とんでも妄想説をぶちたてましたが、皆さん懐の広い方ばかりでほっとしました。ありがとうございます。
一応、第3楽章はこれでおしまいです。
それでは続きをどうぞ。
あ、いまさらですが、7月31日はハリー=ポッター君の誕生日でしたね。おめでとう、ハリー!
しばらく、ダンブルドアはセブルスを見ていたが、やがて静かに目を伏せた。
「・・・すまなかったの」
それは何に対しての謝罪だろうか?
セブルスを招いたのは自分のくせに、彼を疑ったことに対してか?
子供たちを預かる学び舎での、数々の失態か?
はたまた。
「ハリー=メイソンJr.か。あまり父親とは似ておらんようじゃの」
唐突に話題を変えたダンブルドアに、セブルスは鋭い視線を向けた。
気づかれている。
おそらく、この父親というのはジェームズ=ポッターであるに違いない。
それはそうだろう。
ハリーJr.は、眼鏡もなく、癖毛もだいぶ治まっているが、それでもその顔立ちはポッター家よりなのだ。
ホグワーツに勤めて長いダンブルドアが、気が付かないわけがないのだ。
以前、ルシウスに気が付かれた時、彼はこうも指摘してきた。死者に金など不要だろう、リリー=ポッターが自爆前に金庫の金を引き出したのを不審視するものは、自分以外もいるだろう、と。
ダンブルドアもまた、そうだったということだ。
そして、彼がセブルスと懇意にしていることから、セブルスが彼らの生存に一枚噛んでいることも気が付いていたらしい。
その割におとなしかったのは、なぜだろうか?去年といい、今年といい、もっと積極的にハリーJr.をトラブルに巻き込んでもおかしくないと、セブルスは思っていた。
いや。彼は、ハリーJr.を今年になってやっと見たのだ。だから、今まで気が付かなかった。
ハリーJr.が目立ってしまったのは、今年に入ってからになるからだ。
「魔法界に光をもたらすには、あの子の力が必要と、あの時は思っておったのじゃ」
「ずいぶんと身勝手な理屈ですな。闇の帝王を生み出したのは、本人の気質・マグル界で受けた仕打ちもあるでしょうが、当時の魔法界を率いた、魔法使いたちの傲慢でもありましょう。あなたも含めて。
それを棚上げし、子供に押し付けるというのは、大人として情けないとは思わないのですかな?」
「・・・じゃからこそ、それができるように万全のサポートをしようと思っておったのじゃがな」
それが家族の一人を失ったばかりの親子を引き離すことか!
カチンときたセブルスは、それでも罵倒を喉奥でかみ殺した。
ダンブルドアは、いずれも過去形で語っているのに気が付いたからだ。
「楽観視することはできぬ。じゃが、あの子の力に頼らずとも、魔法界に光をもたらすことも・・・あるいはできるやもしれぬな」
そう語るダンブルドアは穏やかな顔をしている。
・・・もしや、セブルスがバジリスクを仕留めて、分霊箱の一つを破壊できたからだろうか?予言が失われたこともあり、いい加減こだわるのをやめようとでもいうのだろうか?
・・・それはいいが、それはホグワーツ校長の職責に入るのだろうか、とふとセブルスは思った。
何やらいい話、で収めようとはしているらしいが、セブルスとしてはダンブルドアがどうしようと、ハリーJr.はじめ、教え子たちに滅茶苦茶を仕掛けてこない限り、どうでもいいので、口をつぐんでおく。
それに、セブルスの予想が正しいなら、そろそろこうしていられなくなるころだ。
ここで、唐突にバタンッと乱暴に扉が開かれた。
ルシウス=マルフォイは、撫でつけたプラチナブロンドを振り乱し、血走った目でダンブルドアを睨みつけ、ヒクヒクと口の端を引きつらせた。
「おや、ルシウス」
「これは、どういうことですかな?」
のほほんといったダンブルドアに、ルシウスが口を開く。地を這うような低い声だ。
対照的にダンブルドアは静かに微笑んでいる。
「はて、さて、ルシウスよ。今日、あなた以外の11人の理事の全員が儂に連絡をくれた。正直なところ、フクロウの土砂降りにあったかのようじゃった。アーサー=ウィーズリーの娘が殺されたと聞いて、理事たちが儂にすぐに戻ってほしいと頼んできた。
結局この仕事に一番向いてるのは、この儂だと思ったらしいのう。
それから奇妙な話を皆が聞かせてくれての。元々儂を停職処分にしたくはなかったが、それに同意しなければ、家族を呪ってやるとあなたに脅された、と考えておる理事が何人かいるのじゃ」
「ええ!否定はしませんよ、Mr.ダンブルドア!」
のけぞり、顔をひきつらせたまま言ったルシウスは、姿勢を正してから腕組みする。
「魔法省の捜査チームによる調査・解決!ギルデロイ=ロックハート氏の素行調査!それらの必要性を、あなたはホグワーツの独立自治を理由に却下され続けましたからな!理事会からのたびたびの要請であるというのに!
