セブルス=スネイプの啓蒙的生活   作:亜希羅

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 前回は、評価、お気に入り、ここ好き、しおり、誤字報告、ありがとうございました。

 原作大崩壊で、どうなることやらという感じですが、やれるところまではやってきます。

 で、今回は外伝です。予告通り、メアリー視点の外伝になります。

 時系列としては、前半は第2楽章1、ホグワーツにきて間もなくのころ。後半は第2楽章2、双子の罰則の後になります。

 人形ちゃん可愛いヤッター!


【カプリッチオ4】人形と管理人、時々猫

 

 今はメアリーと呼ばれる彼女は人形である。

 

 慕っている狩人様であるセブルス様のご要望で、ホグワーツという魔法の学校にやってきた。

 

 夢の外に出てから、こんなに広い場所に行くのも初めてだった。

 

 とはいえ、やることは普段とあまり変わらない。

 

 セブルス様は二日目にして、ホグワーツ城の厨房にメアリーを連れて行き、厨房で働くハウスエルフたちにはすでに許可を取ってあるので、ここで食事を作ってほしい、と懇願してきたのだ。

 

 やはりホグワーツでのお食事は、セブルス様には味が濃すぎるらしい。加えて、脂っぽすぎる、ともひそかに愚痴っておられた。

 

 メアリーの作る味こそが、セブルス様を満足させている。メアリーはひそかに、それを嬉しく思う。

 

 

 

 

 

 地下牢教室から、厨房へ移動する。

 

 ホグワーツ城は“狩人の夢”や“葬送の工房”よりも広い。あそこから出たことのないメアリーには、未知の広さだ。

 

 ホグワーツ城の廊下は広い。

 

 そして、階段は勝手に動いて絵画の人々はおしゃべりしている。メアリーが通りかかると、ぴたっとやめて我先に見物にやってくる。

 

 歩いてしゃべる人形がそんなに珍しいのだろうか?とメアリーは首をかしげるが、そういえば初めてセブルス様と会った時も、ひどく驚かれていたな、と思う。

 

 ・・・正確には、最初セブルス様はメアリーのことがわからなかったようで、さんざん無視されていたのだが、ある時を境に認識されるようになられたらしい。懐かしい話だ。

 

 

 

 

 

 メアリーを珍しがるのは絵画の人々に限ったわけでもない。

 

 「あなた!死神犬(グリム)を見たのではなくて?!」

 

 その日厨房で出くわしてしまったのは、大きなメガネがことさらに目立つシビル=トレローニー(占い学担当)だった。

 

 ・・・どうやら、お酒とそれに合うつまみを取りに来たらしい。息がお酒臭い、とメアリーは思った。

 

 死神犬(グリム)が何のことかわからないメアリーは首をかしげる。

 

 「それは何のことでしょう?」

 

 「不吉の象徴です!墓場にとりつく巨大な亡霊犬!死の予兆ですわ!」

 

 と、非常に気の毒なものを見る目を向けてくるトレローニーに、メアリーはなおのこと不思議に思って首をかしげる。

 

 「死? お言葉ですが、トレローニー様、私は人形です。夜が明ければ夢は終わるように、私には死も痛みも無意味です。

 なぜそのようなものが私に関係するのでしょう?」

 

 「まあまあ・・・お可哀そうに・・・」

 

 霧の奥から響くような声でそう言って、お酒のつまみとなるナッツの盛り合わせの入った皿を受け取るや、トレローニーは厨房から出て行った。

 

 

 

 

 

 後日、メアリーが魔法薬学の授業での失敗の余波で首がもげても平然と復活して見せたのを聞いて、トレローニーが何を思ったかは定かではない。

 

 

 

 

 

 意味の分からないトレローニーのことは、あとでセブルス様にお尋ねしようと思いながら、メアリーは早速厨房に立った。

 

 ショールを外し、持ってきたエプロンを着てから、袖をまくってアームバンドで止める。

 

 「お人形様、今日は何をおつくりに?」

 

