セブルス=スネイプの啓蒙的生活   作:亜希羅

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 前回は、評価、お気に入り、しおり、ここ好き、誤字報告、ありがとうございました。

 みんな大好きヅラデロイ=ロックハーゲ、これにて退場となります。先生の次回作はエターナル!

 いよいよスタート!狩人セブルスさんによるリアルモンスターハンター!リドル君とセブルスさんの罵倒合戦による前座付きです。


【6】セブルス=スネイプ、秘密の部屋へ①

 

 静まり返っていた暗いトンネルをしばらく進めば、やがてネズミらしき小動物の白骨死体が、いくつも散らばっているところに出くわした。

 

 うっかりロナルドが踏みつけ、バリッと音を立てたことから、かなりの年数がたっているらしい。

 

 ロナルドが、ますます蒼褪めたひどい顔をしていた。妹がどうなっているのか、気が気でないに違いない。

 

 やがてトンネルがカーブに差し掛かった時だった。

 

 無理やり先頭を歩かせていたロックハートが「ヒィィィィッ!」と情けない声を上げるや、顔を背けてブルブル震えだした。(どうやら、いつの間にか沈黙呪文(シレンシオ)が切れていたらしい)

 

 つられて一同も足を止める。

 

 セブルスはとりあえず視線を床に落とし、そこからのろのろと床を辿るようにゆっくりと上げていく。目を完全に閉じないのは、周辺環境を見るためだ。逃げるにしても、道筋を把握できなくては、どのみち死ぬしかない。

 

 気配らしいものはない。念のため、周辺察知呪文を使っても、それらしいものは察知できない。まず大丈夫だと思うが、念には念を入れる。

 

 なお、後ろの学生二人はしっかりと目を閉じていた。

 

 やがて視界に飛び込んできたのは、毒々しい緑色の、蛇の抜け殻だった。優に6メートルはある。抜け殻でこれなのだ。現在は、どのくらい長く、巨大なことか。

 

 「抜け殻のようですな」

 

 ポツリと言ったセブルスにつられたように、他三人も目を開けたらしい。

 

 「なんてこった」

 

 ロナルドが呆然と呟く。

 

 バシャンッという音は、縛られたまま水たまりにしりもちをついたロックハートだ。

 

 「立て」

 

 と、ロナルドが杖を彼に向けようとした。

 

 その直後のことだ。いつ縄を振り切ったか、自由になったロックハートがロナルドめがけてとびかかった。

 

 「ウィーズリー!」

 

 急ぎ、ハリーJr.が杖を、セブルスが右手を、それぞれ向けた時にはすべてが遅かった。

 

 ロナルドを突き飛ばしたロックハートが肩で息をしながら立ち上がる。輝かんばかりのスマイルを浮かべているが、鬘もなく、崩れたメイクのせいで眉は歪み、付け睫も片方とれているため、まったく格好がつかない。もっとも、今の本人的には些細なことなのだろう。

 

 何しろ、彼の手にはスペロテープ巻きのトネリコの杖――ロナルドの杖が納まっているのだから。

 

 「お遊びはこれでおしまいだ!」

 

 「貴公、愚かな真似はやめたまえよ。それで何ができるというかね?」

 

 セブルスがあきれ果てた口調で言った(すでにどうなるか、予想が付いていた)が、ロックハートが耳を貸すわけがなかった。

 

 「私はこの皮を少し学校に持って帰り、女の子を救うには遅すぎたとみんなに言おう。君たち3人はズタズタになった無残な死骸を見て、哀れにも精神に異常をきたしたと言おう。

 さあ、記憶に別れを告げるがいい!」

 

 頭上に杖を振りかざしたロックハートが高らかに叫んだ。

 

 「忘れよ(オブリビエイト)!」

 

 同時に、その杖は小型爆弾並みに爆発した。

 

 とっさにセブルスとハリーJr.は逃げ出した。爆発の余波で、轟音を伴いながら天井からばらばらと大きな岩の塊が降り注ぐ。

 