そればかりか!一昨年は錯乱して呪いを乱射!去年はドラゴンを飼おうとした森番を何の咎もなく野放しにする!
生徒たちの安全に意識を向けられない無能は停職がふさわしいでしょう!
そのために少々乱暴な手段を用いた!ええ!否定はしませんよ?
ですが!」
セブルスは初耳の話を平然と言いながら、ルシウスは笑みを浮かべた。
ザマーミロ、クソ爺、と言わんばかりに、勝ち誇った笑みだった。
「先ほど、すべての理事たちから、改めてあなたの停職・・・いいえ、免職の要請が決定されたところですよ!
何しろ!」
ここで、ルシウスはマントの懐から取り出したものを、べらりと掲げる。
それは、紙切れだった。日刊預言者新聞の号外だ。
『ホグワーツの敷地に、アクロマンチュラ大発生?!』という見出しとともに、上空から撮られたのだろう、アクロマンチュラがガサゴソと蠢いている写真(魔法界の写真だから、当然動く。虫嫌いにとっては地獄絵図である)が大きく掲載されている。
「こんなものを放置するような方を、イギリスで唯一無二の名門校の校長に据え置くことなど、許容できませんからなあ!」
笑みをこわばらせ、硬直するダンブルドアをしり目に、セブルスはため息を吐いた。
ルシウス、調子に乗り過ぎである。そんな言動をとるから、誤解されるのだ。
セブルスは、アクロマンチュラのコロニーから帰還した後、どさくさ紛れに持ち帰ったその死骸の一つを、検知不能拡大呪文のかかった小包に入れて、いつもの郵便屋に任せた。
送り先はメイソン一家だが、一緒に付随した手紙で小包の方は開けずにマルフォイ邸――要はルシウスに送るようにしたのである。
これ、ホグワーツの禁じられた森で見つけたんだけど、アクロマンチュラだよね?ホグワーツって基本的に侵入不可だけど、結界に引っかからない高高度の上空から拡大魔法かけたカメラとかで撮影すれば、コロニーの全景も撮影できると思う。生徒がそばにいるのにこれを放置って、ちょっと無理。
要約して、そんな感じの文面の手紙も小包の中につけておいた。
セブルスがコロニー発見から、今回の記事の発行までのタイムラグが付いたのは、マルフォイ氏がマスコミに働きかけて、記事発行までこぎつけるのに、時間がかかったからだ。
万が一、日記の流出源がルシウスだったとばれたら問題である。スキャンダルを塗りつぶすには、スキャンダルが一番効果的である。ゆえにこそ、セブルスはわざわざアクロマンチュラのことを公にして見せたのだ。
「いやはや!ゾッとしますな!かわいい息子と、その学友たちが、こんな怪物のいるすぐそばで、寝起きさせられるとは!」
「何かの間違いじゃ。あり得ぬ。
現に今まで、アクロマンチュラたちはホグワーツには来なかったではないか」
勝ち誇った笑みのまま続けるルシウスに、ショックを受けてわなわな震えるダンブルドアが呻く。
これに答えたのは、セブルスだった。
「蜘蛛の天敵、でしたな」
ポツリと言って、セブルスは顔を上げた。
「秘密の部屋にいたのは、バジリスク。蜘蛛の天敵です。
いかにエサが大量集中していようと、天敵のひざ元に、彼らが来るとは思えません。
・・・サラザール=スリザリンが、どのような真意で秘密の部屋を残したかは定かではありませんが、確かに彼の尊んだ純血を守ることにはつながっておりましたな」
実際には、セブルスはその真意を知ってしまっているのだが、それを証明するのは現段階では難しいうえ、本題からずれるため、あえてセブルスはそう言った。
「Mr.スネイプ、そのバジリスクは、今は?」
一応、校長の前であり、理事としてこの場にいるルシウスの問いかけに、セブルスは淡々と答えた。嘘を言ってもしょうがない。
「殺しました。襲われましてな。正当防衛の範疇に入るかと」
あの時、他に選択肢はなかった。
沈黙。
勝ち誇っていたルシウスは凍り付き、ダンブルドアは瞳の奥の輝きを消し、セブルスもこわばっていた。
つまり、バジリスクという見えない壁が消えた今のホグワーツは、アクロマンチュラたちにとっては、大量の餌が転がる絶好の狩場となってしまったということだ。
宴の準備ができたとマクゴナガルが戻ってきたのはまさにこの時だった。
「アルバス?マルフォイ理事?セブルス?一体どうしたのです?」
「ミネルバ!至急生徒たちを各寮塔に集めていただきたい!荷造りの再開指示と、ホグワーツ特急の手配を!緊急事態だ!」
「帰らせてもらう。すでに城外に闇祓いを始めとした調査・討伐チームが待機しているので、彼らに後を任せる予定だ」
訳が分からないという顔をするマクゴナガルに怒鳴るセブルスをよそに、冷や汗塗れのルシウスは踵を返した。