 「スコーンです。調理器具をお借りします」

 

 話しかけてきたハウスエルフ(彼らはメアリーをお人形様と呼ぶ。様付けはいらないのだけれど)に答えて、メアリーは早速調理を始めた。

 

 レギュラスも気に入り、セブルス様も時々リクエストされるレシピだ。お世話になるスラグホーン様の分も作るので、少し多めに作る。

 

 バターはあらかじめ三センチ角に切って、冷やしておいた。

 

 紅茶の茶葉はティーバッグから出しておき、チョコは適当な大きさに角切り、クルミも砕いておく。

 

 薄力粉、強力粉、ベーキングパウダー、砂糖、塩を混ぜ合わせて粉ふるいでふるう。(紅茶の茶葉を入れるときは、この時に合わせておく)

 

 冷やしたバターを加えてから、そぼろ状になるまで混ぜる。メアリーは人形だからあまり心配はないが、バターが溶けないように手早くやらねばならない。

 

 ここに、牛乳とヨーグルトを加え、こねないようにヘラで切るように混ぜて、ある程度まとまったら手で生地をまとめる。クルミ、チョコはこの段階で中に入れ込みくっつけるように加える。

 

 ラップで生地を包み、冷蔵庫で30分ほど冷やす。ホグワーツの冷蔵庫は一見すると岩でできた戸棚のように見えるが、中はひんやりとしているので魔法で動くものらしい。

 

 “葬送の工房”にあるものは、セブルス様がマグル界のお店で買ってきたものを魔法で動くようにしたものだったな、とメアリーは思い出す。

 

 程よく生地が冷えたら、打ち粉をした台に寝かせておいた生地を置き、伸ばして折りたたむ、という手順を2~3回繰り返す。

 

 2センチほどの厚さにして、4~6等分に切り分ける。

 

 あとは180度に予熱しておいたオーブンで10~12分、さらに200度にして2~3分焼成。きつね色になったら出来上がりだ。

 

 ホグワーツのオーブンは、“葬送の工房”にあるものとは勝手が違ったので、申し訳ないが、この部分だけはハウスエルフたちにお願いした。

 

 文句ひとつなく、喜んで!と手伝ってくれた彼らに、メアリーはありがとうございます、と丁寧に頭を下げた。

 

 メアリーに味見はできないが、見た目と匂いは完ぺきに、家にいた時と同じ出来上がりになった。

 

 粗熱を取ったらバスケットに入れて、布巾をかける。その間に使った器具などを片付けようとしたのだが、ハウスエルフたちがすでに魔法でぱっぱと片付けていた。ハウスエルフたちは気にしなくていい、こちらの方が早いと笑って言ってくれた。メアリーはまた丁寧に頭を下げた。

 

 あとは持って帰るだけだ。

 

 これもハウスエルフたちが魔法で送ろうか、と申し出てくれたのだが、メアリーはこれ以上のお仕事の邪魔をするわけにはいかない、と辞退した。

 

 それに、もう一つ、理由があった。

 

 というのも。

 

 

 

 

 

 きょろきょろとメアリーは周囲を見回した。

 

 ホグワーツ城の廊下だった。

 

 セブルス様と、スラグホーン様にもお出しするお茶菓子を作るために、厨房に行った。

 

 その茶菓子も出来上がり、あとは地下牢教室に戻るだけ。そのはずだ。

 

 ・・・気まぐれな階段が、気まぐれを発揮したらしい。

 

 メアリーはものの見事に迷子になっていた。

 

 ホグワーツ城のように広すぎる場所を出歩くのは、実はメアリーには初めてだった。そして、動く階段やら複雑な魔法の仕掛けも多数ある。迷わない方が難しかった。

 

 どうにか、迷わないように早く道を覚えなければならない。

 

 だから、魔法で送るというハウスエルフの提案を、メアリーはあえて断ったのだ。

 

 とはいえ、こうもあっさり迷っていては話にならない。

 