 「ジュニア!」

 

 「うわあっ?!」

 

 ひときわ大きな塊が降り注ぎ、セブルスはとっさにハリーJr.を突き飛ばした。でなければ、彼は瓦礫の塊に潰されていたことだろう。

 

 やがて、轟音がやんだ時には、セブルスは岩の塊の前に立っていた。

 

 分断されたのだ。

 

 「おじさん!おじさん、聞こえる?!大丈夫?!」

 

 「先生と呼ばんか、馬鹿者!」

 

 岩の向こうから、ハリーJr.の声が聞こえた時には、ほっとしつつもセブルスは反射的に言い返した。

 

 「Mr.メイソン!Mr.ウィーズリー!怪我はないかね?!」

 

 「僕たちは大丈夫です!・・・って、あの詐欺師がいない?!まさか!」

 

 ハリーJr.の声の直後、セブルスは少し離れたところでひっくり返って目を回しているロックハートを見やった。

 

 至近距離で忘却術の逆噴射を浴びた・・・ように見えるが、実際はセブルスがすんでのところで防護魔法を展開して、呼び寄せ呪文で引っ張って助けてやったのだ。

 

 

 

 

 

 そうとも。

 

 このまま穏便に記憶消去で済ませるなど、セブルスの気が済むわけがない。

 

 メアリーを泣かせて、仕事を増やして、例年以上のフラストレーションを贈呈してくれたのだ。

 

 行方不明となっても問題ないシチュエーションである。何も問題はない。

 

 

 

 

 

 「こちらにもいない!念のため、警戒しておくのだ!窮鼠猫を噛むぞ!」

 

 「わかりました!」

 

 ハリーJr.の返事を聞いてから、セブルスは顔を伏せた。

 

 すでにジネブラが拉致されてから、何時間も経つ。これ以上時間をかけるのは、愚策でしかない。

 

 幸い、セブルスがいるのは、分断された側でも奥へ進む方だ。

 

 「よろしい。では、Mr.メイソン、並びにMr.ウィーズリー。一つ、仕事を申し付けよう」

 

 「仕事ですか?」

 

 「そうだ。私が戻ってこれるように、この瓦礫を多少でもよい、崩したまえ。崩しすぎて、トンネルを潰さないように。よいかね?

 私はこのまま、奥へ進む。ジネブラ=ウィーズリーの救出に向かう」

 

 「・・・わかりました!」

 

 「チックショー!あいつ!ほんっと、ろくなことしねえな!ジニーに何かあったら、承知しねえからな!」

 

 セブルスの指示に、ハリーJr.がしっかりと答えて見せたが、ロナルドがそのあとに助けに行けないことに不服をこぼしている。

 

 「おじさん!気を付けて!」

 

 「・・・貴公も気を付けたまえ。あとで会おう」

 

 ハリーJr.の声援を背に、セブルスは無言呪文の浮遊術で気絶したままのロックハートを持ち上げると、改めてトンネルの向こうへ向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 セブルスは十分離れてからロックハートを地面に放り出すと、気が付いたのかうめいて身を起こそうとしたロックハートの前に懐から取り出したものをかざした。

 

 「これが何かわかるかね?」

 

 セブルスが持っているのは、しゃれこうべだった。青白い軟体生物のようにも見える光の帯がまとわりついた、奇怪なものだ。

 

 ロックハートは知らない。それは狂人の智慧といい、上位者の智慧に触れて狂った狂人の頭蓋なのだ。

 

 「最近、うっかり使い損ねていて在庫がたんまりあってな。光栄に思うがいい。本来、貴公ごときには勿体ないものだ。

 真に何を貴ぶべきか、啓蒙なき貴公にこれをもって教えて進ぜよう」

 

 そういうや、セブルスはロックハートの目の前でそれをぐしゃりと握りつぶす。

 

 ひゅくッとロックハートの喉が鳴った。その青い目の奥で、瞳孔がビキリとひび割れる。

 

