそこに駆けよる。
「ここ?何の変哲もなさそうだけど」
ブツブツ言って手洗い台をじろじろ眺めるロナルドをよそに、ハーマイオニーは杖をもって、
ちなみに、蛇口を回そうとしたハリーJr.に、上機嫌になったマートルが壊れている、と教えてくれた。
「・・・どうやら、ここで間違いないらしい」
ポツリと言ったのは、ドラコだった。
「何でそう言い切れるんだよ?」
「よく見ろ。蛇口の側面だ」
ロナルドの疑わし気な問いかけに、ドラコは顎で指すように、言った。
「! これって!」
「蛇の
ハッとしたハリーJr.に、同じようにハッとしたハーマイオニーが言う。
だが、話はそこで終わりだった。
「どうしよう?外国語ってことは・・・たぶん、
「私、本で調べたけど、さすがにどうやってしゃべるか・・・発音とか文法とかは載ってなかったわ・・・」
「おい、マルフォイ。スリザリン系列の純血貴族なら、しゃべれないのか?」
「無茶言うな。いくらマルフォイ家が聖28家に列席する純血名家でも、できないことはあるんだ」
お手上げ状態の子供たちの中で、ふとハリーJr.は女子トイレに入ってから、セブルスが何一つしゃべらないことに気が付いた。
「先生?」
セブルスはただ一人、石像のように硬直したまま手洗い台を凝視していた。
正確には、彼はその身に流れるヤーナムの血によって感じ取れる、遺志を見ていた。
まるで白く燃え盛る炎のように、その遺志は手洗い台の蛇口にしみついていた。以前、大聖堂でローレンスの頭蓋を触った時と同じように見える。何者かの強烈な遺志が、そこに焼き付けられているに違いない。
怪訝に思うハリーJr.をよそに、セブルスは静かに歩み寄り、その遺志に手をかざした。
彼は興奮に胸を高鳴らしていた。
ようやくだ。ようやく、見つけた。サラザール=スリザリンが残した、秘密の部屋。
ここがその入り口だ。ここを見つけたのだ。自分がスリザリンの末裔だと、これで誰もが疑うことなく、信じてくれる。
蛇口に彫り込まれた蛇の
『開け』
ガゴンッと重々しい音を立てて、手洗い台が左右に開き、黒々とした入り口が姿を現した。
やった!やったぞ!よし!後は、秘密の部屋の怪物を呼び出すんだ。
自分はあんな、低能で、何も知らない、無力なマグルなんかじゃない。あいつらとは違う。その証拠として、あいつらを駆逐してやる。今日は、記念すべき第一歩だ。
興奮のままに、彼はその入り口に踏み出した。
刹那にも満たない記憶から帰還したセブルスは、手を引っ込めた。
「先生?どうしたんですか?」
再度、ハリーJr.は問いかけた。彼からしてみると、突然セブルスが手洗い台に近寄って、手をかざしたようにしか見えなかったからだ。
ややあって、セブルスは口を開いた。
『開け』
確かに紡がれたはずの言葉は、はっきりした音とはならず、シューシューと空気の抜けるような独特の音を伴って、発された。
ぎょっとする子供たちをよそに、セブルスは静かに手洗い台を見つめた。
やがて、記憶の中の光景と同様に、ガゴンッと重々しい音を立てて、手洗い台が左右に開き、黒々とした入り口が姿を現す。
「せ、先生、
ドラコの素っ頓狂な問いかけに、セブルスは「違う」と短く首を振った。
「たまたま、聞きかじったことがあったから真似てみた、それだけのことだ」
記憶の中で。
ヤーナムでも、ローレンスの頭蓋にあった遺志から読み取った記憶の中で知った、学長ウィレームの警句のおかげで、禁域の森に侵入できたのだ。
あれと同じことが、まさかホグワーツでも起ころうとは思わなかった。
場所が女子トイレ内部であったので、さすがのセブルスも今までわからなかったのだ。
「場所の確認はできたな?では、それぞれ寮へ送るとしよう。
あとは、我々教師の仕事だ」