 「申し訳ありません。道を教えていただけないでしょうか?」

 

 『まあまあ!本当にしゃべったわ!私、話しかけられているわ!』

 

 『お嬢さん!しゃべれるというなら、歌ってみてくれないかい?“間抜けなフユーリングの書き物机の歌”を知ってるかい?』

 

 思い切って絵画の人々に話しかけてみたが、彼らはメアリーを珍しがるばかりで、こちらの話を聞いてくれない。

 

 「歌?申し訳ありません。その歌を私は存じ上げません」

 

 丁寧に答えながらも、どうしましょう、とメアリーが困り果てた時だった。

 

 ニャア、という鳴き声にメアリーは顔をそちらに向けた。

 

 あの猫だ。あの赤い目は特徴的だから覚えている。確か・・・そう、管理人のアーガス=フィルチの飼っている猫、ミセス・ノリスだ。

 

 直後のことだ。

 

 「そこで何をしている」

 

 陰湿そうなねばつく視線を放つアーガス=フィルチが、どこからともなく現れた。

 

 「申し訳ありません。道に迷ってしまいました」

 

 素直にメアリーは頭を下げた。

 

 「迷っただと?本当か?隠し立てするとためにならんぞ」

 

 「隠す?何を隠すのでしょう?セブルス様とスラグホーン様のお茶請けでしたら、こちらのバスケットの中ですが」

 

 きりきりと詰問してくるフィルチに、メアリーは首をかしげてから、淡々と答える。

 

 彼女は人形なので、大勢の狩人様たちのようにアイテムを血の遺志に変換、体内収納なんて器用なことはできないのだ。

 

 セブルス様からは検知不能拡大呪文のかかったポシェットをもらったが、あまり大量に入れたら何を入れたかわからなくなりそうだったし、すぐに食べるものだから入れるまでもないと思って、スコーンはバスケットで持ち運んでいた。

 

 そんなメアリーの一挙手一投足を見逃すまいとにらみつけるフィルチは、ややあって吐き捨てた。

 

 「・・・どこへ行くんだ」

 

 「地下牢教室です。厨房からの帰り道なのですが、階段を間違えてしまったようです」

 

 淡々としたメアリーの返答を聞くなり、フィルチはふんと鼻を鳴らした。

 

 「厨房からだと・・・あそこの階段は下から5段目を踏むと機嫌を損ねて、正反対の場所につながるぞ。スネイプから聞かなかったのか」

 

 「・・・申し訳ありません」

 

 「ふん、仕方あるまい」

 

 頭を下げるメアリー(フィルチの言うことはもっともだった)に、フィルチは再び鼻を鳴らして踵を返した。

 

 「何をしている!いつまでも突っ立っているな!貴様は廊下わきの甲冑飾りか?!わかったらさっさとついて来い!」

 

 振り向きざまに吐き捨てられ、ついて行っていいのかと迷ったメアリーはかちりと瞬いてから、他にどうしようもないというのもあってそのあとに続いた。

 

 そして、メアリーのすぐ後にミセス・ノリスが続いた。まるで人形がはぐれるのを防止するかのように。

 

 やがてフィルチは、廊下の突き当りにある胸像の前で足を止めた。『辛すぎるパンチェッタを食べたアンリエッタ像』と題された、舌を突き出して涙にくれる女性の胸像である。なぜこんなものを展示しているのか、意味不明である。

 

 「ふん。これも学期が始まったらな、クソガキどもが魔法で落書きまみれにするのだ。下手をすれば糞爆弾の的にまでしおる」

 

 ぶつぶつと言いながら、フィルチは胸像の舌を押し込み、目を閉じさせた。すると、胸像の向こうの壁が割れ、黒々とした通路が出現する。

 

 「順序を間違えるな。先に舌を押し込むのだ。先に目を閉じさせると、胸像が叫ぶことになる」

 

 淡々と言って、フィルチはさっさとその隠し通路に歩を進めた。メアリーとミセス・ノリスもそのあとに続く。

 