「ハグリッドや、何を考えておるんじゃ・・・」
がっくりと項垂れて呻いたダンブルドア(この事態の犯人に即座に思い至ったらしい。知らなかったようだ)だが、誰にも一顧だにされなかった。
やがてセブルスから事情を聞いたマクゴナガルは血相を変えるや、
それから後のことを語るならば、ホグワーツは閉校の危機に陥った。
学期途中であろうが、生徒の安全の方が何倍も大事と学期末テストは中止となり、生徒たちは速やかにホグワーツ特急に乗せられ、帰宅と相成った。
もちろん、石化から回復した生徒たちも訳が分からないままではあっただろうが、速やかにそうされた。
なお、特例中の特例として今回は学期末テストは免除、全生徒は次学年への進級を許可となった。
来学期9月、学校が再開されれば。
この時点のセブルスは、この“秘密の部屋”をめぐる一連の事件における残渣がセドリック=ディゴリー少年に暗い影を落とすことになろうとは、知る由もなかった。
話を戻す。
とにかく、アクロマンチュラをどうにかしなければならないが、次学期が始まるまでにあの大コロニーをどうにかしなければならないことに、魔法省は頭を抱えた。
あんなの、イギリスでも前代未聞だ。何で熱帯産の肉食大蜘蛛が、冷涼なイギリスで大コロニーをこしらえてるんだ。
何でああなるまで放置しておいた。
なお、総責任者たるダンブルドアは、知らなかったとしゃあしゃあと言い放ち(ウィゼンガモットでの彼は平常運転態度に見えた)、森番を務めるハグリッドがダンブルドア先生は悪くねえ!と、かばった。
その時の彼は、引き出されたウィゼンガモットにて、予想外に尋ねられたアクロマンチュラのことについて(秘密の部屋のことについてと思ってたらしい)、例のごとくうっかり口を滑らせた。ついでに、去年のドラゴン騒動について、ダンブルドア除く教授陣からの証言もあれば、もはやどうしようもなかった。
かくして、彼のアズカバン投獄は、年単位に引き伸ばされた。
加えて、アクロマンチュラの討伐を耳にした彼は、アラゴグ逃げろぉぉ!などと暴れ始め、取り押さえられるのに、闇祓いたちが苦労していた。
ウィゼンガモットでの暴行(つまり公務執行妨害)が加わって、ハグリッドの刑期はさらに伸びた。おそらく、ハリーJr.達が在校中はアズカバンから出てこれないだろうし、このような犯罪歴を持ったものを再び森番として雇用することなど不可能である。
自業自得だ、と大半の魔法使いは判断したことだろう。
話をアクロマンチュラ討伐について戻す。
闇の魔法使い――それこそ、“例のあの人”でもやらかさない世紀末惨劇に、ヴォルデモート失脚で腑抜けていた闇祓いと魔法警察は、総出で取り掛かろうとしたが、いかんせん相手が悪すぎた。
下手をすれば、ホグワーツ城破壊はまだマシ、ホグズミードまで侵攻されて住民が餌にされかねない。
一応、ホグズミード村の住民は、純血貴族たちが緊急でノクターンの一角に避難所をこしらえ、そちらに移ってもらっている。(学生時代に世話になった借りを返すとしよう、というマルフォイの鶴の一声に、ブラックが同調。他純血貴族がそれに続いた格好である)
で、頭を抱えていたら、微妙な顔をしているマルフォイ氏が切り出してきた。
「一応、被害を極小に抑える手が、ないこともないですが」
話を聞いた、闇祓いたちは目を剥いた。
確かに妙案だが、えげつなさすぎる。さすがマルフォイ、代々スリザリンの家系というべきか、やっぱりお前ら闇の魔法使いだろ?!というべきか。
だが、確かにこれなら短期に終わる可能性が高い。
禁じられた森に棲むケンタウロスたちに話を通しておく必要こそあるが、こちらの被害を大幅に抑えられる可能性が高い。
なお、ケンタウロスたちは眉をひそめながらも、それでアクロマンチュラが駆除できるなら、と彼らなりの迂遠な表現で賛同してくれた。どうも、今まで幼い者たちが餌食になることがあったようで、ハグリッドに苦情を言ったらしいが、例のごとく迂遠な表現のせいで伝わらなかったらしい。
そして、非人道的すぎる、というダンブルドアの苦言は黙殺された。この惨状を黙認してたも同然の彼に、発言権はない。
吟味した結果、やむなく採用となった。
なお、よくこんな作戦を思いつかれましたな、と呆れ半分感心半分に言った闇払い局長ルーファス=スクリムジョールの言葉に、マルフォイ氏は疲れたような遠い目をしながら、ただこう答えた。
「私が考えたのではありません。友人が言っておりました。
病のような獣を根絶するには、焼き捨てるのが最も効果的だ、と」
一方、禁じられた森では一騒動あった。