 本来、それは握りつぶすことで、狩人に内に収められた啓蒙をもたらすものだ。もちろん、その大部分はセブルスが得たが、ほんのわずかな残滓がロックハートの頭蓋にも染み渡ったのだ。

 

 そして、他者の話や自身の文中以外で大きな命の危機に遭遇したことのない、ロックハートの精神に、それは致命的過ぎた。ヤーナムの血という土台もなければ、なおのこと。

 

 「あっ、ひっ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 

 「この程度で悲鳴を上げるな、情けない。まだ序の口ですらないのだぞ」

 

 この世ならざる真理、蒙を啓かれた先に広がるほんのひとかけらを流し込まれ、ロックハートの理性は瞬時に蒸発した。大仰で自己愛に満ちた演説を垂れ流した口腔器官は、母音とよだれを垂れ流すだけの穴と化した。

 

 ガクンッとのけぞって暗黒の天井を見上げ、もはや叫ぶだけの肉人形と化したロックハートに、セブルスは容赦しなかった。

 

 「では、先を急ぐからな。貴公の処分はこれで終わりだ」

 

 そう言うや、セブルスは地面に落ちていたがれきの破片を拾ってポートキーにすると、ロックハートめがけてポンっと放り投げた。

 

 

 

 

 

 賢明なる読者諸氏はもちろん、存じていることだろう。

 

 ホグワーツには“姿現し防止”が施されているのだが、ポートキーならば使えるということを。

 

 しかも、通常のポートキーは国境を越えるような長距離移動設定は不可能なのだが、セブルスの持つ杖と上位者の力は、そんなものを軽く無効化してしまうのだ。

 

 

 

 

 

 廃人となったロックハートは、次の瞬間発動したポートキーによって姿を消した。

 

 「ブレアウィッチによろしく伝えてくれたまえ」

 

 聞こえているはずがないだろう一言を言い残して、セブルスは顔をあげて、改めて奥に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 その後、飛ばされたロックハートがどうなったかは定かではない。

 

 ただ、ブレアウィッチフォレストというその森に迷い込んだものは、上位者狩人という例外を除いて大体発狂死しているということをここに明記しておく。

 

 

 

 

 

 さて、改めて奥に向かうセブルスは、血の遺志に収納していた枯れ羽帽子と防疫マスクを着用し、左手には取り回しと威力を重視して、教会の連装銃を装備し、右手にはシモンの弓剣を持つ。

 

 普段使いのノコギリ鉈&獣狩りの短銃もいいのだろうが、今回の相手はバジリスクである。

 

 対抗するにしても、まずは目を潰すところから始めなければならない。シモンの弓剣であれば、変形すれば威力と飛距離、そして消音性に優れた弓となるので、バジリスクの目を狙撃するにはうってつけだ。

 

 目を見れば即死?結構。

 

 防疫マスクの下で、セブルスは不敵に笑う。

 

 だてにヤーナムを走り回ったわけではない。啓蒙を脳みそごと吸いだす脳喰らいに襲われてあっさり死んだことだってあるし、聖職者の獣に掴まれて地面にたたきつけられ圧死したこともあれば、ホオズキに抱擁されて全身から槍を生やしながら力尽きたこともある。

 

 即死攻撃持ちを相手にするなど、今更すぎるというものだ。

 

 使えそうな呪文も脳内でリストアップしながら、セブルスは前に進んだ。

 

 

 

 

 

 とうとう、トンネルの奥へ行きついた。

 

 行き止まりとなっているその壁に施されているのは、二匹の蛇が絡み合った複雑な彫刻で、目にはエメラルドがはめ込まれていた。

 

 セブルスには、何をすればいいか、すぐに分かった。

 

 明瞭に聞こえるように、念のために防疫マスクをずらしてから、口を開いた。

 

 『開け』

 

 再度唇を震わせた蛇語(パーセルタング)を放った途端に、壁は二つに割れ、二匹の蛇がそれぞれ分かれながら、黒黒した入り口を見せつけてきた。

 