 窓の一つもない暗い通路と思いきや、魔法の明かりがあちこちについてて、足元は明るかった。

 

 やがて、行き止まりの扉をフィルチが押し開けた。

 

 そこは、メアリーには見覚えのある場所――地下牢教室すぐ近くの廊下の一角だった。

 

 「あとの道はわかるだろうな?」

 

 「はい。

 お手数おかけして申し訳ありませんでした、フィルチ様。ここまでお連れしていただき、ありがとうございます」

 

 ぺこりと頭を下げたメアリーに、フィルチはふんと鼻を鳴らした。

 

 「口先だけの礼なんぞいらん。貴様が何時間も廊下に突っ立っている方が何倍も邪魔だ。わかったら次から迷うな。迷惑だ」

 

 吐き捨ててフィルチはミセス・ノリスともども隠し通路の奥に姿を消した。

 

 

 

 

 

 「セブルス様、フィルチ様もお優しいのですね」

 

 少し休もうと挟んだお茶の時間で、紅茶を入れたメアリーが開口一番に言ったのは、そんなことだった。

 

 ブホッというのは、アプリコットのジャムをたっぷり付けたスコーンに舌鼓を打っていたスラグホーンが吹き出した音だ。

 

 セブルスはといえば、一瞬大きく目を見開いたが、すぐに平時の無表情になって、紅茶に砂糖を落としてティースプーンでかき混ぜた。

 

 管理人のアーガス=フィルチといえば、嫌みで陰湿で意地悪。ホグワーツ教職員と生徒の共通認識だ。言葉にこそ出さないが、好き好んで近寄る輩などいようはずもない。

 

 隙あらば、生徒の粗探しで減点・罰則の申し立てを行いまくるスクイブを好きになる輩など、そうはいないだろう。(教職員たちでさえ、やり過ぎだと窘めるほどだ)まして、それを優しいと評するなど。学生時代のセブルスであれば、それを言い出した人間の正気を疑うことだろう。

 

 とはいえ、ヤーナムで人間関係の底辺を垣間見たセブルスからしてみれば、あの程度ソフトなものだろう。

 

 それに、本当に性根がどうしようもなく腐りきっている奴には、生き物の飼育は無理だ。あのミセス・ノリスとかいう猫が付き従っているのだから、まだマシな部類なのかもしれない。

 

 「何かあったのかね?」

 

 「道に迷ったところを、こちらの近くまで連れてきていただきました。

 せっかく案内していただいたというのに覚えきれておらず、申し訳ありません」

 

 尋ねたセブルスに、メアリーは少し落ち込んだ様子(セブルスにはそう見えた。はた目には相変わらず淡々としている)で答えた。

 

 後半は、ホグワーツ城内を案内したセブルスとスラグホーンに対してだろう。

 

 気にすることはないだろうに。むしろたった数日でホグワーツの広大な地理を完璧に覚える方が異常なのだ。

 

 余談だが、セブルスはヤーナムでも最初相当迷った。禁域の森も迷子になった。最終的に目印用の魔法を編み出して、地図を覚えるまで目印を設置していたのだ。聖杯ダンジョンもひどかった。しかも、時間が経って夜になったら、暗いせいでさらによくわからなくなったりした。あの街は入り組み過ぎている。その分、ショートカットも各所にありはしたが。

 

 「優しい?アーガスがかい?生徒たちから苦情が来ることはあっても、いい評判なんて一つも聞かなかったというのに?」

 

 信じられないものを見る目で見てくるスラグホーンに、メアリーはことりと首をかしげた。

 

 「私をこちらまで連れてきてくださいました。以前いたところでは、いきなり武器を振り上げられて叩き壊されることもままありました。それらと比べれば、お優しい部類に入るのではないでしょうか」

 

 「比較対象が根本的に間違ってるだろう!セブルス!この子は前、どんな魔境にいたんだい?!」

 

 仰天するスラグホーンに、セブルスは遠い目をした。

 