というのも、ストッパーとなりうるハグリッドがアズカバン行きとなり、さらに今回の騒動で一時的な勾留どころか、刑期が加算されてしまったからだ。
アクロマンチュラたちは、リーダー・アラゴグの命令で、ハグリッドがいるのもあって、ホグワーツを襲わなかった。
だが、バジリスクは死に、ハグリッドはアズカバンへ行ってしまった。
さらに、アラゴグが死んだ。盲た8つの眼に、宇宙の輝きを焼き付けた彼は、『おお、アメンドーズ、アメンドーズ・・・』とわけのわからない言葉を言いながら死に、その亡骸はアクロマンチュラたちの腹を一時的には満たさせた。
しかし、それは一時的なものでしかなかった。彼らは飢えてきたのだ。
そうなれば、どうなるか。
いやな予感しかしないだろう。
その日、アクロマンチュラたちは動き出そうとしていた。このコロニーを出て、もっと広いところに行くのだ。
先日の奇妙な生き物による被害――同胞の死体も、前のリーダーたるアラゴグの死体もさっさと喰らいつくしてしまい、彼らはまた飢えていた。
困ったものだ。産めよ増やせよは生物の本質である。アクロマンチュラはそれに忠実に生きているにすぎない。餌に区別をつけないだけだ。
だが、唐突に、そんな彼らの頭に何かが降ってきた。
それは、固い陶器の入れ物に入った液体だった。ヌルついた感触と、ツンとした臭いから、油と分かる。
そして、それはいくつもいくつも、降ってきた。
見上げれば、箒に乗った魔法使いたちが、巾着のような入れ物から取り出して、いくつもそれを投げ入れてきているらしい。
何でそんなことを?と疑問視するよりも早く、アクロマンチュラたちは動いた。
獲物だ!
ピョンピョン飛び上がるもの、同胞の身体を踏み台代わりにするもの、毒液を吐きつけようとするもの、とにかく獲物を何としても得ようと、皆躍起になった。
だが、魔法使いたちは巧みな箒捌きでそれを乗り切り、油を一通り落としたと判断したのか、そのまま飛び去ってしまった。
一体何だというのか?
そうしているうちに、遠くの空が光った。
あれは魔法だ。光の幕のような壁が見る見るうちに広がり、アクロマンチュラのコロニーを包み込んでいく。結界魔法だろうか。
一体何の真似だろうか?
アクロマンチュラたちが怪訝に思った直後、空気に焦げ臭いにおいが混じる。
火だ!
一体の燃え盛るアクロマンチュラが、悲鳴を上げながら、コロニーの中央に向かって駆けてきた。
違う、燃えているのは一体だけではない、おそらく、結界魔法の発動と同時に、火が投げ込まれたのだろう、四方八方の周囲から、燃え盛るアクロマンチュラたちが一斉に駆け込んでくる。
慌ててアクロマンチュラたちは逃げようとした。だが、余裕はあるとはいえ、周囲は光る膜じみた結界魔法に囲まれている。
そして、直前に降らされたもののせいで、アクロマンチュラたちと、彼らのいる地面は油まみれだった。
火は次々燃え移り、あっという間に手の施しようのない炎の渦となった。
アクロマンチュラたちは察知できなかった(それどころではなかった)が、魔法使いたちは送風魔法も応用して、結界の内部に常に新鮮な空気を送り込み続けていたのだ。
毒を吐きつけて、鎮火しようと試みるものもいたが、逆効果だった。
アクロマンチュラたちは知らなかったが、油には石灰――水分が混ざると高熱を発する物質もまた混じっていたのだ。
かくして、アクロマンチュラたちは、生きながら焼き殺された。
結界のすぐ外で術式の維持をせざるを得なかった魔法使いたちは、結界の外に出ようと、火だるまでもがき苦しみながら体当たりして、壁をかきむしりはさみを叩きつけてくるアクロマンチュラたちを顔面を蒼白にしながら至近距離で見なければならなかった。
すべての個体が燃え尽きるまで・・・ざっと3日、交代を繰り返しながら、彼らは結界の維持に努めた。
火は、アクロマンチュラのコロニーのすべてを焼き払った。
円形に焼け焦げた一帯と、転がる黒こげのアクロマンチュラの死体を前に、気化した毒を吸い込まないように、浄化剤を巻きながら、多くの職員がげっそりしていた。泣いたり吐いたりしたものもそれなりにいた。ほぼ無傷で済んだとはいえ。
惨状、としか言いようのない有様だった。
これには、大勢の職員がトラウマとなってしまったらしい。
マグル相手でもないのに忘却術師が、アクロマンチュラ関連の記憶の削除を行うことになった。
なお、言い出したのはマルフォイ氏で、彼はこの作戦の本当の発案者ともなる友人作成の胃薬と、別の純血貴族が自領で生産中の精神安定作用のあるハーブティーを大量に魔法省に差し入れてくれた。
少しは責任を感じているのだろうか?