 秘密の部屋が、開かれた。

 

 防疫マスクをつけなおしたセブルスは狩人らしく、しっかりした足取りで奥へ進んだ。

 

 

 

 

 

 蛇が絡み合う巨大な石柱の数々。怪しい緑がかった薄明かりの、だだっ広い部屋だった。天井は高く、見上げても黒々として見えないほどだ。

 

 一番奥。石柱の向こうには、大きな石像が立っていた。サラザール=スリザリン、その人を模した石像だ。

 

 こんなものを残すとは、スリザリンはずいぶんとナルシストであったらしい。

 

 内心でそう皮肉りながら、セブルスは石像の足元を見やった。倒れ伏す、黒い制服ローブと広がる燃えるような赤毛――うつぶせになっているジネブラ=ウィーズリーに、彼はとっさに踏み出しそうになる足をとどめた。

 

 罠だ。

 

 ヤーナムで散々似たようなシチュエーションに出くわしてきたからわかる。これは、罠以外の何物でもない。

 

 開けた場所に、ポツンと何か置いておけば、それに注目するあまり、周辺察知がおろそかになる。

 

 大体は、死角から獣が襲ってきてひどい目に遭い、そのくせ手に入れたものはあまり有用なものではなかったりするのだ。

 

 「・・・来い(アクシオ)

 

 セブルスは、武器を一度血の遺志に還元し、空手となった両手でもって、ジネブラを魔法で引き寄せて、抱き留めた。

 

 死人のように真っ白な顔で目は閉ざされていた。石にはされていないようだが、かなり衰弱しているらしい。

 

 意識もないらしく早急に医務室に連れていくべきか、とセブルスが思案した時だった。

 

 「誰かと思えば。陰気で嫌味、中途退学の半端教授か。

 いつにもましておかしな格好をしてらっしゃる」

 

 背の高い黒髪の青年がこちらを見ていた。整った顔立ちに赤い瞳の美男子だった。石像すぐそばの柱に身を持たせかけている。纏ったホグワーツの黒い制服ローブ。緑色のネクタイから、スリザリン生らしいとわかる。

 

 だが、セブルスの記憶にはこんな生徒はいないはずだ。

 

 そして、生きた人間ではないらしいことも。曇りガラスでもかかったようにぼやけた輪郭と、薄気味悪いぼんやりした光を纏っている。ゴーストのようにも思えるが、違うとセブルスは脳に宿した瞳で瞬時にそう判断した。

 

 「・・・貴公が、“スリザリンの継承者”かね?」

 

 「ご明察!半端教授の割には鋭い、と言っておこうか」

 

 セブルスの問いかけに、青年はニッコリ笑って、腰を折って優雅に一礼して見せる。

 

 「初めまして。ここまで来られたことに敬意を表して、名前くらいは名乗っておきましょうか。こんなみっともない名前でも、当時はそう名乗っていましたからね。

 僕はトム。トム=マールヴォロ=リドル」

 

 ピクリっとセブルスは枯れ羽帽子の下で、眉を動かした。

 

 「・・・ホグワーツ特別功労賞授与者、魔術優等賞授与者、在学時の首席生徒の一人か」

 

 トロフィー室にあった盾とメダルを思い出し、セブルスが言った。学生時代、馬鹿ども4人組のとばっちりの罰則でセブルスもあの部屋の盾磨きをやらされたことがあったから、いやでも記憶に刻み込まれていたのだ。

 

 「へえ!半端者でもさすがに知っているのか!感心感心!」

 

 とことん半端者呼ばわりしてくるリドル青年に、セブルスは内心面白くなかったが、そうも言ってられなかった。

 

 下手に何か刺激を加えれば、ジネブラに何をしてくるか、わかったものではなかったからだ

 

 「だが、在学していたのは50年前のはず・・・」

 

 言いかけて、セブルスは気が付く。先ほどまでジネブラがいたところに、一冊の黒い革表紙の日記帳が開かれて落ちていた。

 