 ヤーナムです。血に酔った気狂い狩人の集う地です。多分、セブルスが来る前の狩人が新しい武器の試し切りでデメリットもない彼女を斬ったと思われるが、それならゲールマンにやった方がいいのではないか、という一連の返答はセブルスの心のうちに閉心術で覆い隠しておく。

 

 というか、一時セブルスも、車いす搭乗モードのゲールマンに、ヤーナムから出られないのはお前のせいか!と虐待よろしく、通りがかりに殴ったこともある。反省はしていない。後悔はしている。

 

 「ここではない遠い場所、とだけ言っておきましょう。

 ・・・Mr.フィルチには、またあとで礼をしに行かねばなりませんな」

 

 そう言って、セブルスはサクサクのスコーンをかじった。

 

 

 

 

 

 新学期が始まってからまもなく。

 

 ミネルバ=マクゴナガルは図書館から借りた本を携えて、自室に引き上げる途中だった。楽しみにしていたクィディッチ選手の自伝だ。ようやく借りられるようになったので、遠慮なく読むことにした。

 

 休日の昼下がりだ。サクサクのラングドシャクッキーと、紅茶をともにした読書は、気苦労の多い業務のささやかな楽しみだ。

 

 ・・・その途中で、妙に目立つ頭の二人組を見かけなければ、マクゴナガルは弾んだ心地でいられたのだろう。

 

 頭に円筒形の檻をかぶった、赤毛の二人組。双子のウィーズリーだ。

 

 まさかまた何か悪だくみしているのでは?

 

 双子たちが廊下の片隅に身を潜め、何事か二人で盗み見している様子を見せていれば、そうも勘繰りたくなるだろう。

 

 「何をしているのです?」

 

 頭から人をこうだと決めつけて、疑ってかかるのはよろしくない。マクゴナガルとて、頭ではわかっている。だが、いかんせんこの双子は去年が凄まじすぎた。

 

 クィディッチやりたさのあまり、飛行術上達のために箒に魔法をかけて大暴走。魔法薬自作のために勝手にスラグホーンの材料保管庫から大量に材料をくすね、禁じられた森に生息する魔法生物たちを一時的に怒らせ、挙句作った魔法薬を事故によって大広間で散布。風船のようにポンプクリンに膨らんだ生徒が大量発生。

 

 大量減点&罰則を科しても、凝りもせずにああだこうだと・・・!

 

 ・・・思い出しただけで胃がギュンギュンと痛みを訴えてくる。

 

 マクゴナガルはこれ以上のトラブルを防ぐべく、双子たちに声をかけたのだ。

 

 セブルスの罰則の檻は、目印にはなる。・・・が、まかり間違えば体罰のようにも思えてしまう。

 

 「また何かろくでもない計画を立てているのなら、そうはいきませんよ?」

 

 「しーっ!マクゴナガル先生!」

 

 「今はちょっと静かに!先生!あれを見てくださいよ!」

 

 本を小脇に抱えてにらみを利かせるマクゴナガルに、双子は臆した様子も見せずに、むしろこちらが悪いとばかりに、檻越しに立てた人差し指を口元にあてて、静かに!と言ってきた。

 

 まさかだれかいたずらのターゲットにするつもりか?

 

 怪訝に思いつつ、マクゴナガルはそちらに目を向けると、あらと軽く目を瞠った。

 

 相変わらず陰険で陰湿な空気をまとうフィルチがモップを手に持って、何事かこんこんと言っており、バスケットを抱えるメアリーが表情を変えることなく淡々とうなずいている。

 

 メアリーはすぐに分かった。制服ローブでもない、ショールを羽織ってボンネットを付けた美女だが、その手元は人形らしい球体関節をしている。

 

 セブルス個人の持ち物ということらしいが、自立行動を行う自動人形など、なんとも規格外だ。

 

 その存在自体が規格外の人形が、さらに規格外の所業まで成し遂げた。

 

 「先日お渡ししたモップの使い心地はいかがでしょうか?セブルス様がお気になさってました。モップに洗浄魔法(スコージファイ)が出るようにしてくださったのは、あの方です」

 

 「ふん。悪くはない。今使ってたやつもだいぶ古くくたびれていたからな。使ってやらんでもないな」

 

 「もし不具合があったら、地下牢教室までお持ちいただければ、直すとおっしゃられていました」

 

 「自分で押し付けてきおったくせに、儂にわざわざ地下牢に来いと?そのうえ、迷子の常習犯の貴様の面倒まで見ろと?少しはマシになったかと思ったが、相変わらずの不遜ぶりだな!