「我らが母校にして、子供たちの未来を拓くためのホグワーツのために粉骨砕身で討伐に協力してくださった皆様方には、当然のことですな。
この度の協力に、感謝を示しただけのこと」
ツンッと顎を上げて言い放ったマルフォイ氏は、普段通り尊大ではあったが、例年以上にはずんでくれた寄付金とアフターフォローの丁寧さには、やり方のえげつなさを差し引いても感謝しかなかった。
何にも言わない、討伐にもノータッチのどこかの校長とは大違いである。
そうして、これで後は巣から逸れていた、撃ち漏らし個体を仕留めるだけなので、かなり楽であったともいえる。(職員たちのメンタル面を除いて)
なお、この撃ち漏らし個体から得た毒やら素材の類は、魔法省の懐を大いに潤してくれた。
独立自治を謳うホグワーツで、本来いないはずの外来生物の駆除を職員たちのメンタルを犠牲にしながらもやり遂げたのだ。このくらいは当然だ、と魔法大臣のファッジはドヤ顔で語る。
また、ダンブルドアは理事会から免職を命じられたが、停職ならともかく、理事会にそんな権限はないはずじゃろ?とこれを拒否。
ならば、アクロマンチュラ以外に何かまずいものはないか、ホグワーツを調査させろ、という魔法省の要請にも、彼は渋った。
「ほう?それはつまり、知られたらまずいものがあるということですな?身の潔白が証明されるのですよ?なぜ拒否なさるのですかな?」
と、勝ち誇った顔のマルフォイ氏の言葉に、ダンブルドア本人よりそのシンパが勝手に「そんなものあるわけないだろ!焼き討ちマルフォイが!やりたきゃ勝手にやればいいだろ!(意訳)」と了承してしまった。
そうして、校長室の金庫から見つかった、透明マント。
これ、魔法省に登録されてるポッター家の家宝じゃない?と判明されてからは早かった。
今度は盗難容疑でダンブルドアは、ウィゼンガモットに再召喚された。
彼は、透明マントを持っていた理由をこう語る。
亡くなる前のジェームズ=ポッターから借り受けていた。返そうと思っていたが、その前に例の事件が起こり、挙句ポッター母子も亡くなってしまった。どうしたらいいかわからず、形見分けのつもりで持っていたのだ、と。
一応、魔法省に登録されている以上、ポッター家の資産としてカウントされるので、ちゃんと申し出てくれないと困る!それ以前に、ポッター家の血筋はもう途絶えているので、当時の当主ジェームズ=ポッターの遺言に沿って、透明マントはシリウス=ブラックに渡すことになるけど、彼はアズカバンにいるから、当代ブラックの当主に渡すことになってるから!と魔法省の役人はコンコンと、ダンブルドアに言い聞かせた。
いやでも、シリウス本人じゃないから。自分の手から直接渡したいし、それにポッターの跡継ぎだっていないと限ったわけでは、と渋るダンブルドアをよそに、魔法省はさっさと手続きを済ませ(思わせぶりなダンブルドアはいつものことである。話を聞くだけ時間の無駄と判断されたのだ)、当代ブラック当主、レオ=ノワール氏に透明マントを譲渡した。
一応、故意ではなかった(証明できなかったともいう)ということでダンブルドアはアズカバン行きとはならなかった(罰金は命じられたらしい)が、理事会からの満場一致の要請で、永久停職(免職できないなら、ずっと停職だ!)となった。
これについては、ダンブルドアは何も言わなかった。
透明マントを預かることとなったレオことレギュラスが、メイソン夫妻に一応許可を取って、ハリーJr.が成人してポッターを継ぐならば、その時に返すとこっそり約束することになる。
ちなみに。ホグワーツの秘密の部屋に続く隠し通路の途中で消息を絶ったギルデロイ=ロックハートは、その後一切の目撃情報はイギリスではなかった。ただ、その所業については、マルフォイ家傘下の出版社がとある性悪ジャーナリストを抱き込んで授業態度も含んだ暴露本を出し、評判を地に叩き落した。
・・・遠く離れた地にある禁断の場所として名高いブレアウィッチフォレストにて、偶然迷い込んだマグルが、毛髪の一切ないボロボロのローブのような服を着た狂人に襲われたことなど、まともな人間は知ることもないだろう。(そして、その迷い込んだマグルも生きて森を出ることはなかった)