 ルシウスが紛失させてしまった、例のアイテムだ。

 

 「記憶ですよ、先生」

 

 厭味ったらしく、リドル青年が言う。

 

 「50年前当時の記憶を、僕は残した。僕に不可能なんかないんです。

 16歳の自分を保存するなんて、わけもありませんよ」

 

 セブルスの中で、脳についた瞳がざわりと瞬いた。

 

 「・・・分霊箱か」

 

 「へえ?これは驚いた!まさか、分霊箱のことを知っているとはね!」

 

 感心したような声を上げるリドル青年に、セブルスは防疫マスクの下で舌打ちする。

 

 そうだ。ルシウスは、父親が“闇の帝王”と懇意にしていた、死喰い人の中でも側近中の側近と言える立場にいた。分霊箱を預けるならば、うってつけの存在ではないか!

 

 まさか、日記帳として残されているとは思わなかったのだ。そうされているとしたら、死の秘宝、創始者の宝という先入観があったから、完全に意識外にやってしまっていた。

 

 となれば。

 

 「・・・なるほど?TOM MARVOLO RIDDLEか。

 アナグラムで、I AM LORD VOLDEMORT。種が割れれば、簡単であるな。

 50年前であれば、あの男が在学していてもおかしくない。

 スリザリンの継承者であっても、不思議ではない」

 

 「半端者のくせに物分かりはいいね?そうさ。ヴォルデモート卿は僕の過去であり、現在であり、また未来だ。

 汚らわしい父の名、ミドルネームにしたって、役立たずの祖父からだぞ?いつまでもそんな名前をこの僕が使うとでも?

 母方にサラザール=スリザリンの血が流れ、彼女を魔女だというだけで捨てた、凡俗で汚らわしいマグルの名前を、そのまま使うとでも?

 僕は自分の名前を自分でつけた。いつか、魔法界がその名を口にすることを恐れる名前を!僕こそが、世界一偉大な魔法使いになると、わかっていたのだから!」

 

 恍惚たる様子で語るリドル青年だが、セブルスは噴飯ものだと、小さく噴き出した。

 

 「何がおかしい?」

 

 ピクリと眉を跳ね上げたリドル青年に、セブルスはクツクツと笑いながら言った。

 

 「いや、自己特別視も行き過ぎれば、御大層なものですなあ。

 子々孫々にそれが受け継がれているのを知れば、スリザリンも感涙されると思いましてな」

 

 「中途退学の、魔法使い失格の半端者風情が、何を偉そうに!」

 

 「他の創設者にも秘され、来るものなどほとんどいなかろう秘密の部屋に、あのような石像を残すスリザリンと、自分が特別と信じてやまず、自分だけの特別な名前を付ける貴公。

 ふむ。実に血のつながりを感じさせる。

 だが、気持ちはわからんでもない。若いころは得てして、特別に焦がれるものだ」

 

 激昂するリドル青年を歯牙にもかけず、セブルスは言った。

 

 特別な自分。特別な存在。自分だってその血が流れている。そうであれば、こんなことないはずなのに。

 

 かつてのセブルスも、確かにそれに焦がれたのだ。母の血筋――プリンス家の血筋だということを、よすがにしていた。

 

 もっとも、ヤーナムで地獄を味わってしまえば、そんなものはどうでもよくなってしまうのだが。悪夢の奥底では、純血だの血筋だの毛ほども役に立たないし、意味もないと否が応にも悟ってしまった。

 

 「ふん。半端者に偉大な魔法使いの何たるかは、理解できないか」

 

 「する必要もない。私は単に、教師の本分を全うしに来たにすぎん。

 ジネブラ=ウィーズリーは返してもらうぞ」

 

 「馬鹿な小娘の命がそんなに惜しいのか」

 

 リドル青年がせせら笑って言った。

 

 「知っているのかい?その小娘が何をしたか」

 

 「・・・大方、貴公に操られ、秘密の部屋を開け、メッセージを壁に書き殴り、雄鶏を絞め殺し、バジリスクを操ったというところか」

 