そう言って、セブルスが踵を返そうとした時だった。
「行って来い、ロックハーゲ!」
「っ!!!!!」
逃げようとしたらしいロックハートの縄を掴んだロナルドが、問答無用で彼を秘密の部屋の入口内部へ蹴落とし、続いて自分も身を躍らせたのだ。
「何をやってるのだ!馬鹿もの!!」
「ウィーズリー!」
叫んでハリーJr.もまた、パッと穴に向かって飛び込んでしまった。セブルスが止める間もなく。
「「ハリー!」」
「やめんか、馬鹿者!」
駆け寄ろうとするドラコとハーマイオニーを遮り、セブルスは苦虫をかみつぶしたような顔をしながら、再び手洗い台に歩み寄った。
「よいかね?彼らは私が助けに行く。
貴公らは、すぐに寮塔に引き返すのだ。純血のMr.マルフォイが一緒であれば、無事に済む可能性が高いであろう。
Missグレンジャー、ミネルバへの説明報告を。
Mr.マルフォイ、至急お父上へ状況を連絡したまえ。頼みましたぞ。
万が一、我々が戻らなかった時、貴公らこそが、最後の希望だ」
早口にそう吐き捨て、セブルスは穴に身を躍らせた。ぬめる床の滑り台――マグルで言うところの長距離スライダーを滑っているような感じであった。
そして、置いてけぼりにされた二人は顔を見合わせるが、すぐにお互い頷いた。
「急ぐぞ!」
「ええ!」
そうして、大急ぎで女子トイレから離れ、一目散にかけだした。
『ちょっと!来るだけ来てさっさと行くなんて、勝手すぎじゃない?!』と、ムッとした様子で喚くマートルを一顧だにせずに。
ドスンっと、最下部でしりもちをついたセブルスが、真っ先にしたことは、先に降りた3人の無事の確認だった。
「無事かね?!」
「はい。御免なさい、先生。勝手なことをしてしまいました」
真っ先に答えたハリーJr.に、セブルスはため息を吐いた。
ロナルドは、「しょうがないだろ!」と不服そうに声を張り上げる。
「だって、この先にジニーがいるんだぞ?!ここで任せて、指をくわえてみてろって言うのか?!」
「グリフィンドール、及びスリザリンから50点減点!
貴公らは学生であり、子供だ。子供を助け、守るのは、教師たる大人の務めだ。
今回のことで、我々の無能ぶりに当てにならないと判断したかね?ロナルド=ウィーズリー」
ロナルドの駄々をこねるような声に、セブルスは宣言通りの減点の後、嫌味を返すように答えた。
グッと、ロナルドは言葉に詰まった様子で、悔しげにプイッとそっぽを向く。
子供っぽいなあ、とハリーJr.がひそかに思ったかは定かではない。
そうして、セブルスは周囲に視線を走らせる。ほぼ真っ暗で、光は届かない。
ぬるついた壁に、湿って水の溜まった床。石がむき出しになっている辺り、天然の洞窟を改造したようにも見える。
「もしかして、ここ、湖の下にあるの?」
ポツリと言ったハリーJr.に、セブルスは「おそらく」と短く頷いた。
とはいえ、ここまで来たからには仕方がない。
セブルスは、無言呪文の
「
それを見たハリーJr.も取り出した杖で発光呪文を唱えて、杖先に魔法の光を灯した。
ロナルドは自分もやるべきかと迷ったようだが、スペロテープ巻きのトネリコの杖を見やってから、やらない方がいいだろうと判断したらしく、おとなしく杖をしまった。
来たところを振り返って念のため確認してみるが、ぬるついたトンネルは滑り落ちることはできても、上ることは不可能に見える。
箒か何かを持ってくるべきだったか。最悪、
セブルスは箒は苦手であるが、四の五の言っている場合ではない。
先に彼らを帰すという手もあるが、
「貴公らはここで待ちたまえ、先に行くのは私だけだ」
コクコク頷いたのは、いまだに縄塗れのロックハート(鬘が行方不明)だけだ。
「でもジニーが!」