そして、その夏。シリウス=ブラックがアズカバンから脱獄した。
続く
【油壷】
投げつけた対象を油まみれにする壺。油まみれの対象は、とてもよく燃える。
セブルス=スネイプが発案、ヤーナム製のものを改良したこれには、砕いた石灰が混ぜ込んであり、水を混ぜると高熱を発する。
禁じられた森に巣食うアクロマンチュラの焼き討ちに用いられたが、彼らを燃やす魔法省の職員は、浄化の興奮に酔うことなく、悍ましさすら感じたという。
【ブレアウィッチフォレスト】
詳しくは『ブレアウィッチプロジェクト』あるいは『ブレアウィッチ』を参照。元ネタは映画ですが、ゲーム版も出ています。
はるか昔、その地にいたという魔女、通称ブレアウィッチが魔女狩りに遭って死んだ後に呪われたという森を舞台にしたホラー。
大体バッドエンドを迎えています。
なお、セブルスさんもこの森に迷い込んだことがありますが、上位者なのでどうにか脱出できました。
[おまけ~もし、セブルスさんが日記を拾っていたら~]
ふむと、セブルスは自らのデスクの上に広げたそれを眺めていた。
黒い革表紙の、古びた日記帳である。表紙の裏に書かれたT.M.リドルの文字といい、間違いない。ルシウスが回収・処分を依頼してきた闇のアイテムだ。
あれは危うかった。
おそらく、生徒の一人がもともと所持していたのだが、不審になったのだろう、3階女子トイレに廃棄されていたのだ。
あのトイレに住み着くゴースト“嘆きのマートル”によって流しだされたそれを、ハッフルパフの優等生セドリック=ディゴリーが拾いそうになっていたのを、適当に難癖付けて回収した。
あれがさらに生徒間に広まれば、どうなることやら。
文字通り、間一髪だった。
回収して分かったのだが、この日記はどうやら分霊箱らしい。以前破壊した指輪やロケットのような不穏な雰囲気をまとっているのだ。
こうして向かい合っているだけで、日記に何か書き込めと言わんばかりの空気を醸し出してくるのだ。
閉心術を総動員して抵抗しているが、これは何の耐性もない一般生徒の手に渡ろうものなら、すんなり日記に何事か書き込みをしていたことだろう。
魔法族にとって、情報の拡散は魔力の拡散に相当する。
声を出すこと、その声に言葉をまとわせ意味を持たせることで、拡散する魔力を収束して方向性を持たせること。それが呪文であり、発声魔法である。
実はこれは筆記される文字にも当てはまる。とはいえ、これは筆記用具や書かれた書物などによっては(これらは大部分が魔力を帯びることがないのだ)、魔力が力を発揮する前に霧散してしまい、意味を持たなくなることが多い。
つまり、書かれたばかりの文字には魔力がこもっている。
そして。この日記は、その書かれた文字に込められた魔力を吸収する性質があるらしい。
なぜなら、そこにセブルスが無意味なアルファベットの羅列を書き込むなり、それがするりと消え失せたのだ。
代わりに文字が浮かび上がる。
『誰ですか?きれいな字ですが、字の練習ですか?』
・・・なるほど、こうやって、心情方面からも書き手を絡めとるのか。小賢しいことをする。
一つうなずいたセブルスは、こちらに対する質問や、気遣いをする文章を浮かべた日記に、黙って右手を添えた。左手に持つのは、“共鳴する不吉な鐘”だ。
狩人の特質は、夢への侵入。
かつて、セブルスは死したミコラーシュの支配する悪夢にも侵入した。
夢とは、個人の支配する世界ともいえる。
さて、この日記の先にはどんな悪夢が広がっているのか。
左手に持った鐘を鳴らして日記の夢に侵入するセブルスは、薄紫の光をまといながら、薄暗い笑みを浮かべていた。
「うあああああっ!」
トム=マールヴォロ=リドルは必死に逃げていた。
ホグワーツ城の一角・・・に似た、廊下だった。日記の外からの書き込みがないとき、彼は記憶から形成したこの疑似ホグワーツで、過ごしている。本物の城との違いは、色彩が存在しない、モノクロである点だ。
人物、事象はリドル少年の記憶から必要に応じて再生するが、大体この城は空っぽだ。
空っぽのはずだ。
寂しいなんて言葉はリドルの中には存在しない。最初から独りであれば、それが当たり前なのだから。
その空っぽの記憶の城が、主たるリドル少年の制御を外れていた。