 学生時代と何ら変わらんな!」

 

 「・・・申し訳ありません」

 

 「貴様が謝ることか。・・・仕方がないから、壊れたりしたら行ってやる。そもそも、貴様の主人は壊れるようなものを儂に押し付けるのか?」

 

 「・・・いいえ。セブルス様は、優しいお方です」

 

 「ならそれでいいだろうが。まあ、貴様の見解と儂の見解が一致するとは・・・ごくごくまれに、あるやもしれんな」

 

 誰です?あれ。

 

 はしたないとは思いつつ、会話内容を盗み聞きしたマクゴナガルは、思わずそう思ってしまった。

 

 日頃のフィルチなら、もっと辛辣なことを言ってもおかしくないはず。

 

 そもそも、生徒にしろ教師にしろ、相手にするときは目の敵にする姿勢を崩さないというのに。

 

 あれではまるで。

 

 「素直になれないおじいちゃんと、世間知らずの孫娘だよなー」

 

 「われらが管理人フィルチ氏も、あの子相手には強気に出れないと見た」

 

 うんうんと檻をかぶったまま、訳知り顔でうなずく双子のウィーズリーに、遺憾ながらもマクゴナガルは深くうなずいてしまった。

 

 そこで、ニャアという鳴き声で二人の会話が中断される。

 

 「おや、ミセス・ノリス」

 

 「こんにちは。ミセス・ノリス」

 

 いつやってきたのか、フィルチの愛猫が二人の足元に立っていた。

 

 フィルチは普段の険しい声を一瞬で猫なで声に変じさせると、表情もデレデレしたものに変えて笑いかける。

 

 「先日は、地下牢教室まで案内してくださり、ありがとうございます」

 

 そしてメアリーは、相手が猫というのに頓着もせずに、丁寧にお礼を言っている。

 

 ・・・というか、どうも彼女はまた迷子になった挙句、ミセス・ノリスに道案内をしてもらったらしい。

 

 ミセス・ノリスはといえば、ちらっと彼女を赤い目で見やってから、ツンとそっぽを向いた。

 

 別にあんたのためじゃない、と言わんばかりだ。猫らしいそっけなさ、といえばそこまでだろうが。

 

 「ふん。仕方ないからな。また迷子になったりしたときに、案内ぐらいはするよう、ミセス・ノリスにも言ってある。

 何度も言うようだが、貴様が何時間も廊下にいられる方が邪魔だからな」

 

 「申し訳ありません。重ね重ねご迷惑をおかけします」

 

 ぺこりと頭を下げるメアリーに、フィルチは「何度も頭を下げるな。貴様はオジギソウか何かか?」と嫌味をもって返す。

 

 

 「ここから地下牢教室までは、ミセス・ノリスに連れて行ってもらうがいい。

 すまないが、頼むよ、ミセス・ノリス」

 

 最後だけ猫なで声で言ったフィルチに、ミセス・ノリスは任せなさいというかのように一声、ニャアと鳴いてそのまましっぽを振って歩き出した。

 

 「ありがとうございます、フィルチ様」

 

 「アーガスでいい。貴様だけは特別だ。だが、誰にも言うな。儂が自分から呼ぶように言ったことなど、誰にも言うな!貴様の主人にもだ!」

 

 「わかりました。それでは失礼します」

 

 頷いて、メアリーは軽く頭を下げてから、ミセス・ノリスの後に続いた。

 