「バジリスクに襲われた時、貴公らは自分の身を守れるのかね?2年生よ。己が力量をわきまえたまえ!」
我慢しきれずに噛みつくように叫ぶロナルドに、セブルスはいら立ちを隠さずに言った。
「でも、先生。この先にいるのは、ジニー=ウィーズリーとバジリスクだけじゃなくて、“スリザリンの継承者”も一緒のはずです。
もし、“スリザリンの継承者”が人質を取ってきたら?お一人では、救出も大変だと思います」
ここで、ハリーJr.が口をはさんだ。心なしか、悪戯を企む子供じみた表情だ。
「決してお邪魔はしません。ジニーを助けたら、彼女を連れて速攻離脱、それができる人間がいた方が、よくないですか?」
「! そうそう!決して、お邪魔しませんから!」
大きく頷いて尻馬に乗ってくるロナルドに、セブルスはため息を吐いた。
・・・確かに、一理ある。
そして、こういう場合、下手に放置した場合の方が数倍厄介になる。
「・・・仕方ありませんな。ただし、私の指示には絶対に従うこと。破れば、さらなる減点・罰則では済まない、と思いたまえ」
「「はい!」」
返事だけは元気がいい学生二人をよそに、セブルスは絶望的な顔をしているロックハートを見下ろした。
「聞こえておりましたな?では、栄誉ある先陣を切っていただきましょうか?英雄殿」
そう言って、
とっても凶悪な顔をしていて、それを見たロナルドは、絶対、まず間違いなく、あれは闇の魔法使いだ、と内心で確信を深めさせた。
ロナルドは父であるアーサーからセブルスの学生時代の所業を聞いている。徒党を組んでグリフィンドールの学生に呪いをかけて回り、当時の人気者だった学生たちに成敗されたのを根に持って自主退学、闇の魔術に深く魅入られたのか失踪していたのだ、(情報源は『不死鳥の騎士団』メンバーかららしい)と。
授業でだってグリフィンドールへの加点は少ない(グリフィンドール生の性質的に魔法薬学が全体的にあまり得意ではないのが原因)ので、贔屓のある先生だとロナルドは思っている。
駆け落ちした父母に育てられて、ホグワーツに行くまで家族以外の魔法族の子供たちとも付き合いがなかったロナルドは、狭い視野で物事を判断しがちであったのだ。
「何事か動く気配がすれば、すぐに目を閉じることだ。目さえ見なければ、即死は免れられる」
淡々と言ったセブルスに、他のメンバーは静かにうなずいた。
そうして、暗いトンネルを彼らは進み始めた。
続く
【金の鬘】
ギルデロイ=ロックハートが着用する鬘。彼の元の髪形と同じ、ブロンド。
脱毛薬によって毛髪が抜け落ちてしまった彼に、既存の魔法薬は効果を発揮せず、やむなく抜け落ちた髪の毛を使ってこの鬘を作り上げた。
輝くようなスマイルを誇る彼には、麗しくなびくブロンドこそふさわしい。たとえ、その内側に虚ろな自己愛しかなかろうと。
次回の投稿は、来週!内容は、さらば、ロックハート!(え)そしてVSバジリスク、開戦!お楽しみに!
アンケートは投稿順を聞いてると思ってください。第3楽章終了後に、トップから順に公開していきます。
どちらの外伝に興味はありますか?
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ホグワーツでのメアリーの生活
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ハリ・ドラ・ハーミー3人の学生生活
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外伝?本編が先だ!
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もし、セブルスさんが日記を手に入れてたら