ホグワーツの学生ローブをまとった、どろどろの半分解けかけたスライム状の何か。
人面蜘蛛(なぜか首から上はリドルの知る教職員たちだった)。
それらが城のいたるところを徘徊し、リドルめがけて襲い掛かってきた。
必死に消えろと念じても、記憶の城はまるでリドルの言うことを聞かない。
それよりも、音だ。耳障りな鐘の音が、さっきからリドルの耳朶を打っている。この記憶の城は、リドル本人のもの以外、無音であるはずなのに。
どういうことだ。さっきまで、新しい人間に拾われたようだから、その人間に新たに魔力を捧げさせようとしていたのに。
杖を取り出すことも忘れ、リドルは逃げ回っていた。
そんなリドルは、次の瞬間、歩みを止めた。
打撲音。学生ローブのスライムが、意味不明な悲鳴を上げて煙のように消え失せるのをしり目に、それはゆるりと振り返った。
灰色のローブをまとって・・・違う、獣の皮だ。まだ血の滴るそれを直に頭に被っている。鹿のようにも見えるネジくれて枝分かれした一対の角が頭部についている。その獣の皮の下は、血に濡れているが、ごくごく普通のシャツとズボンだ。目深にかぶった獣の皮のせいで、顔はよくわからない。
リドルは知らない。それはかつて、狩人の悪夢の片隅で、自ら牢獄に閉じこもって、秘密を暴こうとする狩人たちの口封じを一手に担った教会の刺客、ブラドーの装束であると。
その右手に持っているのは、短い・・・燭台のようにも見える、革ひもを巻きつけられたこん棒であるらしい。
こんな男、リドルは知らない。
「な、なんだお前は・・・?」
「貴公、聞こえているな?
ならば、鐘の音に怯えるがいい。
他人の秘密に近づく愚か者に、終わりなき死を。
教会の刺客はどこまでも、貴公を追っていくぞ。
フハハハハッ」
「な、何の話だ?!」
ぎくりと肩を揺らしつつも、リドルは叫んだ。
おかしい。これは自分の記憶の世界だ。こんな狂った男、妄想の産物にしても、おかしすぎる。
鐘の音はずっと聞こえている。最初に聞こえた場所からかなり遠くにいるはずなのに、ずっと聞こえ続けている。
逃げても無駄だというかのように。
「鐘の音に怯えるがいい。
刺客はどこまでも、貴公を追っていくぞ。
フハハハハッ」
嘲笑する角頭の男に、リドルはとっさに後ずさる。
そうしているうちに、角頭の男が動いた。唐突に、こん棒を自らの腹に刺し入れたのだ。
ぎょっとするリドルをよそに、こん棒が引き抜かれる。その長さはおおよそ2倍ほどに長くなり、もはや短いこん棒というより、槍などの長物といった方がいいほどだ。そして、その先端には赤黒い――血液でできたようなとげとげの先端が付いていた。モーニングスターのようにも見える、それは槍というより、槌であろうか?
瀉血の槌。教会の刺客、ブラドーが用いる狂った狩武器だ。はらわたの、心の底に溜まった血を吸わせた時こそ、そのおぞましい本性があらわになる。
次の瞬間、槌は降りぬかれた。リドルめがけて。
「うああああああっ!」
再度絶叫をあげて、リドルは逃げ出した。ガツンっという重い音は、空振りした槌がどこかに当たった音だろうか。
いつの間にか、モノクロのホグワーツ城は夜闇に包まれ、おぞましい獣臭が彼の鼻を刺激する。
鐘の音は鳴りやまない。
廊下を走るリドル少年の前に、ホグワーツ城の制服を着たスライム状の何かが、教師の生首を乗せた蜘蛛たちが立ちはだかる。
違う。違う。
リドルは恐怖と混乱のあまり、とっさに口走っていた。
確かに、リドルは学友を、教師を、見下していた。(本当に?)
こんな連中、顔と名前のついてる有象無象だ。リドルが愛想をふりまけば、あっさりと騙される。(僕の実力を、認めてくれた!)
だからって、こんな風に見えるはずが!(化け物なんかじゃ!)
走馬灯のように、リドルの中に思い出が駆け抜ける。
死にたくない。死にたくない。だって、死んだら何もないじゃないか。痛みも、苦しみも、悲しみさえ、そこにはない。だから、僕はそれを超越する。
僕こそ、偉大な魔法使いなんだ!汚らわしいマグルの父、無能で愚鈍な役立たずの母、愛など無意味で無価値と教えてくれたことだけは褒めてもいい。
僕はこんなところで終わる存在じゃない。こんな、わけのわからないまま終わるはずがない!