 「その通り(EXACTLY)。その子は、僕の日記に自分の秘密を注ぎ込み続けた。そして空っぽになったところを、僕の秘密を注ぎ込んでやったのさ。

 断言してやる。その子の命はもう長くないぞ。僕が日記を抜け出すほどになったくらいだ」

 

 「では、貴公を殺せば、ウィーズリーは助かるということか」

 

 まるで1+1=2は当たり前のことだと言うかのように言ったセブルスに、リドル青年はせせら笑うように言った。

 

 「殺す?この僕を?“生き残っていた母子”であるならばともかく、彼らは消え去ったっていうじゃないか。その子が聞かせてくれたよ。リリー=ポッターの息子のハリー=ポッターが生きてたら、一緒に入学できてたのに、とね。

 中途退学の、半端教師風情が。大言壮語も大概にしておくがいい」

 

 「おや、知らないのかね?」

 

 ジネブラを下ろして、近くの柱のそばにおいて、改めて両手に武器を取り出しながら、セブルスは言った。

 

 これは朗報だ。分霊箱は、本体と情報を共有できないらしい。

 

 「ヴォルデモート卿を殺したのは、私だ。

 ポッター母子は、見ていたにすぎんよ。

 貴公が奴の過去であり、現在であり、未来であるならば、同じように内臓を引きずり出されるのもまた、変わらぬのであろうな」

 

 ガシャンっと、手の中のシモンの弓剣を、曲剣形態からワイヤーを弦とする弓形態に変形させて、セブルスは言った。

 

 獣狩りに弓を用いるなど、と大概の狩人は嘲るが、弓は弓でいい部分もあるのだ。

 

 「はっ!あんた、教師よりもいっそ、俳優の方がいいんじゃないか?喜劇俳優など、お似合いだぞ!

 杖はどうした?魔法使い!退学ついでに折られたか?どこかの森番と一緒だな!」

 

 まるで信じてない様子のリドル青年は嘲ってそう言うと、話はこれでおしまいだというように、踵を返すと、石像の前の1対の柱に間に立ち、口を開いた。

 

 シューシューという空気の漏れるような声から、おそらく蛇語(パーセルタング)だろう。

 

 途端に、石像が動いた。石像の口が動いて、何かがそこから這い出して来る。

 

 だが。

 

 セブルスの方が速かった。

 

 かざした右手で無言呪文による目隠し呪文(オブスキューロ)を放ち、まだ頭すら出せていないバジリスクに呪いをかけ、内部でシューシャー怒っているらしいそれにさらに追い打ちをかける。

 

 頭を出したバジリスクに、続けて水銀弾から精製した矢を撃ち込んだ。シモンの弓剣の、弓形態は精密射撃に優れているのだ。2発連射して、目を潰した。これで呪文が効果切れしようと、即死は免れられる。

 

 「貴様あああああ!」

 

 リドル青年が激高している。まさかセブルスがおとなしく怪物の登場を見物していると思ったのだろうか?

 

 ここまで大人しく会話に興じてやったのだ。殺し合いのターンで大人しくしてやる義理も義務もありはしない。死力を尽くすのが狩人だろうに。

 

 シモンの弓剣を曲剣形態に戻したところで、リドル青年が何やらシューシャー蛇語で喚いている。

 

 教会の連装銃をリドル青年に向けて、引き金を引くが、予想でもされていたのか、防護呪文(プロテゴ)で防御される。リドル青年が使うのは、おそらく、ジネブラから奪った杖だ。

 

 だが、一発で水銀弾を複数消費する銃の高火力は伊達ではない。たったの一撃で盾は砕け、ぎょっとした様子のリドル青年は慌てて呪文を唱え直している。

 

 そして、セブルスにリドル青年を狙い直す余裕はなかった。彼とリドル青年を隔てるように、バジリスクがその樫の木のように太く大きな巨体を横たわらせてきたのだ。

 