 ほぼ同時に、フィルチは3人が隠れる廊下の方へ、鬼のような形相を向けてきた。

 

 「盗み聞きか。寮監がそのようなありさまだから、生徒も問題児まみれなのだ」

 

 はっと我に返ったマクゴナガルが見まわしてみれば、いつの間にやら双子がいなくなっていた。つまり、盗み聞きしていたのはマクゴナガル一人という格好になったのだ。

 

 「あ、アーガス、これはその・・・す、すみませ」

 

 「貴様!儂を笑いものにする気か?!ええ?!言ってみろ?!さっき何を見た?!何を聞いた?!ふん!副校長殿はずいぶんお暇らしいな!!」

 

 マクゴナガルも気まずくなって謝ろうとするが、それよりも早く、フィルチの雷が落ちた。

 

 あれは絶対照れ隠し入ってる、本当に素直になれないおじいちゃんですね、とマクゴナガルはこっそり思ったが、もちろん口には出さなかった。

 

 代わりに平謝りに謝った。

 

 その一方で、少しばかりほっとしていた。自身の愛猫以外、目の敵にしまくっていたフィルチにも、少しばかり心を向けられる相手ができたのだ。いいことだ。

 

 後日、フィルチは人形フェチといううわさがホグワーツを席巻し、マクゴナガルはしばらくフィルチに極寒の視線攻撃と嫌味の爆撃を食らうことになる。(もちろん、彼女がしゃべったわけがない。噂の出どころはお察しである)

 

 ・・・そして、マクゴナガルは、次にあの双子がやらかしたら、それにかこつけて減点と罰則からのフィルチに引き渡しコンボを決めようと固く決めた。

 

 

 

 

 

 そんなことは露知らず、今日もバスケットを抱えた美女人形は、猫の先導でホグワーツの廊下を歩いている。

 

 

 

 

 

続く

 




 ホグワーツでメアリーって何してるん?と思って、でも、今まで『狩人の夢』とか『葬送の工房』にしかおらんかったんやで?いきなりあんな広大なお城に放り込まれたら迷子になるんちゃうん?仕掛けも満載やで?となってから、じゃあ、迷子からのフィルチとの絡みかな!となりました。

 ・・・原作中、ひたすら嫌な奴姿勢を崩さなかったフィルチにこうもなつくとは、人間を愛する人形すげえな。(そして彼女にすら嫌われるロックハートは、逆の意味ですげえな)

 フィルチさん、5巻の時一人アンブリッジ歓迎姿勢取ってたけど、あれ、無理なかったと思います。アンブリッジの一声で人事が軽く変わるんだから、コネも魔力もホグワーツ以外の行き場もないスクイブのフィルチは、後はもう媚びを売るしかない。

 世知辛いですね・・・。というか、スクイブ一人にあの城管理って、かなり無理でしょ。他に見えてないところとか描写範囲外に事務員とか管理員とかいて、フィルチがその代表とかならまだわかるんですが。





 後半からはマクゴナガル先生視点。ぶっちゃけ、前半書いてそこでちょっとストップして、(どうオチつけようかと迷って)ああなりました。

 とばっちりマクゴナガル先生。そして、安定の双子。

 ちなみに、メアリーは2巻の時にミセス・ノリスが被害に遭って、盛大に落ち込むフィルチを、どうにか慰めてあげたりしました。

 他の先生方とかも絡めてあげたいなあ、メアリー。ネタはあるんですよ。ネタは。




 いまさらですが、今話から、動物につける敬称は、カタカナ表記にしました。少しでも見分けやすくなったらいいのですが。





 次回の投稿は・・・来週!内容は本編に戻って、『アズカバンの囚人』編スタート!・・・の前に、セブルスさんとホグワーツ時代の友人の話。
 そして、脱獄したシリウスに対する反応もやります。お楽しみに!

 第4楽章では、元祖いたずら仕掛人に対する扱いが、さらにひどくなります。どうしてああなった。
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