記憶のホグワーツを逃げ惑うリドルは、知らない。
もはやこの記憶の城は、リドル個人の記憶だけをもとに構築されてはいない。
セブルスが侵入をかけてきた時点で、セブルスという観測者を得てしまい、その影響を受けてしまうようになったことに。
・・・狩人とは、狩るべき獣がいるからこそ、狩人たり得るのだ。
まともに見えようと、セブルスは心底では狩るべき獲物を望んでいる。血に酔い狂ってこそいないし、比較的制御もできているのだろうが、それでも血に飢えているのに変わりはないのだ。
それが、記憶や夢といったあいまいなものに触れれば、大なり小なり影響を与えても無理はない。
獣がいるから狩人が出てくるのか、狩人がいるから獣が出てくるのか。もはや、鶏と卵の問題である。
必死に走るリドルは、ようやくして足を緩めた。あのおかしな角頭は・・・追ってきてはいないようだが・・・?
記憶の中で、そんな必要もないとはいえ、生身の時のくせで息を切らしながら、リドルは立ち止って周囲を見回した。
ホグワーツの廊下にしつらえられた大きな窓。その窓の外に目を向けた直後、リドルは硬直した。
漆黒の暗闇を背景に、それはいた。
黒っぽい体躯はまるでミイラのように細く乾いていたが、長大で、何よりも何本か腕が付いているようだった。指の数もでたらめだ。ホグワーツ城よりは小さいが、それでも巨人ほどはありそうな巨大な相手が、窓からこちらをのぞき込んでいる。
何よりその首から上。奇妙な果実じみた形の頭部は、でこぼことでたらめに穴が開いて、そこからいくつもの金色の目がぎょろぎょろと、外を睥睨していた。
リドルは、うっかりそれと目を合わせた。
リドルは知らない。それは、悪夢に巣食う上位者の一体、アメンドーズと呼ばれる者たちのうちの一つだということを。
何か、頭の奥で芽生えたような気もしたが、それどころではない。
悪夢だ。こんなの何かの間違いだ。
思考を放棄して、リドルはヘタリッと座り込んだ。
・・・これが本来のヴォルデモート卿であれば、ヒステリックに喚きたてるか、あるいは虚勢を張るか。いずれにせよ、こんな無防備な姿勢だけは取らなかったことだろう。
だが、このリドルはあくまでホグワーツ学生時代でストップしている。口先では何と言おうと、経験も知識も中途半端な子供でしかないのだ。そんな彼に、上位者とのコンタクトは刺激が強すぎた。
そして、放心しているリドルの後ろに誰か立った。リドルは気づかない。
ねじれた枝分かれした角が付いた皮をかぶった男は、振りかぶった瀉血の槌を、勢いよく振り下ろし、記憶の世界にモノクロの血の花を咲かせた。
破裂音とともに、セブルスは椅子ごと吹き飛んでいた。
顔の濡れた感じと、鼻につくインクのにおいから、どうも顔面インクまみれ・・・どころか、おそらく上半身はそうなのではないだろうか?。
とりあえず立ち上がったところで、ガチャっと部屋のノブが回った。
「セブルス?どうし、なんですかこの状況は?!」
用事でやってきたマクゴナガルが、物音に思わず入ってきたらしい。金切り声をあげている。
とりあえず目元のインクだけぬぐったセブルスは、自身の机を振り返り、絶句した。
インク壺をひっくり返したというより、インク入水風船をぶちまけたように、デスクの上とその周辺がインクまみれだった。
上に乗っている日記帳は、大穴が開いてぐしゃぐしゃになり、至近にいたセブルスは上半身前半分がインクまみれになっている。
マクゴナガルにどうにかこうにか言い訳をするセブルスは、横目でちらっと日記を見やった。不穏な気配はなくなっている。どうやら、中に収められた魂を殺したことで、分霊箱を破壊したことになったらしい。
ただ・・・破壊はよそでやるべきだったな、とセブルスは思った。
とりあえず掃除が大変そうだ。
さっくり決めてたこととして、日記にセブルスさんが何か書き込んだら、リドルが発狂して、日記がインク爆発を起こして、セブルスさんがインクまみれになって、それを発見したマクゴナガルの胃薬がまた増える、ぐらいだったのですが、書いていくうちに内容が増えました。よくあるやーつ。
次回の投稿は、来週!内容は・・・アンケートで2位だった外伝に行きます。
メアリーのホグワーツでの生活模様。人形=チャン、可愛いヤッター!書いててすごくほっこりしました。お楽しみに!