 水銀の矢を目元に突き立てたまま、バジリスクは緑色の毒々しい鱗をきらめかせ、牙をむき出しにして襲い掛かってきた。目は見えずと、臭いや音で居場所がわかるに違いない。

 

 既のところで、セブルスは狩人の流麗なステップで、その一撃をよける。

 

 バジリスクは、もちろん牙にも毒がある。即死とまではいかないが、喰らえば数秒で命を落とす。避けるに越したことはない。

 

 バジリスクは幾度も、セブルスに噛みつこうと首を突き出してくる。太く長い尻尾による叩きつけも織り交ぜてきた。

 

 セブルスは、どうにかそれらをよけ、踵を返す。一度距離をとって、火炎瓶か何かで攻撃したかったのだ。

 

 シューシューというリドル青年の蛇語が聞こえる。どうやら、追って殺せと指示を出しているらしい。

 

 なるほど、やはり逃がす気はないらしい。

 

 シュルシュルという這う音から、追跡されているのは間違いない。セブルスは一度大広間から離れ、城中に張り巡らされているらしいパイプの一つに入り込んだ。

 

 バシャバシャと水を踏みながら移動するセブルスは、ふと思いついて、血の遺志収納から取り出した古びた笛を口元に当てる。

 

 そして。

 

 ピィィーッという高い音色が、パイプを通じて秘密の部屋に響き渡った。

 

 続けて、何度かそれらが聞こえてきて、スリザリンの石像の前で優雅にたたずむリドル青年が、助けでも求めているのか?と嘲笑を浮かべた時だった。

 

 パイプを一周してしまったらしいセブルスが、再びスリザリンの石像の前に駆け込んできた。

 

 その口元に当てられているのは、茶色く汚れたホイッスルだ。

 

 何だそれは?

 

 改めて、リドル青年が嘲りを口にするより早く、セブルスは口元に当てているホイッスルを吹いて、その場から離れる。

 

 直後、彼の後に続いて戻ってきたバジリスクが、再び彼に牙を突き立てようと、迫ってきた。

 

 だが、先ほどセブルスが立って笛を吹いた場所から出てきた巨大な蛇の咢が、バジリスクの太い胴に噛みついていた。

 

 「何だと?!」

 

 ぎょっとしているリドル青年はそこまで来て気が付く。

 

 苦痛にのたうつバジリスクの胴には、他にも何か所か噛みつかれたらしい牙の痕がある。

 

 

 

 

 

 セブルスが手にしているのは、秘儀“マダラスの笛”の触媒だ。

 

 少々癖の強い秘儀で、笛を吹いた場所に巨大な毒蛇の咢を召喚するというものだ。笛を吹いた場所に攻撃を加えるので、下手をすれば自爆することもある。

 

 動きの素早い狩人や獣相手には難しいうえ、アメンドーズやエーブリエタースのように高い位置に急所を持っているならば、そもそも当たらないと来た。

 

 しかし、今回のようにそもそも接地している部分が長大であれば、うってつけの秘儀であるともいえた。

 

 

 

 

 

 毒蛇の王も、悪夢に住まう腑分けされた獣を餌として育った蛇には、かなわないらしい。

 

 それでも命令に忠実にあろうと、バジリスクはセブルスめがけて尻尾を振り薙いだ。

 

 狩人のステップで軽々と避けるセブルスに、リドルはこんなはずでは、と舌打ちするが、ややあってニタリッと邪悪に笑う。

 

 次の瞬間、彼がシューシューと何事か指示を出すと、急にバジリスクは鎌首をもたげて、方向転換した。

 

 ぐったりしたままのジネブラ=ウィーズリーの方へ。

 

 「くっ!」

 

 急ぎ、セブルスは高速移動呪文を発動し、バジリスクとジネブラの間に割り込んだ。

 

 ジャクッと肉の裂ける音がした。

 

 「ぐぅっ!」

 

 とっさに突き出した右腕に、バジリスクの太い牙が突き立てられ、たまらずセブルスはうめいていた。

 

 「はっ!血を裏切るものなどかばおうとするからだ!半端者め!」

 

 リドル青年の嘲笑に応えるように、バジリスクはそのままセブルスを咥えて引きずり上げようとした。

 

 だが、狩人は転んでもただでは起きないのだ。

 

 セブルスは、自由な左手を必死に持ち上げた。毒で目がかすみ体に力が入らなくなってくるが、それでもやる。最後までくらいつくのが狩人なのだ。

 

 教会の連装銃をバジリスクの鼻先に押し当て、そのまま引き金を引く。

 

 “マダラスの笛”によって消耗していた水銀弾は、すでに緊急精製で補充していたので、銃撃自体は可能だった。

 

 一度に複数水銀弾を放つ連装銃の攻撃を至近で浴びせられたバジリスクは、悲鳴を上げてセブルスを離した。

 

 ゴロンッと地面に転がり落ちるように降り立つセブルスは、太腿に輸血液を打って、無理やり体力を補填し、意識をつなぎとめる。

 

 無理やりの、ごり押しだ。

 

 のたうつバジリスクは、よろけて立つのもやっとという状態のセブルスめがけて、牙をむき出しにして飛びかかる。

 

 それこそが、セブルスの狙いとも思わずに。

 

 大ぶりな一撃。正面に立つセブルスは、霞む目とすり減る体力をものともせずに、教会の連装銃による銃撃を撃ち込んだ。

 

 ガンパリィだ。

 

 動きを止めて、苦痛にもがくバジリスクに、セブルスは瞬時に間合いを詰め、その頭蓋に右腕を突き入れていた。

 

 アメンドーズからエーブリエタースまで、巨大な上位者の頭蓋すら掻っ捌いた狩人の右手を嘗めてはいけない。

 

 飛び散る血液でリゲインし、さらに体力を補いながらセブルスは頭蓋の奥の肉を抉りだしていた。

 

 ひときわ大きな悲鳴を上げて、バジリスクはどおッと横倒しになった。そのまま動かなくなる。“マダラスの笛”の蛇に散々甚振られ脳天を抉られれば、いかにバジリスクといえど耐え切れなかったのだ。

 

 それを見届けて、セブルスはがっくりと膝をついた。

 

 「フン・・・半端者としては、やった方か。

 だが、結末は同じだ。

 御覧の通りだ。お前の大言壮語が妄言でしかないことが証明されたぞ?

 この通り、お前は死ぬ。ヴォルデモート卿の手にかかって、誰にも知られずに。

 さようなら、可哀そうな教授殿」

 

 嘲るリドル青年の声に、セブルスはそのまま力尽きて倒れこんだ。

 

 

 

 

 

続く




【古びた日記帳】

 黒い革表紙の古びた日記帳。50年ほど昔の日付は消えかけており、かろうじてT.M.リドルの文字が見て取れる。

 数少ないお小遣いで買った日記帳に、リドルは様々なことを書き込んでいた。学校の授業であったこと、自らを見込んでくれた純血貴族の友人たちのこと、自らをはじき出して、戦争によって行き場をとことん奪おうとするマグル界のこと。

 今や、彼に日記は必要ない。魂に刻まれた憎悪は、その断片とともに、その中にあるのだから。





 次回の投稿は、来週!内容は・・・決着!そしてマクゴナガル先生のお部屋にて。秘密の部屋のあれこれ、亜希羅の捏造満載の妄想を添えて。
 こういうばらばらのパズルとか、すでにあるものを補完するようにあれこれこねくり回して考えるの、すげえ好きです。
 原作者様がすでにあれこれお答えなさってくださっておりますので、私のは蛇足とか、原作レイプに近いあれこれなんですがね!





 こそこそアンケ。ご協力お願いしまぁす!

どちらの外伝に興味はありますか?

  • ホグワーツでのメアリーの生活
  • ハリ・ドラ・ハーミー3人の学生生活
  • 外伝?本編が先だ!
  • もし、セブルスさんが日記を手に入れてたら
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